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京都地方裁判所 平成9年(ワ)780号 判決

京都市南区東九条南山王町六番地の三

原告(反訴被告)

株式会社三幸

右代表者代表取締役

山本政幸

右訴訟代理人弁護士

松村信夫

右訴訟復代理人弁護士

芹田幸子

右輔佐人弁理士

肥田正法

静岡県榛原郡相良町相良二五六番地の二五

被告(反訴原告)

株式会社ジヤック

右代表者代表取締役

星泰雄

右訴訟代理人弁護士

加地修

杉浦幸彦

右輔佐人弁理士

木内光春

主文

一  原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。

二  原告(反訴被告)は、別紙目録一1及び2記載の標章、その他「STUSSY」もしくは「STUSSY」の欧文字からなる標章を、かばん、その容器、包装もしくは広告にこれを付し、または右標章を付したかばんを販売もしくは販売のために展示してはならない。

三  原告(反訴被告)は、前項の標章を付したかばん、その容器、包装紙またはパンフレットを廃棄せよ。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  本訴

1  被告(反訴原告)は、別紙目録二2記載の標章を付したかばん類、袋物類を製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡しのために展示してはならない。

2  被告(反訴原告)は、前項のかばん類、袋物類を廃棄せよ。

3  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金一七〇二万円及びこれに対する平成九年四月一〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

主文二、三項と同旨

第二  事案の概要

一  事案の要旨

本訴事件は、別紙目録一1記載の標章につき商標登録を有する原告(反訴被告)(以下「原告」という)が、その商標権に基づき、同目録二2記載の標章を使用する被告(反訴原告)(以下「被告」という)に対し、同標章を付したかばん類、袋物類の製造・譲渡等の禁止及び同かばん類、袋物類の廃棄並びに損害賠償を求め、被告が、原告の右商標登録は、商標法四条一項八、一〇、一一、一五、一九号の各不登録事由が存するにもかかわらずなされたものであって無効と判断されるべきであることなどを理由とし、原告の本訴請求は権利濫用であるなどと主張して争った事案である。

反訴事件は、別紙目録二1及び3記載の標章等を使用する被告が、これらの標章が被告または被告が独占的販売店契約を締結している米国の法人ステューシー・インク(以下「ステューシー社」という)の商品等表示として周知性を有するところ、同目録一1記載の標章を使用し、同標章及び同2記載の標章につき商標登録を有する原告に対し、これらの標章が、被告の使用する右標章等と類似し誤認混同のおそれがあるとして、不正競争防止法二条一項一号に基づき、原告の右標章等の使用等の禁止及び同標章等を付したかばん等の廃棄を求め、原告が、被告の使用する右標章等の商品等表示としての周知性や、被告が原告の標章等の使用等の差止を求め得る権利主体であることを争うとともに、原告の右標章等の使用は原告の有する商標権に基づく権利行使であると主張し、これに対し、被告が、原告の商標権の行使は権利濫用であると主張した事案である。

二  基礎的事実(争いのない事実並びに文中に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認定した事実)

1  原告の商標登録

原告は、別紙目録一1記載の標章(以下「原告活字体標章」という)につき(一)の、同2記載の標章(以下「原告筆記体標章」という)につき(二)の商標登録を有する。

(一) 原告活字体標章(甲一、二)

出願年月日 平成三年九月一一日

出願番号 平三-九五四六七

出願公告年月日 平成四年一二月八日

出願公告番号 平四-一四三三五五

登録年月日 平成五年九月三〇日

登録番号 第二五七七〇四四号

商品の区分 第二一類

指定商品 かばん、その他本類に属する商品

(二) 原告筆記体標章(乙三添付の甲一、二)

出願年月日 平成三年九月一一日

出願番号 平三-九五四六八

出願公告年月日 平成四年一二月八日

出願公告番号 平四-一四三三五六

登録年月日 平成五年九月三〇日

登録番号 第二五七七〇四五号

商品の区分 第二一類

指定商品 かばん、その他本類に属する商品

2  被告は、別紙目録二3記載の標章(以下「被告筆記体標章1」という)につき(一)、(二)の、同4記載の標章(以下「被告筆記体標章2」という)につき(三)、(四)の、同5記載の標章(以下「被告筆記体標章3」という)につき(五)の、同1記載の標章(以下「被告活字体標章1」という)につき(六)ないし(八)の、それぞれ商標登録を有する。

(一) 被告筆記体標章1(乙三添付の甲三、四)

出願年月日 昭和六三年四月二〇日

出願番号 昭六三-四六五五八

出願公告年月日 平成二年八月一五日

出願公告番号 平二-五八七一一

登録年月日 平成三年八月三〇日

登録番号 第二三二五七五一号

商品の区分 第二一類

指定商品 装身具、その他本類に属する商品

(二) 被告筆記体標章1(甲三添付の乙四)

出願年月日 昭和六三年四月二〇日

出願番号 昭六三-四六五五九

出願公告年月日 平成三年四月二六日

出願公告番号 平三-三四八七二

登録番号 第二三九一四五三号

商品の区分 第二三類

指定商品 時計、眼鏡、これらの部品及び附属品

(三) 被告筆記体標章2(甲三添付の乙三)

出願年月日 平成三年四月一二日

出願番号 平二-三七〇九六

出願公告年月日 平成四年一〇月二八日

出願公告番号 平四-一二五一〇五

登録番号 第二五七〇七一六号

商品の区分 第二二類

指定商品 はき物(運動用特殊靴を除く)、かさ、つえ、これらの部品及び附属品、その他本類に属する商品

(四) 被告筆記体標章2(甲三添付の乙五)

出願年月日 平成三年四月一二日

出願番号 平三-三七〇九七

出願公告年月日 平成五年二月二五日

出願公告番号 平五-二三八三九

登録番号 第二六一六四三四号

商品の区分 第二七類

指定商品 たばこ、喫煙用具、マッチ

(五) 被告筆記体標章3(乙三添付の甲一八~二〇)(ただし、被告の代表者である星泰雄(以下「星」という)と米国人であるショーン・ステューシーが、昭和五九年五月六日、中富浩から同標章についての商標登録出願に係る権利を譲り受け、星は、平成二年一二月八日、被告にその持分を譲渡している。)

出願年月日 昭和五七年四月二八日

出願番号 昭五七-三七三〇八

出願公告年月日 平成元年六月二一日

出願公告番号 平一-四一五六九

登録年月日 平成二年六月二八日

登録番号 第二二三九三〇七号

商品の区分 第一七類

指定商品 被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)

(六) 被告活字体標章1(甲三添付の乙三)

出願年月日 平成三年六月一〇日

出願番号 平三-五八九七七

出願公告年月日 平成四年一〇月三〇日

出願公告番号 平四-一二六七五五

登録番号 第二五六九二七四号

商品の区分 第二二類

指定商品 はき物(運動用特殊靴を除く)、かさ、つえ、これらの部品及び附属品

(七) 被告活字体標章1(甲三添付の乙四)

出願年月日 平成三年六月一〇日

出願番号 平三-五八九七八

出願公告年月日 平成五年三月一〇日

出願公告番号 平五-二七九三七

登録番号 第一六一六四六二号

商品の区分 第二三類

指定商品 時計、眼鏡、これらの部品及び附属品

(八) 被告活字体標章1(甲三添付の乙五)

出願年月日 平成三年六月一〇日

出願番号 平三-五八九八〇

出願公告年月日 平成五年二月二五日

出願公告番号 平五-二三八八一

登録番号 第二六一六四六三号

商品の区分 第二七類

指定商品 たばこ、喫煙用具、マッチ

3  原告及び被告の標章の使用

(一) 原告は、原告活字体標章を付したかばんを製造し、同かばんに原告活字体標章を記載したタッグを付して販売している(甲五、七、乙一一、一四、一六、二一、二二、二八)。

(二) 被告は、被告筆記体標章1、同活字体標章1、別紙目録二2記載の標章(以下「被告活字体標章2」という)、原告活字体標章と同一の標章(以下、被告が使用する原告活字体標章と同一の標章を「被告活字体標章3」という)を付したTシャツ、帽子、かばん類、袋物類等を、米国カリフオリニア州の法人ステューシー社から輸入し、販売している(ただし、Tシャツ等に印されている筆記体標章は、第一字目の「S」の筆記体文字の下部が被告筆記体標章1(別紙目録二3)よりも右に広がるなど、原告筆記体標章(別紙目録一2)に近い)(検甲一、二の1、2、三の1、2、五の3、六の1~3、七の1~3、乙三添付の甲一四=三丁、同甲一六=二、三丁、乙一二の2、3、二三の5=三丁、同9=五~七丁、二四)。

4  原告活字体標章と被告活字体標章2の類似性

原告活字体標章は、「STUSSY」の欧文字(大文字体)の通常の字体からなる標章であり、被告活字体標章2は、「stussy」の欧文字(小文字体)のやや太い斜字体からなる標章であるところ、両標章は、欧文字が大文字体か小文字体かの点、「U(u)」の字にウムラウトが付されているか否かの点及び被告活字体標章2がやや太文字で斜体となっている点において差があるものの、これらの差は特段の特徴となるものではないから両標章の外観は類似し、また称呼も「ステューシー」と同一であるから、両標章は類似性がある(被告活字体標章2は、「ステューシー」のほか、「スタ(ツ)シー」の称呼が生じる可能性も考えられるが、被告が同標章の称呼を「ステューシー」として現に使用していることは明らかであり、右可能性をもって類似性が否定されるものではないなお、両標章に類似性があることは争いがない)。

第三  原告の主張(本訴)

以下、原告活字体標章を「本件商標」ともいい、同標章につきなされた商標登録による商標権を「本件商標権」、被告活字体標章1ないし3を「被告活字体標章」、被告筆記体標章1ないし3を「被告筆記体標章」、被告活字体標章及び被告筆記体標章を「ステューシー標章」、ステューシー社が製造・販売するステューシー標章を付した商品を「ステューシー商品」とそれぞれいう。

一  被告の商標権侵害行為

1  被告は、平成八年一〇月ころ、被告活字体標章2を付したかばん類、袋物類の製造・販売を開始し、現在もその製造・販売をしている。

2  前記第二、二4のとおり、本件商標と被告活字体標章2は類似性があるので、被告の前記1の行為は、原告の本件商標権を侵害するものである。

二  原告の損害

1  得たる利益相当の損害

被告は、原告が本訴を提起(平成九年三月二九日)するまでの約六か月間に検甲一ないし三(二、三は各1、2)のように被告活字体標章2を付したかばん類、袋物類を少なくとも各々約二〇〇〇個販売した。検甲一及び二のかばん・袋物の販売価格は各々五八〇〇円であり、同三のかばん・袋物の同価格は七八〇〇円である。

被告は、右かばん、袋物の売上の約四〇パーセント以上の販売利益を得ていると推定されるので、被告が被告活字体標章2を付したかばん、袋物を販売して得た利益は、少なくとも一五五二万円を下らない。

よって、商標法三八条一項により、原告は同額の損害を被ったと推定される。

2  使用料相当の損害

仮に、そうでないとしても、原告が本件商標の使用許諾を行った場合の通常の使用料率は、被許諾者の売上の五パーセントを下ることはない。

よって、原告は、被告に対し、商標法三八条二項に基づき一九四万円を、被告の被告活字体標章2を付したかばん類、袋物類の販売により原告が受けた損害額として請求できる。

3  弁護士費用 一五〇万円

三  よって、原告は、被告に対し、商標法三六条、三七条に基づき、被告活字体標章2を付したかばん類、袋物類の製造・販売等の差止及び同かばん類、袋物類の廃棄並びに商標法三八条一、二項、民法七〇九条に基づき、主位的に前記二1及び3の合計額一七〇二万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年四月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、予備的に前記二2及び3の合計額三四四万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める。

第四  被告の主張等(本訴)

一  原告の主張に対する認否等

1  被告の商標権侵害行為について

被告の販売するかばん類、袋物類等は、すべてステユーシー社が製造したものであって、同社の日本における独占的販売店である被告はこれらを一切製造していない。

被告が原告の本件商標権を侵害しているとの主張は争う。

2  原告の損害について

(一) 原告が一五五二万円の損害を被ったとの主張は争う。検甲一、二のかばん・袋物の希望小売販売価格が各々五八〇〇円であること、同三のかばん・袋物の同価格が七八〇〇円であることは認めるが、前記1のとおり、被告は、これらのかばん・袋物を製造しておらず、また輸入した商品のかなりの部分は再販売業者を通じて販売している。したがって、被告の販売利益に関する原告の主張は根拠がない。

(二) 商標法三八条一項の適用について

商標法三八条一項により損害額を推定するには、本件商標を原告が実際に使用していたことを要すると解すべきである。登録商標は、権利者がそれを使用することにより出所表示機能を現実化し権利価値が高まる性質のものであり、権利者の未使用の商標が他の者に使用されたとしても、そこに権利者の逸失利益を観念する余地がないからである。

原告は、ごく最近になって、本件商標を付したかばんを販売し始めたにすぎないのであって、かかる標章には原告の業務上の信用は化体しておらず、需要者が被告活字体標章2を見ても原告の製品と判断することはあり得ないから、被告の被告活字体標章2の使用によっても、原告の信用は害されていない。

したがって、原告は商標法三八条一項の適用を主張することはできないというべきである。

(三) 使用料相当の損害及び弁護士費用については争う。

二  権利濫用

以下に述べるとおり、本件商標登録は無効と判断されるべきものであり、このような場合、裁判所が商標登録を無効と判断することについて法律上は何らの障害もないのであるから、裁判所は必要に応じて商標登録の無効性を第一次的に判断すべきである。

仮に商標登録の無効性は裁判所ではなく特許庁が第一次的に判断すべきであるとしても、特許庁が無効と判断する可能性が非常に強いような本件商標権に基づいて、原告が被告に対し、標章の使用差止や損害賠償を請求することは権利の濫用として許されない。

1  商標法四条一項一五号(他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標)について

ステューシー標章と原告が使用している原告活字体標章及び同筆記体標章は互いに類似している(標章の類似性の問題)。また、原告が本件商標につき商標登録出願を行った平成三年九月一一日当時及びその商標登録がなされた平成五年九月三〇日当時のいずれにおいても、被告が販売するステューシー商品及びこれに使用されたステューシー標章は、少なくとも被服等の分野では若者及び当業者の間で周知であった(周知性の問題)。そして、原告が本件商標の指定商品とするとともに実際に原告活字体標章を使用している商品(すなわち若者用のかばん)は、ステューシー標章が多用されている被服と非常に関連性が強いといえる(商品の関連性の問題)。このため、原告がかばんに関して本件商標を使用した場合には、誤認混同のおそれ(広義のそれを含む)が強いということができる。以下その理由について詳述する。

(一) 原告活字体標章とステューシー標章との類似性

原告活字体標章が、被告活字体標章2に類似することは前記第二、二4のとおりである。

よって、原告活字体標章は、ステューシー標章(ことに被告活字体標章)に類似する。

(二) ステューシー社及び被告について

(1) サーフボードのシェイパー(ボードの形に作り上げるひと)及びデザイナー(ボードの表面に色付け等をするひと)として有名であったショーン・ステューシーは、サーフボードとともに衣類、運動具、かばん等ファッション全般にわたる商品をデザインするとともにその製造・販売を個人的に行ってきた。そして、ショーン・ステューシーは業務のさらなる発展を期して、一九八五(昭和六〇)年に米国カリフォルニア州においてステユーシー社を設立し、同社に従前行ってきた業務を引き継がせた。

ステユーシー商品は、日本をはじめとして、米国、オーストラリア、イギリス、イタリア、フランス、ベルギー等世界各国でも広く販売されている(乙一、二)。

(2) 被告は、昭和五三年一二月二五日、スポーツ用品の製造及び販売を目的として設立され、一九八七(昭和六二)年一月一日、ステューシー社との間で独占的販売店契約を締結し、以後、日本における同社の独占的販売業者として、同社が製造する衣類、運動具、かばん等のステユーシー商品を独占的に販売してきた(乙四五)。また、ステューシー社は、被告に対し、一九九〇(平成二)年八月九日付けの覚書により、被告がステユーシーなる名前に関する商標権及び著作権のすべてを防御しかつ手続を完了するに必要な一切の事項を行う権限を付与した(乙三〇)。

そこで、被告は、衣類はもとより、運動具、履物等を指定商品として、前記第二、二2(二)ないし(八)のとおり、被告筆記体標章や被告活字体標章について多数の商標登録を受け、これらの登録商標を付した商品を販売してきた。また、被告は、同(一)のとおり、昭和六三年四月二〇日、被告筆記体標章1に関し、装身具、その他商標旧商品区分第二一類に属する商品(かばんも含まれる)を指定商品として、商標登録の出願をした結果、平成二年一二月一四日に登録査定を受け、平成三年八月三〇日、商標登録を受けている。

なお、被告は、被告活字体標章1に関しても、平成三年六月一〇日、旧商品区分第二一類に属する商品を指定商品として商標登録出願をしたが、特許庁からエース株式会社の「STACY」なる登録済商標(出願年月日・昭和五三年四月二二日、出願番号・昭五六-二九三八一、出願公告年月日・昭和五六年七月九日、出願公告番号・昭五六-三三四七〇、登録年月日・平成元年一一月二〇日、登録番号・第一五一二四八九号、商品の区分・第二一類、指定商品・かばん類、袋物類、その他本類に属する商品)(以下「STACY商標」という)に類似していることを理由に拒絶された。このため、被告は、同標章を未だ同指定商品について商標登録するに至っていないが、顧問弁理士を通じて既に不使用に基づく取消審判によりSTACY商標の登録は取消済みであり、被告は、片仮名の「ステユーシー」及び欧文字活字体の「STUSSY」の二段書からなる標章につき、かばん等を指定商品として商標出願を新たに行っている(乙六の1、2)。

(三) 日本におけるステューシー標章の周知性

(1) ステューシー標章の被告の使用態様

ショーン・ステューシー及びステューシー社は、当初から、製造・販売する商品に、ショーン・ステューシーの署名に由来する被告筆記体標章及び同人の名を表記した被告活字体標章等の種々の字体からなる文字標章を商標として使用したり、商品のデザインとして意匠的に使用してきた(乙二~四、八、一二の1~3、二三の1~10、二四)。

また、被告がステューシー商品を取り扱い始めた昭和五八年から現在に至るまで一貫してステューシー商品にはステューシー標章を記載したラベルが付されており、また、ステューシー標章はステューシー商品のデザインとしても多用されてきた(乙二)。さらに、ステューシー商品は、本件商標等の出願前から直営店、代理店、小売店及びステューシー商品専門店において販売されていたところ、被告はこれらの店舗の店名中にステューシーなる標章を使用したり、同所におけるステューシー商品のレイアウトや売場のデザインを指示し、売場にステューシー標章や日本語の「ステューシー」なる標章を掲示させてきた。このため、ステューシー商品の購入者の大多数は、漫然とステューシー商品を購入しているのではなく、ステューシー標章を明確に認識した上でこれを購入しているのが実状である(むしろ、需要者は、ステューシー標章が付されているからこそ、ノンブランドの商品に比して高価なステューシー商品を購入しているのである)。

このようなステューシー標章の使用状況及び需要者の状況は、原告が本件商標等を出願する前から現在に至るまで基本的に変わっていない。後記のとおり、ステューシー商品は、本件商標等の出願前から雑誌等で頻繁に取り上げられていた。このため、多くの需要者は、被告筆記体標章、同活字体標章、または日本語の「ステューシー」なる標章のいずれか一つでも見れば、他のステューシー標章を容易に想起し、これらの標章が付された商品を被告が独占的販売業者として取り扱っているステューシー商品として認識してきた。このような次第で、被告筆記体標章、被告活字体標章及び日本語の「ステューシー」なる標章とは、互いを想起させるような密接な関係にあるといえるのである。このような関連性については、原告が原告活字体標章と同筆記体標章を同時に商標登録出願している事実によっても裏付けられる。

