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京都地方裁判所 昭和59年(わ)159号 判決

本籍

京都市北区上賀茂馬ノ目町二番地の四

住居

同市右京区御室小松野町二九番地の一八

会社役員

播岡彰夫

昭和一六年九月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官福嶋成二出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金七〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都市右京区御室小松野町二九番地の一八に居住し、昭和五一年一月ころから同五八年八月三一日ころまでの間、同市上京区堀川通寺之内上る寺之内竪町七〇八番地において、「はりおか織物」の名称で袋帯及び婚礼用打掛の製造業を営んでいたものであるが、

第一  昭和五五年分の総所得金額が二億四〇二七万〇一七一円で、これに対する所得税額が一億六四七〇万七二〇〇円であるにもかかわらず、収支に関する記帳を行わず、右事業の一部を「織美」の名称を用いて従業員村上清二の事業に仮装し、かつ、同事業により得た所得を仮名、借名義で預金としたほか、受取手形として留保するなどの行為により、その所得金額のうち二億一〇三一万八〇〇四円を秘匿した上、同五六年三月一六日、同市右京区西院上花田町一〇番地の一所轄右京税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二九九五万二一六七円で、これに対する所得税額が一一九〇万八六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同五五年分の正規の所得税額一億六四七〇万七二〇〇円との差額一億五二七九万八六〇〇円を免れ

第二  同五六年分の総所得金額が一億三八二五万〇五五〇円で、これに対する所得税額が八七九八万一〇〇〇円であるにもかかわらず、売上げの一部を除外し、あるいは事業の一部を「織美」の名称を用いて右村上の事業に仮装し、よって得た資金を仮名、借名義で預金としたほか、棚卸商品として留保するなどの行為により、その所得金額のうち七八一一万五〇七二円を秘匿した上、同五七年三月一五日、同税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が六〇一三万五四七八円で、これに対する所得税額が三〇七三万一一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同五六年分の正規の所得税額八七九八万一〇〇〇円との差額五七二四万九九〇〇円を免れ

第三  同五七年分の総所得金額が一億四六〇七万九四六三円で、これに対する所得税額が九三九三万五六〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、その所得金額のうち四九六〇万〇〇四一円を秘匿した上、同五八年三月一五日、同税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が九六四七万九四二二円で、これに対する所得税額が五六九六万五〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同五七年分の正規の所得税額九三九三万五六〇〇円との差額三六九七万〇六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  第五回、第九回、第一八回、第二三回及び第二五回公判調書中の被告人の各供述部分

一  被告人の検察官に対する各供述調書(検第五一ないし五八号の八通)

一  被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検第一〇〇ないし一一一号の一二通)

一  検察官及び弁護人共同作成の合意書面三通

一  第八回公判調書中の証人押谷信行及び第九回公判調書中の証人播岡富子の各供述部分

一  山本栄一郎、岩田昌明、三宅貞夫、吉岡徹三郎、藤田新(三通)及び村上清二(三通)の検察官に対する各供述調書

一  藤田新(検第六一号)、間庭繁美、吉岡徹三郎及び播岡富子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の告発書、各査察官調査書(検第八ないし二六、三四、三五、七六及び七八ないし八〇号の二五通)及び証明書

一  倉田保三、小畑登喜枝、有限会社美川屋(代表者山口欽一)、片岡岬芳、葛西益夫ら及び前田吉子作成の各回答書

一  押収してある第一勧業銀行西陣支店当座勘定照合表一枚(昭和五九年押第二六六号1)、預金利息計算書等綴一綴(同押号3)、定期預金計算書等綴一綴(同押号5)、総合口座通帳一冊(同押号7)、賃貸借契約書一通(同押号12)、請求書(工賃)一綴(同押号16)、仕切書三通(同押号17)、同三冊(同押号18)及び請求書綴三綴(同押号19)

判示第一、第二の各事実につき

一  西原敏彦の検察官に対する供述調書

一  三宅貞夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

判示第一の事実につき

一  西原敏彦及び瀬戸茂の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告書謄本(検第二号)、脱税額計算書(検第五号)及び査察官調査書(検第八一号)

一  押収してある領収証等綴三綴(同押号2)

判示第二、第三の各事実につき

一  村上清二及び藤井貞俊の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(検第二九ないし三一、七七及び八三号の五通)

