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京都地方裁判所 昭和59年(行ウ)26号 判決 1989年3月24日

京都市左京区孫橋通新麸屋町東入大菊町一五〇

原告

吉田豊太郎

右訴訟代理人弁護士

加藤英範

森川明

京都市左京区聖護院円頓美町一八

被告

左京税務署長

田中準治

右指定代理人

笠井勝彦

石田一朗

三好正幸

澤田一博

宮崎雄次

岸本貴行

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五七年一二月一〇日付でした、原告の昭和五四年分、昭和五五年分及び昭和五六年分(以下、これらを本件係争年分という)の所得税の更正処分、並びに、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の過少申告加算税賦課決定処分(以下、この更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を本件処分という)のうち、別表1記載の確定申告欄の総所得金額を越える部分(但し、昭和五四年分及び昭和五五年分については審査裁決により一部取消され、昭和五六年分については異議決定により一部取消された後のもの)をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二主張

一  請求の原因

1  原告は、肩書住所地において電気配線工事業を営んでいた者であるが、被告に対し、本件係争年分の所得税の確定申告(白色申告)をした。

被告は、昭和五七年一二月一〇日付で原告に対し本件処分をした。

原告は、本件処分に対し、異議申立及び審査請求をした。

被告は、昭和五八年五月九日、異議決定により昭和五四年分及び昭和五六年分の本件処分の一部を取消した。

国税不服審判所長は、昭和五九年八月二八日、裁決により昭和五四年分及び昭和五五年分の本件処分を一部取消した。

以上の経過と内容は別表1記載のとおりである。

2  本件処分には次の違法事由がある。

(一) 被告の調査担当者は、原告に対する税務調査にあたり、事前に通知せず原告の事業所に臨場し、調査の具体的理由を開示せず、第三者の立会を拒否し、更に、原告の同意を得ずに取引先等に対する反面調査をするなど、違法な調査をしたもので、社会通念上相当な調査をしたならば原告の協力を得て実額を把握できた。従つて、推計の必要性を欠く。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得金額を過大に認定した。

よつて、本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  請求の原因2の事実中、事前通知をせずに臨場したこと、第三者の立会を拒否したこと、取引先等に対し反面調査をしたことは認め、その余は争う。

三  抗弁

1  原告の本件係争年分の所得税の確定申告書は、いずれも所得金額欄に所得金額が記載されているのみで、その計算の基礎となる収入金額及び必要経費の記載を欠く、極めて不十分なものであつた。

そこで、被告の調査担当者は、昭和五七年八月四日から数回にわたつて、原告の事業所に臨場し、原告に対し、本件係争年分の所得金額が適正か否かを確認するため調査に来た旨を告げ、所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めた。しかし、原告は、調査に無関係の第三者の立会を強要して、調査を拒否した。

そのため、被告はやむなく反面調査のうえ、推計課税の方法で本件処分をしたのであつて、本件処分に手続的暇疵はない。

2  所得金額

(一) 原告の本件係争年分の売上金額、売上原価、同業者原価率、経費、同業者経費率、特別経費、事業専従者控除額及び事業所得金額は、別表2記載のとおりである。

(二) 原告の事業形態、並びに、同業者の選定と同業者原価率及び同業者経費率の算定は次のとおりである。

原告は、電気工事業のうちの電気配線工事業であり、主として建築物及び建造物の屋内、屋外及びその構内外の電灯照明、電力、同機器の配線工事等の施工を業とするものである。

被告は、原告が事業所を有する左京税務署管内並びに隣接する上京、中京及び東山の各税務署管内において、電気配線工事業(主として送電線・配電線工事その他これに属する工事等)を営む個人事業者のうち青色申告書を提出している者で、次のすべての条件に該当する同業者を抽出し、別表4記載の事例を得た。

