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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)1207号 判決

原告

寺地俊文

被告

ザ・ホーム・インシュアランス・カンパニー

主文

一  被告は原告に対し、金二七二万五七二八円及び同金員につき昭和五七年九月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金六六三万六八七四円及び同金員につき昭和五七年九月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時

昭和五七年九月二二日午後六時五分頃

(二) 場所

兵庫県尼崎市下板部名神高速道路下り五二七・八キロポスト付近

(三) 態様

原告が同乗していた諏訪博運転の自動車(神戸五六り八九八〇、以下「本件自動車」という。)と、白井源義運転の自動車との衝突事故により、原告が受傷した。

2  被告の責任

(一) 被告は、関本敏夫(以下「関本」という。)との間に、同人所有の本件自動車を目的として自動車保険契約を締結した。

(二) そして、本件事故は、右保険契約の保険期間中に発生した。

(三) なお、原告は、本件自動車を自己のため運行の用に供していた関本に対し、自賠法三条の規定に基づき、本件事故によつて被つた損害賠償請求権を取得したものの、これを行使しないことを関本に対して書面で承諾した。

(四) 従つて、被告は、原告が本件事故によつて被つた損害を直接に賠償する責任がある。

3  損害

(一) 受傷と治療の経過

原告は、本件事故によつて、頭部挫創、右橈骨々折、右足関節脱臼骨折、右足根骨々折、右第五中足骨々折、左下腿挫創傷、左第一趾末節骨々折の傷害を受け、尼崎市内の合志病院において、昭和五七年九月二二日から同年一二月一八日まで八八日間入院し、翌一九日から昭和五八年四月五日までの間五六日通院したが、右リスフラン関節内骨折変形、右足外果骨折、右足関節不全拘縮の後遺障害となり、自賠責保険では一四級と認定されたが、現在尚就労できない状況である。

(二) 損害額

(1) 入院雑費 八万八〇〇〇円

一日一、〇〇〇円として八八日分として算出した。

(2) 通院交通費 一〇万三〇四〇円

(3) 治療費 八七万六六四五円

(4) 休業損害 一九九万七八二八円

昭和五七年度賃金センサスの男子労働者学歴計三〇歳~三四歳の年収三七二万〇三〇〇円(月額二四万二〇〇〇円と賞与等八一万六三〇〇円)を基礎にして日額一万〇一九三円として症状固定の日(昭和五八年四月五日)まで一九六日として算出した。

(5) 逸失利益 三七七万一三六一円

前述のとおり症状固定後も就労できない状態が続いているが、一応一四級とし、就労可能年数三六年として次のとおり算出した。

三七二万〇三〇〇×〇・〇五×二〇・二七四五

(6) 慰藉料 一七五万円

治療期間中の慰藉料一〇〇万円、後遺障害に対する慰藉料七五万円として算出した。

(7) 右(1)ないし(6)の合計 八五八万六八七四円

(三) まとめ

原告は、自賠責保険金として金一九五万円を受領したので、前記合計から控除すると金六六三万六八七四円となる。

4  結論

よつて、原告は被告に対し、六六三万六八七四円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五七年九月二三日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認め、主張は争う。

3  同3のうち、原告の後遺症等級及び自賠責からの給付額は認めるが、その余の損害の発生の事実は知らず、損害額は争う。

殊に、原告に休業損害が生じたもしても、その算定の基礎となるべき収入日額は、二三四一円ないし二五三六円であり、逸失利益についても、原告の後遺症状は右足関節部の腫脹、疼痛につき、しかもこれは一過性の神経症状といわざるを得ないから、これによる労働能力喪失期間は最高限度五年までとすべきである。

4  同4の主張は争う。

三  抗弁

1  免責

(一) 被告と関本との間の保険契約の約款一〇条四号には、対人賠償の免責規定として、保険の目的である車両を用いて被保険者である使用者の業務に従事中、使用人の身体などが害された場合には、それによつて被保険者が被る損害について、保険者は填補しない旨定められているところ、本件事故は、次の事由によりこれに該当する。

