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京都地方裁判所 昭和53年(行ウ)5号 判決

京都市伏見区醍醐御陵東裏町三八番地

原告

出野武

訴訟代理人弁護士

岩佐英夫

京都市伏見区鍵屋町無番地

被告

伏見税務署長

池口忠夫

指定代理人検事

浦野正幸

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が、昭和五一年三月一二日付で原告に対してした原告の昭和四七年分ないし昭和四九年分(以下本件係争年分という)の所得税更正処分(以下本件処分という)のうち、総所得金額が、昭和四七年分は六四万八六八〇円、昭和四八年分は一〇七万九二二六円、昭和四九年分は一一〇万八一四九円をいずれも超える部分を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

(一)  原告は、文星堂という屋号で書籍、雑誌、文房具、及びたばこの卸や小売をしているものであり、その店舗の所在地、開店日、営業内容は、別表一記載のとおりである。

(二)  原告の本件係争年分の所得税の各確定申告から国税不服審判所長の裁決までの経過とその内容は、別表二記載のとおりである。

(三)  しかし、本件処分は、次の二点で違法である。

(手続上の違法)

税法は、申告納税制度を根幹としているから、税務署長の処分による税額の確定は、例外的な場合に限られるべきである。そして、課税は、実額によるべく、推計課税は、例外でなければならない。したがって、推計課税は、納税者が適法な税務調査に合理的な理由もなく協力しないため実額により課税標準及び税額等を把握しえないという厳格な要件が必要である。ところが、本件では、その要件を欠いているから、本件処分は、この点で違法である。

次に、質問検査権の行使には、次の要件が必要であり、この要件の一つでも欠くと違法である。本件では、そのすべての要件が欠如している。

(1) 被調査者に対し、調査の必要性、合理性さらに調査の対象、範囲を明示する必要がある。

(2) 被調査者の営業活動の停滞、得意先や銀行等の信用失墜その他私生活上の平穏の著しい妨害を生じないようにする必要がある。

(3) 立入りに当たり、被調査者の同意が必要である。

(4) 税務調査に際し、納税者の営業と生活を尊重するため、事前に通知することが必要である。

(5) 反面調査は、納税者の調査の裏付けのためであるから、納税者に対し直接調査をした後に、納税者の承諾、同意を得てすることが必要である。

(実体上の違法)

被告は、原告の本件係争年分の事業所得を過大に認定した点で違法である。

(四)結論

原告は、被告に対し、本件処分のうち、請求の趣旨第一項記載の各金額を超える部分を取り消すよう求める。

二  被告の答弁

(一)  本件請求の原因事実中(一)の事実は、認める。ただし、山科店の開店日は、不知。

(二)  同(二)の事実は、認める。

(三)  同(三)の主張は、争う。

三  被告の主張

(一)  推計課税の必要性について

(1) 被告の部下職員は、昭和五〇年五月二六日、小栗栖店に赴き、原告本人に面接して来意を告げて事業内容について質問をした。しかし、原告は、店舗の所在地、開店日、確定申告書の提出先、取引銀行名、雇人数、妻の専従状況などについて簡単に応答したほか、「営業は書籍販売が主体であり、書籍の仕入先は、訴外株式会社大阪屋(以下大阪屋という)だけである」「帳簿はない」と申し述べ、雑誌を配達するところであり、組合の会合にも出るからといったので、部下職員は、次回調査の際、取引に関する伝票書類等原始記録を提示するよう依頼した。

(2) 部下職員は、同月三〇日以降も原告方に調査に赴いたが、その都度多数の民主商工会事務局員らが介入し、原告は、「店舗内の調査は、客の邪魔になる。その他の部屋も従業員の休養等に影響するから、小栗栖店の向いのショッピングセンター二階集会場で民主商工会事務局員立会のうえなら話し合うが、それ以外では話し合う気はない」と申し立てた。

(3) 部下職員は、同年六月五日、同月一一日、同年七月七日、同年九月一〇日、同年一〇月一四日、同月二九日、同年一一月二一日、同月二七日、同年一二月三日、小栗栖店に調査に行ったが、原告は、道路上で応待し、「今から雑誌の配達に回るところだから忙しい」「月、水、金は忙しい」「月末は忙しいから帰って呉れ」「今日は忙しい。一一月か一二月に話をするから連絡を待て」などと申し立て、部下職員が、本件係争年分の原始記録の提示を求めても応せず、事業所得金額の計算に関する具体的、計数的な説明を求めても仕事の多忙を理由に全く非協力的態度をとった。

(4) 原告は、仕入先に対し、「税務署から調査に来ても絶対に取引内容をいうな」「税務署に取引額をいうな。もし、税務署に協力したら、京都の同業者にお前の店と取引しないようにいいふらす」「税務署に取引金額の回答をしたら、今後取引をしないし、買掛金の支払をしない」などと申し向けて圧力をかけ、被告の反面調査の妨害までした。

(5) 部下職員は、同年一二月三日の調査の際、原告に対し伏見税務署への出頭を求めたのに対し、原告は、「忙しいのに税務署なんか行けるか。集会所で話合いができないのやったら、話し合うことはない。更正するなら勝手にせい」と申し立てた。

(6) このように、原告は、原始記録を一切提示せず、取引に関する具体的、計数的説明をしなかったから、被告は、仕方なく推計課税をした。したがって、この推計課税には、原告が主張するような手続的違法はない。

(二)  同業者率について

被告は、原告の本件係争年分の総所得金額を算出するに当たり、原告と同種の事業を営む納税者(以下本件同業者という)の昭和四七年分ないし昭和四九年分の差益率、一般経費率、雇人費率の平均値(以下同業者率と総称する)を適用して推計したが、本件同業者は、基礎資料が正確で、原告と業態及び事業規模が類似している。

