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京都地方裁判所 昭和55年(ワ)487号 判決 1981年5月27日

原告

塩谷恵吾

被告

上村忠

主文

一  被告は原告に対し八四二万五三七二円および内金七六二万五三七二円に対する昭和五一年一二月一四日から、内金八〇万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、二〇〇〇万円およびこれに対する昭和五一年一二月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  本件事故の発生

日時 昭和五一年一二月一三日午後五時三五分ころ

場所 京都市西京区山田六ノ坪町八の六三番地先交差点

態様 北方へ直進中の原告運転の自動二輪車(以下原告車という)と南進して来て西方へ右折しようとした被告運転の普通貨物自動車(以下被告車という)が衝突したもの

(二)  受傷の内容および治療経過ならびに後遺障害の内容

1 受傷内容

左腓骨脛骨開放性骨折等

2 治療経過

受傷の日から昭和五四年九月一〇日までシミズ外科病院において治療を受けた。うち入院四五七日、通院実日数七四日。

3 後遺障害

左膝関節変形治癒および運動障害、左足関節運動障害、左下肢短縮等。自賠法所定障害七級に認定済み。

(三)  被告の責任

1 被告は被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた。

2 本件事故は被告の前側後方不注意、右折不適当の過失に起因するものである。

(四)  損害 三三七六万〇九七六円

1 治療費 一三〇万六三三六円

2 入院雑費 二二万八五〇〇円

一日五〇〇円宛四五七日分

3 付添看護費 二一万一二〇〇円

一日二四〇〇円宛八八日分

4 装具代 六万四三五〇円

5 逸失利益

(1) アルバイト料損失分 八五万五四二五円

原告は本件事故当時工業高校一年に在学中であり、新聞配達のアルバイトをして一カ月二万九八七〇円の収入と毎年六月と一二月に慰労金としてそれぞれ五〇〇〇円、一万二〇〇〇円の支給を受けていたもので昭和五四年三月末の卒業まで引き続き行う予定であつたから、その間の損失分は右金額となる。

2万9,870円×27.5カ月+(1万2,000円+5,000円)×2=85万5,425円

(2) 就労遅延による損害 一八一万八四〇〇円

原告は本件事故による受傷がなければ昭和五四年三月に高校を卒業し、翌四月から就職し得たはずであるのに、右受傷のため二年間留年して昭和五五年三月に高校二年生まで履修したものの結局退学し、同年七月にセントラル京都デイナーサービス株式会社に就職したが、一年四カ月就職が遅延したので、その間の逸失利益を同年令男子の平均賃金により算出すると右金額となる。

(10万4,100円×12カ月+11万4,600円)÷12カ月×16カ月=181万8,400円

(3) 後遺障害による逸失利益 一八二〇万一一六五円

原告は右の就職時には満二〇歳であつたところ、その労働能力喪失率は五六%であるから満六七歳に達するまで四七年間の逸失利益をホフマン式計算方法により算出すれば右金額となる。

(10万4,100円×12カ月+11万4,600円)×0.56×23,832=1,820万1,165円

6 慰藉料 八七七万円

(イ) 入通院分 二五〇万円

(ロ) 後遺障害分 六二七万円

7 原告車修理費 一〇万五六〇〇円

8 弁護士費用 二三〇万円

(五)  損益相殺 七六二万円

(イ) 自賠責保険金 七二七万円

(ロ) 被告からの支払 三五万円

(六)  結論

よつて原告は被告に対し、前記損害額から前項の金額を控除した金員の内金二〇〇〇万円とこれに対する本件事故の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否および被告の主張

(一)  認否

1 請求原因(一)のうち原告車と被告車が衝突したことは否認するが、その余の事実は認める。被告車の左後方端部分に原告の左足が接触したものである。

2 同(二)の事実は知らない。

3 同(三)の1の事実は認めるが、(三)の2は争う。

4 同(四)の事実は知らない。

5 同(五)の事実は認める。

(二)  主張

被告は本件交差点の手前三〇mの地点から右折のため方向指示器により合図をして徐行し、およそ六台の対向車をやり過した後、後続の対向車はおよそ三〇m先にヘツドライトを点灯して進行して来ていたが、被告は右折できるものと判断してその車両との衝突の危険がないことを確認して右折を開始しほとんど右折し終つたとき南方から猛スピードで突進して来た原告車が急ブレーキをかけ、原告の左足が被告車左後方端部分に接触したものである。

原告は制限速度四〇km毎時のところをこれに違反し、約七〇km毎時の速度で進行していたこと、夜間であるのに前照灯を点灯していなかつたこと、被告車はすでに右折の態勢にあつたこと、運転が未熟であるのにスピードを出し過ぎ安全確認を怠つていたこと、「警察を殺せ」等の落書のあるヘルメツトを所持し暴走族の一員として暴走行為に参加していたものと推認できること、などの点において原告にも過失があり、その過失割合は原告七、被告三というべきであり右の割合の過失相殺がされるべきである。

三  被告の主張に対する認否

原告車の前照灯が消えていたことは認めるがその余は争う。

原告車は本件事故の二カ月前に購入した新車で、当日家を出るときは点灯していたから途中で故障したものと思われ、そうすると不可抗力という外はないからこれを過失相殺の理由となし得ないものである。

また原告車の速度はスリツプ痕等からして四五km毎時程度であつた。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

