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京都地方裁判所 昭和54年(ワ)1648号 判決

原告

右代表者法務大臣

坂田道太

右指定代理人

一志泰滋

外五名

被告

京都信用金庫

右代表者代表理事

榊田喜四夫

阿南孝士

右訴訟代理人

吉永透

太田全彦

主文

一  被告は原告に対し、金三六万七六九三円及びこれに対する昭和五二年七月九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は主文一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因〈省略〉

二  請求原因に対する被告の認否

〈省略〉

三  被告の抗弁

被告は訴外谷川に対する事前求償債権を自働債権とし、原告の差押にかゝる同訴外人の被告に対する別段預金等払戻請求債権を受働債権として対当額で相殺した。すなわち

1(被告と訴外国民金融公庫との間の代理業務契約)

被告は昭和四五年七月一日訴外国民金融公庫(以下「公庫」という)との間で、公庫が被告を代理人として公庫業務方法書に定める普通貸付にかゝる資金貸付、貸付金債権の管理回収及びこれらに附帯する業務を被告に委託する旨の代理業務契約を締結し、その際、同契約書第八条により、次のとおりの条項で被告の保証責任等を定めた。

(一)  京都信用金庫(以下「被告」と表示する)は代理業務にかゝる貸付金債権の50%について保証責任を負うものとする(第八条1項)

(二)  被告はその取扱にかゝる貸付金の全部または一部について最終弁済期限到来後一年を経過してなお弁済がなかつたときは、直ちに公庫に対し、当該未収元利金(遅延損害金を含む)のうち前項に定める保証責任の割合に相当する金額を借受人に代わつて弁済し、引き続き当該貸付金債権の管理回収の責に任ずるものとする(第八条二項)。

(三)  被告は前2項の規定により保証責任を履行したのち、当該貸付金債権について元利金の回収があつたときは、公庫5、被告5の割合によりあん分してそれぞれの債権に充当するものとする。被告が前2項の規定による保証責任の履行により取得した求償権に基づき弁済を受けた金円についても同様である(第八条3項)。

2(被告の保証責任規定の解釈)

ところで、受託機関である被告の保証責任を定めた右契約書第八条の規定は、同条1項ないし3項を結合的・全体的にみれば、貸付金債権の全額保証(但し50%を超える分については自然債務的保証)を定めたものと解すべきである。

すなわち、受託機関の保証責任が同条1項の文言どおり50%保証であるならば、残り50%については委託機関が損害を受けてもやむを得ないことであるから、本来同条2項・3項(特に3項)は不必要であり削除されるべきものであること、のみならず、受託機関がその50%の保証債務を履行した場合、その範囲内で回収した金員はすべて受託機関に帰属させても然るべきところ、同条3項(回収金のあん分充当約款)が存することによつて、その半額を委託機関に回金しなければならず、その結果受託機関はさらにその分を貸付先から回収する必要があり、その繰り返しが受託機関にとつて煩瑣なばかりでなく、受託機関が完全な求償を得るためには貸付金債権の50%分の履行では足らず、その全額を履行せざるを得なくなる(そのため実務上は一挙に全額の履行をするのがむしろ通例である)こと、さらにまた同条2項において、貸付金が期日までに弁済されなかつたときも、受託機関に直ちに保証責任の履行を求めず、回収不能見込みが確定出来得る一定期間(一年)は受託機関をして回収に努力させ、そのうえで保証責任の履行を求めることにしていることなどに照らすと、契約書第八条1項は、同条2項・3項と結合することにより、貸付金の全額保証を前提としてその貸付金が回収不能になつたことを停止条件とする保証責任の一部免除(又は保証責任比率)を規定し、受託機関の保証責任を緩和したものとみるべきであるから、結局、第八条全体としては受託機関の全額保証を定めたものと解すべきである。もつとも、全額保証とはいえ、委託機関は受託機関に対し、50%の保証債務の履行しか請求できないものというべきであるから、残50%については自然債務的な保証債務とみるべきである。

3(被告の訴外谷川に対する代理貸付)

被告は公庫の代理業務として、昭和五〇年四月一九日、訴外谷川秀雄との間で、次のとおり金銭消費貸借契約を締結し、同訴外人に対し金二〇〇万円の代理貸付をした。

貸付金 二〇〇万円

利率 年9.4%

元利金支払方法 元本は、昭和五〇年五月から同五三年一月まで毎月末日限り一ケ月金六万円宛(但し初回は八万円)三三回に分割して支払う。利息は、昭和五〇年五月末日を初回として以後毎月末日限り支払う。