(1) 他の業種を兼業していないこと。

(2) 年間を通じて事業を継続していること。

(3) それぞれ自署管内に事業所を有すること。

(4) 所得税について不服申立て、又は訴訟係属中でないこと。

(5) 売上原価が、昭和五四年分については二八〇万円から八八〇万円、昭和五五年分については二五〇万円から七七〇万円、昭和五六年分については一二〇万円から三五〇万円までの範囲内であること(各年別に原告の売上原価の約一五〇パーセントを上限とし、約五〇パーセントを下限としたもの)。

右同業者は、事業所の所在地が近接し、業種及び事業規模が類似し、恣意なく抽出されたものであり、青色申告であるからその数値は正確である。従つて、右同業者から平均値である同業者原価率及び同業者経費率を算定し、これを原告に適用することには合理性がある。

なお、国税不服審判所長は、本件処分に対する審査請求の裁決において、別表4記載の同業者のうち左京Dを、その業態が原告と類似していないとの理由で除外しているけれども、同表記載の同業者から同業者原価率及び同業者経費率を算定して原告に適用することに合理性があること前記のとおりであり、仮りに左京Dを除外しても、原告の事業所得金額は別表2の昭和五四年分予備的主張欄記載のとおりである。

3  以上によれば、原告の主張する違法はなく、原告の本件係争年分の事業所得金額は本件処分を上回つており、本件処分は適法である。

四  抗弁に対する認否等

1  抗弁1の事実中、被告の調査担当者が、昭和五七年八月四日から数回にわたつて原告の事業所に臨場したことは認め、その余は否認する。

2(一)  抗弁2(一)の事実中、売上原価については、昭和五四年分及び昭和五六年分は認め、昭和五五年分は否認し、その余については、事業専従者控除額は認め、経費及び特別経費は否認し、売上金額及び事業所得金額は争う。

(二)  抗弁2(二)の事実は知らない。推計の合理性は争う。

(1) 原告は、昭和五一年にその父の営業から独立し、屋内の家庭用の電気配線工事業を始めた者で、敷地面積一八坪の木造二階建の居宅の一部である約一二坪程を作業場兼倉庫としており、他に店舗や事務所を設けず、独立後に開拓した特定の業者(元請)から受注し、材料のいわゆるA材もB材も持込みで行ない、照明器具等については親族にその販売業者がいるため原告の利益なく販売、取付をすることも多い。

被告は電気配線工事業を営むものを同業者として抽出したと主張するけれども、しかし、電気配線工事業の中には、まず、屋外配線(外線)が多い者と屋内配線(内線)が多い者とがあり、その何れであるかにより資格(免許)も異なり、危険度も異なるから、前者の利益率がより高く、次に、屋内配線でも、ビル関係が多い者と一般住宅関係が多い者とがあり、前者の利益率がより高く、零細規模である後者の利益率が低いし、また、注文者の材料で行なう者と材料を持込みで行なう者とがあり、前者の原価率がより低く、原告のようにA材もB材も持込で行なう者は原価率が高く、更に、配線工事のみならず関連した電気製品の販売をする者としない者とがあり、原告のように転売利益なしで殆どサービスとして電気製品を販売する者は原価率が特に高く、しかも、原告のように特定の元請業者の下請で、外からでは店舗等のあることも判然としない者の場合は利益率が低くとも安定した発注を望むこととなり、且つ、実績と信用を得るためには利益率を極端に低く押えても受注せざるを得ない状況にあつた。

以上のとおり、原告は、業態、営業実績、取引先、立地条件その他、何れを見ても、同業者に比し不利な条件下にあつた。このような条件の差異を捨象して抽出された同業者から原告の所得を算定することは、余りにも杜撰であつて、合理性がない。

(2) 同業者の抽出過程と同業者原価率及び同業者経費率の算定については、その詳細が明らかにされていないため、反論、反証をなし得ず、これを争う。

また、被告主張の別表4の同業者のうちには、別表6記載のとおり、他の電気配線工事業者が被告を相手方として提起した京都地方裁判所昭和五九年(行ウ)第七号所得税更正処分取消請求事件の判決添付の別表4記載同業者(以下、別件同業者という)と同一の者があるところ、同一の者であるにもかかわらず被告主張の所得率には差異があつて、これは被告において数字を操作したためであり、更に、別件同業者左京Fは売上金額が本件にて被告が同業者抽出基準として主張する売上金額の範囲内にあると思料されるにもかかわらず、本件にて被告が抽出したと主張する同業者のうちに含まれておらず、抽出過程が恣意になされた疑いがある。

