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京都地方裁判所 平成3年(行ウ)25号 判決

京都市上京区寺町通上立売西入毘沙門町四四二

シャトーやなぎ三〇五号

原告

表弘

右訴訟代理人弁護士

籠橋隆明

高山利夫

小川達雄

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被告

上京税務署長 宮崎一也

右指定代理人

本多重夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、平成二年三月二日付けでした原告の昭和六一年ないし六三年分(以下、本件係争各年分という。)の各所得税更正処分のうち、別表1の確定申告欄の各総所得金額(各事業所得の金額)欄記載の金額を超える部分及びこれに対する過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  請求の類型(訴訟物)

本件は、原告が、被告のした本件係争各年分の各所得税更正処分(以下、本件各処分という。)に調査手続上の違法及び総所得金額を過大に認定した違法があるとして、その取消を求めた抗告訴訟である。

二  前提事実(争いがない)

原告は肩書住所地(以下、原告方という。)において、ファーストデンタルという屋号で歯科材料卸売を営むいわゆる白色申告者であり、その本件係争各年分の所得税の確定申告、更正処分、異議申立て、異議決定、審査請求、裁決の経緯は、別表1記載のとおりである。

三  原告の主張

1  調査手続の適法性について

被告は、次の違法な税務調査に基づき本件各処分をした。

(一) 事前通知をしなかった。

(二) 具体的調査理由を明らかにしなかった。

(三) 必要性もないのに安易に取引先に対する調査を行った。

2  推計の合理性について

(一) 原告は昭和五四年一月に開業した新規の業者で、診療機械のメンテナンス技術がなく、近畿歯科用品商協同組合(以下、協同組合という。)に加入できないため、仕入先も制限されている。したがって、あらゆる商品について値引きをしなければ取引先の開拓ができず、原告の原価率は、他の同業者に比べて高い。たとえば、昭和六一年に開業した加納歯科に対する売上原価率は、九三・三一%である。

被告抽出の同業者は、協同組合に加入し、メンテナンス技術を有しており、原告と類似性がない。

また、原処分時の同業者と異なっており、抽出に恣意がある。

(二) 被告主張の仕入金額(売上原価の額)のうち、株式会社ヨシダ(以下、ヨシダという。)岡山営業所との取引はなく、ピジョン陶歯株式会社(以下、ピジョンという。)及び米内歯科産業株式会社(以下、米内という。)との取引額は、争う。その余りの仕入金額も争う。

(三) 被告主張の特別経費のうち、給料賃金については認めるが、その余については争う。

(四) 原告の平成四年分の事業所得の金額は、別表7記載のとおり、一四六万一〇六四円、売上金額は七六一八万四一二三円、仕入金額(売上原価の額)は六五二四万九二四五円であるから、売上原価率(売上金額の対する売上原価の額の割合)は八五・六七%、売上原価に対する所得金額の割合(以下、売上原価所得率という。)は二・二二三%である。

平成四年と昭和六一年ないし六三年との間で、原告の事業内容、形態、規模とも変化はない。しかるに、被告主張の本件係争各年分の売上原価率、売上原価所得率とも、右平成四年の率と大きく異なっており、被告主張の右各率が、原告の事業実態を反映していない証左である。

したがって、原告本人の平成四年分の売上原価所得率二・二二三%を適用して、原告の本件係争各年分の所得金額を算定することがより合理的である。

四  被告の主張

1  調査手続の適法性について

所得税法二三四条一項所定の質問検査権の範囲、程度、時期、方法等は、税務職員の合理的な選択に委ねられており、事前通知、調査理由の告知等も、その要件ではない。

本件税務調査手続に、社会通念上相当な限度を越えた違法な点はない。

2  推計の必要性について

(一) 被告は、部下職員をして、原告の本件係争各年分の所得税調査に当たらせた。右職員は、平成元年九月二九日以降、四回にわたり原告方に赴き、帳簿書類の提示等税務調査に対する協力を求めたが、原告は忙しいなどとして税務調査に協力しなかった。

(二) このため、被告は、やむを得ず、原告の取引先等に対する反面調査を行い、推計により算定した金額に基づき本件各処分を行った。

(三) したがって、本件につき、推計の必要性が存在する。

3  推計の合理性について

被告は、原告の本件係争各年分の事業年度の金額を算定するに当たり、同業者の平均売上原価率及び平均算出所得率を適用したが、右同業者の抽出経緯及びそれに基づく推計が合理的であることは、以下に述べるとおりである。

