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京都地方裁判所 平成9年(行ウ)25号 判決

主文

一  原告らの本件訴えのうち,被告Bに対して別表(1)の「番号」欄の1ないし10の各業務に係る損害賠償を求める部分をいずれも却下する。

二  被告Aは,京都市に対し,104万0152円及びこれに対する平成9年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は,原告らと被告A及び被告ら参加人との間においては,原告らに生じた費用の10分の1を同被告及び同参加人の負担とし,その余は各自の負担とし,原告らと被告Bとの間においては,全部原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは,京都市に対し,連帯して,1174万5152円及びこれに対する 平成9年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は,京都市(以下,「市」ともいう。)が,平成8年度の公共土木事業用地の取得にともなう登記,測量及び調査等の業務を,それまでの個々の事業毎の個別契約による方式を変更し,土地家屋調査士の団体,司法書士の団体及び測量業者(測量士)の団体の3団体に対し,予め将来予定される個々の事業分も包括して委託をしたが,①その委託代金は,実際には実施されない作業があったにもかかわらず,一律に16の作業工程がされるものとして,一定の単価を基にして算定してされたものであり,②本来は,個々の事業毎に,個々の土地家屋調査士,司法書士及び測量業者との間で,しかも,個別の入札手続を経た上で契約すべきであったにもかかわらず,上記の3団体に上記の業務を一括して将来分まで包括して委託する旨の各委託契約を,しかも,随意契約の方法で締結したもので,それらに基づく委託金の支払は,違法な支出負担行為による違法な公金支出であるなどとして,京都市の住民である原告らが,平成8年度当時の京都市長であった被告A,及び,当時の京都市都市建設局長であった被告Bに対し,平成14年3月30日法律第4号による改正前の地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号前段に基づき,市が被った損害として,平成8年度に支出された委託料のうち実施されなかった作業工程分の総額に相当する損害金,及び,前記の各一括委託契約の締結により上記の3団体が中間取得することとなった「業務受託分担金」の総額に相当する損害金,並びに,これらに対する遅延損害金を市に支払うことを求めた住民訴訟である。

なお,原告らは,本件請求を,「主位的請求」及び「予備的請求」としていいるが,請求としては,前記第一の「請求」のとおりとすべきことは,後記で判示のとおりである。

二  争いのない事実,並びに,本件各証拠(甲1ないし4,8ないし19,丙1ないし333〔それぞれ,枝番を含む。〕,証人C,同D及び同Eの各証言,調査嘱託の各結果)及び弁論の全趣旨により認定できる事実は,以下のとおりである。

1  原告らは,いずれも京都市民であり,被告Aは,平成8年度(平成8年4月1日から平成9年3月31日まで,以下同じ。)において京都市長の地位にあった者であり,被告Bは,平成8年度において京都市都市建設局長の地位にあった者である。

2  「局長等専決規程」及び「京都市事務分掌条例」による定め

(1) 平成8年度当時の「局長等専決規程」(昭和38年5月16日訓令甲第2号,丙12)2条1項,3条,別表第1の専決者「局長(市長室長を含む。)」の項(9),(36)によれば,市の各局長は,所管業務に関する1件1000万円以下の委託の決定及び契約締結並びに軽易な事務事業の計画及び実施に関することについて専決するものとされている。また,同規程2条1項,3条,別表第1の専決者「庶務担当部長」の項(3)によれば,庶務担当部長は,所掌事務に関する,1件300万円以下の委託の決定及び契約締結に関すること(ただし,物件,労力その他の調達に係るものを除く。)について専決するものとされ,同規程2条1項,3条,別表第1の専決者「庶務担当課の課長」の項(11)によれば,庶務担当課の課長は,所掌事務に関する,1件50万円以下の委託の決定及び契約並びにこれらに伴う経費の支出決定に関すること(ただし,物件,労力その他の調達に係るものを除く。)について専決するものとされている。

なお,複数の者の専決事項に属している場合(例えば,1件50万円以下の委託の場合。),その中で最も下位の者が決裁権者となるとされている。

(2) 平成8年度当時の「京都市事務分掌条例」(昭和22年12月17日条例第66号,丙156)13条によれば,市の都市建設局は,道路,河川その他の都市施設に関する事務などを所掌するものとされている。また,同条例3条によれば,市の企画調整局は,市政の総合的な企画,調整及び推進に関する事務などを所掌するものとされ,同条例11条によれば,市の都市計画局は,公園及び緑化の推進に関する事務などを所掌するものとされている。

3  市においては,公共土木事業用地として市が取得する不動産についての測量業務,境界確定業務,その他の登記手続に関する業務(以下,一括して「登記測量業務等」という。)について,従来は,個々の事業毎に,その都度,その事業の測量業務については,各測量業者に対し,競争入札手続を実施した上で個別的に委託する契約をして実施させ,その他の業務については市の職員が直接その事務を行ったりするなどして処理していた。

しかし,京都府において,同様の測量や登記等の業務を測量業者の団体や土地家屋調査士及び司法書士の3団体に一括して委任する方式が採用されたことから,市においても,平成7年6月策定に係る「平成の京づくり」推進のための市政改革大綱(丙145)の基本方針の下に,平成8年度から従前の方式を変更し,地元の各測量業者が組織する任意団体,各司法書士が組織する団体及び各土地家屋調査士が組織する団体に対し,各業務担当者の選定も含めて,包括的に一括して委託することにし,市から各団体に対して支払われる委託料は,予め定められた算定基準に従って算出された方式に従って,その都度,各団体に対して支払うことに変更することを決定した。