特約 本借入金を期限に弁済しなかつたときは、公庫から通知催告がなくても当然に期限の利益を失い、直ちに債務全額を弁済するものとする。

4(訴外谷川の被告への保証委託)

訴外谷川は前項消費貸借契約の締結に際し、その借入金につき被告に保証を委託し、被告はこれを承諾した。

5(訴外谷川の債務不履行と被告の事前求償権の取得)

(一)  訴外谷川は、前記分割弁済金のうち昭和五二年二月末日に支払うべき元本六万円及び利息五六三七円の支払を履行しなかつたため、同日の経過により期限の利益を失い、右借入金残元本七二万円及びこれに対する昭和五二年二月一日からの利息・損害金につき即時一括弁済をすべき義務を生じたので、被告は委託を受けた保証人として右債務につき事前求償権を取得した。

(二)  なお、被告は公庫に対し、本件差押後の昭和五二年八月一五日、訴外谷川の前記借入金債務七五万六七二三円(残元本七二万円、利息五六三七円、遅延損害金三万一〇八六円の合計金)を代位弁済した。

6(事前求償債権と被差押債権との相殺)

被告は原告及び訴外谷川に対し、昭和五三年二月九日付書面をもつて、前記事前求償債権を自働債権とし、原告の差押にかゝる別段預金等払戻請求債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をし、同書面はそのころ原告らに到達した。

よつて、本件差押にかゝる別段預金等払戻請求権は相殺により消滅した。〈以下、省略〉

理由

一請求原因について

1  〈証拠〉によれば、原告が訴外谷川に対し、昭和五二年六月二四日現在で原告主張の国税債権を有していたことを認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2  訴外谷川が被告に対し、昭和五二年六月二四日当時、金七四万一三五八円の預金債権を有していたこと、そして原告が被告に対し、昭和五二年六月二五日、前記国税債権を徴収するため、訴外谷川の被告に対する右預金債権を別段預金払戻請求権と表示し、これを被差押債権として原告主張の債権差押通知を送達したことは当事者間に争いがない。

3  しかし、被告は右差押当時訴外谷川が被告に対して有していた預金債権七四万一三五八円の内訳は、別段預金が四八万一三五八円、定期預金二口で一六万円、定期積金が一〇万円であつたとして、その全額が別段預金であるとする原告の主張を争うので検討するに、前記2の争いのない事実、〈証拠〉を総合すると、原告は本件差押に先立ち、被告金庫の東大津支店に赴き、訴外谷川が被告に対して有していた預金の種類及び額等を調査し、同支店長の回答に基づき、その全額を差押える趣旨で被差押債権を別段預金七四万一三五八円の払戻請求権と表示して本件差押通知書(乙第五号証)を発したこと、そして被告はこれに対し、被差押債権の表示ないしはその存在について特に疑義を申し出るでもなく、その存在を前提として、被告が訴外谷川に対して反対債権(事前求償債権)を有する旨を通告したり(乙第六号証)、あるいは原告との間でその事前求償債権による相殺の交渉などをしていること、そしてその結果、昭和五三年二月九日に至り原告宛に相殺の通知書(乙第九号証)を発送したが、その通知書にも受働債権として「谷川秀雄が当金庫に対して有する別段預金債権金七四万一三五八円」と表示されていることを認めることができ、これらの事実によれば、本件差押当時、訴外谷川が被告に対して有していた預金債権七四万一三五八円は全額別段預金債権であつたものと認めるのが相当である。

もつとも乙第二一号証には被告の主張に副う記載があるが、しかし同号証は別段預金明細として後日被告金庫の職員により作成されたもので、その裏付けとなる書証も提出されておらないのでにわかに措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二抗弁について

1  先ず、被告の訴外谷川に対する事前求償権の有無、その前提として被告の訴外国民金融公庫に対する保証債務の有無及び訴外谷川の被告に対する保証委託の有無などについて検討する。

