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京都地方裁判所 昭和60年(わ)1020号 判決

本籍

京都市南区吉祥院這登東町四四番地

住居

同区吉祥院船戸町二五番地の一一

会社役員

渡守秀治

昭和二二年六月七日生

右の者に対する所得税法違反、相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官齊藤雄彦出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金一八〇〇万円に処する。

未決勾留日数中一二〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人は、昭和五四年一一月ころ、全日本同和会京都府・市連合会(以下「同和会」という。)乙訓支部に入り、昭和五五年一一月ころからは同和会本部事務局に出入りし暫定的に同事務局次長の仕事を担当するようになり、昭和五六年一月ころ同和会本部事務局次長に就任したものであるが、昭和五五年末ころから昭和五六年ころにかけて、後に同和会会長となつた鈴木元動丸、昭和五六年一月に同和会事務局長に就いた長谷部純夫らと共に、いわゆる税務対策として、納税義務者の依頼に応じ、同和会本部において申告書作成等の申告・納税手続一切を行い、その際、譲渡所得の申告に当たつては納税義務者が他の主債務者の債務につき保証債務を履行するため当該財産を譲渡したが右主債務者が破産したため求償権の行使が不能に陥つたなどとし、また、相続税の申告に当たっては、被相続人に債務があり、これを相続人である納税義務者が支払つたなどとしてそれぞれ虚偽の申告をし、納税額を五ないし一〇パーセントに低減させ、これと正規税額との差額のうち約三分の一ないし半額をカンパ金等の名目で納税義務者から同和会に納付させて利得しようと考え、同和会支部等に納税義務者の紹介を依頼するとともに、申告書類上の債務支払いの形式を整えるため、架空債権者として領収書を発行する必要上、昭和五六年五月一日右鈴木元動丸を代表取締役、被告人及び右長谷部純夫を取締役として有限会社同和産業を設立するなどしていた。

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  井上博文、宇津竹次郎、松本芳憲、同和会会長鈴木元動丸及び同和会事務局長長谷部純夫らと共謀の上、右井上がその所有する京都市右京区西京極東側町八・九番合地ほか三筆の宅地を昭和五八年八月三一日二億七九万二、四〇〇円で売却譲渡したことに関して右譲渡にかかる所得税を免れることを企て、右井上の実際の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一億八、四二六万四、〇三〇円、総合課税の総所得(不動産所得、給与所得)金額は六一六万九、二〇〇円、山林所得金額は二八一万七、五〇〇円で、これに対する所得税額(ただし源泉徴収分を除く。)は五、七三五万五、一〇〇円であるにもかかわらず、株式会社ワールドが有限会社同和産業(代表取締役鈴木元動丸)から二億円の借入をし、その債務について右井上が連帯保証人となり、右ワールドが破産したことから右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で同五八年一一月三〇日一億七、〇〇〇万円履行したが、右ワールドに対する求償不能により、同額の損害を被つた旨仮装するなどした上、同五九年二月一四日、京都市右京区西院上花田町一〇番地の一所在所轄右京税務署において、同署長に対し、右井上の五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は一、四五六万四、〇三〇円、総合課税の総所得金額は六一六万九、二〇〇円、山林所得金額は二八一万七、五〇〇円で、これに対する所得税額(ただし源泉徴収分を除く。)は三七三万四、七〇〇円(ただし、所得税額三七三万四、七四〇円と誤つて記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右の正規の所得税額五、七三五万五、一〇〇円との差額五、三六二万四〇〇円を免れ

第二  奥村典子、奥村文浩、戸山孝、岩崎義彦、上田幸弘、同和会会長鈴木元動丸及び同和会事務局長長谷部純夫らと共謀の上、右奥村典子の実父で右奥村文浩の養父である奥村博司が昭和五九年四月二八日死亡したことに基づく右典子及び右文浩の各相続財産にかかる相続税を免れることを企て、右典子の相続財産にかかる実際の課税価額が一億九、五六二万九、三四三円で、これに対する相続税額は七、四一九万八、四〇〇円であり、右文浩の相続財産にかかる実際の課税価額が一億六、六八七万二、八四九円で、これに対する相続税額は六、二九九万八、六〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右奥村博司が有限会社同和産業(代表取締役鈴木元動丸)に二億九、六五〇万円の債務を負担しており、右典子においてそのうちの一億五、九〇〇万円を、右文浩において同じく一億三、七五〇万円をそれぞれ承継したと仮装するなどした上、同年一〇月二九日、京都府宇治市大久保町井ノ尻六〇番地の三所在所轄宇治税務署において、同署長に対し、右典子の相続財産にかかる課税価額が三、六六二万九、三四三円で、これに対する相続税額は三九八万四、七〇〇円であり、右文浩の相続財産にかかる課税価額が三、〇二七万八、三四九円で、これに対する相続税額は三三三万四、二〇〇円である旨の虚偽の相続税の申告書を提出し、もつて不正の行為により右各相続にかかる右典子の正規の相続税額七、四一九万八、四〇〇円との差額七、〇二一万三、七〇〇円を、右文浩の正規の相続税額六、二九九万八、六〇〇円との差額五、九六六万四、四〇〇円をそれぞれ免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の京都地方裁判所昭和六〇年(わ)第五四七号事件の公判廷における供述調書(証人尋問調書)写し二通(検第132、133号)

