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京都地方裁判所 昭和62年(行ウ)43号 判決

京都市右京区嵯峨釈迦堂門前裏柳町35番地の4

原告

山本益次郎

右訴訟代理人弁護士

近藤正昭

京都市右京区西院上花田町10番地

被告

右京税務署長 深田庸雄

右指定代理人

笠井勝彦

外6名

主文

一  被告が原告に対し昭和61年6月11日付でした昭和59年分所得税の重加算税賦課決定処分を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

主文と同旨の判決。

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告は原告に対し,昭和61年6月11日付で,原告の昭和59年分所得税についての26,520,000円の過少申告につき「事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装した」として,7,956,000円の重加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした。

2  しかし,右過少申告は,右申告を依頼された訴外笠原正継(以下「笠原」という。)が,原告から受領した18,000,000円を自己の報酬として着服し,架空の譲渡費用を計上して申告したことによるもので,原告の全く知らないことである。

すなわち,

(1) 原告は,昭和59年11月27日笠原に対し,原告所有の別紙物件目録記載1の土地を代金83,980,000円で売り渡し,同日笠原が代表取締役である有限会社カサハラ商事に対し,原告所有の別紙物件目録記載2の土地(同記載1の土地と一括して「本件土地」という。)を代金27,550,000円で売り渡し,同日手付金合計10,000,000円を,昭和60年4月2日残金合計101,530,000円をそれぞれ受け取った。

(2) 笠原は,昭和60年4月2日取引終了後,原告に対し,原告の納税地を管轄する中京税務署とは心易いのでうちの事務所を通じて譲渡所得税の申告をしてやると持ちかけてきたので,原告は笠原を信用して右申告を依頼したが,同人は金額が確定すれば連絡するのでその金額を持参するよう告げた。

(3) そして,笠原が同月8日ころ申告ができたとして18,000,000円を持参するよう連絡してきたので,原告は,同月9日,同額の小切手を持って笠原の事務所に赴き,同人から中京税務署の受付印のある申告書用紙を見せられ,同人を疑うこともなく,また申告書をあらためることもなく,税金納付用と信じて右小切手を同人に交付し,これで自己の申告は終了したものと思い込んだ。

(4) ところが,原告は,昭和61年2月5日京都地方検察庁から呼出を受けて出頭し,同庁にいた国税局査察官の取調を受け,その結果,笠原は現在全日本同和会の脱税指南事件の被告人として身柄を拘束され,多数の脱税事件を惹起したとして刑事訴追を受けている人物であり,本件についても譲渡所得額を零として申告していたことが判明し,原告が交付した前記小切手は笠原が不法に領得していたことが明らかとなった。

(5) その後の調査により,次の事実が明らかとなった。

① 原告は茶販売業を営み,昭和59年分の所得税については昭和60年3月9日青色申告により管轄の中京税務署に確定申告していたものである。

② ところが,笠原は,(1)の売買の取引日が昭和60年4月2日であるから,その代金収入については昭和60年分の所得として翌昭和61年2月16日から同年3月15日までの間に申告すれば足りるのに,昭和60年4月9日中京税務署に対しこれを前記昭和59年分の所得税の修正申告として手続をした。

③ その修正申告の内容は,本件土地の譲渡代金111,530,000円に対し,「永代管理小作料」として100,453,500円を計上し,「分離長期譲渡所得0円」とする実質的な内容変更の全くないものであった。

3  原告は被告に対し,本件処分について異議申立をしたが,被告が昭和61年10月27日付で異議申立を棄却したので,原告は国税不服審判所に対し審査請求したが,同審判所も審査請求を棄却した。

4  しかしながら,原告は自ら事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装したものではないし,また笠原にそのような不法な申告を依頼したわけではなく,同人が権限外の不法な申告をしたにすぎないから,本件処分は違法であり,その取消を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実を認める。

2  同2の事実中,(1)及び(5)の事実を認め,その余は知らない。

3  同3の事実を認める。

4  同4を争う。

三  被告の主張

1  本件における課税の経過

(1) 原告は,昭和59年11月27日笠原に対し,原告所有の別紙物件目録記載1の土地を代金83,980,000円で売り渡し,同日有限会社カサハラ商事に対し,原告所有の別紙物件目録記載2の土地を代金27,550,000円で売り渡し,同日手付金合計10,000,000円を,昭和60年4月2日残金合計101,530,000円をそれぞれ受け取った。

