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京都地方裁判所 昭和48年(む)9563号 決定

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

(申立の趣旨および理由)

申立人の本件申立の趣旨およびその理由は申立人提出の準抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。

(当裁判所の判断)

一  本件資料によると次の事実が認められる。

京都府(下鴨警察署)警部補森本伝、巡査岩田郁司、同中村加津夫の三名は、昭和四八年一〇月一日午前二時ころから無線自動車に乗って警ら中、同日午前四時ころ京都市左京区上高野流田町八番地宝ヶ池子供の楽園前路上に駐車中の普通貨物自動車(レンターカー)を見かけたのであるが、右貨物自動車の荷台の荷物が布製のシートで覆われていたので職務質問をするため右車両に近付いたところ、運転席に被疑者が、助手席にUが乗車していた。そこで右警察官らは被疑者に対して自動車運転免許証の呈示を求め、また被疑者および右Uに対し積荷等について質問したところ、被疑者が運転免許証を呈示したものの右両名とも質問に対しては全く答えなかったため、積荷上のシートをめくりあげると長さ約三・七〇メートル、直径約二・五センチメートルの電線配管用鉄パイプ(鋼管)一一九本、作業台(バイス)一台、捻子切り旋盤(オスター)二個が積載されており、鉄パイプは荷台より後方に九〇センチメートル位はみ出していた(道路交通法五七条一項、同法施行令二二条の規定による積載方法の制限より約四八センチメートル超えている)ので右両名に対し再度運搬目的、使用目的、積載した場所および輸送先等を質問したが黙秘して答が得られなかった。以上のような情況のもとで右両名が学生であることが判明したので右鉄パイプが派閥抗争等の用具として使用される可能性があるものと考え、被疑者の行為を軽犯罪法一条二号、道路交通法五七条一項、同法施行令二二条に、右Uの行為を軽犯罪法一条二号に違反し、右両名とも逃走のおそれがある(右Uについては住居の確認ができなかったためさらに住居不定として)ものと判断して右両名を現行犯人として逮捕し、その場で右車両およびその積載物である申立人主張の各物品を差押えた。

二  軽犯罪法一条二号によると正当な理由がなくて刃物、鉄棒、その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は拘留又は科料に処せられることになっているのであるが、右にいう器具とは兇器を指すものであり、兇器とはその性質上又は用法上人の身体を傷害し得べき器具で社会通念上一般人がその用法についてただちに危険感をいだくようなものをいうものと解せられる。そこで被疑者らが前記車両に積載していた鉄パイプが右にいう兇器に当るか否かについて検討してみるに、右鉄パイプは三・七〇メートルの長さを有するものであり、適宜の長さに切断して扱い易くした場合はともかくとして、そのままの長さでは右車両に積載された状況のもとで客観的にみて社会通念上一般人がその用法について危険感をいだくようなものとは認め難い。そうすると、被疑者らが右車輛に右鉄パイプを積載しそれを布製シートで覆っていたからといって直ちに軽犯罪法一条二号に違反するものということはできない。

三  次に被疑者の右車両の積荷の積載方法は道路交通法五七条一項、同法施行令二二条に違反することが明らかであり、また右車両はそのままの状態で路上に駐車していたのであるからこの状況からすると被疑者を逮捕した時点においては被疑者を刑事訴訟法二一二条一項にいう現行犯人と認めるのが相当である。ところで先に認定したとおり被疑者は警察官らの求めにより運転免許証を呈示したもののその質問に対して全く黙秘して答えなかったのであるから運転免許証によりその住所が判明したからといっても被疑者の右のような態度、犯行の時間、積荷の内容等からみると被疑者について逃亡のおそれが充分認められるので、道路交通法一二六条による告知をしないで被疑者を現行犯逮捕したことを違法ということはできない。そしてその場で証拠保全のため右車両およびその積荷の全部を差押えたことも適法な措置というべきである。

四  次に弁護人は本件押収手続の違法性が認められないとしても実況見分調書を作成すること等によりもはや押収を継続する必要性がなくなっているので、本件押収が取消されるべきであると主張するのであるが、右のような事由は刑事訴訟法二二二条、一二三条による押収物の還付ないし仮還付を受けるべき事項に該当するものであり、差押手続の違法を事由とする本件準抗告の理由とはならない(なお本件については自動車およびそのキーはすでにその所有者に仮還付されており、また鉄パイプ一一九本、捻切り旋盤二個は被疑者に対する窃盗被疑事件で裁判所の発した差押許可状により別途差押を受けている)。

以上のとおりであるから結局申立人の本件申立は理由がないので、刑事訴訟法四三〇条二項、四三二条、四二六条によりこれを棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷喜仁)

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