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京都地方裁判所 昭和35年(行)3号 判決 1962年8月02日

京都市右京区太秦藤ヶ森町一八番地

原告

朝倉喜久枝

右訴訟代理人弁護士

高橋秀三

同市同区西院花田町三〇番地の一

被告

右京税務署長

井上謙二

右指定代理人大蔵事務官

畑中英男

大蔵事務官 樋田善孝

大蔵事務官 中島国男

法務大臣指定代理人検事

山田二郎

検事 杉内信義

法務事務官 永田嘉蔵

法務事務官 坂田暁彦

法務事務官 大森国章

右当事者間の昭和三五年(行)第三号贈与税額更正決定処分取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三四年五月三〇日、原告に対し、昭和三三年度分贈与税につき贈与更正額一七〇万円、その税額四〇万円となした更正処分のうち、贈与金額五〇万円、その税額四万五千円を超える部分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、請求原因として

(1)  原告は昭和三三年六月頃、京都市上京区一条通智恵光院西入る北新在家町三二六番地、家屋番号同町二五番木造瓦葺二階建店舞建坪三一坪四合六勺外二階二九坪五合四勺の家屋(以下本件家屋と略称する)を新築し同月所有権保存登記をなしたが、その建築資金一七〇万円の内五〇万円は原告の夫訴外朝倉重三から贈与を受けたものであるので、昭和三四年二月二八日被告に対し右贈与金額五〇万円、その税額四万五千円の申告書を提出した。

(2)  ところが被告は同年五月三〇日右申告を過少とし、贈与額一七〇万円、税額四〇万円、過少申告加算税額一七、七五〇円とする更正決定をなしたので、原告はその取消を求めるため同年六月二七日に再調査請求をなしたが容れられず、更に同年七月三〇日大阪国税局長に対して審査請求をなしたが同年一一月三〇日付で大阪国税局長から審査の請求を棄却する旨の決定通知を受けた。

(3)  しかしながら前述のとおり本件家屋の建築資金中夫朝倉重三から贈与を受けたのは五〇万円だけで、被告のなした本件正更処分のうち右申告額を超える部分は違法であるからその取消を求めるため、本訴に及んだ

と述べ、被告の主張を否認し、

本件家屋の建築資金中残余の一二〇万円は昭和三三年一月三〇日と同年六月一四日の二回に亘り、原告が株式会社昭和産業相互銀行八木支店から借入れた(尤も原告は当時株式会社昭和産業相互銀行とは取引なく、且有夫の婦人故借主の資格を欠くと云われたので、止むなく、夫朝倉重三を借主とし、原告はその連帯保証人となつたもので、借用名義は夫朝倉重三になつているが、実質的な借主は原告である)もので、その後右借入金は昭和三四年二月二五日訴外橋本久三から一〇〇万円、また同年一月一五日訴外京福相互こと山元正雄から一六万円を借入れて返済し、なお右訴外人両名からの借入金に対しては、原告の不動産収入等(原告は本件家屋を店舗三軒と共同住宅四世帯に賃貸して月額三万六千円の賃料を収受しておりの他にも同町同地の一に店舗一を所有し、これを訴外日新自動車工業有限会社に賃料月額一万円で賃貸し、右賃料は同会社の都合で未だ受領していないが、原告は同会社の非常勤の職員として雇われ、月額一万円の手当を受けているので原告には月額四万六千円の収入がある。)から分割弁済している。

と述べ、立証として甲第一ないし四号証第五号証の一、二、第六号証を提出し、証人加藤三郎、同朝倉重三、同橋本久三の各証言、原告本人尋問の結果を夫々援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうちその請求原因第(1)項中、原告がその主張のとおりに本件家屋を新築して保存登記をなし、その費用として一七〇万円を要したこと及び被告に対し原告主張のような贈与税申告書の提出があつたこと、及び請求原因第(2)項は認めるが、その余の事実はこれを否認する。原告が本件家屋建築に要した費用一七〇万円は、全部原告の夫朝倉重三から贈与を受けたものである。現に原告は当時無職無収入であつて、このような大金を自ら所有するはずがない。