その選定基準は、次のとおりである。

(ア) 原告と同じ京都市内に事業所があること

(イ) 原告と同種の事業(但し、たばこ販売分をのぞく)を営むこと

(ウ) 本件係争年分を通じて事業を継続していること

(エ) 本件係争年分の所得税について、青色申告書を提出していること

(オ) 月賦販売、訪問販売などの特殊な販売形態をとっていないこと

(カ) 特殊商品(書籍雑誌小売業は、学校教科書、学術専門書、美術印刷書等、文房具小売業は、パン、たばこ、名刺((印刷業者に下請外注)等をいう))の販売を主とする業者でないこと

(キ) 他の業種目を兼業していないこと

(ク) 本件係争年分の所得税について、不服申立て又は訴訟係属中でないこと

(ケ) 昭和四九年分の売上原価が、原告の売上原価(書籍雑誌の小売業は四五八六万七八八四円、文房具の小売業は二六三万二二八七円の年換算額三九四万八四三〇円-被告当初主張額)を中心としてその上限及び下限三〇パーセントの範囲内にあること

この選定基準に従って書籍雑誌の同業者を別表三の二のとおり一四名、文房具の同業者を別表三の三のとおり九名選び出し、その同業者率を計算したところ、別表三の一の率がえられた。以下この同業者率によって推計することにする。

(2) 本件係争年分の事業所得について

(主位的主張)

昭和四七年分 一八二万六四八九円

昭和四八年分 二六九万三四七七円

昭和四九年分 三八七万二四四六円

その詳細は、別表四の一記載のとおりであるが、以下に詳述する。

〈1〉 売上原価

別表四の二記載のとおりである。

昭和四九年分の書籍雑誌には、期末棚卸高三八九万二三五一円があるので、仕入金額四四〇三万八六八〇円からこれを控除して売上原価を算出する。

昭和四九年分の文房具には、期末棚卸高一六〇万一八二四円があるので、仕入金額四四七万四二八一円からこれを控除して売上原価を算出する。

昭和四九年分のたばこには、期末棚卸高八六万二一〇〇円があるので、仕入金額二五八万六三〇〇円からこれを控除して売上原価を算出する。たばこは、仕入金額、棚卸高及び売上原価をいずれも小売定価によって計算したから、売上原価が売上金額になる。

昭和四七年分及び昭和四八年分の書籍雑誌、文房具の各棚卸高は、営業状況に特段の変化が認められないから、各年分の期首、期末の棚卸高に大差がないものと認める。

〈2〉 売上金額

売上金額の算出には、本件同業者の差益率を適用したが、これは、別表三の一記載の本件同業者の差益率である。そして、その計算方法は、別表四の四記載のとおりである。

〈3〉 一般経費

一般経費の算出には、本件同業者の一般経費率(別表三の一)を適用したが、その計算方法は、別表四の四記載のとおりである。

〈4〉 特別経費

雇人費の算出には、本件同業者の雇人費率(別表三の一)を適用したが、その計算方法は、別表四の四記載のとおりである。

利子割引料は、原告が、株式会社伏見信用金庫六地蔵支店からの借入金に対する利息を、同金庫の原告名義の普通預金と当座預金とから振替によって支払った金額である。

地代、家賃は、原告が、昭和四九年五月以降賃借した山科店の家賃二六万四〇〇〇円及び同年一一月七日以降賃借した小栗栖店の家賃一七万六〇四〇円の合計四四万〇〇四〇円である。

建物減価償却費の詳細は、別表四の五記載のとおりである。

繰延資産償却費は、原告が、山科店を昭和四九年五月賃借するとき支払った保証金一八〇万円のうち立退き(解約)に際し返還されない部分五四万円(保証金の三割)とダイゴショッピングセンター商人会に支払われた加入金一〇万円の償却費で、昭和四九年分は、八万五三三六円になる。

64万円÷60か月×8か月(49.5~12)=85.336円

〈5〉 たばこの販売所得

原告が、昭和四九年中に日本専売公社から購入した「たばこ」二五八万六三〇〇円から期末棚卸高八六万二一〇〇円を控除した一七二万四二〇〇円に、同業者所得率七パーセント(別表三の一)を適用して算出すると、一二万〇六九四円になる。

〈7〉 事業専従者控除額

原告が、本件係争年分の所得税確定申告書に記載した原告の妻(昭和四九年分)及び母に関する事業専従者控除額である。

(予備的主張)

昭和四七年分 一六一万七七二四円

昭和四八年分 二七七万〇五一八円

昭和四九年分 三八三万九四〇五円

なお、予備的主張は、原告の卸売を、原告の主張する甲第六七号証の一ないし一二のノートのとおり認め、本件同業者の差益率にかえて、問屋が仕切書で小売店に示している小売価格と卸値によって計算した差益率(以下仕切差益率という)によって書籍雑誌の所得金額を計算して主張するもので、文房具、たばこに関する従前の主張は、そのまま維持する。

その詳細は、別表五の一記載のとおりであるが、以下に詳述する。

〈1〉 売上原価 〈2〉 売上金額

(a) 仕切差益率について

大阪屋が、昭和五三年中に原告に対して発行した仕切書(納品書)を調査して仕切差益率を計算すると、書籍の小売販売が二二・七一パーセント(一〇%-仕切原価率)であり、雑誌のそれが二三・三〇パーセントである(乙第五九号証)。昭和五三年分の原価率と本件係争年分のそれとには大差がない以上、この仕切差益率には、合理性がある。

また、原告は、雑誌の卸売について、トモエに一三パーセント、その他に一〇パーセントの各手数料を支払っていたから、この分を、控除して計算する。

(b) 仕入金額の区分

仕入金額の区分は、別表四の三の〈1〉記載のとおりである。

〈省略〉

(c) 昭和四九年分の売上原価

昭和四九年分期末棚卸高は、三八九万二三五一円である。すなわち、

原告は、昭和四九年一一月七日、小栗栖店を開店したが、仕入れた中から売り上げたのは、一四〇万円位であることからすると、次の算式どおり、期末には、三八九万二三五一円の在庫があることになる。

