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京都地方裁判所 昭和46年(わ)225号 判決

本籍

京都市左京区下鴨梅ノ木町六八番地

住居

右同所

会社役員

加藤博俊

昭和五年五月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中 聳出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を罰金一、二〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、肩書住居地に居住し、京都市内においてパチンコ遊技場「センター会館」及びスマートボール遊技場「ミカドセンター」を経営するなどして収入を得ていたものであるが、所得税を免れようと企て、

第一  昭和四二年度中における総所得金額は三、七五六万二、八七六円で、これに対する所得税額が二、〇一二万八、一〇〇円であるにもかかわらず、右遊技場の売上金の一部を除外してこれを架空名義で預金するなどの不正の方法により、右所得金額中三、三三一万四、四九六円を秘匿したうえ、昭和四三年三月一四日自己が納税地としている愛知県海部郡甚目寺町大字西今宿字平割三、五二番地の二を管轄する同県津島市良王町二丁目三一番一号所在の津島税務署において、同署署長に対し、総所得金額は四二四万八、三八〇円で、これに対する所得税額は一〇八万二、八〇〇円である旨過少に虚偽記載した同年度の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年度分の所得税一、九〇四万五、三〇〇円を免れ、

第二、昭和四三年度中における総所得金額は三、一九二万八、八八八円で、これに対する所得税額が一、六三一万五、二〇〇円であるにもかかわらず、前同様不正の方法により、右所得金額中二、六一三万八、五〇八円を秘匿したうえ、昭和四四年三月一四日前記津島税務署において、同署署長に対し、総所得金額は五七九万〇、三八〇円で、これに対する所得税額は一五九万〇、八〇〇円である旨過少に虚偽記載した同年度の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年度分の所得税一、四七二万四、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一、被告人の第一、第七回公判調書中の供述部分及び第八、第九回公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書七通及び大蔵事務官の被告人に対する質問てん末書一七通

一、検察事務官作成の電話聴取書

一、大蔵事務官作成の調査てん末書一四通(検甲第七ないし第一〇号、同第一六ないし第一九号、同第二六号の一、二、同第二七号、同第七七ないし第七九号)

一、森 三、小川雅輝、北川禎士、大橋達雄の検察官に対する各供述調書及び大蔵事務官の右同人らに対する各質問てん末書

一、今岡信夫、大橋幹雄の検察官に対する各供述調書及び大蔵事務官の右同人らに対する各質問てん末書(三通宛)

一、月岡貞明、喜多進の検察官に対する各供述調書及び大蔵事務官の右同人らに対する各質問てん末書(二通宛)

一、大蔵事務官の加藤兼光、加藤行春、鈴木芳友に対する各質問てん末書

一、大蔵事務官作成の調査報告書二通

一、大蔵事務官作成の現金預金有価証券等現在高検査てん末書

一、押収してある預金明細メモ一四枚(昭和四七年押第一四三号の一、二)、預金グラフ一枚(同押号の三)、預金借入金グラフ二枚(同押号の四、五)、関係預金明細メモ二枚(同押号の六)、借入金グラフ一枚(同押号の七)、申告資料一綴(同押号の九)、減価償却明細表二枚(同押号の一〇)、源泉所得税徴収簿一綴(同押号の一一)、給与表二綴(同押号の一二、一四)、源泉徴収簿二綴(同押号の一三、一五)及び定款議事録一綴(同押号の一七)

判示第一の事実につき

一、大蔵事務官の加藤芳美に対する質問てん末書

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲第二号)及び証明書(同第五号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検甲第八〇号)

一、押収してある総勘定元帳一冊(昭和四七年押第一四三号の八)及び約束手形控一冊(同押号の一八)

判示第二の事実につき

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲第三号)及び証明書(同第六号)

一、山本米夫作成の確認書

一、押収してある決算資料一綴(昭和四七年押第一四三号の一六)及び見積書請求書綴一綴(同押号の一九)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人は昭和四六年一月二九日、昭和四二年度の所得更正に伴なう事業税の修正分として一六九万三、一五〇円の追加徴収を受けたが、右金額は翌昭和四三年度の所得計算にあたって同年度の必要経費として負債に計上されるべきであると主張する。