一  被告人の検察官に対する供述調書四通(検第92、93、122、123号)

一  長谷部純夫の検察官に対する供述調書謄本八通(検第62、63、64、65、66、67、68、69号)

一  鈴木元動丸の検察官に対する供述調書謄本五通(検第78、79、80、81、82号)

一  今井正義の検察官に対する供述調書謄本三通(検第83、84、85号)

判示犯行に至る経緯について

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(検第22、91号)

一  長谷部純夫の検察官に対する供述調書謄本(検第61号)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(検第23、24号)

一  長谷部純夫の検察官に対する供述調書謄本二通(検第70、71号)

一  鈴木元動丸の検察官に対する供述調書謄本(検第86号)

一  井上博文の検察官に対する供述調書謄本一一通(検第5ないし15号)

一  松井婚次、桐村齢子、宇津竹次郎(二通)、松本芳憲(三通)及び吉村松雄の検察官に対する各供述調書謄本

一  大蔵事務官井手政勝作成の脱税額計算書謄本

一  大蔵事務官吉田稔作成の証明書謄本

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(検第59、60号)

一  長谷部純夫の検察官に対する供述調書謄本七通(検第72、73、74、75、76、77、112号)

一  鈴木元動丸の検察官に対する供述調書謄本(検第87号)

一  井上清、堂本伝、中川敏夫、小川弘、藤井孝三、河本勝次(二通)、山本晃男(二通)、岩崎鉄志(二通)、奥村典子(二通)、奥村文浩(二通)、戸山孝(四通)、上田幸弘(七通)、青山健造(二通)、青山タケコ(二通)及び岩崎義彦(三通)の検察官に対する各供述調書謄本

一  大蔵事務官中村保男作成の脱税額計算書謄本

一  大蔵事務官尾松末三作成の証明書謄本

(補足説明)

弁護人は、被告人のなした本件各税の申告行為については、税務当局が旧同和事業特別措置法(以下、「措置法」という。)及び官総二一六「同和問題について」と題する国税庁長官通達(以下、「長官通達」という。)に基づき、部落解放同盟(以下、「同盟」という。)と大阪国税局長との間で取り交わされた確認事項をも参考にして、同和会に対し同和地区住民に対する行政的配慮として認めて来たものであり、しかも、本件で問題とされている、所得税法六四条二項、相続税法一三条の規定を利用した申告方法についても、税務当局の方から右方法により申告するよう指導されたためこれに従つたもので、これが適法な行政的配慮によるものであることは、同和会において同様の申告方法を繰り返して来たのに、一度として税務当局から調査されたことがないこと等からも十分裏付けられ、被告人らの本件各所為は法に認められた適法なものであり、仮に、右のように言えないとしても、このような事情のもとでは、被告人には不正手段によつて税を免れる犯意はなく、違法性の認識及びその認識可能性もなかつたと主張する。

