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京都地方裁判所 昭和39年(行ウ)14号 判決 1977年4月15日

京都市中京区河原町通三条下ル山崎町二三四番地

原告

二宮判述こと

李判述

右訴訟代理人弁護士

杉島勇

右訴訟復代理人弁護士

松村美之

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持寺町一五番地

被告

中京税務署長

北村政雄

右指定代理人

宝金敏明

安久武志

北野節夫

森本圭治

畑健治

西田春夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告が昭和三九年二月二五日原告に対しそれぞれなした

(一)  原告の昭和三五年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額三三一万八七九九円を超える部分、

(二)  原告の昭和三六年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額五四九万六〇九二円を超える部分、

(三)  原告の昭和三七年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額一〇二一万八八五七円を超える部分

をいずれも取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、サロン経営・金融・時計販売などを業とする者であるが、その昭和三五ないし三七年(以下、本件係争年という)の各年分所得税について、それぞれの総所得金額を別表1の確定申告額欄記載のとおり確定申告したところ、被告は昭和三九年二月二五日これらをそれぞれ別表2記載のとおりに更正する処分(以下、本件各更正処分という)をなし、その頃これを原告に通知した。

2. しかし、本件各更正処分のうち、不動産所得金額についてはいずれもその認定に誤りがあり、本件係争年分の各総所得金額について別表1の不服限度額欄記載の各金額(請求の趣旨参照)を超える部分はいずれも違法であるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。

三、抗弁(本件各更正処分の適法性)

1. 被告は昭和五〇年五月二八日付で原告に対し、本件各更正処分のうち、昭和三六年分不動産所得金額を三〇〇万円減額して四一三万六五六八円(従つて同年分総所得金額も三〇〇万円減額)とし、昭和三七年分不動産所得金額を一七〇万円減額して二〇八万七〇七二円(従つて同年分総所得金額も一七〇万円減額)とする再更正処分(以下、本件再更正処分という)をなし、その頃これを原告に通知した。

2. 原告の本件係争年分総所得金額およびその算定根拠は別表3の総所得金額欄および内訳欄記載のとおりであり、その範囲内でなされた本件各更正処分(但し、本件再更正処分後のもの)はいずれも適法である。

3. 不動産所得金額の算定根拠

(一)  原告はその所有にかかる麗峰会館(京都市中京区河原町四条上る紙屋町に所在する木造二階建の建物で、各階に約一〇室の貸店舗(バー)の設備を有する)を次のとおり賃貸し、係争年中に別表4記載のとおり不動産収入があつた。

(1) 昭和三五年四月六日から翌三六年五月二八日までの間は株式会社麗峰(代表取締役は原告。また、以下株式会社を単に(株)と表示する)の名義で、別表5および6記載のとおり、賃借人欄記載のバー経営者に室番欄記載の各店舗を賃貸し、右経営者から賃貸借契約金欄と賃貸料欄の各被告主張欄記載のとおり賃貸借契約金(以下、これを総称して本件賃貸借契約金という)と賃貸料の収入があつた。

(2) 昭和三六年五月二九日以降は貸室業を営業目的として同日設立された麗峰商事(株)(代表取締役は原告、以下麗峰商事という)に対し麗峰会館全部を賃貸料月額二五万円で賃貸し、麗峰商事から昭和三六年分(六月から一二月までの七か月分)賃貸料として一七五万円および昭和三七年分(一二か月分)賃貸料として三〇〇万円を取得した(別表4の賃貸料(麗峰商事)欄記載参照)。

(二)  右不動産収入の必要経費は別表4の同項目欄記載のとおりである。

(三)  よつて、係争年分不動産所得金額(右収入金額から右必要経費を控除した差額)は別表3の同項目欄記載のとおりになる。

4. バー経営者からの不動産収入の帰属主体

(一)  原告が右3(一)のとおり名義を使用した(株)麗峰は実体法上法人としての存在を認められないいわゆる仮装法人であり、原告はその法人の形式を租税逋脱の目的で濫用したことは次の事実に照して明らかであるから、右収入の帰属主体は原告である。

(1) (株)麗峰は昭和二七年四月一六日南都実業(株)として設立されたが、その後、南興物産(株)、ヤマサン衣料(株)、山三衣料(株)、双和(株)と再三の商号変更を経て、昭和三三年一一月八日(株)麗峰と商号が変更された。

そして、(株)麗峰と商号を変更すると同時に、本店所在地を移転し、営業目的も従前の繊維製品の加工販売等から一転して飲食業等(後さらに、金融業・貸室業等)に変更されたうえ、役員も全部交替し、従前の役員とは関係のない原告およびその妻などが就任した。

