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京都地方裁判所 昭和45年(ワ)1692号 判決 1972年2月03日

原告

辻武史

被告

鳥居寛

ほか二名

主文

被告らは各自原告に対し、金四四七万七〇九七円及び内金四〇七万七〇九七円に対する昭和四三年五月三日以降、内金四〇万円に対する昭和四七年二月四日以降何れも完済に至る迄年五分の割合による金員を支払へ

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行する事が出来る。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

被告等は各自原告に対し金六〇七万九、五三〇円及之に対する昭和四三年五月三日より支払済に至る迄年五分の割合による金員を支払へ

訴訟費用は被告らの負担とする。

並に仮執行の宣言

(被告ら)

原告の請求棄却並訴訟費用原告負担

第二請求原因

一  原告は次の交通事故により傷害を受けた。

(1)  発生日時 昭和四三年五月二日午前二時五五分頃

(2)  発生地 京都市中京区御池通寺町東入附近路上

(3)  事故車 普通貨物自動車(京4む七一四八号)自家用ダツトサン

(4)  運転者 被告鳥居寛

(5)  事故の態様 右日時場所において、被告鳥居寛が事故車を運転して東進し、折からタクシーを待つていた原告に衝突し原告に傷害を負わせた。

(6)  傷害の内容 (イ) 左大腿骨骨折、左下腿挫創

(ロ) 通院・入院

昭和四三年五月二日より昭和四四年二月一日まで入院

昭和四四年二月二日より同年一〇月八日まで通院(入院実日数二七六日、通院実日数一二三日)

(ハ) 後遺障害として左膝関節不全硬直を来し、屈曲七〇度、伸展一八〇度正坐が困難であり、左大腿骨に変形が残り、労災障害等数は第一〇級及び第一二級第五号に該当するものである。即ち、「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残し」「骨に畸形を残す」ものである。

(7)  被告鳥居寛の過失

被告は自動車運転の業務に従事していたものであるが、普通貨物自動車を運転し時速約五〇キロメートルで東進したものである。しかし、運転開始前、呼気一リツトルにつき〇・二五グラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができない恐れがあるのに運転を為し、ビールの酔いのためハンドル、ブレーキ操作を確実にすることが困難な状態であつた。被告は直ちに運転を中止して酔いの醒めるのを待つて運転すべき注意義務があつたのに、そのままの状態で運転を継続し、自車前方約六六メートルの地点に原告を認め乍ら、適切な避譲措置をとらなかつた過失によつて、原告に対し前記傷害を蒙らせたものである。ちなみに、鳥居は昭和四三年一〇月一一日京都簡易裁判所確定判決に基づき(業務上過失傷害、道交法違反)罰金五万円の処罰をうけている。

二  帰責事由

被告は次の事由により、本件事故のために生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(1)  根拠

被告鳥居寛について一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告会社について運行者の責任(自賠法第三条)

被告鳥居龍一について民法七一五条の不法行為責任

(2)  被告会社は事故車の所有者であると共に使用者であり、且つ果実店営業のためにこれを使用し、被告鳥居寛も右会社の従業員であり、右営業の遂行上において本件事故を惹起したもので、運行供与者の責任がある。被告鳥居龍一は被告会社の代表取締役で、被告会社の事業を監督する者である。

三  損害

(一)  過失の得べかりし利益の喪失 金五七万九五三〇円

原告はブロツク積工として、土木下請佐山組(代表者佐山幸吉)に勤務し、本件事故前である昭和四三年二月より四月まで一ケ月の平均賃金六万九九七五円の収入を得ていたものである。ところで、本件交通事故により昭和四三年五月二日より昭和四四年二月一日まで入院を余儀なくされ、更に同四四年二月二日より同年一〇月八日まで通院を余儀なくされるに至つたもので、その間何等労働に従事することはできなかつた。

従つて、休業期間は五二〇日であり、一日二三三三円の平均賃金であるから一二一万三一六〇円であり、被告等より六三万三六三〇円の支払を受けたので五七万九五三〇円の得べかりし利益の損失を蒙つた。

(二)  将来の得べかりし利益の損失 金三〇〇万円

原告は後遺症として、後遺障害等級第一〇級第一〇号及び一二級五号に該当するところ、後遺障害の等級表労働能力喪失率は一〇〇分の二七である。原告は現在三二才であり、就労可能年数は三一年、ホフマン式計算による係数は一八・四二一である。

原告の一ケ月の平均賃金は六万九九七五円であるから一年の平均賃金は八三万九七〇〇円となり、係数は一八・四二一であるから一五四六万八八八一円となる。これに労働能力喪失率一〇〇分の二七を乗すれば四一七万六五九七円となる。内金三〇〇万円をとりあえず請求する。

(三)  慰謝料 金二〇〇万円

(1) 原告は長期間の入院通院を経て漸やく退院したものの、その後最早ブロツク積工としての業務に従事できないばかりか、日常的に歩行不便や正坐ができないところか、便所にてしやがむことすらできない不具同然となるに至つた。