そこで、まず、被告人らの右各税の申告行為が適法であるか否かを考察するに、前掲各証拠によれば、被告人らが、本件において、判示のような虚構の損害や債務を仮装するなどして内容虚偽の税申告をし、所得税や相続税の一部を免れた事実は優にこれを肯認することができ、これらの所為が、所得税法二三八条一項又は相続税法六八条一項にいう「偽りその他不正の行為により・・所得税(又は相続税)を免れた」ことに該当することは明らかであり、被告人らの判示所為が客観的に違法であることはいうまでもないところであるが、被告人の犯意の有無とも関連があるので、なお所論について検討するに、我が国においては、租税法律主義(憲法八四条)がとられ、税の減免・控除については法律上の根拠が必要であると解されるところ、措置法は、その一条に掲げた目的からも明らかなように、歴史的、社会的理由から、生活環境等の安定・向上が阻害されている地域住民の経済力の培養等を目的として、国及び地方公共団体に対してこれを可能とするよう条件整備をするものであり、その目的と減税とは直接の関係はなく、同和対策事業の内容を規定する六条をはじめ、他の条文をみても、同和地区住民に対する税の軽減を要請していると考えうるものはなく、措置法がそのような減税を規定するものとはとうてい解することができず、また、長官通達中の「同和地区納税者に対しては今後とも実情に則した課税を行うよ配慮すること。」という所論指摘の規定(二項)も同和地区納税者が社会的にいわれなき差別を受け、経済的に劣位に置かれ勝ちな実情に鑑み、所得の把握等に際しては安易に一般的な基準に頼ることなく、右のような事情も十分考慮し適切な課税をすることを要請していることは文理上明白であつて、減税を規定していると解することはできない上、長官通達はそれ独自では減税の根拠とはなりえないことはもちろん、先に見たように、措置法は減税を要請しておらず、現行法上、他にこれを要請している法律はないから、法律の定める条件にも当らないというべきである(なお、所論引用の判例は本件と事案を異にし、本件に適切なものではない。)。さらに弁護人は、税務当局は、同和会に対し、同盟の確認事項に定めたと同様に取り扱う旨確認しており、これはいわば行政処分行為として本件各申告行為を適法と認めたものであると主張し、被告人及び証人長谷部純夫らがこれに沿う供述をするのであるが、所論の確認事項とされている内容中税の減免を認めたと理解される点は、後述のとおりいずれも租税法律主義に反しあるいは制定法規に違反するもので法律上なし得ないことであり、仮に税務職員がこれを認めたところで有効な行政処分とはいえないばかりか、関係各証拠によると、長谷部純夫、当時の同和会事務局長槍丸冨貴雄、被告人らが、昭和五五年一二月二日、大阪国税局同和対策室において同室係長糸田武久らと面談したこと、続いて、同八日、上京税務署署長室において署長島岡茂、副署長松吉良雄、総務課長河辺康雄らと面談したこと、そして、そのそれぞれにおいて同和会側から税務当局に対して納税に関する要望をしたことが認めらるものの、双方間で何らかの合意又は確認の文書を取り交わした形跡はない上、同盟との確認事項とされている内容をみてみると、同和会の資料(弁第二四号等)によれば、大阪国税局長と同盟中央本部及び大阪府企業連合会との間で、昭和四三年一月三〇日以降について七項目の事項の、同局長と同盟近畿ブロツクとの間で、同四四年一月二三日以降について三項目の事項の、さらに、同局長と同盟中央本部及び京都府企業連合会との間で、昭和四九年二月一四日以降前二回の確認事項に基づく税務対策を行うこと等三項目の確認事項の確認を取り交わしたというのであるが、基本となる右七項目の確認事項のうち、その二項では同和対策控除の必要性を認め租税措置法の法制化に努める、その間の処置として局長権限による内部通達によつてそれにあてる、とあるが、もともと法律事項となるべきいわゆる同和対策控除を法律が制定するまで局長の通達でまかなうのは租税法律主義に反するもので、できないことであり、その三項では、右各企業連合会を窓口として提出される自主申告については、白、青色をとわず、全面的にこれを認める、とあるが、国税局がそのようにいわば審査権を放棄することが許されるのか疑わしいし、その七項では、協議団本部長(昭和四五年からは国税不服審判所)の決定でも局長権限によつて変更するとあるが、これは、現在はもちろん昭和四九年二月一四日及び同五五年一二月当時も国税通則法一〇二条一項の明文に反しできないことが明らかであり、同四三年一月当時も同様、制度上不可能であつたと思われるのであつて、これらの点に照らすと、国税局がこれらを認めるとはとうてい考え難く、大阪国税局同和対策室係長糸田武久の言うように(京都地方裁判所の証人糸田武久に対する尋問調書写、検第124号)それは単に要望事項をまとめたものに過ぎない蓋然性が高く、その他国税局の機構の制約等を考えると、糸田武久の述べる方が被告人や長谷部純夫の供述等と対比してより信用性が大であると言うべきであつて、被告人らの言うような、同盟の確認事項に基づくと同様に同和会にも対応する旨の国税局との合意又は確認や国税局側から正規税額の五パーセントないし一〇パーセントでも納付してほしい旨の要望があつたものとはとうてい認めることはできず、また、上京税務署での面談の際に確認したとして同和会でまとめた事項は、(1)同和会が指導し、同和会が窓口として提出される、個人法人を問わず、申告は、各署と協議し、協議完了したものについては全面的に認める、ただし内容調査の必要がある場合は同和会を通じ本部と協力して調査に当たる、(2)府下一三税務署の窓口は大阪国税局の指導どおりに各署総務課長とするというものであるが、当時の上京税務署総務課長河辺康雄の述べるところ(京都地方裁判所の証人河辺康雄に対する尋問調書写、検第125号)によると、同和会が窓口となる申告について調査の必要がある場合には、同盟については同盟にその旨連絡することもある取扱いとなつており、同和会についても同様に取り扱うこと及び申告書の受付けは各署総務課長の職掌であるから申告書受付窓口を各署総務課長とすることの二点は上京税務署側においてその場で了承したことが認められるものの、これは同和会でまとめた内容とはかなりニユアンスが異なつているうえ、右河辺は(1)のような内容の申入れを了承したことはない旨供述しており、同盟の確認事項と同様に(1)の取扱いをする旨の確認をしたということや上京税務署側からも正規税額の五ないし一〇パーセントの納税はしてもらいたい旨の要望があつたということは、先に大阪国税局との関係で述べたところに照らしても、さらに、同和会でまとめた確認事項中にはそのような要望に沿う内容が含まれていないことに照らしても、同被告人らの供述を直ちに信用することはできず、上京税務署と同和会との間に前記のような確認、合意があつたことを認めることはできない。なお、被告人及び証人長谷部純夫らは、本件各申告は税務署側の行政指導によるものであり、同和産業の設立も税務当局から示唆を受けたというのであるが、示唆をしたとして名前を挙げる当時右京税務署総務課長佐々木敏雄あるいは同署資産税第一部門統轄官松本庄八はいずれもこれを否定しており(京都地方裁判所の証人佐々木敏雄及び同松本庄八に対する各尋問調書写、検第128、129、130、131号)、そもそも被告人らの言うような減税措置が同和行政の一環として適法になし得るのであれば、同和産業などといういわゆる受け皿となる会社を設立した上で仮装債務を計上し、同和減税とは全く関わりのない所得税法六四条二項又は相続税法一三条一項一号を適用する必要は全くないのであるから、税務署側からいわゆる受け皿となる会社の設立を示唆し、申告に当たつてはつじつまを合わせるよう行政指導するということは自己矛盾であつて、この点に関する被告人や長谷部純夫らの供述等はいずれも措信し得ず、右行政指導又は示唆があつたことも認められない。大阪国税局及び上京税務署での各面談の際の合意又は確認を前提として所轄税務署長の行政処分行為である旨の主張もその前提を欠くといわざるを得ない。