(2) 南都実業(株)は上村又三を発起人として設立されたが、日浅くして経営不振となり、いわゆる内整理の段階に入りながら、右のとおり商号を再三変更するなど事業の再建をはかつたものの、業績回復に至らず、昭和三一年末頃には事業活動を全く停止し、資産も消滅して、事実上解散状態となつていた。

双和(株)は資産・負債の整理など事実上の清算を担当し、資産も従業員もなくなり、単に商業登記のみが残存する状況になつた。

そこで、双和(株)の事実上の責任者上村又三と旧知の間柄にあたり、南都実業(株)に未回収債権を有していた原告が、右商業登記を違法に利用するため、右(1)のとおり登記簿上の記載を変更した。

(3) (株)麗峰は右登記変更後も法人としての実体を備えていないことは、次の事実から明らかである。

(イ) 双和(株)は管轄の下京税務署によりいわゆる除却法人とされていたところ、(株)麗峰として商号変更・本店の移転などをしたのに、その代表取締役となつた原告は新旧両本店所在地を管轄するいずれの税務署長に対してもその旨の届出をせず、また、(株)麗峰はこれからわずか二年半余を経て解散したが、その間の法人税の申告を全く欠くうえ、清算手続もしていない。

(ロ) (株)麗峰が麗峰会館の貸室業を開始したのは昭和三五年四月六日とされているが、これを営業目的として登記したのは翌三六年二月一四日であり、しかも、(株)麗峰のもう一つの営業目的である金融業は原告の個人事業としてしか行なわれていない。

それに、(株)麗峰には商業帳簿すら備付けられていなかつた。

(ハ) 麗峰会館は昭和三四年九月頃(株)石田組の請負により翌三五年二月頃完成したが、その請負代金一〇九〇万円のうち四九五万円を原告が支払い(残代金は右石田組が放棄した、(株)麗峰はこれを支払つていない。

また、麗峰会館はいまだ未登記のままであるが、その建物の固定資産税は原告が納付している。

(ニ) 仮に、(株)麗峰が法律上の主体性を有し、営業活動の主体と認められるにしても、右(一)の事実に徴すれば、税法上のいわゆる実質所得者課税の原則の適用上、右営業活動による収益の実質的帰属者は原告である。

5. 本件賃貸借契約金の性格

本件賃貸借契約金は、これを返還しない旨の合意のもとに授受され、賃貸借が終了しても返還されないものであつて、賃借人の享受すべき店舗の場所・営業設備など有形無形の利益(営業権)ないし賃借権の設定およびこれに譲渡性を付与することの対価(権利金)としての性格を有する。

なお、右契約金が権利金の性格を有することは、麗峰会館の所在区域における飲食業用店舗の賃貸借の場合、賃貸借契約金名下に権利金授受の行なわれる慣行が一般化していることのほか、原告が本件賃貸借契約金とは別に敷金も収受していることと、前記バー経営者もこれを権利金と認識したうえその繰延資産としての償却費を必要経費中に計上していることに徴して明らかである。

そして、権利金としての本件賃貸借契約金は、右バー経営者との賃貸借契約または右契約金増額契約の効力発生の日に収入すべき金額が確定するものであるから、仮に右契約金が未収であつても、右契約の効力発生の日を含む年分の収入金額に算入しなければならない(所得税法三六条一項)。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1の事実は認める。

2. 同2の事実のうち、不動産所得および総所得金額が別表3記載のとおりであるとの点は否認するが、その余の所得金額が同表記載のとおりであるとの点は認める(以下、被告の主張事実を認めるときは、別表中のそれに対応する欄に○印をもつて表示する)。その余の主張は争う。

3. 同3(一)(1)の事実のうち、被告主張の期間中原告が(株)麗峰の代表取締役であつたとの点は認めるが、その余は否認する。即ち、(株)麗峰は原告とは別個独立の法人であり、麗峰会館の各店舗をバー経営者に賃貸したのはこの(株)麗峰である。

仮に、原告が右賃貸の主体であるとしても、右(1)の事実に対しては別表5および6の原告主張欄記載(同欄に記載された日時または金額は原告が主張するものであり、かつそれに対応する被告の主張事実を否認する趣旨である)のとおり認否する。