そこで、右のような場合未納事業税をいかなる年度における損金として算入すべきかにつき検討するに、弁護人が指摘するように、なるほど事業税の納税義務は抽象的にはその事業年度の終了によって発生するものであり、資産計算の面では更正の効力により益金の確定が遡及されてなされるのに、損金としての未納事業税は更正の年度の必要経費として扱うことは、いかにも跛行的で、不公平な結果を生ずる虞れがないわけではない。右の点を考慮するとともに実質的な側面に着目すれば、弁護人の前記主張も一概に理由がないものとはいえない。しかしながら、現行所得税法三七条一項の規定は、それが租税行政の有する技術性、形式性等に由来する面があるにしても、この点につき債務の確定を要求していることは明らかであり、未納事業税の損金算入時期についても、当該未納事業税額が具体的に租税債務として確定した年度と解すべきであり、本件のような場合所得更正の時点において初めて未納事業税として具体的に確定するというのほかはない。そうすると本件において、昭和四二年度の所得申告をなし、右申告額に対し算出納付された事業税を昭和四三年度の所得計算上必要経費に算入して所得申告をなした後、のちに昭和四二年度、昭和四三年度の所得につき査察調査を受け、昭和四六年一月昭和四二年度の所得につき更正を受け、昭和四三年度の事業税についても、右更正されたところに従い追加徴収されているのではあるが、右追加徴収分は、もとより昭和四三年度中にはいまだ確定していなかったものというべきである(札幌高裁昭和三九年二月二九日判決、福岡地裁昭和三七年一一月二七日判決参照)。従って、本件における前記未納事業税は昭和四三年度分の所得計算上必要経費として認容されるべきものであるとは解し難い。以上の次第であるから弁護人の前記主張は結局理由がなく採用しない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、本件は、事業資金などを備蓄する意図で、昭和四二、四三年度の所得税合計三、三七六万九、七〇〇円をほ脱した事実で、その態様は遊技場の売上金の一部を日々除外し架空名義預金とするもので、方法は単純であるが証拠書類等を残さないなど周到であり、ほ脱額も少なくないこと、昭和四二年度の所得の申告率は約一一・三パーセントでかなり低いと認められること等からみて、本件の犯情は決して軽くはないのであるが、他方本件各犯行の動機中には、パチンコ遊技場の経営が他の業種に比して堅実性に欠け、不況時対策として資金の備蓄をより必要とした事情が窺われること、被告人は既に起訴状記載の事実に見合う所得の修正申告をなし、本税更正分、過少申告加算税、延滞税など合計八、六〇〇万円余、事業税、町県民税など約二、〇〇〇万円を完納していること、被告人は、本件犯行後パチンコ遊技場の経営をやめ大和開発株式会社の事業に専念し、現在まで年々多額の納税をするなど反省の態度も顕著であり、本件後は公正な経理をしていると認められること、さらに被告人は宅地建物取引業を目的とする同会社の代表取締役であり、業界の信用も厚いのであるが、本件で懲役刑に処せられた場合宅地建物取引業法六六条一項三号、五条一項三号により同会社の免許が取り消される関係にあるところ、被告人は、現在右事業に専念し、多額の借入れをして京都府下で宅地造成を推進中であり、かつ、同会社には被告人以外にはこの種事業の経験ならびに運営の能力を有する者が存在しない実情にあるため、もし、同会社の免許が取消されるときは、右事業は挫折し決定的な打撃をうけ、そのことが周囲におよぼす影響も少なくないであろうことが予想されること、その他被告人の性格、経歴、家庭状況等諸般の情状を考慮するとき、被告人に対し自由刑を科することは刑政の目的にそわないというべきであるから、所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項によりいずれも五〇〇万円をこえる判示の免れた所得税の額に相当する金額を合算した罰金額の範囲内において、被告人を罰金一、二〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川寛吾 裁判官 鈴木之夫 裁判官 永田誠一)

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