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京都地方裁判所 平成5年(ワ)457号 判決

京都市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

近藤忠孝

玉木昌美

近藤公人

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

日興證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

田中英行

板東秀明

宮﨑乾朗

京兼幸子

大石和夫

玉井健一郎

辰田昌弘

関聖

森分実

塩田慶

同(ただし、A事件のみ)

金斗福

主文

一  被告は、原告に対し、金七八三二万二一七四円及びこれに対する平成三年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

〔略称 以下の記述においては、下段の事項について、上段の略称を用いる。〕

B B(被告京都支店 証券貯蓄課長)

C C(被告京都支店 営業課員)

D D(被告京都支店 営業部長)

E E(被告京都支店 次長兼営業課長)

F F(原告の母)

a社 有限会社a

G G(原告の親戚)

H H(有限会社H土地代表取締役)

I I(Hの義弟)

b 京都市下京区

c 京都市左京区

d 京都市上京区

本件取引 別紙一の全取引

本件現物取引 別紙二(1)の現物株式取引(金貯蓄、投資信託、転換社債を含む。)

本件ワラント取引 別紙二(2)の新株引受権証券(ワラント)取引

本件店頭取引 別紙二(3)の店頭株式取引

本件オプション取引 別紙二(4)の株価指数オプション取引

本件信用取引 別紙二(5)の信用取引

クイック 株価等の値動きを表示する情報端末機

第一口座 原告本人名義・口座番号〈省略〉

第二口座 F名義・口座番号〈省略〉

第三口座 原告本人名義・口座番号〈省略〉

第四口座 F名義・口座番号〈省略〉

(なお、書証については、甲号証は、全てA事件で提出されたものを使用し、単に「甲」と表示し、乙号証については、A事件の乙号証を「A乙」、B・C事件の乙号証を「B乙」と表示し、人証については、「供述者-複数回にわたるものは口頭弁論期日の回数-調書の丁数又は頁数」により、「C⑧二五丁」「原告〈27〉三八~四一頁」のように表示する。)

第一請求

被告は、原告に対し、金四億七七八七万九〇二五円及びこれに対する平成三年四月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一 事案の要旨

原告は、被告の複数の外務員を介して、平成元年一二月六日から平成三年五月二四日までの間に、被告において、現物取引、ワラント取引、店頭取引、オプション取引、信用取引を行い、総額四億三四四三万五四七七円の損失を被ったところ、本件は、右損失を被告の外務員らによる適合性原則違反、説明義務違反、違法な一任勘定、過当取引等の種々の違法勧誘、違法取引の結果生じたものであるとする原告が被告に対し、不法行為に基づいて、右損失相当額四億三四四三万五四七七円と弁護士費用四三四四万三五四八円の賠償とこれらに対する最終の入金日以後である平成三年四月一六日から右支払済みまでの民法所定の遅延損害金の支払を求めるものである。

二 基礎的事実

以下の各事実は、当事者間に争いがない事実、当裁判所に顕著な事実、明らかに争わないから自白したものと見なした事実及び文中掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認めた事実であって、争点判断の基礎となるものである。

1 当事者

(一) 原告

原告は、昭和三二年生まれで、昭和五一年に高等学校を卒業し、父Jの経営するbの喫茶店(住居も同じ)の手伝いをした後、しばらく親戚の経営する会社に勤務していたが、昭和六二年ころから右喫茶店を経営していた有限会社e商事の代表取締役に就任し、平成二年二月六日に同社の商号を有限会社a社に変更し、マンション管理業を営んでいた。また、原告は、平成二年春、fカンパニーというレコード会社を設立している。

(二) 被告

被告は、有価証券の売買及び有価証券の売買等の取次・代理等を業とする株式会社であり、京都支店は、京都市〈以下省略〉にある。

被告京都支店で原告の担当をしたのは、B、C、Dの三名である。

Bは、昭和三三年四月に被告に入社し、平成元年三月から平成三年八月まで京都支店の証券貯蓄課長の地位にあった。証券貯蓄課は、被告ビルの四階にある。

Cは、昭和六一年四月に被告に入社し、最初の勤務地が京都支店であり、平成三年八月まで営業課に勤務していた。営業課は、被告ビルの二階にある。

Dは、昭和三七年四月に被告に入社し、平成二年五月から平成四年二月まで京都支店の営業部長の地位にあった。なお、被告京都支店に営業部ができたのは、Dの着任後であり、それまでは営業課であった(A乙一三五)。

なお、Cの上司Eは、被告京都支店次長兼営業課長であった。

2 取引状況

(一) 全売買状況と損益

原告の被告における全ての売買取引は、別紙一「X関係口座売買状況表」記載のとおりであり、最終的には、四億三四四三万五四七七円の損失が出ている(同表の数量欄の見方は、左記のとおりであり、以下の記述においては、同表の番号に従って「買12」「売25」等と表示する。なお、同表の「現実の注文日」は被告の主張する日である。)。

数量欄の(B) 第一口座での取引

数量欄の(F) 第二口座での取引

数量欄(無印) 第三口座での取引

(二) 種別取引状況と損益

別紙一の取引には、現物取引(金貯蓄、投資信託、転換社債を含む。)、ワラント取引、店頭取引、オプション取引、信用取引の五種類の取引が含まれているが、これらの取引を各種別ごとに整理すると、別紙二(1)ないし(5)のとおりとなり、各種別ごとの取引状況及びその損益は以下のとおりである。

(1) 現物取引(金投資、投資信託、転換社債を含む。)

原告の現物取引状況は、別紙二(1)のとおりであり、買付の取引期間は、平成元年一二月六日から平成三年三月五日までであり、最終的に同取引により、一億五五六四万九二〇五円の損失が生じている。

(2) ワラント取引

原告のワラント取引状況は、別紙二(2)のとおりであり、買付の取引期間は、平成元年一二月八日から平成二年三月五日までであり、最終的に同取引により、六三五万三五七二円の損失が生じている。

(3) 店頭株式取引

原告の店頭取引状況は、別紙二(3)のとおりであり、買付の取引期間は、平成元年一二月一五日から平成二年五月二二日までであり、最終的に同取引により、六二七三万八二四二円の損失が生じている。

(4) オプション取引

原告のオプション取引状況は、別紙二(4)のとおりであり、買付の取引期間は、平成二年二月二一日から平成三年二月一八日までであり、最終的に同取引により、一七九一万四七八一円の損失が生じている。

(5) 信用取引

本件信用取引状況は、別紙二(5)のとおりであり、全て買建玉から入っており、買付の取引期間は、平成二年二月二八日から平成三年二月一二日までであり、一部受株されたほかは、平成三年二月一八日までに全て売手仕舞されており、最終的に同取引により、一億九一七七万九六七七円の損失が生じている。

(三) 各取引の担当者

原告の取引については、B、C、Dの三名が担当しているが、本件取引の担当者は以下のとおりである。

担当

買付

売付

1~19,22,23,53,54,60,85

1~3,6,7,10,14,17,18,23~25,53,54,60

20,21,26~51,55~59,61~65,67,69~73,75~77,79~81,83,86,87,90~94,98,99,101~106,122~125,131~139,141~150,154~157,159~168,170~187,192~210,215~242,244~254,258,260~263,267~275,277,279~281,290~300,303,310,311

4,5,9,11,15,16,19,21,22,26~32,49~52,55~59,61~90,92~97,101~132,134~171,174~177,182~197,203~228,230~234,236~244,248~260,267~275,279~295,298~303,310,311

264~266,278,304~309,312,313

20,33~40,98~100,172,264,265,276,278,304~309,312,313

3 取引口座

本件取引に関し、以下の四口座が開設されている。

(一) 第一口座(B担当)(A乙一)

登録日 平成元年一二月六日

名義 原告本人

口座番号 〈省略〉

登録住所 c(以後変更なし)

(二) 第二口座(C担当)(A乙三)

登録日 平成元年一二月二五日

名義 F

口座番号 〈省略〉

登録住所 d(以後変更なし)

(三) 第三口座(C担当)(A乙二)

登録日 平成元年一二月二六日

名義 原告本人

口座番号 〈省略〉

登録住所 d(平成二年三月一五日にcに変更し、平成三年三月一一日にdに再度変更-A乙一八の1・2)

(四) 第四口座(B担当)(B乙六〇)

登録日 平成二年五月九日

名義 F

口座番号 〈省略〉

登録住所 c(以後変更なし)

4 入出金状況

本件取引に関して、前記口座上、別紙三(1)ないし(4)の「X関係口座入出金状況表」記載の入出金が記録されている(対応する元帳及び出金伝票は、対応書証欄に記載のとおり)。ただし、原告は、後記のとおり入出金の一部を争っている。

5 各取引の商品特性と投資家保護規定等

(一) ワラントの商品性と投資家保護

(1) ワラントの商品性

ワラントとは、新株引受権付社債のうちの新株引受権、すなわち「一定の期間(権利行使期間)内にあらかじめ決められた金額(権利行使価格)を払い込むことによって新株を取得できる権利」である。

右のようにワラントは期限付きの有価証券であり、権利行使期間が終了するとその価値がなくなるから、ワラントを購入した場合は、所定の権利行使期間内に、①ワラントをそのまま売却するか、②新株引受権を行使してその発行会社の株式を引き受けるかの選択が必要となるが、ワラントの価格は、権利行使価格と株価との差額部分である理論価格(パリティ)にプレミアムが加算されたものであり、右プレミアムはその時々の株式市場に対する上昇期待度やワラントの人気度、需給関係などに応じて変動するから、価格変動が不透明であり、ワラントとしての売却時期や権利行使時期等の投資判断の難しい商品とされている。

また、その価格が株価の上下に対し何倍もの変動をするといわれており(ギアリング効果)、少額の投資で大幅な利益を得ることができる場合もあれば、逆に投資金額の全てを失うこともあるし、ワラント購入後、発行会社の株価が予想どおりに上昇せず、権利行使価格を上回らないときは、新株引受権を行使して利益を得る機会を失うことになり、ハイリスク・ハイリターン性の強い商品といわれている(甲七七)。

(2) 投資家保護規制

大蔵省の指導の下、平成元年四月一九日付の日本証券業協会理事会決議により、証券会社が外貨建てワラントの投資勧誘にあたって遵守すべき事項が定められた。その内容は以下のとおりである。

(a) 投資勧誘(適合性原則の遵守)

協会員は、外国新株引受権証券の取引を行う顧客の投資経験、投資目的、資力等を慎重に勘案し、顧客の意向と実情に適合した投資勧誘を行うよう、努めなければならない。

(b) 顧客カードの整備

協会員は、外国新株引受権証券の取引を行う顧客について、「顧客カード」を備え付けるものとする。

(c) 取引開始基準

協会員は、外国新株引受権証券の取引開始基準を定め、当該基準に適合した顧客との間で外国新株引受権証券の取引を行うものとする。

(d) 説明書の交付・確認書の徴求

あらかじめ当該顧客に対し、説明書を交付し、当該取引の概要及び当該取引に伴う危険に関する事項について十分説明するとともに、取引開始にあたっては、顧客の判断と責任において当該取引を行う旨の確認を得るため、当該顧客から「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」を徴求するものとする。

(3) 公正慣習規則の改正

その後、日本証券業協会は、平成二年三月一日付で会員通知を発し、「新株引受権証券取引説明書」を国内、外貨建ての双方について作成し、協会員に実費で頒布することになった。

さらに、同年三月一六日付け(同年四月一日実施)の協会員に対する通知により、協会の自主規制規則である「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」(公正慣習規則第九号)中に、前記理事会決議により定められたワラントに関する投資勧誘規制が国内ワラントも含めて一部改正として盛り込まれることになった。

(4) 被告のワラントの取引開始基準

被告は、ワラントの取引開始基準として、以下の条件を指定している。

(a) 有価証券投資について相当の知識と経験があること

(b) 女性(いわゆる中堅企業で、代表者が女性の場合を含む)及び高齢者(七〇才以上)については、勧誘を行ってはならない。

(c) 被選挙権を有すること。(二五才以上)

(d) 預り資産が五〇〇万円以上であること。ただし五〇〇万円に満たない場合は、顧客カード等により、金融資産の合計が一〇〇〇万円以上であること

(e) 電力・ガス等公共性の高い法人・団体、その他学校法人・宗教法人等の公益法人に対しては、ワラント取引を原則としては認めない。

(二) 店頭取引の意義と投資家保護

(1) 意義

店頭証券とは、事業者が一般投資家から資金を調達するために、証券取引所に上場する方法ではなく、日本証券業協会が管理している店頭市場に登録する方法により発行された証券であり、右証券の取引を証券会社の店頭で行うことを「店頭取引」という。

(2) 日本証券業協会公正慣習規則第一号

日本証券業協会では投資家保護のため公正慣習規則(第一号)として「店頭における有価証券の売買その他の取引に関する規則」を制定している。同規則では、特に証券会社は「顧客の投資経験・投資目的・資力等を慎重に勘案し、顧客の意向と実情に適合した投資勧誘を行うよう努めなければならない。」、そのために「店頭取引開始基準」を定めなければならないこととされている。その基準は「証券投資について相当の知識と経験があること」、「資産の状況などから判断して、店頭売買取引を行うことが適当であること」の二つである。加えて、証券会社は「顧客に対し、店頭取引の仕組み等について十分説明する。」ことが必要とされ、その説明後には「顧客の判断と責任において店頭取引を行う。」旨の確認書を徴求することも必要とされている。

(3) 被告における「店頭取引」についての「取引開始基準」

被告における「店頭取引」についての「取引開始基準」は、公正慣習規則と同文の、「証券投資について相当の知識と経験があること」と「預かり資産が二〇〇万円以上あること」である。

(三) オプションの商品性と投資家保護

(1) オプションの商品性

オプション取引とは、「株価指数オプション(権利取得者の意思表示により当事者間において、当該意思表示を行う場合の株価指数としてあらかじめ設定した数値(権利行使価格)と現に当該意思表示を行った時期における現実の当該株価指数の数値(現実指数)との差に基づいて算出される金銭を授受することとなる取引を成立させることができる権利)を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引」である。

オプションには、株価指数オプションを買い付ける権利であるコールオプションと、それを売り付ける権利であるプットオプションがあり、コールオプションの場合は、権利行使期間満了日(毎月第二金曜日の前日)の日経平均株価(最終値)が権利行使価格を上回ると権利を行使してその差額が利益となり、逆に下回っている場合は権利放棄し、投資価格の全額を失うことになる(甲七七、C⑧一丁裏~三丁裏)。

(2) 投資家保護規制

平成四年改正後の証券取引法五四条一項一号は「有価証券の買付け若しくは売付け又はその委託について、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けるおそれがある場合」には大蔵大臣が是正監督命令を出せるとし、適合性原則を明文化した。この証券取引法五四条一項二号が定める「公益又は投資者保護のため業務の状況につき是正を加えることが必要な場合」につき、省令で新たに「有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引又は外国市場証券先物取引の委託について、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがある場合」が規定された。

(3) 被告における取引開始基準

顧客保護のために、証券会社には「オプション」についての取引開始基準を定めることが義務付けられているが、被告におけるオプション取引の取引開始基準は以下の通りである。

(a) 有価証券投資について相当の知識と経験があること

(b) 国内居住者であること

(c) 遠隔地客でないこと

(d) 他部店において当該取引口座が開設されていないこと

(e) 自宅又は連絡先に電話があり、常時連絡がとれること

(f) 意思の疎通が十分に図れる顧客であること

(g) 女性(いわゆる中堅企業で、代表者が女性の場合を含む)及び高齢者(七〇才以上)については、勧誘を行ってはならない。

(h) 被選挙権を有すること(二五才以上)

(i) 取引報告書等が直接手渡しでないこと

(j) 担保適格預り資産の時価総額が五〇〇〇万円以上あること。ただし、株式オプション買専用口座は二〇〇〇万円以上

(k) 部店長が直接面談したこと

(l) 電力・ガス等公共性の高い法人・団体、その他学校法人・宗教法人等の公益法人に対しては、先物・オプション取引を原則として認めない。

(四) 信用取引の意義と投資家保護

(1) 意義

信用取引とは顧客が証券会社から、金銭又は有価証券の貸付又は立替を受けて行う取引であり顧客と証券会社との間に貸借関係が生ずるものである。

信用取引も、証券会社が取引所で行う取引としては現物取引であるが、信用取引は、証券会社と顧客との間の取引についての概念で、証券会社が顧客に対して信用を供与することを指して、信用取引と呼んでいる。

取引所で行われる取引としては現物取引の形態を取りながら、証券会社の信用の供与によって、顧客と証券会社との間では先物取引のように保証金取引と差金決済を可能にしたところにその特色がある。

(2) 信用取引の仕組み

(a) 委託保証金

顧客は、信用取引による売付又は買付が成立したときは、売買成立の日から起算して三日目の日の正午までに、約定価格の三〇パーセント以上の委託保証金を預託しなければならない。信用取引開始後の相場の変動によって、信用取引で建てた株に評価損が発生した場合、その損失額と信用取引に関する証券会社の立替金(委託手数料、金利、品貸料等)を、顧客が預託した委託保証金から差し引いた金額が、顧客が取引した約定金額の二〇パーセント(維持率)を下回ることになった場合等には、顧客は、その約定金額の二〇パーセントに達するまでの金額を、追加委託保証金として差し入れなければならない。

追加委託保証金の差し入れ時期は、損失が生じた日から起算して三日目の日の正午までである。所定の期日までに差し入れがなかった場合には、証券会社は、顧客の計算で任意に反対売買を行って強制的に決済させることができる。

(b) 信用取引の決済方法

① 証券会社の立替決済

証券会社は、信用取引による売付又は買付が成立した日から四日目の受渡日に、顧客の代わりに買付代金又は売付株券を立て替えて取引所での受渡を決済する。

② 決済の繰り延べ

信用取引の売付株券又は買付代金の貸付の返済期限は、証券会社が顧客に、売付株券又は買付代金を貸し付けた日(約定日から四日目の受渡日)の翌日であるが、顧客が証券会社に対し、返済の日の三日前までに、返済を申し出ない限り、返済期限が自動的に翌日に繰り延べされることが繰り返される。なお、返済期限は、売買成立の日から三か月目あるいは六か月目(売買注文時の返済期日の選択による)から起算して、四日目の日を超えて繰り延べることはできない。