4  市は,平成8年6月26日,社団法人京都公共嘱託登記土地家屋調査士協会(以下「調査士協会」という。)代表者理事長F,社団法人京都公共嘱託登記司法書士協会(以下「司法書士協会」という。)代表者理事長G、及び,社団法人京都府測量設計業協会(以下「京測協」という。)代表者会長Hとの間で,公共土木事業用地の取得に伴う登記測量業務等に関して,以下の①ないし⑥の内容を含む「京都市公共土木事業用地の取得に伴う登記測量業務に関する協定書」と題する書面による協定(甲1,以下「本件協定」という。)を締結した。本件協定の締結は,市長である被告A名義で都市建設局長であった被告Bが専決で上記の各3団体との間で行った。

① 市は,公共土木事業の用地の取得に伴って必要となる登記測量業務等の処理を,司法書士協会,調査士協会及び京測協に委託し,これらの3団体はこれを連帯して引き受ける。

② 上記の3団体は,登記測量業務等を引き受けるに際しては,別途委託契約を締結して行うものとする。

③ 上記の3団体が登記測量業務等を処理するに際しては,別に定める仕様書に基づき処理するとともに,仕様書に定めのない細部の事項については,市の指示を受けるものとする。

④ 上記の3団体が処理する登記測量業務等の担任区分は,原則として別表(5)のとおりとし,それぞれ連携するものとされていた。

⑤ 上記の3団体が処理する登記測量業務等の委託単価は,市とこれら3団体とが協議して定めるものとし,土地家屋調査士報酬額表,司法書士報酬規定,公共測量に関する業務委託費積算基準及び標準歩掛等を勘案の上,適切に決定するものとする。

⑥ 京測協は,本件協定により担任する業務に関する権利又は義務を京都公共用地測量協会(以下「用測協」という。)に譲渡することができる。

5  そして,市は,本件協定に基づいて,平成8年度の年度途中である平成8年7月から平成9年1月までの間に,別表(2)の「日付」欄のとおりの各日付で,社団法人である調査士協会及び司法書士協会,並びに,京都府下の測量業者の任意団体である用測協(代表者理事長I)との間で,それぞれ,同表①ないし⑮のとおり,各「委託内容」欄のとおりの内容の登記測量業務等を委託すること,その他,以下の内容を含む15件の各委託契約をそれぞれ締結した(甲2の1ないし15,以下,これらの各契約を一括して「本件各委託契約」という。)。なお,本件各委託契約は,いずれも,京都市長名で,同表の「専決権者」欄のとおりの各専決権者が,それぞれ専決した。

① 委託価額は,「測量業務価額」,「登記業務価額」,「境界確定業務価額」及び「その他業務価額」の総和に1.03(消費税3パーセント)を乗じることにより算定する。

② 「測量業務価額」は,当該測量業務の対象となる用地の地域区分に応じて定められる1000㎡当たりの単価に,測量対象面積を乗じ,1000で除したものに,上記対象用地の地域区分及び測量面積に応じて定められる「調査調整費単価」を加え,これに1と諸経費率の和を乗じることにより算定する。

測量業務価額=(1000平方メートルあたりの単価×登記測量業務対象面積÷1000+調査調整費)×(1+諸経費率)

③ 市は,その都度書面により,司法書士協会,調査士協会及び用測協(この3団体を以下「本件3団体」という。)に業務実施箇所を指示するものとする。

④ 本件3団体は,委託業務を実施する際に,当該業務を実施する責任者を書面により市に届け出るものとする。業務責任者を変更するときもまた同様とする。

⑤ 本件3団体は,業務実施個所の指示を受けたときは,遅滞なく委託業務の工程表を作成し,市に提出するものとする。

⑥ 本件3団体は,業務実施個所の指示を受けた委託業務を完了したときは,直ちに仕様書で指示する成果品を添えて市に業務完了届を提出しなければならない。

⑦ 市は,上記届を受理したときは,その日から10日以内に業務の完了の確認のための検査を行わなければならない。

⑧ 本件3団体は,上記検査の結果不合格となり,補正を命じられたときは,遅滞なく当該補正を行い,再検査を受けなければならない。

⑨ 本件3団体は,それぞれ,業務完了の確認のための検査に合格したときは,請求の内訳を明らかにした委託料内訳書を添付して,市に対して書面をもって委託料の支払を請求するものとする。この請求において,請求金額は,①の規定により算定された合計額に100分の103を乗じて得た額とする。

⑩ 市は,委託料の請求を受理した日から30日以内に委託料を支払わなければならない。

⑪ 本件3団体は,委託料の請求及びその受領に関する権限を,京都府公共用地登記測量協議会(代表者J,以下「登記測量協議会」という。)に委任する。

6  本件各委託契約においては,いずれも,別表(2)の各「委託内容」欄のとおり,それぞれの契約締結日から平成8年度の末日である平成9年3月31日までの間を委託する期間として定められており,各契約締結日以後の平成9年3月31日までの間に予定される個々の公共土木事業用地の取得に伴う登記測量業務等や同事業に伴う登記測量業務等を包括して本件3団体に委託する内容であり,それぞれの契約締結時点においては,平成9年3月31日までに委託する業務内容の全体は特定されておらず,具体的に委託を受ける業務内容は,契約締結日以降に市からされる具体的な業務実施箇所の指示によるものとされていた。

したがって,本件各委託契約のみでは,それぞれの契約に基づいて市が本件3団体に支払うべき委託金の額は確定せず,その額も,前記のとおり,各契約の締結日の後に市からされる具体的な業務実施箇所の指示によって,はじめて確定するものとされていた。