算式

送品返品

5.499.640円-207.289円-1.400.000円=3.892.351円

そこで、この額を、書籍と雑誌との割合七対三によって区分する。

雑誌の期末棚卸高 一一六万七七〇五円

書籍の期末棚卸高 二七二万四六四六円

そうして、書籍の売上原価を計算すると、別表五の二の〈19〉九四八万六八三五円(〈17〉一二二一万一四八一円((仕入金額))-〈18〉二七二万四六四六円((期末棚卸高)))になる。

次に雑誌の売上原価を、右と同様に計算すると、〈3〉三〇六五万九四九四円になる。

次にこの額を、販売形態別に区分すると、次のとおりになる。

〈省略〉

卸売の販売形態による計算方法は、次のとおりである。

卸売分売上金額二四六四万五三三三円(甲第六七号証によって算出した一一か月分の売上金額二二五九万一五五五円に一一分の一二を掛けて算出)を、一三パーセント支払分と一〇パーセント支払分に区分すると、次のとおりになる。

一三パーセント支払マージン分

一五六万一〇九三円

(甲67号証 〈省略〉

一〇パーセント支払マージン分

二三〇八万四二四〇円

(24.645.333円-1.561.093円)

これらによって、卸売分小売定価を算出すると、次のとおりになる。

一三パーセント支払マージン分

一七九万四三五九円

算式

1.561.093円÷(100%-13%)=1.794.359円

一〇パーセント支払マージン分

二五六四万九一五五円

算式

23.084.240円÷(100%-10%)=25.649.155円

更に、これらによって、卸売分売上原価を算出すると、次のとおりになる。

一三パーセント支払マージン分

一三七万六二七三円(〈11〉)

算式

1.794.359円×仕切原価率(乙59号証)76.70%=1.376.273円

一〇パーセント支払マージン分

一九六七万二九〇一円(〈12〉)

算式

25.649.155円×仕切原価率76.70%=19.672.901円

卸売分売上原価合計

二一〇四万九一七四円

(〈11〉+〈12〉)

そうして、小売販売分売上原価は、〈14〉九六一万〇三二〇円になる。

算式

30.659.494円-21.049.174円=9.610.320円

(d) 昭和四七年分、昭和四八年分の売上原価

昭和四九年分の前述した雑誌の売上原価構成割合を適用して計算すると、昭和四七年分、昭和四八年分の書籍雑誌の売上原価は、次のとおりになる。

〈省略〉

(e) 万引による損害

次に、書籍雑誌の小売について、万引による損失額を、売上金額の二パーセントとして、控除することにする(〈20〉)

昭和四七年分 一九万九〇六四円

昭和四八年分 三五万八〇四三円

昭和四九年分 四九万六〇八二円

算式

(雑誌小売の売上金額〈13〉+書籍小売の売上金額〈16〉)×2.0%=万引額(〈20〉)

昭和47年分(6.577.466+3.375.693)×2.0=199.064円

昭和48年分(8.634.670+9.267.455)×2.0=358.043

昭和49年分(12.529.752+12.274.336)×2.0=496.082

(f) 報奨歩引

大阪屋は、原告に対し、報奨歩引をしたが、その額は、次のとおりである。そうして、これを雑収入として加算することとする。(別表五の三の〈3〉)。

昭和四七年分 八万三九七〇円

昭和四八年分 八万五一三〇円

昭和四九年分 七万五九二〇円

(g) 期限切れ、破損等による返本不能

原告は、卸売の場合、期限切れ、破損等による返本不能が、小売より多くなるというが、返本不能期間は、週刊誌で四五日間、月刊誌で六〇日間、書籍で四か月間も認められているから、期限切れによる返本不能は認められない。破損による返本は、返本不能期間内は現物を取りかえる制度になっているから、これも認めることができない。

(h) まとめ

原告の本件係争年分の書籍雑誌の売上原価(〈24〉)、売上金額(〈21〉)は、別表五の二記載のとおりである(別表五の三の〈1〉、〈2〉)。

(i) 文房具の売上原価及び売上金額

原告の本件係争年分の文房具の売上原価、売上金額は、別表五の三記載の〈4〉、〈6〉のとおりであり、これは、別表四の四記載の〈4〉、〈6〉と同じである。

(j) 原告の書籍雑誌と文房具の売上金額

原告の本件係争年分の書籍雑誌の売上金額と文房具の売上金額との合計額は、次のとおりである(別表五の一の〈2〉)。

昭和四七年分 二三二〇万九七九九円

昭和四八年分 三五四六万七九六八円

昭和四九年分 五二八八万七四九五円

〈3〉 一般経費

書籍雑誌の一般経費(〈9〉)、文房具の一般経費〈11〉は、別表五の三記載のとおりであり、その合計は、次のとおりである(別表五の一の〈3〉)。なお、一般経費率は、別表三の一記載の一般経費率を適用した。

昭和四七年分 一一四万六二三一円

昭和四八年分 一七三万二四〇二円

昭和四九年分 二五四万〇二八〇円

〈4〉 特別経費

特別経費中、雇人費は、別表五の三記載の雇人費欄のとおりである。なお、雇人費率は、別表三の一記載の雇人費率を適用した。

特別経費中、利子割引料、地代家賃、建物減価償却費、繰延資産償却費は、すべて、別表四の一と同じである。

〈5〉 たばこの販売所得 〈7〉 事業専従者控除額

これも、別表四の一のそれらと同じである。

(三)  まとめ

原告の本件係争年分の事業所得金額は、次のとおりであるから、この範囲内である本件処分は、正当であり、取消されるべき瑕疵はない。

〈省略〉

四  被告の主張に対する原告の反論

(認否)

(一) 主張(一)は、争う。

(二) 主張(二)の(1)の同業者率を争う。

(三) 主張(二)の(2)について、別表四、五の各一の〈4〉の〈ハ〉及び〈7〉を認めその余は、全部争う。

(反論)