③ 差金決済と受渡決済

顧客は、信用取引開始後三か月又は六か月の間に、売建株については買戻しにより、買建株については転売により弁済し、差金の受払いを受けるという差金決済ができる。

また、顧客は、売建の場合には売り付けた株券を提供してその代金を受け取る品渡(現渡)という方法と、買建の場合には買付代金を提供して株券を受け取る品受(現引)という方法で、受渡決済することも可能である。

(c) 信用取引に要する費用

委託手数料(消費税相当額を含む)、有価証券譲渡益課税及び有価証券取引税以外に、金利、品貸料、管理費がかかる。

(3) 顧客保護のための規制

公正慣習規則九号は、証券会社に対し、顧客からの預り資産の規模、投資経験その他必要と認める事項による信用取引開始基準を定めることを義務づけ、顧客が同基準を満たしていなければ、証券会社は申込みを承諾できない。

また、顧客が初めて信用取引を行う場合には、証券会社は顧客に対して、日本証券業協会及び取引所が作成する説明書を交付し、その内容について十分説明し、証券会社との間で信用取引口座を設定しなければならない。顧客が信用取引口座を設定するためには、取引所所定の様式による信用取引口座設定約諾書に所定事項を顧客本人が記載し、署名又は記名捺印の上これを証券会社に差し入れる必要がある(受託契約準則五)。

なお、顧客は、信用取引の売買注文委託の際に、信用取引をすることを明示し、返済期限を指示しなければならず、注文と同時に信用取引であることを明示しなかった取引については、反対売買による差金決済は行うことができない(受託契約準則六)。

(4) 被告における信用取引開始基準

(a) 有価証券投資について相当の知識と経験があること

(b) 国内居住者であること

(c) 遠隔地客でないこと

(d) 他部店において当該取引口座が開設されていないこと

(e) 自宅又は連絡先に電話があり、常時連絡がとれること

(f) 意思の疎通が十分に図れる顧客であること

(g) 女性(いわゆる中堅企業で、代表者が女性の場合を含む)及び高齢者(七〇才以上)については、勧誘を行ってはならない。

(h) 被選挙権を有すること(二五才以上)

(i) 取引報告書等が直接手渡しでないこと

(j) 差入保証金の時価総額が二〇〇〇万円以上あること

(k) 部店長が直接面談した者

三 原告の主張

本件において、被告は、証券取引についての初心者である原告に対して、取引開始直後から、後述のような「過大取引」に原告を引きずり込んだのであるが、その中には、危険性が高く、初心者には適合性がないことが明らかな「ワラント取引」「店頭取引」「オプション取引」「信用取引」が多数行われている。これらの取引は、「適合性の原則」に違反し、「不公正取引」に該当することにより、違法であり、不法行為を構成する。以下、各取引ごとの違法性と過当取引及び一任勘定取引の違法性並びに本件取引全体としての違法性を明らかにする。

1 本件ワラント取引の違法性

(一) ワラント取引の危険性

ワラント取引は、「権利行使期限」を経過するとワラントが無価値になるという危険、期限内であっても株価が権利行使価格を上回らないことが確実になると投資額の全部が損失となる危険をもっており、権利行使期間中に、株価が権利行使価格とワラント購入コストの合計額を上回るか否かに全てを賭けるギャンブル性の強い取引であり、ワラント価格は、株価以上に大きく変動するものであり、その時価の値動きは極めて激しくかつ複雑に変動するため、その売却のタイミングを判断することは、一般投資家には困難とされている。

(二) 本件ワラント取引における「適合性原則」「取引開始基準」違反

「ワラント」における右原則及び基準は「有価証券についての相当の知識と経験」を求めているが、それはワラントの複雑な取引の仕組みや危険性、問題点を十分理解した上で、的確に情報を入手して複雑な値動きの分析・予測を自らなし得るだけの知識と経験、能力を有していることであり、「プロの投資者」に匹敵する豊富な知識と情報と十分な認識を有することを意味している。

ところが、B扱いでは、取引開始の翌々日の平成元年一二月八日に、C扱いの場合も、同月二八日という取引開始直後からワラント取引が行われている。この時期の原告は、通常の株取引についての基本的知識と経験すらない、赤子同然の素人であったのである。仕組みについての知識・理解だけでなく、的確な情報の入手力が必要とされ、危険性の高いワラント取引は、「一般投資家は適合性がない」とされている状態であるのに、「一般投資家」以下の原告を本件ワラント取引に引きずり込んだというのは、あまりにも乱暴である。

原告が、ワラント取引に適合しない顧客であることは、論ずる余地なく明白なことであり、適合性原則及び取引開始基準違反であることは明らかである。

(三) 説明義務違反

B及びCは、原告に対し、ワラントの内容や危険性について説明をしていない。仮に、銘柄の告知があったとしても、それは銘柄を告知しただけであり、取引開始直後という、原告が有価証券取引についての知識・経験が全くない状態で、絶対に取引対象としてはならないワラントを原告名義で始めたのであるから、説明を省略したとみるのが自然である。

ワラントの仕組み自体難解であり、簡単な説明で理解できるものではない。相当の証券取引の経験を有する者についても、自己責任を負えるだけの仕組みの説明と、判断資料の提供が必要とされているのであるから、基本的な証券取引の知識・経験のないこの当時の原告は、ワラントについてどのような説明を受けても、これを理解することが不可能であった。

本件において、仮に何らかの説明があったとしても、必要とされる右の説明とは程遠かったことは明らかである。

被告は、原告が外国証券取引口座設定約諾書(B乙七五、七八)、ワラント取引確認書(B乙七六、七七、八〇)に署名押印したと主張するが、いずれも偽造されたものである。

2 本件店頭取引の違法性

(一) 「店頭取引」の危険性と投資者の保護規定

上場証券は、取引所所定の上場基準を満たすことが必要であり、大規模な事業会社の証券であり、流通量も大量であるのに対し、店頭証券は、中堅・中小企業の証券が対象であって、流通量も上場証券に比較して少量である。

したがって店頭証券は、市場性が薄く、価格が大きく変動することがあるので、「店頭取引」は、一般投資家の投資対象としては危険性が高く、そのため日本証券業協会も投資者保護規則(公正慣習規則第一号)を設け、被告も「取引開始基準」を設けているのである。

(二) 適合性原則及び取引開始基準違反

店頭取引に適合性があるかどうかは、右規則及び基準の全てを充足することを要するから、本件においては、原告が「店頭取引」をするに適合するだけの、知識と経験があったかどうかが問われなければならない。

(1) B担当での取引

Bは、平成元年一二月一五日、原告に店頭株式であるフェニックス電機株を三二七万二〇〇〇円で買わせて(買10)、同月二五日に三六八万〇八九三円で売らせている(売10)が、取引開始後一〇日目の証券取引の右も左も分からない原告に取引させたもので、損失は出ていないが適合性の原則に違反することは明らかである。

(2) C担当での取引

右(1)以外の別紙二(3)の店頭取引は全てCが担当したものであるが、平成元年一二月二六日(約定日は二七日)の日本コンピュータシステム(合計約二八六七万円)に始まり、平成二年五月一一日までに合計で一億七二七八万〇五二四円もの取引がされている。

平成元年一二月二六日は、Cが担当として取引を始めたその日であり、Bが担当としての取引を始めてからわずか二〇日である。取引を始めて二〇日程度の経験では、「有価証券投資について相当の知識と経験がある。」といえないことは明らかで、担当した初めての取引で危険性の強い店頭取引をさせるという乱暴な勧誘であり、「適合性原則」「取引開始基準」違反として、この違法性は極めて大きいものである。

右のうち平成二年三月五日の一億〇七二四万八九〇三円の日本コンピュータシステム株の取引(買35~40)は、原告の指示によるものであるが、この段階においても、原告の「有価証券投資についての知識と経験」は、まだ乏しいものであった。原告はこの時、「店頭取引」をする「適合性」を備えていなかった。しかも原告は、二億二七二四万円余の大金を持ち込んで、これを全額注ぎ込んで、日本コンピュータシステムの買付を指示したのである。当然、被告はこの銘柄が「店頭株」であることについて原告の注意を喚起し、その危険性を説明して、もう少し安全な取引にするように、助言すべきであった。しかし、Cはこのようなことはせず、たまたま全額分の日本コンピュータシステム株がなかったので、一億円余の買いに留まったが、その残余の金で、同じく「店頭株」である日本シャクリー(買103~105)を無断(後日連絡があり、原告が追認)で買ってしまった。この時期の原告には、両銘柄を含めてこれだけ大量の「店頭取引」をする「適合性」に欠けていたことは明らかであり、「適合性原則」「取引開始基準」違反であり、違法性は重大である。

(三) 説明義務違反

本件において、原告は、「店頭取引」についての危険性についての説明をBからもCからも全く受けていないばかりか、「店頭取引」であることの説明すら受けておらず、しかも証券取引を開始した直後の、証券取引について何も知らない状況のもとで、極めて多額の前記店頭株式の取引が行われたものである。なお、Cは、店頭取引の危険性について知らなかったのであるから、その危険性を原告に説明しようがなかった。

被告は、原告が店頭取引確認書(A乙五〇、B乙七三、七四)に署名押印していると主張するが、いずれも偽造されたものである。

(四) ルール違反

店頭取引の注文は、全て指値で行われることがルールになっているが、前記取引は指値で行われたものではない。被告が徴求した確認書記載事項にも反するルール違反であり、違法である。

3 本件オプション取引の違法性

(一) 「オプション取引」の危険性

(1) 投資判断の困難性

オプション取引は、その用語の意味さえ通常の知識では理解できないものばかりであり、対象となる商品が株価指数という極めて抽象的で、値動き分析に高度の専門性と情報力を要するものである上、取引の仕組みも複雑であるため、個人投資家にとっては投資判断が難しく、自己の真の意思に基づく投資行動を困難にしている。

(2) 期限(限月)の存在

オプション取引には権利行使日(権利行使期間)があり、この時までに反対売買するか、この権利行使日に権利行使するか放棄するかを決断しなければならない。この限られた期間内において、個別銘柄の値動きを予想するのは難しく、更に抽象的な株価指数の上下など個人投資家が予想できるはずがないものである。

(3) ハイリスク性

わずかな委託証拠金やオプション料で現物取引以上の利益を出す可能性があるが、そのことは逆に、現物取引とは比べものにならない損失を被る恐れがあるということである。特に委託証拠金を提供した後、その後の相場の変動で計算上の損失が一定額以上に達したときには、追加委託保証金(以下「追証」という。)が必要になり、最初に投資した金額以上の損失を被ることがある。

(二) 説明義務

(1) 説明義務の根拠

投資に際して十分な知識を有しないままオプション取引のように投機性の高い特殊な取引をした場合、思わぬ大損害を被ることになるから、オプション取引をするについては、十分な知識と専門的判断能力を身につけていることが必要である。したがって、証券会社の営業社員が勧誘しようとする顧客に、このような知識と専門的判断能力のない場合は、その知識と能力を身に付けさせるだけの説明をする義務がある。

証券取引法上、契約締結前の説明書交付義務が明記されており、他の取引の場合以上に高度の説明義務がある。

(2) 説明義務の範囲

(イ) オプション取引の内容・仕組み

説明義務の範囲として参考になるのが、日本証券業協会が作成した取引説明書である。

(a) 観念的総合的指数を対象とすること

(b) 限月

(c) 売買取引期間

(d) 行使価格の制度

(e) 行使価格の間隔

(f) 呼び値

(g) 売買単位

(h) 委託証拠金

(i) 取引証拠金

(j) 権利行使と反対売買の手法

(k) オプション料の制度

等、さまざまな約束事があり、当然ながらこれらをまず顧客に理解させる必要がある。

(ロ) 危険性(投機性が強いこと)

少なくとも以下の点を具体的に理解させることが必要である。

(a) 反対売買をする決済期限・行使期限があり、このときまでに投資判断を強いられること

(b) 行使期間がワラントのように三~四年先などというように長くならないこと。

(c) 権利行使もできるが差金決済が中心であること。

(d) オプション取引については、売り手に回ると委託証拠金を差し入れなければならず、損失は無限定になること。

(ハ) 投資判断の困難性

とくにオプション取引の場合投資判断の類型が多岐に分かれ、これらを理解して自在に駆使することは容易ではないので、このことを説明しなければならない。

(三) 本件オプション取引の違法性

(1) 本件における「適合性原則」、「取引開始基準」違反

(イ) 本件オプション取引開始時の原告の有価証券取引経験と知識

オプション取引に適合する者とは、対象となる商品が「株価指数」という極めて抽象的なものであるから、まずその意味を理解できる知識と経験が必要である。その値動き分析に高度の専門性と情報力を必要とする上、取引の仕組みも複雑であるから、相当の有価証券取引の知識・経験を有する者でも、一般には個人投資家は、オプション取引には不向きであるとされている。

平成二年二月二一日当時、原告は証券取引を始めてまだ五二日目(営業日で計算)であり、証券取引についての知識や経験の乏しい者であり、オプション取引のリスクに到底耐え得る者ではなかった。被告が原告をオプション取引の対象に選定したのは、オプション取引開始基準に違反することが明らかである。

(ロ) 部店長の直接面接の欠如

「部店長の直接面談」を「取引開始基準」の一つの要件にしているのは、オプション取引の難しさと危険性から、これに適合しない者が安易に取引を開始することを防止しようとするところにある。しかし、被告は、右基準を遵守していない。被告は、Eが原告と面談したと主張するが、原告は、オプション取引の開始に際してEに面談したことはないし、Eは部店長でもない。

(ハ) 口座開設申請書の未作成

被告は、A乙一〇の口座開設申請書を原告が作成したとして提出しているが、事実に反する記載が多く、原告が作成したものではないし、部店長面談欄に署名のあるKに面談したこともない。

(2) 説明義務違反

前記のようなオプションの危険性からすれば、難解なオプションの仕組みを理解したうえで、株式市場全体の動向を正確かつ短時間に判断して、投資判断ができるくらいの専門的判断能力を持つにいたる説明が必要である。しかるに、Cには、オプションについて、原告に説明しこれを理解させる能力はなかったし、実際にもCは原告に対して、オプションの仕組みとその危険性、特に時間の経過により効力を失うという説明をしなかった。仮に、何らかの説明があったとしても、当時の原告には、これを理解する能力はなかった。

被告は、原告が株価指数オプション取引口座設定約諾書(A乙七)と株価指数オプション取引に関する確認書(A乙八)に署名押印していると主張するが、いずれも偽造されたものである。

4 本件信用取引の違法性

(一) 信用取引の危険性

(1) 損金の拡大

信用取引には、その仕組みを利用して取引数量を拡大できるというメリットがあるが、このメリットは損失が生じた場合には、自己資金だけで取引をした場合よりも、何倍もの損金が生じる危険性もあることを意味している。

(2) 取引の制限

(イ) 期限到来による決済の必要性

信用取引では、取引開始後三か月又は六か月以内に、決済しなければならないという期限があるので、相場が予想に反する値動きをした場合、現物取引では、値段が元に戻るまで株を処分せずにいつまでも保有しておくことができるが、信用取引では、その期限がくれば、値洗損金が出ている状態でも決済しなければならない。

(ロ) 追証の徴収

信用取引には、委託保証金の追加という制度があるから、期限内でも相場が予想に反した値動きをして、追証が必要となったにもかかわらず、追証を預託できなかった場合には、証券会社によって強制手仕舞されてしまう可能性があり、現物取引のように値段が元に戻るまで、株を処分せずに取引を持続しておくことはできない。

(二) 本件信用取引の違法性

(1) 信用取引開始についての説明及び合意の不存在

本件において、被告の口座の上で、原告名義の信用取引が開始されたのは、平成二年二月二八日の日本発条(買91)・名古屋鉄道(買93)・日本通運(買94)である。右銘柄の買付は、Hが自己の裏金を使って原告名義での購入を希望したから、CをH宅に呼び、原告が、原告名義でこの銘柄を注文したものであるが、それは現物としての注文であり、「信用」取引ではない。Cは、原告が「すぐに金はないが、ぜひ買いたい。」というので、信用取引の仕組み等を説明し、かつ、Eに面談させて、リスクを再確認してもらった上で、取引を勧めたというが、当日、原告は被告京都支店を訪れたこともなく、Hの手持ち資金での買付であり、「すぐに金はないが」などというはずもなく、明らかな虚言である。株取引を始めて三か月に満たない経験しかない原告が、この時期に信用取引を行う必要性は全くなかった。

(2) 信用取引であることの指示の不存在

原告は、自分の名義で信用取引が行われていること自体を知らなかったのであるから、原告が注文の際「信用取引をすることを明示」した事実はないし、ましてや「返済期限を三か月とするか、六か月とするかの指示」をしたことはない。原告は、そのような仕組みさえ知らなかった無知な顧客であったのである。本件において数多く存在する「信用」取引は、全て、「信用」取引とするとの指示がなかったのであり、仮に銘柄についての注文があったとしても、「信用」取引として扱ってはならないものである。これを「信用」取引として扱った、被告の行為は違法である。

原告が証券取引に無知であり、細かなことに気づかない「利用しやすい顧客」であることに付け込んだCが、取引額を大きくし、手数料稼ぎをするために、原告に無断で「信用」取引としてしまったというのが真相である。勝手に行われた信用取引の総額は、三六億円を超えており、手数料の額は三~四千万円に達するであろう。

(3) 信用取引状況についての報告の不存在

Cは原告に対して、どの銘柄について、どれほどの数量の信用取引が行われていたかの報告をしていない。Cの言によれば、「常に担保不足の状態だった」にもかかわらず、Cは原告に対して「担保を入れる」ことを求めなかったし、「何時何時までに担保を入れなかったら勝手に売る」ということも言わなかったのである。原告の場合、追証がいらない特別扱いをしているということは、Cが原告名による信用取引を勝手に開始し、その後も報告して事後承認をとることをしなかったために、原告に対して追証を求めることができなかったことを示している。