(一) 大阪国税局長は、原告の事業所の所在地を所轄する被告上京税務署長並びにその近接地域を所轄する中京、下京、右京、東山、左京、伏見、宇治、園部、茨木、枚方、大津及び今津の各税務署長に対し、各税務署管内の個人の納税者のうちから各年分を通じて次の(1)ないし(7)の各条件のすべてに該当するすべての者を抽出し、報告するよう通達指示したところ、右各税務署長が右抽出基準に従って抽出した同業者は、別表3の1ないし3に記載のとおりであり、その総数は、五名であった。

(1) 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること。

(2) 歯科材料卸売業を営んでいること。

(3) 右(2)記載の事業以外の業種目を兼業していないこと。

(4) 事業所が上京、中京、下京、右京、東山、左京、伏見、宇治、園部、茨木、枚方、大津及び今津税務署のいずれかの管内にあること。

(5) 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

(6) 売上原価の額が三〇〇〇万円以上、一億五〇〇〇万円未満であること。

なお、右基準の売上原価の額の範囲は、右抽出基準の設定時までに被告が把握し得た原告の仕入金額が、昭和六一年分が七一七七万三二〇九円、昭和六二年分が七二三〇万三九九一円、同六三年分が六〇六九万五九七五円であることから、上限を昭和六二年分のおおむね二倍、下限を同六三年分のおおむね〇・五倍としたものである。

(7) 対象年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

(二) 右(一)の抽出基準に基づいて抽出された本件各同業者は、原告と業種、業態及び事業規模等において類似性を有し、しかも、その数値は申告に基づいて正確性の裏付けを有する青色申告者に係るものであるから、右数値は推計の基礎となし得るものである。

また、同業者の抽出は、大阪国税局長が発した前記通達に基づいて、各税務署長が無作為、かつ、機械的に右抽出基準に該当する者のすべてを抽出したものであるから、その抽出に当たって恣意の入る余地がない。

(三) したがって、右により抽出された各同業者の算出所得率等については正確性と普遍性が担保されているものであり、被告が、これらを用いて原告の本件係争各年分の事業所得の金額を推計したことには合理性がある。

4  原告の主張に対する反論

(一) 同業者の平均所得率及び売上原価率による推計の方法(いわゆる平均値による推計)の場合は、各同業者の営業状況に差があるのはむしろ当然のことであって、同業者間に通常存在する程度の営業上の諸形態の差異は、平均化することによってその値の中に吸収され、捨象されるものであって、納税者の個々の営業状況は、それが当該平均率による推計を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、これを斟酌する必要がない。

(二) 原告は、新規参入者であること、協同組合に未加入であること及び機械のメンテナンスも行えないことから、他の業者と比較して原価率が高く、競争上不利である旨主張する。

しかし、原告は、訴外大洋歯材株式会社(以下、大洋歯材という。)勤務(入社)三年半で商売のコツを掴み、原告の主たる取引地域の京都においては、その有能さが取引先以外にも広まり、昭和五四年一月一日に開業した後も、大洋歯材勤務の経験と知識を活かし、歯科材料卸しの業界で働くこと以外考えていなかったのであるから、開業七年目ないし九年目の本件係争各年分における原告の事業は、営業上も軌道に乗っていたと推認され、他の業者と比較して有利でこそあれ、不利であるとは到底信じられるものではない。

また、協同組合未加入であること及び機械のメンテナンス技術を持っていないこと等をもって推計における合理性が否定されるものではない。

(三) 原告は、被告の抽出した類似同業者が、原処分段階と異なっており、誠に不自然であるから、被告の同業者抽出基準に恣意性がある旨主張する。

しかしながら、本件訴訟は、課税処分の取消訴訟であり、問題は、課税処分において確定された税額が、租税実体法によって客観的、抽象的に定まっている税額を超えているか否かにある。そして、税額算出の根拠となる事実は単なる攻撃防御の方法にすぎないのであるから、被告が原告の真実の所得額を認識するために基礎とした資料に、原処分時と差異が生じたとしても何ら不自然ではないし、また、右処分の正当性を維持する理由として、更正の段階において考慮されなかった事実を新たに主張することはもとより許される。