原告の勤務先である夏山組こと土木業の夏山峰男(以下「夏山組」という。)は、早期事務所に従業員全員を集めて車両で工事現場まで送り届け、同現場での作業終了後全員を同じく車両で事務所まで連れて帰り、同所で解散していたのであるから、原告を含む従業員は、右送迎の間も労働契約上の拘束を受けていた。そして、夏山組は、当時、関本の支配下にあつても作業に従事していたところ、本件事故は本件自動車で、原告ら夏山組の従業員を作業現場から同組の事務所へ連れて帰る途中で発生したのであるから、右約款の規定に該当する。従つて、被告には、同事故によつて生じた損害の填補責任はない。

(二) 仮に、前項の主張が認められないとしても、被告と関本との間の保険契約の約款一〇条五号には、対人賠償の免責規定として、使用人が使用者の業務に従事中に他の使用人の身体を害した場合に、被告は損害を填補しない旨定められているところ、本件事故はこれに該当するから、被告に損害填補の責任はない。

2  好意同乗による減額

仮に、被告が損害填補責任を負うとしても、原告は諏訪博もしくは夏山組の好意により本件自動車に同乗していたうえ、事故発生の帰責事由も諏訪博の過失のみにとどまるものではないから、公平の原則上原告の被つた損害につき、少くとも三割相当分の減額がなされるべきである。

四  抗弁の認否

抗弁はいずれも争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の日時、場所において、原告が同乗していた諏訪博運転の本件自動車が、白井源義運転の自動車との衝突事故によつて受傷したこと、本件自動車が関本敏夫の所有に属するところ、関本は被告との間に本件自動車を目的とする自動車保険契約を締結しており、本件事故はその保険期間中に発生したこと、原告が本件事故によつて生じた損害賠償につき、関本に対して請求せず、被告に対し直接に請求する旨の合意をしていること、以上の事実は当事者間に争がない。

二  そして、証人夏山峰男の証言によると、原告及び諏訪博は夏山組の従業員であつたこと、夏山組は、関本の下請仕事をしていたのであるが、作業現場が多く交通不便な場所であることもあつて、朝一定の場所に従業員を集めて車両で作業現場まで送り届け、作業終了後従業員を一定の場所まで連れて帰り、同所で解散していたこと、このため夏山組では関本から本件自動車を借受け、送迎の用に供していたこと、本件事故の時は、作業終了後、諏訪博が運転して原告らを連れ帰る途中であつたことが、それぞれ認められ、この認定に反する証拠はない。

以上の事実によると、関本は、本件事故当時、本件自動車を自己のため運行の用に供していたものと認めるのが相当であるから、原告は同人に対し、本件事故によつて被つた人的損害につき賠償請求権を取得したと解すべきであるが、成立に争のない乙第一号証と弁論の全趣旨によると、前叙のとおり原告が関本との間で、同人に対し右請求権を行使せず、被告に対し直接請求する旨の合意をしている場合には、被告と関本との保険契約の約款(以下「本件約款」という。)上、原告から直接被告に対し請求しうることが明らかというべきである。

三  しかるところ、被告において本件約款一〇条四、五号の規定に基づき、免責の主張をするから、検討する。

本件約款一〇条に、被告が損害を填補しない人身事故の被害者として、四号に「被保険者の業務に従事中の使用人」、五号に「被保険者の使用者の業務に従事中の他の使用人。ただし、被保険者が被保険自動車をその使用者の業務に使用しているときにかぎります。」との各条項の規定があることについては、原告において明らかに争はないから、これを自白したものとみなすべきである。そこで、右に該当する事実の存否につき吟味するのであるが、右四号にいう「使用人」、同五号にいう「使用者」及び「使用人」とは、雇用関係のある者に限定され、下請の関係にある者は右に該当しないと解するのが相当であるところ、さきに認定したように原告と諏訪博は夏山組の従業員であり、そして夏山組は関本の下請業者であるから、その余の点につき説示するまでもなく被告主張の各約款の規定に該当しないというべく、被告の免責の抗弁は採用できない。

