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京都地方裁判所 昭和53年(行ウ)2号 判決

原告 森井竹枝

被告 京都府知事

訴訟代理人 辻井治 中嶋寅雄 曽我謙慎 森野満夫 ほか五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五二年一〇月一日付でなした原告の老齢福祉年金の支給停止裁定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (原告の地位)

原告は明治四〇年一月八日生まれの日本国内に住所を有する日本国民であり、七〇歳に達した昭和五二年一月八日に当時の昭和五二年法律第四八号による改正前の国民年金法(以下「年金法」という。)八〇条二項本文の規定により法七九条の二の老齢福祉年金の受給資格を取得した。

2  (本件処分の経緯)

(一) 原告は、昭和五二年九月二〇日、被告に対し、老齢福祉年金の受給権の裁定を請求したところ、被告は、同年一〇月一日付で原告に対し、昭和五二年二月分以降の右老齢福祉年金の受給権の裁定をするとともに、同月分以降の老齢福祉年金の支給を停止する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

(二) 右処分の理由は、原告が年金法別表第一級に該当する両眼視神経萎縮による身体障害者として同法に基づく障害福祉年金を受給しているため併給はできないというにある。

3  (審査請求の経由)

(一) 原告は、右処分を不服として昭和五二年一一月一一日京都府社会保険審査官(以下「審査官」という)に対し審査請求したところ、同年一二月六日付で棄却され、さらに、同月一一日付で右審査官を経由して社会保険審査会(以下「審査会」という。)に再審査請求した。

(二) しかしながら、右再審査請求が受理されるかどうか、又、受理されたとしても審査会の裁決がいつなされるか不明であるうえ、原告は高齢で心臓病を患つている。従つて再審査請求に対する裁決を待つていたのでは憲法三二条で保障された「裁判を受ける権利」の行使が遅延するばかりであるから、裁決を経ないで本件訴えを提起するにつき正当な理由がある。

4  (本件処分の取消事由)

ところで、本件処分は以下にみるように憲法一四条一項に違反し、取消されるべきものである。

(一) (身体障害者の差別的取扱い)

憲法一四条一項は国民の法の下に平等を規定するが、障害福祉年金と老齢福祉年金との併給を認めず、老齢福祉年金の支給を停止した本件処分は、原告が身体障害者なるがゆえの差別的取扱いであり、右規定に違反する。

(二) (戦争公務に基づく公的年金受給権者との差別的取扱い)

同じ公的年金受給権者であつても戦争公務に基づく公的年金受給権者の場合は老齢福祉年金の併給を受けることができるのに対し、障害福祉年金受給権者である原告が老齢福祉年金の併給を受けられないのは憲法一四条一項に違反する差別的取扱いである。

よつて、本訴を提起する。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2(一)の事実は認め、同2(二)の事実は否認する。支給停止理由は年金法二〇条の併給の調整の規定に基づいて老齢福祉年金の支給を停止したものである。

2  同3(一)の事実は認め、同3(二)の事実は不知、その余の主張は争う。

審査制度は、法の適正かつ妥当な運用をはかるとともに、違法または不当な処分によつて自己の権利または利益を侵害された者の権利をできるだけ簡易かつ敏速に救済することを目的とし、かつ、その様に運営されている。

3  同4は争う。

三  被告の主張

1  国民年金制度における福祉年金の役割

(一) 制度の目的及び趣旨

戦後、人口の老齢化、家族制度の崩壊、経済の復興、社会保障の必要性に対する認識等の諸要因を背景とし、国家公務員共済組合法、公共企業体職員等共済組合法、船員保険法、厚生年金保険法等に基づく各種年金制度の対象外となる農林漁業者、自営商工業者、零細企業の被用者等の人々に対しても憲法二五条二項の理念の下に年金制度の保護を及ぼすことを目的として、国民皆年金の理念に基づき老齢、廃疾又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的(年金法一条)とし、国民年金法が昭和三四年に制定され、国民年金制度が発足した。

