大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和52年(ワ)72号 判決 1978年12月11日

原告

水上澄子

ほか二名

被告

京都バス株式会社

主文

一  被告は原告水上澄子に対し一、二〇〇万円とこれに対する昭和五二年一月三〇日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二1  被告は原告水上卓二同水上まゆみに対し各一、〇三一万一、七六四円とうち各九八一万一、七六四円に対する前同日以降、うち各五〇万円に対する本判決確定の日以降支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  右原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  原告ら勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告水上澄子(以下原告澄子という)に対し金一、二〇〇万円、同水上卓二(以下原告卓二という)、同水上まゆみ(以下原告まゆみという)両名に対し、各金一、〇五〇万円およびこれらに対する昭和五二年一月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(1) 事故発生時

昭和五一年七月一八日午後七時五分ころ

(2) 事故発生地

京都市左京区高野泉町六番地先川端通り国道三六七号線道路上

(3) 加害車 大型乗用自動車(京二二か一三四〇号)

運転者 訴外 神尾清春(以下神尾という)

(4) 被害者 訴外 水上一実(以下一実という)

(5) 事故の態様

神尾は、加害車を運転して事故発生地を北進中、道路を東へ横断中の一実に自車前部を衝突させた。

(6) 結果

一実は右衝突の傷害による左後頭部き裂頭蓋底骨折のため、脳内血腫により同年同月二一日死亡した。

2  責任原因

被告は、加害車を業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

3  損害

(1) 一実は、死亡により次のとおり損害を蒙つた。

a 逸失利益 金四、八九〇万九、三七〇円

イ 一実は染織図案業を自営し、昭和五〇年一月以降昭和五一年七月死亡するまで金一、〇二九万四一五〇円の図案代金収入があつたので一か年間の収入は金六五〇万一五六八円(円以下切りすて)であり、同人の営業経費、生活費として収入の五割を差引くと一年間の純所得金は三二五万七八四円となる。

ロ 一実は大正一三年一月一一日生で本件事故当時五二歳であり、昭和四九年の簡易生命表によると五二歳の男子の平均余命年数は二三・四四年であるので、一実は、なお、二三年の余命を有し、この間、毎年イと同程度の収益をあげることができたのに、本件事故の結果、これを失つた。

ハ そして、逸失利益の現在の価値を求める方式としてはホフマン式計算法によるべく、以上により一実の逸失利益を求めると金四、八九〇万八三七〇円となる。

b 慰藉料 金四五〇万円

(2) 原告澄子は一実の妻、同卓二、同まゆみはいずれも一実の実子であり、一実の死亡により権利義務を各三分の一の割合で承継相続した。

(3) 一実の死亡により、原告らは次のとおりの損害を蒙つた。

a 慰藉料

原告澄子につき 金二五〇万円

同卓二、同まゆみにつき 各金一五〇万円

b 葬式費用

原告澄子につき 金七四万一、五〇〇円

c 弁護士費用 各金六六万六六六六円

原告らは原告ら訴訟代理人弁護士との間に本訴提起の弁護士報酬として、二〇〇万円を支払うことを契約した。

(4) 原告らは、現在までに、本件事故につき、自動車損害賠償責任保険金(以下自賠責保険金という)として、一、五〇一万五一〇円を受領したので、各金五〇〇万三五〇三円(円以下切りすて)あてを損害にあてる。

(5) よつて、右(1)の金員の三分の一、一、七八〇万二、七九〇円と右(3)の原告ら各自の損害額との合計は、原告澄子につき金二、一七一万九五六円、同卓二、同まゆみにつき各金一九九六万九四五六円となり、これから(4)の金五〇〇万三五〇三円を差引くと、原告澄子は金一、六七〇万七四五三円、同卓二、同まゆみは各金一、四九六万五九五三円の各損害となるので、そのうち、被告に対して、原告澄子は金一、二〇〇万円、同卓二、同まゆみは各金一〇、〇五〇万円およびこれらに対する本件事故の後である昭和五二年一月三〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2、3の(2)、(4)の事実は認める。同3の(1)のaのロのうち一実の生年月日および年齢は認める。その余の請求原因事実はすべて争う。ただし、慰藉料は総額として八〇〇万円、葬式費用は四〇万円の限度で認める。一実の逸失利益の算定につき、稼働年齢は六七歳までであり現価計算の方式はライプニツツ方式が相当である。