(四) 原告は、原告自身の平成四年分の収支から計算される売上原価率及び売上原価所得率が、被告主張の同業者比率と異なることをもって、被告主張の同業者比率が原告の事業形態を適切に反映していないとして、被告のした推計に合理性がない旨主張する。

しかし、推計課税は、課税標準を実額で把握することが困難な場合、税負担公平の観点から、実額課税の代替手段として、合理的な推計の方法で課税標準を算定することを課税庁に許容した実体法上の制度である。そうすると、推計課税は、実体法上、実額課税とは別に課税庁に所得の算定を許すことを認めたものであって、真実の所得を事実上の推定によって認定するものではないから、その推計の結果は真実の所得と合致している必要はなく、実額近似値で足りるものである。そして、その推計の方法も、真実の所得を算出しうる最も合理的なものである必要はなく、実額近似値を求める程度の一応の合理性を有するものであれば足りる。

したがって、他により合理的な推計方法があるとしても、課税庁の採用した推計方法に実額課税の代替手段としてふさわしい一応の合理性が認められれば、推計課税は適法である。

したがって、推計方法の優劣を争う主張自体失当である。

とりわけ、本件の場合、原告の主張する本人率の基になった平成四年分の確定申告書やその基礎となった原始資料等は、本件訴訟提起後に作成提出され、あるいは収集されたものであるから、その正確性には払しょくし難い疑義があり、そもそも、本件各処分時に、被告にとって、利用可能性のない資料であったことは明らかである。それにもかかわらず、原告は、本件係争各年分の所得に関し、厳格に実額反証を尽くそうとするのではなく、このような本人率を用いて被告の推計の合理性を争おうとするのであって、その主張の不当性は明らかであるといわなければならない。

のみならず、事業所得金額は、その時々の経営状態や経済変動等によって相当変わり得るものであるから、本件係争各年分をはさむ前後の時期の売上原価率等が明らかにされ、これらの比率が一定の傾向を示す場合でなければ、被課税者本人の売上原価率等をもって推計することは合理的でないというべきところ、原告主張の本人比率の比準年は平均四年分のみで、かつ、本件係争各年分とは数年の隔たりがあるのであるから、原告主張の本人比率をもって本件係争各年分の推計することは何らの合理性もないといわざるを得ず、仮に原告主張の本人比率と同業者比率との間に相当な差異があるとしても、被告の推計の合理性を減殺する事情とはならないことは明らかである。

5  事業所得の金額について

原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、別紙2「原告の事業所得の金額の計算」の〈10〉欄記載のとおりであり、昭和六一年分が一一五七万六一三二円、同六二年分が一〇五五万八六五八円、同六三年分が七九七万三一一四円である。

右事業所得の金額の算定方法は以下のとおりである。

(一) 売上金額

原告の本件係争各年分の売上金額は、後記(二)記載の売上原価の額を、別表3の1ないし3「同業者率明細表」〈3〉欄に記載の各同業者の当該年分の売上原価率(売上金額に対する売上原価の額の割合)の平均値(以下、平均売上原価率という。)でそれぞれ除して算定したものである。

(二) 売上原価の額

原価の本件係争各年分の売上原価の額は、昭和六一年分が七二九二万七二〇九円、同六二年分が七〇七六万七一四二円、同六三年分が六〇六八万一九七五円であって、その明細は別表4「仕入金額明細表」に記載のとおりである。

なお、各年分の期首及び期末の各商品棚卸高が不明であるため、期首と期末を同額とみて、各年分の仕入金額を当該年分の売上原価の額とした。

(三) 算出所得金額

原告の本件係争各年分の算出所得金額は、別表2の各〈5〉欄記載のとおりであるが、これらの金額は、前記(一)の原告の本件係争各年分の売上金額に、別表3の1ないし3「同業者率明細表」〈6〉欄に記載の算出所得率(各同業者の当該各年分の売上金額に対する算出所得金額《売上金額から売上原価の額と特別経費に相当する給料賃金、利子割引料、地代家賃、貸倒金、建物減価償却費、減価償却資産の除却損及び税理士報酬等を除いた一般経費とをそれぞれ控除した金額》の占める割合)の平均値(平均算出所得率)をそれぞれ乗じて算出したものである。

(四) 特別経費

(1) 給料賃金

原告の本件係争各年分の給料賃金は、いずれも大嶋英子に対して支払ったものであって、その金額は、別表2の各〈6〉欄記載のとおり、昭和六一年分及び同六二年分がおのおの一九〇万円、同六三年分が一四二万円である。