(2) 原告は,昭和60年3月9日中京税務署長に対し,原告の昭和59年分の所得税の確定申告書を提出し(以下「当初申告」という。),更に昭和60年4月9日,分離譲渡所得金額を0円と追加記入したのみで税額に変更のない昭和59年分の所得税の修正申告書に譲渡内容についてのお尋ね兼計算書及び昭和60年1月30日付全国同和対策促進協議会発行の領収証の写を添付して中京税務署長に提出した(以下「本件申告」という。)。なお,中京税務署長は,原告が本件土地の譲渡にかかる譲渡所得を売買契約のあった昭和59年分として申告したので,本件申告を受け付けたのである(所得税基本通達36-12注参照)。

当初申告及び本件申告の内容は別表1の該当各欄記載のとおりであり,本件申告の譲渡所得金額の計算明細は,別表2の本件申告欄記載のとおり,104,953,500円を永代管理小作料として全国同和対策促進協議会・中央本部に支払ったとして事実を隠ぺい又は仮装したものであった。

(3) その後,原告は中京税務署長に対し,昭和61年2月5日付で再び昭和59年分の所得税の確定申告書を提出した(以下「修正申告」という。)。その内容は別表1の修正申告欄記載のとおりであり,その譲渡所得金額の計算明細は別表2の修正申告欄記載のとおりである。

(4) 中京税務署長は原告に対し,昭和61年2月24日付で修正申告により納付すべき所得税額に対する重加算税7,956,000円の賦課決定処分をした。

(5) 原告は,同年4月17日中京税務署長に対し,右重加算税賦課決定処分の全部取消を求める異議申立をした。

(6) 中京税務署長は,同年6月9日,原告が提出した異議申立書に記載されている原告の住所から原告が昭和60年12月25日に京都市中京区西ノ京左馬寮町11番地の18から肩書住所地に転居していることが明らかになったため,(4)の重加算税賦課決定処分を取消した。

(7) そこで,被告は,中京税務署長からの連絡により,原告に対し,昭和61年6月11日付で修正申告により納付すべき所得税額に対する重加算税7,956,000円の賦課決定処分(本件処分)をした。

(8) 原告は,同年7月30日被告に対し,本件処分の全部取消を求める異議申立をしたが,被告は,同年10月27日付でこれを棄却した。

(9) その後,原告は,審査請求をしたが,これも昭和62年7月16日に棄却され,本件処分の取消を求めて本訴を提起した。

2  本件処分の適法性

(1) 重加算税(国税通則法68条1項)の課税要件は,まず,同法65条に規定する過少申告加算税の賦課徴収の要件に該当すること,すなわち,期限内申告書が提出された場合において,修正申告書が提出されるなどし,かつ,これにより納付すべき税額が存することであり,次に,納税者が事実の隠ぺい又は仮装をし,これに基づいて納税申告書を提出したことである。納税者が事実の隠匿,脱漏又は歪曲などという不正手段を用いたときは,これに該当する。

本件処分は右課税要件を充足する適法なものである。すなわち,原告は,一旦不正手段を用いた本件申告をし,後日自らこれについての修正申告をし,かつ,これにより納付すべき税額が存するからである。

(2) しかるに,原告は,笠原に不法な申告を依頼したわけではなく,同人が権限外の不法な申告をしたにすぎないとして,本件処分が違法であると主張するけれども,原告が本件申告に関与していないとは認め難いし,また仮に原告が関与をしていなかったとしても,納税者自らが税額を確定しないで第三者に申告書の作成提出を委ねることも許容されるところ,この場合もその申告は納税者自身が行なったときと全く同様に取り扱われるべきであるし,その申告が不適正であった場合,これに対する是正や制裁の措置は納税者自身に対してなされるべきであり,不適正な申告に対する重加算税の賦課の措置は第三者のなした不適正な申告についての納税者自身の認識の有無にかかわらずなされるべきものであるから,原告が本件申告に関与していなかったとしても,そのことは本件処分の適否に何ら影響を及ぼすものではない。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1(1)  本件における課税の経過(1)の事実を認める。

(2)  同(2)の事実中,当初申告を認める。本件申告が原告名義でなされていることを認めるが,原告はその申告内容に全く関与していない。原告が「事実を隠ぺい又は仮装した」ことを否認する。その余は知らない。

(3)  同(3)を認めるが,修正申告は,請求原因2(4)の国税局査察官の取調の際,内容も十分わからないまま,査察官が作成した申告書に署名捺印してなしたものであり,笠原の申告内容を追認したものではない。