三  抗弁

1  過失相殺

(1) 神尾は加害車を運転し、時速約五〇キロメートルで事故発生地附近を北進中、前方(北方)約一一〇メートル(横断歩道から約二六メートル北側)先の道路左端(西側)に東方を向いて佇立している一実を発見したが、一向に横断する気配も感じられないので、そのまま進行したところ、同人に約三三メートルに接近したとき、何ら右方(南方)を注視することなく急に東方へ横断し始めたので、急制動の措置を講じたが間にあわず、自車の左前部を一実に衝突させたものである。

(2) 一実は、付近(約二六メートル先)に横断歩道があるのにこれを横断せず、加害車の接近する前に充分横断しうる余裕があるのに、道路端に佇立したままでいながら加害車の直前(約三三メートル)になつて、急に態度を変えて、横断しようとし、しかも、横断にあたつて一度も右方(加害車の方)を注視しなかつた過失がある。

(3) 従つて、一実の右過失を賠償算定につき斟酌すべきである。なお一実の過失の割合は少なくとも四〇パーセントとするのが相当である。

2  一部弁済

被告は自賠責保険金のほか、治療費として金三八万一三〇円、看護費として金一〇万円を弁済している。

四  抗弁に対する認否

(1)  抗弁1の(1)のうち、時速が五〇キロメートルであつたこと、一実に横断する気配が感じられなかつたこと、何ら右方を注視することなく急に横断し始めたことは否認し、その余の事実は認める。

(2)  抗弁1の(2)(3)は争う。仮に、一実に過失があるとしても、神尾は、前方三三・四メートルの地点で、はじめて、一実が横断中であることを発見し、急制動をかけたが、間に合わず衝突したものであり、スリツプ痕が一八・四メートル痕が残つていたのであり、少くとも、時速六〇キロメートルを出している。また、神尾は、一実が約一〇〇メートル前方に立つているのを発見し、かつ、三差路および横断歩道の手前であるにもかかわらず、減速または徐行をせず、警音器を吹鳴して一実に注意を喚気する処置もとらなかつた過失がある。一方、一実の過失は少く、損害賠償額を定むるにつき斟酌すべきではない。

(3)  被告が治療費、看護費を支払つたことは不知。

理由

一  原告主張の請求原因1(本件交通事故の発生)、2(責任原因)、3の(2)(原告らの相続関係)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そうすると、被告は原告らに対し、本件交通事故により、一実につき生じた損害および原告らにつき生じた損害を賠償すべき責任がある。

二  本件交通事故の過失割合

成立に争いのない乙一、二、五、九、一三、一四、一九ないし二一号証ならびに証人神尾清春の尋問結果によれば、

1  神尾清春は加害車を運転して事故発生地の約一〇〇米手前まできたとき、すでに、一実が道路の西側に立つているのを認めたが、制限速度が時速四〇粁であるのにもかかわらず、時速約五〇粁をもつて北進をつづけたところ、六三・四米手前で一実が東北方を向いていたので、あるいは、同人が道路を横断するつもりかも知れないと推量しつつも、警笛をならさず、そのまま、一実の手前約三三・二米の地点まで進行したとき、一実が加害車方向をたしかめることなく、道路を東方に横断しはじめたので、危険を感じて急いでブレーキをかけたが、およばず、加害車を一実に衝突させたものである。

2  本件道路は幅員約八・三米で、一実が佇立していた地点のすぐ南方には、東方に向う道路が交差し、いわゆる丁字型交差点となつているが、信号機は存在しない。しかし、一実が佇立していた地点の南方約二六米には、東西の横断歩道がある。

3  神尾は、本件交通事故により、京都簡易裁判所で、略式命令による罰金二〇万円の処罰をうけている。

ことが認められ、前掲証拠のうち、右認定に反する部分はいずれも採用しない。

右事実によれば、過失割合を神尾七、一実三とするのが相当である。

三  損害

1  一実の逸失利益

成立に争いのない甲一号ないし四号証、四〇号ないし四九号証(四〇号証および四四号証は各一、二、三、その余の甲号証は一および二)、原告水上澄子本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認める甲一二号証の一ないし二一、甲三二号証の一ないし一九、同結果によれば、

1 一実は、本件事故当時、染織図案を業とし、フリーの立場で大阪の伊藤萬株式会社などから注文をうけて婦人服およびカーテンなどの柄模様を創作していた。そして、家族として、妻澄子のほか、長男が東京方面に会社勤務をし、長女も、東京の大学に通学していた。