(2) 原告は現在三二才であり、結婚適令期にあつたものの、本件交通事故によつて図り知れないぐらいの将来の身分上の影響を蒙るに至つた。

(3) 更に、将来の生活設計は何ら現在とることができない状態で、その精神的苦痛は尺度をもつて計測できないくらい残酷なものがある。

よつて、慰謝料を金銭に評価するならば金三〇〇万円が相当であるが、とりあえず内金二〇〇万円を請求する。

(四)  弁護士費用 金五〇万円

原告は本件訴訟手続を委任するに当り、勝訴判決を得た時に報酬として判決金額の二割以内の範囲で金五〇万円を支払うことを約した。

旨陳述し、被告らの過失相殺に関する抗弁事実は否認し、損益相殺については治療費三二万四五九三円付添費一三万一五三〇円股関節装具購入費として二万九五五〇円の損害を存するかこの全額につき被告より受領したこと及び後遺症補償費三一万円を受領した事は認める。

第三被告らの答弁並に抗弁

(被告鳥居寛)

一  請求原因第一項中、原告主張の日時、場所、被告鳥居寛が原告主張の如き罰金刑に処せられたことおよび原告の入院および通院の事実については認めるが、傷害の内容、退院の時期、通院期間、後遺障害等については不知である。

二  請求の原因第三項の損害額については争う。

抗弁

一  過失相殺

原告は、本件事故の原因が被告鳥居寛の過失に基づくものである旨主張するが、原告にも重大なる過失が存し、右過失は損害賠償額の算定につき斟酌さるべきである。

即ち被告鳥居寛は昭和四三年五月二日午前二時五五分頃京都市中京区御池通寺町東入る付近路上を時速五〇キロで東進中約六〇メートル手前で原告がグリーンベルト南端より車道に片足をだして立つているのを認めたが同被告としては何ら危険を感じず、そのまま直進し、約一二メートルに迫つたとき、原告が車道内へ出てくるのを認めたが、同被告としては原告が西方向を見ていたので同被告の車が接近中であることを認めて当然危険を感じて後退又は立止まるものと考え、ハンドルをやや右に切りながら通過しようとしたところ、原告は同被告の意に反しそのまま車道内へ歩いて来たため、同被告の車の左前部を原告に衝突させたものである。

してみると本件事項については被告鳥居寛に過失が存したとしても、原告にも前述のように横断歩道でもない所で、しかも被告鳥居寛の車の直前を車道内に出てきたという極めて重大なる過失が存したものといわざるをえない。

二  損害の填補

(一) 被告鳥居寛は、治療費として金三二四、五九三円也を(乙第一号証、甲第二号証)付添費として金一三一、五三〇円也を(甲第一号証の三四)、股関節装具購入費として金二九、五五〇円也を、休業補償費として、金六三三、六三〇円也を支払済である。(合計金一、一一九、三〇三円也)

(二) 原告は、強制賠償保険より、昭和四六年三月二九日、後遺症補償として金三一万円(後遺障害等級第一二級該当と認定されている。)を受領済である。

(被告栄寿屋及び鳥居龍一)

(一)  原告主張の日時において原告が負傷したこと、

(二)  原告主張の京4む七一四八号普通貨物自動車の所有者は被告会社であること、

(三)  鳥居寛は被告会社の従業員であること、

を認めるが、その余は争う。原告の損害は不知。被告会社は、事故発生時においては運行供用者ではない。

抗弁

一 本件事故発生場所は、御池通という京都市唯一の大通の、しかもその真ン中の車道上であり、横断歩道上でもない。公知のごとく御池通は、車道を中央にしてその両側は、グリーンベルト、緩速車道、歩道に区別されている。本件事故発生場所は中央の車道上であり、午前三時の深夜酩酊して中央車道を歩行するところに原告の大きな過失が存在する。

二 被告会社は、鳥居寛の選任監督に十分の注意を払つているばかりでなく、本件事故の発生は、深夜の午前三時であり、外形的にも常識上かかる時間に、事業の執行はありえない。被告会社は果物、菓子等を販売することを業とするものであり、かかる深夜の営業は全くない。