(一) 税務調査の違法性について

被告は、原告が民主商工会の会員であることを理由に税務調査をしたもので、調査の具体的必要性は何もなかった。

被告の調査は、恣意的、推量的に行なわれた。

原告は、納得のいく理由を示してくれたら調査に応じる態度をとっていたが、被告の部下職員は、真摯にこれに答えず、原告の連日の多忙に理解を示さず、突然調査に来店した。しかも、原告が最も多忙な月水金で、且つ、午後一時から午後三時までの時間帯を狙いうちしたかのように事前連絡なしに来店して調査をしようとした。

被告の部下職員は、調査の必要性について、一度も説明したことがなかった。

原告は多忙な中で事前に連絡をとり、昭和五〇年六月一一日、ショッピングセンター二階の集会室で待っていたが、部下職員は、そこでは話ができないとして数分間で帰ってしまった。

原告と部下職員は、同年七月七日、小栗栖店の二階で話合いをしたが、部下職員は、調査の理由を示さず、税務署のまいた民商誹謗のビラについて説明をしなかった。

原告は、同年一一月一九日、小栗栖店からわずか三〇メートルしか離れていない団地集会所を指定して連絡したが、部下職員は、当日小栗栖店に来て原告の不在を理由に帰ってしまった。

このように、部下職員は、原告の都合を全く無視し、事前連絡もなしに来店し、調査の具体的理由を示さず、原告の営業の妨害をし、一方的に反面調査をしたのであるから、この調査が、違法であることは明白である。

(二) 推計の合理性について

被告主張の同業者の住所、氏名が明らかでない限り、同業者率の正当性、類似性の判断ができない。

被告は、所得税法二四三条の守秘業務を楯にして同業者の住所、氏名を明らかにしないが、これは、単なる口実にすぎない。このような被告の取扱いは、訴訟における当事者の武器平等の原則にもとるといえる。

また、被告は、本件同業者の単なる算術的平均によって同業者率を算出し、これによって推計しているが、各同業者のばらつきを無視するもので、推計に合理性がない。

(三) 原告の営業の特殊性について

(1) 原告の営業形態は、一般の小売業者と異なり、卸売が、書籍雑誌全体の売上に占める割合が大きい。その割合は、昭和四七年分、昭和四八年分が約三分の二、昭和四九年分が約二分の一である。

(2) 卸売の場合、卸売先に一〇ないし一三パーセントの手数料を支払う必要がある。

原告の提出した甲第六七号証の一ないし一二のノートは、正確に記帳されているから、これらを集計すると、原告の昭和四九年分の卸売に関する売上が判明する。

(3) 原告は、昭和四九年中に山科店、小栗栖店を開店したから、その期末棚卸高を仕入金額から控除しないと、昭和四九年分の売上金額が不正確になる。

(4) これらのことが、一切考慮されていない、主位的主張は、失当である。

(四) 原告の立地条件の特殊性について

原告の店舗は、伏見区醍醐地区、山科区にあり、交通の便が悪く、本件同業者と比較し立地条件が悪いから客が少なく、卸売に頼らざるをえないのである。このことは、売上低下、経費増に連がる。

(五) 昭和四九年六月以前の文房具の仕入について

乙第四八号証の内容は、殆んどが封筒、ノート、のし紙等である。これらは、原告の店舗の事務用品であって商品として販売したものではない。

(六) 仕切差益率について

被告の主張する仕切差益率は、昭和五三年の資料であり、本件係争年分のものではない。本件係争年分の仕切差益率は、二〇パーセント位である(甲第八四号証参照)。

(七) 原告の雇人費について

(1) 原告は、昭和四七、四八年には三名位、昭和四九年には六、七名の従業員を雇傭した。したがって、雇人費は、甲第八五号証の給与支払明細一覧表によるべきである。

(2) 原告は、昭和四六年一二月二三日、交通事故を起した関係で、昭和四七年一月から一二月まで、訴外出野清、同山本恵三を臨時に雇傭した。したがって、これらの者に支払った賃金も、加算されなければならない。

(八) 繰延資産償却費について

原告は、昭和四八年二月二六日、伏見信用金庫六地蔵支店から四〇〇万円の融資を受け、同月、三八五万円で醍醐店を改装し、昭和四九年五月、五五万円で山科店を改装した。したがって、これらは、繰延資産償却費に計上すべきである。

五  被告の反駁

(一)  原告の反論(一)は、争う。

(二)  同(二)について

被告は、本件同業者の住所、氏名を明らかにすることが、所得税法二四三条によって禁じられているし、その必要性はない。原告としては、自らの営業の帳簿を提出して容易に反証が挙げられるのである。したがって、被告が、本件同業者の住所、氏名を明らかにしないからといって、直ちに推計の合理性を欠くことにはならない。

(三)  同(三)は、被告の予備的主張に取り入れて主張している。

(四)  同(四)ないし(六)は、争う。

(五)  同(七)について

原告主張の交通事故は、原告とその妻訴外出野平恵とともに親族の法要に行くため運転中、通行人二名を死亡させたもので、原告の事業とは、無関係である。したがって、原告主張の雇人費が、事業所得金額計算上必要経費に該当しないし、右交通事故により、原告の売上への影響が、計算上明確でないから、考慮できない。

(六)  同(八)について

原告主張の改装費が支出されたのであれば、改装資金の借入先、借入年月日、借入金額、借入金の使途、改装費の支払額、改装工事の請負先等の明細を明らかにすべきである。

原告提出の甲第八〇号証では、山科店の店舗改装費、陳列ケース及び陳列台の合計五五万円であることが判るが、店舗改装費がいくらであったのかの記載がない。

なお、陳列ケース、陳列台は、什器、備品に属し、この減価償却費は、一般経費であって特別経費ではない。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  原告が、文星堂という屋号で書籍、雑誌、文房具及びたばこの卸、小売をしており、その店舗の所在地、開店日、営業内容が、別表一記載のとおりであること(但し、山科店の開店日をのぞく)、原告の本件係争年分の所得税の各確定申告から国税不服審判所長裁決までの経過とその内容が、別表二記載のとおりであること、以上のことは、当事者間に争いがない。