2  一実が昭和五〇年一月以降昭和五一年七月までに得意先から受領した図案代金は、

(1)  伊藤萬株式会社 五、九四五、〇〇〇円

(2)  株式会社遊津商店 九七二、一五〇円

(3)  株式会社喜久屋 五九三、八五〇円

(4)  ニツキー株式会社 六五〇、〇〇〇円

(5)  株式会社佐野紙芸 六一二、七五〇円

(6)  瀧定株式会社 二八九、八〇〇円

(7)  青木産商株式会社 二七四、八〇〇円

(8)  大丸興業株式会社 二五六、八〇〇円

(9)  藤丹毛織株式会社 九一、〇五〇円

(10)  昌栄染工株式会社 八八、二〇〇円

(11)  大磯産業株式会社 一七六、〇〇〇円

(12)  田村嗣常盤株式会社 五〇、〇〇〇円

(13)  京都デザイン富田忠次郎 三〇、〇〇〇円

(14)  山路ニツト澤井金三郎 一〇〇、〇〇〇円

(15)  松居可ゑ 一〇〇、〇〇〇円

であつて、合計一、〇二三万四〇〇円である。

3  一実は、昭和五〇年一月以降昭和五一年七月までに図案業に必要な専門図書を買入れ、代金八万二七五〇円を、絵具などを買入れ、その代金一一万六、六四〇円を各支払つていた。

ことが認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、一実は一年間に図案代金収入として六四六万一、三〇五円(円以下切りすて10,230,400×12/19=6,461,305.262)を得ることができる。そして、一年間の図書絵具など代金は一二万五、九三〇円(円以下切りすて(82,750+116,640)×12/19=125,930.52)となるが、右図書絵具など代金も極めて内輪に見積られていると考えられるし、また、図案業を維持していくためには、種々の経費を要するものであることは明らかである。したがつて、一実の生活費および営業諸経費として右収入の二分の一を必要とするものと認めるのが相当で、成立に争いのない乙八号証によれば、一実は大正一三年一月一一日生れであることが明らかであるので、本件事故当時五二歳であるところ、通常、五二歳の者の就労可能年数は一五年であるから、一実の図案業者であることを考慮して、同人は七〇歳まで、本件事故後一八年間は、染織図案業にたずさわり、右収益を得ることができるものと解するのが相当である。したがつて、一実の一年間の収入三二三万六五二円(円以下切りすて)につき、ライプニツツ式計算(係数11.6895)により中間利息を控除すると、逸失利益は三、七七六万四、七〇六円(円以下切りすて)となる。

(3,230,652×11.6895=37,764,706.55)

そして、さきに認定した過失割合を考慮すると、被告が負担すべき逸失利益額は二、六四三万五、二九四円(円以下切りすて37,764,706×0.7=26,435,294.2)となる。

2  慰藉料

一実 三〇〇万円

原告澄子 二〇〇万円

その余の原告ら 各一〇〇万円

本件事故における一実の過失、そのほか本件記録にあらわれた諸事情を勘案して右額を認めるのが相当である。

3  原告澄子の支出した葬式費用

原告澄子の本人尋問結果により真正に成立したものと認める甲九号証の一ないし一〇および同結果によれば、原告澄子は一実の葬式諸費用として公益社に対して七四万一、五〇〇円を支払つたことが認められ、被告において本件事故の損害として負担すべき額は四〇万円をもつて相当とする。

原告らは、右1一実の逸失利益、2の一実の慰藉料を各三分の一あて相続したものであるところ、原告らは自賠責保険金一、五〇一万五一〇円を受領し、各五〇〇万三、五〇三円あてを各損害にあてたことを自認しているから、損害額は原告澄子につき、一、二二一万一、七六四円(円以下切りすて26,435,294÷3=8,811,764.5+3,000,000+40,000)その余の原告らにつき各九八一万一七六四円となる。

4  弁護士費用

右各認容額および本件訴訟の経過に徴し、本件事故と相当因果関係のある損害として、原告澄子につき一〇〇万円、その余の原告らにつき各五〇万円を認めるのが相当である。

以上を合計すると、

原告澄子 一、三二一万一、七六四円

その余の原告ら 各一、〇三一万一、七六四円

となる。

四  結論

原告らの本訴請求は、原告澄子が一、二〇〇万円とこれに対する本件事故発生後である昭和五二年一月三〇日以後支払ずみまで民事法定利率たる年五分の割合による遅延損害金の、その余の原告らが各一、〇三一万一、七六四円とうち各九八一万一、七六四円に対する前同日以降、うち各五〇万円に対する本判決確定の日以降右同の損害金の各支払いを求める限度で正当であるから、これを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小北陽三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例