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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)186号 判決

反訴原告

田中泰美

反訴被告

上山賢治

主文

一  反訴被告は反訴原告に対し、金二八四万二二四三円及び同金員につき昭和六〇年二月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用(参加によつて生じた費用を含む)はこれを四分して、その三を反訴原告の負担とし、その余の参加によつて生じた費用は補助参加人の負担とし、その余は反訴被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  反訴原告(以下「単に「原告」という。)

1  反訴被告(以下単に「被告」という。)は、原告に対し、金一一一八万三〇〇〇円およびこれに対する反訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故

(一) 日時

昭和五九年二月二三日午後一一時五五分頃

(二) 場所

京都市西京区大枝東新林町一丁目一番地先市道洛西中央通り路上

(三) 態様

被告がその所有の乗用軽自動車(滋賀五〇い七二〇五、以下「被告車」という。)を運転して、前方不注視のまま制限時速四〇キロメートルのところを時速八〇キロメートル以上で走行したため運転操作を誤り、道路左側端の防護柵及び折から右路上に駐車中の普通貨物自動車(京一一あ八三八七)、更に普通乗用自動車(京五六ゆ二一四一)に自車を衝突させ、被告車に同乗していた田中祐一(以下「祐一」という。)に脳挫傷の傷害を負わせて、同月二五日同人を死亡させた。

2  責任

被告は、被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条の規定により本件事故に基づき生じた損害を賠償する責任がある。

3  相続

祐一は原告と秋山剛良との間に出生した子であるところ、秋山との協議により原告が祐一の権利関係を相続により承継した。

4  損害

(一) 祐一関係

(1) 逸失利益

祐一は、本件事故当時無職者であつたが満一七歳一一か月五日であつたので満一八歳として計算しても、本件事故がなければ四九年間就労が可能であつた。そこで、昭和五八年度賃金センサスの全年齢平均年間給与額三九二万三三〇〇円により同人の逸失利益を算定すると、生活費五〇パーセントを控除した年間純収入一九六万一六五〇円につき四九年分の得べかりし利益を喪失したことになるが、これをライプニツツ式計算方式により現在価格に換算すると、三五六四万一二一八円となる。

(2) 治療費その他

祐一は、前記受傷により当日第二京都回生病院に収容されて治療を受けたが、二日後の昭和五九年二月二五日に死亡した。

(イ) 治療費 九〇万四九五五円

(ロ) 付添費 八〇〇〇円

(ハ) 入院諸雑費 二〇〇〇円

(ニ) 傷害慰藉料 五万円

(二) 原告関係

(1) 葬儀費用 一三四万三九三〇円

原告は、祐一の葬儀費用として一三四万三九三〇円を支出し、同額の損害を被つた。

(2) 慰藉料

原告は、祐一が生後三か月の時、秋山剛良と離別し、爾来女手一つで苦労を重ねて祐一を養育して来た。そして、漸く祐一が就労可能な年齢となり、原告としては老後の生活の柱として、将来を託しうるかけがえのない存在であつたところ、本件事故により死亡したため、甚大な精神的打撃を受けた。従つて、これを慰藉すべき額は一六〇〇万円をもつて相当とするが、祐一の好意同乗中の事故であることを考慮し、三〇パーセントを減額して一一二〇万円とする。

(3) 弁護士費用

原告は被告に対し、京都簡易裁判所における調停において、既払分のほか一〇〇〇万円を支払うよう請求したが、被告はこれに応じないばかりか、逆に昭和五九年一一月一三日京都地方裁判所に同年(ワ)第二二一六号損害賠償債務不存在確認請求訴訟を提起したので、やむなく京都弁護士会所属弁護士中元視暉輔に対し右事件の応訴ならびに本件反訴の提起を委任し、その手数料及び謝金として同弁護士会報酬規定に定める報酬額標準の最低額である一一八万三〇〇〇円を債権の目的を達すると同時に支払うことを約した。

5  結論

よつて、原告は被告に対し、損害合計額五〇三三万三一〇三円より自賠責保険よりの給付金二〇九二万二〇五五円を控除した残額二九四一万一〇四八円の内金一一一八万三〇〇〇円及び同金員に対する本件訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁と抗弁

1  請求原因1のうち、原告主張の日に主張の一番地先路上において、被告が被告車を運転して走行中、運転を誤り、停車していた普通貨物自動車に自車を接触させ、被告車に同乗していた祐一が原告主張の経過により死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の主張は争う。

3  同3の相続の事実は認める。

4  同4の損害のうち、(二)の(2)の本件事故が好意同乗中に発生したこと、同(3)の弁護士に反訴の提起を委任した経過は認めるが、その余の事実は否認し、損害額を争う。