事故発生時の具体的運行は、被告会社のためのものではないのである。

旨それぞれ陳述した。

第四〔証拠関係略〕

理由

第一本件事故の態様について

本件事故の発生日時や場所については当事者間に争いのないところ、〔証拠略〕を綜合すると次の事実が認められる。

本件事故のあつた御池通りは片側幅員九・一メートルの本車道とグリーンベルト(幅員三メートル)を距て、北側に幅員六メートルの緩速車道とがあり、河原町通りとの交差点の手前であつて本車道は直進、緩速車道は軽車両又は左折車のため利用されていたものであり、直線、平たんの見透しのよい道路であるが当時は真夜中の事とてあたりはうす暗く、又車及人の往来はまれであつた。被告鳥居寛は被告会社の従業員として商品である果物を配達すべく酒気を帯びて事故車を運転し、御池通りを西から東へ向い時速五〇キロ位で走行寺町通を越えたあたりで前方約六六メートル附近左側グリーンベルトの上にタクシーを待つているらしい格好の原告を認めたが、斯様な場合、原告が、タクシーを止めるため何時グリーンベルトを離れて車道に出て来るかも分らないのであるから、その動静に注意すると共に減速し、出来るだけグリーンベルトから離れた箇所を通過して衝突の危険を避けるべき注意義務があるのに之を怠り、そのままの速度で而もグリーンベルト寄りに通過しようとしたため、折柄タクシーを止めようとグリーンベルトから車道へ一、二歩踏み出した原告に、自車前部左側フエンダーの角に打当てその場に転倒せしめ後記の傷害を与えた。右認定に反する〔証拠略〕は措信しない、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると本件事故が被告鳥居寛の過失に基くものである事は明かである。

第二原告の受傷と後遺症状

〔証拠略〕によると、前記事故により左大腿骨骨折、左下腿挫創の傷害を受け事故当日より翌昭和四四年二月一日迄(二七六日)入院治療を受け退院後同年一〇月八日迄通院(一二三日)治療をつづけたが、左膝関節不全強直により正坐困難にして左大腿骨に変形を残す後遺症状により固定し労災保険等級一〇級一〇号(稼動能力一〇〇分の二七減少)一二級五号に該当するものと認められる。

第三被告等の責任

事故車が被告会社の所有であることについては争いがなく〔証拠略〕によれば、果物商を営む被告会社の業務のために常に使用している事が明かであり、従つて、被告会社に自賠法第三条による運行供用者としての責任は免れない。次に被告鳥居龍一の責任について被告会社の登記簿によれば同人は被告会社の代表取締役、被告寛は取締役になつているが、〔証拠略〕によれば同会社は果物商を営み、寛は実質的には給料四万三千円の支給を受け、果物類の販売配達に従事する従業員である。従つて両名は形式上は何れも被告会社の役員であるが、純然たる共同経営ではなく(資本的には明かでないが)龍一は兄として、又同会社の代表者として、寛に対して事業上の監督者の地位にあるものと言える。而して前記認定のように本件事故は寛が夜中とはいえ得意先の深夜喫茶店に註文の果物を配達に行く途中に起つたものであるから前記寛の過失責任につき監督者としての責任は免れない。

第四原告の蒙つた損害

一  休業による損害

〔証拠略〕により、原告の事故直前三ケ月の平均賃金は六万五三六一円(原告は税込の計算に従つているが実際支給された金額が、休業による損害と認むべきであるから支給額に拠つた)であり、之を一日に換算すると二一七八円であるから休業期間は前記入院、通院期間を通じ主張通り五二〇日と認められるからその総額は一一三万二五六〇円となる。

二  将来の得べかりし利益

原告の年令、稼働年数、ホフマン式計算による係数は原告主張通り認められるが筋肉労働者である原告については労働能力喪失率について前記認定による一〇〇分の二七と、証人関谷登の証言とを綜合すると右の喪失率によつて計算すべきものと認められるので、前記平均賃金六万五、三六一円を基準にして計算すると三八八万二、〇九七円となるからこのうち三〇〇万円の請求額が認められる。

三  慰謝料の額について

〔証拠略〕によれば事故より約三年前に一人前のブロツク積工としての技術を習得し、前述の収入を得て独身生活をしていたものであるが本件事故のため、筋肉労働者としての従来の能力を発揮出来ず又妻帯についての希望も実現性が減少した事など推測する事が出来る。その他入院通院期間等諸般の事情を考慮して、金一五〇万円が相当である。

四  弁護士費用については後述する

第五過失相殺の抗弁について

前述第一項で認定したように原告はタクシーを拾うため緩速車道を超えてグリーンベルトの上に立ち西方を見ていたのであるが事故車の後方にあるタクシーのみに気をとられて、事故車の進行して来るのに注意を払はなかつたため、車道に一、二歩踏み出したところを事故車にはねられたのである、夜間通行量は稀であるとはいえ、車道に出るときは左右の安全を充分確認した上で歩行すべきであるのにその安全確認を怠つた過失がある。而してその割合は原告一、被告鳥居寛が九とするのが相当である。

第六損益相殺について

原告は、治療費等合計四八万五、六七三円につきその全額を、休業補償費については六三万三、六三〇円を後遺症補償として三一万円を受領した事を認めているので、前記損害額の合計五六三万二、五六〇円の九割(過失相殺分)五〇六万九、二九四円より、治療費等の過払分一割及休業補償、後遺症補償として受領した分を差引くと金四〇七万七、〇九七円となる。

第七結論

被告らは各自原告に対し四〇七万七、〇九七円と、弁護士費用として認められる約一割の費用四〇万円を支払う義務があるから右四〇七万七、〇九七円については本件事故の翌日である昭和四三年五月三日以降の遅延損害金、四〇万円については本判決言渡の翌日である昭和四七年二月四日よりそれぞれ年五分の割合による金員の支払義務あり、従つて、その余の原告の請求は棄却し民事訴訟法第八九条第九三条第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山田常雄)

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