4. 同3(一)(2)の事実は、麗峰会館が原告の所有であるとの点を含め、これを認める。

5. 同3(二)の事実は認めるが、(三)の総所得金額は否認する。

6. 同4(一)のうち、冒頭の主張は争い、(1)の事実は認め、(2)の事実は否認する。(3)のうち、冒頭の主張は争い、(イ)の事実は、双和(株)がいわゆる除却法人とされたとの点および(株)麗峰が清算手続をしなかつたとの点をいずれも否認するほか、その余は認め、(ロ)の事実は認めるが、(ハ)の事実は否認する。

7. 同4(二)の主張は争う。

8. 同5の事実はすべて否認する。

即ち、本件賃貸借契約金は保証金的性格を有するものであり、その授受に際しては、賃貸借終了時にそのうち二割相当額を賃貸人が取得し、その余の八割相当額を賃借人に返還する旨の約定がなされている。従つて、賃貸人の所得となるのは右返還時であつて、しかも受領額の二割相当額のみである。

第三、証拠

一、原告

1. 甲第一ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四ないし第二一号証を提出。

2. 証人大橋キミエ、同上田かおる、同小林三代、同奥野ヒロ、同大沢キサ、同奥野駒雄、同大村サダ子、同杉原隆芳、同寸田峯子、同安田チヱ子、同小山佳子、同山田功の各証言および原告本人尋問の結果を援用。

3. 乙第一ないし第六号証、第一九ないし第二六号証、第三六号証の一ないし一〇、第三八ないし第四三号証、第四四号証の一の官署作成部分、同号証の三、第四七ないし第四九号証、第五二号証の成立はいずれも認めるが、同第三七号証の一、二、第四四号証の一の回答欄の各成立は否認する。その余の乙号各証の成立はすべて不知。

二、被告

1. 乙第一ないし第二六号証、第二七号証の一、二、第二八号証の一ないし三、第二九ないし第三二号証、第三三ないし第三五号証の各一、二、第三六号証の一ないし一〇、第三七号証の一、二、第三八ないし第四三号証、第四四号証の一ないし三、第四五号証の一ないし四、第四六ないし第四九号証、第五〇、第五一号証の各一、二、第五二号証を提出。

2. 証人岡本由之助(第一、二回)、同戸上昌則、同鈴木淑夫、同吉田秀夫の各証言を援用。

3. 甲第一ないし第四号証、第一四ないし第二一号証の成立はいずれも不知。その余の甲号各証の成立はすべて認める。

理由

一、請求原因1の事実(本件各更正処分の存在)、抗弁1の事実(本件再更正処分の存在)および抗弁2のうち原告の本件係争年分の事業所得・雑所得・給与所得・配当所得の各金額がそれぞれ別表3記載のとおりである事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

なお、本件再更正処分は、いわゆる減額の再更正であり、かつ、原告が提起した本件各更正処分の取消訴訟の係属中になされたものであるから、国税通則法七〇条二項に定められた除斥期間(五年)の経過後においても有効にこれをなしうるものと解するのが相当である。

二、そこでまず、抗弁3(一)(1)の本件賃貸借契約金および賃貸料の帰属主体について検討する。

抗弁4(一)(1)の事実、同(3)の(イ)(但し、双和(株)がいわゆる除却法人とされ、(株)麗峰が清算手続をしなかつたとの点を除く)と(ロ)の事実および麗峰会館が原告の所有であることについてはいずれも当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない乙第一号証、第一九ないし第二一号証、証人岡本由之助の証言(第一回)により各成立の認められる乙第七、第八、第一二号証、証人戸上昌則の証言により各成立の認められる乙第二七号証の一、二、第二八号証の一、二、第三〇、第三一号証、証人岡本由之助(第一回)、同奥野駒雄の各証言および原告本人尋問の結果によれば、南都実業(株)は昭和二九年頃経営不振に陥り、昭和三〇年中頃からいわゆる内整理を始め、翌三一年一二月一八日商号を双和(株)と変更して事実上の清算手続を行ない、商号が(株)麗峰に変更された時には既に登記簿上のみの存在にすぎなかつたこと、原告以外に(株)麗峰の取締役として登記された二宮美代子と奥野駒雄はそれぞれ原告の妻と使用人であり(なお、監査役として登記された今西雄治は原告の顧問税理士である)、かつ奥野は(株)麗峰の業務には全く関与していないこと、麗峰会館の各店舗の賃借人である桟敷幸子、高橋峰子、小山佳子などのバー経営者は昭和三六年五月二九日麗峰商事(株)設立以降も二宮判述または川崎武夫名義の原告の預金口座に賃貸借契約金を振込んでいたこと、それに、原告は本件各更正処分に対する各異議申立において本件賃貸借契約金および賃貸料の帰属主体が原告である点についてはなんら争つていないことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

