大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和46年(レ)48号 判決

控訴人

山沢みね

右訴訟代理人

井上治郎

被控訴人

山沢久子

右訴訟代理人

林義久

外二名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し別紙目録記載の家屋を明渡せ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は仮に執行することがでる。

事実

第一  当事者が求めた裁判

一、控訴人

主文同旨の判決と仮執行の宣言

二、被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

一、請求の原因事実

控訴人は別紙目録記載の家屋(本件家屋)を所有し、被控訴人は本件家屋を占有している。

よつて、控訴人は被控訴人に対し所有権に基づき本件家屋の明渡を求める。

二、請求の原因事実に対する認否

請求の原因事実は認める。

三、抗弁

控訴人は、被控訴人および夫山沢政信に対し、昭和三八年二月頃、本件家屋を無償で貸与した。

四、抗弁に対する認否

右使用貸借契約の借主は、被控訴人の夫政信であり、被控訴人でない。

五、再抗弁

(一)  仮に、抗弁事実のとおりとしても、右契約には、政信の弟山沢弘が婚姻するまでという期間の定めがあり、弘は昭和三八年一一月婚姻した。

(二)  仮に、そうでないとしても、控訴人は、被控訴人に対し、昭和四六年六月一九日の原審口頭弁論期日において、右契約を解約する旨の意思表示をした。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁(一)の事実は争い、同(二)の事実は認める。

七、複再抗弁

控訴人および被控訴人夫婦は、本件使用貸借契約において、本件家屋の使用目的を、被控訴人夫婦が、婚姻継続中居住することとする旨約した。

八、複再抗弁に対する認否

複再抗弁事実は争う。

九、三重再抗弁

仮に、複再抗弁事実のとおりであるとしても、被控訴人夫婦の間に不和が生じ、政信は昭和三九年一月頃一宮市に転居し、被控訴人も間もなく実家に転居し、被控訴人夫婦の間には、離婚訴訟が係属中であるから、既に本件家屋を使用するに足るべき期間が経過している。

一〇、三重再抗弁に対する認否

右期間経過の事実は争う。

一一、四重再抗弁

仮に、右期間経過ありとしても、次の理由により、控訴人の本件解約は、権利の濫用であり、効力を生じない。

控訴人は、政信の母マキの妹であるが、マキ死亡後、政信およびその弟妹らの母親代りとして家族の一員に加わつていたのであるから、いわば息子夫婦ともいうべき被控訴人夫婦に対して、家庭生活が円満にいくように援助すべき立場にありながら、被控訴人に対し、嫁いびりの態度を示し、これが、被控訴人夫婦の間に不和が生じた原因の一端となつた。控訴人は、政信が本件家屋から一宮市に転居するや、自己の居住の必要性がないにもかかわらず、被控訴人に対し、本件家屋の明渡を請求するに至つた。これに対し、被控訴人は、政信から殆んど送金がないので、他の家屋を賃借する余裕がない。

一二、四重再抗弁に対する認否

四重再抗弁事実は争う。

控訴人は、明治四〇年一二月一七日生の老令であるうえ、独身であり、政信の父信太郎方に身を寄せ、気兼ねしながら生活しているので、本件家屋で居住する必要性は大きい。これに対し、被控訴人は、昭和三九年三月頃から、本件家屋に実家の従業員中島ひろを居住させたことがあることなどからすると、本件家屋に居住する必要性は少く、実家も裕福である。従つて、本件解約は、権利の濫用ではない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一、控訴人が本件家屋を所有し、被控訴人がこれを占有している事実は当事者間に争いがない。

二、〈証拠〉によると、控訴人は、昭和三八年二月頃、被控訴人および夫山沢政信に対し、本件家屋を無償で貸与した事実を認めうる。

三、控訴人は、本件使用貸借契約には、政信の弟山沢弘が婚姻するまでという期間の定めがある旨主張するが、〈証拠〉のうち、右主張に符合する部分は採用し難く、他に右事実を認めうる証拠はない。

四、控訴人が、被控訴人に対し、昭和四六年六月一九日の原審口頭弁論期日において、本件使用貸借契約を解約する旨の意思表示をした事実は、当事者間に争いがない。

夫婦が、賃貸借契約に基づく家屋の共同賃借人または使用貸借契約に基づく家屋の共同借主である場合に、夫婦が別居中のとき、特別の事情のないかぎり、賃貸人または貸主の賃貸借契約または使用貸借契約の解除・解約は、借家に居住する(または借家の直接占有をする)配偶者に対してすれば足りると解するのが相当である。本件の場合(下記五、六参照)、右の特別の事情を認めえないから、上記原則のとおり、本件家屋使用貸借契約の解約は、本件家屋の直接占有をする被控訴人に対してすれば足りる。