(4)  同(4)ないし(9)を認める。

2  被告主張のように,重加算税の課税要件を納税者が事実の隠匿,脱漏又は歪曲などという不正手段を用いたときは,これに該当すると解しても,本件においては,納税者である原告が不正手段を用いたわけでも,不正手段を用いさせるために第三者に委任したわけでもないのであるから,右課税要件に該当しないものである。すなわち,原告は,笠原が正当な納税申告を行なうものと信じ,架空の巨大な経費を計上するとは思いも及ばなかったのであるから,このような場合,「納税者が」不正手段を用いたとは到底いえない。

そして,原告は笠原に対し,交付した18,000,000円の返還を求める訴訟を提起したが(京都地方裁判所昭和61年ワ第360号損害賠償請求事件),同事件の判決においても同人の不法行為が認定されている。

第三証拠

証拠に関する事項は,本件記録中の各証拠目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  当事者間に争いのない事実

原告が茶販売業を営むこと,原告が,昭和59年11月27日笠原に対し,原告所有の別紙物件目録記載1の土地を代金83,980,000円で売り渡し,同日有限会社カサハラ商事に対し,原告所有の別紙物件目録記載2の土地を代金27,550,000円で売り渡し,同日手付金合計10,000,000円を,昭和60年4月2日残金合計101,530,000円をそれぞれ受け取ったこと,原告が,同年3月9日,管轄の中京税務署長に対し,原告の昭和59年分の所得税の確定申告書(青色)を提出した(当初申告)こと,原告名義で,同年4月9日,分離譲渡所得金額を0円と追加記入したのみで税額に変更のない昭和59年分の所得税の修正申告書が,譲渡内容についてのお尋ね兼計算書及び昭和60年1月30日付全国同和対策促進協議会発行の領収証の写が添付されて中京税務署長に提出された(本件申告)こと,本件申告の内容が,本件土地の譲渡代金111,530,000円に対する「永代管理小作料」として104,953,500円を計上したものであったこと,原告が中京税務署長に対し,昭和61年2月5日付で昭和59年分の所得税の確定申告書を提出し(修正申告),その内容が別表1の修正申告欄記載のとおりであり,その譲渡所得金額の計算明細が別表2の修正申告欄記載のとおりであること,中京税務署長が原告に対し,昭和61年2月24日付で修正申告により納付すべき所得税額に対する重加算税7,956,000円の賦課決定処分をしたこと,原告が,同年4月17日中京税務署長に対し,右重加算税賦課決定処分の全部取消を求める異議申立をしたこと,中京税務署長が,同年6月9日,原告が提出した異議申立書に記載されている原告の住所から原告が昭和60年12月25日に京都市中京区西ノ京左馬寮町11番地の18から肩書住所地に転居していることが明らかになったため,右重加算税賦課決定処分を取消したこと,被告が,中京税務署長からの連絡により,原告に対し,昭和61年6月11日付で修正申告により納付すべき所得税額に対する重加算税7,956,000円の賦課決定処分(本件処分)をしたこと,原告が,同年7月30日被告に対し,本件処分の全部取消を求める異議申立をしたが,被告が,同年10月27日付でこれを棄却したこと,その後,原告が,その審査請求をしたが,これも昭和62年7月16日に棄却され,本件処分の取消を求めて本訴を提起したことは当事者間に争いがない。

二  以上の事実に,成立に争いのない甲第4,第8号証,乙第2,第6号証,原本の存在及び成立に争いのない甲第5ないし第7,第9(第7,第9号証は後記措信しない部分を除く),第10号証,原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第1,第2号証,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により笠原が作成したことが認められる乙第3ないし第5号証,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

1  原告は宇治茶の小売業を営むものであり,従来養女に事業所得税の申告手続を委ねていたものであるが,昭和59年分の所得税の確定申告も,昭和60年3月9日当時の管轄の中京税務署長に対しこれをなし(当初申告),その内容は別表1の当初申告欄記載のとおりであって,譲渡所得の申告をしてなかった。

2  笠原は,石材商の三協石材と不動産販売の有限会社カサハラ商事(以下「カサハラ商事」という。)を経営する傍ら全国同和対策促進協議会京都府連合会会長として右協議会名義で税理士とともに税申告手続の代行を業とし,永代管理料等の名目で架空の控除項目を計上するなどして税額を過少にした納税を行なっていたものである。

3  原告所有の本件土地の売買契約は,原告が清水勲を,笠原が北川喜久一をそれぞれ仲介人として折衝し,昭和59年11月27日締結されたが,原告は当日初めて笠原に会った。

4  原告が笠原と二度目に会ったのは,本件土地の売買契約の取引日である昭和60年4月2日,京都府宇治市槙島町本屋敷1102番地の2所在のカサハラ商事の事務所においてであったが,笠原は,売買代金の決済をして取引終了後,原告ひとりを別室へ誘ったうえで,大きな取引で金額も大きいから税務申告が大変だ,中京税務署にも通じているので,うちの事務所を通じて譲渡所得税の申告を有利にしてやると税申告手続の代行を申し出た。