よつて被告は相続税法の規定に基き、右家屋の建築費一七〇万円を取得財産価格とし、基礎控除額二〇万円を控除して課税価格を一五〇万円、贈与税額四〇万円、過少申告加算税額一七、七五〇円の更正決定をしたものであつて、被告のなした更正決定に違法はないと述べ、立証として、乙第一号証、第二号証の一ないし七、第三号証を提出し、証人桂太郎、同高田厳の各証言を夫々援用し、甲第一ないし四号証の成立を認め、その余の甲号証の成立については不知と述べた。

理由

原告が昭和三三年六月頃本件家屋を新築しその建築費用が一七〇万円であつたこと、そのうち五〇万円を夫朝倉重三から贈与を受けたとして昭和三四年二月二八日その旨の贈与税申告書を提出し、同年五月三〇日被告から請求の趣旨記載(なお過少申告加算税一七、七五〇円)の更正処分を受け、同年六月二七日再調査の請求をなしたが容れられず、同年七月三〇日大阪国税局長に対して審査請求をなし、同年一一月三〇日付で右請求を棄却する旨の決定通知を受けたことは当事者間で争いがない。

そこで以下右更正決定を違法とする原告の主張について判断する。成立に争いのない乙第一、第三号証、証人加藤三郎、同桂太郎、同高田厳、同朝倉重三(但し後記措信しない部分を除く)、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すれば本件家屋は所謂貸店舗及びアパートとして他人に賃貸し、安定した収入を得ようとし、原告が新築したものであるが、その資金は夫朝倉重三が昭和三一年頃その所有の土地を売却して入手した金員及び同三三年中二回に亘り株式会社昭和産業相互銀行八木支店から借入れた金員等の中から支弁せられ、その実際の支払も右重三がこれを担当したものであることが認められ、右認定に反する証人朝倉重三並びに原告本人の各供述部分は前掲各証拠に照し措信し難く、他に本件の建築資金が前記銀行からの借入金のみで賄われたとの原告主張事実を認むべき確証はなく、そうして右認定事実にその建築資金中五〇万円が夫重三からの贈与によるものであることの当事者間で争いのない事実を勘案すると、本件建物の建築資金一七〇万円はその全額が夫重三において入手し、原告に贈与した金員により賄われたものと認定するのが相当である。この点について原告は「右銀行から借入金は名義こそ夫重三が主債務者となり原告が保証人となつているけれども、それは同銀行の方針として家庭の主婦を主債務者としては貸付をしないことになつているためであつて実質は原告が主債務者であり、さればこそその後右借入金は原告自身が訴外京福相互こと山元正雄及び同橋本久三からの借入金により弁済している」と主張し、証人加藤三郎、同朝倉重三(一部)の各証言及び原告本人尋問の結果の一部によれば右昭和産業相互銀行からの借入に際し、原告及びその夫重三から同銀行係員に対し、原告を主債務者にしてほしい旨を告げたが同係員から前掲原告主張のような方針を示されたので主債務者を原告の夫としたことをうかがうことが出来る。

しかしながら原告がその主張の訴外橋本久三外一名から金員を借入れたこと、従つてこの借入金を以つて前記昭和産業相互銀行からの借入金の返済に充てたことは、この点に関する甲第三第四号証第五号証の一、二の各記載、証人橋本久三、同朝倉重三、及び原告本人の各供述部分は成立に争いのない乙第三号証の記載及び右証人橋本久三の証言に照してにわかに信用することが出来ず、他にこれを確認し得る証拠がないのみならず、当事者弁論の全趣旨により認めらるべき前記昭和産業相互銀行からの金員借入の当時、原告の夫重三が自動車修理業を目的とする日新自動車工業有限会社の代表取締役であるのに反し、原告が家庭の主婦であつて特に右貸付を受けられるような資産収入のなかつた事実を併せ考えると右認定の原告主張の事実も未だ前記認定を覆えして右銀行からの貸付がその形式に拘らず原告自身の信用に着眼してこれを主債務者として為されたとの原告主張事実を確認する資料とするに足らず他にこれを認むべき確証もない。

以上説明のとおり、本件家屋の建築資金一七〇万円中五〇万円を除くその余の部分も原告が夫重三から贈与を受けたものであるから、その旨被告が認定更正したのは正当であり、よつてその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却を免れないから訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹内貞次 裁判官 渡辺常造 裁判官 大森政輔)

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