(2) 利子割引料

原告の本件係争各年分の利子割引料は、いずれも西陣信用金庫本店に対して支払ったものであって、その金額は、別表2の各〈7〉欄記載のとおり、昭和六一年分が一〇万八八三九円、同六二年分が七三〇九円、同六三年分が二万七二六九円である。

(3) 地代家賃

原告の本件係争各年分の地代家賃は、京都市上京区寺町通上立売西入毘沙門町四四二シャトーやなぎ三〇五号のマンション(原告の事業所兼居宅)の賃借料として小柳一彦及び小柳美代に対して支払ったものであって、その金額は、昭和六一年分が七七万七〇〇〇円、同六二年分が七二万円、同六三年分が八一万六〇〇〇円であるが、原告は、同マンションの三分の一を居住用として使用していると認められるので、原告の事業専用割合をいずれの年分も三分の二として算定したもので、別表2の各〈8〉欄記載のとおり、昭和六一年分が五一万八〇〇〇円、同六二年分が四八万円、同六三年分が五四万四〇〇〇円である。

(五) 事業所得の金額

原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、前記(三)の算出所得金額(別表2の各〈5〉欄記載の金額)から、前記(四)記載の特別経費の合計額(別表2の各〈9〉欄記載の金額)を差し引いて計算したものであり、その金額は別表2の各〈10〉欄記載のとおりである。

第三争点の判断

一  調査手続の適法性について

所得税法二三四条一項所定の質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものである。したがって、調査手続きの違法は、それが刑罰法規に触れたり、公序良俗に反する等およそ税務調査を行ったとはいえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合を除いては、課税処分の取消事由にはならないものと解するのが相当である。

そうすると、原告の主張する前記第二の三の1記載の事実関係を前提としたとしても、被告の事実関係を前提としたとしても、被告の部下職員による質問検査権行使の過程に本件各処分の取消事由となるような重大な違法があるとは認められないから、主張自体失当というべきである。

のみならず、右質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられている。また、事前通知を行うことや調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は、質問検査を行ううえの法律上一律の要件とされているものではない(最決昭四八・七・一〇刑集二七巻七号一二〇五頁、最判昭五八・七・一四訟務月報三〇巻一号一五一頁参照)。

いわゆる反面調査についても、質問検査を必要とする客観的理由が存在する限り、右の要件の下に質問検査権行使の一つとして反面調査を行うことができる。

そして、本件において、事前通知をしなかったこと、調査理由の開示をしなかったこと、取引先に対する反面調査を行ったことなどにつき、調査担当職員に裁量権の濫用があるとか、本件調査の方法や程度が、原告との利益衡量において、社会通念上相当な限度を越え違法であるとすべき事実は、本件全証拠によるも認めることはできない。

よって、原告の主張1は失当である。

二  推計の必要性について

証拠(乙二七ないし二九、証人鷹羽、原告)、弁論の全趣旨によれば、被告の主張2(一)の事実が認められる。

したがって、被告が原告の本件係争各年分の所得税を算出するについて、推計課税を行う必要があったことが認められ、これに反する原告本人尋問の結果(一部)は、信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  推計の合理性について

1  同業者の抽出経緯

(一) 証拠(乙二、三(いずれも枝番を含む。)、証人石井)によれば、被告の主張3(一)事実が認められる。

右同業者の選定基準は、業種、業態の同一性、事業規模の近似性等の点で同業者の類似性を判別する要件として合理的なものである。その抽出作業について被告あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地は認められず、かつ、右調査の結果の数値は青色申告書に基づいたもので、その申告が確定しており信頼性が高い。抽出した同業者数も五名であるから、各同業者の個別性を平均化するに足りるものである。そして、右各同業者の本件係争各年分の売上金額、売上原価率、算出所得金額、算出所得率は、別表3の1ないし3記載のとおりである。

したがって、右各同業者の算出所得率の平均値等を基礎に算出された原告の本件係争各年分の事業所得金額の推計には、特段の事情のない限り、合理性があるものということができる。