二  原告主張の手続上の違法について

(一)  税務職員の行う所得税法二三四条の質問検査権は、犯罪捜査のためではなく、被調査者の任意の協力を前提としているとはいえ、その非協力に対し同法二四二条九号によって罰則(一年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金)が、用意されている。したがって、被調査者には、税務職員のこの質問検査には応ずる義務があるのである。そうして、税法は、税務職員がこの質問検査権を行使する際、被調査者に対し事前に調査期日を通知すべきこと、調査の理由を示すべきこと、被調査者の承諾なく反面調査をしてはならないこと、以上のことを明定していないのである。したがって、税務職員が、この質問検査権を、何時どのような方法で行使するかは、当該税務職員の裁量に任されているとしなければならない。しかし、この裁量権の行使が、その範囲を逸脱したり濫用にわたるときは、税務職員の質問検査権の行使が違法となることは、法の一般原則に照らして明らかである。このような場合として、被調査者の営業を妨害したり、その名誉や信用が著しく毀捐されたことを挙げることができる。そうして、税務職員の質問検査権の行使のこのような違法は、これに基づく課税処分をも違法ならしめると解するのが相当である(最決昭和四八年七月一〇日刑集二七巻七号一二〇五頁参照)。

(二)  そこで、この視点に立って、被告の部下職員のした原告に対する質問検査権の行使に、裁量権の逸脱や濫用があったかどうかについて判断する。

成立に争いがない甲第一号証、同第六八号証、証人志原敏照の証言によって成立が認められる同第六九号証や原告本人尋問の結果(第一回)によって成立が認められる同第七〇号証の各記載の一部、証人石崎末夫、同志原敏照の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回)のそれぞれ一部を総合すると、次のことが認められ、この認定に反する証人石崎末夫、同志原敏照の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回)のそれぞれ一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

(1)  被告の部下職員である伏見税務署所得税資産部門所属大蔵事務官訴外石崎末夫(昭和二二年一〇月一五日採用)は、昭和五〇年五月上旬ころ、上司からの指示で、原告の醍醐店の事前概況調査をし、書面で報告したが、石崎末夫は、同書面に、店舗の構えからすると、原告の事業所得の申告が低いと思われると記載した。これをみた上司は、原告に対する調査に入るよう指示した。

(2)  石崎末夫は、同月二六日、小栗栖店の裏口で原告と出会い、原告に種々質問したところ、原告は、店の所在地、開店日、確定申告書の提出先、仕入先、取引銀行、使用人の数、専従者の有無などについて素直に答えた。そして、原告は、雑誌の配達に行くからこれ位にして欲しいと申し述べたため、石崎末夫は、調査を打ち切り、次には、帳簿、メモ、伝票などあるものを用意して呉れと依頼して別れた。

(3)  石崎末夫は、同月三〇日、小栗栖店に行ったが、原告は、「今日は忙しい。月末は忙しいから来月に来て欲しい。六月四日までに電話をするから」といって調査に応じなかった。そうこうしている中に、民主商工会の事務局員や会員が六名位つめかけたため、石崎末夫は、調査をあきらめて帰庁した。

(4)  民主商工会の事務局員であった訴外志原敏照は、石崎末夫に対し、原告が、同年六月一一日午後一時三〇分から、ショッピングセンター二階会議室で会うと電話してきた。

石崎末夫は、同日そこに行ったところ、原告、民主商工会の会員や事務局員がいたので、「ここではかなわん」といって辞去してしまった。

(5)  そこで、志原敏照は、再び原告が、同年七月七日、小栗栖店で会うと、石崎末夫に電話した。

石崎末夫は、同日そこに行ったところ、原告、民主商工会の会員や事務局員が、税務署が新聞折込みで各戸に配付したビラ(甲第六八号証参照)が、民商を誹謗するものであると追及した。この日は、調査に入ることができなかった。

(6)  石崎末夫は、このときから同年一二月ころまでの間約一〇回位小栗栖店に臨場したが、原告の態度は、石崎末夫が原告を調査する正当な理由を開陳しない限り、調査には応じられないとの態度に終始し、石崎末夫が、帳簿をみせて欲しいと要求しても峻拒した。なお、石崎末夫は、調査をするについて、予め調査期日を指定して了解をとる必要はないと考えていた。

(7)  石崎末夫は、同年八月一〇日ころ、小栗栖店に臨場したが、原告は、不在であった。石崎末夫は、店内の現金出納機の前に立って長時間にわたって売上額やレシートを調査したり、立読みをした。そこで、店員が、帰って呉れるよう要求したが、石崎末夫は、立読みをするのは勝手だといって直ちに帰ろうとしなかった。

(8)  石崎末夫は、同年九月八日、小栗栖店で原告に会い、原告に対し、「民商に会員として加入しているが、調査は君の調査だから、民商に関係がない。売上げとかを聞かして呉れ」と話した。原告は、この発言を、原告の民商からの退会をすすめたものと受け取った。そして、原告は、石崎末夫に対し、月水金は配達で忙しいから帰って呉れと要求して話合いを打ち切った。

(9)  原告は、同年一〇月二二日、市政協力委員と国勢調査の用事をするため、小栗栖店を出ようとしたとき、石崎末夫が来たので、すぐ帰えるから待ってて呉れといったが、石崎末夫は、原告のあとからついてきて、帳簿をみせるよう求めた。原告は、石崎末夫がこのように後からついてまで来たことに憤りをおぼえ、用事の途中で切り上げて店に帰った。そうして、原告は、「国勢調査の邪魔をするとは、ひどい人だ」と難詰したところ、石崎末夫は、帰って行った。