五、被控訴人は、本件使用貸借契約において、本件家屋の使用目的を、被控訴人夫婦が、婚姻継続中居住することとする旨約したと主張するが、右事実を認めうる証拠はない。

しかし、〈証拠〉の各一部によると、被控訴人(酒類卸商、河原崎豊治郎の次女)は、昭和三一年一一月六日、政信(酒小売商、山沢信太郎の長男)と事実上婚姻し、昭和三二年五月一三日、その旨届出をし、被控訴人夫婦は、信太郎方で、政信の弟弘、妹綾子らと同居したこと、被控訴人は、同年一〇月頃、長男和雄の出産のため、一時肩書住居の実家に帰り、同年一二月頃、信太郎方に戻つたところ、綾子から、罵倒されたため実家に帰つたこと、被控訴人は、当時信太郎方に手伝いに来ていた控訴人(政信の母亡マキの妹)や、綾子から、冷遇されることを恐れて、信太郎方に戻ることを拒否し、政信も積極的に善後策を講じようとせず、被控訴人に殆んど送金することもなかつたため、被控訴人夫婦は、相互に意志の疎通を欠いたまま、約五年間別居生活が続いたこと、昭和三八年二月頃、豊治郎の知人出口実の斡旋の結果、約五年間の別居で空白状態となつていた被控訴人夫婦の婚姻関係を正常化させるため、暫定的に、被控訴人夫婦を本件家屋に居住させることをもつて、本件家屋の使用目的と約して、控訴人は、被控訴人夫婦に対し、本件家屋を無償で貸与したことを認めうる。上記各証言・供述のうち、右認定に反する部分は採用しない。

六、そこで、既に本件家屋を使用するに足るべき期間が経過しているか否かについて判断する。

〈証拠〉によると、次の事実を認めうる。

(一)  政信は、昭和三八年一一月頃、家財道具を持つて突然信太郎方に帰り、昭和三九年一月頃、一宮市に転居し(株式会社山泉商店に勤務し、現在木曾川町のアパートに居住)、殆んど送金もしなかつたので、被控訴人は、実家で働くことにした。

(二)  その後、政信は、被控訴人に対し、離婚請求訴訟を名古屋地方裁判所一宮支部に提起し、昭和四四年四月九日、婚姻を継続し難い重大な事由がある旨の理由で、原告政信勝訴の判決があつたが、被控訴人は控訴し、右訴訟は、現在、名古屋高等裁判所に係属中である。

(三)  被控訴人は、昭和四四年一二月頃、長男を同伴のうえ、本件家屋を旋錠したまま、実家に転居し、それ以後、本件家屋は、非常に不用心な状態になつている。

(四)  なお、昭和三八年一一月頃、弘が婚姻したので、控訴人は、やむを得ず、自己居住家屋を同人らに無償で貸与し、信太郎方に同居したが、本件家屋に居住したい希望を持つている。

右認定事実によると、被控訴人と政信の婚姻関係は、それが離婚原因となりうる程度のものであるかはさておき、破綻状態に至り、両者は、本件解約以前から、それぞれ本件家屋以外の場所を生活の本拠として別居しているのであつて、被控訴人夫婦の婚姻関係を正常化させるため、暫定的に、同人らを本件家屋に居住させるという当初の目的を実現することは、本件解約当時、既に不可能な状態にある。よつて、本件解約当時、既に本件家屋を使用するに足るべき期間は経過していると判断する。

七、権利の濫用の主張に対する判断。

上記認定の事実関係の下において、本件解約は、権利の濫用にあたると認めえない。他に本件解約が権利の濫用にあたることを認めうる証拠はない。

八、結局、本件使用貸借は、本件解約により終了したから、控訴人の所有権に基づく本件家屋明渡請求は、正当としてこれを認容すべく、原判決(前記名古屋高等裁判所に係属中の離婚事件につき、離婚判決の確定を条件とする請求認容判決)は失当であるからこれを変更し、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(小西勝 工藤雅史 飯田敏彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例