一  山本悦子及び井上太郎作成の各回答書

一  押収してある印鑑(福井と刻字。預金証書袋とも)一個(同押号4)及び製造台帳八綴(同押号10)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告書謄本(検第三号)及び脱税額計算書(検第六号)

一  小谷幹廣作成の確認書

判示第三の事実につき

一  第九回公判調書中の証人藤原秋男及び第二四回公判調書中の証人澤井幹廣の各供述部分

一  則信よし子、藤原秋男及び山本勝己(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告書謄本(検第四号)、脱税額計算書(検第七号)及び査察官調査書(検第三二、三三及び八二号の三通)

一  田中稲造、京都地方簡易保険局長及び犬山征三作成の各回答書

一  押収してある在庫明細一綴(同押号14)及び申告資料一冊(同押号15)

(補足説明)

弁護人は、訴因変更後の各公訴事実につき、次の各項目をそれぞれ争うので、これに対する当裁判所の判断を簡単に説明する。

一  現金

弁護人は、各年度末の手持現金は、その年度における総入金額から総出金額を差し引いて計算し、昭和五四年度末(以下、昭和を省略する。)は、二六〇〇万円、五五年度末は二五〇〇万円、五六年度末は〇円、五七年度末は五〇〇万円とすべきであり、五七年一一月村上清二名義の口座から引き出した現金二〇〇〇万円をこれに加えるべきではないと主張する。

そこで検討するに、前掲の関係各証拠によれば、被告人は、検察官に対して、各年度末の現金は、五四年度末約三〇〇〇万円、五五年度末約三〇〇〇万円、五六年度末約二〇〇〇万円、五七年度末約三〇〇〇万円であった旨述べている。しかし、大蔵事務官の調査した各年度における総入金額から総出金額を差し引いた額は弁護人主張のとおりであって、被告人の右供述とは五六年度末における額において著しくそごしている。他方、被告人は、西陣信用金庫紫野支店の村上清二名義の普通預金口座(口座番号七〇九九一九)から、昭和五七年一一月一七日二〇〇〇万円を払い戻していること及び被告人が五八年九月二八日現在において現金三八四二万〇五〇〇円を間庭繁美らに預けて所持していたものを大阪国税局査察部に持参していることの各事実が明らかであって、これらの事実を総合すると、手持現金の額は総入金額から総出金額を差し引いて算出するのが相当というべく、ただ、五六年度末ではマイナスとなるからこれを零とし、五七年度末には、前示のとおり村上清二名義の口座から払い戻した現金二〇〇〇万円がこれとは別個に存したとみるべきである。したがって、手持現金の額は、五四年度末二六〇〇万円、五五年度末二五〇〇万円、五六年度末零、五七年度末二五〇〇万円となる。

二  預金及び利子所得並びに給付ほてん金

弁護人は、別紙「預金一覧表」記載の預金は、いずれも被告人が妻播岡富子(以下、「富子」という。)に渡した生活費等から預け入れていたものであり、かつ、それぞれ各名義人に帰属するものであるから、その利子所得等は被告人の所得とはならない旨主張する。

そこで、まず、前掲の関係各証拠によれば、右一覧表記載のとおりの各名義の各預金口座について、それぞれ各年末におけるその預金額が認められるところ、各年末における増加状況を見てみると、普通預金は、五四年末から五五年末にかけて五五万六七八二円増加、同年末から五六年末にかけては一五万四五四一円減少しているものの、同年末から五七年末にかけて再び六一万三五七三円増加しており(そのうち利息分の占める割合は少ない。)、積立預金も同様、五五年末には九四万六一二七円、五六年末には四万二七四三円、五七年末には一三二万円増加しており(そのうち利息分の占める割合は、普通預金よりも高いとしても、決して多くはない。)、定期預金は、五五年末には二〇六万一二八九円増加しており、利息分を算入せず、新たに定期預金した額は、五六年分が二八六万四三九九円、五七年分は一七〇万円になっており、以上を合計すると、五五年末には、三五六万四一九八円、五六年末には、定期預金の利息を除いて、二七五万二六〇一円、五七年末には、前同様三六三万三五七三円それぞれ増加となる。