結局、いずれにせよ、本件各行為は前記の所得税法又は相続税法の各罰条に該当する違法な行為というべきである。

そこで、さらに、被告人の犯意の有無について検討するに、前掲各証拠によれば、被告人が、本件各納税義務者に納税義務があること、本件各申告は判示のような内容虚偽のものであること、その各申告により各納税義務者は各租税を免れるに至ることを認識、認容したうえ、判示の各所為に及んでいることは優にこれを肯認することができ、本件各税法違反についての故意を有していたことは明らかというべきである。被告人は、本件のような申告方法は税務当局の指導ないし示唆に基づくものであつた等の弁護人主張の前記の各事実関係を前提として、本件各行為が適法であると信じていた旨弁解するが、そのような指導ないし示唆があつた等の弁護人主張の事実関係を認めることができないことは先に述べたとおりであつて、被告人の右弁解は前提を欠き信用できないばかりか、判示のような脱税方法自体と前掲各証拠によつて認められる、被告人が、昭和五八年二月ないし三月に税理士河本勝次に本件類似の相続税の申告書作成を依頼するに当たり、同税理士に名前は一切表に出さない旨話していたこと、同和会による本件類似の税務申告は納税義務者が同和会会員に限定されておらず、同和地区外の住民が納税義務者であるときにも格別の確認をせず、そうした審査をするシステムも置かれていなかつたこと、納税義務者から受け取るいわゆるカンパ金は極めて多額で、本件でも判示第一の井上から二〇〇〇万円余、第二の奥村らからは四二〇〇万円という誠に高額な金員を受け取っており、紹介者、仲介者に対しても一〇〇万円単位の多額の謝礼金が支払われていること(例えば判示第一に関していえば、被告人が仲介者の松本芳憲に金四〇〇万円を支払つた。)等の事実に徴すると、被告人の右弁解はとうてい信用できず、むしろ被告人はその手段方法が不正であることを認識して本件各犯行に及んでいたことが十分認められるものというべきである。