7  司法書士協会は,各司法書士がその事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに設立する強制加入団体である司法書士会(司法書士法14条)やその上部団体である日本司法書士会連合会(同法17条)とは別に,同法17条の6の規定に基づいて設立された京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する司法書士によって構成された任意加入の社団法人である。その目的は,その専門的能力を結合して官庁,公署その他政令で定める公共の利益となる事業を行う者(官公署等)による不動産の権利に関する登記の嘱託又は申請の適正かつ迅速な実施に寄与することであり(同条の6第1項),その目的を達成するため,官公署等の嘱託を受けて,不動産の権利に関する登記につき司法書士の業務を行うもの(同法17条の7)とされている(丙324)。司法書士協会は,上記のような資格を有する者のうち約4割の司法書士が加入している法人である。

8  調査士協会は,各土地家屋調査士がその事務所の所在地を管轄する法務局又地方法務局の管轄区域ごとに設立する強制加入団体である土地家屋調査士会(土地家屋調査士法14条)やその上部団体である日本土地家屋調査士会連合会(同法17条)とは別に,同法17条の6に規定に基づいて設立された京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する土地家屋調査士によって構成された任意加入の社団法人である。その目的は,その専門的能力を結合して官庁,公署その他政令で定める公共の利益となる事業を行う者(官公署等)による不動産の表示に関する登記に必要な調査若しくは測量又はその登記の嘱託若しくは申請の適正かつ迅速な実施に寄与することであり(同法17条の6),その目的を達成するため,官公署等の依頼を受けて,不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査,測量,申請手続又は審査請求の手続を行うもの(同法17条の7,2条)とされている(丙325)。調査士協会は,上記のような資格を有する者のうち約6割の土地家屋調査士が加入している法人である。

9  用測協は,京測協が受託する公共用地測量業務を遂行するとともに用地測量技術の研究・開発及び教育指導を行うことにより,公共事業の円滑な推進に寄与することを目的として設立された団体であり,平成6年ころに京測協に加盟している京都の地元の測量業者(測量会社)により,任意的に組織された団体で,平成8年当時,約60業者(社)が加盟していた。用測協は,平成9年4月1日に社団法人として設立認可されるまでは法人格もなく,むろん,法律上に規定された団体ではなかった。そして,用測協内部において,本件各委託契約によって受託した業務について,どの測量業者を業務責任者とするかは(業者選定の方法や基準),結局,その所属する各測量業者間で決められることになっていた(丙329ないし332)。

10  ところで,登記測量業務等は,(1)測量業務,(2)登記業務,(3)境界確定業務,(4)その他業務の4つに区分され,そのうち(1)の測量業務は,①全体計画,②計画準備,③現地踏査,④地図の転写,⑤土地登記簿の調査,⑥転写連続図作成,⑦建物登記簿等の調査,⑧地積測量図転写,⑨戸籍簿調査,⑩復元測量,⑪,境界確認,⑫補足多角測量,⑬境界測量,⑭用地境界仮杭設置,⑮現況測量,⑯面積計算,⑰用地実測図原図作成,⑱用地実測図写図作成,⑲土地調書作成,⑳成果品提出の各作業工程によって構成されていた。

11  本件各委託契約による測量業務の委託料は,いずれも,個々の事業で実際に実施された業務に基づいて積算されるのではなく,予め,通常の作業工程を想定して,各工程毎の標準的対価を積算して単価を決定し,それに基づく金額とするものとされた。具体的には,市作成に係る「土木工事標準積算基準書[業務・作業]」(丙4,以下「標準積算基準書」という。)及び「土木積算システム設計単価(丙5,以下「設計単価」という。)に基づいて積算され,単価設定にあたってはさらに積算額に0.9を乗じて単価が算出されていた。委託単価は,上記④ないし⑱の作業工程については,1000平方メートル当たりの単価により,上記①ないし③の作業工程については1業務あたりの単価(調査調整費)の積み上げ方式によっていた。そして,実際の測量業務委託単価は,1000平方メートル当たりの単価に測量業務対象面積を乗じて,1000で割った額と1業務当たりの単価の積算額との合計額に諸経費率(87.8~44.9パーセント)を乗じて算出されていた。

平成8年度において,単価設定の根拠となった資料は,平成7年度標準積算基準書及び京都市建設局作成に係る平成6年度土木積算システム設計単価であった。なお,調査調整費のうち土地家屋調査士及び司法書士に係る作業は,歩掛については作業実態に則して設定され,労務単価については平成7年1月1日施行の公共嘱託登記土地家屋調査士会業務報酬額運用基準によって算定された。

12  本件各委託契約に基づいて,平成8年度中に,別表(1)の「番号」欄の1ないし96の登記測量業務等(以下,「本件各業務」といい,個々の業務を番号に従って「1業務」などという。)について,それぞれの業務を所管する課の課長や土木事務所の課長又は所長によって,業務実施個所の指示が行われた。それに応じて,本件3団体は,それぞれの所属の司法書士,土地家屋調査士及び測量業者を,各業務を実際に担当させる「業務責任者」に選定し,選定された各業務責任者の司法書士,土地家屋調査士及び測量業者が,業務実施箇所の指示に従ってそれぞれの業務を担当した。

13  そして,本件各委託契約に基づいて,それぞれの契約の後に平成9年3月31日までに,市からの具体的な業務実施箇所の指示によって,別表(2)の「最終的に委託された業務」欄のとおりの各事業の登記測量業務等が委託され,本件3団体は,その業務をいずれも完了したものとして,市に対して業務完了届を提出し,これにより,本件各委託契約に基づく具体的な委託料の金額が確定した。なお,この各指示は,市においてそれぞれの業務を所管する課の課長,もしくは土木事務所の課長又は所長がこれを行った。