成立に争いのない乙第一号証および原告、被告各本人尋問の結果によると、本件事故発生の状況は請求原因(一)のとおりであり、被告車左側後部と原告車左側が原告の左足をはさむような状態で衝突し、原告は原告軍とともに転倒したこと、被告は交差点中央附近で停止して数台の対向車をやり過した後、後続車との間におよそ四五・九m位の距離があつたため右折を開始し対向車線の中央附近まで進行したときおよそ八・五m南方の北行車線中央附近に前照灯を点灯しないで進行して来た原告車を発見し、衝突を避けるため加速して前へ進行したけれども間に合わず衝突したものであること、原告は本件事故現場の直前に至つて前照灯が点灯していないことに気づいたが、スイツチの切り換え操作をすれば再び点灯するかも知れないと考えてその操作をしながらそのまま進行したところ被告車が右折しながら自己の進路に進入して来たのを発見したため急ブレーキをかけながら右にハンドルを切つて衝突を回避しようとしたが間に合わず本件事故に至つたものであること、本件事故当時事故現場附近は暗かつたこと、の各事実を認めることができ、前掲の証拠中右認定に反する部分は措信しえず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

二  被告の責任

被告車が被告の所有であり、被告がこれを自己のため運行中であつたことは当事者間に争いがなく、また前示の事実によると本件事故は被告の右折に際しての安全不確認の過失に起因するものであることが明らかである。

よつて被告は原告に対し自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条により原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三  原告の受傷内容および治療経過ならびに後遺障害の内容

成立に争いのない甲第二ないし第一三号証および原告本人尋問の結果によると、原告主張のとおりであることが認められる。

四  損害

1  治療費 一三〇万六三三六円

成立に争いのない甲第一四ないし第二四号証によれば、本件事故に基づく受傷の治療費として少くとも右金額の出費をしたことが認められる。

2  入院中雑費 二二万八五〇〇円

入院中雑費として右金額は相当である。

3  付添看護費 二一万一四〇〇円

前掲の甲第二、三号証に照らし右金額は相当である。

4  装具代 六万四三五〇円

前掲の証拠および成立に争いのない甲第三七ないし第三九号証に照らし右は相当な損害と認められる。

5  逸失利益 一六二九万二七六八円

(1)  アルバイト料損失分 八五万五四二五円

成立に争いのない甲第二五ないし第三六号証および原告本人尋問の結果によると、原告は本件事故当時その主張のとおりのアルバイトをしておりこれを高校卒業まで行う予定であつたこと、本件事故前三カ月間の平均収入がその主張のとおりであつたほか、その主張のとおりの慰労金の支給を受けていたことが認められるからその間の逸失利益は右金額となる。

2万9,870円×27.5カ月+(1万2,000円+5,000円)×2=85万5,425円

(2)  就労遅延による逸失利益 一七〇万四七五〇円

原告本人尋問の結果によると、原告は本件受傷時高校一年生であつたこと、本件受傷のため二年留年し復学したものの昭和五五年三月二年生で中途退学し、同年七月からその主張のように就職し一カ月一一万円程度の収入を得ていることが認められる。

右によれば原告は本件事故にあわなければ昭和五四年三月には高校を卒業し四月からは就職して少くとも同年代男子の平均賃金程度の収入を得ることができたものと考えられるから昭和五三年賃金センサスに従いその間の逸失利益を算出すると右金額となる。

(10万4,100円×12カ月+11万4,600円)×15/12カ月=170万4,750円

(3)  後遺障害による逸失利益 一三七三万二五九三円

原告は右就職時満二〇歳であつたところ、前示の後遺障害の部位・程度に照らすとその労働能力の五六%を喪失したものというべきであるから前示平均賃金によりその就労可能と認められる満六七歳に達するまでの間の逸失利益をライプニツツ式計算方法に従つて算出すると右金額となる(なお周知のとおり三六年間を超える長期間に亘る逸失利益算出の計算方法としてホフマン式計算方法は理論的に妥当でないから採用しない)。

(10万4,100円×12カ月+11万4,600円)×0.56×17.981=1,373万2,593円

6  慰藉料 七二〇万円

原告の受傷の部位・程度、治療経過ならびに後遺障害の内容その他の諸事情を総合すると慰藉料としては右金額が相当である。

7  原告車修理費 一〇万五六〇〇円

原告本人尋問の結果およびこれにより成立の認められる甲第四〇ないし第四二号証によると右損害を認めることができる。

8  弁護士費用 八〇万円

本訴認容額その他の諸事情を総合すると原告が弁護士費用として被告に請求しうべき金額は右が相当である。

五  過失相殺

前掲の事実によれば本件事故の発生については、原告においても夜間前照灯が点灯していないことに気づきながら即時停止するなどの危険回避の措置をとることもなく安易に進行を継続した点および具体的速度は確定しえないけれども少くとも制限速度を超過した速度で進行しながら前方注視を厳にしなかつた点において過失があつたことを否定しえず、その過失割合は原告四、被告六と評価するのが相当である。

よつて前記損害のうち弁護士費用を除くその余の損害について四割の割合の過失相殺をすることとする。

六  損益相殺 七六二万円

原告が自賠責保険金七二七万円、被告から三五万円の各支払を受けたことはその自認するところであるから、これを前記損害から控除する。

七  結論

以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は八四二万五三七二円と内金七六二万五三七二円(弁護士費用を除くその余の金員)に対する遅滞後である昭和五一年一二月一四日から、内金八〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村田長生)

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