(三)  所得金額の実額

原告の所得金額の実額は、別表7記載のとおりである

五  その他

(被告)

1 原告主張の別表4に関する疑義についての反論

別表6については、その詳細は別表8記載のとおりであり、原告主張のごとき差異はない。更に、別件同業者左京Fの売上原価は昭和五四年分が一四〇万六八七四円、昭和五五年分が一〇八万〇六〇六円であり、本件にて抽出されるべき同業者に当たらない。

2 原告主張の所得金額の実額についての反論

原告主張の売上金額は、知らない。

原告は、その主張する売上金額の証拠として、原告が米倉工務店及び小林工務店に赴いて作成したメモ(甲六七号証ないし七三号証)を提出しているのみであり、本件係争年分の売上金額のすべてを記帳した売上帳、総勘定元帳などの帳簿書類があるにもかかわらず(昭和六二年五月二七日の原告本人尋問調書二一丁)、これを証拠として提出しないものである。そうとすれば、原告が主張する売上金額以外の売上金額の有無を確認できない。

加えて、原告が主張する以外の売上金額があつたと疑うべき事実として、

(一) 原告は、被告の指摘により昭和五四年分の太陽物産株式会社及び山村しば漬本舗、並びに、昭和五五年分の太陽物産株式会社、ますや旅館、森田設計及び辻春雄に対する売上金額の主張を追加したもので、本訴における当初の主張においてもこれらを脱漏していた。

(二) 売上金額につき、昭和五四年分についての甲一号証と六七号証と七一号証、昭和五五年分についての甲六八号証と七二号証、昭和五六年分についての甲六九号証と七三号証を対比すれば、原告本人尋問の結果によればいずれも原告が米倉工務店に赴いて同店の帳簿から転記したにもかかわらず、別表9のとおりその金額に齟齬があり、且つ、原告主張の売上金額もこれらと異なつていた。

(三) 伏見信用金庫出町支店の原告名義の普通預金口座(二口)には原告が主張していない米倉工務店からの入金があり、原告本人尋問の結果によるもこれにつき明確な説明がない。

(四) 甲号各証を検討すれば、次のとおり、原告の主張していない売上金額があると疑われる。

(1) 甲二〇号証の二の請求書に記載がある山科東建設及び材木屋に対する売上金額。

(2) 甲二一号証のテープレコーダーの修理代金、甲四六号証の一で仕入が認められるラジカセ、甲二五号証で仕入が認められるクーラー三台及び冷蔵庫二台の各処分代金につき、これらはいずれも原告の営む電気配線工事業とは異なるが、売上金額としての主張がない。

(3) 原告が所得金額の実額として主張するところによれば、原告の原価率は突出して高くなる。

2 仕入金額は、別表3被告の主張欄記載のとおりであり、原告主張のうち被告主張と異なる部分は、知らないし、裏付資料も十分でない。

3 経費は、知らないし、裏付資料も十分でない。

4 専従者控除は、認める。

5 よつて、原告の実績主張の所得金額は、争う。

(原告)

所得金額の実額に関して

(一) 昭和五五年分の太陽物産株式会社、ますや旅館、森田設計及び辻春雄に対する売上金額の主張を脱漏していたことは認めるが、既に主張を追加した。

(二) 別表9につき、

昭和五四年分につき、六月の五万八〇〇〇円は甲一号証に記載のとおり立替払したものを記載したに過ぎず売上金額ではなく、甲七一号証には七月の五〇万円の記載がある。

昭和五五年分につき、甲七二号証には三月の差額八一八〇円が値引で、五月の一四万円が四月分残二万円を含むことが明記してあり、甲六八号証には七月に手形一五万円の記載があつて、これが六月の九万円と七月の六万円の合計額であり、一一月及び一二月についても被告主張の齟齬のないことが各記載上明らかである。