麗峰会館が(株)麗峰の名義で賃貸されたことは被告の自認するところであるが、叙上の事実を総合すれば、原告はその所有にかかる麗峰会館の各店舗を別表5および6記載のバー経営者に賃貸するにあたり、既に登記簿上の存在でしかなかつた(株)麗峰の名義のみを使用したのであつて、その実質的な賃貸人は原告であり、抗弁3(一)(1)の本件賃貸借契約金および賃貸料も原告に帰属していたことは明らかであるといわなければならない。

三、次に、本件賃貸借契約金の性格について検討する。

前掲乙第七、第八、第一二号証、いずれも成立に争いのない乙第四、第三八、第三九、第四一号証、証人岡本由之助の証言(第一回)により成立の認められる乙第一八号証、証人吉田秀夫の証言とこれにより各成立の認められる乙第五〇号証の一、二、証人奥野ヒロ、同寸田峯子、同安田チヱ子の各証言、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、麗峰会館は少なくとも二一室のバー営業用店舗を擁する建物であり、その賃借権は右店舗のほかに造作と備付の什器にも及ぶところから、その賃借により有形無形のバーの営業上の利益(場所的利益も含む)を取得できること、契約により右賃借権に譲渡性が付与されていたこと、原告は右店舗の賃貸にあたり賃借人の債務の履行を担保(保証)するため本件賃貸借契約金とは別個に敷金を収受していたこと、そして、右賃貸について作成された契約書には本件賃貸借契約金は事情の如何を問わず、返戻されない旨が明記されていただけでなく、賃借人(バー経営者)もこれを権利金と認識し、その納税申告においてもこれを繰延資産として減価償却費を計上していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件賃貸借契約金は右賃借人が右店舗の賃借によつて得られる営業上の利益(場所的利益も含む)に対する対価としての性格を有し、また、右賃借人はかかる営業上の利益を含む賃借権を第三者に譲渡することによつて本件賃貸借契約金を回収することもできるから、これは賃借権に譲渡性が付与されたことの対価としての性格をも兼有するものというべきであつて、かかる性格からすると、本件賃貸借契約金は返還の予定されない権利金であつて、所得税法二六条一項の不動産所得であるというほかはない。

ところで、原告はこの点について、本件賃貸借契約金は賃貸借終了時にその八割相当額を賃借人に返還する約定のもとに授受される保証金的性格のものである旨主張し、原告申請の証人大橋キミエ、同上田かおる、同小林三代、同奥野ヒロ、同大沢キサ、同奥野駒雄、同大村サダ子、同杉原隆芳、同寸田峯子、同安田チヱ子、同小山佳子、同山田功の各証言および原告本人尋問の結果中には一致してこれに沿う部分があり、また、右山田功の証言により各成立の認められる甲第一ないし第四号証および右安田チヱ子の証言とこれにより成立の認められる甲第一九号証によれば、右賃借人が賃貸借終了時に右八割相当額の返還を受けた旨の記載のある領収証(右甲号各証)が作成されたことが認められる。

しかしながら、右各証言と本人尋問の結果中には右甲第一ないし第四号証の各領収証に記載された金員の授受に関与した者について相互に供述が食違うなど理解し難い部分があるだけではなく、それ自体曖昧な点が多く、また、成立に争いのない乙第四九号証(コクヨ株式会社に対する調査嘱託の結果)および証人山田功の証言によれば、右各領収証はいずれも本訴提起後にその証拠として提出するために作成日付を遡らせて作成されたことが認められ(なお、昭和四六年五月一九日に証言した証人寸田峯子は裁判長の尋問に対し、契約金を八割返すとの約束は比較的最近になつて聞いたと思う旨供述している)、この事実と成立に争いのない乙第五二号証、証人戸上昌則の証言により各成立の認められる乙第三三ないし第三五号証の各一に照しても、右各証言と本人尋問の結果中原告の右主張に沿う部分および右各領収証(甲第一九号証を含む)の記載内容は到底措信できず、他に本件賃貸借契約金の性格についての右判断を左右するに足りる証拠はない。

四、そこで、原告の本件係争年分の不動産所得金額について判断する。

1. 原告が麗峰会館を抗弁3(一)(1)のとおり賃貸し、昭和三五年および同三六年中に別表5および6記載のとおり賃貸借契約金および賃貸料の収入を得たこと(但し、原告主張欄に日時または金額の記載のある部分に対応する被告主張欄記載の事実を除く)および抗弁3(一)(2)の事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