(二) 拠出制と無拠出制

国民年金制度は拠出制を基本に、無拠出制を経過的、補完的に採用するが、その理由は、以下のとおりである。

(1) 拠出制を基本にする理由は、従来の各種被用者年金制度がすべて拠出制であり、老齢・身体障害・夫の死亡等の事態に対し所得能力のあるうちに自力備蓄するのが望ましく、無拠出制によると財政の急激な膨張が不可避で入口の老齢化に伴う国民の税負担が過大な結果となり、さらに、拠出制によると自己財源を確保できるとともにその積立金運用による制度の充実が可能であること等にある。

(2) 無拠出制を経過的、補完的に採用した理由は、制度発足時に既に老齢・廃疾・死亡の事由が発生している者に対しても年金的保護を及ぼし、また、貧困のため保険料の拠出期間が不足する等支給要件を充足できない者に対しても年金の支給を可能にすることにある。

以上の結果採用された無拠出制の国民年金が各種福祉年金である。

2  本件処分の根拠とその合憲性

(一) 本件処分の根拠

原告は、その廃疾の程度が第一級に該当する身体障害者であり、昭和三九年九月以来年金法に基づく障害福祉年金を受給していたところ、更に、昭和五二年一月八日老齢福祉年金の受給権が発生したが、年金法二〇条が適用され、当時、第一級の身体障害者である原告が受給権を有する年金額は障害福祉年金が二七万円(同法五八条)、老齢橿祉年金が一八万円(同法七九条の二、四項)であるため、原告がその意思により前者の給付を選択し、本件処分がなされたものである。

(二) 年金法二〇条の立法趣旨と合理性

年金法二〇条は、既に給付事由が生じている場合にさらに給付事由が付加的に発生しても所得の低下は単純加算的ないし比例的に加重されるものではないこと、国民年金制度における年金給付の財源は国民の租税負担及び加入者の支払う保険料であるため財政上の制約があること、右制約の範囲内で広範囲の国民層に対し適切公平な給付を実現しようとする社会保障政策上の要請があること等の理由から、同一人に二つ以上の給付事由が生じた場合にその併給を調整しようとしたものであり、合理的なものである。

(三) 本件処分と身体障害者差別の有無

障害福祉年金は受給権者の廃疾の程度により区別されており、その程度が第二級に該当する者については老齢福祉年金と同額(年金法五八条、七九条の二・四項参照)であり、併給調整の場合必ずしも障害福祉年金が選択されるとは限らないことからみても、本件処分は、原告が身体障害者であることに着目した結果なされたものではなく、年金法二〇条により併給調整の結果によるものであるから、憲法一四条一項違反の問題は生じない。

(四) 戦争公務に基づく公的年金受給権者との差別と合理性

(1) 併給制限緩和の経緯

国民年金制度発足当時は公的年金給付についての併給制度は同一であつたが、その後戦争公務による公的年金給付受給権者に対する老齢福祉年金の併給制限は次第に緩和され、準士官以下については昭和四六年一一月から、中尉、及び少尉にかかるものについては昭和四七年一〇月から、大尉にかかるものについては昭和四八年一〇月からそれぞれ併給制限が撤廃された。

(2) 差別の合理性

戦争公務に基づく公的年金受給権者とそれ以外の一般の公的年金受給権者を年金給付の併給に関して異なる取扱いをするのは、以下にみるように、戦争公務に基づく公的年金給付の特質に基づくものであり、仮に、戦争公務に基づく公的年金給付が一般の公的年金給付と共通する性格を併有するとしても、右特質のゆえに一般の公的年金給付の場合と異なる取扱いをされるべき合理的な理由があるというべきであり、本件処分は憲法一四条一項に違反しない。

(イ) 戦争公務による公的年金給付は軍の命令により戦地に駆り出され強制的に戦争の遂行に協力させられ、酷烈な環境下で生命の危険にさらされつつ公務に従事し、それに起因する負傷又は疾病により廃疾となり又は死亡した旧軍人等又はその遺族といういわば戦争の最大の犠牲者ともいうべき者にその精神的損害に対する国家賠償として支給されるものであるのに対して、その他の公的年金給付はまさに社会保障の一環としてなされており、本質的な相違がある。