市は,別表(1)の「支出決定日」欄のとおりの日付で,平成8年10月8日から平成9年3月31日までの間に,本件各委託契約に基づいて本件3団体から受領権限の委任を受けていた登記測量協議会に対し,各委託料合計4061万3930円を支払った(以下「本件各支出」という。)。なお,本件各業務のうち,1業務ないし10業務については,市の企画調整局及び都市計画局の所掌事務であった。

14  本件各業務を実際に担当した司法書士,土地家屋調査士及び測量業者は,それぞれ,その所属する本件3団体から,行った業務に応じた報酬を受け取ったが,平成8年度において,それぞれ,配分された業務に応じて「業務受託分担金」として,それぞれ市からの委託金に対して,用測協(用地特別会費収入名目)関係では3.5パーセント,調査士協会(会費収入〔比例会費〕名目)関係では8.5パーセント,司法書士会(報酬比例会費収入名目)関係では7.0パーセントの割合の金員を支払うこととされていた(甲17ないし19)。

15  用測協は,平成9年4月1日,社団法人として,その設立が認可され,その代表者である理事長に滝下昇一が就任した。

16  原告らは,平成9年6月26日付で,京都市監査委員に対し,本件各委託契約,本件各支出は違法・不当である旨の監査請求をしたところ,同監査委員は,同年8月25日付で,原告らに対し,同監査請求は理由がないとしてこれを棄却する旨の決定をし,その旨を原告らに通知した(甲16)。そこで,原告らは,平成9年9月24日付で,本件訴訟を提起した。

17  京都府は,平成9年7月18日,競争性,公平性及び透明性が求められている社会状況を踏まえたとして,用地測量業務の発注について,予定価格が250万円を超えるものについては競争入札方式を導入し,250万円以下のものについては現行制度のとおりに行う旨の決定をし,以後,現在に至るまで,かかる方法により登記測量業務等は行われている。

その後,市においても,平成9年10月1日,用地測量業務に係る積算額が1件あたり250万円を超える場合には,競争入札によることとし,以後,現在に至るまで,かかる方法により登記測量業務等は行われている。

三  争点について

1  原告らの主張のうち,法律上,請求原因となる部分を整理すると,本件各支出の法律上の原因となる支出負担行為である市と本件3団体との間の本件各委託契約は,①本件3団体にそれぞれ支払われる各委託料が実際実施されていない工程分まで含めて算定された単価に基づいて算定されていること,②それぞれ,入札手続を経た上で,司法書士,土地家屋調査士及び測量業者等との間で個別に契約をせずに,3団体へ一括し,しかも,平成8年度中の一定期間内に実施される各事業毎の登記測量業務等を,実際に担当する者の選定までを各団体内部に委せる形態で,いわば「丸投げ」の内容の随意契約としてされたこと,以上の観点から財務会計法規上違法であって,このような違法な支出負担行為による本件各支出も違法であり,これにより,市は,実施されなかった工程の単価分の損害,あるいは少なくとも,業務受託分担金相当の損害を被った,との内容になると解される。

2  以上の理解を前提とすると,本件の主要な争点は,①本件各委託契約は財務会計法規上違法であるか(争点①),②被告らは,それぞれ法242条の2第1項4号前段の「当該職員」に該当して責任があるといえるのか(争点②),③市が被った損害の額はいくらか(争点③),である。なお,原告らの請求についての理解の仕方,本件協定自体は財務会計行為に該当しないこと等については,後記の当裁判所の判断のとおりである。

四  各争点についての当事者の主張

1  争点①について

(原告らの主張)

本件各委託契約による委託料は,後記(争点③)において主張するとおり,実際にはそもそも実施が予定されていない,従って委託の内容ではない作業工程分も含めて単価が設定され,市は,それらの作業工程もすべて実施されることを前提とした委託料を支払った。このような委託料の定めを内容とする本件各委託契約は,法2条14項及び地方財政法4条1項に違反する違法な財務会計行為である。

普通地方公共団体がある業務の委託契約を締結する場合,一般競争入札によるのが原則であり,随意契約を締結することができるのは,「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」(法234条,法施行令167条の2第1項2号)等の例外的な場合に限定されている。登記測量業務等は,平成7年度以前は市においても指名競争入札が行われていたもので,他の地方自治体においては現在も指名競争入札が行われている。実際に業務を行っていた司法書士,土地家屋調査士及び測量業者に指名競争入札によって,直接登記測量業務等を委託することは可能である。登記測量業務等は,委託業者ごとに種類や性能が異なるというわけではない。そして,司法書士,土地家屋調査士及び測量業者(測量士)は,いずれも有資格者であり,業務遂行に必要な能力は誰もが有しており,当該業務が一旦終了すれば,通常の場合,業務終了後の保守点検などは必要ない。個々の司法書士,土地家屋調査士及び測量業者の間の競争を排除し,実際に業務を担当する測量業者の選定をも含めて,いわば丸投げの形で一括して委託する本件各委託契約は,上記の例外的な場合に該当せず,財務会計法規上違法であることは,明らかである。

(被告ら及び参加人の主張)

公共事業の計画的な推進に必要な用地取得に係る登記測量業務等を的確かつ迅速に処理するためには,取得対象地の面積等に関する用地測量,所有権その他の権利調査,市への所有権移転に必要な嘱託登記など密接に関連する一体的な業務をそれぞれの専門有資格者が連携して処理することがより効果的であり,そのためには,本件各委託契約をするのが合理的であり,適切である。本件各委託契約は,法2条14項及び地方財政法4条1項に反しないのはもちろん,法234条,法施行令167条の2第1項2号にも反しない。