5  同5のうち、既払額を認め(但し、内金二二〇万四九五五円は被告の支払分)、主張は争う。

6  好意同乗

被告車には、先に平井義夫(一八歳)、山田貴子(一六歳)及び奥村浩(一八歳)が同乗し、定員一杯になつていたところ、祐一が定員オーバーを承知のうえで乗車し、被告に指示して走行させた。そして、被告は、祐一と雑談しながら運転していて、後部座席の祐一を振向き脇見運転したことにより、本件事故を惹起したものである。

三  補助参加人の主張

本件事故については、左記事由により過失相殺の規定を類推適用し、祐一及び原告の全損害につき四〇パーセントの減額がなされるべきである。

1  事故の状況

被告は被告車を運転し、時速六〇キロメートルで走行中、後部座席の同乗者と話をしていて前方の注意を怠つたため車が左方へふられ、前方の防護柵に衝突する危険を感じて右方へハンドルを切りブレーキをかけた。折りから路面が濡れていたこともあつて車がスピンをし、バランスを失いかけて左後部が防護柵に衝突し、さらにバランスを失い車の左側を下にして横転した直後、前記路上に駐車中の貨物自動車右後部角に衝突し、さらに一回転しながら起あがつて路上に駐車中の普通乗用車の右前部に衝突した。この事故のため被告車に同乗していた祐一が死亡した。

2  事故の原因

本件事故の原因はいくつかある。一つは、被告の脇見運転である。この脇見運転は、被告が後部に同乗していた中学校時代の同級生である祐一、平井義夫、奥村浩の三人と話をしながら車を運転したためである。二つめは、定員四人の軽乗用自動車でありながら五人が乗つていたため車の安定を欠き、ハンドルを右に切つたとき車がバランスを失つたことである。三つめは、路面が濡れていた状態で、制限時速四〇キロメートルのところ六〇キロメートルで走行したことである。

3  祐一の好意同乗の態様

祐一は被告車に好意同乗していた。しかもその態様は、単なる便乗型の好意同乗でない。すなわち、事故前にマクドナルドで被告及び祐一らは食事をとつた後、被告車にはすでに定員の四名が乗車していたのに、祐一が自宅に送つてくれと言つて後部座席に乗りこんでしまい、被告もやむなく祐一を自宅まで送ることとしたものである。被告と祐一はその力関係において祐一が兄貴格であり、被告を含め他の同級生は祐一の言うことに逆らうことができない関係であつた。被告車の進行についても、被告は祐一の指示に従つて、同人を家に送るために走らせたものである。このように、運行は祐一のためであり、車のバランスを失わせる五人乗りについても祐一に大きな責任がある。更に、被告の脇見運転も被告と祐一らとのおしやべりにあり、また制限速度オーバーについても祐一は何ら被告に対し注意を与えていない。このように、本件事故の原因となる被告の過失及び被告車のバランスを失わせる定員オーバーに関して、祐一は総て被告と共同責任の関係にあり、被告の過失について祐一はその責任を大きく分担すべき関係にある。

4  減額

右に検討した好意同乗の態様からみて、祐一及び原告の損害については、過失相殺の規定を類推適用し、その全損害につき四割の減額をすることが、公平の原則に合致すると考える。

四  被告及び補助参加人の好意同乗の主張の認否

祐一が定員オーバーを承知のうえで被告車に乗り、被告に指示して走行させたとの点、被告の脇見運転の原因が祐一にもあるとするなど、本件事故につき祐一にも責任があるとの主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、それを引用する。

理由

一  交通事故

昭和五九年二月二三日、京都市西京区大枝東新林町一丁目一番地先路上において、被告が被告車を運転して走行中、運転を誤り、停車していた普通貨物自動車に自車を接触させ、被告車に同乗していた祐一が脳挫傷の傷害を負い、同月二五日に死亡したこと、以上の事実は当事者間に争がない。

二  被告の責任

成立に争のない甲第一号証の一二及び一五によると、被告は当事、被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被告は自賠法三条の規定に基づき、本件事故によつて生じた人的損害を賠償する責任がある。

三  祐一の権利関係の承継

成立に争のない乙第七号証に、原告本人尋問の結果によると、祐一は昭和四一年三月二二日原告と秋山剛良との間に出生した子であるところ、秋山との協議により原告が祐一の権利関係を相続により承継した事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

四  損害

成立に争のない甲第一号証の二及び一四に、原告本人尋問の結果によると、祐一は原告に養育されて中学校を卒業後、電気屋に約二年、自動車屋に約六か月、それぞれ勤務したが、昭和五八年二月頃事件を起して加古川学園に収容され、昭和五九年二月一四日に帰宅して、まだ就職していなかつたこと、祐一は本件事故により前記受傷後、直ちに第二京都回生病院に収容されて治療を受けたが、意識を回復することなく前叙のとおり同月二五日に同病院で死亡したのであるが、その間原告が仕事を休んで付添看護をしたこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