(ロ) 戦争公務による死傷者は、国家から後顧の憂いなく戦地等に赴き軍務に服していたのに、これらの者及び戦没者遺族は敗戦後の占領政策により公的扶助料の支給を停止され、被用者年金等の受給者に比べて甚だしい差別待遇を受けており、独立回復後も右占領期間中の凍結分について補償を受けていない。

(ハ) 戦争犠牲者の有する特殊な立場に対する国民の理解、評価ないし国民感情及びわが国の経済事情の推移、変遷等を背景として、戦争公務に基づく公的年金給付の受給者に対して社会政策上特別の配慮をなすべき要請があつた。

(五) 立法裁量事項に対する司法審査

社会保障ないしこれに近接する分野において具体的立法をなす場合、明確な一義的・先見的基準は存在せず、立法府がその裁量により決定すべきものであるから、立法府の定立した法制度の内容が一見明白に恣意的になされたものと認められない限りその判断は尊重されなければならず、その結果一定の要件に該当する者とそうでない者との間に取扱いの差異が生じても憲法一四条一項に違反するものとはいえない。年金法二〇条は戦争公務に基づく公的年金給付との関係においても恣意的・不合理なものとはいえず、仮に、右規定を憲法一四条一項に違反し無効であると判断するとすれば、それは単に、原告に対して従来法によつて与えられていた権利に対する障害を除去し、原状に回復することに留まらず、従来法により与えられていた権利以上の利益を賦与することになり裁判所が新たな立法をするにも等しいことになるうえ、その併給内容について立法府の裁量をまたずとも一義的に明白であるとはいえないから、結局本件処分は憲法一四条一項に違反しない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  争いのない事実

請求原因1(原告の地位)・同2(一)(本件処分の存在)の各事実については当事者間に争いがない。

二  再審査請求経由の要否と裁判を受ける権利

1  請求原因3(一)(審査請求の経由)の事実は争いがなく、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、本件口頭弁論終結時である昭和五三年六月九日においても、審査会の裁決がなされたうえその裁決書が原告に送付されていないものと認められ、また、本件訴えの提起時が昭和五三年一月一七日であることは記録上明らかである。

2  原告は、年金法はその給付に関する処分等に対する訴の提起に審査請求前置主義を採用している(年金法一〇一条の二)ことを非難し、右制度及びその運用が憲法三二条で保障された「裁判を受ける権利」を侵害する旨主張しているともみうるけれども、右制度を採用することが、行政庁の処分に対し直接出訴を認めることに比して裁判上の救済が遅延することは否めないが、行政庁自身に再度の考案による処分是正の機会を与え、さらに上級行政庁による監督権の行使により行政の統一的適用をはかり、反面において行政庁による簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を期待しうるところがあるのであり、かつ、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)八条二項各号所定の事由があるときは、審査請求等を経ることなく訴えを提起できることに鑑みれば、右の制度が憲法三二条に違反するものでないことは明らかであるし、右制度の運用が、憲法三二条に違反するとの事実もにわかには認めがたい。

3  次に、本件訴え提起にあたり原告が審査会の裁決を経由していないことが明らかであるから、行訴法八条二項所定の事由を有するかどうかが問題となる。

ところで、〈証拠省略〉によれば、原告が本件処分の不服申立ての理由として審査請求及び再審査請求において主張するところは、いずれも要するに廃疾の程度が第一級に該当する障害福祉年金受給権者たる原告が老齢福祉年金の受給資格を取得したのにその併給を禁止して老齢福祉年金の支給を停止することは憲法一四条一項に違反するということにあること、右審査請求に対する決定は、原処分が法の適用を誤つてなされたかどうかを現行法に基づいてなすものであるところ、本件処分は年金法二〇条に基づくから、制度自体の内容・改廃等に関する不服は審査の対象外であるとして審査請求を棄却していることが認められる。