(4) 適合性原則・信用取引開始基準違反

(イ) 平成二年二月二八日の時点で、原告は、取引開始後三か月足らずの証券取引の経験ではまだ初心者の段階であり、しかも殆どCに任せっきりで、自己の責任において判断した経験がない状況にあり、「有価証券について相当の知識と経験がある」とは、全く無縁の顧客であったことが明らかである。原告は、取引開始時の「委託保証金の預託」、評価損が出た場合の「委託保証金の追加」、「信用取引の決済方法」、金利・品貸料・管理費等の「信用取引に要する費用」など、信用取引の仕組みを理解する能力に欠けていた顧客であり、信用取引の危険性も理解できなかった顧客であったのであり、信用取引を勧誘してはならない顧客であったことは歴然としている。

(ロ) 右の取引開始日に原告は被告京都支店に行っていないから、「部店長」が面談できるわけがない。また面談したとされているEは部店長ではない。

(5) 説明義務違反

信用取引の仕組みや危険性について、顧客が理解して自己の判断と責任において信用取引をすることができるだけの説明をしなければならないのであるが、信用取引を開始することさえ無断であったのであるから、法的に必要とされている説明をしなかったことは明らかである。

被告は、原告が信用取引口座設定約諾書(B乙三)に署名押印したと主張するが、偽造されたものである。

5 過当取引の違法性

(一) 過当取引禁止の根拠

証券取引法は、四九条の二において、証券会社及びその役職員に、顧客に対する誠実・公正義務を定め、一六一条一項において、過度な数量の売買取引を規制している。過当取引勧誘は、法令に違反する行為である。

過当取引が禁止されるのは、証券会社の収益が主に証券取引の手数料収入によっている現状の下において、専門家である証券会社の説明・推奨を元に投資判断することが多い知識・経験・能力に乏しい顧客に対し、誠実・公正義務を負担する証券会社が、自己の手数料収入を図るために、顧客の資産、投資目的、経験等に適合しない過当な頻度・数量の取引勧誘を行うことが、誠実義務に違反する詐欺的・背任的行為として民事上、違法となるからである。

(二) 過当取引の違法性を判断する基準

過当取引の違法性の判断基準としては、①証券会社が顧客の口座を支配していたこと、②証券会社が右口座の目的と性質に照らして過度な取引を行わせたこと、③証券会社が詐欺の目的であるいは顧客の利益を無謀に無視して行動したことの三要件が挙げられる。

また、過当取引の客観的認定基準として、①売買回転率(顧客の投資額に基づき、証券会社が一定期間に何回売買したかを示すもの)、②投資額に対する手数料比率、③同一ブローカーが扱った別の口座と比較して、問題となっている口座から引き出された手数料額の三つが上げられている。

(三) 被告による口座支配

別紙三(1)ないし(4)の本件取引に関する入出金のうち多くのものが原告の知らない間に被告担当者によって口座を操作して行われており、被告において原告口座が支配されていたことを示している。

(四) 本件取引の過当性

短期間のうちに、多数回・高額の取引がなされており、本件取引は全体として違法な過当取引であることが明らかである。

本件取引の回数は、平成元年一二月六日から平成三年四月一一日までの間の三九三日間に、合計五一六回であり、一日当たり一・三一回の頻度である。集中したのは、平成二年八月までであり、この間の二九〇日間に四七九回、一日当たり一・六五回(取引日に限定すれば一日当たり二・四回)の頻度で取引が行われている。

なお、一回一〇〇万円未満の取引は、わずか二五回に過ぎず、殆どが一回数百万円の取引であり、一回一〇〇〇万円以上の取引は、買付五七回、売付五一回、合計一〇八回という驚くべき多額の取引が行われている。

取引の種類別の売買回数・取引金額・手数料は、以下のとおりである。

取引の種類

売買回数

取引金額

手数料

金貯蓄

6

215,413,568円

53,392円

現物取引

183

1,942,734,139円

12,674,751円

信用取引

153

3,654,731,200円

22,225,543円

ワラント

14

19,096,338円

不明

店頭取引

77

689,020,959円

5,557,467円

オプション

36

70,940,791円

不明

転換社債

25

94,523,951円

不明

ファンド

22

336,600,352円

不明

総計

516

7,023,061,298円

40,511,153円

右表の手数料については、現在計算可能なもののみを上げており、不明分を含めれば五〇〇〇万円に達していると思われる。また、極超短期の取引や原告の利益とほぼ同額か、利益よりも手数料が多額の場合など、「手数料稼ぎ」だけと思われる不可解な取引が多々存在している。

(五) 本件過当取引の違法性

本件は、原告の取引及び投資に関する知識・経験、投資決定方法とその態様、証券会社の裁量の強さ(原告のCらに対する依存度の高さや口座支配等)等、そのいずれもが「過当取引の違法性を判断する基準」に合致するものであり、知識・経験のない原告に「危険な取引」を押しつけた違法な過当取引であることは疑いの余地がない。

6 一任勘定取引の違法性

(一) 一任勘定取引の定義とその規制

一任勘定取引とは、顧客と証券会社(役員・使用人を含む)が、①売買の別、②銘柄、③数、④価格の一つ又は二つ以上について、証券会社が定めて顧客の計算で取引することである。前記四条件のすべてを一任される場合を「狭義の一任勘定」といい、その一部を一任される場合を「広義の一任勘定」という。

平成三年の証券取引法の改正により、狭義の一任勘定は禁止されたが、法改正以前から、昭和三九年二月七日付大蔵省理財局長から各財務局長宛通達は、この種の取引を行うことの自粛を求めていたし、「有価証券の取引一任勘定に関する規則」は、委任の本旨又は当該勘定の金額に照らし過当と認められる数量又は頻度の(一任)売買取引を行ってはならないとするなど、広義の一任勘定も含めて通達や自主規制によって規制し、一任勘定を行う場合は、(a)一任の内容・月一回の報告・損失補填を行わない旨の表示等の事項を含む書面による契約の締結や、(b)一任勘定元帳の備付を要求するなどしており、それは右法改正の以前から一任勘定取引は違法性が強いと認識されていたことを意味し、その多くが社会的に許容される限度を超え、顧客の自主的かつ自由な意思決定を阻害するものとして、違法とされるべきである。

(二) 一任勘定の弊害

一任勘定取引は、いつどの証券を取引するか、いくらで取引するかといった重要な事項を証券会社が決定することから、価格形成の公正性を害したり、損失保証・利益保証の温床となる危険も高いが、なによりも証券会社に広い裁量権を与える結果、証券会社がこの広範な裁量権を濫用して、顧客の意向に反した過当・過大な取引を行い、手数料稼ぎをするという危険性があり、また、投資決定を行う者と損益が帰属する者とが異なるため、いきおい投資決定が慎重真剣になされなくなる危険がある。実際にもそのような被害が多発している。本件もその一例である。

(三) 本件一任勘定取引の違法性

(1) 平成二年三月四日以前の取引

原告が、平成二年三月五日に二億二七二四万円余の保証小切手を持参して日本コンピュータシステム株を大量に注文(買35~40)するまでは、Cは、全ての取引を任されており、それまでの取引は、最も違法性の強い「狭義の一任勘定」取引であることが明らかである。

(2) 海外旅行中の取引

原告が海外旅行中にも取引が行われているが、C自身、「旅行に行くからその間やっておけ。」と原告から言われたとか、「電話で具体的なことを言うと逆に怒る。」ことを認めているが、「狭義の一任勘定」が常態化していたのである。

別紙一の末尾に原告が出国前又は出国当日に注文したという被告の主張がある。値動きのある株価について、事前に売買の別、銘柄、数、価格の全てについて指示をすることは不可能であるからこれは「広義の一任勘定」であるという主張であると思われるが、事前の打ち合わせの事実はない。仮に被告主張のような事前の打ち合せによる「広義の一任勘定」であったとしても、それは、前記「有価証券の取引一任勘定に関する規則」に反し、「届出」・「書面による契約の締結」等の手続を経ていないので、違法であることには変わりはない。

7 本件取引の全体としての違法性

(一) 証券会社の社会的・基本的責務違反

本件全体を通じて言えることは、被告の行為は、顧客保護の観点を全く喪失し、諸法規・通達・規則に違反し、証券会社の基本的責務に反し、「適合性原則」に違反して、危険な取引に原告を巻き込んできたものであり、本件のように全体として、一連の多数の行為について、種々の違法行為が重なり合う場合には、これを全体として不法行為とみるべきである。

(二) 過失相殺について

本件における原告と被告の前記諸関係を考慮すれば、本件において原告の過失を認定し、過失相殺をすることは相当でない。

過失が認定されるとすれば、取引報告書等が原告に送付されており、取引の実態を知りながらこれを原告が見過ごした場合であろう。

しかし、本件においては、原告は、大半の取引がなされた後である平成二年七月二四日(dに移転した日)まで取引報告書等を受け取っていない。すなわち、原告は、平成元年一二月六日にBと取引を開始したときは当時居住していたcを住所として申告したが、同月二五日にCの担当で取引が始まった際、Cから同じ住所ではいけないといわれ、まだ土地も取得していなかったdを住所として届け出た。平成二年二月一〇日に郵便局留め手続を取ったが、それまでは一切の書類を受け取っていない。局留め後は、Cと一緒に郵便局に書類を取りに行ったことはあるが、預り証はCが持ち帰り、その他の被告からの書類は重要でないといわれ内容を確認しないで捨てた。Fについては、局留め手続をしていないので、F宛(第二口座での取引分)の書類はdに移転するまで受け取っていない。

四 被告の主張

1 本件ワラント取引の違法性について

(一) 適合性原則・取引開始基準違反について

原告は、ワラント取引一般について、プロの投資者に匹敵する豊富な知識、経験、情報を有する者に対してのみ勧誘がなされるべきであり、一般投資家には適合性がないと主張するが、かかる主張は失当である。むしろ、一般投資家であっても、ワラント取引の仕組みやリスクについて理解できるだけの知識、経験を有し、積極的な投資意欲と一定の資産を有する投資家であれば、その勧誘が適合性原則に違反するものではない。

原告は、相場の状況等だけでなく、ワラント取引の仕組みやリスクに関する説明に対して十分な理解を示していたこと、原告は、中小証券会社に友人がいると話しており、証券投資の豊富な知識と経験を有する紹介者のGとも証券投資に関する相談をしていたようであり、投資に関する複数の情報源を有していたこと、不動産取引だけでなく、証券取引に関しても旺盛な投資意欲を有し、取引開始後、頻繁に来店していたこと、資産も非常に潤沢であったことなどに照らすと、原告のワラント取引について適合性原則に反するところはない。なお、被告における取引開始後の日数のみで原告の投資知識、経験を判断するのは相当でない。

(二) 説明義務違反について

原告は、ワラント買付当時、証券取引に関する知識、経験が全くなく、説明も受けていないし、何らかの説明があったとしても理解不可能であったと主張するが争う。

BもCも、原告にワラントの買付を提案するに際し、店頭で、被告作成のワラント取引説明書(A乙四八)を開いて、ワラントとは、株式ではなく、新株を引き受ける権利であること、その権利には行使価格が定められており、行使価格を挟んで株価が上昇するとワラントは株価以上に値上がりし、逆の場合は株価以上に値下がりすること、権利には行使期間も定められており、それまでに売却又は権利を行使しないと価値がなくなってしまうこと、外貨建のワラントについては為替の変動の影響を受けることなど、ワラント取引の仕組みとリスクについて説明した。

右説明書の記載と右の程度の説明でワラント取引の仕組みやリスクは十分に理解可能である。原告は、これを十分に理解し、外貨建ワラントについては、買付前に外国証券取引口座設定約諾書(B乙七五、七八)と、ワラント取引の仕組みとリスクについて理解し、自己の責任に置いて取引を行う旨のワラント取引確認書(B乙七六、七九)に署名押印し、国内ワラントについても、確認書の徴求が必要とされた時点において、改めてワラント取引説明書(A乙四九)を交付し、再度取引の仕組みやリスクについて説明を受け、ワラント取引確認書(B乙七七、八〇)に署名押印している。

2 本件店頭取引の違法性について

(一) 適合性原則・取引開始基準違反について

(1) B担当での取引について

原告は、B担当でのフェニックス電機(買10)の買付が取引開始から一〇日しかたっていないことで適合性原則に違反すると主張するが、被告における取引開始からの日数で判断できないことは前述のとおりであり、ワラント取引で説明したような原告の属性からすれば、適合性原則に違反しているとはいいがたい。

(2) C担当での取引について

原告は、証券取引開始からわずか二〇日程度では証券取引に関する相当の知識、経験があったとはいえないし、それ以前のB担当の店頭取引についても知らなかったから、適合性原則に違反すると主張するが、被告における取引開始以後の日数のみで判断できないことは当然であるだけでなく、頻繁な来店と入出金の継続だけから見ても、非現実的な主張である。

むしろ、原告の前記のような属性に加え、C担当時点においては、原告は、Bの担当において、頻繁に来店し、既に上場株式だけでなく、店頭株式、転換社債、ワラントについても取引した経験を有しており、Cが相場の状況等を説明した際にも十分な理解を示していたこと、Cが当初ファンドシグナル(買22)を提案したことに対して、原告は、非常にリスクのある取引を好み、投資欲が旺盛である旨話していたこと、証券取引だけでなく、不動産取引にも投資し、二十数億円の財産を有し、既に被告においても一億円以上の預かり資産を保有していたことなどに照らすと、到底適合性原則に違反していることなどありえない。

(二) 説明義務違反について

Bは、フェニックス電機(買10)を提案し、店頭取引を開始するに当たり、会社の事業内容、業績見通しだけでなく、店頭株式であって値動きが激しいこと、注文が指値になることなど、店頭取引の仕組みとリスクについて説明し、同日、原告は、店頭取引確認書(A乙五〇)に署名押印している。

また、Cも、原告から日本コンピュータシステム(買26~28)の買付の申し込みがあった際、会社内容や業績だけでなく、それが取引所に上場されている株式とは異なり、指値注文に限られること、値動きが大きいことなど、店頭取引の仕組みとリスクについて説明し、原告は、同日、自己とF名義で、店頭取引確認書(B乙七三、七四)に署名押印している。

原告は、説明があったとしても、当時の原告には理解できなかったとも主張するが、説明も受け、確認書にも署名押印しているのであって、信用できない。

(三) ルール違反について

原告の店頭取引の注文は指値で行われており、全く理由のない主張である。

3 本件オプション取引の違法性について

(一) 適合性原則・取引開始基準違反について

オプション取引を開始した当時の原告の投資知識、経験については、被告における取引開始以後の日数のみで判断されるべきではなく、原告が当時既に相当な知識、経験を有していたことはワラント取引及び店頭取引で述べたとおりである。原告は、右取引以後も頻繁に来店し、日増しに知識、経験を身につけていたこと、それでも被告は比較的リスクが限定された買付のみに限ってこれを行うことを認めたこと、原告は、当初、Cの助言を聞き入れずオプション取引を開始し、その後の取引も全て原告自身がクイックを操作する等して自ら銘柄を選定したもので、Cの提案にかかるものは一つもないだけでなく、既に多額の損失を出した後の平成三年二月一五日になっても、なおオプション取引を希望し、Dの反対を押し切ってまで取引を再開するほど、取引を行う意欲が旺盛であったことから、原告のオプション買付が適合性原則に違反するとは到底いえない。

なお、個人投資家はオプション取引には不向きである等の原告の一般的議論については争う。

また、被告の取引開始基準において、オプション取引の開始に際して部店長の面談が必要とされている趣旨は、当該顧客がオプション取引を理解し、これに適合するかを再確認させるためであるところ、当時の被告京都支店は営業部制度をとっておらず、営業課があるだけであったから、営業課長のEが支店長に代わって面談したものである。原告は、口座開設申請書(A乙一〇)に虚偽の記載があるというが、原告からそれまでに聞いていたことをCが記載したもので、原告がオプション取引を申し出たことと矛盾するものではない。

(二) 説明義務違反について

オプション取引の開始日である平成二年二月二一日、Cは、株価指数オプション取引説明書(A乙六)や「日経二二五オプション取引のすべて」というパンフレット(A乙一五)を開いて、原告に一五分間位オプション取引の仕組みとリスクについて説明した。

これによってオプション取引の仕組みやリスクは十分に理解可能であり、原告もこれを十分理解し、Eとの面談を経て、株価指数オプション取引口座設定約諾書(A乙七)と、オプション取引の仕組みとリスクについて理解し、自己の責任において取引を行う旨の株価指数オプション取引に関する確認書(A乙八)に署名押印している。

4 本件信用取引の違法性について

(一) 信用取引開始についての説明及び合意の不存在について

原告は、最初の信用取引(買91,93,94)について、被告京都支店に来店したこともなく、信用取引として注文したこともないなどと主張するが、原告は、右当日(平成二月二月二八日)、インデックスファンド二二五(買90)の不足金を入金するために来店しており、信用取引口座設定約諾書(B乙三)に署名押印し、第三口座に右不足金と信用取引の委託保証金の合計額を入金したこと(A乙二の4)、同日に現物株式の約定があったとした場合の受渡日に右買付代金の入金がないことからして、右主張が事実に反することは明らかである。

(二) 信用取引であることの指示の不存在について

原告は、本件信用取引は、全てCが無断で「信用」取引として扱ったものであると主張するが、前記のように、原告は、信用取引口座設定約諾書に署名押印しているほか、約定後には取引報告書が郵送され、原告はその記載に一切クレームを申し出ていないこと、来店したときは取引明細書や情報端末のSDPにより建玉の状況や取引経過を確認していたこと、平成三年一月一〇日には、Dの提案に応じて受株代金等として八三〇〇万円を入金(別紙三(3)の第三口座No.20)したこと、Dの担当時に取引残高確認書(B乙五、六)に署名押印して差し入れているが、その記載内容に一切クレームを申し出なかったこと、社内的には、信用取引口座開設申請書(B乙四)、顧客口座元帳(A乙二の1~72)や信用取引決済元帳(B乙二の1~20)が作成され、原告の信用取引が管理されていること、などから原告の右主張が虚偽であることは明らかである。

(三) 信用取引状況についての報告の不存在について

前記のように、原告は、取引報告書、取引明細書、SDPによる建玉の状況や取引経過の打ち出し、これらに伴う説明などにより、取引状況についての報告を受けていた。

原告は、Cが担保不足の状況にあっても追加担保を求めたり、建玉の処分予告をしなかったことをもって、無断で「信用」取引をしていたことの証左であるというが、Cは何度も担保不足の状態にあることを話していたし、追加担保を求めたり、建玉の処分を予告しなかったことがあったとしても、それは原告に対する気遣いというべきである。Cが原告の資金を操作して無断で「信用」取引をしていたのであれば、適宜追加担保を差し入れたり、予告なしに建玉を処分すればいいのであって、原告に担保不足の説明をする必要はない。原告の右主張も理由がない。