(2) 原告が本件商標の登録出願をした当時のステューシー標章の周知性

以上のように被告は昭和五八年以降ステューシー商品の販売を継続し、これに伴い多額の費用を投じて販売促進活動を積極的に行ってきた。この甲斐もあって、ステューシー商品及びステューシー標章は、原告が本件商標の登録出願を行った平成三年九月一一日当時、既に少なくともファッションに敏感な若者を中核とする需要者及びファッション関係者(取扱業者等)の間で周知となっていた。これは、以下の事実から明らかである。

〈1〉 昭和五八、九年当時の周知性について

昭和五八、九年ころにかけ、若者を中心に第二次サーフィン・ブームが起こつていたが、このころ、多くのサーファーは、「サーフマガジン」、「サーフィンライフ」及び「サーフィンワールド」の三つの雑誌を購読していた(乙四〇)。

このような状況であったため、被告は、サーファーらに対して、サーフボードを中核とする商品(Tシャツ等の被服を含む)を販売すべく、昭和五八年にはステューシー社と業務提携をして、わが国における独占的販売業者としてステューシー商品の販売を行い、同(一九八三)年一〇月二〇日及び昭和五九(一九八四)年八月二〇日発行の「サーフマガジン」並びに同年四月一日発行の「サーフィンライフ」にステューシー商品の広告を掲載したりした(「サーフマガジン」の右広告はステューシー商品のうち被服に関するものである)。被告のかかる広告及び販売活動により、ステューシー標章はサーファーらの間でさらに周知となっていった。

なお、被告は、「サーフインライフ」誌の要請に応じて取材協力をした結果、昭和五九(一九八四)年四月一日発行の「サーフインライフ」に六頁からなるショーン・ステューシーの特集記事が掲載された。このような記事が掲載されたこと自体、当時既にショーン・ステューシー及びステューシー商品がサーファーらの間で周知となっていたことが裏付けられるが、さらにかかる記事によってステューシー標章の周知性が一層高まったということができる。事実、この記事が掲載されたことにより、需要者は被告に多数問い合わせをし、被告におけるステューシー商品の売上げも増加した。

〈2〉 本件商標等の出願当時(平成三年九月一一日)の周知性について

右のようなサーフィン・ブームや被告らサーフィン関係者の努力の結果、平成二年から同三年ころには、サーフィン関係のブランドがサーファーに限られず、ファッションに敏感な若者に広く愛用されるようになってきた。被告は、このようなファッション・トレンドを受けてステューシー商品の販路を拡大するため、以下のような営業努力を行った。この甲斐あって、ステューシー標章はファッションに敏感な若者全般の間で一層周知となっていった。

ア 当時発行された「ファイン」及び「リディム」なる雑誌の記事

「ファイン」及び「リディム」は、ストリート・ウエア情報及び音楽情報等を取り扱うファッション雑誌であるが、いずれも一〇代から二〇代にかけての若者を主たる購読者としている。なお、「ファイン」は、書店やコンビニエンス・ストア、「リディム」は、レコード店及びカジュアルウエア店等がそれぞれ頒布しており、その発行部数は乙四〇添付の掲載雑誌一覧表のとおりである。平成元(一九八九)年六月号「ファイン」の五九頁の記事は、冒頭の見出しで、「B-BOYやスケーターなど、東京を中心に入手しにくいステューシーのウエアの人気は上がる一方」とステューシー・ブランドを紹介しており、ステユーシー・ブランドが被服のブランドとして当時から周知であったことが分かる。

ステューシー商品等に関する記事や広告がこれらの雑誌に掲載された結果、ステューシー標章は少なくとも同雑誌の購読者の中核たる一〇代及び二〇代のストリート系ファッション等に興味を有する若者の間でより一層周知となっていった。

なお、平成三年度(同年四月から平成四年三月までの会計年度)において、被告の売上げは六億五五二五万円もあったこと(このうちの約八五パーセントがステューシー商品の売上げである)や被告がステューシー商品のために「五〇〇万円程度の広告宣伝費を計上していることからもステューシー標章の周知性の度合いを窺い知ることができる(乙一)。被告は昭和五八年にステューシー商品の販売を開始してから、ステューシー商品の宣伝広告をするため相当程度の費用を投じ続けてきたが、被告のこれらの地道な努力にょり、平成三年当時既にステューシー標章が一〇代及び二〇代のストリート系ファッション等に興味を有する若者並びに当業者の間で少なくとも周知となっていた。

イ ディスコ・ゴールドにおいて開催されたイベント

平成三(一九九一)年三月号「ファイン」の二〇頁、二一頁の記事(乙二三の9)は、被告が掲載依頼した広告ではなく、出版社の方で独自に記事としたものである。同記事は、ステューシー・ブランドを「カリフォルニアのサーファー・スケーターに始まり、今やTOKYO、NY、ロンドンのクラブフライヤーたちにも絶大な支持を集めている人気ブランド」として紹介するとともに、平成二(一九九〇)年一一月二五日に、東京都港区芝浦に所在していたディスコのゴールド(当時、ジュリアナ東京と並んで一世を風靡したディスコであって、当時の雑誌やテレビでは数多く紹介された)において、ステユーシー・ナイトなるイベントが行われたこと、若者に人気の芸能人(ブラザー・コン、RIKACO、田中律子、藤原ヒロシ、小泉今日子等)が当該イベントに参加したこと等を紹介しているが、これは出版社が同イベントの事件性が大きいと判断した結果である(出版社がステユーシー商品について読者が興味を持っていると判断したからこそ、同イベントの事件性が高いと判断したわけである)。

ちなみに、右イベントは、被告とゴールドとのタイアップにより開催されたものであるが、これはゴールドがステューシー・ブランドをファッションに敏感な若者の間で人気が高いと判断したことによるものである(ステューシー商品の愛用者はサーフアーに限定されない。ゴールドはサーファーのみが出入りしていたディスコでもないし、右有名人もサーファーではない)。このような次第であるから、被告は世界各国からディスクジョッキーや自己の関係者(例えば、ショーン・ステユーシー)を呼ぶために必要な費用を負担し、その他の費用はすべてゴールドの負担とされた。仮に、ステユーシーが無名のブランドであれば、ゴールドはこのようなイベントの開催を申し入れてもこれに応じなかったであろうし、たとえ応じたとして、も多額の金員の支払を要求したはずである。かくも多数の有名人が右イベントに参加したこと自体、ステユーシー・ブランドが周知であったことの証左たり得る。

そして、ゴールドにおける右イベントやこれについての右雑誌等における報道の結果、ステユーシー・ブランドの周知性はさらに高くなっていった。

ウ 一九九〇年代のファッションに係る雑誌記事

平成八(一九九六)年五月号「ファイン」(乙四二)には、一九九〇年代に流行したものについての特集記事が載された、同記事は、ステユーシー・ブランドにつき、一九九〇年の「FASHIN」の表題のもとに、「海でも町でもクラブでも一番人気だったステユーシー」と紹介し、一九九年から一九九一年にかけて人気を博したブランドであったと紹介している。また、一九九一年の「FASHION」の表題の下に「GOLDにて。ステユーシー人気」と記載して、前記ゴールドのイベントが画期的であったと報道している。

平成二(一九九〇)年当時、ステユーシーの人気がよほど高くなければ、六年後の平成八年になってステユーシー・ブランドが右のように報道されることはなかったことは明らかである。

エ 商標法違反に関する刑事事件

愛知県北警察署は、独自に捜査して、有限会社糸重物産がステューシー商品の偽物Tシャツ等を取り扱っていることを発見し、これを刑事事件として立件しようとした。そこで、同署は被告に対し、「ガサ入れの時に立ち会って、商品の真贋を鑑定してくれないか」と申し入れ、被告はこれに応じた。被告が偽物であると鑑定したため、同署は同事件を立件すべく、被告に対して、平成三年九月九日にフアックスにより、「告訴状を警察に提出して欲しい」と要請したところ、被告がこれに応じたので、名古屋地検は、同社及び同社の代表者野田茂喜(以下「野田」という)を商標法違反として起訴し、有罪の判決を得た。

そもそも、ステューシー標章が周知でなければ、ステューシー商品の偽物が出回ることはないし、警察が独自に捜査を開始することも被告に対して捜査協力を求めることもない。このため、このような事実があったこと自体によって、ステューシー標章が当時から周知であったことが裏付けられる。さらに、たとえ形式的に商標法違反が成立する場合であっても、侵害された商標が周知でない限り、検察庁は敢えて商標法違反事件として起訴しないと考えられるから、検察庁が右事件をあえて起訴しているという一事のみをとらえてもステューシー標章が周知であったといい得る。

加えて、右事件の捜査の過程で、野田が、「若い人に人気のあるステューシーの商品を安く仕入れて卸販売すれば金もうけになると判断し」たと犯行の動機を同署の刑事に対して説明していることや、平成三年八月二七日の中日新聞の朝刊(乙三四)及び同月二六日の朝日新聞名古屋版の夕刊(乙三五)における同事件の報道(ステューシーが、「アニエスベー」や「シャネル」とともに、若者に人気が高いブランドであると紹介している)によっても、当時からステューシー商品が若者に人気があった(すなわち周知であった)ことを裏付けることができる。

(3) 本件商標等が登録された当時(平成五年九月三〇日)の周知性

被告は、設立以来今日に至るまで、ステューシー商品の販売を継続してきた。本件商標等が出願された当時既にステューシー標章が周知であったことは前記(2)とおりであるし、現在もステューシー標章が周知であることは後記第六、二のとおりである。本件商標等が登録された平成五年当時の被告の売上げが六億六〇〇〇万円程度であること及び被告が一〇〇〇万円以上の広告宣伝費を使っていたことも考え併せると本件商標等の登録当時も、ステューシー標章が周知であったことは明らかである。

(四) 商品の関連性及び誤認混同のおそれについて

(1) ステユーシー標章は、普通名詞等何らかの意味を持つ用語から取ったものではなく、ショーン・ステューシーの姓に由来するが、少なくとも日本人にとってはSTU(U)SSYなる姓は外国人の姓としても一般的ではない(ほとんどの日本人がショーン・ステューシー以外にSTUSSYなる姓の人物を一人も知らないと考えられる。なお、約二五〇〇頁からなる日本で最も定評のある英和辞典の一つである「研究社新英和大辞典」にもSTUSSYなる言葉は姓としてはもとより、その他のいかなる品詞としても紹介されていない)。この点で、日本におけるステューシー標章の識別力は非常に高いといえるし、原告が偶々思いつくような標章ではない。このため需要者は、ステューシー標章が付された商品を見れば、それがどんな商品であっても被告の扱うステューシー商品と出所を同じくすると考えるのである。

さらに、被告のような衣類を主力商品とするような販売者(例えば「POL0」)がこれらの商品に付随して同ブランドのかばんを販売するのは一般的なことであるので(衣類とかばんとをコーディネートする必要があるからである)、たとえ被告が実際にかばんを販売していることを知らない者であっても、被告がかばんも販売しているであろうことは容易に想像できる。

したがって、かばんに本件商標が使用された場合には、消費者をして、ステューシー標章に付された衣類等と出所を同じくすると誤認混同を生じさせる危険が非常に高いということができる(原告は、ことさらステューシー商品の並行輸入品を取り扱うような小売業者に本件商標を付したかばんを卸しているが、このような場合には誤認混同のおそれは一層顕著である)。

(2) 原告は、被告が取り扱っているスポーツ用品や衣類、履き物と原告が取り扱っているかばん類とは、商品としても目的・用途が異なっており、両者が類似の商品として見られることはあり得ないなどとして、誤認混同のおそれがないと主張するが、原告のかかる主張に理由がないことを以下説明する。

(3) 平成八年一〇月一五日東京高裁判決(平成八年(行ケ)第一六四号審決取消請求事件判決以下「IZOD事件判決」という)は、以下の事実に基づくものである。

〈1〉 日本の業者が、ゴルフウェア、テニスウェア、トレーナー等の「遊び着」(これらは普段着としても広く着用される)に関して米国で有名であった「IZOD」なる標章を、かばん等を指定商品として商標登録した。

〈2〉 これに対し、右標章の米国における権利者は、日本国特許庁に対し、右商標につき無効審判を求め、特許庁はこれを認容した。

〈3〉 そこで、当該日本の業者は、当該無効審決を受けたのを不服として東京高裁に対して、審決取消訴訟を提起したが、東京高裁は特許庁の判断が正当であったとして、日本の右業者の請求を棄却した。

(4) 東京高裁は右判断に当たって、特許庁の行った以下のような事実認定を正当なものと判断している。

〈1〉 日本における服飾等のファッション業界では、デザイナー、取引者等の関係者は、流行の最先端を行くフランス、イタリア、米国等の流行に常に特別な注意を向け、流行をいち早く入手、導入し、日本の消費者等に紹介等していることは公然知られた事実である。また、海外旅行者の増加、交通運搬手段の発達、各種情報媒体の発展等に伴い、一般消費者が自ら海外の流行を知る機会が多くなっていることも顕著な事実である。したがって、米国において著名な「IZOD」の商標が、日本国内においてもよく知られていたとみるのは合理的である。

〈2〉 本件商標(すなわち、原告の登録済みである「IZOD」なる商標)の指定商品は、「かばん類、袋物、その他本類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令表第二一類)に属する商品」であり、一方、「IZOD」の標章の対象とされる商品は、「被服」の商品分野に属する商品であることが明らかであるが、上記の通り商品分野に違いがあることにより、本件商標と「IZOD」とに混同のおそれがないといえるか否かについて検討するに、被服メーカーにより、被服についての商標と同一の商標を用いて、かばん、袋物(財布等)、装身具等が製造され、被服とともに陳列、販売されることがしばしばあることは周知の事実というべきである。

〈3〉 したがって、本件商標等の指定商品と、原告等の「IZOD」の商標により販売された商品との商品分野の違いをもって、本件商標等の付された商品について、出所の混同を生じさせるおそれが存在しないものとすることはできない。

(5) 本件の検討

前記(1)のとおり、ステューシー標章は、普通名詞等何らかの意味を持つ単語から取ったものではなく、ショーン・ステューシーの姓に由来し、日本人にとってはSTU(U)SSYなる姓は外国人の姓としても一般的ではないから、日本におけるステューシー標章の自他識別力は非常に高いといえる。このため需要者は、ステューシー標章が付された商品をみれば、それがどんな商品であっても被告の扱うステューシー商品と考えるのである(なお、IZOD事件判決も「IZOD」なる標章の自他識別力が高いことにも着目している)。

IZOD事件判決の前記(4)〈2〉の理由に照らし、本件においても原告が類似の標章を付したかばんを製造販売した場合、同かばんが被告の主力商品である被服(普段着)との間に商品の相違があることをもってしても、右かばんがステューシー商品であるとの誤認混同が発生するおそれがあると十分認められる。現に、原告が原告活字体標章を付した商品を卸している株式会社エクスプレス(以下「エクスプレス」という)がインターネットのホームページ(乙二一)の一頁目において同社が取り扱っていると宣明している商品のうち、NIKE、FILA、ADIDAS、SPEEDO、TOMMY HILFIGER、RALPHLAUREN、GUESS、TIMBERLAND、LL.BEAN、EDDIE BAUER、DKNY、CALVIN KLEINのブランドは、いずれも被服の他に、かばん、袋物類も同一ブランドのもとに製造販売している。

さらに、ステューシー商品の広告や記事が掲載されるような前記ファッション雑誌においてはかばんも被服と一緒に掲載されており、読者は同一または類似の商標が付してあれば、多少商品に相違があってもその出所に関して混同のおそれがあるというべきであるし、被服の製造販売業者とかばんの製造販売業者との間に何らかの関係(例えば資本関係やライセンス契約関係等)があるのではないかとの誤認が生ずるおそれが強いということもできる。

原告は、ステューシー商品がサーファーの間でのみ使用されるものであって、かばんとは需要者を異にするから、誤認混同のおそれがないかのような主張もしている。しかし、本件商標が出願された当時から現在に至るまで、ステューシー商品はサーファーばかりでなく、ストリート・ファッション等のファッションに敏感な若者を中心とする需要者間で広く愛用されてきていることは前記のとおりであって、原告の右主張は前提を欠くものである。

(五) 結論

以上のとおり、本件商標が登録出願された当時及び登録査定時のいずれにおいても、被告はかばんと関連性の非常に強い衣類等を幅広く販売していたこと、ステューシー標章の識別力は非常に強いこと、ステューシー標章は周知性が高かったことなどの事実に照らせば、商品の出所に関し、需要者の間で誤認混同が起こる可能性は非常に強いということができる。

したがって、本件商標登録は、商標法四条一項一五号に該当し無効である。

2  商標法四条一項一〇号(他人の周知商標と類似する商標)について

(一) 被告は、原告が本件商標を出願した平成三年九月当時、既に、本件商標の指定商品であるかばん等に関してステューシー標章を使用していた。このことはステューシー社が作成した一九八九年(平成元年)、一九九〇年(平成二年)及び一九九九一年(平成三年)春物用のカタログ(乙一二の1~3-世界の販売店がステューシー社から商品を仕入れるに当たって参照するもの)中に、かばんが掲載されていることからも明らかである。

(二) なお、被告は、本件商標の出願がなされた当時から現在に至るまで、継続してかばんを販売しているところ(一群のステューシー商品の商品ラインアップとしてかばんは必要不可欠である)、前記に述べたような一群のステューシー商品及びステューシー標章の周知性に照らせば、原告が本件商標等を出願した当時既に、需要者の間ではステューシー標章がかばんに使用される標章として周知であったといえる。

よって、本件商標登録は、商標法四条一項一〇号に該当し無効である。

3  商標法四条一項一九号(不正目的を理由とする公序良俗違反)について

現行商標法四条一項一九号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの」については、商標登録を受けることができないと規定し、かかる事由は商標登録無効審判における無効事由ともされた(商標法四六条一項一号。なお、平成八年六月に平成八年法律第六八号の一部として、商標法四条一項一九号は追加的に規定された。同付則により同法律は平成九年四月一日から施行されている)。これは、従前から商標法四条一項七号の公序良俗違反の問題として処理されてきたものを独立の類型にまとめたものであって、旧法下においても現行商標法四条一項一九号に該当するような商標登録出願は拒絶されてきたし、また、無効審決が下されてきた(なお、同施行令は現商標法が施行される前に登録された商標に関して同号を理由として無効審判請求ができないとは明言していないが、特許庁の実務においては、同号に該当するような商標については右のとおり同項七号の公序良俗に反する登録であるとして無効審決を下してきたのであるから、被告は同項一九号の適用について固執するものではない。よって、以下においては同項七号の問題として言及する)。そこで、仮に同項七号が無効審決の理由とされる場合、同項一九号の解釈の枠組みに照らして、本件を考えてみる必要があるところ、以下の事情に照らすと原告活字体標章等に関する商標等は無効と判断されるべきといえる。

(一) 原告の「不正の目的」について

(1) 原告の本件商標等の登録、出願の概略

原告は、被告の登録商標である被告筆記体標章1と酷似する原告筆記体標章(これらの標章はいずれもショーン・ステューシーの署名に由来している。なお、被告は原告筆記体標章と同一の標章も現に使用している)及び原告活字体標章がいずれも周知であることを知っていた。そこで、原告は、ステューシー標章の信用、名声、顧客吸引力に便乗する目的で、原告活字体標章及び同筆記体標章を自己の商標として盗用することを思い立ち、これら二つの標章について、平成三年九月一一日、かばん、その他旧指定商品区分第二一類に属する商品を指定商品とする商標登録出願を同時に行ったのである(なお、同日は被告がかばん等を指定商品として被告活字体標章1について商標登録出願をした後である)。

(2) 原告が原告活字体標章等を盗用したことについて

被告は、被告筆記体標章や同活字体標章を付したかばんや衣類を従前から販売してきたこと、原告が本件商標等に関して商標登録出願した平成三年九月当時、被告の取り扱うステューシー商品が雑誌等で紹介されていたこともあって、ステューシー標章が既に周知であったことは前記のとおりである。