(一)  被告が昭和四五年七月一日訴外国民金融公庫との間で、公庫が被告主張の業務を被告に委託する旨の代理業務契約を締結したこと、その際、同契約書第八条1項ないし3項に被告主張の文言により被告の保証責任等が定められていることについては、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  ところで、被告は、受託機関である被告の保証責任を定めた右契約書第八条1項は、2項・3項と結合することにより、貸付金の全額保証を前提としてその貸付金が回収不能になつたことを停止条件とする保証責任の一部免除(又は保証責任比率)を規定したものとみるべきであるから、第八条全体としては受託機関の全額保証(但し50%を超える分については自然債務的保証)を定めたものである旨主張する。

しかしながら、右第八条の規定は、その1項が受託機関である被告の貸付金に対する50%の保証責任を、2項がその保証責任の履行期と受託機関の貸付金に対する管理回収責任を、3項が貸付金債権の回収金及び求償権の行使に基づく弁済金のあん分充当規定を定めたものと解すべきであり、被告主張の解釈には到底左袒できない。

たしかに、受託機関の保証責任を貸付金の50%とした場合、受託機関がその範囲で保証債務を履行しその全額の求償を得ても、第八条3項(回収金等の充当規定)が存することによつてその半額を委託機関に回金しなければならないから、その分について満足を得るためにはさらに貸付残金を回収して充当する必要があり、そのために回収・充当・回金の手続を繰り返すことになりその煩雑さは否定できない。しかし回収・充当の手続を繰り返すのは、貸付先(主債務者)から一度に全額を回収できない限り全額保証の場合でもあり得ることであつて、ひとり一部保証の場合に特有のものではないし、また第八条3項も、受託機関が代位弁済した分について求償権を行使してその弁済を受けたのち、その全額を自己の求償債権に充当したまゝ貸付残金の回収を怠ることを防止し、かつ回収不能による損失を委託機関と受託機関とが平等に負担する趣旨で定められたものと解されるので、右規定そのものの存在には充分合理性があるものというべきであるから、これにより回収・充当・回金の手続が多少煩雑になつてもやむを得ないものというべく、従つて、仮に受託機関がその手続の煩雑さを回避するため貸付金全額について代位弁済するのが通例だとしても、そのことをもつて直ちに第八条が全額保証を定めたものと解することはできない。のみならず、もし、同条が被告主張の如く全額保証を定めたものであれば、その1項で「貸付金債権の50%について保証責任を負う」と規定する代りに全額保証を明示すべきであるのにこれをしていないこと、さらに国民金融公庫法及び代理業務契約書(乙第一号証)の全文を見ても全額保証を窺わせる条項は全く存しないばかりでなく、成立に争いのない乙第一二号証の一によれば、公庫と受託機関との間の代理業務取扱要領においても、その第八章第一節「保証責任」の項で、受託機関の50%保証を前提として受託業務の取扱要領が定められていることが認められ、これらの事実に照らすと、第八条が受託機関の全額保証を定めているとみることはもとより、その1項が保証責任の一部免除を定めた規定と解することも無理というべきである。

ところで国民金融公庫は、銀行その他一般の金融機関から資金の融資を受けることを困難とする国民大衆に対し、政府資金をもつて必要な事業資金の供給を行うことを目的として設立されたもの(国民金融公庫法第一条、第五条)であつて、その目的を遂行するために、貸付業務を全国の市中銀行等の金融機関に委託してするいわゆる代理貸付制度を採用(同法第四条)しているが、この制度は受託金融機関においても、委託手数料による収益があるほか、金融引締め時には自己の固有貸付に限度があるので、政府資金による代理貸付をもつて顧客の需要を満足させうるとともに、代理貸付によつて得た情報を自己の固有貸付にも利用しうる利点があるとされている一方、国民金融公庫にとつても市中銀行等を利用することによつて全国的にその貸付を広め利用者の便宜を図ることが可能となり、それによつて設立の目的を達成しうるという大きな利点を有するものであるから、委託機関と受託機関とはいわば持ちつ持たれつの関係にあり、貸付金についても受託機関に審査・決定の権限を与えている関係で、一部保証責任を負担させることはあつても受託機関が全面的・一方的にその危険ないし責任を負担する関係にはないものとみられること、それ故、受託機関の保証責任を定めた第八条は、その1項において、受託機関の保証責任を貸付債権の50%にとどめ、その2項で、受託機関に貸付金の管理回収の責任を負担させるものの、最終弁済期限が到来しても直ちに保証責任の履行を求めず、一年経過してなお主債務者から弁済のない場合にはじめて保証責任の履行を義務づけるなどして受託機関の保証責任を緩和し、さらに、その3項において、貸付金債権について回収した金員及び求償債権について弁済を受けた金員は、いずれも委託機関と受託機関とがそれぞれ折半して自己の債権に充当することとし、受託機関が代位弁済により求償権を行使して自己の債権に充当したまゝ貸付金残金の回収を怠ることを防止する一方、回収不能による損失を委託機関と受託機関とが平等に負担することとして政府関係金融機関の融資による代理業務の円滑化を図つていることは明らかである。