(四) 適合性原則・信用取引開始基準違反について

信用取引を開始した当時の原告の投資知識、経験について、被告における取引開始後の日数のみで判断すべきでないこと、原告が当時既に相当な知識、経験を有していたことは、ワラント取引や店頭取引で説明したとおりであり、原告は、その後も頻繁に来店し、日増しに知識、経験を身につけ、オプション取引まで経験し、積極的に取引を行う意欲を持っていたから、適合性原則に違反しないことは明らかである。

取引開始に当たってはEが原告に面談して取引意思等を再確認している。部店長に代わってEが面談した事情は既述のとおりである。

(五) 説明義務違反について

Cは、信用取引の開始に当たって、信用取引には、買付(買建)と売付(売建)があること、六か月以内に反対売買又は現引(受株)、現渡によって決済すること、委託保証金を差し入れなければならないが、代用有価証券が大きく値下がりしたり、建玉の評価損率が大きくなった場合には追証が発生する可能性があることなど、信用取引の仕組みとリスクについて説明した。

右説明によって、信用取引の仕組みやリスクは十分に理解可能であり、原告は、これを十分に理解し、Eとの面談を経て、信用取引口座設定約諾書に署名押印したものであって、説明義務は尽くされている。

5 過当取引の違法性について

本件は、相続によって高額の財産を入手した原告が、不動産取引に財産の大半を投資するとともに、複数の証券会社で証券取引にも投資し、極めて旺盛な投資意欲の下に、複数の口座を開設し、頻繁に来店しては、熱心に、自らクイックを操作したり、ポケットベルで担当者に連絡を取らせたり、海外旅行中にも、事前の打ち合わせに基づく取引や国際電話により注文を行い、一般の顧客とは比較にならないほどの速度で豊富な投資知識、経験を得る中で、信用取引やオプション取引まで取引を拡大し、積極的な資産運用を展開していったが、バブルの崩壊により、不動産取引とともに証券取引においても多額の損失を出し、経済的に破綻したというものである(不動産取引の損失は証券取引のそれの四倍にもなる)。

本件において、原告は、売買回数(五万株一口の注文も単価次第で一万株五回に分かれるのであって、回数計算の根拠は不明である。)を問題とするが、それは原告自身が自ら積極的に取引を行っていた事実以外のなにものでもなく、本件は、いかなる意味においても、過当取引が不法行為を構成するというような事案とは、根本的にその性質を異にするものである。

6 一任勘定取引の違法性について

本件取引において、一任勘定がなされていたとの主張は否認する。原告は、誰に対して、いつ、いかなる内容の一任を行い、それによっていかなる損害が発生したかについて、何ら具体的な主張も立証もしていない。

海外旅行中に一任勘定がなされていたとの主張についても否認する。

7 本件取引全体の違法性について

原告は、被告が顧客保護の観点を喪失して、危険な取引に原告を巻込んできたと主張するが、全て否認又は争う。

本件事案は、被告の積極的な勧誘によって投資が拡大されてきた事件ではなく、原告の極めて旺盛な投資意欲、とりわけハイリスク・ハイリターンの危険性の高い投資を好み、被告担当者や原告の知人らの助言にも従わず、大暴落の時代にあって、株価の戻りを期待して投資を続けた結果であって、その責を原告自身が負うのは当然である。

仮に、被告に幾ばくかの責任があるとしても、その責任はわずかであって、以上のような説明等によって、原告は、本件取引の仕組みやリスクを理解しながら投資を行ったものであるから、過失相殺の適用の余地がないとの主張は理由がない。

なお、被告本店又は被告京都支店から送付した文書が一部返戻されたが、被告本店が送付した書面も被告支店に回送され、被告支店から再送付しており、その明細は、別紙四のとおりである。

五 争点

1 本件ワラント取引の違法性の有無

2 本件店頭取引の違法性の有無

3 本件オプション取引の違法性の有無

4 本件信用取引の違法性の有無

5 本件取引は違法な過当取引にあたるか。

6 本件取引は違法な一任勘定取引にあたるか。

7 本件取引全体の違法性の有無

8 原告の損害の評価

第三当裁判所の判断

一 事実経過について

基礎的事実及び証拠(証人C、同B、同D、同H及び同I並びに原告本人のほか文中掲記の各書証)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(原告は、本件取引に関して作成された全ての書証の成立を否認し、被告担当者によって偽造されたものであると主張しているところ、この点については後に項を改めて検討するが、偽造と認められる書証は存在しない。)。

1 原告の投資原資

原告の父Jは、平成元年四月に死亡し、遺産である喫茶店兼自宅のbの土地(一四〇・二六平方メートル)と地上建物を妻Fと長女Lと原告の三人が相続した。

原告ら遺族は、バブル経済の絶頂期(株式市況も活況を呈し、平成元年一二月には東証一部時価総額が六〇〇兆円を突破し、同月二九日に日経平均株価も三万八九一五円の最高値を記録している。-A五六の2)にあり、不動産が高騰していたことから、これを売却することにし、同年一〇月二七日に二二億八〇〇〇万円(土地だけの値段にすれば坪五三七七万余円)で売買契約を締結し(A乙三五)、Fと原告は、同月三一日、新居用地として、dの土地を三億一五〇〇万円で購入した(F持分五分の四、原告持分五分の一。甲一四の1、一八)。

Fは、新居完成までの住居とするため、同年一一月九日、cにマンション(hマンション)を賃借し(甲三九の2)、同月一六日に同マンションに移転し(甲三九の1)、原告も同年一二月五日までに同マンションに移転した(甲一一)。

そして、同年一二月五日、bの売却代金として、F名義の銀行口座に九億五五八〇万円(甲三八の1)、原告名義の銀行口座に七億三七六一万三一五二円(甲三八の2)が振り込まれた。

Fと原告は、dに一億五〇〇〇万円を投じて新居を建築することとし、平成二年二月九日の地鎮祭(検甲一の1~3)、同年五月二〇日の上棟式を経て(検甲一の4~6)、同年八月二日に新居が完成した(F持分五分の四、原告持分五分の一-甲一九)。

なお、Fと原告は、平成二年七月二四日にdに住所を移転している(甲一一)。

原告は、右資産運用として賃貸マンションの取得を考え、平成元年○月○日には京都市○○マンションを三億円(A乙三六)で、翌二年○月には京都市○○に一八室のマンションを四億五〇〇〇万円(甲三七)で購入し、同年二月六日に有限会社eから商号変更した有限会社a社でマンション管理業を営むようになった(甲三〇)。

原告は、遺産相続前は、月に一五万円程度の収入しかなく、父母がやっていた喫茶店の収入も月約一〇万円くらいで、家族全体の年収でも約三〇〇万円程度しかなかった。ところが、遺産を処分して得たマンションから敷金や礼金の入金があったほか、毎月、家賃で約二〇〇万円、利息で約一二〇〇万円前後の収入を得られるようになった(甲三〇、原告⑨三丁)。

2 証券投資の契機と原告の性向

原告は、それまで大金を手にしたこともなかったところ、遺産相続で右のような潤沢な資金を手に入れたことから、不動産投資をしたり、銀行に分散して預金するなどしていた。そうしたところ、原告の親戚で、i銀行の支店長を勤め、当時は株式会社j(不動産業)の代表取締役であり、金融や不動産関係に詳しく、長年被告とも証券投資をしていた松本から、被告京都支店で証券投資をしており、月に一〇〇万円前後の利益があり、誰でも儲かっている、被告の情報は間違いないというような話を聞き、平成元年一二月初めころ、Gの担当をしていたBを紹介され、同月六日にBの担当で第一口座を開設し、同月七日に保証小切手で一億円を入金して、本件取引を開始した(甲三〇、四三、乙四六、原告⑨四丁裏、原告〈28〉四頁)。

なお、原告は、被告と並行して、平成元年一二月五日には、後輩から頼まれてその後輩が勤務していた和光証券で一億円の金貯蓄をし(原告〈28〉一二~一四頁)、また、平成二年に入ったころ、たまたま気に入った女の子が店頭にいたことから、気を引きたいと思って太平洋証券にも八〇〇〇万円程を入金し、店長の勧めるままに投資商品を購入している(原告〈28〉一四~一五頁、原告〈29〉六一~六三頁)。

原告は、それまで株取引の経験もなかったが(原告⑨三丁裏)、巨額の資金を手に入れ、何億円もの不動産を売買し、それらの支払を小切手でするようになったこともあり、また、毎月、それまでの年収の六、七倍もの利息を受け取るようになり、金銭感覚が麻痺するようになっていたうえ(原告⑨四丁)、性格的にも面倒くさがり屋で、言われるままに行動するようなところもあり、自己管理が十分できないところがある(M〈23〉三二、六二頁)。

このような異常な金銭感覚と性格があわさって、証券投資を始めてからも、利益が出ても喜ぶふうではなかったし、損が出ても悔しいというような感情を顕わすことも少なく(B⑭二一丁表)、リスクを意に介しない投機的行動を示すことが多かった(C⑰七丁裏)。

3 B担当での取引

(一) 第一口座の開設と金貯蓄(平成元年一二月六日)

Gから原告を紹介されたBは、Gと共に原告に会い、原告から不動産の売却代金が入ること、何か所かの銀行に分散して預ける予定だが、残りを証券投資に回すつもりであること、中小証券会社に友人がいることなどを聞き、Bは、資産運用は、現金部門、証券部門、不動産部門の三つに分けて運用するのが一般的であることなどを話し、投資信託や金貯蓄等の資料を見せて説明した(A乙四六)。

平成元年一二月六日、原告は、被告京都支店四階の証券貯蓄課にBを訪ね、「印鑑票・保護預り口座設定申込書(顧客カード)」(A乙四七)に自ら住所(c)・氏名・生年月日・電話番号を記載し、印鑑登録届出印(実印=A乙一六の2)を取引の届出印として押捺した(B⑭一~二丁)。

そして、一億円位投資するということで、Bは、トゥモローセレクトとファンドシグナルという投資信託のパンフレットを示して、投資信託とは、顧客から資金を預かって、株式や債券に投資して運用するもので、今までの実績は良いが元本が保証されたものではないことなど商品の仕組みを説明し、その買付を提案した。原告は、両商品を五〇〇〇万円ずつ買う意向を示したが、募集締切日が前者は同月一八日、後者は同月二六日で、それまでに買っても利息が付かないことから、募集締切日まで利息を得るために自由設定金貯蓄を勧めた(A乙四六、B⑯一五丁)。原告は、年利七・五パーセントにもなると聞き、預金の金利よりはるかにいいと思ったことと、Bを信用していたので任せることにし(甲三〇、原告⑨五丁)、一億円で二口の金貯蓄(募集締切日前の同月一四日と二二日に自動的に解約されるもの)(買1,2)を買うことになった。

(二) ワラントの買付(平成元年一二月八日)等

原告は、翌一二月七日、一億円の保証小切手を持参して、前日約定の金貯蓄の買付代金として入金し、Bに対し、さらに投資資金があることを告げ、投資物件の案内を求めた。Bは、当時有望と考えていた横浜銀行株式、大阪ガスワラント、日本石油転換社債について、会社の内容や業績見通しを紹介して買付を勧めた(B⑭六丁)。

翌一二月八日、原告は、保証小切手で四〇〇〇万円を入金し、前日Bが提案した三銘柄の買付を申し出たので、Bは、同日、横浜銀行株式一五四万四〇〇〇円(買3)、大阪ガスワラント三〇八万一〇〇〇円(買4)、日本石油転換社債一〇〇〇万円(買6)を買付けた。

(三) 店頭登録株式の買付(平成元年一二月一五日)等

原告の投資額は一億四〇〇〇万円に達しており、原告は、同年一二月一二日にBの提案で日本航空転換社債二〇〇万円(買7)、協和銀行株式四七四万九〇〇〇円(買9)を買っていたが、同月一五日にさらに追加して四〇〇〇万円を入金した。

Bは、同日、原告に勧めてフジタ工業転換社債二〇〇万円(買11)や東京インキ株式二二六万円(買14)を買ったほか、右資金の一部で店頭株式であるフェニックス電機を勧め、三二七万二〇〇〇円でこれを購入した(買10)(A乙四六、B⑭一三丁裏~一四丁裏)。

(四) その他の商品の買付

原告は、同年一二月中に以上のように一億八〇〇〇万円を投入しており、当初の予定どおり期限に解約された金貯蓄の金利を含めて一億〇〇二〇万〇八〇〇円の払戻金も再投資に向け、Bの勧めに応じて、同月一八日に当初予定していたトゥモローセレクト八九一二成長五〇〇〇万円(買16)、福徳銀行転換社債四〇〇万円(買15)、同月二〇日に三菱自動車工業株式二二二万円(買17)、山一證券転換社債四〇〇万円(買19)、同月二五日に日本航空転換社債二〇八万一〇四六円(買8)を買い、同月二六日には、Bからインデックスファンドの見通しがいいとの提案を受けて、予定を一部変更して、ファンドシグナル八九一二成長三〇〇〇万円(買22)とインデックスファンド二二五・六〇〇〇万円(買23)を買い、同月二八日にフジタ工業転換社債四三三万六六六六円(買12,13)、短期物金貯蓄七六〇万円(買53)、平成ポリマー株式九二万七〇〇〇円(買54)、平成二年一月一九日に大昭和製紙株式六六六万円(買60)、同年二月二一日にラピーヌ株式一二五万五〇〇〇円(買85)をそれぞれ買っている(A乙四六、B⑭四丁)。

(五) 買付商品の処分

Bが担当して買い付けた右各商品のうち、原告は、平成二年四月一〇日に協和銀行、ラピーヌを、翌一一日にフジタ工業転換社債、福徳銀行転換社債、山一證券転換社債をそれぞれ出庫(A乙五七、五八)し、各出庫日に第三口座に入庫されて(A乙二の40)、売却(売却約定日は同月一〇日)されている(A乙二の18・19、B⑰二九丁裏~三一丁表)ため、Bはその処分には関与していないが、その他の商品については、一部はBの提案によって利食い売りをし(売6,7,10,14,53,54)、原告が出金の必要な場合に損切りして売り付けたもの(売3,18,23,24,25,60)もあった。しかし、損失を出して売却した代金で別の銘柄を買う、いわゆる「損切りして乗り換え」たことはない(B⑭九丁表)。

その後、Bは、原告が並行して取引していたCの方で取引するという意向を示したので、平成二年五月までで原告の担当を終了した。その時点で保有していた商品は、Bの担当外で売却(売4,5,16,22)されている(A乙四六、B⑭五、七~九丁、B⑮一丁)。

(六) B担当での取引のまとめ

以上のB担当での取引を整理すると、Bは、原告が入金した一億八〇〇〇万円の投資資金をもって、平成元年一二月六日から平成二年二月二一日までの間に、現物取引二〇銘柄(株式七銘柄、転換社債五銘柄、金貯蓄三銘柄、投資信託三銘柄、ワラント一銘柄、店頭取引一銘柄)を二億〇一九二万円で買い付け、一部はBの担当で売却し、その他はCの担当で売られているが、その取引別の損益の結果は、以下のとおりである。

現物取引 損失 三〇五八万九二七四円

ワラント 損失 二四九万五四一八円

店頭取引 利益 四〇万八八九三円

(合計) 損失 三二六七万五七九九円

4 C担当での取引

(一) 取引開始の経緯

原告とCとは、ともにスナック「g」の常連客であり、原告のしていたパラグライダーの話題から親しくなって、平成元年一〇月初旬ころには、パラグライダーをするため一緒に一泊旅行をしたりしていた(甲三〇、A乙四二、原告⑨五丁裏~六丁表)。

原告は、前記のように平成元年一二月六日にBの担当で第一口座を開設して取引を始めており、同月中旬頃にBのいた被告京都支店四階の証券貯蓄課を訪れた後に二階の営業課に勤務していたCに偶然出会い(原告⑨七丁表)、Bの担当での取引を続けながらCの担当でも取引をすることになった(甲三〇、A乙四二)。

(二) 第二口座の開設(平成元年一二月二五日)

原告は、平成元年一二月二五日になって、現金一二〇〇万円を被告京都支店の営業課に持参して、CにF名義での口座の開設を要請し、同日付けで第二口座が開設された(A乙四二)。同口座の登録住所は、原告が既にBの担当で口座を開設していたことから、同じ住所での口座はできないとのCの指示で、自宅用に購入していたdの住所を登録住所として届け出た(甲三〇)。

この点について、被告は、登録住所をdにしたのは、原告自身の判断であると主張するが、原告がそのような措置をする必要性がないだけでなく、本訴提起前に原告代理人が原告の言い分を聴取して被告法務部長に提示した「聴取り書」(A乙三〇)に対する被告京都支店の調査結果(A乙三一)において、「店内調整のうえ、既存口座(=第一口座)とは別の登録住所なら要請を受け口座を開設することにした。」と記載しており、被告京都支店として検討した結果といえ、被告の右主張は採用できない。

そして、原告から何かいいものを案内してくれといわれ、Cは、当時実績の良かったファンドシグナルを紹介し、原告の注文を受けて、同日、同口座でファンドシグナル八九一二成長一二〇〇万円(買20)を買い付けた(A乙四二)。

そのうえに原告からさらに投資できる余裕があるので株を紹介するようにいわれ、アラビア石油株式を案内し、同日、同口座で同株式六四六万二三一五円(買21)を買った。

(三) 第三口座の開設(平成元年一二月二六日)

原告は、翌二六日にも被告京都支店を訪れ、Cに現金五〇〇万円を差し出し、自己名義での取引を求め、Cは、原告名義の第三口座(登録住所はd)を開設した(A乙四二)。

Cは、当時公開したばかりで、値上がりの期待できた日本コンピュータシステムを勧め、原告は、一万株(第二口座と第三口座で各五〇〇〇株)を注文した(A乙四二)。

(四) 現物株式等の買付(平成元年一二月二五日~平成二年一一月五日)