それにもかかわらず、原告は本件商標等の出願をして商標権を取得しているが、これを合理的に説明するためには、原告が被告のステューシー標章の使用を明確に認識して、原告活字体標章等を盗用して自らの商標として使用することを思いついたと考えるほかはない。そして、原告が本件商標等の出願をする前から、ショーン・ステューシーやステューシー商品が雑誌等で頻繁に紹介されたためステューシー標章が周知であったこと、「STUSSY」という語がそれ自体何らかの意味を持つ単語ではなく、したがって通常人が容易に思い浮かぶ語ではないこと等の事実に照らせば、原告は原告活字体標章が被告の使用する標章であることを明確に認識して盗用したことは確実である。さらに本件商標等と同時に出願した原告筆記体標章のデザインがまさに被告が使用するデザインのデッドコピーであること(原告筆記体標章は非常に特徴あるものであって、偶然に原告が創作したということはあり得ない)や本件商標等の登録直後に原告の方から被告に、使用許諾するよう連絡をとってきたこと等の事実に照らせば、一層このことは明らかとなる。

なお、原告は、本件商標等を出願するに至った経緯等につき、後記第五、三のとおり主張し、証人山本幸伸もこれに沿う証言をするが、原告の主張及び同証人の証言は、多々不自然な点が存し信用できるものではない。

(二) 原告の「不正の目的」(原告がステューシー標章を使用しようとした積極的理由)について

(1) 本件商標等登録後の原告の行為について

〈1〉 原告は、自ら被告の連絡先を探した上で、被告に対して、平成八年一月ころ、原告筆記体標章及び同活字体標章についてそれぞれ商標登録を受けたから、被告の了解のもとにかばんを製造・販売したいと申し入れてきた。このような経緯から、被告において原告がこれらの標章に関して商標登録を完了させていることが判明したのである。

〈2〉 被告がこれを拒絶したところ、原告は、平成八年四月一二日付けの書簡(乙一三)により、被告が原告の本件商標等の使用を了解してくれるのであれば、三年間使用した後に、被告に右商標を譲渡しても構わないと伝えてきた。被告がこれに対し原告の申入れを受諾することはできないと再度伝え、その後は何らの交渉も持たれなかった。

原告が被告に対して右のような申し入れをしてきたという事実は、被告がステューシー標章を使用していることを原告が本件商標等の出願の前から明確に認識していたこと、原告が登録した標章を商品に付して販売することが不正競争行為に該当することを原告が認識していたか、少なくとも被告の権利を侵害することを明確に認識していたことを間接的に裏付けるものであるといえる。

〈3〉 その後の平成九年一月一七日になり、被告の取引先である名古屋市所在の有限会社マーベリックインターナショナルが被告に対し、岐阜県の取引先から「STUSSY」なる文字からなる標章を付したかばんの販売案内と商談が入ったが、このかばんは被告が扱うステューシー商品に間違いないのかとの問い合わせをしてきた(乙一)。その結果、被告において原告による今回のかばんの販売計画が判明するに至った。原告は、特許庁が過誤により商標登録をしたのを奇貨としてあたかも自己が適法にこれらの標章を使用できるかのように装って第三者から注文をとろうとしていたのである(乙一、一四)。

〈4〉 そこで、被告は原告に対し、平成九年二月四日付けの内容証明郵便による書簡(同月六日に到達、乙一五の1、2)を送付して販売を中止するよう求めたが、原告は、同月一七日付けの書簡をもって、本件商標が表示されたかばん(末端小売価格で総額一五〇〇万円程度)を製造済みであり、販売を中止して欲しいのであれば解決金として一五〇〇万円支払って欲しい、そうすれば右商標を譲渡しても構わないと申し入れてきた(乙一六)。被告がこの申し入れを同月二一日付の内容証明郵便により拒絶すると(乙一七の1、2)、九〇〇万円でどうか、この申し入れを受諾しない限り、かばんの販売を即時に開始すると申し入れてきたが、被告はこれも拒絶した。

〈5〉 従前の右交渉経緯や、原告が「STUSSY」なる文字からなる標章を付した相当数のかばんを既に製造済みであり、業者に対して右かばんの写真とともに「STUSSY」なる言葉を使用した書簡を送付して注文をとっていたこと(乙一八)を考慮して、被告はやむを得ず京都地方裁判所に対して、原告活字体標章及び同筆記体標章の使用の中止等を求める仮処分を申し立てた(同裁判所平成九年(ヨ)第三三五号事件)。

〈6〉 そして、原告は前記のとおり被告との交渉が決裂した後に、原告活字体標章を付したかばんの販売を開始するとともに、本訴を提起したのである。

(2) なぜ、原告は被告の使用するステューシー標章を無断で盗用したのか。それは、ステューシー標章の信用や顧客吸引力に着目し、これにフリーライドするなどして「不正の利益」を得ようとしたからに他ならないのである。前記のとおり、ステューシー標章の自他識別力は顕著であって、日本のかなりの需要者は(特にストリート・ファッション、ヒップ・ホップ系ファッション及びアメリカン・カジュアル・ファッションに興味を有する若者)、被告筆記体標章及び同活字体標章により、ショーン・ステューシーまたは同人に由来するステューシー商品なる観念を容易に想起し、これらの標章が付されていれば、それがどのような商品であっても、被告の取り扱うステューシー商品と関連すると信じることが十分予想される(原告が販売する本件商標が付されたかばんは、若者向けであることから、このような誤認混同の可能性は非常に高いといえる)。したがって、原告活字体標章等を付すことにより自らの商品の信用及び顧客吸引力を著しく高めることができるのである。

原告は、このような誤認混同のおそれが非常に高いことを本件商標の出願前から明確に認識した上で、需要者を欺くことにより、あえてステューシー標章の信用、顧客吸引力にフリーライドしてその商品の顧客吸引力を高め「不正の利益」を得ようとしたのである。

(3) 商標法四条一項一九号における不正の目的と不正競争防止法一一条一項二号でいう不正の目的は同じと考えられているところ(これは旧不正競争防止法第六条を削除した趣旨とも共通する)、特許庁は次のような場合に「不正の目的」があるものと説明している(乙一九)。

〈1〉 外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標がわが国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願するケースや、外国の権利者の国内参入を阻止したり国内代理店契約を強制したりする目的で出願するケース

〈2〉 その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願するケース

そして、原告が被告に対し、前記のとおり、本件商標等の登録直後に原告の方から被告に対して本件商標の使用についての了解を求めてきたこと、解決金との名の下に本件商標等を高額で買い取るよう請求してきたこと等の事実に照らすと、原告に本件商標等の出願前から「不正の目的」があったことは明らかである。

(三) 結論

以上のことから、本件商標等の出願当時から原告に「不正の目的」があることは明らかであり、本件商標登録は、商標法四条一項一九号に該当し無効である。

4  商標法四条一項八号(他人の氏名、著名な略称等の使用)について

ステューシー標章が、ショーン・ステューシーの氏名に由来するものであること、原告がステューシー標章に基づいて本件商標を思いつき、これを商標登録して本件商標を取得したこと、日本においてはステューシーなる姓は外国人の姓としても一般的ではないから、一般人は本件商標からショーン・ステューシーなる観念を想起させる可能性が強いことは前記のとおりである。

さらに、被告は、本件商標の出願当時から現在に至るまで、自分やステューシー商品の取扱業者の商号及び略称としてステューシー標章を使用している。

そして、商標法上、他人の氏名・名称及び著名な略称を含む商標は拒絶されるべきであるとされ、無効事由ともされているのであるから、この点でも本件商標登録は無効である。

5  商標法四条一項一一号(登録商標との類似)について

(一) 本件商標の登録時において、本件商標の指定商品と同じ商品につき、被告筆記体標章1の商標登録及びエース株式会社のSTACY商標の商標登録が既になされていたことから、本件商標は商標法四条一項一一号に該当し、無効である。

(二) 被告筆記体標章1との類似性

(1) 被告筆記体標章1に関する登録商標は、「STUSSY」の六文字を筆記体により横一列に配置したものであって、商標審査基準において「同一字形における活字体による書体と筆記体による書体の相互間の使用」が登録商標の使用と認められる旨明示されていることに照らし、本件商標と被告筆記体標章1は類似するといえる。

(2) 前記のとおり、「STU(U)SSY」なる姓は外国人の姓としても日本人にとっては一般的ではない。それゆえ、本件商標も被告筆記体標章1の登録商標も需要者をしてショーン・ステューシーまたはステューシー・ブランドを想起させるにすぎない。したがって、両商標の観念も共通する。

(3) 本件商標も被告筆記体商標1の登録商標も「STUSSY」と記載されており、これを判読することは容易であるから、いずれも「ステューシー」という称呼を生じる。したがって、この点でも共通する。

(4) よって、観念、称呼のいずれの点から見ても両商標は類似するというべきである。

(三) 原告は、別の商品区分に属する商品に関し被告が被告活字体標章と被告筆記体標章とを連合出願ではなくそれぞれ独自の商標として出願していることをとらえて、被告筆記体標章と被告活字体標章とが相互に類似しないことを認めたと主張するが、これは誤りである。けだし、平成九年三月末日までの商標登録出願の実務においては(昨今の改正商標法の施行により連合登録の制度は廃止された)、出願料の節約や登録後の商標権の内容を考慮して、類似する標章についても連合出願でなくそれぞれ独立して出願することは実務上珍しくなかったからである(特許庁がかかる出願を拒絶した場合に、独立の出願を連合出願に切り換えればよかった)。

(四) STACY商標との類似性

(1) 「STACY」は、通常の英語風の発音を前提とすると「ステイシー」となるが日本風の英語の発音方法によれば「ステーシー」と発音される。これに対し、本件商標は「ステューシー」と発音されるところ、両商標の称呼上の差異は「ユ」という通常では聞き取りにくい発音を伴うかどうかにすぎず、この差は微差にすぎないというべきである。したがって、称呼上両商標は類似するから、本件商標は無効とされるべきものである。

(2) 特許庁は、被告が出願した「STUSSY」なる活字を横一線に配した標章(被告活字体標章1)の商標出願がSTACY商標と類似しているため登録できないと判断しているが、この点からも右判断が正しいことを裏付けることができる。

(五) よって、本件商標登録は、商標法四条一項一一号に該当し無効である。

6  まとめ

(一) 以上のとおり、本件商標は無効であると判断されるべきであり、あるいは、特許庁が無効と判断する可能性が非常に高いから、このような本件商標権に基づいて標章の使用差止や損害賠償を請求することは権利の濫用である。

(二) 平成五年改正前の旧不正競争防止法六条では、商標法上の権利行使には、不正競争法の規定は適用されないことと規定されていたが、旧法下においても本件のように商標の出願時に既に他人の周知商標が存在しており、出願そのものに、この他人の業務上の信用・顧客吸引力を利用する意図が認められるようなときは、右規定にかかわらず、実務上は不正競争に該当するものとして規制してきた。そして、平成五年の同法の改正により、従前の議論を踏まえて、右実務上の立場を採用し、同条は削除され、立法的に解決された。

以上のことから明らかなように、原告に商標登録があること自体だけでは、現行法では原告の本件商標の使用を正当化する絶対の理由とはなり得ない。かえって本件のような権利濫用と見られる場合には、被告が商標権者である原告に対し、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づいて、侵害行為の停止又は予防を請求できるし、侵害行為を組成したかばん等の廃棄を求めることができることとなっているのである。

三  先使用権(商標法三二条)

被告は、原告が本件商標の出願をする前からステューシー標章をかばん等に関して使用してきたこと、本件商標の出願当時、既にステューシー標章がかばん等に使用される標章として需要者の間に広く認識されていたことは前記のとおりである。さらにかかる使用につき被告に不正競争の目的がなかったことは被告がステューシー標章を使用し始めた経緯に照らし明らかである。したがって、被告はステューシー標章を従前どおり使用する権利を有し(商標法三二条)、原告は被告に対し被告活字体標章2の差止等はもとより損害賠償も請求することはできない。

第五  原告の反論等(本訴)

一  被告の権利濫用の主張に対して

原告の本件商標には、被告の主張するような無効事由はない。

1  商標法四条一項一五号の該当性について

(一) 商標法四条一項一五号の不登録事由の判断時期

商標法四条三項は、「第一項第八号、第十号、第十五号、第十七号、第十九号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。」と定めており、商標法四条一項一五号の該当性は商標登録出願時を基準として判断することが明記されている。したがって、本件商標の出願以前の事実に関する部分に限定して、以下のとおり反論する。

(二) 日本におけるステューシー標章の周知性に関する被告の主張について

(1) 被告は、ステューシー標章は米国のデザイナーのショーン・ステューシーのサインに類するものであり、その標章を付した商品はステューシー社が製造し、被告が輸入を行っていると主張する。そうすると、ステューシー標章はデザイナーであるショーン・ステユーシーのデザインにかかることを表示するデザイナー表示である可能性、メーカーであるステューシー社の製造した商品であることを示す商標(いわゆる「メーカーブランド」)である可能性、あるいは輸入販売業者である被告の商標である可能性が考えられ、右いずれの者の業務にかかる商標として周知なのか明らかではない。

なお、商標法四条一項一五号の「他人の業務」の意義については「何某とまで分からなくとも特定の者の業務に係るものと分かる程度」の特定が必要であると解されている(小野昌延編「注解商標法」二三〇頁)。したがって、被告の主張のように「何人の業務」に係る商標であるか特定されない主張は、そもそも失当といわねばならない。

さらに、「他人」が具体的に特定されなければステューシー標章がはたして「他人の業務に係る商標」として「周知」になっているか否かの判断もできないし「他人の業務」と本件商標に係る業務の間に「混同のおそれ」があるか否かも判定することができない。

よって、被告の右主張はそもそも失当であるといわねばならない。

(2) ステューシー標章の周知性

〈1〉 平成三年九月一一日当時、ステューシー標章は、ステューシー社の業務に係るものとしても、被告の業務に係るものとしても「周知」になっておらず、したがって混同のおそれもない。

〈2〉 また、被告が、商標法四条一項一五号の「他人の業務に係る商品」の「他人」に該当するためには、ステューシー標章が、被告の提供する商品の出所表示として周知性を取得していなければならないところ、仮に、被告が主張するように、ステユーシー標章がショーン・ステユーシーまたはステューシー社の提供する商品の表示として周知であったとしても、同号の該当性判断に何ら影響を与えない。

〈3〉 被告が提出した乙二三の1ないし10等の雑誌記事は、いずれもその作成時期や内容からして、右周知性に関連性がないか、あるいは、被告とステューシー標章を付した商品との結びつきを示すものではないから、平成三年九月一一日当時にステューシー標章が周知であったという立証はなされていない。

また、仮に、被告の主張するように、右雑誌の購読者である一〇代ないし二〇代のストリート・ファッションに興味を有する若者の間でステューシー標章がスポーツ用品や衣類の商品表示として周知になっていたとしても、本件商標の指定商品であるかばん、袋物類の商品表示として周知になっていない以上、本件商標が、「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するとはいえない。

商標法四条一項一五号の「混同」はいわゆる狭義の混同のみならず広義の混同も含むと解されているが、広義の混同が生ずるのは、特定の標章が特定の商品以外の分野においても、相当の周知性を有する場合である。ところが、ステューシー標章は、一〇代及び二〇代のストリート・ファッションに興味がある若者の間でサーフボード等のスポーツ用品及びスポーツ関係衣料の商品表示として一定の周知性を取得しているにすぎないから、右商品と異なるかばん、袋物類に関して、本件商標が登録されたとしても、ステューシー社ないし被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない。

(3) IZOD事件判決について

IZOD事件判決においては、同事件被告の商標「IZOD」がより著名なワニのマークの「LACOSTE」商標とともに、被告におけるアイゾット事業部の商品を表示するものとして広く用いられ、それ自体、著名な商標であったこと、わが国での「IZOD」商標の著名性についても所掲各証拠から昭和五〇年当時、各種広告宣伝を行うことによって、一般需要者等に広く認識されていたことが認定されている。その上で、前記第四、二1(四)(4)で被告が主張するような事情をも考慮して、混同のおそれを認定しているのである。

すなわち、同判決は、「IZOD」商標の米国における著名性及び同時期に同商標が日本における頻繁な広告宣伝により周知性を取得していたことを前提としつつ、なお、日本における服飾等のファッション業界では、デザイナー、取引者等の関係者が流行の最先端を行く欧米や米国等の流行に特別な注意を払い、流行をいち早く入手し、紹介していることや海外旅行者の増加と交通運送手段の発達等の事情をもあわせて考慮して、「IZOD」商標のわが国における著名性を認定しているのである。

ところが、ステューシー標章は、そもそも被告の主張によれば、サーフボードシェイパーであり、服飾関係のデザインも行っていたショーン・ステューシーが米国カリファルニアにおいて設立した法人が、スポーツ用品及びこれに関連するスポーツウエア等について使用してきたのであって、米国においても、はたして同標章が衣料品メーカーの出所表示として「IZOD」商標に比肩するほどの著名性を獲得していたか否かは不明である。また、「IZOD」商標については、既に昭和五〇年代からわが国において、製品に関する紹介、宣伝記事がファッション雑誌等に掲載されていたのに対し、ステューシー標章については、平成三年当時、きわめて限られた雑誌等に広告宣伝が散見される程度である。

したがって、「IZOD」商標について、被告の指摘する種々の理由に基づいてかばん等に関する使用について広義の混同のおそれが認められるとしても、ステューシー標章について同様であるとはいえない。

(4) したがって、本件商標登録が、商標法四条一項一五号に該当して無効となることはない。

2  商標法四条一項一〇号の該当性について

(一) 商標法四条一項一〇号の判断時期

商標法四条一項一〇号にかかる不登録事由の判断時期も、登録商標の出願時であることは商標法四条三項により明らかである。

(二) 商標法四条一項一〇号の趣旨

商標法四条一項一〇号は、他人の業務に係る商品を表示するものとして周知になった商標と類似する商標をその商品と同一または類似する商品を指定商品として商標登録することを禁止する規定である。そこで、原告の本件商標は「かばん、その他(旧)商品区分第二一類に属する商品」であるから、本件商標が商標法四条一項一〇号に該当するためには、被告のステューシー標章が、平成三年九月一一日当時、「かばん類、その他(旧)商品区分第二一類」に属する商品と同一または類似の商品を表示するものとして周知になっていなければならないはずである。

(三) ステューシー標章の商標法四条一項一〇号における周知性

ところが、前記のように、被告のステューシー標章は平成三年九月一一日当時、被告の業務に係る商標としてすら周知でなかったのであるから、まして、被告の業務に係る「かばん類、その他(旧)商品区分第二一類に属する商品」と同一もしくは類似の商品に関して周知であるはずがない。

よって、本件商標登録が商標法四条一項一○号によって無効になることはない。

3  商標法四条一項一九号の該当性について

商標法四条一項一九号は、平成九年四月一日から施行された改正商標法によって新設された規定である。そこで、本規定は、右施行後に出願された商標登録に不登録事由として適用される(このことは改正商標法四条三項及び改正付則一条等により明らかである)。したがって、右改正前に出願を行った本件商標に本号が適用されることはなく、商標法四六条一項一号の無効事由に一九号該当事由が含まれるにせよ本件商標が一九号を理由に無効とされるおそれはない。

また、原告が、原告活字体標章及び原告筆記体標章を入手・登録した経緯は、後記三のとおりであって、不正の目的をもって入手・登録したものではない。

よって、この点に関する被告の主張は失当である。

4  商標法四条一項八号の該当性について

原告は、本件商標をショーン・ステューシーなる人物の氏名に由来するものと認識して登録を行った事実はない。また、「STUSSY」なる文字からなる本件商標から特定人の名称であることを認識することはできない。被告は、日本でのステューシーなる名称(被告は「姓」というが、なぜステューシーが「姓」と特定されるのか明らかではない)は、外国人の姓としては一般的でない旨主張しているが、被告は本件商標に対する無効審判請求補充書(乙四)では、逆に、ステューシーなる名称は「欧米人の一般的な姓」であると主張している。いずれが真実であるか、にわかに判断しがたいが「ステューシー」なる姓が「欧米人の一般的姓」であれば、例え「STUSSY」なる表示を使用したとしても、それがショーン・ステューシーなる米国人デザイナーの名称に由来すると特定できるわけではない。