測量業務について積算価格の90パーセントをもって単価としたのは,現実の個々の測量業務では通常行われる作業工程のうち行わなくて済む作業工程があることに対応し,かつ,競争入札による落札率を考慮したもので,個別業務においては実施を要しない作業工程があることは折込み済みである。原告らの主張するように実施しなかった作業工程が存する場合は生じるが,標準的作業工程の対価の積算価格の90パーセントをもって測量業務の単価としており,大数的にみれば,入札により個別測量業務を行わせ,その代金額を集計した場合と,事実上概ね同額の支出になるように配慮されている。そもそも,市が,調査士協会や司法書士協会に登記測量業務等を随意契約により委託することは土地家屋調査士法17条の6第1項及び司法書士法17条の6第1項の規定するところであり,さらに,測量業者(測量士)については,上記と同様の法規上の根拠はないが,用測協が公共登記嘱託業務を円滑迅速に実施し,効率的な公共事業の円滑な進歩を期して設立されたものであることからすれば,用測協を調査士協会及び司法書士協会と同様に考えることができる。

実際に業務にあたる土地家屋調査士,司法書士及び測量業者を熟知する本件3団体に業者を選任させ,それらの連携の下に登記測量業務等が効率的に処理されることとなったことからも,本件各委託契約の締結は,市の合理的な裁量の範囲内の行為であることはもちろん,競争入札により個別的に土地家屋調査士,司法書士及び測量業者と委託契約を締結する場合と比較して,より合理的で,市に利益をもたらすものと評価できるといえる。本件各委託契約による場合,約2週間で業者決定ができるため,地権者からの早急な買い取り要求への対応など,より円滑な事業の進捗を図ることができ,競争入札の場合より,時間の短縮及び市の職員の労力の軽減が図れる。

2  争点②について

(原告らの主張)

本件協定及び本件各委託契約は,市における各部局を越えた基本方針に基づくものである。被告Aは,市長として,登記測量業務等の委託について,前記のような一括丸投げ方式によることをこの基本方針として実質的に決定したものであり,本件各委託契約は,別表(2)のとおりの各専決権者が市長名で専決したものであるとしても,同被告は,上記のとおり,それらが違法であることを認識していたか,又は,当然に市長としてこれを認識すべきであったもので,専決した者に対する指揮・監督責任は免れない。

被告Bは,本件協定及び本件各委託契約に専決権者として関わったもので,本件各委託契約が違法であることを認識していたか,又は,認識すべきであったもので,責任は免れない。

(被告ら及び参加人の主張)

すべて争う。

被告Aは,本件協定及び本件各委託契約の実体的な決定には関与していない。同被告が,このような契約形態を導入することについて,市長ヒヤリング等によって説明を受けるなどして知っていたという証拠はないし,仮に知っていたとしても,その内容は,少なくとも客観的かつ明白に直ちに違法であると評価されるものではない以上,同被告に指揮・監督上の義務違反がある,とすることはできない。

平成8年度当時都市建設局長であった被告Bは,都市建設局以外の登記測量業務等の委託に関しては権限を有しない。1業務ないし10業務は,企画調整局長ないし都市計画局長が専決した委託契約に係る業務であり,被告Bは,これらの業務に関しては,法242条の2第1項4号の「当該職員」に該当しない。

3  争点③について

(原告らの主張)

(1) 本件各委託契約及び本件各支出により,市は,競争入札を実施した場合より多額の委託料を支払い,多額の損害を被った。少なくとも所属団体が各加盟業者から受託した「業務受託分担金」相当額合計104万0152円は,本来市が支払う必要のなかったもので,本件各委託契約が違法であることによる損害である(その金額は,それぞれ,用測協分が17万1201円,調査士協会分が57万1780円,司法書士協会分が29万7171円である。)。

(2) また,本件各業務のうち,別表(3)に掲記の各業務(以下「本件問題業務」という。)については,同表記載のとおり,それぞれ,実際には実施されなかった作業工程が存在し,市は,別表(4)のとおり,合計1070万5000円の損害を被った。

(3) よって,結局,市は,財務会計法規上違法な本件各委託契約及び本件各支出により,合計1174万5152円の損害を被った。

(被告ら及び参加人の主張)

(1) すべて争う。市には,原告らが主張するような損害は発生していない。

(2) 本件各委託契約による委託料は,中央用地対策連絡協議会事務局長が定めた調査士協会業務報酬及び司法書士協会業務報酬並びに京都市都市建設局が定めた「土木工事標準積算基準書[業務・作業]の標準歩掛表」及び京都市土木積算システム設計単価により適正に委託価格が算定されている。さらに,用地測量業務の委託単価は,平成7年度に実施した競争入札おける委託予定価格と落札価格の実績を踏まえ,実際の委託価格が入札に付した場合に決定されるであろう落札価格よりも低くなるように,同業務を競争入札に付す場合の予定価格の算定の基礎となる単価よりも1割低く決定している。

(3) なお,本件問題業務については,実施されなかった作業工程もあるが,別表(6)のとおり,原告らが主張する作業工程がすべて実施されなかったというわけではない。

第三当裁判所の判断

一1  被告ら及び参加人は,原告らが本件訴訟係属中の平成11年11月24日付準備書面でした,実際には実施されない作業工程分の委託料を支払ったことが損害であるとする損害賠償の追加請求は,監査請求期間を徒過したもので,不適法であるとの主張をする。

しかし,前記の追加請求の内容は,記録上,本件各委託契約に基づく登記測量業務等に実施されていない部分があって,それは債務不履行であるのに,それに対して市が適切な対処をしなかったことを問題とするものではなく,本件各委託契約の内容として予め定められた算定方法による委託料の額が,実際には実施されないことになる工程分までもその算定の基礎にして不当に高額になり得るように設定されたこと自体が違法であるとの趣旨の主張によるものと解される。