(二) 原告は、新規の業者で、診療機械のメンテナンス技術がなく、協同組合に加入していないため、あらゆる商品について値引きをしなければ取引先の開拓ができず、原告の原価率は、他の同業者に比べて高いにもかかわらず、このような原告の業態の差異を無視して同業者が抽出されている旨主張し、原告本人はその旨供述(甲一六一九は陳述書)しており、証拠(甲四ないし四六、一二一ないし一二五、原告)によれば、原告が、昭和六一年、加納歯科の開業に当たって納入した歯科材料の原価率は、原告主張のとおり九三・三一%であることが認められる。

しかし、推計による所得金額の算出においては、その性質上、同業者との間に通常存在する程度の営業条件の差異は、平均値の中に吸収されるものであから、右平均値の中に吸収されず、推計による所得金額の算出を不合理ならしめるような特殊事情は、原告において、具体的根拠を示して立証しなければならない。

本件においては、メンテナンス技術の有無や協同組合加入の有無が、売上原価率や算出所得率に著しい影響を及ぼし、業態の類似性を欠き、平均値による推計を不合理ならしめる特殊事情であることについて、原告の供述以外に的確な裏付けはなく、しかも、原告の場合には、医療機械のメンテナンスはメーカーが行っているというのであるから(原告)、納入した医療機械のメンテナンスが行われていない訳ではなく、右認定の加納歯科へ納入した歯科材料の原価率を考慮しても、これだけで右特殊事情が立証されたということはできず、右主張は採用できない。

原告は、本件訴訟における同業者は、原処分時の同業者と異なっており、抽出に恣意があると主張する。

しかし、本件類似同業者の抽出経緯は、前認定のとおりであって、なんら恣意があるとは認められず、右主張は採用できない。

2  原告の本件係争各年分の事業所得の金額

(一) 売上金額

原告の本件係争各年分の売上金額は、後記(二)記載の売上原価の額を、別表3の1ないし3「同業者率明細表」〈3〉欄に記載の各同業者の当該年分の平均売上原価率でそれぞれ除して算定したものであり、別表2の〈1〉欄記載のとおり、被告の主張額と同額である。

(二) 売上原価の額

証拠(乙四ないし二六(いずれも枝番、孫番を含む。)、証人石井、原告)によれば、原告の本件係争各年分の売上原価の額は、別表2の〈2〉欄記載のとおり、昭和六一年分が七二九二万七二〇九円、同六二年分が七〇七六万七一四二円、同六三年分が六〇六八万一九七五円であって、その明細は別表4「仕入金額明細表」に記載のとおりであることが認められる。

なお、各年分の期首及び期末の各商品棚卸高が不明であるため、期首と期末を同額とみて、各年分の仕入金額を当該年分の売上原価の額とした。

原告は、ヨシダ岡山営業所との取引を否定するが、乙一一に照らして、右主張は採用できない。

原告は、ピジョン及び米内との取引を争うが、証拠(乙一八、一九(いずれも枝番、孫番を含む。)、証人石井、原告)によれば、ピジョン及び米内は、本件係争各年分当時原告の仕入先であったこと、そして、原告振出の手形が、別表5記載のとおり、ピジョンにより取り立てられ、原告振出の手形及び小切手が別表6記載のとおり米内から取り立てられ、また、原告から米内宛振込がなされていることが認められる。これに、弁論の全趣旨から認められる原告振出の手形の支払サイト、これら手形・小切手の振出年月日、手形・小切手番号・取立・振込年月日をも考え合わせると、その取引年度は、別表5、6記載のとおりと推認することができる。

(三) 算出所得金額

原告の本件係争各年分の算出所得金額は、前記(一)の原告の本件係争各年分の売上金額に、別表3の1ないし3「同業者率明細表」〈6〉欄に記載の平均算出所得率をそれぞれ乗じて算出したもので、別表2の各〈5〉欄記載のとおりであり、被告の主張額と同額である。

(四) 特別経費

(1) 給料賃金(争いがない。)

原告の本件係争各年分の給料賃金は、いずれも大嶋英子に対して支払ったものであって、その金額は、別表2の各〈6〉欄記載のとおり、昭和六一年分及び同六二年分がおのおの一九〇万円、同六三年分が一四二万円である。

(2) 利子割引料

証拠(乙三〇)によれば、原告の本件係争各年分の利子割引料は、いずれも西陣信用金庫本店に対して支払ったものであって、その金額は、別表の各〈7〉欄記載のとおり、昭和六一年分が一〇万八八三九円、同六二年分が七三〇九万円、同六三年分が二万七二六九円であることが認められ、被告主張額と同額である。