右事実及び前記1の認定事実によれば、原告が本件処分の取消事由として主張するところは立法政策の問題であり、また、審査会が法規の適正な運用及びその解釈の統一をはかる目的をもつていることからみて、再審査請求についても審査官の決定と同一の判断が下されることはほぼ明らかであるうえ、既に再審査請求書を昭和五二年一二月一一日付で審査官を経由して提出しており、本件訴え提起までに一か月以上経過していることなどに照らすと行訴法八条二項三号の「正当な理由」があるものというべきである。

さらに本件においては、前認定のように再審査請求書が昭和五二年一一月一一日付で提出され、この時から本件口頭弁論終結時まで五か月以上経過していることよりして、仮に本件訴え提起にあたり瑕疵があるとしても行訴法八条二項一号の趣旨により右暇疵は治癒されたものと解せられる。

三  本件処分の根拠と合憲性の有無

1  本件処分の根拠

〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、原告は両眼視神経萎縮のためその廃疾の程度が年金法別表記載第一級に該当する身体障害者で、生活保護を受けており、かつ、昭和三九年九月以来同法による障害福祉年金を受給していたところ、更に、昭和五二年一月八日老齢福祉年金の受給資格を取得したが、年金法二〇条の併給調整により、当時第一級該当者の障害福祉年金が年額二七万円(同法五八条)、老齢福祉年金が年額一八万円(同法七九条の二・四項)のため、障害福祉年金の給付を継続して老齢福祉年金の支給を停止することになり、本件処分がなされたが、その際支給すべき年金の選択は直接原告の意思によりなされたものではないと認められる。

ところで、年金は給付の対象が現金であるから受給権者にとつての有利・不利は原則としてその多寡によつて決定されるものであることからすれば、本件の場合その支給すべき年金の選択が年金法二〇条所定のように受給権者たる原告の意思に直接基づかないとしてもその選択が違法とまでいうことはできない。

2  原告は、障害福祉年金受給者に対する老齢福祉年金の支給停止が身体障害者に対する差別であると主張する。

(イ)  しかしながら、年金法二〇条は、単に障害福祉年金受給権者に止まらず、他のすべての年金法による年金受給権者について年金の併給を禁止しているものであり、身体障害者のみを対象としているものではない。

(ロ)  右の年金法二〇条の併給調整の制度の当否は議論の存するところであるけれども、国民年金法(昭和三四年法律一四一号)による国民年金制度は、従来の各種被用者年金制度の対象外とされていた国民にも年金の保護を及ぼし国民皆年金の実現をはかる趣旨で発足したもので、憲法二五条二項の理念に基づき、老齢、廃疾又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とし(年金法一条)、拠出制年金を基本とし、無拠出制年金を経過的、補完的に併用し、老齢福祉年金及び障害福祉年金は、国民皆年金の実現をはかるための政策的配慮から、右の無拠出制年金として認められたもので、給付事由こそ老齢と廃疾というように異なるが、ともに受給権者の稼働能力ないし所得能力の喪失、低下に対する所得保障を目的とするものである。そして、例えば右のような老齢又は廃疾という二つの所得低下ないし喪失を招来する事故が発生しても、所得低下ないし喪失の程度は必ずしも単純加算的ないしは比例的に加重されるものでなく、同一人について複数の事故が生じた場合にそれぞれの年金を支給することは、特定の者に対してのみ重複した保障を与えることとなり、他の者と不均衡を生じ全体的な公平を失うことになること、また併給調整により生じた財源をもつて支給事由の増設、支給対象者の範囲の拡大等をはかりうること等からして、右の併給調整は必ずしも不合理なものとは断言できないところである。

(ハ)  年金法による各年金が、結果として生活保障に役立つことはいうまでもないが、これは直接に健康で文化的な最低限度の生活保障を目的としたものでなく、右の最低限度の生活保障は公的には生活保護法による生活保護制度に委ねられ、前記の年金は、右の生活保護ないしは私的扶養による生活保障を前提としつつ、その生活水準の向上をめざす役割を持つものである。しかもその財源について国庫の負担によるところが大であることからして、年金による生活水準の向上をどの程度とするのか、その給付要件、対象者、給付額等については、すぐれて立法政策の問題であり、立法府の裁量に属するところのものである。