5  原告は,笠原の申出を受けて,同人を信用してその場でこれを依頼して申告手続を一任し,同人の要請により,帰宅後,当初申告の青色申告書控えのコピーをカサハラ商事の事務所に送付した。

6  そして,昭和60年4月7日ころ笠原が,中京税務署へ申告書を出しておいたので,税額18,000,000円を持参のうえ申告書を取りに来てくれと連絡してきた。

7  笠原は,本件について,昭和60年4月9日中京税務署長に対し,原告の当初申告(昭和59年分)に対する修正申告として,本件土地の譲渡代金111,530,000円に対する「永代管理小作料」として104,953,500円を全国同和対策促進協議会に支払った旨架空の経費を含む必要経費の額を110,530,000円と計上し,内容虚偽の「譲渡内容についてのお尋ね兼計算書」及び昭和60年1月30日付全国同和対策促進協議会京都府連合会本部発行の領収証の写を添付して,分離譲渡所得金額を0円と追加記入したのみで税額に変更のない申告書を提出して本件申告をした。その内容は別表1の本件申告欄記載のとおりであり,その譲渡所得金額の計算明細は別表2の本件申告欄記載のとおりである。

なお,中京税務署長は,本件土地の譲渡にかかる譲渡所得が売買契約のあった昭和59年分として申告されたので,本件申告を受け付けた。

8  原告は,昭和60年4月9日,前示6の求めに応じ金額18,000,000円の小切手を持ってカサハラ商事の事務所に赴き,笠原から封筒に入った中京税務署総務課の受付印のある申告書用紙を手渡され,同人を信用し,また眼鏡を忘れたこともあって,それ以上申告書用紙の内容を確かめることもせず,税金納付用と信じて右小切手を同人に交付し,これで本件土地の売買にかかる譲渡所得税申告が終了したものと思い込んだ。

9  そして,笠原は,原告から受け取った小切手金18,000,000円のうち,3,000,000円を3の仲介人北川に支払い,15,000,000円を全国同和対策促進協議会に納入したといっている。

10  その後,笠原は,全日本同和会の脱税指南事件の被告人として刑事訴追され,有罪判決を受けた。

11  原告は,昭和61年2月5日京都地方検察庁から呼出を受けて出頭し,同庁にいた国税局査察官の取調を受け,その結果,初めて笠原が右刑事訴追を受けている人物であり,本件についても譲渡所得額を零として申告し,原告が交付した小切手金も同人が不法に領得していたことに気がつき,過少申告を認めて,同日中京税務署長に対し,同税務署員があらかじめ金額等を記入して申告書用紙を準備していたものではあったが,これに署名捺印して,あらためて昭和59年分の所得税の修正申告書を提出した(修正申告)。その内容は別表1の修正申告欄記載のとおりであり,その譲渡所得金額の計算明細は別表2の修正申告欄記載のとおりである。

12  そして,まもなく,原告は笠原に対し,交付した小切手金18,000,000円の返還等を求める訴訟を提起したが(京都地方裁判所昭和61年ワ第360号),その判決においても,その控訴審(大阪高等裁判所昭和63年ネ第184号ほか)の判決においても同人の不法行が認定されている。

13  被告は原告に対し,昭和61年6月11日付で修正申告により納付すべき所得税額に対する重加算税7,956,000円の賦課決定処分(本件処分)をした。

右認定に反する甲第7,第9号証の記載部分は,前掲各証拠,弁論の全趣旨に照らし遽に措信できず,他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  過少申告加算税に代えてする重加算税(国税通則法68条1項)は,他の加算税とともに申告納税制度の秩序と信頼を担保するために設けられているものである。すなわち,申告納税制度が維持されるためには申告が適正でなければならず,不適正な申告がなされたときは速やかにその是正及びこれに対する制裁の措置が講じられなければならない。そこで,不適正な申告に対する行政上の制裁措置として加算税の制度を設け,更に,事実の隠ぺい又は仮装という不正手段を用いるなど悪質な場合は重加算税というより重い制裁を課することとしたものである。

そして,重加算税の課税要件は,期限内申告書が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において,期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められるときを含む)において修正申告書が提出され(または更正があり),これにより納付すべき税額が存するものであって,かつ,納税者が事実の隠ぺい又は仮装をし,これに基づいて納税申告書を提出したことである(同法68条1項,65条1項,66条1項ただし書)。納税者が事実の隠匿,脱漏又は歪曲などという不正手段を用いて申告書を提出したときは,これに該当するというべきである。