また、仮に日本においては、ステューシーなる姓が外国人の姓として一般的でないとしても、そのゆえをもって「STUSSY」なる文字から米国人のショーン・ステューシーの氏名に由来することが明らかであるとはいえない。

よって、本件商標登録が商標法四条一項八号によって無効になることはなく、この点の被告の主張も失当である。

5  商標法四条一項一一号の該当性について

(一) 被告筆記体商標1(サイン風線図形)との類似性

次のとおり、被告筆記体標章1と本件商標は類似しない。

(1) 被告筆記体標章1は筆記体文字からなる商標か

被告は、被告筆記体標章1の形態を「STUSSY」の六文字から成るデザインが筆記体で横一列に配置されたものとしている。

一般に筆記体文字は、文字を手書して意思や記録を伝達する際に使用される文字であって、筆記された文字自体が独立して読み取られることを前提として使用されるものである。しかしながら、被告筆記体標章1は極めて特異な曲線を組み合わせた個性的な表現手法によって表されたものであり、いかなる文字をサイン風に表されたものであるのかを直ちに理解することは困難である。

したがって、被告筆記体標章1は筆記体文字によって構成された商標であるとすることはできず、特定の称呼、観念が生じない図案化された線図形であると認識し把握されるべきである。

文字を独立して読み取れないサイン風文字に対する右の考え方は、特許庁においてすでに採用されているところであって、審判昭五四-一三六四六号審決(審決口・昭和五九年七月一〇日)、審判昭六一-二一五六号審決(審決日・平成一年三月三〇日)、審判昭五九-二一八四四号審決(審決日・平成三年六月六日)において踏襲されている(甲三添付の乙一の1~3)。

このように、被告筆記体標章1が筆記体文字からなる商標であると認められない以上、同標章が筆記体文字からなる商標であること前提とする被告の主張は成り立たない。

(2) 商標審査基準に対する被告の誤解

被告は、商標審査基準において筆記体の商標の使用を活字体の商標の使用と認めているため、被告筆記体標章1と本件商標とが実質的に同一の商標と認められているとしている。しかしながら、この基準は商標権の更新登録出願における登録商標の使用についての審査基準であって、商標の類比を判断する基準ではない。商標の類否の判断基準と更新登録出願における登録商標の使用認定の基準とは、商標法上視点の異なる問題である。同じ文字から構成された書体の異なる商標は、同一商標とは認定されずに互いに類似する商標と判断されており、商標法四条第一項一一号の審査における商標の類否の審査においては被告の主張のような取扱いはなされていない。

(3) 被告筆記体標章1の周知性について

被告は、被告筆記体標章1は、ショーン・ステューシーのサインとして周知されていると主張するが、乙四添付の甲五、七、八、一二、一三、一六、一七は、ショーン・ステューシーなる氏名が記載されておらず、サイン風の線図形が同人のサインであることを示していないか、あるいは、ステューシーの綴りが「STUSSY」であることが明記されているものの、サイン風の線図形が掲載されていないなど、いずれも被告筆記体標章1が米国人デザイナーのショーン・ステューシーのサインであると把握することはできず、同標章が、同人のサインとして周知されていたと認めることもできないものである。

また、被告筆記体標章1は旧第二一類の商品を指定した登録商標であるが、右各証拠には旧第二一類に区分される商品に被告筆記体標章1が「商標として使用された事実」を見出すこともできない。

(4) 商標法四条一項一一号の判断時期について

この判断時期については、同条三項に規定されていないから登録査定時が基準となる通説と、規定の性質上出願時が基準となるとする説(網野誠著「商標〔新版〕」二四五~二四七頁)とに別れている。前者の通説に従うとしても乙四添付の甲一六は本件商標の登録査定日である平成五(一九九三)年五月一日に発行されたものであり、被告の主張を裏付けるための証拠としては採用することはできない。

(5) 乙四添付の甲五ないし一七から把握できるものは何か

被告は、被告筆記体標章1を使用した商品を「STUSSY」ブランド商品と称し、「ブランド商品」がサーファーやスケーターを中心に人気を博していたと主張し乙四添付の甲五ないし一七を提出している。

しかし、これらは、何に関する広告なのかが不明であるか、具体的な商品との関係についての説明はなく、「ブランド商品」や本件商標を使用した商品については具体的な記載もみられないものなどである。また、片仮名「ステューシー」なる名称が商品との関係において使用されているとしても、ここにおける商品はいずれも被服であって、本件商標の指定商品である旧第二一類に属する商品とは非類似の商品である。

このように、乙四添付の各甲号証では、商標、「サイン風の線図形」、活字体「STUSSY」、活字体「STUSSY」、片仮名「ステューシー」と、デザイナー表示、メーカーブランド、輸入販売業者ブランド、並びに商品との関係が全く特定されておらず、しかも商標としての使用態様も明らかにすることはできない。

(6) 商標の類否に関する被告の認識

被告は、英文字「STUSSY」から成る被告活字体標章1の商標を旧第二一類の全商品を指定して出願している。この商標の出願時には、被告筆記体標章1は出願公告に付されていたが、被告は右出願を被告筆記体標章1との連合商標登録出願とすることなく、独立した商標登録出願としている。このことは、被告筆記体標章1と英文字「STUSSY」とが、非類似の商標、すなわち被告筆記体標章1から「ステューシー」なる称呼が発生せず、しかもショーン・ステューシーなる人物も観念されないとの認識に基づいて商標登録出願がなされていることを示すものである。

また被告は、前記第二、二2(二)ないし(四)、(六)ないし(八)のとおり、旧第二二、二三、二七類においても線図の表現態様が異なるものの被告筆記体標章2、3の「サイン風線図形」と被告筆記体標章1につき商標登録出願をし登録を受けているが、いずれの類においても両商標は非類似の独立の商標として商標登録されている。

なお、被告筆記体標章1から「ステューシー」なる称呼が発生し、これがショーン・ステューシーなる人物を観念する程周知な商標であったのであれば、被告は、右各商標登録出願を被告自身の名義で成しえなかったはずであるし、商標登録もなされなかったはずである。

(7) 被告筆記体標章1とSTACY商標が商標登録されているのは何故か

本件商標登録の無効の理由として被告が掲げている被告筆記体標章1とSTACY商標とは、旧第二一類における登録商標であって、STACY商標は、被告筆記体標章1に対する先願先登録の商標として位置付けられる。

被告の主張するように被告筆記体標章1から「ステューシー」なる称呼が発生し、「ステューシー」と「STACY」商標から生じる「ステーシー」なる称呼とが紛らわしいとするのであれば、被告筆記体標章1は登録されなかったはずである。

ちなみに、旧第一七類においても被告筆記体標章3につき、被告とショーン・ステューシーとの共有に係る登録商標及びこれと同様の「サイン風の線図形」商標であるスタッシー・インコーポレイテッド所有の登録第二二四三〇八三号商標(甲三添付の乙六の1、2)が存在しているにもかかわらず、別個の権利として存在していることに注目すべきである。

(8) まとめ

以上の点を総合すると、被告筆記体標章1の登録商標は図案化された線図形の商標であること、同商標は、ショーン・ステューシーのサインであるか否かが明らかではないこと、同商標を使用した旧第二一類に属する商品は本件商標の登録査定日に販売されていなかったこと、同商標を使用した商品は「STUSSY」ブランドとしては周知性を確立していなかったこと、出願人自身も被告筆記体商標1のようなサイン風線図形が英文字「STUSSY」とは類似しないことを認識していたことは明らかである。

したがって、被告筆記体標章1から「ステューシー」なる称呼、観念が発生することを認める合理的理由はなく、本件商標は被告筆記体標章1に類似する商標には当たらないというべきであって、本件商標が商標法四条一項一一号により無効となることはない。

(二) STACY商標との類似性

(1) 被告は、被告活字体標章1がSTACY商標を引用されて登録が拒絶されたことを念頭において、本件商標から生ずる称呼「ステューシー」とSTACY商標から生ずる称呼「ステーシー」とを対比し、第二音における「テュ」と「テ」の相違が拗音「ユ」を伴うか否かの微差に過ぎないと断定し、両者と一連に発音した場合には極めて近時した語調、語感に聞こえるため両商標は類似する商標であると主張している。

しかしながら、この主張も成り立たない。

STACY商標からは、被告の指摘する「ステーシー」なる称呼の他に、「STA」からは「STAMP」「STAR」「START」などの発音例からも明らかなように「スタ」とも発音されるため、「スタシー」なる称呼も発生することになる。他方、被告活字体標章1は、被告の主張するように「ステューシー」なる称呼が生ずる他、「STU」の部分は、「STUD」「STUDY」「STUFF」などの発音例からも明らかなように「スタ」との発音されるため、同標章からは「スタシー」あるいは「スタッシー」なる称呼も生じることになる。そうすると、STACY商標からも被告活字体標章1からも「スタシー」なる同一の称呼が発生するため、両商標は互いに類似することになろう。称呼「スタシー」と「スタッシー」とを対比してみても両者は紛らわしい称呼となることに変わりはない。

(2) 本件商標とSTACY商標との対比

本件商標は、第三文字目が「U」によって表現されているため、「ステューシー」或いは「スチューシー」なる称呼が生ずるものの、「STUSSY」とは異なって「スタ(ツ)シー」なる称呼は発生しない。

本件商標から生ずる称呼「ステューシー」とSTACY商標から生ずる称呼「ステーシー」とを対比してみると、音の片仮名表現においては第二音において「テュ」と「テ」の相違がみられ、「文字づら」からは被告の主張するように「ユ」の音の有無において相違している。しかし現実の発音は、これらの後に続く長音「ー」と結合した状態の音即ち「テユー」音と「テー」音の相違として現れることになる。

そこで「テュー」音と「テー」音の相違について検討をしてみると、本件商標の「テュ」音は、舌尖と上前歯との間で形成される隙間で発せられる無声破擦音の子音「t∫」と前下面を硬口蓋に近づけて発せられる狭母音「u」とを結合させた音節であって、後に続く長音「ー」と一体的に「t∫u:」と発音され、やや口に籠もったように聴取される音となる。

他方STACY商標の「テ」音は、舌尖を歯茎に接して発せられる無声の破裂立「t」に前舌面を平らにしてやや引っ込め口を半開き状態にして発せられる「e」とを結合された音節であり、後に続く長音「ー」と一体的に「te:」と発音され、開放的な清音として聴取される音となる。したがって、「テユー」音と「テー」音とは調音方法が異なり、音質及び音感において相違する音となる。

これらの差異が称呼全体に及ぼす影響は大きく、アクセントがそれぞれ第二音の「テユー」と「テー」に位置することも相俟ち、本件商標とSTACY商標とをそれぞれ一連に「ステユーシー」「ステーシー」と称呼した場合には、語韻、語感、語調の相違に起因して聴感が著しく異なるため、本件商標から生ずる称呼とSTACY商標から生ずる称呼とを、聴者は明瞭に聞き分けることができるのである。

(3) まとめ

このように本件商標とSTACY商標との称呼が明瞭に聞き分けられるため、本件商標はSTACY商標に類似する商標には当たらないというべきであって、本件商標は商標法四条一項一一号により無効となることはない。

二  先使用権の主張に対して

被告が、本件商標を出願する前からステューシー標章をかばん等に関して使用してきたとの事実は否認する。

なお、商標法三二条は、被告が単に本件商標を出願する前から被告活字体標章1をかばん、袋物類に使用していただけではなく、本件商標を出願した際、同標章が被告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること(周知性)、被告が、同標章を継続してその商品又は役務について使用していることが必要である。ところが、前記のように、このような事実は存在しない。

よって、被告には、先使用権は存在しない。

三  原告が原告活字体標章及び同筆記体標章を入手、登録した経緯等

原告は昭和二七年ころから、かばん・袋物の製造・販売を行っていたが、平成二年ころ、その取締役である山本和宏の友人で米国に滞在している梶均(以下「梶」という)に対して、バッグに付けるロゴマークのデザインを依頼したところ、同人から原告筆記体標章のような図形標章や「STUSSY」「VISION」「THRASHER」他の標章が送られてきた。

そこで、原告は、右各標章につきかばん・袋物等を指定商品として商標の登録出願を行うべく、弁理士肥田正法(以下「肥田弁理士」という)に調査を依頼した。その際、原告筆記体標章については、同標章の形態からどのように判読をしてよいか判然とせず、また、同標章からは特定の称呼・観念を生じることはないとの助言があったので、図形標章として出願することにした。

また、原告活字体標章については、「STUSSY」なる文字からは、一般に「ステューシー」のほか「ステーシー」や「スタシー」等の称呼が生ずるところ、肥田弁理士の調査によれば、既にSTACY商標に関して昭和五三年四月二二日にエース株式会社が出願を行っており、これと「STUSSY」が称呼上類似していると判断されるおそれがあるので「STUSSY」の「U」の文字上にウムラウトを加えることによって、「ステューシー」なる称呼であることを明確にすれば登録される可能性が高いと判断し、原告活字体標章を原告筆記体標章に対する商標登録出願とは独立した商標として商標登録出願を行ったのである。

なお、「VISION」「THRASHER」等の標章に関しては、肥田弁理士の調査により、これと同一もしくは類似の商標登録が存在しており、登録される可能性がないため出願を行わなかった。

梶がいかなる事情により、右各標章を知ったかは知らない。

四  被告との交渉の経緯等

原告が、被告に対して、相互に提携してかばん・袋物類等の販売をしようと提案したところ、被告代理人の弁理士木内光春(以下「木内弁理士」という)より、原告の代理人肥田弁理士に対し、原告前記各商標の譲渡を受けたい旨の申し入れがあった(甲一一の1~3、一二)。これに対して、原告は肥田弁理士より譲渡条件等の提示を行ったが、被告はこの提示に対して何らの回答を行わなかった(甲一三)。そこで、原告は、被告に商標権譲渡交渉継続の意思がないものと判断し、平成九年一月ころから原告活字体標章を付したかばん類の製造・販売の準備を開始した。

ところが、平成九年二月四日に、被告代理人木内弁理士より突然、甲一四のごとき内容証明が送達され、原告が本件商標を付したかばん類の製造・販売を行うのであれば、被告は「不正競争防止法及び商標法に基づき、法的な手段をとる」旨の申し入れが行われた。そとで、原告は、原告活字体標章を付したかばん類の販売を開始したが、前記のような経緯からして、被告が不正競争防止法に基づく仮処分等の申立を行うとともに、原告の取引先に対しても「原告商品が不正競争防止法に違反する」等の営業誹謗行為を行うことが予想されたので、念のため、エクスプレス等の卸売店に対して、原告商品を販売するに際しては、被告が輸入しているステューシー商品とは異なるものであることを確認すること、原告商品に付した原告活字体標章は、原告の登録商標であることを小売店等の取引者・需要者に対して周知させるよう指示した。

なお、原告が、被告による右のような不当な不正競争防止法違反の主張に対して、自己防衛を行うとともに被告が販売している本件商標権を侵害するかばん類と原告が製造・販売するかばん類との混同を防止するため、原告商品(かばん)に付したタッグ表面に「STUSSY」と記載するとともに、同裏面に「STUSSY」は、株式会社三幸の登録商標です」との記載を行い、原告商品と被告商品の混同防止に努めている(甲七)。

原告は、平成七年ころ、本件商標と類似する標章を付したスポーツ用品、衣類等が市場で販売されている事実を知り、調査を進めてその購入元が被告であると知ったものである。原告が、ステューシー商品を知ったのは偶然、これが店頭で販売されているのを見たからであり、ステューシー商品が周知であったからではない。なお、そのうえ、原告が調査を進めなければ、その購入元が被告であることが判明しなかった事実は、ステューシー標章が被告の輸入販売する商品を示すものとして、周知でなかったことを示している。

第六  被告の主張(反訴)

一1  被告のステューシー標章の使用

ステューシー社及び被告がステューシー標章をその商品等表示として使用していることは前記第二、二3(二)のとおりである。

2  現時点におけるステューシー標章の周知性

後記二のとおりである。

3  原告の原告活字体標章及び同筆記体標章の使用等

原告が、原告活字体標章及び同筆記体標章につき商標登録をし、実際に原告活字体標章が付されたかばんを製造・販売していることは、前記第二、二1、同3(一)のとおりである。

4  ステューシー標章と原告活字体標章及び同筆記体標章との類似性

原告活字体標章とステューシー標章が類似することは前記第四、二1(一)のとおりである。また、原告筆記体標章は、「STUSSY」なる特徴のある筆記体の欧文字からなる標章であるが、日本人にとっても、「STUSSY」なる欧文字であることは十分了解可能であるから、原告筆記体標章について「ステューシー」なる称呼を生じることは疑いなく、同標章はステューシー標章全般と類似する。ことに原告が原告筆記体標章を商標登録する前に商標登録済みであった被告筆記体標章1と外観上著しく類似することは明らかである。

5  誤認混同のおそれ

後記三のとおりである。

6  被告が「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に該当すること

後記五のとおりである。

7  差止の必要性

前記2のとおり、原告は、原告活字体標章及び同筆記体標章につき商標登録をし、実際に原告活字体標章が付されたかばんを製造・販売しているところ、原告が、これらの標章はもとより、字体の異なる欧文字の「STUSSY」及び「STUSSY」からなる標章を今後使用することは十分予想される。このため、被告は自らの営業の利益を防御するために、原告に対し、これらの標章一切の使用差止を求める必要がある(以下、前記第一、二のとおり被告が原告に対し差止を求める標章を「本件差止対象標章」と総称する)。

8  よって、被告は、原告に対し、不正競争防止法二条一項一号に基づき、本件差止対象標章をかばん、その容器、包装もしくは広告に付し、または右標章を付したかばん、その容器、包装紙またはパンフレットの廃棄を求める。

以下、ステューシー標章の現時点における周知性、誤認混同のおそれ、被告が「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に該当することについて詳述する。なお、原告は、ステューシー標章の使用態様が意匠的なものであることを理由に、被告は不正競争防止法二条一項一号の保護を受けられないと主張するので、これについても反論する。

二  現時点におけるステューシー標章の周知性について

昭和五八年から平成五年当時、ステューシー標章が既に周知であったことは前記第四、二1(三)のとおりである。

被告は、その後も今日に至るまで一貫して営業努力を続けており、その結果、ステューシー標章及びステューシー商品の人気は日増しに高まり、現在においては不動の人気を確立させるに至った。このような被告の長きにわたる広報活動の結果、現在では、若者に人気が高い多くの芸能人が(例えば、所ジョージ、小泉今日子、Jリーグの三浦和良)、その高いファッション性を評価してこれを愛用しているし、多くの消費者がステューシー商品を愛用している。このことは以下の事実から明らかである。

1  人気テレビドラマによる立証

平成八年の秋から冬にかけて東京放送(TBS)系列のゴールデンタイムに放映された人気ドラマ「硝子のかけらたち」において、被告の関係会社が協力者としてステューシー商品の提供をし、主演の元チェッカーズの藤井フミヤやその共演者がステューシー標章を付したTシャツやトレーナーなどを着用している。これは、ステューシー商品が周知であり、そのファッション性が高く評価されたからである。同番組の結果、ステューシー商品の知名度は一層向上した(乙九、乙一〇のとおり同番組の平均視聴率は一二・七パーセントであった)。

2  雑誌による周知性の立証

現在では、ステューシー商品は、雑誌等で頻繁に掲載されている。そこで、その実態を「クール・トランス」なる雑誌を例として以下説明する。

「クール・トランス」は、ストリート・ファッションに興味を持つ一〇代から二〇代前半の若者を購読者とする発行部数五〇万部のファッション月刊誌であって、コンビニエンス・ストアや一般書店で幅広く頒布されている(乙四三)。ステューシー商品が同雑誌の購読者の間で周知であるので、同雑誌は平成九(一九九七)年一二月号(乙四四)でステューシー商品に関する次のような記事を掲載しており、これらから、少なくとも同雑誌の購読者たるストリート・ファッションに興味を有する若者の間では、ステューシー標章及びステューシー商品が現時点で周知であることが分かる。