(10)  志原敏照は、原告が、同年一一月一九日午後一時三〇分、公団小栗栖団地の集会室で会う旨を石崎末夫に連絡した。

石崎末夫は、同日、指定された場所に行くのを嫌い、小栗栖店に行き、「ご主人が留守ですので」というメモを残して帰庁した。

(三)  以上認定の事実によると、原告は、石崎末夫が、原告に対し調査をする正当な理由を開陳しない限り調査に応じない態度に終始し、自らの指定した時には、調査に民主商工会の会員や事務局員を立ち合わそうとし、税務署の配布したビラに抗議をしたりしたのであるから、石崎末夫が、原告にだけ出会って調査をするため、予め時間を定めないで原告の店に臨場したことは、税務署員としてやむをえない措置といえる。

もっとも、八月一〇日の調査では、石崎末夫が原告の店の現金出納機の前に立って長時間にわたり売上額やレシートを調査した点で、一〇月二二日の調査では、石崎末夫が原告の後からつきまとった点で行過ぎがあったといえる。しかし、前者は、原告が調査に非協力であったため、原告の店の売上の状態を実地に調べる一方法としてやむをえずとられた処置であるとみられるし、原告は、石崎末夫の右行為によって、どのような営業上の不利益を被ったかを具体的に主張していない。また、後者は、それまでの原告に対する調査の経過に照らし、石崎末夫の質問検査権の行使に、裁量権の逸脱や濫用があったとまですることは、無理である。

(四)  まとめ

このようにみてくると、被告の調査には、原告らが主張するような違法の点はないから、被告が、原告に対する任意調査を打ち切り、反面調査のうえ推計課税の方法をとったことは、被告としてやむを得ない措置として是認されるのであって、本件処分には、原告主張の手続上の違法はないとしなければならない。

三  原告の本件係争年分の事業所得について

(一)  原告の本件係争年分の事業所得を認定するについて、その実額を把握するための帳簿や原始資料がない以上、反面調査によって得られた資料をもとに、同業者率を適用して推計するしかないわけであるが、原告は、甲第六七号証の一ないし一二のノートを提出したので、これをもとに、被告は、原告の書籍雑誌の売上金額を予備的に主張している。

そこで、当裁判所は、予備的主張についてまず判断を進める。そうすることが、原告の利益にもなり、原告の営業の実体にも合致するのである。そうして、予備的主張について判断することは、弁論主義に反しない。その理由は、被告の主位的主張も予備的主張も、本件処分の正当性を主張するためになされたものであり、被告には、主位的主張と予備的主張の順位を固執する意思があるとは認められないからである。

(二)  同業者率について

(1)  証人中村武雄の証言によって成立が認められる乙第一ないし第一四号証、証人清水利晃の証言によって成立が認められる同第四四、四五号証、証人中村武雄、同松岡秀映、同清水利晃の各証言によると、京都市内の書籍雑誌の小売業者、文房具の小売業者、たばこの小売業者について、被告主張の要件のもとに同業者を選出し、これを整理したものが、別表三の二、三の三であり、これを算術平均して得られた同業者率が、別表三の一である。なお、たばこの小売については、同業者の所得率が算出されている。

そうして、この同業者率や所得率が、不合理であることが認められる証拠はない。

(2)  原告は、本件同業者の住所、氏名が明らかでないから、原告との営業の類似性が判らないと主張しているが、原告としては、自己の営業と比較して同業者率が不合理であると判断するのであれば、その不合理であることの理由を挙げて立証し、必要ならば自己の実額を主張してその裏付けとなる帳簿書類を提出することができるのであるから、被告としては、被告に課せられた守秘義務(所得税法二四三条)との関係上、本件同業者の氏名、住所を明らかにする必要は全くないとしなければならない。

原告は、訴訟における武器平等の原則を云々するが、原告の営業内容を一番正確に知っているのは、原告自身であること、推計課税は、仕方なくとられる一方便にすぎないこと、以上の点を考えたとき、被告にだけ本件同業者の氏名、住所を明らかにすることを要求するのは、妥当性を欠くとしなければならない。

原告は、本件同業者には、ばらつきがあるから、これを算術平均しても、原告の営業と類似性を欠くと主張しているが、本件同業者は、京都市内の書籍雑誌小売業者一四名、文房具小売業者九名を一定の要件のもとに選び出したものであるから、これには、合理性があるとしなければならないし、原告のいうばらつきは、これらの算術平均によってより稀薄化されるのである。

(3)  まとめ

当裁判所は、別表三の一の同業者率、所得率によって、以下の推計を行うこととする。

(三)  本件係争年分の仕入金額、期末棚卸高について

(1)  仕入金額

(ア) 書籍雑誌の仕入金額が、別表六の一、六の二記載の金額であることは、同表掲記の各証拠によって認められ、この認定に反する証拠はない。なお、これらの書証は、いずれも大阪屋が作成した伝票類や回答であるから、真正に作成されたものと認める。

(イ) 文房具の仕入金額が、別表六の三記載の金額であることは、同表掲記の各証拠によって認められ、この認定に反する証拠はない。これらの書証は、税務署の照会に対する回答であるから、真正に作成されたものと認める。

なお、原告は、乙第四八号証の内容が販売目的の仕入ではないと主張し、原告本人尋問の結果(第一回)中には、これにそう供述部分があるが、同号証の内容中には、音楽帳、給与明細書、方眼紙及び家賃帳などの記載がある点からして、原告が主張するような原告店舗の事務用品とすることは無理である。

(ウ) たばこの仕入金額

日本専売公社が作成したことから成立が認められる乙第二一号証によると、原告は、昭和四九年一〇月以降同年中に二五八万六三〇〇円分のたばこを仕入れたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(2)  期末棚卸高

(ア) 書籍雑誌、文房具の期末棚卸高

原告は、昭和四七年分、昭和四八年分について、特に期首、期末の棚卸高が異なることを主張、立証しないから、期首、期末の棚卸高が同額であると推定して以下計算する。

(イ) 昭和四九年分の書籍雑誌

醍醐店の期首、期末の棚卸高は、前項同様に同額であると推定される。

昭和四九年一一月七日開店の小栗栖店の棚卸高は、次のとおり推定される。

(a) 書籍

〈1〉 一二月最終送品二五四万一七三三円(注文一〇八万六四一九円+予約新刊一一六万九四一三円+延払商品二八万五九〇一円-前掲乙第六〇号証の三)