原告は、右両口座において、現物取引(投資信託、転換社債を含む。)として、平成元年一二月二五日約定の第二口座でのアラビア石油株式に始まり、平成二年一一月五日までの間に、株式三五銘柄、投資信託六銘柄、転換社債五銘柄を買い付けている。

Cの担当で買い付けた現物取引の結果は、総額一億二五一一万一六四〇円の損失となっている。

(五) 店頭銘柄株式の買付(平成元年一二月二七日~平成二年五月二二日)

原告は、平成元年一二月二六日注文、二七日約定で店頭銘柄株式である日本コンピュータシステム二八六七万二四〇九円(第三口座で三〇〇〇株(単価三六〇〇円)、第二口座で四〇〇〇株(単価三五一〇円)と一〇〇〇株(単価三六〇〇円)-買26,27,28)を買い付けた。その後、平成二年一月一八日から同年五月一一日までに右両口座で同銘柄合計三万四〇〇〇株(単価五〇〇〇円から六三〇〇円)一億九四六三万六三四八円(買29~48)を買っている。特に、同年三月五日には、一日で一万八〇〇〇株を一億〇七二四万八九〇三円で買っている。

右のほか、店頭取引で、平成二年三月六日約定の日本シャクリー二万株一億〇一五一万五五八六円(買103,104,105)、同年五月一四日から同月二二日までの間の約定で川重冷熱工業二万五〇〇〇株五八七九万六一六三円(買192~202)の買付がされている。

右の結果、C担当での店頭取引での買付合計は三億八三六二万〇五〇六円となり、結果は、六三一四万七一三五円の損失となっている。

(六) ワラントの買付(平成元年一二月二八日~平成二年三月五日)

原告は、平成元年一二月二八日、第三口座で日本航空ワラント二四五万八一二五円(買49)を買ったほか、平成二年三月五日までの間に、第二・第三口座で新日本製鐵ワラント二三九万円(買62)、三洋化成ワラント四六万二〇〇〇円(買69,70)、丸善ワラント二七二万四三七五円(買79)、山之内製薬ワラント(買102)を買っている。

右の結果、C担当でのワラント取引での買付合計は九六三万九四五五円となり、三八五万八一五四円の損失となっている。

(七) オプションの買付(平成二年二月二一日~平成三年二月一八日)

平成二年二月二一日、原告が被告京都支店の営業課に赴いた際、Cの隣の課で数名の社員がオプションの値上がりに驚いて騒いでいるのに気付き、原告がCに事情を聞き、Cがオプションであることを告げると、原告はその説明を求め、原告も買うことになり、同日、第三口座で日経オプション(単価四〇円)一六万三二九六円(買86)を買ったのを始めとして、平成三年二月一八日までの間に一八回合計四五二一万六〇六二円の買付をしている(A乙五五)。

その結果、一七九一万四七八一円の損失となっている。

なお、平成三年二月一五日と一八日に買った日経オプション(買310,311)は、原告が本件取引に苦情をいい、同年一月七日に被告担当者らと会談した後に、新たにCにオプション取引口座の設定を依頼して、プットオプションを始めたものであり、この二口と平成二年三月二八日約定の日経オプション二〇四P三一〇〇〇(買161)だけがプットオプションであり、それ以外のオプションはすべてコールオプションである。

(八) 信用取引での買付(平成二年二月二八日~平成三年一月一七日)

原告は、Hから原告の口座で日本発条、名古屋鉄道、日本通運の株式の購入を頼まれ、平成二年二月二八日に被告京都支店に行き、Cに対し、右株式の購入を依頼したが、すぐには入金できないということであったため、Cが信用取引の説明をし、原告が購入を希望したので、同日付けで、第三口座で日本発条二万株(買91,92)、名古屋鉄道一万株(買93)、日本通運一万株(買94)を信用取引で買建をした(A乙五五)。

その後、信用取引が拡大され、三〇銘柄の取引があったが、全て買建であり、日本発条一万株を九七五万一八一五円(買92)、東洋エンジニアリング三万株を七三八六万〇四六五円(買160)、村田製作所一万四〇〇〇株を五二八六万九〇八〇円(買264,265,266)で品受(現引)した他は、全て差金決済をして、二億〇〇〇七万一一〇四円の損失となった。

(九) 原告の海外旅行中の取引

原告は、本件取引中に以下のとおり七回にわたり海外旅行に出かけているが、その間にも左表のとおり、各種の取引が続けられていた(甲二七、A乙五五)。

(1) 平成二年一月一五日~一七日(韓国旅行)

約定日

番号

銘柄

受渡代金

17日

売57

富士通ビジネスシステム

11,153,023円

買58

モスフードサービス

9,576,185円

(2) 平成二年三月二二日~二七日(グアム旅行)

約定日

番号

銘柄

受渡代金

22日

買145

日経オプション

1,751,724円

106

日本シャクリー

入庫

23日

買42

日本コンピュータシステム

5,037,883円

買43

5,138,640円

買44

10,257,132円

買146

日経オプション

1,345,544円

売145

2,160,860円

26日

買147

1,376,007円

売146

1,885,186円

売147

1,678,431円

27日

買148

3,228,302円

買149

池田銀行

2,915,700円

買150

三機工業

信用

買154

千代田化工建設

信用

買155

信用

売154

信用

(3) 平成二年四月一一日~一四日(香港旅行)

約定日

番号

銘柄

受渡代金

11日

売30

日本コンピュータシステム

20,372,731円

売132

ニチイ転換社債

1,579,295円

売150

三機工業

信用

売151

信用

売152

信用

売156

千代田化工建設

信用

売157

信用

売158

信用

12日

140

日経オプション

権利放棄

143

権利放棄

144

権利放棄

148

権利放棄

162

権利放棄

(4) 平成二年五月二三日~二九日(アメリカ旅行)

約定日

番号

銘柄

受渡代金

29日

買204

日本重化学工業

信用

買205

日本重化学工業

買207

資生堂

売204

日本重化学工業

信用

売205

日本重化学工業

信用

(5) 平成二年七月三日~九日(ハワイ旅行)

約定日

番号

銘柄

受渡代金

3日

売70

三洋化成ワラント

272,557円

売129

三機工業

信用

売130

信用

売187

松下電器産業

信用

買248

村田製作所

信用

買249

京セラ

信用

4日

買250

リンナイ

信用

5日

売188

松下電器産業

信用

売239

ニチコン

信用

売248

村田製作所

信用

買251

信用

買252

信用

6日

売240

ニチコン

信用

買253

大日本スクリーン製造

信用

買254

信用

9日

売241

三信電気

3,958,369円

売242

3,938,773円

売243

11,757,523円

売250

リンナイ

信用

買258

19,520,528円

買273

SMK

信用

(6) 平成二年七月一二日~一七日(ラスベガス・ハワイ旅行)

約定日

番号

銘柄

受渡代金

13日

売233

日本電産

45,136,775円

売234

18,320,400円

売249

京セラ

信用

買262

村田製作所

信用

買267

鶴見製作所

19,339,462円

16日

売253

大日本スクリーン製造

信用

買263

村田製作所

信用

買268

鶴見製作所

19,138,277円

買269

19,138,277円

買270

大同特殊鋼

信用

買271

信用

買272

信用

買274

SMK

信用

17日

売270

大同特殊鋼

信用

売271

信用

売272

信用

買277

日本航空

信用

(7) 平成二年一〇月二二日~二八日(アメリカ旅行)

約定日

番号

銘柄

受渡代金

23日

売210

日本曹達

信用

5 D担当での取引

(一) Dへの担当変更の経緯

平成二年一二月中旬ころ、原告は、被告本社に電話をかけ、被告京都支店で海外旅行中に株式を勝手に売買された旨の申し出をし、被告本社から被告京都支店に連絡があり、DがEとCに事情を聞き質したうえ、平成三年一月七日に原告と面談にすることになった。同日、原告が被告京都支店に赴き、被告側からD、E、CとN総務課長が出席して、原告の言い分を聞き、Cらがそれに対して説明した(以下「一月七日会談」という。)。原告の苦情は、①前記4(九)(6)のラスベガス・ハワイ旅行中に無断取引がされたとか、②平成二年八月に日本コンピュータシステムを売却するように指示したが、売らなかったとか、③同年一〇月末に全部処分するように指示したが実行しなかったなどというものであったが、CやEは、①については、旅行中の投資方針について出発の前日に打ち合わせをしたこと、②については、当時の相場を説明して原告が思いとどまったこと、③については、全部決済するといくら残るか尋ねられたことはあるが、売却の指示は受けていないことなどを説明し、最終的には原告も一応納得した。

そこで、Dが、その時点で信用建玉等を含めて全てを清算すれば、投資全額が返らないだけでなく、逆に七〇〇万円近い赤字がでるという現状を説明し、これをどうして打開するかを協議することになった。その結果、信用建玉の一部は品受することと、翌日以後の担当をDがし、損失の回復に努力することになった。

(A乙四二、一三四、一三五、D八~一〇、一六、五七~五八頁)。

(二) D担当での取引

この方針に基づき、原告は、平成三年一月一〇日に受株代金等として第三口座に八三〇〇万円を入金し、翌一一日以降に信用建玉のうち村田製作所(買264,265,266)と日本航空(買278)を現引した。

その他、Dの推奨に従って、平成三年一月一八日以降は、SMK(買304~307)、第一製薬(買308)、日立建機(買309)を信用取引で買建し、日本油脂(買312)と日立建機(買313)を現物取引で買い付け、その後の処分の結果、合計八五二万四四五四円の利益を出した。

しかし、原告は、資金が必要であるとして、順次、現物株式を売却したり、信用建玉を差金決済して、平成三年五月二四日で全ての取引を終了した(A乙四二、一三四、一三五、D一一~一二、一五~一八頁)。

6 全取引の結果

全取引を終了した結果、合計で四億三四四三万五四七七円の損失を出したが、各取引別の損益を買付担当者別に整理すると以下のとおりである。

(一) 現物取引 B担当 損失 三〇五八万九二七四円

C担当 損失 一億二五一一万一六四〇円

D担当 利益 二三万三〇二七円

(二) ワラント取引 B担当 損失 二四九万五四一八円

C担当 損失 三八五万八一五四円

(三) 店頭取引 B担当 損失 四〇万八八九三円

C担当 損失 六三一四万七一三五円

ただし、右損失には、原告が太平洋証券で購入して、第三口座に入庫した日本シャクリー七〇〇〇株(買106)の購入価格が不明のため、これを含む日本シャクリーの売付(売103~121)による損失が含まれていないが、第三口座での購入分二万株(買103~105)の平均買付単価五〇四二・五円と日本シャクリー全株二万七〇〇〇株の平均売却単価四一〇八・五円に基づいて推定すると、第三口座で購入した日本シャクリーの損失は一八六八万円となる。

(四) オプション取引 C担当 損失 一七九一万四七八一円

(五) 信用取引 C担当 損失 二億〇〇〇七万一一〇四円

D担当 利益 八二九万一四二七円

7 バブル崩壊後の原告の状況

原告は、平成二年四月ころ、岡崎の土地を購入し、原告経営のライブハウスと事務所用の建物を建築し、株式等で五億円程度の資産があるという前提で四億円程の借入を起こしていたが、不動産投資や証券投資に失敗し、バブル崩壊による急激な不動産価格の低下の中で、遺産の売却代金で取得した不動産を低価格で処分して借金の返済に充てざるを得ない状況になり(H四六~五三頁)、全ての資産を失った結果、平成五年八月からは生活保護法による保護を受ける事態にまでなった(訴訟救助疎明資料)。

8 B・C・Dの文書偽造の主張について

(一) 原告は、本件取引に関して被告に差し入れた書面(以下「本件取引文書」という。)の全てを偽造文書であると主張し、本訴で自らの署名であることを認めている書証、すなわち、本訴提起準備中に作成されたB乙一一(平成四年一二月二一日付けの宮崎綜合法律事務所からの書類の受領書)とB乙一九~二二(同月一六日付けの被告からの顧客口座元帳の受領書)(以下、これらを「真筆群①」という。)と対比して、本件取引文書は被告の担当者によって偽造された可能性が強いと主張している(平成一〇年八月二〇日付け原告準備書面)。

(二) 本訴で提出等されている書面中、原告側提出の書証(甲一四の1、二一の1・2、三〇、三五、三九の2、四二、五九の1・2)と原告の不動産売買の契約書や訴訟委任状等(A乙三五~三七、三九、四〇)と本訴の宣誓書は、原告の真筆であることが明らかである。その他、Dは、クレームのあった顧客に関しては必ず残高確認書を徴求することにしており、一月七日会談後、Dが原告から徴求したB乙五(平成三年一月一〇日現在の預り金残高、信用取引担保証券、信用建玉を整理したもの)及びB乙六(平成三年二月一八日にB乙四九で七一万円出金した後の残高を確認したもの)は、徴求の経過からして、原告が署名押印したことは明らかである(D一三~一五頁、C⑧二〇丁裏~二一丁表)(以下、これらを「真筆群②」という。)。

(三) そこで、本件取引文書と真筆群①②とを対比して、検討するに、本件取引文書の原告及びF名義の各署名は、多少の相違点はあるものの、いずれも真筆群にみられる運筆の乱れと大きな違いがあるものではなく、多くの部分で極めて顕著な類似性を示しており、筆跡の対照から偽筆であることが明確であるといえるものはない。

これに加えて、原告は、本訴提起まではBの担当した取引について特に苦情を言っていたわけではなく(甲四二、B⑭二一丁裏)、何らクレームを付けられるような取引をしていたわけではないBが、取引の最初から一貫して本件取引文書を偽造し続けるなど到底考えられないことというべきである。

また、Cにしても、既にBの担当で取引をしていたにもかかわらず、知人のよしみでC担当での口座の開設に応じてくれた原告に対し、無断売買などをしたというのであれば、その取引に関する書面を偽造することはあるとしても、取引の当初から全ての文書を偽造するなどということは考えられない。

さらに、Dに至っては、原告からのクレームが被告本社にあった後、原告の了解のもとで担当者となったのであり、前記残高確認書等を徴求しながら、慎重に取引を勧めていたのであって、文書を偽造する動機がないというべきである。

なお、原告は、原告やF名下の印影も原告の実印を偽造して使用していると主張し、印鑑の偽造が容易にできることを被告代理人らの偽造印を作成(甲三七)させることによって証明しているが、そのような偽造印鑑の作成者を一般人が知っているとは考えられないだけでなく、原告の印鑑を偽造までして、被告担当者らが取引の当初から一貫して文書偽造を続けなければならない理由はないというべきであり、原告の右主張は到底採用の余地はない。

さらに、原告は、平成二年三月中旬ころ、税金の支払を依頼してCに実印を預け、香港から帰ってきてから返してもらったともいい(原告⑨一九丁表、原告〈27〉六〇頁、原告〈29〉四一頁)、Cはこれを強く否定しているが(C⑰一八丁裏~一九丁表、⑲一一丁表)、税金を振り込むだけなら振込口座を指示すれば足りるのであって実印など必要はなく、原告の右主張も採用しない(現に原告は出金分を銀行振込しており(A乙三五~三八、五三、C⑰三丁裏、⑲八丁裏)、そのために実印が必要となったことはない。)。

二 本件ワラント取引の状況について

1 Bによるワラント取引の勧誘

Bは、原告がBの担当で投資を始めた翌日である平成元年一二月七日に原告に対し、現物株式や転換社債とともにワラント取引を勧め、翌八日約定で大阪ガスワラントを購入させているが、右勧誘時に、Bは、被告作成のワラント取引説明書(A乙四九)を開いて、新株を引き受ける権利であること、行使価格が定められており、それより株価が上昇すれば、ワラントは株式以上に値上がりし、逆の場合は株式以上に値下がりすること、権利行使期間が定められており、それまでに売却又は権利行使をしないと価値がなくなってしまうことを説明したと述べている(A乙四六、B⑯一五丁裏~一六丁表)。

これに対し、原告は、Bからはいい物が出たんで買わしてもらっていいですか、大阪ガスですということで銘柄しか聞いておらず、ワラントという言葉もその危険性等についても全く説明もなく、書類も交わしていないという(原告⑨一一丁裏~一二丁表、原告〈27〉四~五頁)。

Bは、当時、国内ワラントの取引については、確認書の徴求が義務づけられていなかったことから、原告から「ワラント取引に関する確認書」を提出させていない(A乙四六)から、ワラント取引開始時に書面を提出していないという原告の供述は事実である。しかし、Bは、平成二年四月以降、それが義務づけられたため、同月二六日、改めて原告にワラントの商品内容を説明するとともに原告から「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(B乙七七)を提出させているし、後述のようにCの担当でのワラント取引においても、原告は、「外国証券取引口座設定約諾書」(B乙七五)及び「ワラント取引に関する確認書」(B乙七六、七九)を提出しており、それらの時点でワラント取引に疑義を述べた形跡も見られず、ワラントという言葉さえ知らなかったという原告の供述は信用できず、Bからワラントに関する説明を全く聞いていなかったとは考えられない。

しかし、Bの供述からは、原告がワラントの用語や投資判断の基準や価格の変動をどうして知ればいいかなど、素人ならば当然聞くような疑問が返ってきたような状況は全く窺えず、Bが全く説明をしなかったとまではいえないにしても、それまで証券投資の経験の全くない原告が株式投資を始めてわずか二日目であり、前記のような複雑な商品性を持つワラントについて、Bのいうような簡単な説明で理解させることができたと考えることは安易に過ぎるというべきである。原告から何の疑問も示された形跡がないのは、Bの説明のおざなりさを示すとともに、Bを信頼して、その推奨する商品を鵜呑みにして投資する原告の姿勢を示しているものといえ、原告がBの推奨に同意したといっても、自己の投資判断に基づく決定というにはほど遠いものというべきであろう。

なお、Bは、原告に対し、取引の開始時も途中でも、他での証券投資の経験やワラント取引の経験の有無については尋ねたこともない(B⑯五丁表、一六丁表)。

2 Cによるワラント取引の勧誘

原告は、最初に第三口座で国外ワラントの日本航空ワラント(買49)を買い付けることになったため、平成元年一二月二八日付けで、原告名義の「外国証券取引口座設定約諾書」(B乙七五)及び「ワラント取引に関する確認書」(B乙七六)を提出している。その後、同口座で国内ワラントの新日本製鐵ワラント(買62)、三洋化成ワラント(買69)、山之内製薬ワラント(買102)買い付けたが、当時は国内ワラントは確認書が不要で作成せず、同年四月以降必要になったが、第三口座分は売付済みだったので作成しなかった。