ところで、第九回公判調書中の証人播岡富子の供述部分(以下、「富子の供述」という。)によると、遅くとも、五五年四月から五八年三月ころまでの間、富子は被告人から毎月生活費として二〇万ないし二五万円を受領し、またアルバイト料として五万ないし一〇万円を受領していたというのであるから、同女が生活費にあてる金額月三〇万円として計算すべきこととなる(以下、この三〇万円を「生活費等」という。)そうすると、右各預金高の増加状況と対比すれば、生活費等からこれらの預金をしていたとみることは到底不可能というべきである。具体的にも、京都相互銀行御室支店の被告人名義の普通預金口座の入金状況を見てみても、生命保険会社からの振込は別として、五五年一二月一六日三〇万円、同五七年八月七日五〇万円という金額は、生活費等からの入金とみるのは無理であり、生活費等から育友会費及び給食費に充てたという富子の供述は信用できず、したがって、右各預金は、いずれも被告人の所得からしたものとみるのが相当であり、この点について、これらの預金も生活費等で充てたという富子の供述も信用できず、これらは事業主貸しとして計上すべきである。

しかしながら、右各預金はいずれもその金額に照らすと、被告人が家族のためにそれぞれ預金したものとみるのが自然であり、これらはそれぞれの名義人に帰属するものと認められる。したがって、その利息は、被告人の所得から除外すべきであり、五五年度分として一九万六〇一一円、五六年度分として四三万七四四九円、五七年度分として五五万〇五四〇円を被告人の利子所得から減ずるべきである。

なお、右各積立預金は、富子、播岡美香又は播岡佳代に帰属するのであるから、その給付ほてん金もそれぞれの名義人に帰属することとなり、したがって、五五年度分二万二二五二円及び五六年度分五万八七〇二円を雑所得から減ずるべきである。

三  津田駒式KN型織機

弁護人は、被告人が五六年度に二二五万三〇〇〇円で購入した津田駒式KN織機(以下「織機」という。)は、全く織ることができなかったもので、五七年度中には被告人もそれを認識していたものであるから、既に計上されている減価償却費一〇万一三八五円を差し引いた二一五万一六一五円は無価値なものとして減算すべきであると主張する。

前掲の関係各証拠によれば、被告人が五六年七月七日有限会社京都機料商会から織機を二二五万三〇〇〇円で購入していること、及び五七年度にその減価償却分として一〇万一三五八円が差し引かれて、二一五万一六一五円が資産として評価計上されていることが明らかである。

ところで、第九回公判調書中の証人藤原秋男の供述部分、第二四回公判調書中の証人澤井幹廣の供述部分及び第二五回公判調書中の被告人の供述部分とを総合すると、織機には欠陥があり、商品価値のある織物が織れず、他に転用もきかないものであって、五七年度中には被告人もこのことを知り、その後これをスクラップとして約五万円で売却したというのであって、このことについては右各証言と被告人の供述とがおおむね符号しており、そのとおり認めることができる。そうすると、織機については、五七年度末においてはスクラップとして五万円と認め、これを差し引いた二一〇万一六一五円は損失として計上し、事業所得から控除すべきである。

四  保証金

弁護人は、被告人が営業所として賃借している神田ビル二階の賃貸借契約について支払った保証金五〇〇万円の一〇パーセントは契約更新料に充てられるなど返還を受けられないものであるから、それは所得税法施行令七条一項四号ロ又はハに当たる繰延資産であるから、同令一三七条一項二号によりこれを償却すべきであると主張する。

前掲の関係各証拠によれば、被告人は、五五年一一月二七日神田甲道と事務所に使用する目的で、神田ビル二階を、保証金五〇〇万円、満期五八年一一月三〇日として借り受けたこと、右保証金の一〇パーセントは、契約更新料とするほか、中途解約又は期日満了時に契約更新をしないときであってもこれは返還されないこととなっていることが認められる。

そうすると、右保証金の一〇パーセントは、所得税法施行令七条一項四号ロにいう繰延資産とみるのが相当であり、同令一三七条一項二号より、これを償却するべきである。ただし、五五年度分は、賃借の期間が一一月三〇日から始まるのであって、この期間を一箇月として計算するのが妥当であり、したがって、五五年度分一万三八八八円、五六年度分及び五七年度分各一六万六六六六円をそれぞれ償却することとなる。

五  事業主貸し及び事業主借り

弁護人は、国民年金保険料、生命保険料、国民健康保険料、学校費、その他の教育費、家具類購入費、水道光熱費、飲食料品費及び衣服費については、生活費等から支払ったものであり、国民金融公庫借入金利息及び電話料金の一部については、営業上の必要経費である等の理由により事業主貸しに計上するのは誤りであり、また、飲食料品費のうち株式会社クラタに対して支払った分は、酒類等の購入費であって、その五〇パーセントは従業員に対する慰労のための支払いであり、本来福利厚生費として必要経費に算入すべきものであるから、右五〇パーセントを事業主借りとして計上すべきであると主張する。

