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京都地方裁判所 昭和45年(わ)1445号 判決 1971年5月22日

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中百二十日を右刑に算入する。

理由

罪となるべき事実

被告人は、昭和三七年一二月二二日御嵩簡易裁判所において、窃盗、同未遂、住居侵入の罪により懲役一年に、同四〇年一一月四日一宮簡易裁判所において、窃盗の罪により懲役八月に、同四五年六月五日奈良簡易裁判所において、窃盗の罪により懲役一年に処せられ、いずれも、左記犯行前一〇年内にその刑の執行を受けたものであるが、常習として、

(一)  同四五年八月二〇日午前二時頃、京都府相楽郡木津町西吐師大宮神社境内管居有長方において、窃盗の目的で同家屋内に侵入し、整理箪笥の抽斗を開けるなどして物色したが、金目の物が見当らないためその目的を遂げず、

(二)  同月二九日頃、同郡加茂町大字東鳥口六番地所在の日本通運株式会社桃山支店加茂派出所において、窃盗の目的で徳田繁一の看守にかかる同派出所内に侵入し、書類箱の抽斗を開けるなどして物色したが、金目の物が見当らないためその目的を遂げず、

(三)  別紙犯罪行為一覧表記載のとおり、同月二〇日頃から同年一二月四日頃までの間前後一三回にわたり、同郡木津町大字相楽小字下河原二〇番地東菊夫方ほか一二箇所において、同人らの所有にかかる金品を窃取し、

(四)  同月七日午後一〇時三〇分頃、同郡精華町大字南稲八妻小字政ケ谷六九番地鎌田誠三方において、窃盗の目的で、同人の看守にかかる同家納屋に侵入したものである。

証拠の標目<略>

累犯加重の原因となるべき事実<略>

法令の適用

盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第三条(窃盗をもつて論ずる場合)、刑法第五九条、第五六条、第五七条、第一四条、第六六条、第七一条、第六八条第三号

ほかに同法第二一条、刑事訴訟法第一八一条第一項但書

常習累犯窃盗と住居侵入を包括一罪と認定した理由

判示認定の事実のうち、(一)(二)の各窃盗行為の手段として行なわれた住居侵入の所為および(四)の窃盗の目的で行なわれた住居侵入の所為は、常習累犯窃盗の罪と別罪を構成し、これと牽連犯または併合罪の関係にあるのではないかとの疑問を生ずる。しかして、その認定にかかる窃盗行為が、判示期間内に反覆累行された事蹟に徴すれば、判示前科と相俟つて盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(以下単に法と略称する)第三条の常習累犯窃盗の一罪を構成することは毫も疑いを入れないところである。以下、前記疑問点について順次検討する。

(1)  判示(一)(二)の窃盗行為の手段として行なわれた住居侵入の所為について

法第三条は「常習トシテ前条ニ掲ゲタル刑法各条ノ罪又ハ其ノ未遂ヲ犯シタル者」と規定し、その趣旨からは、法第二条の常習特殊窃盗の場合と異なり、住居侵入等の犯罪の手口を常習累犯窃盗の罪の構成要件事実に取り入れていないとみられうるので、文理上、手段としての住居侵入の所為は、常習累犯窃盗の罪に吸収されないと理解しえられないものでもない。

そこで、これらの規定を立法の趣旨に照らして勘案するに、法第三条は、法第二条の補充規定としての関係にあるものと解すべきである。したがつて、当該行為が、全体として法第二条の要件を具備するときは、たとえ、同時に法第三条の要件を具備する場合であつても、刑法第五四条第一項前段の規定に依拠することなく、直ちに法第二条の規定のみを適用するものというべく、そして、法第二条の要件を具備しないときに、はじめて法第三条の規定の適用をみるに至るものというべきである。

されば、このことから、法第二条所掲の夜間住居侵入等による窃盗が行なわれた場合でも、その方法の特殊性について常習性が認められないため法第二条の要件を欠如するときは、その適用は排除され、法第三条の規定によつて処断されるものというべく、このような両者の関係に鑑みれば、法第三条の常習累犯窃盗の罪には、法第二条の常習特殊窃盗の罪の場合と同様に、手段としての住居侵入の所為が、その構成要件的事実として当然に取り入れられているものと解すべきである。そして、この場合に、その住居侵入の所為の或るものが夜間に行なわれたと否とは、法第二条の場合との権衡上、常習累犯窃盗の罪の構成要件的事実のうえにおいても敢えて問うところではない。

さようなわけで、判示(一)(二)の窃盗行為の手段として行なわれた住居侵入の所為は、本件常習累犯窃盗の罪に吸収され、別罪を構成しないものと解するのが相当である。

(2)  判示(四)の窃盗の目的で行なわれた住居侵入の所為について

住居侵入を犯罪の手口として窃盗が行なわれた場合に、その窃盗行為が常習性癖の発露として認められるときは、住居侵入の所為が法第三条の常習累犯窃盗の罪に吸収され、別罪を構成しないものと解すべきは前述のとおりである。そうだとすれば、窃盗の目的で住居に侵入しながら、窃盗に及ばなかつた行為が存在する場合に、その住居侵入の所為が、常習累犯窃盗の罪とは法律上無関係のものとして別罪を構成し、右と併合罪の関係にあるものとして処断されることは、住居侵入を手段として窃盗行為に及んだ場合に比較し、却つて処断刑が併合加重される結果となつて、刑の権衡を失し不合理のそしりを免れない。されば、住居侵入の所為が窃盗の目的として行なわれ、その(目的とする)窃盗が常習性癖の発露として推認することを妨げられない限り、現実にその窃盗行為に及ばなかつた場合でも、住居侵入の所為は常習累犯窃盗の罪に吸収されるものと解することが、よく法意にも適し、相当性の評価に耐えうるものというべきである。

さようなわけで、判示(四)の窃盗の目的で行なわれた住居侵入の所為もまた、本件常習累犯窃盗の罪に吸収され、別罪を構成しないものと解するのが相当である。

以上、判示住居侵入を包含する各事実につき、これを包括して常習累犯窃盗の一罪と認定したゆえんである。よつて主文のとおり判決する。(橋本盛三郎)

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