また、原告は、平成二年一月三〇日、第二口座で三洋化成ワラント(買70)、同年二月一六日、国外ワラントの丸善ワラント(買79)を買い付け、後者の関係でF名義の「ワラント取引に関する確認書」(B乙七九)を差し入れている。なお、前記のように同年四月以降国内ワラント取引についても確認書の徴求が必要になったので、Cは、原告から同月二七日付けで「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(B乙八〇)を提出してもらっている(C⑰八丁表~一二丁裏)。

Cは、原告に対し、平成元年一二月二八日に日本航空ワラントの買付を勧めるに際し、右約諾書を差し入れてもらう前に「外貨建てワラントーその魅力とポイント」(A乙四八)を渡して、ワラントの仕組みやリスク(新株引受権であり、株式ではないこと、株が上がれば大きく上がるし、下がれば大きく下がること、権利行使期限があり、過ぎると無価値になること、外国ワラントであり為替リスクがからむこと)を説明し(C⑰八丁表~九丁裏)、平成二年四月に国内でも確認書が必要になりB乙八〇をもらったときには「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書」(A乙四九)を原告に交付したと述べている(C⑰一二丁)。

これに対し、原告は、C担当で日本航空ワラントを購入することさえ聞いておらず、まして、ワラントの商品性やリスクの説明などなかったという(原告⑨一二丁裏、原告〈27〉一一頁)。

しかし、原告が旧知のよしみでCの担当での取引を始めてくれたばかりの時期に、Cが原告に無断で買付を行う動機も理由も見出せず、被告京都支店には右各説明書が備え付けられていることからして、説明の程度はともかくとしてこれを交付したというCの説明に何ら疑義はなく、原告が前記各文書を提出していることからして、Cがワラントについて全く説明しなかったとか、日本航空ワラントを購入することさえ聞かなかったという原告の供述は信用できない。

もっとも、Cのワラントについての説明は、前記のような簡単なものであり、Bのときと同様に原告から質問があり、詳しく説明したような形跡もないのであって、先にも述べたような原告の投資経験からして、複雑なワラントの商品性や高いリスクを理解させるに十分なものであったともいいがたい。

ただし、前記各説明書には、ワラントの商品性やリスクについて詳細な説明が記載されており、用語の難解さなどから投資の初心者が十分理解するには困難がないではないが、研究する気になれば、必要十分な事項の記載はある。

三 本件店頭取引の状況について

1 B担当での店頭取引

Bは、原告が証券投資を始めて一〇日目の平成一二年一二月一五日に転換社債(買11)や普通株式(買14)とともに店頭登録銘柄であるフェニックス電機の買付を勧めて購入(買10)させているが、その際、同社の事業内容及び業績見通しの説明と併せ、店頭株式は、「値動きが非常に激しい」ことと「指値注文でやる」ことを話したと供述している(B⑭一四丁裏)。

そして、同日付けで、「私は、次の内容を確認し、私の判断と責任において店頭取引を行います。」と記載され、その後に店頭市場の性格と店頭取引のルールが説明された原告名義の「店頭取引に関する確認書」(A乙五〇)が提出されている。

これに対し、原告は、Bから店頭取引の説明を聞いたことはないという(原告⑨一二丁裏~一三丁表、原告〈27〉一二~一三頁)。

しかし、右確認書が差し入れられていることからして、Bが店頭取引について全く説明しなかったとは認めがたいが、Bの供述する店頭取引の特性についての説明は、投資経験のない原告に対する説明としては甚だ簡略なものであるし、右確認書に記載された内容を見ても、なぜ値動きが激しいのか、どのような要因が値動きに影響するのか、指値注文でやることがどうリスクとつながるのかなど、投資判断をするうえで不可欠な要素について説明されているとはいいがたい。

2 C担当での店頭取引の状況

Cは、C担当での取引を開始した翌日である平成元年一二月二六日に原告に対し、店頭登録銘柄であり、同月二一日に公開されたばかりの日本コンピュータシステム(コンピュータソフトの会社)を推奨し、同日付けで原告名義の「店頭取引に関する確認書」(B乙七三)を提出させた上で買い注文を出させ、翌二七日にはF名義でも「店頭取引に関する確認書」(B乙七四)を提出させ、同日、第二口座で五〇〇〇株一七七七万七三四〇円、第三口座で三〇〇〇株一〇八九万五〇六九円の買付をした。その後も同銘柄について同年五月一一日までに順次買付を進め、同銘柄の買付は合計四万二〇〇〇株二億二三三〇万八七五七円に及んでいる。このほか店頭取引として、前記のとおり、同年三月六日約定の日本シャクリー二万株一億〇一五一万五五八六円、同年五月一四日から同月二二日までの間の約定で川重冷熱工業二万五〇〇〇株五八七九万六一六三円の買付がされている。

Cは、日本コンピュータシステムを推奨したのは、原告が値動きあるリスクの大きいものを希望したからであるといい(C⑳三九~四〇頁)、その際、会社内容や業績のほか、店頭取引の仕組みについて、取引所に上場されている株ではないこと、注文にあたっては、上場株式と違い、指値でしか注文できず、成行注文ができないこと、非常に小さな株が多く、流動性が少ない場合があること、値段が飛ぶ(値動きが大きい)というようなリスクがあることなどを説明したという(C⑰六丁裏~七丁表)

これに対し、原告は、Cに勧められて日本コンピュータシステムを買い付けることは承諾したが、それが店頭登録銘柄であることも、店頭取引の仕組み等についても説明されていないし(原告⑨一二丁、原告〈27〉一三~一四頁)、平成二年三月二日にCとEから、絶対儲かる、損しない、六月には六〇〇〇円に上がって、今、海外の介入が入っているので、八月には絶対一万円を超える、もし下がれば買い取ると言って勧められたから、同月五日に二億二七二四万六六六四円の保証小切手をCに渡して同銘柄を買えるだけ買うように依頼し、同日売りのあった一万八〇〇〇株を一億〇七二四万八九〇三円で買い占め、残った金でCが日本シャクリー二万株を一億〇一五一万五五八六円で買い、事後報告を受けたものであるが、日本シャクリーについても店頭登録銘柄であるとの説明はなかったという(原告〈27〉一四~一七頁、原告〈28〉一七~一八頁)。なお、原告は、同年三月二二日に他店で購入した日本シャクリー七〇〇〇株を第三口座に入庫している。

右の事実経過、ことに店頭取引の開始にあたって必要とされる確認書の徴求がされていることと日本コンピュータシステムが急速な値上げ基調にあったことからすると、Cが原告に対し、銘柄のみ知らせ、店頭取引であることを全く説明しなかったとは考えにくい。また、日本シャクリーについても、原告は、自ら他店でこれを購入しているのであって、店頭登録銘柄であることを知らなかったと認めることはできない。

しかし、これだけの多額の取引をするのに、原告がCの説明に対して、何ら質問したり、資料を要求したような形跡もないし、Bから説明されてよく理解していたのであれば、分かっているというような言動があるであろうと思われるのに、Cの供述にはそのような情景も全く現れていない。そうすると、Cが店頭取引について何らかの説明をしたとしても、Bの説明と同様、原告自身で投資判断ができるような詳細な説明がなされなかった疑いが濃いというべきである。

また、右三月五日の二億二七〇〇万円余の保証小切手を持ち込んで日本コンピュータシステムを買い占めようとした行動からすれば、Cは、強く否定するが(C⑰一八丁表)、EやCが同銘柄の先行きについて、断定的判断とまではいわないにしても、相当楽観的な相場観を示したものと推測するのが自然というべきである。

なお、BやCの説明が右のようなレベルのものであり、かつ、原告の当時の投資経験からすれば、原告が自発的に指値を決めて発注し得たかについても疑問というべきであり、BやCの勧めるままに応じてきたものであろうと推測されるが、それが直ちに指値注文のルールに違反するというものではない。

四 本件オプション取引の状況について

1 オプション取引開始時の手続

Cは、前記のような経緯で原告がオプションに興味を示したことから、東京・大阪・名古屋の各証券取引所と社団法人日本証券業協会の作成した「株価指数オプション取引説明書」(A乙六)及び大阪証券取引所先物取引室作成の「日経二二五オプション取引のすべて」(A乙一五)を開いて、オプション取引の概要を説明したうえ、原告が取引をしたい意向であったので、当時、支店長の代わりに「部店長」として口座開設時の顧客との面談をしていたE(A乙一三五)に原告を引き合わせ、その後、右「取引の特徴、制度の仕組み等取引に関する説明の内容を十分把握し、私の判断と責任において株価指数オプション取引を行います。」等と記載され、東京・大阪・名古屋の各証券取引所別の約諾書の条項(各一八か条)が記載された「株価指数オプション取引口座設定約諾書」(A乙七)及び「株価指数オプション取引に関する確認書」(A乙八)に原告自身の署名押印をもらい、その後に最初のオプション取引をしたことが認められる(C⑧三丁裏~五丁表、三三丁裏~三四丁表、四二丁表)。

そして、Cは、内部資料として、「株式オプション取引口座開設申請書(兼顧客カード)」(A乙一〇)を作成しているが、同書面には、原告の職業欄に(株)a社代表取締役、投資経験二年、他社取引山一等とCが記載し、部店長面談欄に「山一で以前から取引をしており、不動産会社を経営しており、店頭にて充分説明し理解してます。」と記載され、部店長署名欄には、副部店長としてK(被告京都支店副支店長)が署名している。なお、右申請書は「買専用口座」である。

また、平成三年二月一五日に原告は、Cの担当でオプション取引を再開しているが、その際にも、「株価指数オプション取引口座設定約諾書」(A乙四)及び「株価指数オプション取引に関する確認書」(A乙五)を差し入れている(C⑧一九丁表~二〇丁裏)。

2 Cの説明等の問題点

(一) まず、前記「株式オプション取引口座開設申請書(兼顧客カード)」(A乙一〇)は、内部文書であるが、顧客がオプション取引をする適合性を有するか否かを審査する基本となる書面であり、正確な記載が要求されるところ、右記載中、a社は株式会社でも不動産株式会社でもなくマンションを管理する有限会社であること、原告は、山一證券と取引をしたことはないこと(甲八の1・2)、投資経験は二か月に過ぎないことが誤っているほか、原告の住所も△を▽と誤記している(C⑧四一丁表~四三丁表、原告⑨二二丁裏~二四丁表)。しかも、面談者として署名しているKは原告に面談をしていない(争いがない)。右のように多くの誤りがあることについて、Cは、原告がEに事実と違うことを話し、EからKがその話を聞いて面談者として署名したのではないかと供述している(C⑧六丁表)。しかし、誤りのほとんどはC自身の記載部分であり、Cが原告の属性について正確な認識を有していなかったか、最も重要な投資経験について虚偽記載をした疑いがある。面談したEもCの直属の上司であり、原告が被告での証券投資を始めて二か月にしかならないことは当然把握していたはずである。

(二) オプションの商品性は、基礎的事実5(三)のとおりであり、あらかじめ定められた期日(権利行使期間満了日。毎月第二木曜日)までに、あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で、日経平均株価を買い付けたり(コールオプション)、売り付けたりする(プットオプション)権利であり、株式の現物取引と同じように転売利益を得るという目的のほか、株式を保有している場合にその値動きによるリスクをヘッジする目的で取り引きされることがあり、コールオプションを買って日経平均株価が権利行使価格を上回ったとき、プットオプションを買って日経平均株価が権利行使価格を下回ったときに、それぞれ利益が出るが、権利行使期間満了日に権利行使価格よりも日経平均株価が上回っていると、権利行使されるし、下回っていると、権利を放棄することになるが、その商品性は複雑で、前記「日経二二五オプション取引のすべて」(A乙一五)は三二頁にも及び極めて専門的な内容であり、前記「株価指数オプション取引説明書」(A乙六)は一〇頁のうち二頁にわたってリスクの説明がしてあるが、どのような場合にリスクが高くなり、それを回避するためにはどのような点に留意する必要があるのか、投資経験の少ない者には容易に判断できる内容とはいえない。

しかるに、Cの言い分によっても、これらの資料を見せながら一五分くらいかけて説明して、十分な理解を得たという(A乙四二)。

それが事実とすれば、原告は相当証券投資について専門的知識があるということになるが、そのような事実を認めるに足りる証拠はないし、Cは、自己の説明に対し、原告から質問があったかどうかは覚えていないという(C⑧三五丁表)のであって、Cの説明の軽さとともに自ら投資判断ができるまで理解しようとしていない原告の態度が見て取れるというべきであろう。

(三) 買専門口座の問題性

コールオプションに比べプットオプションには損害の限定がない面で危険性が高いが、リスクヘッジのためには、プットオプションも必要であるところ、Cは、平均株価が大きく下げ続けていた時期(A乙四一のチャート(ローソク足)によると、原告がオプションを始めた平成二年二月二一日から四月五日までほとんど日経平均は一本調子で下げ続けている。)であり、かつ、原告が多額の現物株式の取引をし、しかも後述のようにもっぱら買建のみの信用取引をしているにもかかわらず、オプションも「買専用口座」しか開設していない。このような状況でコールオプションしかさせないというのであれば、リスクヘッジの可能性を閉ざすことになるところ、Cが原告に対しそのことを説明した形跡もない。

Cは、オプションの投資判断について、買注文は原告の判断で「買いたい」といわれて執行し、売付は、Cの方から、「利食いで利益を確保したらどうか」とか「価格変動が激しいから、損でも売った方がいい」とか「行使期間満了日が近づいており、権利行使の可能性が少ないので、権利放棄する前に値段が付いているうちに売ろう」などと提案してきたという(C⑧八丁)。また、Cは、このような相場では、プットオプションの買いがよく、原告にも教えたが、原告は、相場が下がって反発すると考えたのか聞いてもらえなかったともいう(C⑧一七丁裏~一八丁表)。

しかし、Cは、もともと買専用口座しか開設していないのであって、買注文が原告のみの判断であったとは考えにくく、買専用口座としたこととともに、Cの投資判断が大きく影響していると見るのが自然である。

3 原告の認識

これに対し、原告は、Cからオプションの説明を聞いたこともなければ、説明書を見せられたこともなく、右約諾書や確認書はいずれも偽造されたものであるなどと全面的に否定する一方で、Cから「オプションとは宝くじとか博打みたいなもので、うまいこといって儲かれば三〇倍、五〇倍になるけれど、あかんかったらゼロになります。でも、あかんようになる前に下がりだしたときに売ってしまえば損をすることはないです。」と言われ、やってみたいという気になったともいう(原告⑨一九丁裏~二五丁表)。

原告の右供述は、前記約諾書や確認書が真正に成立したものと認められることや右のように矛盾した供述をしていることからして、全体として信用できないが、前記のようにCの説明も十全であったともいえず、そのため、原告のオプションに対する理解にも相当の限界があったと推定される。

その程度は明らかではないが、原告は、自らの提案で平成二年三月二八日にプットオプション(買161)とコールオプション(買162)を同時に買い付けているところ、同年二月二一日の取引分で少しだが損をしたことを知っていて怖いから二銘柄を買い、どっちかが儲かればと思ったと述べており(甲三〇、原告⑨四六丁裏、原告⑩二丁裏)、その程度ではあれ、それなりにオプションの知識を得、危険性も認識するようになってきているといえる。

なお、平成三年二月一五日のオプション取引の再開については原告が希望したことであり、Dによれば、この期に及んで止めてくれと言ったが投機好きなのか聞かず、一〇枚というのを五枚にさせて、Cの担当で再開することになったいうことであり(D二一~二四頁)、原告のリスクを省みない投資傾向を示している。

4 k会談について

平成二年四月四、五日ころ、Cは、原告から突然一億五〇〇〇万円の出金を要請され、株価が大きく下落している現状で大金を出金することになれば、損を現実化することになり、善後策協議のため、EとCは、同月五日、祇園の割烹「k」に原告を招待し、取引の現状の説明し、保有銘柄のうち処分するものについて協議した。その際、Cらは、リスクの高いオプション取引を止めるように勧め、同月一一日注文、一二日約定で全てを処分(ただし、全部権利放棄)している(A乙二六の1・2、五五、C⑧一七丁裏、C⑲一七頁~三二頁)。

右k会談につき、原告は、出席したこと自体を否定し、当日は東京から姪が来ており、午後七時三〇分から夕食し、その後カラオケスナックに行ったと述べ、その際の領収書二通(甲三一の1・2)も提出している(原告⑨三三丁裏~三五丁裏)。

確かに、kの領収書によれば料理は二人分しかついておらず、高級料亭に接待されながら食事をしてくることに不自然さがないとはいえないが、Cらとしても、k会談をねつ造しなければならない理由はないのであって、原告が食事を済ませてきたから料理は二人分になったというCの説明(C八回一七丁表)もあり得ないことではないから、原告の右主張は採用しない。

五 本件信用取引の状況について

1 信用取引の開始状況

Hは、かって仕手戦を打った者が日本発条、名古屋鉄道、日本通運の三銘柄を買うとの情報を得、原告に対し、原告名義の口座で購入するよう要請した(H五五頁、原告〈27〉二二頁)。右要請を受けた原告は、平成二年二月二八日、九〇インデックスファンドの不足金を入金するために被告京都支店に行った際、Cに対し、友人から、日本発条、名古屋鉄道、日本通運の株が上がると聞いたので、ぜひ買いたいが、すぐには金はないと申し出た(A乙五五、C⑰一二丁裏~一三丁表)。

原告の希望が強かったので、Cは、信用取引であれば、約定代金分の現金がなくても、被告会社に差し入れた委託保証金を担保として取り引きできること、信用取引には買付と売付があること、六か月以内に反対売買又は現引・現渡で決済すること、委託保証金、委託代用有価証券が大きく値下がりしたり、建て玉の評価損率が大きくなった場合は追証が発生すること、約定代金の一割は現金での委託保証金が必要であることなどを説明した(A乙五五・四項、C⑰一四丁裏~一五丁表)。