そこで、前掲の関係各証拠によれば、弁護人主張の各費用のうち、学校費である育友会費及び給食費は京都相互銀行御室支店の被告人名義の普通預金口座から、水道光熱費である電気、ガス、水道料金は東海銀行西陣支店の被告人(はりおか織物)名義の当座預金口座からそれぞれ振込支払いがされており、右各預金の入金状況、支払金額等に照らすと、これらが生活費等のうちから支払われたとは到底認められない。富子の供述によると、電気、ガス、水道料金は、富子から年に九回位被告人に対して一回に五万円位渡してそれで被告人に支払ってもらっていたというが、富子の生活費等として毎月約三〇万円を被告人から受領したうちから電気料金等の支払いのため五万円を被告人に戻すというのはいかにも不自然であり、また、右東海銀行西陣支店の口座の入金状況を見てみると、五五年一月から五七年末までの間において、五万円の入金は一度だけで、五五年一〇月以降は、五六年一二月に二〇万円の入金がある外は現金の入金はなく、富子の供述はこれと符号せず、信用できない。育友会費及び給食費についても、前示口座の入金状況は、五五年七月までは四回に分けて計一四万円の入金があるものの、その後、五七年末までの現金の入金を見ると、五五年一二月に三〇万円、五七年八月に五〇万円の入金があるのみで、これもまた生活費等からの入金とは認められず、この点についての富子の供述も右入金状況と符号せず、信用できない。以上は、いずれも被告人が自己の口座から振込支払いをしたものと認められる。

次に、生命保険料の支払状況を見てみると、五五年三月に一四万八六五七円、五六年三月に一三万〇七二六円及び五七年三月に一二万一二〇〇円、これとは別に同年七月に七七万六六〇〇円が支払われており、これらはその金額等に照らして、生活費等からの支払いであるとは到底考えられない。もっとも、五七年七月支払い分について、証人宇野禮子は自分がこれを立て替え払いをし、同年中には被告人から受領していない旨供述するが、その供述内容自体不自然であって、到底信用できない。また、家具類購入費について検討するに、株式会社インテルナきたむら、株式会社ユタニ家具センター、株式会社藤野タンス店、株式会社オクニシ、株式会社宮崎に対する支払いは、富子の供述によっても被告人がこれをしたもので、生活費等からでないことは明らかであり、これらは、五七年度中の被告人方住宅の改築等に伴うものと思われるところ、北山リビング及び田中稲造に対する各支払いもその金額及び支払状況等に照らして同様であると考えられ、これらもまた、生活費等からの支払いではなく、被告人が支払ったものと認められる。更に、西村電化サービスこと西村宏に対する支払い(五六年五月分)は、その金額等に照らして、生活費等からであるとは思われず、これについての富子の供述は信用できない。また、右京区長に対する支払いである国民健康保険料の支払いは、その使途目的、金額、支払状況に照らすと、生活費等からしたものとみることはできず、この点についての富子の供述も信用できない。以上は、それぞれ被告人が生活費等とは別に支払ったものとみるのが相当である。電話料金について、弁護人は、その八割は営業のために使用されているのであるから本来必要経費に算入すべきものであり、事業主貸しから除外すべきであると主張するが、証拠上、その部分が明確に区別されているわけではなく、その使用目的が主として営業のためであるとも認められず、したがってこれを事業主貸しから除外することはできない。

他方、富子の国民年金の支払いは、その使途目的、金額等に照らすと、生活費等から支払ったとみるのが相当であり、したがって五五年度分四万三八三〇円、五六年度分五万一八一〇円、五七年度分六万〇四八〇円を事業主貸しから除外すべきである。

また、国民金融公庫借入金利息については、被告人が国民金融公庫から七八〇万円借入れしたのは五一年八月一〇日であり、同時に被告人の旧居宅に同公庫のために根抵当権が設定されたが、被告人が旧居宅を購入したのは四八年四月二五日であり、被告人は同月二六日付けで京都銀行紫野支店から一一〇〇万円を借入れしており、右のような借入れの状況、時期等に照らして考えると、その後の五一年八月に国民金融公庫が旧居宅に根抵当権を設定しているという一事によって、国民金融公庫からの借入れが旧居宅購入のための借入れであると認めることはできず、右借入れは、右経過等に照らして営業用資金であると考えるのが相当であり、その支払い利息はいわば必要経費に算入すべきであって、五五年度分四万一三七〇円を事業主貸しから除外することにする。

