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京都地方裁判所 平成3年(ワ)843号 判決

原告

梅津昌平

御手洗由紀子

コープ鴨川A棟自治会

右代表者自治会長

望月満子

右三名訴訟代理人弁護士

飯田昭

川中宏

佐藤健宗

折田泰弘

中村広明

尾崎高司

田中伸

南部孝男

藤田正樹

湖海信成

橋本皇玄

安保嘉博

被告

甲野春子こと

A

甲野一郎こと

B

右両名訴訟代理人弁護士

川木一正

松村和宜

被告

有限会社○○総合企画

右代表者代表取締役

乙川二郎

右訴訟代理人弁護士

長野元貞

被告

丙川三郎

右訴訟代理人弁護士

松本俊正

主文

一  原告梅津昌平及び同御手洗由紀子は、被告丙川三郎の有する別紙物件目録記載の区分所有権及び同目録記載の敷地権について競売を申し立てることができる。

二  被告丙川三郎と同Bとの間の別紙物件目録記載の建物専有部分に関する賃貸借契約を解除する。

三  被告Bは、原告梅津昌平及び同御手洗由紀子に対し、別紙物件目録記載の建物専有部分から退去して、これを引き渡せ。

四  被告有限会社○○総合企画は、原告梅津昌平及び同御手洗由紀子に対し、別紙物件目録記載の建物専有部分から退去して、これを引き渡せ。

五  被告らは、原告梅津昌平及び同御手洗由紀子に対し、別紙物件目録記載の土地上の建物専有部分を改造して設置された別紙図面1に斜線で表示された建物部分工作物及び動産類を撤去し、かつ左記復旧工事をせよ。

1  バルコニーの床面をモルタル塗りコテ押え仕上とする。

2  西側外壁面(別紙図面1赤線部分)に幅1.7メートル、高さ1.8メートルの引き違いアルミサッシ二連を取り付ける。

3  専用庭の境界部分(別紙図面1青線部分)に南側住戸と同様の高さ1.05メートルの鉄製フェンスを設置し、かつ、同部分北側及び西側にフェンス用石積基礎を設置し、サザンカの植栽を行なう。

六  被告らは、原告梅津昌平及び同御手洗由紀子に対し、別紙物件目録記載の建物専有部分北側外壁面を損壊して設置された別紙図面2記載の換気扇及びフード(同図面の①の部分)、換気孔二孔に設置されたベントキャップ(同図面の②③部分)及び同図面の①ないし⑥部分の合計六箇所の貫通孔に通してある配線、配管その他一切の附属物を撤去すると共に、同図面記載の①ないし⑥部分の合計六箇所の貫通孔をコンクリートまたはモルタルで埋め戻し、外壁面をモルタル下地スタッコ仕上げで復旧せよ。

七  被告らは、原告梅津昌平及び同御手洗由紀子に対し、別紙物件目録記載の建物専有部分内に設置してある別紙図面3に表示された地下室及び地下室に至る階段、同地下室内の一切の造作・内装・付加物・設備・動産を撤去・搬出し、地下室内を良質の山土でグランドレベルまで埋め戻し、鉄筋で補強されたコンクリート製床スラブの復旧工事をせよ。

八  被告らは連帯して、原告コープ鴨川A棟自治会に対し、金二〇〇万円を支払え。

九  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、マンションの区分所有者が管理組合の集会の決議に基づき、暴力団組長らの賃借使用する建物専有部分の区分所有権に対し建物専有部分の競売、賃借人との賃貸借の解除及び改造部分の原状回復を、建物専有部分の賃借人ら占有者に対し改造部分の原状回復及び建物専有部分からの退去を、被告らの行為がいずれも不法行為になるとして、管理組合が被告らに対し弁護士費用の支払いをそれぞれ求めた事件である。

一争いのない事実

1  当事者

(一) 原告コープ鴨川A棟自治会(以下「原告自治会」という。)は、京都市左京区〈番地略〉所在マンション「コープ鴨川A棟」(別紙物件目録記載の一棟の建物。以下「本件マンション」という。)の区分所有者全員をもって構成する管理組合(自治会長望月満子)であり、原告梅津昌平は同管理組合暴力団排除対策委員会委員長であり、原告御手洗由紀子は同委員会副委員長の妻で、いずれも本件マンションの区分所有者である。