(一) 「根強いファンを持つステューシー」と説明し、ステューシー原宿チャプトとともにステューシー商品を紹介している(四四頁)。

(二) ステューシー商品でトータルコーディネートしたモデルが掲載されている(かばんもコーディネートされている)(七〇頁)。

(三) ステューシー・ブランドを「もはやストリートの王様ブランドと呼んでもいい」と説明して、ステューシー商品を紹介している(七四頁)。

(四) 米国カリフォルニア州サンディエゴで一九九七(平成九)年夏に開催された「アクション・スポーツ・リテイラー・トレード・エキスポ」(略称ASR)を紹介する記事の中で、「おなじみのステユーシー」との説明を添えて、ステューシー社のブースの状態を紹介している(一九五頁)。

(五) 並行輸入業者の広告

同雑誌において、被告と全く無関係の並行輸入業者と思料される業者が、ステューシー商品と思料される商品を取り扱っている旨の広告を掲載している(五九・八七・二六三・二七一・三〇一・三〇五頁等)。これは、ステューシー商品が、同雑誌の購読者層(一〇代から二〇代前半の若者)に非常に人気があることによるものである。

3  商標法違反の刑事事件による立証

愛知県警本部生活経済課と蒲郡署は、平成九年一二月九日、商標法違反の疑いで一宮の衣料品販売会社及び同社社長を名古屋地検豊橋支部に書類送検した。この事件は、愛知県で頒布されている読売新聞、東愛知新聞、中日新聞、東海日日新聞、朝日新聞で報道されているが、これにより、ステューシー・ブランドに対する社会の関心が高いことが分かる(乙四七の1~5)。ちなみに、これらの新聞は、ステューシー・ブランドを「米国有名ブランド」(読売新聞、中日新聞)、「サーファーを中心に若者に人気のブランド」(中日新聞、東海日日新聞、朝日新聞)と紹介しているが、このことからもステューシー・ブランドが若者の間で周知であることを示している。

4  被告の売上高による周知性の立証

被告の売上げ及び広告宣伝費は、乙一の三頁「株式会社ジャックの売上高と広告宣伝費」のとおり推移しており、平成七(一九九五)年度の売上げは一一億円以上であるし、広告宣伝費も二五〇〇万円を超えている(ちなみに直近の平成八(一九九六)年度の売上げは、被告代表者星の供述のとおり、二一億円程度であり、そのうちの約八五パーセントがステューシー商品の売上げである)。このことからも、ステューシー商品の周知性が高いことが分かる。

5  原告がステューシー・ブランドを知ったことによる周知性の主張

ステューシー標章は日本人にとって全くなじみのない人の姓に由来するものであるし、単語としてはそれ自体意味を持つものではないのであるから、たまたま原告が思いつくようなものではない(その筆致や文字の崩し方等に特徴のある被告筆記体標章と著しく類似する原告筆記体標章の場合はことさらである)。してみれば、原告がステューシー標章の存在を知り、これを模倣・盗用して商標登録出願をせんと画策したことは明らかである。このように、原告が商標登録出願するに先立って、ステューシー標章の存在を知ったこと自体、ステューシー標章が当時から周知であったことを裏付ける証拠となり得る。

原告は、平成七年ころに、原告のアルバイトの学生が原告筆記体標章と類似する標章を付したスポーツ用品・衣類等が市場で販売されていることを知り、調査をすすめたところ、それらの商品の輸入元が被告であることを知ったとも主張しているが、これは少なくとも平成七年ころにおいてステューシー標章が日本で周知であったこと及び被告がステューシー商品を日本国内で独占的に販売していることが周知であったことを認めたものと解することができる。

三  誤認混同のおそれ

原告が、原告活字体標章及び同筆記体標章を使用する場合に、商品の出所に関して誤認混同のおそれがあることは、前記第四、二1(四)に述べたほか、次のとおりである。

1  被告に対する問い合わせ

平成九年一月一七日になって、被告の取引先である名古屋市所在の有限会社マーベリックインターナショナルが被告に対し、岐阜県の取引先から「STUSSY」なる文字からなる標章を付したかばんの販売案内と商談が入ったが、このかばんは被告が扱うステューシー商品に間違いないのかとの問い合わせをしてきたことは前記第四、二3(二)(1)〈3〉のとおりである。

2  雑誌の広告状況

オール・ジャパン・バイヤースなる会社が平成九(一九九七)年六月号の「クール・トランス」なるファッション雑誌に原告製造の本件商標を付したかばんに関する広告を掲載している(乙二九)。少なくとも同雑誌の購読者においてステユーシー商品及びステユーシー標章が周知であることは前記のとおりであり、この点で誤認混同のおそれは強いということができる。

また、エクスプレスも、「ストリートジャック」なる雑誌において、本件商標を付した原告製造のかばんの広告を掲載しているところ、同雑誌の購読者層も「クール・トランス」とほぼ一致するのであるから、右広告による誤認混同のおそれも強いということができる(乙四八は同雑誌の雑誌社が作成した媒体資料であるが、この中にステューシー標章が付されたサングラスが掲載されていることからも、同雑誌社がステューシーを周知なブランドとして考えていることが分かる)。

乙二二は平成九年五月二五日発売の「ファインマックス」なる雑誌に掲載されたエクスプレスの広告であるが、同広告中で、同社は「U.S.A.BRAND業者卸いたします」と記載して、本件かばんがあたかもアメリカン・ブランドの商品(すなわち、ステューシー商品)であるかのように販売している。さらに本件かばんが他の有名ブランドの商品と同列に並べられているのは、まさに「STUSSY」なる標章が付されているからに他ならないのである(仮に「SANKO」という標章しか付されていないとしたら、このように広告されることはない)。また、「クール・トランス」の平成九年一月号にもエクスプレスは広告を掲載しているが、「STUSSY」なる文字を他の被服関係の外国ブランドと同様に同広告の周囲に配置しているのである。このことからも、一般消費者において本件かばんがステューシー商品であるとの誤認混同を生じさせていることが明らかである。

原告は、ステューシー標章のことをよく知っている若者を中心とした顧客層に対してエクスプレス等が原告製造の右かばんを販売するであろうことを十分認識して同社等に右かばんを販売したのであって、その悪性は非常に高いというべきである。

3  原告の自認

なお、エクスプレスが、原告活字体標章を付したかばんを販売するに際し、原告の指示に基づいて、販売案内中に、「US.STUSSYとは全く別の権利による商品である」とあえて記載しているが(乙一一)、このような事実は、原告も被告のステューシー標章が周知であり、かつ原告の使用する標章が被告の使用する標章と類似・混同するものであることを認めているからに他ならない。

四  標章の使用態様が意匠的であることについて

原告は、被告のステューシー標章の使用態様が意匠的であるとして、被告が不正競争防止法二条一項一号の保護を受けられないと主張するが、「ポパイ事件」(東京地判平成二年二月一九日・判例時報一三四三号三頁、東京高判平成四年五月一四日・判例時報一四三一号六二頁)の判決は、標章が意匠的に使用されていてもこれを理由に出所表示機能を有しないということはできない旨判示しているのであるから、たとえステューシー標章の使用の態様が意匠的使用であったとしてもこれをもって商品の自他識別機能を有しないとはいえない(ちなみに本訴請求において、原告は被告が意匠的にステューシー標章を使用したことをとらえて、商標法違反であると主張しているところ、かかる原告の主張も右裁判例の立場を当然の前提としている)。

また、原告は、かばんに原告活字体標章及びこれが原告の登録商標である旨の文言を記載したラベル(甲七)をつけており、これが商品の出所表示機能を果たしていることは明らかである(換言すれば商標的使用をしていたといえる)。

したがって原告の主張には理由がない。

五  被告が「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に該当することについて

原告は、被告が不正競争防止法三条一項の「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(以下「利益帰属主体」という)に該当しないと主張する。しかし、以下の事実に鑑みれば、被告が利益帰属主体たる地位を主張できることは明らかである。

1  被告とステューシー社との関係

被告代表者である星は、もともとショーン・ステューシーと同様にサーフボードのシェーパーである。星は、昭和五七(一九八二)年、サーフボードの買付などを行うために訪れた米国カリフォルニア州ラグナ・ビーチのショーン・ステユーシーの店舗において、ステューシー商品に出会い、そのデザインの斬新さに強い感銘を受けた。そこで、星がショーン・ステューシーに対して、日本でステューシー商品を取り扱いたい旨を申し入れ、同人もこれを快諾したことを契機として、両者間の取引が始まった。同取引の開始に当たり、同人は、「日本において星がステューシー商品を独占的に扱ってよい」と言っていた。

星は、被告に個人で行っていた業務を承継させ、他方ショーン・ステューシーは、一九八五年にステューシー社を設立して同人が個人で行っていた業務を承継させたので、星とショーン・ステューシーとの右関係は、そのまま被告とステューシー社との関係に引き継がれている。

被告とステューシー社とが、一九八七(昭和六二)年一月一日になって独占的販売契約を締結し、ステューシー商品について被告が日本における独占的販売業者であることを確認したこと、ステューシー社が被告に対し、一九九〇(平成二)年八月九日の覚書により、被告がステューシーなる名前に関する商標権及び著作権のすべてを防御しかつ手続を完了するに必要な一切の事項を行う権限を付与したこと、被告はかかる権限に基づき、被告筆記体標章や被告活字体標章について多数の商標登録出願をしその登録を受けていること、被告は、被告活字体標章1に関しても旧商品区分第二一類に属する商品を指定商品として商標出願をし、特許庁から第三者の登録済商標「STACY」に類似していることを理由に拒絶されたが、被告は顧問弁理士を通じて既に不使用に基づく取消審判によりSTACY商標の登録を取消済みであり、被告は、片仮名の「ステューシー」及び欧文字活字体の「STUSSY」の二段書からなる標章につきかばん等を指定商品として商標出願を新たに行っていることなどは、前記第四、二1(二)(2)のとおりである。そして、被告はステューシー社と協力しながら、通関において輸入品の差止請求を行ったり、贋物を取扱う業者に対して警告書を送付したりするなどして贋物対策をしてきた。

以上の事実から、被告は自らが利益帰属主体であると主張し得ることは明らかであるが、さらに、その理由について以下詳述する。

2  利益帰属主体性の検討

(一) 被告自身がステューシー標章にかかる商標権を有していること

商標法において第三者の商標侵害行為を排除するためには、請求者が正当なる商標権者であるかまたは専用使用権を有していることをもって足りるものとされている。したがって、商標を防御しようとするものが、当該商標について正当な商標権または専用使用権を有すれば、不正競争防止法を理由とする場合であっても、第三者に対して侵害行為を中止するよう請求できるというべきである。

被告はステューシー標章に関し多数の正当なる商標権を有しているから、被告が原告に対し、不正競争防止法に基づいて差止請求権を行使できることは明らかである。

(二) ステューシー社が被告に対して標章の防御等を委任していること

ステューシー標章は、ステューシー社が製造した商品に付されている。この意味で、ステューシー社が利益帰属主体と見なせることは明らかである。そのステューシー社が被告に対して、日本において使用されているかまたは使用される可能性があるステューシー社の標章を防御する権限を付与しているのであるから、被告もステューシー社と同様の地位を主張できることは明らかである(乙三〇、三九)。かかる権限を付与されたことにより、被告はステューシー社に対してかかる行為をする責任を引き受けたともいえる(したがって、被告にとって、原告の行為を放置することは、ステューシー社に対する任務違背となる)。

(三) 被告が独占的販売権を有していること

商品が転々流通する場合、その源の他、流通過程内にある業者も利益帰属主体に該当し得ると考えられる。そして、たとえば、ハンドバッグの図柄により識別される「他人」には、外国の製造業者とともに、販売努力により図柄を国内において周知なものとするに寄与した独占的輸入販売業者も該当するから、この者も差止を請求し得るものとされている(大阪地判昭和五六年一月三〇日・無体集一三巻一号二二頁-以下「ロンシャン図柄事件判決」という)。

本件の場合、被告は、ステューシー社の日本における独占的販売業者であって(乙三〇)、ステューシー商品に関して自らの名の下に広告したり(乙二三の1~3の広告参照。逆にステューシー社は日本においては一切広告はしていない)、自ら販売したりしている(被告はその直営店を「ステューシー・チャプト」と称するなどして、「ステューシー」なることばを自らの商号の一部として使用している。乙一、八等)。このため、被告がその販売努力によってわが国においてステューシー標章やステューシー商品を周知とするに寄与したといえる。したがって、ロンシャン図柄事件判決における判断の枠組みに照らしても、被告が原告に対して不正競争防止法に基づいて差止請求できる利益帰属主体と見なせることは明らかである。

また、右判決では、たとえ、一般需要者においてロンシャン図柄の付された商品が原告の販売する商品であることが広く認識されていなくても、少なくともハンドバッグ取扱業者において広く認識されていれば、原告の差止請求は認容できるとしているところ、本件の場合、高島屋大阪店、大丸神戸店、ビブレ京都店を始め、取扱業者のほとんどが被告に対して、出店依頼するなどしているという事実に照らし(乙一)、少なくとも被服等の取扱業者の多くは、被告がステューシー商品を取り扱う業者であることを認識しているといえる。さらに、被告は平成三年からステューシー商品の専売店、ステューシー・チャプトの展開を開始し、現在では全国に一四店舗のステューシー・チャプトが存する(ステューシー京都チャプトは平成七年に設置された)。そして、多くの一般需要者がステューシー・チャプトにおいてステューシー商品を購入しているのであるから、一般需要者も被告がステューシー商品を取り扱っていることを広く認識しているともいえる(被告は乙二三のとおり、自己の名のもとにステューシー商品の広告宣伝を行っているので、需要者の多くが被告の名称を知っているといえるが、そもそも需要者が被告の名称を知っている必要もない)。

なお、原告は、東京地判昭和五一年四月二八日の裁判例を引用するが、この事件は、同一業種についていくつもの業者がキャラクター・グッズ(仮面ライダーの人形)を販売しており、それ程業者選定や品質管理が行われていなかったという事案において、商品化事業の総本山管理者ではなく、商品を製造販売している業者のうちの一業者からの差止請求を棄却したに過ぎないのであって、ステューシー商品の独占的販売権及び商標管理権を付与されている本件被告の場合とは全く異なる事案である。

(四) その他

被告がステューシー標章を防御するため法的手段を従前から取っていたことは、既に述べた商標法違反の刑事事件からも明らかであるし、警察当局も被告がステューシー標章の正当なる権利者と認めていた。よって、この点からも被告が利益帰属主体と見なし得ることは明らかである。

原告は商標登録後被告がステューシー商品の輸入元であることを知り、被告に対して原告が右登録済商標を使用することについて交渉を求めてきたことは前記第四、二3(二)のとおりである。かかる事実から原告も被告が利益帰属主体と見なし得ることを認めていたといえる。

3  結論

以上の次第であるから、被告が、不正競争防止法三条一項の「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に該当することは明らかである。

六  権利濫用

原告は、本件差止対象標章の使用が商標権の行使に基づくものであると主張するが、原告の商標権の行使が権利の濫用であり許されないことは、前記第二、二で述べたところと同様である。

第七  原告の主張(反訴)

一  現時点におけるステューシー標章の周知性について

被告がステューシー商品ないしステューシー標章の周知性の立証として提出している証拠(乙七の1、2、二二、二三の1~10等)のほとんどはその周知性と関連性がないものであり、これらによって、ステューシー標章が需要者、取引者に周知になったとは到底認められない。

すなわち、これらを大別すると、まず、サーフマガジン、サーファーライフ等のサーファー向け雑誌(専門誌)であり、これらの読者はサーファー以外にはあり得ないので、衣料やかばん等の一般需要者を基準とするステューシー商品の周知性には何らの関連性もない。次に、多いのは「ファイン」と題する男性のファッション雑誌や「キューティー」と称する女性向けファション雑誌である。しかし、このような雑誌もあまり一般購読者向けに販売されている雑誌ではなく、特定のファッション愛好者(その多くは、サーファーやスケーター)に向けた特殊な雑誌といえよう。しかも、このようなファッション雑誌の特徴として、記事と広告宣伝とが巧みに配列されていて、両者の区別がつきにくい構成になっている。したがって、これらの雑誌において「最近…で愛好されている」とか「絶大なる人気を集めている人気ブランド」とかいうような記載がなされていても、必ずしもそれが客観的事実を記載した記事ではなく、その商品のメーカーやディストリビュータが自己の商品を宣伝するための広告記事であることが多い。したがって、このような雑誌の記事は、せいぜい、このような商品が右雑誌に広告として掲載された事実を示しているにすぎない。

むしろ、被告がこのような特殊な雑誌しか書証として提出していないことは、ステューシー商品なるものが、より一般的な雑誌に記事として掲載されたことはおろか広告宣伝すらされていないことを証明しているともいえるのである。

二  被告の使用態様が意匠的であることについて

また、被告が提出した証拠(乙九、二三の3、5、7、9)に掲載されたステューシー商品における標章は、いずれも意匠的に使用されており、当該使用形態からみて商品の自他識別機能を有していないので不正競争防止法上の商品等表示として使用されているとはいえない(大阪地判昭和五一年二月二四日・無体集八巻一号一〇二頁・以下「ポパイ第一事件判決」という)。

なお、被告は、ポパイ第一事件判決とは別のポパイ事件判決(東京地判平成二年二月一九日・判時一三四三号三頁、東京高判平成四年五月一四日・判時一四三一号六二頁(以下「ポパイ第二事件」という)を引用して、仮にキャラクター等の図柄が意匠的に使用されていても、出所表示機能を有しないということはできない旨判示していると主張している。しかし、ポパイ第二事件は、同第一事件と異なり、米国における商品化事業のライセンサー及び同事業に関する日本のサブライセンサー等が、一業種一社を原則としてライセンシーを選定し、右ライセンシーに対して厳格な品質管理を行わせていること等の事実を認定し、このような事実の下では、右商品化事業の対象となるポパイの図柄や「ポパイ」、「POPEYE」の文字等が右商品化事業を営むライセンサーや日本におけるサブライセンシー等の商品表示として自他識別力や周知性が認められる旨判示しているのであって、ポパイの図柄や「ポパイ」「POPEYE」の文字の使用方法が意匠的である否かは、直接の争点とはなっていない。したがって、このような裁判例は何ら争点に関係がない。

これに対して、ポパイ第一事件判決は、アンダーシャツの胸部中央に大きく記載された「POPEYE」又は「ポパイ」の文字やポパイの図柄が、専らその表現の装飾的あるいは意匠的効力である「面白い感じ」、「楽しい感じ」、「可愛い感じ」などにひかれてその商品の購買意欲を喚起させることを目的として表示せられているものであり、その使用行為は、客観的にみても商標の本質的機能である自他識別機能及び商品の品質保護機能を有しない旨を判示しているのであり、右判決は、意匠的使用であるから、出所表示機能がないとしているのではなくそもそもアンダーシャツ等の胸一面に文字や図形を装飾的に使用する行為自体が、自他商品識別機能及び商品の品質保護機能を有しないとしているのである。

確かに、形式的に見れば、意匠的使用と見える機能等の使用であっても、それが自他識別機能を有する標章として使用されている限り商標として使用されているといってよい(大阪地判昭和六二年三月一八日・無体集一九巻一号六六頁・ルイ・ヴィトン図柄事件)。このような場合には、不正競争防止法二条一項一号の「商標」ないし「標章」としても保護されるであろう。

しかし、被告の標章の使用行為は、ポパイ第一事件判決の認定及び判示と同様に文字ないし図形を意匠的に使用しているというだけでなく、その文字ないし図形は、自他商品識別機能を有しておらず、当然、その結果として当該商品の出所を表示する出所表示機能をも喪失しているから、不正競争防止法二条一項一号の保護を受けることはない。