それに対し、原告が右三銘柄を信用取引で買いたい意向を示したので、Eと面談させた上で、信用取引口座設定約諾書(B乙三)に署名押印してもらった(A乙五五、C⑰一四丁表~一五丁裏)。

なお、Cは、部内の決済書類である「信用取引口座開設申請書」(B乙四)を起案し、面談管理者としてEが面談し(ただし、Eは部店長ではなく、また面談日が二月二七日となっているのはEの記載間違いと思われる-C⑳七八~七九頁)、Eは、面談の状況として、「投資経験は浅いが、資金力はあり、決断も早い。よく来店され、投資意欲は旺盛。扱者はまだ若いので充分フォローしてゆきたい。」と記載している。

Cの説明やEの面談に際し、原告が特に質問したような形跡は窺えず、投資経験の浅い原告において、どの程度理解できたかは明らかではない。

その後原告は、直ちに銀行に行き、再度来店して、九〇インデックスファンドの不足金二一五万六四〇一円、保証金五九九万六〇〇〇円、印紙代四〇〇〇円の合計八一五万六四〇一円を第三口座に入金した(A乙二の4)。右三銘柄の約定代金は合計三五四〇万円であり、現金保証金はその一割の三五四万円で足りたが、原告は他にも信用取引をする意向を持ち、五九九万六〇〇〇円を差し入れた(A乙五五)。

これに対し、原告は、右三銘柄については現物株式を注文したつもりだったし、原告には十分な資金があり、金がないなどというはずがないし、当日は電話注文であり、被告京都支店には行っておらず、したがって、Cから信用取引の説明を受けたり、前記約諾書に署名押印した事実はなく、Eと面談したこともないと述べている(原告〈27〉二三~二五頁)。

しかし、原告は、前記約諾書に署名押印していると認められる上、右三銘柄を現物取引で買い付けたのであれば、その買付代金は三五四〇万円となり、Hからこれを受け取って入金することになるはずであるが、原告の供述でもHの証言でも、Hが右買付代金を支払った形跡はない。確かに、原告は、平成二年三月五日(月曜日)に二億二七〇〇万円余を入金しており、原告自身の資金手当は十分にできていたと思われ、現物株式の受渡日は、約定日から四取引日目であるから、右入金で決済することはできるが、その一部を右三銘柄の買付代金に充てたのであれば、その場で受渡計算書や株式預り証が交付されるはずであるが、そのような事実はないことからして、右三銘柄の取引が信用取引であったことは明らかといわなければならない。

2 信用取引開始後の経緯

こうしてC担当での信用取引が始まったが、Cは、暴落を続けていた相場状況の中で買建のみを勧め、原告も平成二年二月、三月ころは非常に強気で値下がりすれば受株をすると言ってこれに応じていたが、同年四月には、急に資金が必要になったと言って、相場が値下がりしているときに保有しているものの一部を決済して損失を出したものの、その後の相場の回復に従って、利益を出すことが多くなったことから、同年七月中はさらに強気で買い進んでいたが、同月末ころから相場が不透明で再度連日の下降傾向を示すようになったことから、Dが営業部全体に対し、顧客に投資額を増やさないように指導すること指示し、同月下旬以降は、原告と相談して、新規の信用取引を見合わせることとした。

その後、同年八月に、イラクのクウェート侵攻等のために相場が下落し、原告も次第に弱気になり、同年九月二八日に東洋エンジニアリング(信用)の決済期日が来るので、その期日の約一週間前に、E・Cは原告と相談し、その際、すべての建玉の状況及び預り金の残高等について、口座ごとの資料を見せて説明し、確認してもらっている(A乙五五、五六の2、D四頁、C⑳八二~八四頁)。

原告は、信用取引をしていること自体、平成三年二月ころまで知らなかったと供述しているが(原告〈27〉三六頁)、先に認定したとおり、一月七日会談において、原告は信用取引が全て無断で行われたというような主張はしていなかったし、同日、Dから信用建玉を含む投資の現状全体の説明を受けながらこれに異議を述べず、同月一〇日には、信用取引による買建の一部を現引する資金として八三〇〇万円を入金していることや、右認定の経過に照らして、原告の右供述は信用できない。

3 追証問題

平成二年七月のダウ平均は三万三三〇〇円~三万三四〇〇円であったが、同年九月末には瞬間ではあるが二万円を切るような相場展開となり、多額の評価損が発生していることは明らかであるが、Cは、原告に対し、委託保証金の不足が生じていることは説明し、委託保証金の代用証券としていなかった株式等を入れてもらったことはあったが、追証を要求したり、反対売買による強制決済を通告するようなことはしておらず(C⑳五二~五四頁)、Hからその点を追及されたのに対し、原告の場合は損をさせているので特別に追証を要らないように上司と相談していたと説明している(H二一~二五頁)。

この点について、被告は、追加担保を求めなかったり、建玉の処分を予告しなかったことがあったとしても、それは原告に対する気遣いであると主張(被告第一二準備書面六九頁)し、どの時点でいくらの追証が必要となっていたか等正確な情報を明らかにしていない。

しかし、追証を適正に処理していれば、信用取引の現状やリスクを知る機会ともなり、中止の契機となることもあり、特別待遇はかえって損害を大きくする危険があり、不当な処理というべきであるし、不公正な取引でもある。

六 本件取引の違法性について

1 証券取引の投資勧誘における証券会社の注意義務

(一) 投資家が証券取引その他の取引を行うのはそのリスクの大小を問わず本来自由であり、他方、一般に証券会社等が投資家に提供する情報・助言等は、経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含む将来の見通しに依拠せざるを得ないのが実情であるから、投資家としては取引を行う以上、投資家自身において、自ら収集した情報に併せ、提供された情報・助言等を参考にして、当該取引の特質や危険性の有無・程度、当該危険に耐えうる財産的基礎の有無等を判断し、その適否を決すべきものである(自己責任の原則)。そして、このことは、本件のようなワラント取引、店頭取引、オプション取引、信用取引においても一般的には妥当するものである。

(二) しかしながら、このように証券取引が投資家の自己責任で行われるべきものであるということは、証券会社の行う投資勧誘がいかなるものであってもよいことを意味するものではなく、証券会社が、証券市場を取り巻く政治、経済情勢はもちろん、証券発行会社の業績、財務状況等について高度の専門的知識、豊富な経験、情報等を有する一方で、多数の一般投資家が証券取引の専門家としての証券会社の推奨、助言等を信頼して証券市場に参入している状況の下においては、このような投資家の信頼が十分に保護されなければならないものというべきである。

(三)(1) 証券取引法五〇条一項及び証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号は、証券会社又はその役員若しくは使用人による断定的判断の提供、虚偽の表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめる表示等を禁止し、大蔵省証券局長通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」(昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号)及び日本証券業協会の規則や通達(公正慣習規則一号ないし九号等)なども、証券会社の投資勧誘に際しては、投資者の判断に資するため有価証券の性格、発行会社の内容等に関する客観的かつ正確な情報を投資者に提供すること(説明義務)、投資者の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われることに十分配慮すること(適合性の原則)、特に証券投資に関する知識、経験が不十分な投資者及び資力の乏しい投資者に対する投資勧誘についてはより一層慎重を期すること、顧客カード等により知り得た投資資金の額その他の事項に照らし、過当な数量の有価証券の売買その他の勧誘を行うことのないようにすること(過当売買の禁止)を要請している。

(2) もっとも、これらの法令、通達、協会規則等は、公法上の取締法規又は営業準則としての性質を有するに過ぎないため、証券会社の顧客に対する投資勧誘が、これらの定めに違反したからといって、直ちに私法上も違法となるわけではないが、前記のような投資家保護の要請とこれを具体化した右各規定の趣旨やその制定経過からすれば、証券会社は、投資家に投資商品を勧誘する場合には、投資家の証券会社に対する信頼を保護すべく相当の配慮が要請されるべきである。

したがって、証券会社及びその使用人は、商品内容が複雑でかつ取引に伴う危険性が高い投資商品を一般投資家に勧誘する場合には、当該商品の周知度が高い場合や勧誘を受ける投資家が当該取引に精通している場合を除き、信義則上、投資家の意思決定にあたって認識することが不可欠な当該商品の概要及び当該取引に伴う危険性について説明する義務を負い、また適合性原則をふまえて投資家の意向やその財産状態、投資経験に照らして明らかに過大な危険を伴うと考えられる取引を積極的に勧誘することを回避すべき注意義務を負うことがあるというべきである。

そして、右義務違反があってはじめて勧誘は社会的相当性を逸脱し、私法上も違法なものとして債務不履行又は不法行為を構成しうるものと解すべきである。

2 適合性原則違反について

基礎的事実5で整理したように、ワラント取引、店頭取引、オプション取引、信用取引は、いずれも証券取引の中でも商品性が複雑で、ハイリスク・ハイリターンなど危険性の大きい取引であり、それぞれに投資家保護規制がなされている。その内容には多少の差異があるが、いずれも「証券投資について相当の知識と経験があること」を求めていることでは共通している。これは、証券会社の投資推奨が顧客の投資判断に大きな影響がある実情の下において、相当の知識・経験がなければ、自らその適否を判断し、自己責任の下での投資がなし得ないからである。

しかるところ、原告は、Bの担当で証券投資を始めるまで証券投資の経験はなく、証券投資に関して特別な知識を有していたと認めるべき証拠もなく、遺産相続で多額の資金を得たことから、証券投資の経験のある親戚に勧められるままに被告での証券投資に参入した者であり、自ら適正な投資判断を下せる状況にあったものとはいいがたい。

このような原告の属性からすれば、被告担当者としては、危険性の少ない商品から徐々に勧誘し、証券投資についての経験を積ませ、投資判断の要因や危険性について、ある程度は自らも判断できるように育てていくような姿勢が必要であったといえる。

しかるに、BやCは、原告が取引を始めて間もなくからこれらの取引を勧めたものであり、その経過を整理すると、以下のとおりである。

第一口座開設(B担当) 平成元年一二月六日

ワラント取引開始 平成元年一二月八日

店頭取引開始 平成元年一二月一五日

第二口座開設(C担当) 平成元年一二月二五日

第三口座開設(C担当) 平成元年一二月二六日

店頭取引開始 平成元年一二月二七日

ワラント取引開始 平成元年一二月二八日

オプション取引開始 平成二年二月二一日

信用取引開始 平成二年二月二八日

右の経過を見るとBもCも原告に証券投資の経験が全くないことを何ら考慮せず、取引開始直後から次々と投資判断が難しく、リスクの高い取引を推奨して、判断力が十分でない上、遺産相続で突然見たこともないような大金を手に入れ、資金のみは豊富でリスクに意を用いず、適正な自己管理能力に乏しかった原告が値上がりが期待できるというような被告担当者の説明に安易に応じてきたものと考えられる。

被告は、原告においては、右各取引についての説明を十分に理解できたし、旺盛な投資意欲を有し、潤沢な資金を持ち、大量の取引で急速に投資経験も積んでいったから、適合性の原則に反するところはないと主張し、Cは、Bの担当で上場株式、店頭株式、転換社債、ワラントも行い、相場状況を説明しても十分理解していたし、十分な資力があり、投資意欲が旺盛で、リスクを好み、証券取引を拡大し、不動産投資もしていることから、各取引とも適合性を備えていると判断したと述べている(C⑰七丁、一五丁)。

確かに、原告は大きな資金を自由にできる投資者であり、担当者が丁寧に説明し、それを十分に理解できる能力があったのであれば、経験がないだけで適合性の原則に反するということにはならないであろう。そして、各種取引を続ける中で、少なくとも損益が予測し得ないものであることは身を以て認識していくことも確かであり、原告も次第にそれなりの投資判断ができるようになっていったものと思われるし、前記認定事実によっても、GやH等、被告担当者以外の情報源も持っていなかったわけではないことが認められる。また、原告は、被告京都支店の営業課では最も来店回数の多い顧客であり、株価を見る端末のクイックを自分で操作して、オプションを発注したりしており(A乙四二、D六頁)、証券投資に積極的な姿勢を持っていたことが認められる。さらに、Hの証言(六九~七〇頁、八八~八九頁)によれば、Hは、原告に対し、損金が一五〇〇万円くらいのころに、証券取引を止め、全部売却しするように忠告したが止めさせることができなかったと述べており、相当の損金が出ているにもかかわらず投資意欲が旺盛であったことを示している。

右のように、原告には潤沢な資金力と旺盛な投資意欲があったことは認められるが、それは適正な投資判断ができることを意味しているわけではないし、被告担当者としても、しばらく付き合えば、原告の前記のような投資性向を見て取ることはさして困難ではなかったと考えられる。

その意味で、BとCの投資勧誘には、適合性原則から見て、強い違法性があるとまではいえないし、投資勧誘時期による違いも無視できないところではあるが、総じて相当性を欠くところがあったというべきである。なお、被告自身の取引開始基準により部店長の面談を必要としているオプション取引及び信用取引において、部店長でないEが面談したうえ、取引開始の申請書に誤った記載があった(オプション取引)ことは、適合性判断に影響を及ぼすものというべきである。

3 説明義務違反について

ワラント取引、店頭取引、オプション取引、信用取引は、前記のとおりハイリスク・ハイリターンの性質を有し、その内容も複雑な投資商品であるところ、証券会社が投資家に対してこのような投資商品を勧誘するにあたっては、右に証券一般について述べたと同様、断定的判断の提供による勧誘などを控え、投資の適合性の如何を考慮するとともに、投資家側に勧誘対象である投資商品の知識が十分あるなど特段の事情でもない限り、その特質や危険性を説明すべき義務を負っていることはいうまでもない。

そして、右説明にあたっては、投資の有利性等に比重を置いた説明の中で形式的ないし抽象的に投資商品の概要及び当該取引に伴う危険性について触れるだけでは足りず、投資家が投資の適否について的確な判断ができるだけの情報が得られるように、あるいは投資家自らかかる情報を入手する必要を知ることができるようにこれを行うべきであり、相当の資力や社会経験を有する投資家に対しても、少なくともこれらの投資商品の特質や危険性に関する主要な要素については、これを十分に理解できるようにすべきである。

しかるところ、B及びCは、各取引について求められている説明書を交付したり、確認書を徴求するなどの手続は取っており、その限りでは特段問題とするところは見られないものの、前記認定のように、BやCの説明は、証券投資の初心者である原告に対する説明としては、商品の概略を説明し、一般的なリスクを軽く説明した程度であり、十分に商品特性とリスクを理解させ、担当者の推奨に従うだけでなく、自ら投資の適否を判断させるにあたり必要なだけの情報を提供したとはいえず、その点で説明義務を十分尽くしたとはいいがたい。なお、信用取引での追証問題も原告の投資判断を狂わせる要因として、説明義務違反の範疇に入る問題として指摘しなければならない。

4 過当取引について

原告は、被告が原告の口座を支配し、多数回・高額の取引がなされており、全体として違法な過当取引であると主張する。

(一) 口座支配

まず、原告は、本件取引に関する入出金の多くのものが原告の知らない間に被告担当者によってなされていたから、原告口座は被告に支配されていたと主張する。

しかし、入金については、被告京都支店の二階に原告が現金・小切手を持参し、担当者が入金伝票を作成して、一階の清算窓口で預り証や受領書を受け取ってから原告に交付し、その上で顧客口座元帳に記入(締め後入金の場合は、翌日記帳)しており(C⑰一丁裏~三丁裏)、別紙三(1)ないし(4)の入金欄記載の元帳の記載及びB及びCの証言に照らして、原告に無断で入金がなされたり、口座操作がなされたとは認められない。

また、出金については、原告から出金要求があると、Cが出金伝票を作成して、原告に署名押印をもらい、預り証等徴求した上で、一階の清算窓口で預り証等の確認と印鑑照合を受けて、現金出金又は指定口座に指定日に振り込みがされ、顧客口座元帳に記入されることになっており(C⑰四丁表~五丁表)、別紙三(1)ないし(4)の出金欄記載の出金伝票が存在し、振込分(その出金については争いがない)の一部を除けば、全て原告の署名押印があることからして、原告に無断で出金された事実は認められない。

原告は、入金処理に関して操作が行われていると主張する根拠は、記憶のほか、実際に入金したときの被告からの領収書が市販の用紙を利用したもので、ボールペンで仮と書いて丸がしてあり、一旦探し当てたがまた紛失してしまった(原告⑨四三丁、原告⑩二九丁裏~三〇丁表、原告〈28〉二二頁)とか、店の前に車で乗り付けたら、Cが袋に金を入れて持って来て、どうぞというかたちで、サインもはんこもなしで渡してくれたことがしょっちゅうあった(原告〈29〉四五頁)などというが、証券会社の日常業務からいってあり得ざることであり、容易に信用できない。

その他原告は、多くの入出金を否定し、縷々理由を述べるが、以下に検討する事項を除いては、BやCの証言によって了解可能な事柄であり、原告の指摘は有効な根拠を有するものとは認められない。また、以下の点についても、被告が原告の口座を支配していることにつながるものではなく、結局、原告の主張するような口座支配は認定できない。

(平成二年三月一五日の四〇〇〇万円の出金について)

原告は、右当日は被告京都支店に行っていないと主張しており、MK石油銀閣寺SSで一一時二九分に給油した領収書(甲四〇)を提出している。ところが、同日の四〇〇〇万円の出金伝票(A乙一三)には、一二時七分と刻されており、右時刻は同伝票が精算機を通過した時刻を示している。そうすると、原告が被告京都支店にその前に行き、右出金伝票に署名押印していなければならないことになるところ、原告は、当日は道路工事等があり(甲四一の1~5)、交通渋滞で左京区cの自宅から下京区○○○にある被告京都支店に赴くことは不可能であるという。なるほど道路事情が原告の主張するとおりであれば、時間内に到着することは難しいかもしれない。しかし、四〇〇〇万円という大金の出金の場合は、前日に出金要請がなければ準備が困難であり、この場合も前日に要請があった可能性がある(B⑮一一丁表~一四丁表)。そうすれば、その折りに出金伝票を作成しておいて、翌日、Bが出金して、原告の来店を待つこともありえないのではないかと考えられる。Bは、そのような証言はしていないが、Bが初めて尋問されたのは、右出金から五年も後のことであり、通常は当日出金伝票を記載してもらうことから、当日のその時刻に原告が来店しているはずであると証言したものとも考えられる。また、原告は、当日、○○税務署に確定申告に行った(甲四四)ことをもって、来店できないともいうが、出金を受け取ってから行くことも可能であり、十分な論拠とはいえない。なお、原告の主張するとおりであるとすると、同日出金された四〇〇〇万円は、他の口座に振り替えられた形跡はないから、口座の無断振り替えなどではなく、Bが四〇〇〇万円を横領したことになるが、原告は、Cを告訴しながら(C⑰二八丁裏~三〇丁裏)、本訴提起前はB担当の取引には特に苦情も述べず、告訴もしていない。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(平成二年四月一一日の入出庫について)