昭和五六年分につき、甲七三号証には一月の一五万六八〇〇円が前年一二月の残一〇万円と一月の五万六五〇〇円と明記してあり、四月、七月、一〇月及び一一月についても被告主張の齟齬がないこと各記載上明らかである。

(三) 原告は、被告主張の預金口座以外の口座を持たず、原告のすべての取引が右口座に明らかであるから、これ以外の売上金額はないといわねばならない。

(四) 甲二〇号証の二の山科東建設及び材木屋に対する売上金額、並びに、甲二一号証のテープレコーダーの修理代金、甲四六号証の一のラジカセはいずれも原告主張の別表7のその他欄に含まれている。甲二五号証のクーラー三台及び冷蔵庫二台の各処分代金は甲六八号証の六月分に含まれている。

第三証拠

記録中の証拠に関する調書記載のとおり。

理由

第一  原告が、肩書住所地において電気配線工事業を営んでいた者で、被告に対し本件係争年分の確定申告(白色申告)をしたこと、被告が本件処分をしたこと、原告が異議申立及び審査請求をしたこと、被告が異議決定により本件処分の一部を取消したこと、国税不服審判所長が裁決により本件処分の一部を取消したこと、その経過と内容が別表1記載のとおりであることは当事者間に争いがない(なお、被告は異議決定における所得税額を六万一〇〇〇円と主張するけれども、これは六万一一〇〇円の誤記と認められる)。

第二推計の必要性

一  原告は、被告の調査担当者が、事前に通知せず臨場し、調査の具体的理由を開示せず、第三者の立会を拒否し、原告の同意を得ずに反面調査をし、もつて違法な調査をしたと主張する。

二  そこで検討するに、

1  被告の調査担当者が昭和五七年八月四日から数回にわたつて原告の事業所に臨場したことは当事者間に争いがない。

また、証人沢亀泰造の証言によれば、被告の調査担当者である沢亀泰造は、昭和五七年八月四日ころ原告方に調査のため臨場し、本件係争年分の所得税の調査に来た旨を告げ、原告から多忙を理由に断わられて調査日を同月一一日と約し、その後、原告の都合で調査日を同月二〇日と約した。被告の調査担当者である近藤正春は、昭和五七年八月二〇日、調査のため原告方に臨場したが、民主商工会事務員が立会い、退席を求めたにもかかわらず退席しなかつたため、調査に着手しなかつた。更に右沢亀は、同年九月末ころ、予め原告の了承を得たうえ、調査のため原告方に臨場したが、民主商工会事務員及び同会会員が立会い、退席を求めたにもかかわらず退席しなかつたため、調査に着手せず、また、同年一〇月二〇日過ぎころ、調査のため原告方に臨場したが、原告に所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、原告がこれを提示しなかつたため、調査することができず、同年一一月末ころにも調査のため原告方に臨場したが、民主商工会事務員が立会い、退席を求めたにもかかわらず退席しなかつたため調査に着手しなかつたことが認められる。

2  さて、被告の調査担当者が質問検査権を行使する際の事前通知、具体的調査理由の告知、第三者の立会い、反面調査など、実施細目については、実定法上特段の定めがなく、権限ある調査担当者の合理的選択に委ねられているものと解されるところ(最高裁昭和五四年(行ツ)第二〇号昭和五八年七月一四日判決・訟務月報三〇巻一号一五一頁・シュトイエル二六五号二一頁参照)、前認定の経過に徴すると、調査担当者が事前に通知せず臨場し、調査の具体的理由を開示せず、第三者の立会を拒否し、原告の同意を得ずに反面調査をしたことが調査の違法事由になると認めるべき特段の事情は窺えない。

3  以上によれば、右認定の経過のとおり、原告が調査に協力せず、帳簿資料に基づいてその事業内容を十分に説明しないため、調査により所得金額を把握できないのであるから、被告が反面調査のうえ推計課税の方法で本件処分をするも止むを得ないものがあつたというべきであり、原告が調査の違法事由として主張するところは理由がなく、本件処分に手続的暇疵はない。