また、このほかの使用例でも被告筆記体標章や、その他のステューシー標章が、被告がステューシー商品と主張している商品群と関係なく、いわば、背景写真と一体となった一定のイメージを表示する「イメージ標章」として使用されている例がある(例えば、乙二三の8、10)。

このような形で、被告筆記体標章のごとき図形やその他のステューシー標章を使用したからといってステューシー商品の商品表示として使用していないことは明らかであるから、このような使用例をいくら証拠として提出したからといって、商品等表示としてステューシー標章が周知であることを立証したことにはならない。

このように考えると、被告が提出した書証の大部分はステューシー標章の商品等表示の周知性の立証に何ら関連性を有しない証拠であって、このような証拠をもって周知性を認定することはできない。

三  「営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者」に当たるか否かについて

1  不正競争防止法三条一項は、差止請求権の要件として、「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」と規定しているが、通常、周知商品等表示と類似した商品等表示の使用によって「営業上の利益が侵害される者」は当該表示の帰属主体(出所表示主体)である。

ただ、学説上は、当該主体につき「固有かつ正当な利益を有する者」(渋谷達紀「不正競争防止訴訟の当事者」日本工業所有権法学会年報六号四三頁)等の概念をもって、商品化事業のライセンシーやフランチャイズ等のフランチャイジーについても、特に当該表示に関して特別の利害関係を有している場合には差止請求権が認められることを示唆する者もいる(渋谷・前掲論文他)。

また、例えば商品化事業に関し、海外の商品化権のライセンサーから使用許諾を得て、国内の各種事業に関して各々の事業者を定めて再実施許諾を行うとともに、これら再実施権被許諾者(サブ・ライセンサー)に対して厳格な品質管理、広告宣伝等の管理統制を行っているサブ・ライセンサーにも差止請求権を認めた判例(最判昭和五九年五月二九日・民集三八巻七号一以下「アメリカンフットボールチームマーク事件判決」という)や、著名な漫画の主人公のキャラクターを題材とする商品化事業に関して海外の著作権を管理する団体から著作物の利用、許諾を受けて国内において商品化事業を行う企業グループ(当該商品化事業等のわが国におけるライセンシー)に差止請求権を認めた裁判例(東京地判平成二年二月一九日・無体集二二巻一号三四頁)があるが、このような要件に該当しない単なる商品化権のライセンシーであって、当該商品化権の対象となるキャラクターを使用して商品を製造する者については、仮に、対象キャラクターが周知であっても、当該製造者の商品表示として周知ではないとして差止請求権は認められていない(東京地判昭和五一年四月二八日・無体集八巻一号一四四頁)。

以上のような商品化事業に関する判例等の比較によっても被告のごとき既に周知商品表示(本件では周知ではないが)を付した他人の商品の輸入代理業者が当該表示に関して差止請求権を有しないことは明らかであろう。けだし、被告のごとき総輸入代理店は、商品化事業のライセンサーやライセンシーと異なり、他人の周知商品等表示を付した商品を流通に置いているにすぎず、当該商品等表示について新たな出所表示機能を付加するものではないからである。仮に、被告がステューシー社から商標の管理権を付与されているので、商品化事業のライセンシーと似た立場にあると主張する場合であっても、アメリカンフットボールチームマーク事件判決のようなサブライセンサーとしてわが国において自ら商品化事業を行っているものならいざしらず、単なるライセンシーであれば、その使用許諾標章を自己の商品の出所表示としての周知性を取得していなければ、差止請求権を有しない(東京地判昭和五一年四月二八日・無体集八巻一号一四四頁)。

2  ただ、少数ながら、いわゆる独占的輸入販売業者について差止請求権を認めた裁判例があるが、同裁判例はその前提として当該輸入業者が独占的に輸入販売を行ってきたことによって、同商品の商品等表示が輸入業者の販売する商品の出所を表示するものとして広く認識されたと認められていることを認定しているのであるから(ロンシャン図柄事件判決)、この判例に依拠するにせよ、輸入業者に差止請求権を認めるためには、〈1〉少なくともわが国における独占的輸入販売権を有していること、〈2〉その結果、右商品の商品等表示に関して、自己の商品であることを示す出所表示として(メーカーとは異なる)独自の周知性を取得していることの二要件が必要である。

しかるに、被告がステューシー商品に関して、自らの名の下(「総輸入元」との名称で)に、広告した例は被告が本件で証拠として提出している多数の広告例でもきわめてわずかである。

被告が、その直営店をステューシー・チャプトと称している事実については知らないが、仮に、被告が自己の直営店にこのような名称を使用しているとしても、営業表示として「ステューシー」なる名称を使用しているにすぎず、これをもって、ステューシー標章を付した商品の出所が被告であることを示すものではないから、このような事実は、被告が取り扱う商品の出所表示としての周知性とは関係がない。

なお、確かに、ロンシャン図柄事件判決は、ハンドバッグ取扱業者間における周知性をも問題にしているが、それは同事件の原告も被告も、ともにハンドバッグ等の販売業者であったからにすぎない。すなわち、右事件の原告と被告との間には競業関係があり、原告も従前よりロンシャン標章を付したハンドバッグ等の独占的輸入販売業者として周知であったことから、ハンドバッグを取り扱う業者間でも、被告の標章を付したかばんを原告が独占的輸入販売するロンシャンのかばんと混同するおそれがあったため、同判決は「少なくとも、ハンドバッグ取扱業者間において広く認識されていた」と認定したのである。

ところが、本件において被告が取り扱うステューシー商品はその大半がサーフボード等のスポーツ用品やこれに関連する衣類であり、従来、かばんは全く取り扱っていなかったか、きわめてわずかな量を販売していたにすぎない。

したがって、仮に高島屋大阪店や大丸神戸店(これらのデパートはかばんも販売しているかもしれないが、かばんの専門的取扱業者ではない)から、被告に対して出店依頼があったとしても、それはスポーツ用品や衣料等の販売業者として被告を知った結果にすぎない。すなわち、被告は「少なくともかばんを取扱う業者間において広く認識されていた」とはいい難い。

被告がその直営店を全国的に展開しているか否かは知らないが、仮に、被告の主張するとおり、被告が「ステューシー・チャプト」なる名称で店舗を全国展開していたとしても、同店でステューシー商品を購入する消費者が「ステューシー・チャプト」の経営主体が被告であることを知ることはなく、したがって、同店舗で売られている商品が、被告が総輸入代理店として取り扱う商品であることを認識することはないから、このような事実は本件商標を付した商品の出所が被告であるとの周知性の存否について何ら影響を与えるものではない。

四  商標権の行使

原告が、原告活字体標章及び同筆記体標章につき商標登録を有することは前記第二、二1のとおりである。原告は商標権者として原告活字体標章を付した商品を製造し、販売しているのであるから、その行為は商標権の正当な権利行使であり、違法性はない。

ちなみに、現行不正競争防止法には平成五年改正前不正競争防止法六条に相当する規定はないが、それでも商標権の権利行使が、違法性阻却事由となることは学説もほぼ争いなく認めている。

五  商標権の行使が権利濫用であるとの主張に対する反論

原告の商標権の行使が権利の濫用であるとする被告の主張に対する反論は前記第五、一のとおりである。

第八  争点

一  本訴

1  原告の本訴請求の権利濫用性

(一) 商標法四条一項一五号(他人の業務に係る商品と誤認混同を生じるおそれがある商標)に該当する事由の有無

(二) 同法四条一項一〇号(他人の業務に係る周知商標と類似する商標)に該当する事由の有無

(三) 同法四条一項一九号(不正目的を理由とする公序良俗違反)に該当する事由の有無

(四) 同法四条一項八号(他人の氏名、著名な略称等の使用)に該当する事由の有無

(五) 同法四条一項一一号(登録商標との類似)に該当する事由の有無

(六) (一)ないし(五)の事由に照らし、あるいは、これらに関し主張された事実(原告の原告活字体標章等及び被告のステューシー標章の各使用態様、ステューシー標章の周知性、原告の原告活字体標章及び同筆記体標章の入手・登録の経緯等)に照らし、原告の本訴請求が権利濫用に当たるか

2  先使用の抗弁

3  被告の本件商標権侵害が肯定されるとして原告の損害の有無及び額

二  反訴

1  ステューシー標章の周知性

2  ステューシー標章と原告活字体標章及び同筆記体標章との類似性

3  誤認混同のおそれ

4  被告は不正競争防止法三条一項の「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に当たるか

5  原告の商標権の行使の権利濫用性(前記一1(一)ないし(六)の事由の有無、これらの事由に照らし、あるいは、これらに関して主張された事実(原告の原告活字体標章等及び被告のステューシー標章の各使用態様、ステューシー標章の周知性、原告の原告活字体標章及び同筆記体標章の入手・登録の経緯等)に照らし、原告の商標権の行使が権利濫用に当たるか

6  本件差止対象標章の差止の必要性

第九  当裁判所の判断

一  はじめに

本訴・反訴事件における当事者の主張及び争点は、前記第三ないし第八のとおり多岐にわたるが、結論から述べれば、当裁判所は、原告の本件商標権に基づく本訴請求は権利濫用でありいずれも認めることができず、また、原告が原告活字体標章及び同筆記体標章等を使用する行為は不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号)に該当する(同各標章に係る原告の商標権の行使は権利濫用である)から、原告の本件差止対象標章の差止等を求める被告の反訴請求はいずれも理由があるものと判断した。

以下、右判断に達した理由について述べるが、まず、前記第二、二の基礎的事実のほかに右判断の前提となった事実の認定につき述べることとする。

二  前提事実について

前記第二、二の各事実、文中に掲記の証拠並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実が認められる。

1  原告について

原告は、昭和二七年ころから、主に女性用のかばん類、袋物類の製造・販売を行っている会社である。同社は、代表取締役山本政幸とその子で取締役である山本幸伸及び山本和宏が中心となって経営しており、従業員は七名である(甲五、証人山本幸伸・一~四頁)。

2  ステューシー社及び被告について

(一) ステューシー社

ステューシー社は、サーフボードシェイパーであり服飾関係のデザインも行っていたショーン・ステューシーが米国カリフォルニア州において一九八五(昭和六〇)年に設立した法人である(乙二三の2、三八、弁論の全趣旨)。同社は、製造・販売するTシャツ、ジャンパー、ジャケット、かばん、袋物、あるいはこれらの商品のタッグに、被告筆記体標章1、被告活字体標章1ないし3の標章を付して使用している。なお、ステューシー社は、設立当初は製造するTシャツ等の商品に被告筆記体標章1を付していたが、遅くとも一九九一(平成三)年ころには、被告活字体標章も使用するようになった(検甲一、二の1、2、三の1、2、五ないし七の各1~3、乙二、乙三添付の甲一四∥三丁、同甲一六∥二、三丁、乙一二の2、3、二三の3~9、二四、三八、四四、弁論の全趣旨)。

ステューシー商品は、日本、米国、ヨーロッパ、オーストラリア等で販売されている(乙一、二)。

(二) 被告

星は、昭和四五年に静岡県榛原郡相良町においてサーフボードの製造・卸、小売業を創業し、昭和五三年一二月二五日にスポーツ用品の製造並びに販売等を目的として被告を設立した。設立当初から現在まで同社の代表取締役は星である(乙一、弁論の全趣旨)。

(1) 被告とステーシー社との独占販売契約等

星は、昭和五七年、サーフボードの買い付けなどのために訪れた米国カリフォルニア州のショーン・ステューシーの店舗でサーフボード、Tシャツ等のステューシー商品を見て、同商品を取り扱いたい旨を同人に申し入れ、同人がこれを了承したことから、昭和五八年から星あるいは被告とショーン・ステューシーの取引が始まり、ショーン・ステューシーが前記(一)のとおり一九八五(昭和六〇)年にステューシー社を設立したことから、その取引は、被告とステューシー社の取引となった(乙一、被告代表者・二~五頁、弁論の全趣旨)。

その後、被告及びステューシー社は、一九八七(昭和六二)年一月一日、ステューシー社が被告をステューシー社の商品(被服類、帽子、アクセサリーまたはこれらに関連する被服類を含む)の日本国内における独占的販売店に任命し、被告がこれを受諾する旨の販売店契約を締結した(乙三九、四五、被告代表者・二二、二三頁)。また、ステュシー社は、被告に対し、一九九〇(平成二)年八月九日の覚書により、ステューシーなる名前に関する商標権及び著作権のすべてを防御し、かつ手続を完了するに必要な一切の事項を行う権限を付与した(乙三〇、三九、被告代表者・八、九頁)。

(2) 被告の商標登録等

そこで、被告は、前記第二、二2のとおり、被告筆記体標章及び同活字体標章についての商標登録出願をし、その登録を受けた。

なお、被告は、被告活字体標章1につき、平成三年六月一〇日、旧商品区分第二一類、装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具を指定商品として商標登録出願をしたが、同出願は、エース株式会社の登録済商標であるSTACY商標と同一または類似であり、その商標登録に係る指定商品と同一または類似の商品に使用するものであることを理由に拒絶された(乙四添付の甲一九ないし二二)。しかし、被告は、STACY商標につき木内弁理士によりなした不使用に基づく取消審判により同商標を既に取消済みであり(乙一)、平成七年一〇月、片仮名表記の「ステューシー」を上段に、被告活字体標章1を下段に記載した標章につき、商品区分を第一八類、指定商品を「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、かばん金具、がま口金具、傘」とする商標登録出願、及び商品区分を第一四類、指定商品を「貴金属製のがま口及び財布、身飾品、時計、宝玉及びその模造品」とする商標登録出願をそれぞれ新たに行っている(乙六の1、2)。

(3) 被告の営業活動等

〈1〉 被告は、ステューシー社と取引を開始して以来これまで、同社から被告筆記体標章1、被告活字体標章1ないし3のステューシー標章が付されたTシャツ、帽子、かばん類、袋物類等(あるいはこれらの標章が記載されたタッグが付された同商品)を輸入し、わが国で販売してきた(ただし、被告が販売するステューシー商品はTシャツ等の衣類が主流であり、かばんはごくわずかである)(検甲一、二の1、2、三の1、2、五ないし七の各1~3、乙一、一二の2、3、二三の3、5、6、7、9、二四、四四、被告代表者・四七頁)。

なお、原告は、被告が、被告活字体標章2を付したかばん類、袋物類を製造・販売していると主張するが、被告は、ステューシー社が製造・販売するステューシー商品を輸入しわが国で販売しており、被告が同標章を付したかばん類、袋物類を製造していると認めることのできる証拠はない。

〈2〉 被告は、平成三年にステューシー静岡チャプトとしてスタージョイアス有限会社を、平成四年にジャック・アメリカ・INCをそれぞれ設立し、また次のとおり、ステューシー商品の専門店として直営店またはフランチャイズ店(以下「FC店」という)を設置した(乙一)。

平成四年 ステューシー代官山チャプト(FC店)

平成六年 ステューシー池袋チャプト(FC店)

平成七年 ステューシー豊橋チャプト(FC店)、ステューシー浜松チャプト(直営店)、ステューシー京都チャプト(直営店)、ステューシー名古屋チャプト(FC店)、ステューシー広島チャプト(直営店)

平成八年 ステューシー大阪南チャプト(直営店)、ステューシー福岡チャプト(FC店)、ステューシー原宿チャプト(FC店)

平成九年 ステューシー長崎チャプト(直営店)、ステューシー熊本チャプト(直営店)

〈3〉 被告の販売ルートは、代理店への卸売販売、小売店への卸売販売及びステューシー・チャプト(FC店、直営店)への販売の三形態であり、平成九年三月時点において、代理店としては株式会社インターミックス(東京)、有限会社マックスディビィジョン(大阪)、有限会社ダイスアンドダイス(九州)の三社があり、それらの取引先として全国の有力小売店合計約二二〇軒を有し、被告が直接販売する小売店の卸売販売先は六一社に及んでいる。

また、被告は、年二回、東京、大阪、九州で各二日、展示会を開催しており、株式会社パルコ、大丸、高島屋、ビブレなどから、出店の要請や取引開始依頼が来ている(乙一)。

〈4〉 また、被告の売上高のうち約八五パーセントは、ステューシー商品に係るものであるところ、被告の売上高及び広告宣伝費の推移は概ね次のとおりである(乙一、被告代表者・二頁)。

年度 売上高 広告宣伝費

平成三年度 六億五五二五万円 一四八一万円

平成四年度 五億七九三七万円 一四〇一万円

平成五年度 六億六三五六万円 九六七万円

平成六年度 九億〇二三〇万円 一三四六万円

平成七年度 一一億四三八六万円 二五一一万円

3  ステューシー商品に係る雑誌等の記事及び広告等について

(一) 昭和五八、九年ころ

昭和五八、九年ころは、第二次サーフィン・ブームであり、「サーフマガジン」(サーフマガジン社発行)、「サーフィンライフ」(株式会社マリン企画発行)及び「サーフィンワールド」の三誌がサーファーの間で広く購読されていたところ(乙四〇)、被告は、昭和五八(一九八三)年一〇月号の「サーフマガジン」(乙二三の1)に、上部に被告筆記体標章3と類似のスタンプが押された封筒の写真と中央に大きく被告筆記体標章1を配置し、左下部に「EQUIPMENT FOR THE Modern Age」と記載した広告を掲載したが、これは主にサーフボードを念頭に置いた広告であり(被告代表者・四一頁)、同広告の主体も「JACK SURFBOARD INC.」とされている。

被告は、昭和五九(一九八四)年八月号の「サーフマガジン」(乙二三の3)にステューシー商品の広告(被告筆記体標章1が胸元に大きく印されたTシャツを着た少年をモデルにし、広告の右下部に同標章が記載され、左下端部に「JACK CORPORATION」等と記載されている)を掲載した(被告代表者・四二頁)。

また、昭和五九(一九八四)年四月号の「サーフィンライフ」(乙二三の2)には、ショーン・ステューシーの特集記事が掲載されたが、これは、ショーン・ステューシーが来日する際に、雑誌社から被告に協力依頼があり、被告がこれに協力してなされた取材に基づくものであり(被告代表者・五、六頁)、ショーン・ステューシーをカリフォルニアのマルチ・デザイナーとして紹介している。なお、同雑誌には、被告筆記体標章1が印されたサーフボードが立てられた写真の左下端に被告筆記体標章3を記載し、下端中央部に「JACK CORPORATION」と記載した広告が掲載されている。

(二) 原告が本件商標の登録出願をした平成三年九月ころ

(1) 「ファイン」(日之出出版株式会社発行)及び「リディム」(株式会社オーバーヒート発行)は、いずれも一〇代から二〇代にかけての若者を主たる購読者とし、ストリート・ファッション(街で生まれて流行するファッションー乙四一)情報、音楽情報等を取り扱うファッション雑誌であり、「ファイン」は書店やコンビニエンス・ストアで販売され、「リディム」はレコード店及びカジュアルウエア店等で頒布されているところ、その発行部数は、ファインが平成元年から平成二年当時で概ね一二万部から一八万部程度、リディムが平成二年当時で概ね三万五〇〇〇部程度である(乙四〇)。

平成元(一九八九)年六月号の「ファイン」(乙二三の4-五九頁)には、「いま注目度No.1のクールなデザイナーSTUSSY ステューシー」、「B-BOYやスケーターなど、東京を中心に入手しにくい“ステューシー”のウエアの人気は上がる一方」との見出しで、ショーン・ステューシに対するインタビュー記事が掲載された。

平成二(一九九〇)年九月号の「ファイン」(乙二三の5の三、四丁)には、「SKATER クールでハードコアなスケートボードウエア、続々登場」との見出しの下、商品を紹介する記事の中で、「世界中で人気のステューシー。パープルもシブい3800円(ステューシー・トーキョー・チャプト)」として被告筆記体標章1が胸元に大きく印されたTシャツ、「ステューシーのNewタイプのシャツ。1万4000円(ステューシー・トーキョー・チャプト)」として、襟元のタッグに被告筆記体標章1が印されたシャツ等が紹介された。