〈2〉 一二月返品一万二七九〇円(同号証)

〈3〉 返り品明細一万三二六〇円(別表六の二の12月の欄参照)

〈4〉 差引仕入 二五四万二二〇三円(〈1〉-〈2〉+〈3〉)

(b) 雑誌

〈1〉 一二月最終送品二九五万七九〇七円(乙第六〇号証の三)

〈2〉 一二月返品二〇万七二八九円(同号証)

〈3〉 返り品明細一二〇円

〈4〉 差引仕入 二七五万〇七三八円(〈1〉-〈2〉+〈3〉)

(c) 一二月中の売上高

原告本人尋問の結果(第一回)によって小栗栖店の売上高は、一四〇万円であることが認められる。

(d) 期末棚卸高

五二九万二九四一円(仕入合計)-一四〇万円(売上高)=三八九万二九四一円

大阪屋が作成した回答であるから成立が認められる乙第五九号証によると、期末棚卸に雑誌が占める割合が三〇パーセントであることが認められるので、三八九万二九四一円の、書籍と雑誌との占める割合は、次のとおりである。

書籍 二七二万五〇五九円

雑誌 一一六万七八八二円

(ウ) 昭和四九年分の文房具(別表六の三参照)

(a) 一月から四月までの仕入額三六万二二六四円

平均一か月九万〇五六六円

(b) 山科店増加額

四九万五九三七円(五月仕入五八万六五〇三円-九万〇五六六円)+四五万〇七六三円(六月仕入五四万一三二九円-九万〇五六六円)=九四万六七〇〇円

(c) 七月から一〇月までの仕入額一四七万九四〇二円

一か月平均三六万九八五〇円

(d) 小栗栖店増加額

一〇二万四九七〇円(一一月仕入)-三六万九八五〇円=六五万五一二〇円

(e) 期末棚卸高

山科店 一九四万六七〇〇円

九四万六七〇〇円+一〇〇万円(文進堂からの引継商品の在庫高。原告本人尋問の結果(第一回)によって認める。)

小栗栖店 六五万五一二〇円

合計 二六〇万一八二〇円

(エ) 昭和四九年分のたばこ

証人矢吹孝、同森島光男の各証言、原告本人尋問の結果(第一回)によると、日本専売公社の方から、一か月分の手持があるよう余分に仕入れるよう指導されていることが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、たばこの期末棚卸高は、八六万二一〇〇円(二五八万六三〇〇円÷3か月)となる。

(四)  本件係争年分の売上金額について

(昭和四九年分)

(1) 雑誌卸売の明細

原告本人尋問の結果(第一回)によって成立が認められる甲第六七号証の一ないし一二によると、原告の昭和四九年分の雑誌卸売の明細は、別表七記載のとおりであり、同結果によると、同表28のトモエの手数料が一三パーセント、その他の卸先の手数料が一〇パーセントであることが認められる。

そこで、同表の一一か月分を一二月分に引延し計算をして、推定売上を算定する。

〈1〉 10%分 〈省略〉(年間売上)

17.937.600円÷(100-10)%=19.930.640円

(小売対応売上)

〈2〉 13%分 〈省略〉

1.581.576円÷(100-13)%=1.817.903円

(2) 仕切差益率

当裁判所は、仕切差益率を、七七パーセントとして以下これを適用する。その理由は、次のとおりである。

原告が提出した甲第八四号証は、昭和四四年のものであるから、直ちに採用できないし、原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告自身も通常の小売差益率は、大体一八ないし二三パーセント以内であったと供述している。そして、当裁判所が真正に作成されたものと認める乙第六三号証、同第六四号証の一、二によって、正味掛率を七七パーセントと認めるのが至当である。

(3) 雑誌の売上金額

原告の雑誌の売上金額は、三七二二万四六一一円となるが、その計算方法は、次のとおりである。

仕切差益率(%)売上原価(円) 年間売上金額 構成割合(%)

〈3〉 〈1〉×77=15.346.593 17.937.600 50.1

〈4〉 〈2〉×77=1.399.786 1.581.576 4.6

〈5〉 小売分=13.911.418(注1) 17.705.435(注2) 45.3

合計 30.657.797 37.224.611 100.0

(注1) 31.825.679(仕入金額)-1.167.882(期末棚卸高)

-15.346.593(〈3〉)-1.399.786(〈4〉)=13.911.418

(注2) 13.911.418÷77%=18.066.770

18.066.770×2%(万引分)=361.335

18.066.770-361.335=17.705.435

(4) 書籍の売上金額

原告の書籍の売上金額は、一二〇〇万六九六〇円となるが、その計算方式は、次のとおりである。

総仕入金額・・・12.159.101(仕入金額・別表六の二)+

1.317.462(延払商品・別表六の二)

=13.476.563

売上原価・・・13.476.563-4.042.521(2.725.059((期末棚卸高))

+1.317.462((延払商品))

=9.434.042

売上金額・・・9.434.042÷77%=12.252.000

万引分・・・12.252.000×0.02=245.040

最終売上金額・・・12.252.000-245.040=12.006.960

(5) 文房具の売上金額

原告の文房具の売上金額は、三八五万八一七三円となるが、その計算方法は、次のとおりである。

総仕入金額・・・4.474.230(仕入金額・別表六の三)

+1.000.000(引継商品)=5.474.230

売上原価・・・5.474.230-2.601.820(期末棚卸高)

=2.872.410

売上金額・・・2.872.410÷(100-25.55・同業者率・・・別表

三の一)%=3.858.173

(6) たばこの売上金額

小売定価から期末棚卸高を減算した一七二万四二〇〇円(二五八万六三〇〇円-八六万二一〇〇円)が、たばこの売上金額となる。

(昭和四八年分)