第三原告の事業所得金額について

一  被告は、その仕入金額(売上原価)が別表3原告の主張欄記載のとおりであることを自認している。

二  売上金額及び経費の認定(推計)

1  原告本人尋問の結果によれば、電気配線工事業には、変電所からの送電に関する屋外配線工事と、建物に関するその内外の配線工事(以下、内線工事という)とがあり、これらを一括して請負う業者と、そのいずれか一方のみを請負う業者とがあり、内線工事業者は、電気工事士の資格を要し、京都府電気工事協同組合または京都府工事工業組合に加入し、その殆どは、電線管、配線器具、電線等の材料を自己負担して施工し(以下、これを材料持込といい、配電盤、照明器具等の大きな品物をA材といい、電線、。配線器具、電線管等をB材という)、材料持込でないいわゆる電工(電気工事を行なう作業人)とは区別され、照明器具等は内線工事に含まれることが多く、電気製品の販売業を兼ねている業者もなくはないことが認められる。

2  原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和三五年ころからその父が営んでいた電気配線工事業を手伝つていたが、昭和五一年ころから独立して、肩書住所地の自宅に約一二坪の作業場をもち、内線工事を業とし、電気工事士の資格を有し、京都府電気工事協同組合に加入し、材料持込で施工し、内線工事に付きものの照明器具等のほか、時には電気製品の販売をも含んで、米倉工務店、小林工務店等の屋内配線工事を専属的に請負つており、A材及びB材並びにクーラーなどの電気製品の利益率をも約一割ないし一割五分とし、請負代金額につきその都度見積書を出して協議して決することが認められる。

3  証人高田安三の証言により真正に成立したと認める乙三号証ないし六号証の各一、二によれば、被告は、原告が事業所を有する左京税務署管内並びに隣接する上京、中京及び東山の各税務署管内において、電気配線工事業を営む個人事業者のうち青色申告書を提出している者で、他の業種を兼業しておらず、年間を通じて事業を継続し、各自署管内に事業所を有し、所得税について不服申立又は訴訟係属中でない、売上原価が、昭和五四年分については二八〇万円から八八〇万円、昭和五五年分については二五〇万円から七七〇万円、昭和五六年分については一二〇万円から三五〇万円までの範囲内である同業者を抽出し、別表4記載の事例を得たことが認められる。

4  以上によれば、被告が抽出した右同業者は、事業所の所在地が近接し、業種及び事業規模が類似し、恣意なく抽出されたもので、青色申告であるからその数値は正確であると認められるから、右同業者からその平均値である同業者原価率及び同業者経費率を推計することは、真実に合致する蓋然性が高く、合理性があると認めるのが相当である。

但し、

(一) 成立に争いがない乙一号証によれば、国税不服審判所長は、その裁決において、被告が審査請求において主張した同業者五件のうち一件につき、下請工事を主とする原告とはその業態が異なるとの理由でこれを除外したと認められるところ、被告は本訴において右裁決において除外された同業者が左京Dであると主張する。

(二) また、別表4記載の同業者につき、その売上原価を一万円とした場合の算出所得金額指数はその係数上別紙10記載のとおりとなるところ、昭和五四年分及び昭和五五年分につき東山Aが、昭和五六年分につき中京Bが、他の同業者に比して突出しており、これは何らかの特殊事情によるものと疑われる。

(三) そこで、かかる疑問を払拭するため、別表4記載の同業者のうち、昭和五四年分につき左京D及び東山Aを、昭和五五年分につき東山Aを、昭和五六年分につき中京Bを除外することとし、同業者原価率及び同業者経費率を別表11注記載のとおり認定する。

5  なお、

(一) 原告は、その業態、営業実績、取引先、立地条件その他において同業者に比し不利な条件下にあつた旨を主張し、電気配線工事業の業態の差異を主張するけれども、前記認定した電気配線工事業者及び原告の事業内容に微すると、必ずしも原告が主張するような詳細な諸事情をも考慮しなければ合理性を欠くものとはいえない。