ところで,所得税は自己の所得を正しく計算し,自己の判断と責任で自主的に申告納税するという申告納税制度が採用されているが,この制度の下においても納税者の判断と責任において申告手続を第三者に依頼し,同人が納税者の代理人補助者として申告した場合には,その申告はそのまま申告名義人である納税者の申告として取り扱うべきものである。

そうすると,右二5で認定したとおり原告は第三者である笠原に本件土地の譲渡所得税の申告手続を一任したのであるから,笠原がなした本件申告は原告の申告として取り扱われることとなるものである。

四  そこで,本件処分の適否について判断するに,被告は,原告は不正手段を用いた本件申告をしたとして重加算税の課税要件を充足すると主張する。前示のとおり,国税通則法68条1項所定の重加算税の課税要件の一つとして同法65条1項の期限内申告書が提出されたことを必要とするところ,この期限内申告書とは,納税者が法定申告期限までに税務署長に提出する納税申告書を指す(同法17条)。そして,昭和59年分の所得税の確定申告をなすべき期間は昭和60年2月16日から3月15日までであるが(所得税法120条1項),前記二7で認定したとおり本件申告は同年4月9日になされたものであって,本件申告にかかる納税申告書の提出は期限内申告書が提出された場合に該当しないことが明らかであり,また,本件申告は当初申告を修正するものとしてなされているから,期限内申告書の提出がなかったこと(無申告)を前提とする期限後申告書が提出された場合でもない。

なお,本件申告で提出された修正申告書が期限内に提出された当初申告の確定申告書と一体のものとして提出されているとして,国税通則法68条1項の適用上,本件土地の譲渡所得については本件申告で提出された修正申告書の提出により同申告書の内容と同様の確定申告書が期限内に提出されたものと取り扱う余地がないかを検討する。

まず,所得税基本通達36-12は次のとおりである。

すなわち,

「山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は,山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。ただし,当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは,これを認める。

(注) 農地法第3条第1項(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)若しくは第5条第1項本文(農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限)の規定による許可を受けなければならない農地又は採草放牧地(以下この項においてこれらを「農地等」という。)の譲渡又は同項第3号の規定による届出をしてする農地等の譲渡については,当該許可があった日又は当該届出の効力が生じた日と当該農地等の引渡しがあった日とのいずれか遅い日によるものとする。ただし,これらの日のうちいずれか早い日又は当該農地等の譲渡に関する契約が締結された日により総収入金額に算入して申告があったときは,これを認める。」

これを前記二で認定した事実につき考えるに,前掲甲第1,第2号証,弁論の全趣旨によると本件土地の引渡は昭和60年4月2日以降であることが認められるから,本件土地の譲渡所得の申告については,本来,昭和60年分の所得として翌昭和61年2月16日から同年3月15日までの間に申告すれば足りるのであるけれども,右の注ただし書により,本件土地の売買契約が締結された昭和59月11月27日を基準日として選択し,これを昭和59年分の所得として申告することもできるのである。笠原によってなされた本件申告は同旨の選択してなされたものであり,申告を受理した中京税務署長もこれを認めて受け付けたものということになる。

右の基準日の選択がなされたのが昭和60年3月9日になされた当初申告より以前であった場合はともかく,前記二で認定した事実によると右の基準日の選択は昭和59年分の所得税の確定申告期限である昭和60年3月15日以降になされたものというほかないから,それ以前である期限内になされた当初申告には本件譲渡所得の分が含まれていなかったからといって,遡ってこれを過少申告であるということはできないし,当初申告はその当時それ自体で完了していたものであるというべきであって,後に笠原が,ひいては原告が右の基準日の選択をして事実上当初申告を修正し,本件申告をすることによってその時点で昭和59年分の申告が完了したものであると原告が認識したとしても,本件申告で提出された修正申告書が期限内に提出された当初申告の確定申告書と一体のものとしてこれを遡及的に期限内に提出されたものとみるとか,国税通則法68条1項の適用上,本件土地の譲渡所得については本件申告で提出された修正申告書の提出により同申告書の内容と同様の確定申告書が提出されたものと扱うべきであるとすることはできない。

結局,本件申告で提出された納税申告書の提出は前記重加算税の課税要件の一つである期限内申告書の提出に該当しないから,その余の点について判断するまでもなく,本件処分は違法であり,被告の主張は理由がない。

五  よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 和田康則 裁判官田中恭介は転任につき,署名押印できない。裁判長裁判官 吉川義春)

〈以下省略〉

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