1  祐一関係

(一)  逸失利益

祐一は本件事故当時、一七歳一一か月余であつたから、その就労可能年数は四九年と認めるのが相当であり、当時無職であつたことやそれまでの生活歴に照らしてやや疑問の余地がないではないが、右就労可能期間につき昭和五八年度賃金センサス一八歳学歴計平均年間給与額一七一万〇一〇〇円程度の収入を挙げ得たものというべきであるから、生活費として五〇パーセントを控除し、右就労可能年数につき新ホフマン係数二四・四一六をもちいて逸失利益の現価を算定すると、二〇八七万六九〇〇円となる。

(二)  治療費

弁論の全趣旨によると、祐一の第二京都回生病院における治療費として、九〇万四九五五円を要した事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(三)  付添費

祐一の入院中に要した付添費は八〇〇〇円と認めるのが相当である。

(四)  入院諸雑費

祐一の入院中に要した諸雑費は二〇〇〇円と認めるのが相当である。

(五)  傷害慰藉料

祐一が本件事故により受けた精神的苦痛が甚大であつたことは推測するに難くないところ、原告は、別に同人の死亡を理由とする慰藉料を求めながら、同人が事故後死に至る直前の二日間の精神的苦痛のみを抽出して五万円の慰藉料を求めるのであるが、同期間の精神的苦痛はまさに死に至る苦痛であつて、五万円程度で慰藉される性質のものでないだけでなく、本件にあつては分別請求そのものが当を得ないというべきである。

2  原告関係

(一)  葬儀費用

原告本人尋問の結果及び同結果により真正に成立したと認める乙第二ないし第四号証によると、原告が祐一の葬儀費用として、合計一三四万六三〇〇円を要した事実が認められるけれども、そのうち八〇万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(二)  慰藉料

前記本項冒頭に認定の事実のほか諸般の事実を考慮し、原告が祐一の死亡により被つた精神的苦痛を慰藉するには一一〇〇万円をもつて相当と認める。

3  まとめ

以上によれば、1、2の損害合計額は三三五九万一八五五円となる。

4  好意同乗

前掲甲第一号証の二及び一二、成立に争のない甲第一号証の一、三、五、七及び二四に、証人平井義夫の証言(但し、後記措信しない部分を除く)を総合すると、本件事故当時、被告車に同乗していた祐一、平井義夫及び奥村浩は、被告と中学時代からの友人で、祐一が兄貴格として振舞つていたこと、当夜右の仲間に祐一及び被告の女友達も加わり、被告車を利用して京都市内の嵐山の喫茶店や西京区所在のマクドナルドで時を過した後、祐一の女友達だけ先に帰り、残りの五名は定員オーバーを承知のうえで、祐一が被告車の後部座席右端、奥村が中央、平井が左端に、そして被告の女友達が助手席に乗り、被告が運転して祐一を自宅に送り届けるため互に雑談しながら走行していたこと、被告は、事故現場付近の速度規制が時速四〇キロメートルであつたのに、時速約六〇キロメートルで運転しながら、祐一を含む後部座席の雑談に釣られて一瞬のことであるが、前方注視を怠ると共に運転操作を疎かにしたため、被告車が左方にふられて道路左端の防護柵に衝突しそうになつたこと、そこで、被告は咄嗟にハンドルを右転把し、同時に急ブレーキをかけるなどしたが時すでに遅く、定員オーバーによる過重も手伝い本件事故を惹起したこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証人平井義夫の証言部分は措信できず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故の発生には、祐一がその原因の一端に関与しているといわざるを得ないうえ、祐一を送り届ける途中で生じた事故である点をも考慮し、原告に帰属の損害につき三〇パーセントの減額をするのが相当である。すると、同損害は二三五一万四二九八円となる。

5  損益相殺

原告は自賠責保険よりの給付として二〇九二万二〇五五円を受領した旨を自認するから、これを控除すると残損害額は二五九万二二四三円となる。

6  弁護士費用

原告が本訴の提起追行を弁護士に委任していることは明らかであるところ、事件としての難易度や認容額などを考慮し、二五万円の限度で本件事故と相当因果関係のある弁護士費用と認める。

五  結論

すると、被告は原告に対し、損害金二八四万二二四三円及び同金員につき本件反訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和六〇年二月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負担しているというべく、原告の反訴請求はこの限度で理由があるからこれを認容して、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田眞)

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