(1) 雑誌の売上金額

原告の雑誌の売上金額は、二五六八万八九三五円となるが、その計算方法は、次のとおりである。

売上原価・・・21.159.080(仕入金額・別表六の二)

構成比による売上原価 仕切差益率 小売対応売上

〈1〉10%分 10.600.699÷77%=13.767.141

〈2〉13%分 973.318÷77%=1.264.049

〈3〉小売分 9.585.063÷77%=12.448.133

売上金額

〈1〉10%分 13.767.141×(100-10)%=12.390.042

〈2〉13%分 1.264.049×(100-13)%=1.099.722

〈3〉小売分 12.448.133-248.962=12.199.171

(万引2%)

合計 25.688.935

(2) 書籍売上金額

原告の書籍売上金額は、九〇九万八二二五円となるが、その計算方法は、次のとおりである。

7.148.606(仕入金額=売上原価・別表六の二)÷77%

=9.283.903-185.678(万引2%)

=9.098.225

(3) 文房具の売上金額

原告の文房具の売上金額は、八一万九四三三円となるが、その計算方法は、次のとおりである。

610.068÷(100-25.55)%=819.433

(昭和四七年分)

(1) 雑誌

原告の雑誌の売上金額は、一九五六万八〇九二円となる。

構成比による売上原価 小売対応売上 売上金額

〈1〉10%分 8.074.776÷77%=10.486.722×(100-10)%=9.438.049

〈2〉13%分 741.396÷77%=962.851×(100-13)%=837.680

〈3〉小売分 7.301.143÷77%=9.482.003-189.640=9.292.363

(万引2%)

合計 16.117.315 19.568.092

(2) 書籍

原告の書籍の売上金額は、三三九万二四〇七円となる。

2.664.677÷77%=3.460.619-69.212(万引2%)

=3.392.407

(3) 文房具

原告の文房具の売上金額は、四一万七一七六円となる。

310.588÷(100-25.55)%=417.176

(五)  雇人費について

本件係争年分の雇人費は、本件同業者の雇人費率によって計算する。

なお、原告は、甲第八五号証によって、雇人費の実額を主張しているが、甲第八五号証の原始資料を提出しない限り、同号証だけで、主張額を認定することは、無理である。

原告は、昭和四七年の交通事故による雇人費加算を主張しているが、原告がそのためいくらの給与を支払ったかが正確に認定できる書証(賃金台帳、給料支払受領証など)を提出しない限り、これまた無理である。

(六)  利子割引料について

証人石崎末夫の証言によって成立が認められる乙第四三号証によって、被告主張どおりの額を認める。

(七)  建物減価償却費について

原告の本件係争年分の減価償却費の計算が、別表四の二記載のとおりであることは、同表摘要欄掲記の書証(その成立は原告本人尋問の結果(第一回)による)や原告本人尋問の結果によって認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は、甲第八〇号証を提出し、山科店の店舗改装費五五万円も償却費として計上すべきであると主張しているが、同号証のうち陳列ケース及び陳列台は、什器備品に属するから償却の対象とならないし、同号証には、店舗改装費とあるだけで具体的金額の記載がない。したがって、この主張は採用できない。

(八)  繰延資産の償却費

原告本人尋問の結果(第二回)によって成立が認められる甲第九一号証、税務署員の調査書であるから成立が認められる乙第四六号証によって、被告主張どおりの額が認められ、この認定に反する証拠はない。

(九)  まとめ

以上認定した金額を基礎にして、原告の本件係争年分の事業所得を算出すると、別表八の一ないし三記載のとおりになることは、計算上明らかである。

昭和四七年分 一八五万一五三七円

昭和四八年分 二九八万八五〇五円

昭和四九年分 四一四万七九九三円

四  むすび

以上の次第で、原告の本件係争年分の事業所得金額は、右に記載したとおりであり、本件処分は、いずれもこの範囲内でされたものであるから、適法であり、本件処分には、原告が主張するような違法がないことに帰着する。そこで、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 古崎慶長 判事 小田耕治 判事補西田真基は、転補のため署名捺印することができない。裁判長判事 古崎慶長)

別表一 原告の店舗について

〈省略〉

別表二 課税経過表

〈省略〉

別表三の一 同業者率表

〈省略〉

注) 端数処理については、差益率は小数第3位以下を切捨て、一般経費率及び雇人費率については小数第3位以下を切上げたものである。

別紙 三の二 書籍・雑誌の販売業者の同業者率

〈省略〉

別表三の三 文房具の販売業者の49年分の同業者率

〈省略〉

別表 四の一 事業所得金額

〈省略〉

別表 四の二 売上原価表

〈省略〉

※ 別表四の三の〈1〉の18.794.532円の方が正しく、この金額は計算違いの額である。別表 四の三の〈1〉 本件係争年分の大阪屋からの仕入金額

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表 四の三の〈2〉 昭和49年分 文房具類仕入一覧表

〈省略〉

別表 四の四 本件係争年分の売上金額、一般経費、雇人費及びたばこ販売所得の計算明細

〈省略〉

別表 四の五 減価償却費の計算

〈省略〉

(注)償却方法は、定額法による。

別表 五の一 係争各年分の事業所得の計算

〈省略〉

別表 五の二 本件係争年分の書籍・雑誌の売上金額・売上原価の計算明細

〈省略〉

別表 五の三 本件係争年分の売上金額・一般経費・雇人費及びたばこ販売所得の計算明細

〈省略〉

別表 六の一

大阪屋 「雑誌」仕入金額等調

〈省略〉

別表 六の二

大阪屋 「書籍」入金額等調

〈省略〉

別表 六の三

「文房具」仕入金額調

〈省略〉

別表 七 49年分・雑誌卸売明細

〈省略〉

別表 八の一

裁判所の認定額

〈省略〉

別表 八の二 裁判所の認定額

〈省略〉

別表 八の三 裁判所の認定額

〈省略〉

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