推計課税の基準となる同業者は、原告や各同業者間に個々的な種々の差異があることを前提としつつ、ある一定の基準の下に比較的類似していると認められる同業者の一群を抽出し、これら同業者から算定した平均値に推計基準としての合理性があるか否かが問題なのであるから、問題は、同業者の個々の諸事情あるいは種々の差異にあるのではなく、その抽出基準自体の合理性の存否にあるところ、被告が同業者を抽出した前記売上原価の基準と別表10記載の各同業者の算出所得金額指数とによれば、昭和五四年分につき左京D及び東山Aを、昭和五五年分につき東山Aを、昭和五六年分につき中京Bを除外したその余の同業者の売上原価にかかる事業規模及び算出所得金額指数は類似しており、これが電気配線工事業者と分類される個人事業者の売上原価率及び経費率として一般的なものと推認され、このことにしても、被告が同業者を抽出した前記抽出基準がその合理性を欠くものとはいえず、これを疑うに足る証拠はない。

(二) また、原告は、別表4の同業者のうちには、別表6記載のとおり別件同業者と同一の者であるにもかかわらず被告主張の所得率に差異がある旨主張し、更に、別件同業者左京Fは本件にて被告が同業者抽出基準として主張する売上金額の範囲内にあるにもかかわらず、本件にて被告が主張する同業者のうちに含まれていない旨主張する。

しかし、弁論の全趣旨及びこれより真正に成立したと認める乙一四号証によれば、別表4記載の同業者と原告主張の別件同業者との対比の詳細は別表8記載のとおりであり、その間に差異がないこと、別件同業者左京Fの売上原価は昭和五四年分が一四〇万六八七四円、昭和五五年分が一〇八万〇六〇六円であつて本件にて抽出されるべき同業者に当たらないことが認められ、右原告主張は理由がない。

6  原告が自認している仕入金額(売上原価)、並びに、当裁判所が認定した同業者原価率及び同業者経費率によれば、原告の売上金額及び経費は別表11記載のとおり推計される。

三  特別経費

1  被告は、別表5記載の特別経費を自認している。

2  原告主張の経費のうち別表7記載の減価償却費、家賃、支払利息及び割引料は特別経費たるべき経費項目ではあるが、原告主張額を認めるに足る証拠はない。

四  事業専従者控除額については当事者間に争いがない。

五  ところで、原告は所得金額の実額を別表7記載のとおり主張する。

しかし、

1  原告は、その主張する売上金額の証拠として、原告が米倉工務店及び小林工務店に赴いて作成したというメモを提出している。

しかし、このメモ(甲六七号証ないし七三号証)は、毎月の売上金額を小切手と手形とに分けて一括記載したものであつて、その明細すら明らかではない簡略杜撰なものであつて、たやすく採用し難いものであり、原告本人尋問の結果中メモの作成に関する部分は措借できない。

のみならず、原告は、その本人尋問において、本件係争年分の売上帳などの帳簿書類があると供述しているにもかかわらず、これを証拠として提出しない。

2  また、

(一) 原告は、被告の指摘により昭和五四年分の太陽物産株式会社及び山村しば漬本舗、並びに、昭和五五年分の太陽物産株式会社、ますや旅館、森田設計及び辻春雄に対する売上金額の主張を追加したもので、本訴における当初の主張においてもこれらを脱漏していた。

(二) 甲号各証を検討すれば、次のとおり、原告の主張していない売上金額があると疑われる。

(1) 甲二〇号証の二の請求書に記載がある山科東建設及び材木屋に対する売上金額。

(2) 甲二一号証のテープレコーダーの修理代金、甲四六号証の一で仕入が認められるラジカセ、甲二五号証で仕入が認められるクーラー三台及び冷蔵庫二台の各処分代金につき、これらはいずれも原告の営む電気配線工事業とは異なるが、売上金額としての主張がない。

