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京都地方裁判所 昭和44年(ワ)1004号 判決

原告

田中浩作

被告

京都市右京区長

池井敏雄

代理人

納富義光

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、本件第一回ないし第一二回準備手続期日のうち、第一回および第八回準備手続期日にのみ出頭し、第一回準備手続期日において、「釈明の上次回に訴状を陳述する」旨陳べ、第八回準備手続期日において、「本件において原告が相手方としている被告は誰か(京都市右京区長であるのか、京都市右京区長の肩書を有する個人としての池井敏雄であるのか)。」との釈明命令に対し、「京都市右京区長である。」と釈明し、本件口頭弁論期日(第一回および第二回)に出頭しない。陳述したものとみなした訴状によれば、請求の趣旨、請求の原因はつぎのとおりである。

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、京都新聞の突出部分に縦一二センチメートル、横二センチメートルのスペースをもつて、朝日新聞および毎日新聞の各京都版突出部分にいずれも縦5.25センチメートル、横二センチメートルのスペースをもつて、それぞれ別紙目録記載の謝罪広告をなし、かつ、右内容の謝罪文を京都市右京区桂学区の全戸に一部宛配布しなければならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二、請求の原因

1  原告は、昭和四三年四月一日京都市市政協力委員に委嘱され、昭和四四年四月二五日京都市右京区桂東自治連合会長に就任し、現在に至つている者である。

2  京都市右京区長池井敏雄は、原告に対し数年前より極度に敵愾心を抱いていた者であるが、その公的地位を濫用して原告に対する右市政協力委員の委嘱を取消そうと企て、昭和四四年六月二五日付の京都新聞夕刊の紙上において、原告が理由もなく市民にいやがらせをしているなど虚偽の事実をあげてあたかも原告が市政協力委員として不適格であるかのごとく誹謗する談話を発表し、原告の名誉を著しく毀損した。

3  池井敏雄の右行為は原告の基本的人権を侵害する不法行為であるから、被告は、原告に対し、国家賠償法第一条第一項、第四条、民法第七二三条に基づき、原告の名誉を回復するに適当な措置を講ずる義務がある。よつて、本訴請求に及んだ、

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2、3項の事実のうち、原告主張の新聞紙上に原告に関する池井敏雄の談話が掲載されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右談話の内容は、「住民へ理由もなくいやがらせをしている田中さん(原告)を市政協力委員に委嘱することはできない。いやがらせを目撃している市民もいる。区役所などにもこれまでに暴言で不当な圧力をかけてきており、職員の中には恐れている者も多い、芝ノ下町に関しては早急に田中さん以外の人を市政協力委員として推薦してもらうよう働きかけている」というものであり、右は、いずれも真実を述べたものであり、しかも、公共の利害に関する事柄で、池井敏雄は、もつぱら公益を図る目的をもつて述べたものであるから、右談話が原告の名誉に関するものであつても、違法とはいえない。

理由

原告の本件訴訟は、行政機関としての京都市右京区長を被告として、京都市右京区長池井敏雄がなした名誉毀損の不法行為を原因として、国家賠償法第一条第一項、第四条、民法第七二三条に基づき、謝罪広告および謝罪文配布を請求するものであるから、本件訴訟は、行政事件訴訟ではなく、民事訴訟である。行政機関としての京都市右京区長は、私法上の権利の主体たりうる資格(権利能力)を有しないから、民事訴訟において当事者能力を有しない。したがつて、行政機関としての京都市右京区長は、謝罪広告掲載および謝罪文配布を請求する本件訴訟において、当事者能力を有しないから、本件訴は却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小西勝 舘野明 鳥越健治)

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