したがって,本件請求の請求原因は,前記第二の三に判示したとおりであって,上記追加請求は,本件各委託契約が財務会計法規上違法であることを基礎付ける違法事由の追加の主張と市の損害の主張の追加にすぎず,当初の本件の請求(訴訟物)と上記追加請求の請求(訴訟物)は同一のものであると解され,法242条2項の出訴期間の関係では,前記の追加請求も適法にすることができるものと解されるから,この点に関する被告らの主張は,そもそも失当である。また,原告らも請求(訴訟物)が別であることを前提として「主位的請求」「予備的請求」と表示するが,この点も失当であって,原告らの請求の表示としては,前記「第一 請求」のとおりになると解される。

2  原告らは,本件各委託契約が本件協定を具体化したものであることからすれば,本件協定も財務会計上の行為に該当する旨の主張をする。しかし,本件協定は,本件各支出に係る市の債務の発生原因事実(各委託料の支払債務の発生原因となる要件事実)ではなく(同要件事実は,本件各委託契約とそれに基づく業務実施箇所の指示であると解される。),支出負担行為ということはできず,その他法242条所定の財務会計上の行為には該当しないと解される。

3  次に,前記第二の二の認定事実によれば,1業務ないし10業務については,企画調整局及び都市計画局の所掌事務であり,都市建設局長であった被告Bは,本件各委託契約中の上記各業務の委託に関しては,権限を委任されたこともなく,又専決権限もなかったといえるから,法242条の2第1項4号前段の「当該職員」には該当しないというべきである。

したがって,原告らの本件訴えのうち,1業務ないし10業務に関して被告Bに対して損害賠償を求める部分は,不適法であるといわざるを得ない。

二  争点①に対する判断

1  被告らは,競争入札により個別的に土地家屋調査士,司法書士及び測量業者と委託契約を締結する場合と比較して,本件各委託契約を締結する方が,より合理的で,市に利益をもたらし,また,時間の短縮及び市の職員の労力の軽減が図れるし,また,本件各委託契約は,随意契約をする場合の要件も具備しており,財務会計法規上適法であると主張する。前記認定事実の下では,確かに,本件各委託契約の方法によれば,入札手続や司法書士,土地家屋調査士及び測量業者の選任,委託料の算定のための時間や労力,費用を節減できるし,それに三者の連携を密にして登記測量業務等の効率化を図り得る面もないではない。また,普通地方公共団体が上記のような諸点を考慮して,登記測量業務等の委託をする場合にどのような契約形態を選択するかについては,長その他の権限を有する者の一定程度の裁量があるものと解される。

2  しかしながら,本件各委託契約は,前記の裁量を逸脱したもので,財務会計法規上違法であるといわざるを得ない。その理由は次のとおりである。

(1) 地方財政法4条1項は,地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて,これを支出してはならないと定めている。また,法は,2条14項で「地方自治体は,その事務を処理するに当たっては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と規定し,更に,支出負担行為一般について,232条の3で「普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という。)は,法令又は予算の定めるところに従い,これをしなければならない。」と規定している。そして,支出負担行為の中の契約について,234条1項において,売買,貸借,請負その他の契約は,一般競争入札の方法によることを原則としており,指名競争入札,随意契約又はせり売りによることができるのは,法施行令で定める場合に該当するときに限られるものとしている(同条2項)。その上で,市においては,法施行令167条の2第1項1号,京都市契約事務規則26条により,委託料100万円を超える業務委託契約は,他に法施行令167条の2第1項のその他の事由がないかぎり,随意契約によることはできないこととされている。

(2) 上記のような各規定に照らすと,法は,地方公共団体が,公共事業のための用地を取得する際に必要となる登記測量業務等を測量業者等に委託する契約をする場合においても,その個々の登記測量業務等を実施することに決まった段階で,測量業者,司法書士,土地家屋調査士相互間でできるだけ競争させた上で,できるだけ安価に具体的な委託額を決定させて契約することを要請していることが明らかである。そして,法234条は,あくまで,特定の登記測量業務等の委託額を決定するために競争入札の方法を原則としてすることを要請しているのであって,そもそも,一定の期間内に予定される将来の複数の事業についての登記測量業務等を,その委託内容も定まらない段階で,予め包括的に委託することなどは原則として予定しておらず,前記の各規定の趣旨に照らしても,そのような契約をすること自体が,法2条14項,232条の3,234条1項の趣旨に反するものといわなければならない。

(3) 更に,前記第二の二の認定事実によれば,本件各委託契約は,それぞれ,業務実施箇所の指示によって特定された登記測量業務等について,調査士協会の内部で担当者となる土地家屋調査士を,司法書士協会の内部で担当者となる司法書士を,用測協の内部で担当者となる測量業者を,それぞれ選任して決定させるもので,各同業者毎のいわば官製の談合を容認する内容となっている。しかも,その代金については,当初から,本件3団体それぞれに支払われる代金の単価及び算定方式が定められており,個々の具体的な登記測量業務等毎に,各測量業者間,司法書士間,土地家屋調査士間の競争原理によって委託代金が決定されることは全くあり得ない形態である。