以上の次第であるから、結局委託機関である公庫は受託機関である被告に対し、貸付金債権につき50%の保証責任を求めるのみで、たとい自然債務的な意味においてもそれ以上の保証責任を求め、あるいは期待しているものとは解されないから、受託機関の保証責任を規定した代理業務契約書第八条は貸付金債権の50%保証を定めたものであつて、全額保証を定めたものではないものというべきである。

(三)  被告が公庫の代理業務として訴外谷川との間で、被告主張の金銭消費貸借契約を締結し、金二〇〇万円を代理貸付したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、訴外谷川は右消費貸借に際し、公庫と被告との間の代理業務契約書第八条に定める保証を被告に委託し被告がこれを承諾したことを認めることができるところ、右契約書第八条の保証は前記認定のとおり貸付金債権の50%の保証であるから、結局訴外谷川は被告に対し、公庫からの借受金の50%につき保証を委託し被告がこれを承諾したことになる。保証委託に関する被告の主張事実のうち右の限度を超える分についてはこれを認めるに足りる証拠はない。

(四)  訴外谷川が右借受金につき昭和五二年二月末日に支払うべき分割金の支払を怠り期限の利益を失つたこと及び同訴外人が当時の借受金残元本七二万円とこれに対する同月一日からの利息・損害金について即時一括弁済の義務を生じたことは当事者間に争いがなく、この事実と前記(一)ないし(三)の認定事実によれば、被告は委託を受けた保証人として右債務の50%について事前求償権を取得したものと認められるところ、被告が公庫に対し本件差押後の昭和五二年八月一五日に被告主張の金員を代位弁済したことは当事者間に争いがないから、被告の右事前求償権についての訴外谷川の担保供与並びに免責の抗弁権は同日限り消滅したものということができる。

2  次に相殺の意思表示及びその効果について検討する。

(一)  被告が昭和五三年二月九日付の書面をもつて、被告の訴外谷川に対する事前求償権を自働債権とし、原告の差押にかゝる別段預金等払戻請求債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をし、同書面がそのころ原告に到達したことは当事者間に争いがなく、また官署作成部分について成立に争いがなく、その余の部分について弁論の全趣旨により成立が認められる乙第二三号証によれば、同月一五日ごろ、同書面が訴外谷川に到達したことを認めることができる。

(二)  ところで、被告の右相殺の意思表示は、原告の本件差押の後であるが、その自働債権である事前求償権は差押後に取得したものではないから、それに附着する抗弁権が消滅し相殺適状に達したときは、差押当時に既に発生していた分に限り、これを相殺の用に供することができるものと解すべきである。

(三)  そうすると、本件差押当時の被告の事前求償債権は、前記1で認定した事実によれば、元本七二万円及びこれに対する昭和五二年二月一日から同月末日までの利息金五六三七円、同年三月一日から同年六月二五日まで年9.4%の割合による遅延損害金(遅延損害金についての約定の主張がないので利息と同率とする)二万一六九四円(円未満切捨)の合計七四万七三三一円の50%に当る三七万三六六五円(円未満切捨)となるから、右相殺の意思表示により右自働債権三七万三六六五円と差押時の受働債権七四万一三五八円とが対当額で消滅したことになり、被告の相殺の抗弁は右の限度で理由があるが、その余は理由がないことに帰する。

三結論

そうすると、本件差押にかゝる別段預金払戻請求債権はなお三六万七六九三円が残存することになるから、原告の本訴請求は右の金員とこれに対する差押による履行期限の翌日である昭和五二年七月九日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条但書、仮執行につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(隅田景一)

滞納国税目録〈省略〉

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