平成三(一九九一)年二月号の「ファイン」(乙二三の6)には、シャツ、パンツ、プールセット、パーカー、スタジアムジャンパー、帽子等のステューシー・トーキョー・チャプトが販売する商品が掲載された(ただし、右掲載商品中の帽子とパーカーに被告筆記体標章1が付されていることは認められるが、その余の商品自体にステューシー標章が付されていることは窺われず、またこれらの商品のタッグ等にステューシー標章が付されているか否かは明らかではない)。

同年三月号の「ファイン」(乙二三の9)には、「スケーター&ヒップホップ!」の見出しで男女の写真を掲載した頁の左端に「男ジャケット2万1000円、Tシャツ9800円(ともにステューシー・トーキョー・チャプト)」と記載され(同三丁)、また、スケーターのファッションを紹介した記事の中で、東京から湘南にサーフィン及びスケートに来た少年が、ハットもトレーナー(被告筆記体標章が胸元に印されている)も「ステューシーでキメてます」として、その写真が掲載されている(同五丁)。また、「クローズアップ!人気ブランド“ステューシー”」との見出しの記事では、「ステューシー最新コーディネート」として、ステューシー・トーキョー・チャプトの取り扱うシャツ、パンツを着用した男性、同ロングスカート、ハットを着用した女性の写真等が掲載され(ただし、これらの衣類等にステューシー標章が付されていることは窺われない)、また「ステューシーおNEWプリントシャツをチェック!」として、被告筆記体標章1が胸元等に印されたステューシー・トーキョー・チャプトの取り扱うTシャツを紹介する記事が掲載されている(同六丁表)。

被告は、平成三(一九九一)年二月号の「リディム」(乙二三の8)に、被告筆記体標章1、2とは異なるが「STUSSY」と読める筆記体文字を背中に印したTシャツを来た人物等の写真を背景に中央下部に被告筆記体標章1を大きく記載し、下端部に「OSAKA CHAPTER」、「TOKYO CHAPTER」との記載とともにその電話番号を記載した広告を掲載し、また同年九月号の同誌(乙二三の10)に、男女の写真を背景に右中央上部に被告筆記体標章1を記載し、下端部に「日本総輸入発売元/ステューシージャパン…(株)ジャック」と記載した広告を掲載した(被告代表者・四四頁)。

(2) 前記の平成三(一九九一)年三月号の「ファイン」(乙二三の9)の「クローズアップ! 人気ブランド“ステューシー”」の見出しの記事は、ステューシー・ブランドを「カリフォルニアのサーファー、スケーターに始まり、今やTOKYO、NY、ロンドンのクラブフライヤーたちにも絶大な支持を集めている人気ブランド」として紹介するとともに、平成二年一一月二五日に、東京都港区芝浦に所在していたディスコのゴールドにおいて、ステューシー・ナイトなるイベントが行われたこと、若者に人気の芸能人(ブラザー・コン、RIKACO、田中律子、小泉今日子等)が当該イベントに参加したこと等を紹介している。

(3) 平成八(一九九六)年五月号の「ファイン」(乙四二)には、一九九〇年代に流行したものについての特集記事が掲載されているが、同記事では、一九九〇年の「FASHION」の表題の下に、「海でも町でもクラブでも一番人気だったステューシー」と紹介している。また、一九九一年の「FASHION」の表題の下に、「GOLDにて。ステューシー人気」と記載して、前記ゴールドのイベントの際の写真を掲載している。

(4) 愛知県北警察署は、輸入衣料品の卸小売業を営む有限会社糸重物産及び同社の代表者野田が、被告筆記体標章3と類似の商標を使用したTシャツ等を取り扱った商標法違反被疑事件につき、被告に対し、商品の真贋の確認を依頼して被告はこれに応じ、被告が扱う商品ではなかったため、被告は同署の要請を受けて平成三年九月一七日告訴状(乙三二)を提出し、名古屋地検は、平成四年三月二三日、同社及び野田を商標法違反として起訴し、同社及び野田は有罪の判決を受けた(乙三一、三三、被告代表者・一五~一七頁)。平成三年八月二七日の中日新聞の朝刊(乙三四)及び同月二六日の朝日新聞名古屋版の夕刊(乙三五)は、同事件についての記事で、ステューシー(ただし、同記事中では「スチューシー」と記載されている)が「アニエスベー」や「シャネル」とともに、若者に人気が高いブランドであるとしている。

(三) 平成八、九年

(1) 平成八年の秋から冬にかけて東京放送(TBS)系列のゴールデンタイムに放映された人気ドラマ「硝子のかけらたち」(平均視聴率一二・七パーセント)において、被告の関係会社が協力者としてステューシー商品の提供をし、主演の元チェッカーズの藤井フミヤやその共演者が被告筆記体標章1及び同活字体標章2を付したTシャツを着用して出演した。なお、同番組の最後の協力者のテロップに被告筆記体標章1が流された(乙九、乙一〇、弁論の全趣旨)。

(2) 「クール・トランス」は、ストリート・ファッションに興味を持つ一〇代から二〇代前半の若者を購読者とする発行部数約五〇万部のファッション月刊誌であって、コンビニエンス・ストアや一般書店で幅広く頒布されている(乙四三)ところ、同誌の平成九(一九九七)年一二月号(乙四四)において、ステューシー商品に関する次のような記事が掲載された。

〈1〉 「根強いファンを持つステューシー」とし、ステューシー原宿チャプトとともに、ポロシャツ、パンツ、リュック等のステューシー商品を紹介した記事(スタッフを紹介する写真において、背後の壁に被告活字体標章2の文字が掲示されているのが見える)(四四頁)

〈2〉 ブルゾン、Tシャツ、ショーツ、キャップ、バッグ等のステューシー商品でコーディネートしたモデルを掲載し、右上部に被告活字体標章1(ただし、Sの字が他の文字より大きく記載されている)を記載した記事(七〇頁)

〈3〉 ステューシー・ブランドを「もはやストリートの王様ブランドと呼んでもいい」として、ダウン、ニット、パンツ等のステューシー商品を紹介した記事(七四頁)

〈4〉 米国カリフォルニア州サンディエゴで一九九七(平成九)年夏に開催された「アクション・スポーツ・リテイラー・トレード・エキスポ」(略称ASR)を紹介する記事の冒頭において、「おなじみのステューシー」との説明を添えて、Tシャツ、スタジアムジャンパー等の商品やステューシー社のブースの状態を紹介した記事(一九四、一九五頁)

(3) 愛知県警本部生活経済課と蒲郡署は、平成九年一二月九日、ステューシーの偽商品を販売目的で所持したとして商標法違反の疑いで一宮の衣料品販売会社及び同社社長を名古屋地検豊橋支部に書類送検した。この事件は、愛知県で頒布されている読売新聞、東愛知新聞、中日新聞、東海日日新聞、朝日新聞で報道された(乙四七の1~5)が、これらの新聞は、ステューシー・ブランドを「米国有名ブランド」(読売新聞、中日新聞)、「サーファーを中心に若者に人気のブランド」(中日新聞、東海日日新聞、朝日新聞)としている。

(4) また、前記(2)の平成九(一九九七)年一二月号の「クールトランス」(乙四四)には、並行輸入業者が「STUSSY」商品を扱っている旨の広告を掲載している(五九、八七、二六三、二七一、三〇一、三〇五頁)。

さらに、原告の取引先であるエクスプレスは、平成九年四月一八日発売の「ファインマックス」(乙二二)及び「クール・トランス」の平成九年一月号(乙四六)に、原告の製造・販売するかばんの写真を載せ通信販売する旨の広告を掲載しているが、これらの広告には、「U.S.A.BRAND業者卸いたします」と記載され、また同かばんの写真は、有名ブランド商品の写真と一緒に並べられ、あるいは、「STUSSY」の文字が服飾関係の外国ブランドの文字と同様に広告の周囲に配置されている(乙四六)。

またエクスプレスは、そのホームページにおいて、「IMPORTWHOLE SALE CLUB」の見出しの下、ブランドとして「NIKE」、「FILA」、「ADIDAS」等の有名ブランドを列挙しているところ、商品案内の頁では、「STUSSY」(ただし、その下に「商標登録2577044号 REGISTER BY SANKO」と記載されている)の見出しで、原告活字体標章を付したかばんの写真等を掲載している(乙二一)。

(四) なお、ステューシー社は、日本ではステューシー商品に係る広告を一切行っていない(被告代表者・一一頁)。

4  本件に至るまでの原告及び被告の交渉経緯等

(一) 原告は、本件標章等を使用してかばんの販売を企画したが、被告がステューシー社の商品を輸入販売していたことから、平成八年一月ころ、被告に対して、相互に提携して商品の販売をすることを申し入れた(甲五、乙一)。

右申入れに対し、被告の代理人の木内弁理士は、原告の登録代理人である肥田弁理士に対し、平成八年四月五日、原告活字体標章及び同筆記体標章に係る各商標につき、被告より譲渡を申し入れて欲しいとの要望があった、出願に要した実費程度でどうか、商取引上のご希望があればそれについても検討したい、現在のままであれば、無効審判の請求をしなくてはならない旨の内容の文書をファクシミリ送信した(甲一二)。

これに対し、肥田弁理士は、同年四月一二日、木内弁理士に対し、右各標章の各商標権を譲渡することについては問題はないと考えているが、右各商標を使用してかばんを販売することを計画しているとして、原告が右各商標を付したかばんを合意の日から三年間製造・販売すること、原告は被告が右各商標を使用することに異議を唱えないこと、原告は三年間経過したときは右各商標を被告に譲渡すること、原告はその対価を被告に要求しないことなどを内容とする解決案を提案したが、被告はこれを拒絶した(甲一三、弁論の全趣旨)。

原告は、平成九年一月ころから、原告活字体標章を付したかばんの製造・販売の準備を開始した(甲五)。

(二) 被告ほ、平成九年一月、被告の取引先である名古屋市所在の有限会社マーベリックインターナショナルから、「岐阜県の取引先から「STUSSY」の文字からなる標章を付した原告の販売したかばんの販売案内と商談が入ったが、このかばんは被告が扱うステューシー商品に間違いないのか」との問い合わせを受けた(乙一、被告代表者・一九頁)。

そこで、被告は、原告に対し、平成九年二月六日到達の書面により、平成八年四月一二日付けの書簡については既に口頭で報告しているとおり、原告の申し出には添えないと考えている、原告の出願費用の実費に相当する程度の金額で譲渡を了承いただけなければ早急に右各商標につき無効審判を請求する所存である、原告が右各商標を使用した場合には、不正競争防止法、商標法などの所定の規定に該当するとして、法的な手段をとることになるので注意する旨を通知した(乙一五の1、2)。

これに対し、肥田弁理士は、木内弁理士に対し、同月一七日付けの書面により、原告はかばんの製造販売計画を推進し、小売価格一五〇〇万円相当のかばんの生産が既に完了している、現時点において原告のかばんの販売を中止するとともに右各商標権を譲渡することは吝かではないが、一五〇〇万円程度の支払をいただくのが相当と考えている旨を申し入れた(甲一五)。

これに対し、木内弁理士は、同月二四日到達の書面により、原告が「STUSSY」ブランドの製品を販売した場合には断固たる処置をとる所存である、一五〇〇万円は、原告の権利が過誤登録であることを考慮するとあまりに高額であるが妥当な金額であれば和解する余地はある旨の回答をした(乙一七の1、2)。

その後、原告から九〇〇万円でどうかとの提示があったが、被告はこれを拒絶した(乙一)。

(三) 被告は、その後、特許庁に対し、原告を被請求人として、原告筆記体標章が、被告筆記体標章1と同一のものであり指定商品も同一であるから商標法四条一項一一号に該当して無効とすべきであるなどとして、原告筆記体標章の商標登録の無効審判の請求(平成九年審判第二四六六号-以下「第一審判事件」という)(乙四九)、並びに原告活字体標章が「STACY」商標及び被告筆記体標章1の商標に類似するとして、原告の活字体標章についての商標登録は商標法四条一項一一号に該当して無効とすべきであるなどとして、原告活字体標章の商標登録の無効審判の請求(平成九年審判第二四六五号-以下「第二審判事件」という)(乙五〇)をそれぞれした。

特許庁は、平成一〇年四月三日、第一審判事件につき、原告筆記体標章と被告筆記体標章1の商標は類似し指定商品も同一であるから、原告筆記体標章につきなされた商標登録は無効とすべきであるとする審決を、第二審判事件につき、原告活字体標章は、STACY商標と類似の商標であり指定商品も類似または同一であるから、原告活字体標章につきなされた商標登録は無効とすべきであるとする審決をそれぞれなしたが、原告がいずれについても審決取消の訴えを東京高等裁判所に提起している(乙四九、五〇、弁論の全趣旨)。

また、被告は、京都地方裁判所に対し、原告活字体標章及び同筆記体標章の使用の中止等を求める仮処分を申し立て(同裁判所平成九年(ヨ)第三三五号事件)、これに対し、原告は、平成九年三月二九日、本件本訴を提起した。

(四) なお、原告は 原告商品(かばん)に付したタッグ表面に「STUSSY」と記載するとともに、同裏面に「STUSSY」は、株式会社三幸の登録商標です」との記載を行った(甲五、七)。また、原告の取引先であるエクスプレスは、原告の指示により、その販売先に対する案内文書に、御案内するSTUSSYは商標登録されているもので不正にコピーされたものではない、US・STUSSYとは全く別の権利による商品である旨の記載をした(甲五、乙一一)。

三  次に、前記第二、二及び前記二の各事実を前提に、本訴・反訴で問題となるステューシー商標の周知性、原告活字体標章及び同筆記体標章とステューシー標章との類似性並びに誤認混同のおそれ、原告が原告活字体標章及び同筆記体標章を入手・登録した経緯等について順に検討することとする。

1  ステューシー標章の周知性について

(一) 本件商標の登録出願音時(平成三年九月)の周知性について

被告は、前記第四、二1(三)(2)のとおり、本件商標の登録出願当時、ステューシー標章は既にファッションに敏感な若者を中核とする需要者及びファッション関係者(取扱業者等)の間で周知であったと主張するところ、前記二3(一)、(二)のとおり、被告は、昭和五八、九年ころから、サーファー向けの雑誌に広告を掲載するようになり、また同雑誌にショーン・ステューシーに関する特集記事が掲載されたこと、平成元年ないし三年ころの一〇代から二〇代を購読者とするファッション雑誌に、ステューシー商品が人気がある旨の記事等が掲載され、あるいはステューシー・トーキョー・チャプトが扱うステューシー商品の紹介ないし広告が掲載されたこと、平成二年一一月当時、東京で人気のデイスコにおいて被告が協賛してステューシー・ナイトと称するイベントが開催され、若者に人気の芸能人もこれに出席したこと、愛知県において、被告筆記体標章3と類似の商標を使用した輸入衣料品の小売業者が商標法違反で起訴され有罪判決を受けたことなどが認められる。

そして、これらの事実から、東京等においてサーファーを中心とするファッションに敏感な若者の間にステューシー商品の人気が高まりつつあった状況は窺われるとしても、本件で提出された平成三年までの雑誌記事は、前記二3(一)、(二)でみた程度であってその数は決して多いものではないこと、被告は平成三年にステューシー静岡チャプトとしてスタージョイアス有限会社を設立したが、その段階ではわが国においてステューシー商品の販売網が確立されていたと認めるに足りる証拠はないことも考慮すると、それ以上に、ステューシー商品が、ファッションに敏感な若者や当業者の間で周知性を有していたとまでは認定できず、したがって、ステューシー商品に付されたステューシー標章が、これらの者の間においてステューシー社及び被告が出所であることを示す商品表示としての周知性を有していたということはできない。

(二) ステューシー標章の現時点の周知性について

前記(一)のとおり、平成三年当時、ステューシー標章が周知性を有していたとは認められないものの、サーファーを中心とするファッションに敏感な若者の間にステューシー商品の人気が高まりつつあったところ、被告は、その後、平成四年から平成九年にかけて、その直営店、FC店であるステューシー・チャプトを、代官山、池袋、豊橋、浜松、京都、名古屋、広島、大阪、福岡、原宿、長崎、熊本と次々に設置し(前記二2(二)(3)〈2〉)、平成九年三月時点においては、直営店、FC店のほか、東京、大阪、九州の三つの代理店が有する取引先は約二二〇店、被告が直接販売する小売店は六一社に及び、主要各都市において営業活動を展開してきたこと(同〈3〉)、現在ではパルコ、大丸、高島屋等の有名デパートからも出店要請が来ていること(同)、ステューシー・チャプトにおいては、被告筆記体標章1及び被告活字体標章2の表示等が掲げられていること(乙八、四四=二丁、弁論の全趣旨)、被告の売上高は順調に推移し、相当の費用をかけて継続的に広告宣伝活動を展開してきたこと(同〈4〉)、平成八年に放映された高視聴率の人気テレビドラマにステューシー商品を提供し、人気俳優が被告筆記体標章1及び同活字体標章2の印されたTシャツを着用して出演したこと(前記二3(三)(1))、一〇代から二〇代のストリート・ファッションに興味を持つ若者が購読者層で、約五〇万部の発行部数を有し、コンビニエンスストアや一般書店でも販売されている雑誌において、ステーシー商品に係る記事が掲載されていること(同(2))、前記二3の商標法違反事件に加え(同事件における被疑者(被告人)は、被告筆記体標章3に類似する商標の使用のみならず、「アニエスベー」及び「シャネル」のブランド商品に係る商標も使用しており、これらの商標法違反も同時に処理されていた)、平成九年には、さらにステューシー商品に係る商標法違反事件が発生していること(前記二3(三)(3))、並行輸入業者が「STUSSY」または「STUSSY」を他の有名ブランドと同様に扱った広告を行っていること(同(4))などが認められる。

また、被告は、平成九年一月、原告活字体標章を付したかばんの販売案内等を受けた被告の取引先から、被告が取り扱うステューシー商品か否かの問い合わせを受けたこと(前記二4(二))、その他にも代理店やステューシー・チャプトからどう対応したらよいのか等の問い合わせがあること(乙一、被告代表者・一九、二〇頁)が認められる。

以上の事実を総合すると、ストリート・ファッションの流行や、それをとらえた被告の積極的な営業活動、広告宣伝活動の展開により、現時点においては、ステューシー標章のうち、少なくとも被告筆記体標章1及び同活字体標章1ないし3は、ファッションに敏感な若者及びTシャツ、帽子、トレーナー等の若者のファッション(衣類等)を取り扱う当業者の間では、ステューシー社及びそれを独占的に扱う被告の出所を示す商品表示として広く認識され、周知性を取得しているものと認めるのが相当である。

2  原告活字体標章及び同筆記体標章とステューシー標章との類似性及び誤認混同のおそれについて

(一) 類似性について

原告活字体標章と被告活字体標章2が類似性を有することは前記第二、二4のとおりであり、同様に、原告活字体標章と被告活字体標章1が類似することも明らかである。また、原告活字体標章と被告活字体標章3は同一である。

次に、原告筆記体標章と被告筆記体標章1は、子細に対比すると、横線の太さ、横線の位置、横線上のウムラウト(二個の点)の大きさ及び左のSの字の位置等に相違点があるものの、標章全体の形状は極めて類似したものであって、外観上類似性が高い。そして、前記のとおりの現時点の被告筆記体標章1の周知性を前提にすれば、被告筆記体標章1からも原告筆記体標章からも「ステューシー」の称呼が生じるから、両標章が類似性を有することは明らかであるし、それを前提にせず、一見して両標章から称呼が生じないと考えたとしても、右に見た外観上の類似性からすれば、両標章が類似性を有することは明らかである。

(二) 誤認混同のおそれについて

原告が販売する商品は、かばん類、袋物類であり、被告がこれまで販売してきたステューシー商品は、主にTシャツ、帽子、トレーナー等であって、かばんはごくわずかしか販売していないことからすれば、ステューシー標章(以下、ステューシー標章のうち、前記三1で周知性を認定した被告筆記体標章1及び同活字体標章1ないし3に限定して「ステューシー標章」という)が、前記三1のとおり現時点において周知性を有するとしても、同標章が、ステューシー社及び被告のかばん類、袋物類の商品表示として周知性を有するとまで認定することはできない。