したがって,本件各委託契約は,従来,市が,各事業が実施されることが決定した後に,その事業毎に,測量業務等を,個別に,委託料100万円を超えるものについては競争入札を実施した上で委託契約をし(京都市契約事務規則26条,法施行令167条の2第1項1号),あるいは,委託料100万円までのものについては随意契約によって,測量業者等へ個別的に委託契約をしていた場合と比較すると,その各契約の内容自体において,まず,任意加入の団体である本件3団体に属していない司法書士,土地家屋調査士及び測量業者の参入を排除するとともに,それが前記のような包括的な一括委託であることによって,委託料100万円以上のものについては,本件3団体内部での各同業者相互間における競争も,悉く排除してしまう内容を含むものといわざるを得ない。特に,登記測量業務等の相当部分を占める測量業者が行う測量業務については,社団法人として認可される前の用測協の内部において,各事業についての業務実施箇所の指示に応じて,どの測量業者が業務責任者となって実際にその測量業務を担当するのか,その測量業者は,用測協からいくらの代金を受領するのかについてまで,このような任意の団体の内部にいわば任せきりの内容となるものであり,その代金額からみても,各測量業者間の競争を著しく制限する極めて不明朗なものであるといわなければならない。本件各委託契約のような契約形態を採ると,特定の測量業者との不明朗な関係が生じ易くなる弊害もあるといわなければならず,前記のような法の趣旨に著しく反するものといわざるを得ない。

(4) また,本件各委託契約は,各事業について必要となる登記測量業務等の具体的な内容が決定する前の段階で,予め,市が支払うべき代金額も,所定の算定方法に従って算出することとされていた関係上,各事業(工事)毎の委託内容の必要性の吟味も曖昧になる可能性があり,このような観点からも,前記の法の趣旨に反する危険性を内包しているものといえる。

(5) このようにみてくると,本件各委託契約は,それが競争入札の方法ではない随意契約であるという以前に,そもそも,地方財政法4条1項,法2条14項,234条が禁じている内容,形態の支出を伴う契約であるというべきで,市の長やその権限の委任を受けた者に前記のような一定の裁量があるとしても,その裁量の範囲を著しく逸脱した内容の契約であって,前記の各規定に反する違法な契約であるといわざるを得ない。

3  もっとも,本件3団体のうち,司法書士協会及び調査士協会は,前記認定事実のとおり,いずれも,法律で定められた同業者で組織する法人であって,それぞれの業務について,司法書士協会にあっては,司法書士法17条の7第1項において,官公署等の嘱託を受けて,不動産の権利に関する登記につき司法書士が行うものとされている業務を行うことと,調査士協会にあっては,土地家屋調査士法17条の7第1項において,官公署の依頼を受けて,土地家屋調査士の業務とされている土地家屋に関する調査,測量,これらを必要とする申請手続等の業務を行うことと,それぞれ規定されており,これらの法律の規定によれば,本件各委託契約のうち,上記の2団体との間の各委託契約については,そもそも,上記各法律の規定によって,それぞれの団体内部の同業者間の競争についてはこれを排除することが予定されており,その限りでは違法ではないとの見方もあり得る。

しかしながら,前記認定のとおり,司法書士協会は,京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する全司法書士の約4割,調査士協会は,同じく全土地家屋調査士の約6割をそれぞれ組織するに過ぎないこと,上記各法律の規定によっても,本件各委託契約のように,特定の登記測量業務等の委託ではなく,一定期間内に実施される登記測量業務等を予め包括的に,これらの団体が委託を受けることまでは予定していないものというべきである。

したがって,上記各法律の規定の存在如何に関わらず,本件各委託契約は,全体として,財務会計法規上違法というべきである。

4  本件各委託契約は,法234条及び同施行令167条の2第1項2号並びに地方財政法4条1項に反し,財務会計法規上違法というべきである。

三  争点②について

1  被告Bについて

(1) 前記第二の二の認定事実によれば,被告Bは,平成8年度において,市の都市建設局長の地位にあった者であり,本件各委託契約のうち,企画調整局及び都市計画局の所掌事務に関する1業務ないし10業務を除くその余の契約(甲2の1ないし2の8,甲2の10,2の11,2の13,2の14,以下,これらの契約を「本件各建設局契約」という。)について,専決権限を有していた者で,それらの契約をした者であるので,この関係で「当該職員」にあたることは明らかである。

(2) 次に,被告Bの市に対する責任は,法243条の2第1項により賠償命令の対象となり得る特別な損害賠償責任であり,同条の2第9項によって民法の適用が排除されており,少なくとも,故意又は重過失を要件とし,その損害が2人以上の職員の行為によって生じた場合であっても,共同不法行為の効果を定めた民法719条の適用もなく,法243条の2第2項の規定に従って,それぞれの職分に応じ,かつ当該行為が当該損害の発生の原因となった程度に応じて賠償の責めに任ずるものとされている責任であると解される。

(3) そこで,被告Bに,本件各建設局契約を本件3団体との間で締結したことにつき,故意又は重大な過失があったか否かを検討する。

本件各建設局契約は,前記判示のとおり,確かに,財務会計法規上違法なものであり,被告Bは,市の都市建設局長として,専決権者として本件各建設契約を締結したことにつき,過失があったというべきではある。

しかしながら,本件各証拠を検討しても,被告Bに重過失があったことまでは認めることができない。むしろ,前記の認定事実及び本件各証拠によれば,本件各建設契約は,すでに,京都府において同様の形態で司法書士協会,調査士協会,それに用測協との間でされていたのにならったもので,同被告が本件協定をし,その後本件各建設契約をした時点では,市の方針としてすでに決定されていたもので,同被告としては,そのことは受け入れざるを得ない立場にあったことが認められるのである。

