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京都地方裁判所 昭和45年(ワ)1081号 判決 1971年5月10日

原告

京都帝酸株式会社

代理人

山下潔

浜田次雄

被告

更生会社株式会社平安製作所管財人

植松繁一

外一名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一本件記録上次の事実が認められる。

(一)  原告会社の更生会社である株式会社平安製作所に対する届出債権(約束手形債権金三八六万六、七七五円)は、昭和四五年七月七日の債権調査期日に、管財人植松繁一、同黒瀬正三郎によつて異議が述べられた。

(二)  そこで、原告会社は、同年七月二一日弁護士山下潔、同浜田次雄に、会社更生法一四七条にもとづく本訴の提起を委任した。

委任を受けた両弁護士は、原告会社の訴訟代理人として同年八月五日当裁判所に本訴を提起したが、その訴状では、被告を、管財人植松繁一だけにした。訴状に添付された京都地方裁判所裁判所書記官広瀬恵一の同年八月五日付証明書には、管理人は、被告両名であることが明記されている。この証明書は、原告会社の代理人弁護士浜田次雄の申請によつて発出されたものである。

(三)  当裁判所は、同年九月五日本件口頭弁論期日を、同年一〇月二四日午前一〇時と指定したところ、被告植松繁一に対しては、同年九月九日、訴状副本とみぎ期日の呼出状が送達された。

(四)  原告会社訴訟代理人両名は、同年九月一一日受付の「当事者の表示訂正の申立書」と題する書面を当裁判所に提出し、被告の表示を、被告植松繁一と被告黒瀬正三郎の二名の管財人に訂正する旨の訂正の申立てをした。

(五)  そこで、当裁判所は、同年九月一四日、被告黒瀬正三郎に対し、訴状副本と、前記期日の呼出状の送達をした。

二会社更生法九七条一項本文によると、管財人が数人あるときには、共同して職務を行わなければならないわけで、管財人を相手どつて提訴する場合には、すべでの管財人を被告としなければならないことは、同法条ならびに同法九六条一項によつて明白である。本件において、同法九七条一項但書にある管財人間で職務の分掌の定めがあつたことの証拠はない。そうして、このことは、同法九七条二項に「管財人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる」との規定があることによつて変わるものではない。数人の管財人が共同被告になるのであつて、更生会社が被告となり、管財人が共同代表になる関係にあるのではない。従つて、原告会社代理人が提出した「当事者の表示訂正の申立書」は、被告黒瀬正三郎に対する関係では、訴の提起であつて、単なる当事者の表示訂正にとどまらない。

他方、会社更生法一四七条二項によると、本訴は、債権調査期日のあつた昭和四五年七月七日から一月以内に提出しなければならない。そうして、この提訴は、適法なものであることを必要とすることは勿論である。

しかし、原告会社訴訟代理人が、昭和四五年八月五日に提起した本訴は、管財人両名を被告としなかつた点で違法である。そうして、被告黒瀬正三郎に対する提訴によつて、はじめて被告両名に対する訴提起の効果が生じるものと解するほかはないが、しかし、この時点では、すでに法定された一月を経過してしまつていたとしなければならない。なお、当裁判所は、被告黒瀬正三郎に対する提訴により、本訴は、当初から遡及的に適法な訴の提起となり、訴提起の法定期間は遵守されたとする見解を採用しない。そのわけは、当事者適格は、口頭弁論終結当時を基準にして判断すれば足りるが、そのことと、被告両名に対する訴提起が法定期間内にされたかどうかとは別個の問題であるからである。

三以上の理由により、本件訴は、会社更生法一四七条二項の法定期間内に提起されない不適法な訴であるから却下するほかはない。そこで、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(古崎慶長)

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