顧客口座元帳(A乙一の九、A乙二の一八、一九、四〇)によれば、以下の銘柄について、左記のとおり、第一口座から出庫して、第三口座に入庫されてから売却されている(日は、いずれも平成二年四月)。

出庫 入庫 売却

①ラピーヌ 一〇日 一〇日 一〇日

②協和銀行 一〇日 一〇日 一〇日

③フジタ工業転換社債 一一日 一一日 一〇日

④福徳銀行転換社債 一一日 一一日 一〇日

⑤山一証券転換社債 一一日 一一日 一〇日

原告は、右当日は香港旅行出発日であり、被告京都支店に行くことは不可能であると主張している。

確かに、原告は、六時ころ、Hに迎えに来てもらって、名神京都南インターから大阪空港に向かい、大阪空港駐車場に七時四〇分に入場し(甲七〇の1・2、H一〇~一一頁)、同空港を九時四五分に離陸している(甲一二、四六の2,四七の1・2)ことが認められる。

もし原告が当日被告京都支店で出入庫手続をしたとすれば、六時台の遅くない時間でなければほとんど不可能であり、そのような時刻に手続をしたとは考えにくい。

右当日の出入庫は、k会談の結果に基づいて、保有株式等を処分するためになされたものであり(C⑱二七~二八頁)、売付自体は一〇日付けでされており、第一口座からの出庫も一部は一〇日にされていることからすれば、これらは一連の手続であり、原告が一〇日に出庫請求受領書二通(A乙五八、五九)を作成して、①②(A乙五八)はその日に処理したが、③④⑤(A乙五九)は何らかの事情で翌日回しになり、Bが出庫してCに現券を渡して入庫処理がされたと考えてもあながち不自然とはいえない。Cは、入庫処理をしている以上来店しているはずであるというが(C⑱二二~三三頁)、それ以外の方法が全くないとまではいえないし(C⑲四四頁)、Cは当日の状況を正確に覚えているわけでもない。

(第四口座開設)

原告は、被告が無断で第四口座を開設し、平成二年五月九日に第一口座と第四口座にそれぞれ四〇〇万円が入金され、同月一一日に両方とも出金されていることをもって、被告の口座支配の一証左とする。

右の経過について、当初、Bは明確な記憶を有していなかったが、結果的に、これは、原告が日精エーエスビー新株を入札しようとしたが、一口座で一〇〇〇株(単価三九八〇円)しか入札できないので、F名義で第四口座を開設し、第一・第四の両方に各四〇〇万円入金し、第一口座では入札したが落札できず(A乙一三八)、第四口座では入札を取り止め、いずれも同月一一日出金したものであることが明らかになったものであって(B⑮一八丁裏~二一丁裏、B⑯一〇丁表~一三丁裏、三二丁表)、何ら口座支配を示すものではない。

(二) 取引の過当性

甲八一の1ないし20によれば、原告の平成元年一二月から平成二年一一月までの一年間の各月別買付代金の総額は約三五億〇一四七万円であり、これを各月別投資残高の平均値で除した回転率(顧客の資本(投資額)が証券取引で何回転したかを示す数字)は六・六九となっていること、別紙一によれば、平成元年一二月六日から平成三年三月五日までの間に二四六回(回数は、同日の同一銘柄の買付でも単価ごとにカウントしたもの)の買付がなされ、平成元年一二月一四日から平成三年五月二四日までの間に二七八回(前同)の売付がなされている。そのうち一回一〇〇〇万円を超える取引が買付で五七回、売付で五一回に及んでいる。また、二四六回の買付のうち、半数以上の一二五回は一か月以内に処分されている。ただし、そのうち八三回は利食い売りである。

また、原告は、手数料の不明なワラント、オプション、転換社債、ファンドを除いた取引の手数料が四〇五一万円余であると主張するところ、被告は明らかにこれを争わないから、本件取引で少なくともそれだけの手数料収入を得たことを自白したものとみなす。

右のような取引回数や一回あたりの取引額は、個人投資家としては極めて多く、一年余で手数料が四〇〇〇万円を超えていることも尋常であるとはいえない。ことに、原告が証券投資を始めて自主的な投資判断が十分にできていないと思われる四か月以内(平成二年三月末日まで)に右買付のうち約半分が実行されていることは、原告がCに依存し、その推奨を無批判に受け入れて過大な投資をしてきたことを示すものといえよう。

また、Cは、相場が不透明で再度連日の下降傾向を示すようになった平成二年七月中頃、Dから営業部全体に対し、顧客の投資額を増やさないように指示が出ていたにもかかわらず、同月二七日から同年九月五日までの間に二億〇四六一万円余もの買付(買290~297)を勧めており、社内指示にも反する過大な取引というべきである。

しかし、このような高額の取引がなされたのは、原告の投資金額の多さや投資性向が反映したものであることは否定できず、被告が口座を支配して、一任的に取引をしてきたとはいえないこと、原告が投資を始めた時期がたまたまバブル崩壊の直前という時期にあたったため、投資判断に困難が伴い、短期間で利食うことも状況としてはやむを得ない判断と考えられなくもないことなどを勘案すれば、BやCが意図的に手数料稼ぎをしたとまではいえず、相当性を欠くというべきではあるが、直ちに違法ともいいがたい。

5 一任勘定取引について

(一) 本件取引の投資判断

一任勘定取引が規制されていること、その弊害については、原告が指摘するとおりであるところ、原告は、本件取引は、狭義又は広義の一任勘定取引にあたり違法であると主張し、原告は、これに沿って、Bに、任せておけば損はないと言われて一任し、Bから推奨されて分かりました、結構ですということで取引が進められ、自分から銘柄等を指定したことはないといい(原告⑨三九丁表~四一丁表)、Cの担当でも、五〇〇〇万円預け、いい物が出たら相談しましょうというような取引状態であり(原告⑨四四丁表)、素人は口出しせずにプロに任しておいてくださいといわれていたので、入金の都度、Cに報告を求めるようなことはせず、プロに任せていたら、損することはないと思っていたなどと述べている(原告⑩一〇丁)。

しかし、原告がBやCに具体的に取引を一任したと認めるに足りる証拠はない。

もっとも、原告は、平成二年三月二七日にEから推奨されると千代田化工建設(信用取引)一〇万株二億五〇六〇万円(買154,155)を購入したり(C⑰二三丁表~二四丁裏)、相場の不透明感から投資を拡大しないよう指示されている時期にもかかわらず、非常に値上がりが期待できるとCから勧められると特に検討した形跡もないままに大東建託八〇〇〇株九八一六万三七五七円(買294~297)を購入したり(C⑰一九丁裏)しており、Cらの投資判断に強く依存していることが見て取れる。

(二) 平成三年三月二四日会談でのCの発言

原告は、平成三年三月二四日にCを自宅に呼んで、O弁護士とIと原告が事情を聞いた際(以下「三月二四日会談」という。)、Cが「そのとき(三月五日)までは任してもらっていたというのは事実なんです。金額的にもそんな大きな金額じゃなかったんで、ちょこまかちょこまかやっていたんです。」(A乙五九・二六~二七頁)とか、「売りも任されていました。」(A乙五九・三一頁)などと発言したことをもって、少なくとも平成二年三月五日までは狭義の一任勘定取引がされていたと主張するが、追及的な会談の中の会話の片言を捉えての評価は妥当性を欠くし、Cの説明によれば、前者の発言は、平成二年二月二八日の信用取引を始める以前は取引も小さいし、会社の方針でというよりも原告担当のCの判断で売買を推奨して進めさせてもらっていたというような趣旨である(C⑱七四丁裏~七八丁裏)と述べ、後者については、売のタイミングなどもCが判断していたという趣旨で完全に任されて勝手にしていたわけではない(C⑱七八丁裏~七九丁裏)というが、あながち不自然な説明ともいえない。右会談での他の発言からも原告がCの投資判断に依存的であったことは窺えても、完全にCが一任されて、原告の了解も得ないで取引を実行していたことをCが認めたと確実に判断できるような発言は認められない。

(三) 海外旅行中の取引

前記認定のとおり、原告は、平成二年一月一五日から同年一〇月二八日までの間に七回海外旅行をしているところ、その間(出発日及び帰国日を含む)に合計七四回の売買がなされている。

右旅行中の取引について、原告は、狭義の一任勘定取引であったと主張しているが、全ての判断が一任されていたとまで認める証拠はない。

Cは、原告の海外旅行中の取引について、全て海外からの電話での指示か事前協議に基づいた取引であるという(A乙五五)が、右のように多数の取引について、時々刻々と変化する相場について、全て事前に協議がなされていたとは考えられない。Cは、平成二年七月の二回の旅行のときは、事前に打ち合わせ、どの銘柄をどれだけ買うか、価格の範囲などを協議して、それに基づいてその範囲で取引し、原告が帰ってから報告はしており、このころは価格について多少範囲をいただいていた(C⑱六丁裏、八〇丁裏~八一丁表、C⑳一一頁)とか、ハワイ旅行のときは連絡が取れなくても取引してほしいということだったので事前打ち合わせをしてEが受けた(C⑳七頁~一八頁)などと述べており、国際電話での指示等もあったにしても、一定の範囲では、原告から判断を任されていた部分があることは明らかであり、取引回数の多さは問題といえよう。

しかし、短期間の旅行中に限定されていること、取引の基本は事前協議されており、事後報告もされていることからすれば、違法とまではいえない。

なお、原告は、海外旅行中の取引の多くは、Cが勝手にしたものであると主張しているが、確実に無断取引と認めるべき取引は見出せない。

6 取引状況の報告について

原告は、本件取引については、取引報告書等がほとんど原告に渡されていないと主張するので、以下に検討する。

(一) B担当の取引

Bの取り扱った取引については、被告本社から原告の登録住所(c)宛に、約定日・銘柄・数量・単価・約定金額・消費税・手数料・受渡代金・受渡日等が記載された取引報告書(A乙五一=サンプル)が送付されていたほか、原告は、平成元年一二月中は週二、三回、平成二年一月以降は週に一回程度は被告京都支店に赴き、一時間ないし一時間半程度は店頭におり(B⑭九丁表)、その折りにBは、原告に対し、保有中の銘柄の取引状況や預り金の残高を事務用端末機SDPで打ち出した「顧客別全勘定残高」(A乙五三=サンプル)や「預り金口座の取引経過」(A乙五四=サンプル)を見せるなどして説明し、清算時には取引明細書(A乙五二=サンプル)を交付し、取引内容の確認を求めてきたことが認められ(B⑭九丁表~一三丁裏)、取引状況の報告に何らの問題もない。

原告は、B取引の報告書等はcに送られてきていたが、見方も聞いていないし、開けてもいなかった(原告⑩一二丁)というが、大金を投資しているのに、証券会社からの書面を関心を持ってみないというのは不自然であり信用できない。

(二) C担当での取引

被告は、取引の適正を担保する趣旨で、取引ごとに取り扱い支店とは無関係に被告本店から直接顧客に対し、取引報告書を送付することになっているが、C担当での取引については、登録住所を居住していないdとしたため、別紙四の被告本店及び被告京都支店から送付した文書が届かず、被告本店から送付した文書は被告支店に回送された後、再び被告支店から平成二年一月一二日に原告の登録住所(d)宛に送付されているが、到達したか否か定かではない(C⑳六二~六三頁)。

その後、平成二年二月一〇日ころ、原告は、Cの指示で局留め(配達先不明による留置措置)の手続をとり(甲三〇、原告〈27〉六三頁)、以後、登録住所をcに変更した同年三月一五日までは、預り証等の取引上必要のある書面は、Cと一緒に郵便局に取りに行くなどしていた(甲三〇)。

登録住所を変更した後は、原告の手元に届くようになり、原告及びFは同年七月二四日にdの新居に移転しており、第三口座の登録住所は、平成三年三月一一日まで変更されていないが、郵便局に住所変更手続がされているはずであり、新居へ転居した後は、原告宛の文書もF宛の文書もdに届いていると考えられる(原告は、dに引っ越してからも、ダイレクトメール類がたくさん来るのを避けるために、転居届は出さなかったという(原告〈27〉六五~六六頁)が、新居に郵便物が届かないようにするとは考えられない。)。

原告は、局留めの書類を受け取った際、Cから、「預り証だけが必要です。持って帰ります。」と言って、紫の線が入った書面を原告には見せないで持って帰り、その他の書類は重要ではなく、捨てたらよいとのことだったので、何の書類か確認することなく捨てた(甲三〇)とか、「重要な書類をなくすと大変なことになります。本社からの郵便は開封しないで店に持ってきてください。」と言われたので、原告だけで郵便物を取りに行ったときも、Cの言うとおり、開封しないで被告京都支店に持参し、Cに渡した(甲三〇、原告⑨一八丁表)などと述べるが、Bの関係で被告から送付される文書の内容は了知しているはずであり、Cはそういう指示はしていないと述べているし(C⑰二五丁表~二六丁裏)、Cの言を信じて一切の文書を見なかったという原告の供述はたやすく信用することはできない。

結局、別紙四の文書以外は、原告の手元に入っていると考えられるところ、オプションを買い付けたときは、取引種別「株式オプション新規」の報告書(銘柄、約定金額、受渡代金等が記載されている-A乙一七の1=サンプル)、転売によって決済したときは、取引種別「株式オプション決済」の報告書(A乙一七の2=サンプル)、権利放棄したときは、取引種別「株式オプション権利放棄」報告書(A乙一七の3=サンプル)が送付されるし(C⑧一四丁表)、清算時には、取引種別「株式オプション新規」及び「株式オプション決済」の「お取引明細書」(A乙二〇の1・2)が交付される(C⑧一六丁裏)。その他の取引についても、B担当の取引と同様の文書が送付されるから、原告は、これらを見ることによって、取引内容を一応は把握できる状況にあったというべきである。

その他、Cも原告の来店時には、SDPで保有中の銘柄の状況や預り金の残高を打ち出して説明しており、預り証の交換などの清算についてはほとんど店頭で行い、その際、取引明細書も渡し、その都度、保有中の銘柄の状況や預り金の残高を説明していることが認められる(A乙五五)。

7 本件取引全体の違法性について

以上検討を進めてきたように、本件取引には、危険性の高いワラント取引、店頭取引、オプション取引及び信用取引について、適合性原則の面で強い違法性はないが、相当性を欠くところがあり、説明義務の面でも要求される説明を十分尽くしたといえないところがあり、本件取引全体との関係で取引の過当性が見られるなど、個々の違法性は高くはないが、多くの不適切な投資勧誘が複合して、原告に巨額の損害を与えたものであって、本件取引は全体的にみて、違法性を有するというべきであり、被告は、その限度に応じた責任を負うべきである。

七 賠償すべき損害額について

1 本件取引による損害

右に判断したように、取引種別ごとに、また担当者ごとにその違法性は微妙に異なるが、それらの違法性が本件取引全体に影響して損害を発生させたものといえるから、本件の損害を評価するについては、Dの取引分も含めて本件取引全体の損害を対象として見ることとするが、現物取引とそれ以外の取引とは、その違法性の程度が異なるから、その限度では別個に評価するのが相当である。

その損害を整理すると以下のとおりである。

現物取引による損害 一億五五六四万九二〇五円

現物取引以外の損害 二億七八七八万六二七二円

2 被告の寄与の程度

B及びCによる本件取引の勧誘は、原告が投資経験がないにもかかわらず多額の投資を無造作に押し進める中において、先のような点において不相当あるいは違法と評価すべき事実が認められたが、BやCがことさらに欺罔的な手段を用いたとか、断定的判断を提供したり誤導したりしたというわけではなく、また、BもCも口頭の説明に加えて、必要な説明書等を交付して原告が自ら検討する機会も与えていたことなどを考慮すれば、その違法性ないし過失の程度はさほど大きくはなかったものというべきである。

これに対し、原告は、BやCの説明に耳を傾けたり、自ら交付された説明書や取引報告書を研究したり、取引状況を整理することなく、資金力に任せてリスクの高い取引にも慎重な対応をとらず、HやCらの忠告にも意を用いず、取引を拡大していったものであり、結果の大部分について自己責任を負うべきである。

以上のような諸般の事情を総合すると、原告の前記損害のうち、被告の寄与による部分は、現物取引による損害についてはその一割、その他の取引による損害については二割と認めるのが相当である。

なお、原告は、本件において過失相殺をすることは不当であると主張するところ、たしかに意図的になされた欺瞞的勧誘方法によって顧客に誤解を与えるなどした場合については、顧客側の不注意を咎めるのが相当でない場合もあるというべきである。しかし、勧誘者がことさらに欺瞞的な手段を用いたような場合でなく、相当の理解力をもつ顧客を相手に、一応の説明もし、資料も提供し、それらを子細に読めば理解できる状況を設定している以上、顧客が理解していることを期待したとしても、これをあながち責めることはできないのであり、それにもかかわらず必要な判断材料の獲得に欠けるところがあったとすれば、それによって生じた損害は、勧誘側と顧客側の具体的な関わりの中で、両者の落ち度によって生じたものとみるべきであり、その寄与の程度に応じた損害の公平な分担が図られてしかるべきであり、原告の右主張は、その限りで採用できない。

3 賠償額

したがって、本件取引による損失のうち、被告が原告に対して損害賠償をなすべき金額は、七一三二万二一七四円とするのが相当であり、弁護士費用については、その約一割の七〇〇万円をもって本件不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

八 結語

以上のとおり、原告の請求は、七八三二万二一七四円及びこれに対する不法行為後である平成三年四月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官松本利幸及び同中尾彰は、填補のため、署名捺印できない。裁判長裁判官 井垣敏生)

〈以下省略〉

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