2. 前掲乙第七、第八、第一二、第三八、第三九号証、いずれも成立に争いのない乙第四二、第四三号証、証人岡本由之助の証言(第一回)により各成立の認められる乙第一三、第一四、第一六、第一七号証、証人戸上昌則の証言により成立の認められる乙第四四号証の二、証人岡本由之助の証言(第二回)およびこれにより各成立の認められる乙第四五号証の一ないし四、証人鈴木淑夫の証言およびこれにより成立の認められる乙第四六号証、証人寸田峯子の証言によれば次の事実が認められ、証人大橋キミエおよび同上田かおるの各証言中右認定に反する部分は弁論の全趣旨に徴してにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  争いのある賃貸借契約金について

(1)  室番4の大橋キミエが「火炎木」を廃業した後、昭和三七年に同室で「美樹」を開業した野村道が原告と契約した賃貸借契約金の額は六〇万円であり、その間同室について格別の事情の変更もなく、また、税務職員が右大橋に対し賃貸借契約金の額について照会したが、右廃業のためその回答が得られなかつた(これにより右大橋の昭和三五年分賃貸借契約金の額を六〇万円と推計したことは合理的である)。

室番5「鍵」の高橋峰子(寸田峯子)は昭和三五年一一月八日原告と賃貸借契約金を二〇〇万円とする約定のもとに同室の賃貸借契約を締結し、同年一一月二九日から翌三六年一〇月三〇日までの間に右二〇〇万円を原告に支払つた。

室番9「美代」の小山佳子は原告と賃貸借契約金を一〇〇万円とする契約を締結したが(契約締結日が昭和三五年四月六日であることは当事者間に争いがない)、そのうち七二万円を昭和三七年六月から翌三八年九月にかけて原告に支払つた。

室番10「みね」の上田薫(かおる)は原告と賃貸借契約金を七〇万円とする契約を締結した(契約締結日が昭和三五年一一月八日であることは当事者間に争いがない)。

なお、室番11「ミロンガ」の佐竹美佐子と同14「亜九童」の下田満智子が昭和三五年中に、同17「ニユーあみ」の上田和一が翌三六年中に原告とそれぞれ賃貸借契約金支払契約を締結したことは当事者間に争いがない。

(2)  原告の右各賃貸借契約金を収入すべき権利はいずれもその支払契約成立によつて確定し、その収入金額はそれぞれ右各契約額であると解するのが相当である。

(二)  争いのある賃貸料について

室番5「鍵」の右高橋は昭和三五年一一月八日から(五四日間)、同11「ミロンガ」の右佐竹は同年一二月三日から(二九日間)、同14「亜九童」の右下田と同15「あざみ」の義村房恵は同年一一月一二日から(各五〇日間)それぞれ同年末日まで、いずれも賃料一日一〇〇〇円の約定で賃借した。

室番1と2「燈台」の棧敷幸子は同番の二室を賃料一日二〇〇〇円の約定で、同11「ミロンガ」の右佐竹、同14「亜九童」の右下田および同15「あざみ」の右義村は各室の賃料一日一〇〇〇円の約定で、いずれも昭和三六年一月一日から同年五月二八日(麗峰商事(株)設立の前日)までの一四八日間賃借し、同17「ニユーあみ」の右上田は同年三月一五日から五月二八日までの七五日間賃料一日一〇〇〇円の約定で同室を賃借した。

原告は昭和三六年二月頃室番10「みね」の右上田から原告が収受していた敷金九万円を没収して取得した(なお、同人の昭和三六年分賃借料が一四万八〇〇〇円であることについては当事者間に争いがない)。

3. 以上の事実によれば、原告の係争年分不動産収入金額は別表4の同項目欄記載のとおりである。

4. 抗弁3(二)の事実(必要経費)については当事者間に争いがないから、原告の係争年分不動産所得金額は別表3の同項目欄記載のとおりになる。

五、以上の次第であつて、本件各更正処分はいずれも適法であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないものとして棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 孕石孟則 裁判官 松永真明)

別表1

<省略>

別表2 (本件各更正処分)

<省略>

(注) 上記かつこ内の金額は本件再更正処分後のものである。

別表3 (被告主張の所得金額)

<省略>

別表4

<省略>

別表5 (昭和35年分の賃貸借契約金および賃貸料の内訳)

<省略>

別表6

(1) 昭和36年分賃貸料の内訳

<省略>

(2) 昭和36年分賃貸借契約金の内訳

<省略>

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