四  そこで、原告が被つた損害について検討するのであるが、成立に争のない甲第二ないし第五号証、同第九ないし第一一号証に、弁論の全趣旨を総合すると、原告(昭和和二六年一一月二二日生)は、本件事故によつて頭部多発挫創、左橈骨々折、左前腕挫創、左下腿挫創、左足背挫創、左第一趾末節骨々折、右足関節脱臼骨折、右足根骨々折、右第五中足骨々折などの傷害を受けて、尼崎市内の合志病院に事故当日から同年一二月一八日まで八八日間入院し、翌一九日から同五八年四月五日までの間に五六日右病院に通院して症状固定に至つたが、右足関節不全拘縮の後遺障害があつて、自賠法施行令別表の後遺障害等級一四級と認定されたこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

1  損害額

(一)  入院雑費 八万八〇〇〇円

一日一〇〇〇円の割合による入院八八日分の出費を要したものと認められる。

(二)  通院交通費 一〇万三〇四〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第八号証によると、さきに認定した合志病院への通院につき、交通費として一〇万三〇四〇円を要した事実を認めることができる。

(三)  治療費 八七万六六四五円

前掲甲第九ないし第一一号証によると、症状固定に至るまで治療費として八七万六六四五円を要した事実を認めることができる。

(四)  休業損害

証人夏山峰男の証言及び同証言により真正に成立したと認める甲第一二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第一五、第一六号証によると、原告は、少くとも昭和五七年六月頃まで、京都市内の新町企業組合の従業員として板前の仕事に従事し、同年三月から六月までの間、月額約二七万円ないし三〇万円余の収入があつたこと、ところが、経緯は全く不明であるが、同年八月一三日から夏山組で雑役ないし土工として勤務し、八月中及び九月中は本件事故当日まで、それぞれ一二、三日稼働しているところ、八月には盆休みがあつたこと、原告の当時の日給は八〇〇〇円であつたこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

右の認定事実を前提として、休業損害(逸失利益も)の基礎収入を把握することは困難であるが、そうかといつて原告の収入が統計数値による収入を上廻ると解しうる資料はないのであるから、容易く統計数値によることも相当でなく、結局のところ右認定事実により控え目に見積つて定めるほかないというべきである。この見地からすると、稼働日数を一か月につき二〇日間とし、これに日給八〇〇〇円を乗じた一六万円をもつて、一か月の収入と把握するの相当である。すると、原告の症状が固定した前記昭和五八年四月五日までの休業損害は一〇四万五三三三円(円未満切捨)となる。

(五)  逸失利益

さきに認定した原告の後遺障害の状況に、前掲甲第四号証によると、原告の後遺障害は長期に亘り持続すると認められるから、少くとも一〇年間は持続するものと解すべく、その間の、労働能力喪失率を五パーセントとして、前記月収を基礎とし、新ホフマン係数七・九四四九により逸失利益の現価を算出すると、七六万二七一〇円(円未満切捨)となる。

(六)  慰藉料

さきに認定した受傷による治療の状況及び後遺障害など諸般の事情に鑑みると、入通院慰藉料一二〇万円、後遺症慰藉料六〇万円と認めるのが相当である。

(七)  まとめ

以上によると、原告の損害は四六七万五七二八円となる。

2  好意同乗

被告は、原告の損害につき好意同乗を理由とする減額の主張をする。しかし、被告も自認するように原告が本件自動車に同乗したのは、夏山組の勤務の関係によるのであるから、損害につき減額事由のなるべきいわゆる好意同乗の類型には入らないと解するのが相当であり、被告のこの点の主張は採用できない。

3  弁済

原告が本件事故によつて被つた損害につき、自賠責保険から一九五万円を受領していることは当事者間に争がないから、これを控除すると、原告の損害残額は二七二万五七二八円となる。

五  以上の次第であるから、被告は原告に対し、二七二万五七二八円及び同金員につき履行期到来後である昭和五七年九月二三日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべく、原告の本訴請求はこの限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却する。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田眞)

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