(3) 地代家賃

証拠(乙三一)によれば、原告は、京都市上京区寺町通上立売西入毘沙門町四四二シャトーやなぎ三〇五号のマンション(原告の事業所兼居宅)の賃借料として、小柳一彦及び小柳美代に対して、昭和六一年分・七七万七〇〇〇円、同六二年分・七二万円、同六三年分・八一万六〇〇〇円の支払をしたことが認められる。そして、弁論の全趣旨によると、原告は、同マンションの三分の一を居住用として使用していることが認められるので、原告の事業専用割合をいずれの年分も三分の二として算定するのが相当であるから、特別経費としての地代家賃の額は、別表2の各〈8〉欄記載のとおり、昭和六一年分が五一万八〇〇〇円、同六二年分が四八万円、同六三年分が五四万四〇〇〇円となり、被告主張額と同額である。

(五) 事業所得の金額

以上のとおりであるから、原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、前記(三)の算出所得金額(別表2の各〈5〉欄記載の金額)から、前記(四)記載の特別経費の合計額(別表2の各〈9〉欄記載の金額)を差し引いて計算したものであり、その金額は別表2の各〈10〉欄記載のとおりとなり、被告主張額と同額である。

四  原告主張の推計方法について

原告は、本件係争各年分の原告の事業所得の金額の算出に当たっては、同業者比率を用いるよりも、平成四年分の原告の売上原価率及び売上原価所得率を用いる方が、より合理的と主張する。そこで、原告主張のように推計方法の優劣を争いうるのか否かにつき検討する。

そもそも、推計課税(所得税法一五六条)は、課税標準を実額で把握することが困難な場合、税負担公平の観点から、実額課税の補充的代替的手段として、合理的な推計の方法で課税標準を算定することを課税庁に許容した実体法上の制度と解するのが相当である。そうすると、推計課税は、実体法上、実額課税とは別に課税庁に所得の算定を許す行為規範を認めたものであって、真実の所得を事実上の推定によって認定するものではないから、その推計の結果は、真実の所得と合致している必要はなく、実額近似値で足りる。だから、推計方法の合理性も、真実の所得を算定しうる最も合理的なものである必要はなく、実額近似値を求めうる程度の一応の合理性で足りると解すべきである。

したがって、他により合理的な推計方法があるとしても、課税庁の採用した推計方法に実額課税の補充的代替的手段にふさわしい一応の合理性が認められれば、推計課税は適法というべきである。それとの推計方法の優劣を争う主張は、主張自体失当である。

そして、被告主張の推計方法が一応合理的であることは、前認定のとおりであるから、原告の推計方法の優劣を争う主張は、主張自体失当といわざるをえない。

のみならず、事業所得金額は、その時々の経営状態や経済変動等によって相当変わり得るものであるから、本件係争各年分をはさむ前後の時期の売上原価率等が明らかにされ、これらの比率が一定の傾向を示す場合でなければ、被課税者本人の売上原価率等をもって推計することは合理的でないというべきところ、原告主張の本人比率の比準年は平成四年分のみで、かつ、本件係争各年分とは数年の隔たりがあるうえに、その間にいわゆるバブルの崩壊という急激な経済変動が生じたことは明らかであるから、原告主張の平成四年分の本人比率をもって本件係争各年分の所得を推計すること自体、合理性がないといわざるを得ない。

よって、原告の右主張は採用できない。

第四結論

以上のとおりであるから、被告の推計による本件各処分は、いずれも別表2の各事業所得の金額の範囲内でなされた適法な処分であり、これに違法な点はない。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 中村隆次 裁判官 池上尚子)

別表1

課税の経緯

〈省略〉

別表2

原告の事業所得の金額の計算

〈省略〉

別表3の1

同業者率明細表(昭和61年分)

〈省略〉

別表3の2

同業者率明細表(昭和62年分)

〈省略〉

別表3の3

同業者率明細表(昭和63年分)

〈省略〉

別表4

仕入金額明細表

〈省略〉

別表5

ピジョン陶歯(株)手形金額明細表

〈省略〉

別表6

米内歯科産業(株)手形金額明細表

〈省略〉

米内歯科産業(株)小切手金額明細表

〈省略〉

米内歯科産業(株)振込金額明細

〈省略〉

米内歯科産業(株)取引金額明細表

〈省略〉

別表7

決算修正

〈省略〉

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