もつとも、本件を含む相当多数の同和会による税務申告において、同和産業を債権者とする多額の仮装債務等が計上され税額を大きく低減させるというほぼ同様の不正な方法が行われていたのに、税務当局による調査が行われた形跡が窺われず、同和会による納税申告に対する税務当局の対応としては甚だしい怠慢があつたといわざるを得ず、また、既にみてきた諸事情に照らすと、税務当局が同和会とのトラブルを恐れて安易な事なかれ主義的態度から本件をも含めて同和会による不正な申告を放置していたのではないかともみられるけれども、税務当局がこうした違法な申告を指導していたことはもちろん、積極的に容認してこれが慣行化していたと認めることはできない。

以上の検討によれば、弁護人の主張はいずれも採用することができない。

(法令の適用)

一  罰条

1  判示第一の所為 刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項

2  判示第二の所為 いずれも刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項

二  科刑上一罪の処理

判示第二の所為につき 刑法五四条一項前段、一〇条(重い奥村典子の税金を免れた罪の刑で処断)

三  刑種の選択 いずれも懲役刑と罰金刑の各併科刑を選択(なお罰金刑に関し、判示第一の罪について所得税法二三八条二項を、判示第二の罪について相続税法六八条二項をそれぞれ適用)

四  併合罪の処理 刑法四五条前段

1  懲役刑について 刑法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

2  罰金刑について 刑法四八条二項(判示第一及び第二の各罪所定の罰金額を合算)

五  宣告刑 懲役一年二月及び罰金一八〇〇万円

六  未決勾留日数の算入 刑法二一条(一二〇日を懲役刑に算入)

七  労役場留置 刑法一八条(金五万円を一日に換算した期間)

八  訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の理由)

本件は、同和会事務局次長であつた被告人が、同和会の税務対策と称し、同和会会長鈴木元動丸、同和会事務局長長谷部純夫や司法書士、当該納税義務者らと共謀の上、架空の債務を作出するなどの方法により、前後二回にわたり合計一億八三〇〇万円余の所得税及び相続税を免れた事案であり、その脱税金額自体多額であり、ほ脱率も高率で、納税の公平を失わせ、一般の誠実な納税義務者に与えた影響も大きく、それ自体悪質重大な犯罪であるうえ、被告人は、同和会が組織的に本件のような脱税行為を行うようになつたその当初からこれに積極的に加わり、架空債務作出のために利用された有限会社同和産業の設立にも関与してその取締役となり、本件各犯行においても、納税者あるいは紹介者らとの接衝、いわゆるカンパ金額の算定や紹介者への謝礼の支払い等の面で積極的かつ重要な役割を果たしており、更に納税者からは脱税の見返りに多額の金員(いわゆるカンパ金)を受け取り、仲介者らに一〇〇万円単位の謝礼を支払い、被告人や長谷部純夫らも相当額の利得にあずかつていたことや被告人の同和会での地位も併せ考えると、被告人の刑事責任は重大であるといわなければならない。本件発覚後、納税義務者らは、ほ脱にかかる本税や重加算税等を納付せざるを得ない状況になり、それはもちろん納税義務者らが自ら招いたという面はあるものの、被告人らの責任も大きく、しかも右納税義務者らからとカンパ金として多額の金員を受け取つているのに、被告人においては受領した金員の返還についての何らの努力もしていない。

他方、たしかに、税務当局は、同和会による相当多数の虚偽の納税申告について、その不正を容易に知り得たと思われるのにこれを放置してきたともいうべき対応をしてきたとみられることは先に述べたとおりであつて、こうした税務当局の態度が本件各犯行を誘発したという面のあることは否定できないところであり、税務当局のそうした対応は責められるべきではあるが、被告人が前述のとおり同和会によつて行われた本件のような脱税行為のその当初からこれに深く関与し、脱税行為であることはこれを認識しながら税務当局の右のような態度にいわば便乗して本件各犯行に及んだことを考えると、税務当局の対応を被告人にとつて有利な一事情として考えるべきことはもちろんではあるけれども、その刑事責任軽減のために過度に大きくしん酌することは相当とは言い難い。

右のような事情、特に本件事案の重大性、悪質性、被告人の果たした役割、被告人の同和会における地位等の点に鑑みると、前述のような税務当局の対応、被告人には前科もなく、これまで通常の社会生活を営んできたことや被告人の家庭の状況等本件に現れた被告人に有利な事情を十分考慮しても、罰金刑についてはもとより懲役刑についてもその刑の執行を猶予すべきものと考えることはできず、実刑を科すのが相当であり、主文のとおり量刑した。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 安井久治)

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