なお、右につき、原告は、被告からの指摘を受けて、甲二〇号証の二の山科東建設及び材木屋に対する売上金額、並びに、甲二一号証のテープレコーダーの修理代金、甲四六号証の一のラジカセはいずれも原告主張の別表7のその他欄に含まれており、甲二五号証のクーラー三台及び冷蔵庫二台の各処分代金は甲六八号証の六月分に含まれていると反論するが、原告本人尋問の結果中右に副う部分はたやすく採用しがたく、他にこれを認めるに足る的確な証拠はない。

3  以上によれば、原告の本件係争年分の売上金額が原告主張以上には存在しないとするに足る立証はなく、原告主張の売上金額は、その実額のすべてであるとはいえないから、これをもつて原告主張(自認)の売上原価(真実の売上原価(仕入金額)を越えるものでない)から推計した前記売上金額の認定を左右するに足るものではない。

また、そうとすれば、原告主張の経費は、真実の売上金額と対応するものではないというべきであるから、その余の判断をするまでもなく、これを採用できない。

第四  以上を総合すれば、原告の本件係争年分の事業所得金額は別表11記載のとおりであること計数上明らかである。

そうすると、その余の判断をするまでもなく、本件処分(但し、昭和五四年分及び昭和五五年分については審査裁決により一部取消され、昭和五六年分については異議決定により一部取消された後のもの)は右認定にかかる事業所得金額の範囲内であるから、被告が原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

第五  よつて、原告の請求は理由がないから棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主分のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 田中恭介 裁判官 和田康則)

別表一

各係争年分の課税の経過

<省略>

別表二

事業所得金額の計算(被告の主張)

<省略>

注 昭和54年分の予備的主張欄の同業者原価率及び同業者経費率は別表4から同表記載「左京D」を除いて算定した。算式は下記のとおり。

同業者原価率 508.67-50.94=457.73 457.73÷10≒45.78

同業者経費率 198.11-5.50=192.61 192.61÷10≒19.27

別表三

仕入金額明細表

<省略>

注1 なお、昭和55年分の認否は、原告昭和61年1月30日付準備書面にて、認めると訂正された。

別表4

係争名年分の同業者

<省略>

別表五

特別経費(被告の主張)

<省略>

別表六

別件同業者と本件にて被告が主張する同業者との所得率の差異

昭和54年分

<省略>

昭和55年分

<省略>

別表七

原告の実額主張

<省略>

注1 昭和54年分の売上金額のその他欄の内には、太陽物産株式会社に対する4,080円、山村しば漬本舗に対する174,000円が含まれています。

注2 米倉工務店につき、昭和55年分は昭和56年1月回収分を含み、昭和56年分は4,320,790円から100,000円を控除して127,475円加算した金額。

注3 仕入金額の明細は、別紙3原告の主張欄記載のとおり。

別表八

対照表

(昭和54年分)

<省略>

<省略>

対照表

(昭和55年分 その1)

<省略>

<省略>

対照表

(昭和55年分 その2)

<省略>

<省略>

別表九

昭和54年分の売上金額

<省略>

昭和55年分の売上金額

<省略>

昭和56年分の売上金額

<省略>

別表一〇

別表4の同業者原価率及び同業者経費率につき、売上原価を10,000円として試算した算出所得金額指数

<省略>

注 原価率及び経費率は100分率であり、その余の単位は円(但し、1円以下切捨)

別表一一

原告の事業所得金額(当裁判所の認定)

<省略>

注 別表4記載の同業原価率、同業者経費率から、昭和54年分につき左京D及び東山Aを控除して同業者数9件で除し、昭和55年分につき東山Aを控除して同業者数11件で除し、昭和55年分につき中京Bを控除して同業者数7件で除したもの。

508.67-(50.94+23.46)=434.27÷9≒48.26

198.11-(5.50+43.97)=148.64÷9≒16.52

549.05-18.08=530.97÷11=48.27

203.65-42.54=161.11÷11≒14.65

298.26-21.69=276.57÷7=39.51

174.55-43.19=131.36÷7≒18.77

(但し、小数点以下の三桁以下は、原告有利の方向で、いずれも切上げた。)

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