更に、富子の供述によれば、飲食料品費である株式会社クラタ、小畑牛乳店に対する各支払い、衣服費の有限会社美川屋に対する支払い、家具類購入費のうち井上金物に対する支払い及び教育費のうち片岡岬芳に対する支払いは、それぞれ酒代、牛乳代、クリーニング代、雑貨購入費及び習字塾の月謝であって、生活費等から富子が支払ったというのであって、その使途目的、金額、支払方法に照らし右供述部分を信用してよいというべきであり、教育費である有限会社京都教材研究所への支払いも、その金額に照らすとやや疑問もあるが、その使途目的は学習塾の月謝で、これを富子が支払ったというのであるから、これも生活費等から支払われたものとみてよいと思われる。そうすると、これらは、事業主貸しから除外すべきであって、結局除外すべき金額の合計は、五五年度分五七万三一七九円、五六年度分七〇万九二九二円及び五七年度分七八万四七五八円となる。

ところで、弁護人は、株式会社クラタに対する支払いのうち、その五〇パーセントは、従業員の慰労のため支出したもので、福利厚生費として必要経費に当たるから事業主借りに計上すべきである旨主張する。

しかし、前掲の関係各証拠を検討しても、右クラタに支払った酒代は家事関連費であって、それが被告人の業務遂行上必要であるとは思われず、その部分が明確に区分されているわけでもないから、弁護人主張のような必要経費とみて事業主借りに計上することは相当ではない。

以上のとおりであるから、被告人の五五年度ないし五七年度の事業所得等の所得金額、これから差引かれる金額、課税所得金額、税額等の申告額、当裁判所の認定額及び増差額等は、別紙「所得金額、税額等一覧表」記載のとおりである。

なお、付言するに、前判示第三において認定したほ脱額等は、変更後の訴因のほ脱額等を上まわるものであるが、それは、主として、被告人の手持現金の認定が、五六年度末が零であるところ、五七年度末には二五〇〇万円となり、財産増減法で所得を把握しているためであるが、右手持現金の認定は検察官の主張を下まわるものであり、被告人の防禦に実質的不利益を生じているとは考えられないから、この点について重ねて訴因変更の手続きが必要であるとは思われない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は昭和五六年法律第五四号附則五項により同法による改正前の所得税法二三八条一項に、判示第二及び第三の各所為はいずれも所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、各所定刑中いずれも懲役及び罰金の併科刑を選択し、なお情状により各同法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の懲役刑につき法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金七〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、懲役刑については情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文により全部これを被告人の負担とする。

(量刑の理由)

本件は、袋帯、婚礼用打掛の製造業を営んでいた被告人が五五年度から五七年度までの毎年、事業の一部を従業員の事業に仮装するなどして所得を秘匿して過少申告し、三箇年度で合計して二億四七〇〇万円余をほ脱したという事案であって、その手段方法は巧妙卑劣であり、ほ脱率も五五年度は九二パーセントを上まわっており、五六年度六五パーセント、五七年度三九パーセントと逓減しているもののかなり高率であって、被告人の遵法精神の欠如は甚だしく、本件が社会に与えた影響、とりわけ適正に納税をしている大多数の納税者に与えた影響は大であったものと思われ、被告人の刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、被告人は、当然のことながら、高額の重加算税等の支払義務を負う上、本件により信用を失墜し、得意先から取引停止を受ける等営業面において相当打撃を受ける等の社会的制裁を受けていること、被告人には前科はなく、妻子を抱え、また現在では、はりおか株式会社外一社の代表取締役として従業員を雇用して、家庭又は会社のいわば大黒柱として真面目に稼働し、被告人及び従業員の家族の生計を直接間接支えていること、被告人は現在では本件の非違を十分反省悔悟し、再犯をするおそれは少ないと思われることその他弁護人が主張しあるいは記録上認められる被告人に有利な点を参酌すると、懲役刑については、実刑を科するよりは、その刑の執行を猶予し、所得税、重加算税等を完納させるとともに、遵法精神を涵養させるのが相当であると思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 萩原昌三郎 裁判官 河野清孝 裁判官 牧真千子)

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