しかしながら、ステューシー標章は、ステューシー社及び被告の商品表示として、ファッション(衣類等)に敏感な若者及び当業者の間で周知性を有するから、現時点においては、これらの者の間では、被告活字体標章のみならず、同筆記体標章1も「ステューシー」の称呼を生じると認められるところ、「ステューシー」は普通名詞等何らかの意味を持つ用語から取ったものではなく、ショーン・ステューシーの性に由来するものであり、少なくとも日本人にとってはSTUSSYなる性は外国人の性としても一般的ではないことから、日本におけるステューシー標章の識別力は高いといえること、このため需要者及び当業者は、ステューシー標章が付された商品をみれば、それが若者のファッションとおよそかけ離れた商品でない限りステューシー商品と出所を同じくすると考えるおそれがあると推認できること、さらに、被告のように衣類を主力商品とするような販売者がこれらの商品に付随して同ブランドのかばんを販売するのは一般的なことであること、ステューシー商品の広告や記事が掲載されるような雑誌においては、かばんも被服と一緒に掲載され、あるいはかばんの広告記事が掲載されることも多いこと、原告が販売するかばん類、袋物類は若者向けの商品であり、かつ原告は外国のブランド商品の輸入品を取り扱うような小売業者に原告活字体標章を付したかばんを卸していることなどを総合すると、原告が原告活字体標章及び同筆記体標章を付したかばん類、袋物類を販売するときは、それがステューシー社及び被告の商品と出所を同じくし、あるいはステューシー社及び被告と何らかの関係のある業者に出所を有する商品であると誤認混同するおそれがあることは明らかというべきである。

実際に被告は、原告のかばんの販売案内等を受けた被告の取引先から、同かばんについて被告が取り扱う商品かどうかの確認を受けたこと(前記三1(二))は、右認定を裏付けるものである。

3  原告が原告活字体標章及び同筆記体標章を入手・登録した経緯等について

(一) 山本幸仲(以下「山本」という)の供述

原告は、原告が原告活字体標章及び同筆記体標章を入手・登録した経緯等について前記第五、三のとおり主張し、山本もこれに沿う供述(証言及び甲五における陳述)をする。その内容は、概ね次のとおりである。

すなわち、平成二年ころ、原告の取締役である山本和宏の友人で米国に滞在している梶に対して、バッグに付けるロゴマークのデザインを依頼したところ、同人から原告筆記体標章、同活字体標章(ただしウムラウトが付いていないもの-以下「原告活字体標章(ウムラウトなし)」という)、「VISION」、「THRASHER」等の標章が送られてきたので、右各標章につきかばん・袋物等を指定商品として商標の登録出願を行うべく、肥田弁理士に調査を依頼したところ、同弁理士から、原告筆記体標章については、同標章の形態からどのように判読してよいか判然とせず、また、同標章からば特定の称呼・観念を生じることはないとの助言があったので、図形標章として出願することとしたこと、また原告活字体標章については、肥田弁理士の調査によれば、既にSTACY商標につきエース株式会社が出願を行っており、これと「STUSSY」が称呼上類似していると判断されるおそれがあるので「STUSSY」の「U」の文字上にウムラウトを加えることによって、「ステューシー」なる称呼であることを明確にすれば登録される可能性が高いと判断し、原告筆記体標章を同活字体標章に対する商標登録出願とは独立した商標として商標登録出願を行った、というものである。

(二) 山本の供述の検討

しかし、山本の供述には、次のように不自然、不合理な点が存する。

(1) まず、山本が、同人が供述するように、山本和宏の友人である梶から原告筆記体標章及び同活字体標章(ウムラウトなし)の送付を受け、それが米国で使用されているものであることを全く知らず、商標登録出願したものであるとすれば、本件訴訟前にも既に述べたとおりの経緯で交渉があり、かつ、本件訴訟のほかにも、原告活字体標章及び同筆記体標章につき被告から無効審判の請求をされているなど、原告及び被告間で深刻な紛争になっているのであるから、原告は梶に対してこれらの標章の入手の経緯等について詳細な調査をしていてしかるべきであるのに、そうした形跡が窺われない。また、山本の証言によれば、弟である原告の取締役である山本和宏が、その友人である梶の妻が昔デザイン関係の仕事をしていたことから、梶にかばんに付するロゴのデザインを依頼したというものであり、山本が直接梶に対して依頼したものではないが、この点を考慮しても、原告が原告筆記体標章及び同活字体標章を入手した経緯についての山本の証言はあいまいな部分が多い。

(2) また、山本の供述を前提にすると、原告は、原告筆記体標章と原告活字体標章の関連性については全く認識せず、原告筆記体標章は図形標章として商標登録出願をし、原告活字体標章(ウムラウトなし)は「ステューシー」なる称呼であることを明確にするために「U」の文字上にウムラウトを加えて商標登録出願したということになる。

なるほど、原告筆記体標章を単独で初めて見るとそれを「ステューシー」と読むことが困難であるとしても、子細に観察すれば原告筆記体標章がサインを基にした標章であり、二つの点がウムラウトであることは気付いてしかるべきであるし、原告活字体標章及び同筆記体標章の二つを同時に商標登録出願したのに、その関連性について全く認識がなかったというのは不自然である。まして肥田弁理士に原告活字体標章(ウムラウトなし)とともに同筆記体標章も見せて検討した上で、原告活字体標章(ウムラウトなし)にウムラウトを付したというのであるから(証人山本幸伸・一九、六五、六六頁)なおさらである。

(3) 山本は、意味はどうでもよくデザインとして見た時に字体の並びが良いかだけが関心事であった旨の証言をするが、かばん類も含めてファッション業界においては、どのような商標を使うかは重要な問題であり、自己が使用する商標を決定するに当たっては、当該商標の称呼、観念及び外観に照らし、当該商標のコンセプトが自己の商品と一致するかどうか、さらに当該商標に顧客吸引力があるか等を慎重に検討するのが通常であると考えられるところ、商標登録をすべき標章を検討する者の態度として山本の証言自体不自然である。

また、山本は、一方で、送られてきた「VISION」、「THRASHER」につき辞書で意味を調べたが分からなかったと証言するが、その証言もにわかに信用しがたい。

(4) 山本は、梶から原告活字体標章(ウムラウトなし)及び同筆記体標章とともに、「VISION」及び「THRASHER」の標章の送付を受けたと証言するが、これらはいずれも、平成三年当時、ボード(サーフボード、スケートボード等)に関する有名な標章であった(乙四二、四四)。なお、山本は、これらの商標と共に「VAN」というような文字標章も送付されてきたかのような証言もしているところ、「VANS」という標章もボード関係の靴などの商品に関連して有名な標章である(乙二二=八八頁)。

(三) そして、原告筆記体標章は被告筆記体標章1と極めて類似性が高く、かつ、ステューシー商品に実際に使用されている筆記体標章は被告筆記体標章1と若干の相違が見られるが、原告筆記体標章はむしろステューシー商品に実際に使用されている筆記体標章とほとんど相違点がみられないほど酷似していること、山本もこれらの原告筆記体標章及び同活字体標章(ウムラウトなし)が米国から入手したものであることは認めていることなどからすると、原告活字体標章及び同筆記体標章が米国で使用されていたステューシー標章に起源を有することは明らかであるところ、山本の供述には前記(二)のような不自然、不合理な点が存することからすれば、原告は、原告活字体標章及び同筆記体標章が、ステューシー社が使用するステューシー標章と同一または類似であることを認識しながら、これらの標章の商標登録出願をしたのではないかとの疑いも十分に考えられるところであるが、当時の米国でのステューシー標章の周知性やその程度を認定できる証拠はないことから、そのような断定はできない。

しかしながら、原告は、米国から入手した原告活字体標章(ウムラウトなし)と同筆記体標章を、原告活字体標章(ウムラウトなし)にウムラウトを加えて同筆記体標章と同じ読みにした上で同時に商標登録出願していること、原告及び被告間においては、前記のとおり右各標章をめぐって深刻な紛争となっているにもかかわらず、取締役である山本和宏が友人である梶に対して原告活字体標章及び同筆記体標章の入手の経緯について何ら問い合わせをしていないか、していてもそれを明らかにしないこと、原告は梶に依頼して複数(約一〇個)の標章を送付してもらい、そのうち二つを選んで商標登録までしているのに梶に対しては何らの報酬も支払っていないこと(証人山本・八八、八九頁)などを総合すると、原告が原告活字体標章及び同筆記体標章を入手した当時、それらが米国で使用されている標章であることなどについて全く知らなかった旨の山本の証言は信用することができず、原告は、少なくとも、原告活字体標章及び同筆記体標章が、米国で既に使用されている標章であることは認識しながら、これらの商標登録をなしたものと認定せざるを得ない。

なお、肥田特許事務所作成の一九九一(平成三)年九月五日付けの商標調査報告書(甲一九)は、山本の供述中の原告活字体標章(ウムラウトなし)、「VISION」、「THRASHER」についての肥田弁理士の調査内容に沿うものではあるが、同報告書には、原告筆記体標章については何ら記載がなされておらず、前記のような山本の供述の不自然な点を考慮すると、右調査報告書をもって同人の供述に信用性があると即断することもできない。

四  被告の権利濫用の主張(本訴)について

そこで、原告の本訴請求が権利の濫用である旨の被告の主張を検討するに、被告は、前記第四、二3のとおり、原告は、不正目的で原告活字体標章を出願、登録したのであるから、本件商標登録には商標法一条一項一九号の不登録事由が存し、本件商標登録は無効であると主張するところ、これまで認定した事実を総合しても、原告が、本件商標の登録出願をする際、ステューシー標章が米国で既に周知であり、これを原告が先駆けて登録し不正の利益を得ることを意図していたとか、ステューシー標章がわが国で周知であり、これが商標登録されていないことを奇貨として不正の利益を得ることを意図したとかの事実は認定することはできない。

しかしながら、原告は、前記三3のとおり、原告活字体標章及び同筆記体標章の商標登録出願をした際、少なくともこれらの標章が、米国で使用されている標章であることは認識していたと認められる。また原告は、原告活字体標章及び同筆記体標章の商標登録出願後、わずかに原告活字体標章を付したかばんを製造・販売したことはあったものの(証人山本幸伸・九一~九三頁)、最近に至るまで本格的にその標章を付したかばんの製造を行っておらず、原告活字体標章及び同筆記体標章には、原告の商品の出所表示機能は化体していないと認められる(原告が製造したかばんの小売価格相当あるいはこれを下回る金額を得て被告に本件商標権等の譲渡をしようとしたという前記二4の本件に至るまでの原告及び被告の交渉経緯等からもこのことは窺われる)。

一方、被告は、ステューシー社と独占的販売店契約を締結し、ステューシー商品を独占的に輸入してわが国で販売し、またショーン・ステューシーの名に係る商標権等を防御する権限をステューシー社から付与されて、様々な商品につき被告活字体標章1及び同筆記体標章1ないし3につき商標登録をしてきたところ、原告が、原告活字体標章及び同筆記体標章を商標登録出願した当時においては、ステューシー標章が周知性を獲得していたとは言い難いものの、ファッションに敏感な若者の間では人気が高まりつつあったものであり、その後、被告は、積極的に営業活動を展開し、また相当の広告宣伝費を投じて、現在においては、ステューシー標章は、ファッションに敏感な若者の需要者及び当業者の間においては周知性を有するに至っている。そして、ステューシー社は日本において広告宣伝活動を一切行っておらず、ステューシー標章が右のとおり周知性を獲得するに至ったについてはほとんどが被告の営業活動、広告宣伝活動の成果であると評価できる。

そして、現時点において、原告が、原告活字体標章及び同筆記体標章を使用するときは、原告の商品が、ステューシー商品と出所を同じくするとの誤認混同を生じるおそれがあることは明らかである。

これらの事情を総合すると、現時点において、原告が、本件商標権に基づく排他的保護に基づき原告活字体標章を使用することを認めることは、米国で使用されている標章であることを知りながらこれを入手・登録した上、自らはその標章に自己の信用を化体させる営業努力をしなかった原告が、ステューシー社と独占的販売契約を締結し、積極的に営業活動、広告宣伝活動を展開してステューシー標章を周知ならしめた被告の営業努力にフリーライドすることにほかならないというべきである。そして、ステューシー標章が既に周知性を有している以上、原告が、今後、被告の営業努力にフリーライドすることなく本件商標に自己の営業努力による信用を化体させる余地はほとんどないものといわざるを得ない。

このような原告が、本件訴訟において、被告に対し、本件商標権に基づいて被告活字体標章2の差止請求等をすることは、権利の濫用というべきである。

したがって、その余の点を検討するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

なお、原告が、原告活字体標章の商標登録を出願するに先立ち、被告において、被告活字体標章1につき旧商品区分第二一類、指定商品を「装身具、ボタン類、かばん類、袋物類」等として商標登録出願したところ、STACY商標に類似するとして拒絶されたにもかかわらず、その後原告活字体標章が商標登録されたものであり、また原告が、原告筆記体標章につき商品の区分を第二一類、指定商品を「かばん、その他本類に属する商品」として商標登録出願するに先立ち、被告は既に被告筆記体標章1につき、旧商品区分二}類、指定商品を「装身具、その他本類に属する簡品」(これにはかばんも含まれる)として、商標登録を得ていたにもかかわらず、原告筆記体標章が登録されたものであること、その後、特許庁は、原告活字体標章は登録済みのSTACY標章に類似し指定商品も同一であるとして無効とすべきであり、原告筆記体標章も登録済みであった被告筆記体標章1に類似し指定商品も同一または類似であるとして無効とすべきであるとの審決をそれぞれなしていること(ただし、同各審決はいずれも確定していない)は既に述べたとおりであるが、前記のとおりの事情により、原告の本訴請求が権利の濫用であると判断できるから、原告活字体標章及び同筆記体標章が無効であるか否かについては判断しないこととする。

五  反訴請求について

1  ステューシー標章の周知性について

現時点において、ステューシー標章(被告活字体標章及び同筆記体標章1)が、ファッションに敏感な若者及び若者のファッションを取り扱う当業者の間で、ステューシー社及び被告の出所を示す商品表示として周知性を有することは前記三1で述べたとおりである。

2  原告活字体標章及び同筆記体標章とステューシー標章の類似性及び誤認混同のおそれについて

原告活字体標章と被告活字体標章1ないし3が類似性または同一性を有すること及び原告筆記体標章と被告筆記体標章1が類似性を有することは前記三2(一)のとおりであり、原告が、原告活字体標章及び同筆記体標章を付したかばん類、袋物類を製造・販売するときは、それがステューシー社及び被告の商品と出所を同じくするものと、あるいはステューシー社及び被告と何らかの関係を有する業者に出所を有する商品であると誤認混同されるおそれがあると認められることは前記三2(二)のとおりである。

3  被告のステューシー標章の使用が意匠的であることについて

原告は、ステューシー標章はいずれも意匠的に使用されており、当該使用形態から見て商品の自他識別機能を有していないので不正競争防止法上の商品表示として使用されているとはいえないとして、ポパイ第一事件判決(大阪地判昭和五一年二月二四日・無体集八巻一号一〇二頁)を引用する。

そして、既に検討した証拠によれば、被告は、原告が指摘するように、Tシャツ等の胸や背中に被告活字体標章2や同筆記体標章1をプリントするなどして使用している例が多いといえる。

しかしながら、商品の出所表示機能を有する標章と意匠は排他的、択一的関係にあると解さなければならない理由はなく、意匠となり得る文字等であっても、それが自他識別機能を有する標章として使用されている限り、不正競争防止法上の商品表示として使用されているものというべきところ、既に検討したステューシー標章の使用態様からすれば、ステューシー社及び被告が、ステューシー標章を自他識別機能を有する標章として使用していることは明らかであり、また、実際に、自他識別機能を有する標章として周知性を有すると認められる。また、原告も、その製造・販売するかばん類、袋物類に、原告活字体標章を付し、それに付したタッグ表面に「STUSSY」と記載するとともに、同裏面に「STUSSYは、株式会社三幸の登録商標です」との記載を行っていることに照らせば、原告活字体標章を、自己を表示する商品表示として使用しているといえる。

なお、ポパイ第一事件判決は、同事件被告の問題とされた標章の使用態様が、もっぱらその表現の装飾的あるいは意匠的効果である「面白い感じ」、「楽しい感じ」、「可愛い感じ」などにひかれてその商品(アンダーシャツ)の購買意欲を喚起させることを目的として表示されているものであり、一般顧客は右の効果ゆえに買い求めるものと認められ、右の表示をその表示が附された商品の製造源あるいは出所を知りあるいは確認する「めじるし」と判断するとは解せられないとしたものであって、その標章の内容、使用態様等において、本件とは事案を異にするというべきである。

よって、原告の前記主張は採用できない。

4  被告は「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に当たるか

原告は、被告のごとき総輸入代理店は、商品化事業のライセンサーやライセンシーと異なり、他人の周知商品表示を付した商品を流通においているにすぎず、当該商品表示について新たな出所表示機能を付加するものではないから、被告は、不正競争防止法三条一項の「営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者」に当たらないと主張する。

しかしながら、被告は、昭和五八年からステューシー社と取引を開始し、昭和六二年にステューシー社と日本における独占的販売契約を締結して、ステューシー社の日本における総輸入元となり、また、平成二年には、ステューシーなる名前に関する商標権等のすべてを防御するなどに必要な権限を付与されたこと、その後、被告は様々な商品を指定商品としてステューシー標章に関して商標登録をするとともに、積極的に営業活動、広告宣伝活動を展開してきたこと、その結果、ステューシー標章は、ステューシー社及び被告の商品表示として、ファッションに敏感な若者及び当業者の間で、周知性を獲得していることは、これまでに述べたとおりである。

このように被告は、ステューシー社からわが国におけるステューシー商品の独占的販売を委ねられ、かつ、商標権等の保護についての権限を付与されて、ステューシー社に対してはその債務を負担し、これに基づき、実際に、独占的にステューシー商品の販売をし、またステューシー標章についての商標登録を受けるなどしてきた結果、ステューシー標章の周知性を獲得したものであるから、被告は、不正競争防止法三条一項の「営業上の利益」の帰属主体として、同条項の保護を受ける固有の利益を有すると認めるのが相当である(なお、被告が不正競争防止法三条一項の「営業上の利益」の帰属主体であるとするために、需要者及び当業者が、被告の名前を「株式会社ジャック」であるとまで認識する必要があるものではない)。

したがって、被告が不正競争防止法三条一項の「営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者」に当たらないとの原告の主張は採用できない。

5  商標権の行使と権利濫用

原告が、原告活字体標章及び同筆記体標章につき、商標登録を有することは前記第二、二1のとおりであるが、原告のこれらの標章に係る各商標権の行使は、前記四で述べた事情を総合すると、権利の濫用であって許されないというべきである。

6  差止の必要性

原告が原告活字体標章を付したかばん類、袋物類を製造・販売していること(前記第二、二3(一))、原告は原告活字体標章及び同筆記体標章につき同時に商標登録をしたものであること(前記第二、二1)、本件訴訟に至るまでの原告と被告の交渉の経緯等(前記二4)並びに本件訴訟における原告の本訴における請求及び反訴における応訴態度や原告活字体標章及び同筆記体標章に係る無効審判請求事件における原告の対応等を総合すると、原告が、今後、本件差止対象標章をかばん、その容器、包装もしくは広告に使用し、同標章を付したかばんを販売しもしくは販売のために展示するおそれがあると認められる。したがって、これらの行為の禁止及び本件差止対象標章を付したかばん、その容器、包装紙、パンフレットの廃棄の必要性が認められる。

7  よって、被告の反訴請求はいずれも理由がある。

六  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないので棄却し、被告の反訴請求はいずれも理由があるので認容することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日・平成一〇年四月三〇日)

(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 松本利幸 裁判官 中尾彰)

目録一

〈省略〉

目録二

〈省略〉

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