(4) そうすると,被告Bについては,前記の法243条の2第1項による責任があるとはいえないというべきである。

2  被告Aについて

前記第二の二の認定事実によれば,平成8年度当時,被告Aは,地方公共団体の長として,本件各委託契約の締結についての本来的権限者であったことは明らかである。そして,前記第二の二の認定事実によれば,平成8年当時建設局長であった被告B,企画調整局長及び都市計画局長が,本件各委託契約を締結したもので,被告Aは,上記の職員らが違法な本件各委託契約を締結することを阻止すべき指揮監督上の義務を有していたことも明らかである。そして,本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,京都府において市に先立って平成7年度から本件協定及び本件各委託契約と同様の制度が採用されており,京都府知事もその概要は了知していたこと,本件協定及びそれを具体化した本件各委託契約は,市においては,市政改革大綱の方針に従った内容であり,各部局を越えて決定された大きな方針であったことが認められることに照らしても,本件各委託契約が締結された当時,被告Aも,本件協定の内容の概要は当然に知っていたものと推認される。そして,被告Aとしては,市長としての職責に鑑みても,本件協定及び本件各委託契約に至る過程において,関係部署に働きかけ,或いは,それらを指揮することにより,本件協定及び本件各委託契約に至ることを中止させることができたというべきである。そうすると,被告Aにおいて,被告Bを含む各専決権者が財務会計法規上違法な本件各委託契約を締結することを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したもので,この点につき,少なくとも過失があったものといわざるを得ない。

よって,被告Aは,被告Bを含む各専決権者が本件各委託契約を締結したことにより市が被った損害について,その賠償責任を免れないというべきである。

四  争点③について

1  まず,前記第二の二の認定事実及び本件各証拠によれば,市においては,本件各委託契約とその後に各事業についてされた業務実施箇所の指示によって確定された委託料を,平成8年10月8日から平成9年3月31日までの間に,別表(1)の「支出決定日」欄の日に支出決定をし,登記測量協会に支払ったこと(本件各支出),そして,登記測量業務等を実際に担当した司法書士,土地家屋調査士及び測量業者は,それぞれ,少なくとも,原告らが主張するとおり,業務受託分担金合計104万0152円を支払ったこと,以上が認められる。

そうすると,上記の業務受託分担金は,実質的には市が委託料として支払った本件各支出から,登記測量業務等の実際の個々の担当者がそれぞれその所属する団体に支払った金員であり,市が,個々の事業毎に,競争入札等の方法により,実際の担当者と個別に委託契約を締結しておれば,本来,支払う必要のなかった金員であるということができる。従って,市は,違法な本件各委託契約がされたことによって,少なくとも,前記の業務受託分担金相当額の損害を被ったというべきである。

なお,被告Aは,本件3団体がこのような業務受託分担金を受け取っていたことを全く知らなかったし,知り得べき事情もなかったと主張するが,仮にそうであったとしても,そのことは,前記判示のとおりの損害の認定・判断を左右するものではないというべきである。

2  次に,前記の損害に加えて,更に,原告らが主張する登記測量業務等のうち,実際に実施されなかった作業工程分の委託料相当額の損害が生じたといえるかどうかについて検討する。

(1) 登記測量業務等の中で原告らが実施されていない作業工程があると主張する別表(3)の1-1業務の⑥,7業務の⑫,13業務の⑥⑦⑪⑭⑮,67業務の⑮,72業務の⑥⑮,93業務の⑫⑬⑭(一部)⑮については,実施されなかったか又は少なくとも成果物の作成のための指示がされなかったことについて,当事者間に争いがない。

(2) そして,前記の認定事実及び本件各証拠を総合すると,本件問題業務のうち,前記(1)の各業務のほかに,1-1業務の⑦⑨⑮,1-2業務の⑦⑮,7業務の⑦⑨⑮,17業務の⑦⑨⑭,21業務の⑦⑨⑪⑭⑮,40業務の⑦⑨⑮,66業務の⑨⑭,67業務の⑦⑫⑭,72業務の⑭については,少なくとも,具体的な作業工程としては実施されなかったものと認められる。

(3) そうすると,登記測量業務等のうち前記(1)(2)の各作業工程分については,前記認定のとおり,本件各支出は,各作業工程すべてを実施されたものとして単価を算定し,それに基づいて委託金額を確定させることになっていたものであるから,その委託費の支出は,本来は不要であった可能性がある。

しかしながら,前記認定のとおり,委託予定単価のうち測量業務単価については,標準積算基準書及び設計単価によって算定された積算額に更に0.9を乗じて,減額しており,作業工程の一部が実施されていない可能性のあることは一部ではあるが,折り込み済みで算定されている。また,京都市契約事務規則26条,法施行令167条の2第1項1号によれば,委託料額が100万円以下の場合は,市において,もともと,随意契約の締結が認められていることからすれば,委託料額が100万円以下の場合であれば,もともと,市が随意契約によって業務委託することも可能であったわけで,その限りでは競争関係はそもそも完全に徹底できるものではなかった面もある。これらの点に照らすと,本件各証拠によっても,すでに判示したとおりの業務受託分担金である前記1の損害分に加えて,更に,前記の各作業工程分を実施しなかったことによる損害が生じたものとは,未だ認めるに足りないというべきである。

3  そうすると,市は,少なくとも,前記の業務受託分担金相当額の合計104万0152円の損害を被ったものと認められるが,それ以上の損害があったとは,結局,認められないというべきである。

第四結論

以上の次第であり,原告らの本件訴えのうち,被告Bに対し,別表(1)の「番号」欄記載の1ないし10の各業務に関する損害賠償を求める部分については,いずれも不適法であるから,これらを却下することとし,被告Aに対し,京都市に104万0152円及びこれに対する同被告への当初の本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成9年10月22日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので,この限度で認容し(なお,遅滞となるのは,当初の本件訴状の送達によるものと解される。),その余の請求は,いずれも理由がないので棄却することとし,訴訟費用の負担については行訴法7条,民訴法64条,65条1項,66条を適用し,仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 飯野里朗 裁判官 谷田好史)

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