年金法二〇条の併給調整が必ずしも不合理なものといえないこと前説示のとおりであるから、これをもつて立法府が右の裁量権の範囲を逸脱した違法なものということはできず、障害福祉年金受給権者が老齢福祉年金の支給を受けられないことが憲法一四条一項に違反する旨の原告の前記主張は採用の限りでない。

3  次に原告は、戦争公務に基づく公的年金受給権者には老齢福祉年金を併給するのに、障害福祉年金受給権者に老齢福祉年金を併給しないのは、憲法一四条一項に違反する差別取扱いである旨主張する。

ところで、年金法は、福祉年金の受給権者が公的年金給付を受けることができるときは、福祉年金の支給を停止する旨定めているが(六五条一項一号、七九条の二、六項)、これは、前示のとおりの国民年金制度の理念からして、年金法の基本とされた拠出制年金の保護の及ばない者に対して無拠出制年金である福祉年金を支給し、国民皆年金の実をあげる目的で福祉年金を支給するものであるから、他の公的年金受給権者に対してまで福祉年金を併給することは、福祉年金制度本来の趣旨にそぐわないところであり、また他の公的年金制度においても国庫が相当の負担をしているのに、他の公的年金受給権者に対し福祉年金を併給することは国庫の二重負担となり、国庫負担の増大にもなることが考慮されることによるものと解され、このこと自体は不合理なものとはいえない。

右の公的年金受給権者に対する福祉年金の併給停止は、国民年金制度創設時はすべて一律であつたが(ただし公的年金額が福祉年金額より少額の場合には、その差額分の福祉年金は支給される。)昭和三七年法律九二号による改正により、福祉年金の他の公的年金給付に基づく併給制度が緩和され、同時に公的年金のうち戦争公務によるものとその他のものとが福祉年金併給の点において取扱いを異にされることとなり、その後数次の改正により戦争公務による公的年金受給権者に対する併給制限が緩和され、昭和四八年一〇月からは大尉以下の者についてはその併給制限が撤廃されるに至つた。このように、戦争公務による公的年金受給権者に対する併給制限が、他の一般公的年金受給権者に対するそれより有利な取扱いを受けているのは、被告が主張するように戦争公務による公的年金給付が戦争犠牲者に対する精神損害の国家賠償の意味も含まれていること等を考慮すれば、その合理性が無いものとはいえない。

ただ、右両者の取扱いの差異が著しく不均衡となり、合理的な範囲を超える場合には問題となるが、その場合においても一般の公的年金受給権者に対する福祉年金の併給制限の緩和の範囲をどの程度とすべきかは立法政策の問題であつて、一般の公的年金受給権者に対する併給制限を定めた年金法の規定のうち、どの範囲までが戦争公務による公的年金受給権者に対する併給制限との比較において合理性を失わないものであるかは、立法府の裁量的判断を待たずに確定しえないところであり、立法府の裁量的判断を待つまでもなく、一般公的年金受給権者に対する併給制限緩和の範囲が一義的に明白であるとはいえないところである。

そうであるとすれば、仮に福祉年金の併給制限について戦争公務による公的年金受給権者と他の一般公的年金受給権者との間の取扱いの差異が不合理なものであるとしても、それはいまだ立法政策の当否、あるいは立法府の裁量権の範囲内のものと認められ、司法裁判所においてそれを理由に右併給制限に関する前記年金法の規定が憲法一四条一項に違反する無効なものとは断じ難いところである。

右の関係は本件のように年金法による福祉年金受給権者に対する関係においても同様であつて、前示の戦争公務による公的年金受給権者が年金法による福祉年金を受給しうることをもつて、原告に対する本件処分が憲法一四条一項に違反するものとはいえず、原告の前記主張も理由のないものである。

四  結論

以上説示したとおり、本件処分は年金法の規定に基づく適法なものであり、右年金法の規定ないし本件処分について原告が主張するような憲法違反の点も無く、他に本件処分につき瑕疵が存するとの主張、立証もないから、本件処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。よつて、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 野崎薫子 岡原剛)

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