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京都地方裁判所 昭和44年(ワ)1595号 判決 1974年1月31日

原告

田村文子外二名

原告ら訴訟代理人

鏑木圭介

河田毅

被告

京都府

みぎ代表者

蜷川虎三

みぎ訴訟代理人

小林昭

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  請求の趣旨と答弁

一  原告ら

被告は、原告田村文子に対し金七八六万円、原告田村敏枝、同田村明美に対し各金七七六万円と、これらに対する昭和四四年一一月一五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決と仮執行宣言。

二  被告府

主文同旨の判決。

第二  原告ら主張の本件請求の原因事実

一  原告田村文子の夫で、そのほかの原告らの父である訴外亡田村卓は、昭和四三年九月八日午後一時一五分ごろ、京都市右京区常盤窪町一の六にある被告府の府営常盤団地で、電話ケーブル架渉工事中、団地の引込口配線に接触して感電し、同日午後二時三〇分ごろ、訴外河端病院で心臓麻痺のため死亡した。<後略>

理由

一本件請求の原因事実中、第一項の事実、第二項中、本件引込口配線が被告府の所有であること、訴外亡田村卓が本件事故の時、保護具類を着用していなかつた事実は、当事者間に争いがない。

二本件事故の原因について

(一)  みぎ争いのない事実や、成立に争いのない甲第五号証の一ないし五、丙第一号証を総合すると次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(1)  本件事故現場の模様は、別紙図面のとおりである。

A、B、Cは電話線用の電柱で、A柱は地上5.8メートル、B柱は地上5.9メートルの高さである。

関電の架空電線用コンクリート柱(D)を起点として、府営住宅に取り付けられた引込線用腕金(E)に低圧用三相交流架空電線三本が引き込まれ、動力用架空電線(二〇〇ボルト)三本は、このD、Eから浄化槽用ポンプ室(高さ2.2メートル)の北側の東端面に取り付けられたL型鋼の電柱(F)に引き込こまれている。

このFの高さは、地上3.56メートルである。

この電話線と動力線とは、本件事故現場で交差し、動力線は直下の自転車置場のトタン屋根から2.2メートル上空にあり、その上空0.5メートルのところに電話線がある。

(2)  田村卓は、本件事故のあつた昭和四三年九月八日午後一時ごろ、府営住宅の三〇回線用電話ケーブルを五〇回線用電話ケーブルに取り替えるべく、架設してあるケーブル取付用ワイヤーに架渉器をかけ、旧ケーブルをはずし、新ケーブルを掛ける作業をはじめた。

田村卓は、AからBへと取替えをすませ、BC間で、体重と架渉器の重さでワイヤーが下さがり、恰度交差していた三本の動力線のうちの一本(イ)に後首部が接触し、左手、腹部へ感電した。

この場所は、地上から3.85メートルの空中である。

(3)  本件事故のとき、動力線三本とも、その被覆がボロボロになり、裸線になつた部分が多く、田村卓が感電したのは、裸線になつた部分である。

(二)  みぎ認定の事実から、次のことが結論づけられる。

(1)  田村卓は、電話線のワイヤーに取りつけた架渉器に乗つてケーブルの取替作業中、体重と架渉器の重さのためワイヤーが下にさがつたとき、恰度ワイヤーの下0.5メートルのところを交差していた動力線の一本にふれて感電した。

(2)  この場所は、地上から3.85メートル、自転車置場のトタン屋根から2.2メートルの空中である。

(3)  田村卓が接触した動力線の箇所は、被覆がとれ、裸線同様になつていた。

三被告府の動力線の保存について

<証拠>を総合すると次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  本件府営住宅は、昭和三一年ごろ建設され、それと同時に本件の引込口配線(動力線)が引き込まれた。この動力線は、第二種綿絶縁電線で、その耐用年数は約一五年である。

(二)  関電は、そのころから本件動力線の点検調査をしてきたが、昭和四一年一月からは、訴外財団法人関西電気保安協会が隔年に一回調査に当つてきた。

同協会は、昭和四一年一〇月目視点検調査をしたが、本件動力線に異常はなかつた。

(三)  被告府は、本件事故までに、これとは別に、本件動力線を点検調査したことはなかつた。

この隔年の点検調査は、電気事業法六七条、電気事業法施行規則六七条にもとづくものである。

(四)  本件動力線が引き込まれた後に、電話線が0.5メートルも接近して敷設された。この敷設は、電気設備に関する技術基準を定める省令の要求する一メートルの間隔を無視したものである。

四責任原因

本件動力線の点検調査は、関電もしくは財団法人関西電気保安協会が、隔年に一回、目視の方法でしているが、本件動力線の所有者である被告府が、このため、本件動力線の保安管理をしなくてもよいことにはならない。

ところで、本件事故のあつたのは、地上3.85メートル自転車置場のトタン屋根上2.2メートルの空中である。ということは、通常人のたやすく近づくことのできない場所であるということである。

通常人のたやすく近づくことのできる場所に裸線のまま動力線を放置しておくことと、通常人のたやすく近づくことのできない場所に裸線を放置しておくこととは、その通常人に与える危険性に重大な差違があるから、前者の場合には、そのことで直ちに動力線の保存に瑕疵があつたことになる。しかし、後者の場合にも、直ちに同一に論ずるわけにはいかない。換言すると、工作物管理者は、通常予想される危険性に備えて工作物を保存すれば足りるということである。

この視点に立つて本件をみると、被告京都府は、本件動力線の安全管理をする際、本件のような特種な事故の発生を予想し、電話線の工事人の工事中の感電事故まで考慮にいれて本件動力線を保存する必要はないということに帰着する。

むしろ、電話線の工事人の方で保護具類を使用して交差する動力線で感電しないよう自らの身の安全を守るべきであつた。

不法行為法の機能は、発生した損害を、衡平上誰が填補するかということであるが、本件で田村卓に生じた損害は、田村卓とその使用等で填補するべきであつて、本件動力線の所有者である被告府に填補させるのは衡平に反する。

以上要するに、本件動力線に裸線同様の部分があり、そのため田村卓が感電しても、本件動力線の所有者である被告府は、本件のような特種な事故の発生を予想してまで本件動力線を保存する必要はないから、被告府には、工作物である本件動力線の保存上の瑕疵がないとしなければならない。

五以上の次第で、その余の判断をするまでもなく、原告らの本件請求は失当であるから、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。 (古崎慶長)

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