(二) 被告甲野一郎(本名B、以下Bという。)は、暴力団四代目会津小鉄(旧称会津小鉄会、以下「会津小鉄」という。)の若衆で、かつ会津小鉄甲野組の組長の地位にある者であり、本件マンションの一階一一一号室(別紙物件目録記載の建物専有部分。以下「一一一号室」という。)を占有している者である。

(三) 被告有限会社○○総合企画(以下「被告会社」という。)は、被告Bが社員となり、昭和六三年一二月に設立された美術工芸品等の販売を主たる業務とする会社であり、一一一号室を占有している者で、被告会社の商号は、「一郎」の頭文字である「○」=「○」と「甲野」の頭文字である「○」=「○」をとった略称からなるものである。

(四) 被告甲野春子(本名A、以下「A」という。)は、被告Bの母親であり、平成二年一二月二八日まで、一一一号室の区分所有者であった。

(五) 被告丙川三郎は、平成二年一二月二八日、一一一号室の区分所有者になった者であり、被告Bの妹の夫にあたる。

2  本件マンションは、昭和四五年に建設された五階建てのマンションであり、六六室を有するもので、東面及び南面が琵琶湖の疎水沿いに位置し、西面入口部分が生活道路に面しており、都心部にありながら閑静な住環境を形成している。

3  一一一号室は、昭和四七年八月二五日、被告Bの内縁の妻である丁海夏子に、昭和五五年一一月一日付けで、被告Aに、次いで被告丙沢に所有権移転登記が経由された。

4  被告Bは、昭和四七年八月ころから、一一一号室に丁海夏子に同居する形で入居したが、その後、被告Aから期間昭和五五年二月四日から昭和五八年二月三日までの三年間、賃料月額一万円の約定で賃借することとし、平成二年一二月二八日、一一一号室の登記名義が被告丙沢に移転された際には、被告会社とともに被告丙沢から期間三年、賃料月二万円の約束で一一一号室を借り受けた。

5  一一一号室は、本件マンションの西側北端に位置し、元々の間取りは2DKで別紙図面4のとおりであり、その西側窓の外には、他の一階室と同様、バルコニー(床面をモルタル塗り、コテ押え仕上げにしたもの)及び専用庭があり、室の西側の六畳和室、ダイニングキッチンからバルコニーへの各出口に、幅1.7メートル、高さ1.8メートルの引き違いアルミサッシ二連がそれぞれ設置され、専用庭と西側のマンション駐車場ないし北側敷地との間には、他の一階室前と同様に、仕切りとなる高さ1.05メートルの鉄製フェンス・フェンス用石積基礎及びサザンカの植栽が設置され、さらに南側隣室専用庭との境にも鉄製フェンスが設置されていたが、被告Bは、昭和五〇年ころまでに、本件マンションの西側に面した専用出入口を設け、地下室を作った。

6  被告Bは、昭和六二年ころ、本件マンションの北側に隣接するコープ鴨川B棟の一階にあるカサブランカというステーキハウスに来た客の車が、同店の専用駐車場に入る際、同被告の子供と接触するということが起きた折り、日本刀を持って、その客に文句を言うためカサブランカに乗り込んだことがあった。

7  医療法人十全会京都双ケ岡病院の関連会社であり、同病院の職員の宿舎関係及び同病院の営繕関係を担当する関西建物管理サービス株式会社は、昭和六〇年七月ころに、右病院の看護婦・職員の宿舎用に、本件マンションの二一一号室(一一一号室の真上の二階の部屋)を含む本件マンション四室を購入したが、昭和六〇年一二月に二一一号室居住者が、水漏れ事故を起こし、一一一号室に被害を生じさせたことから、関西建物管理サービス株式会社は、一一一号室を修理した。その後、昭和六三年九月ころ、被告Bから、二一一号室の売却申し入れがあり、同社はトラブルの発生をおそれて同室の売却をしようとしたが、同被告は、代金一五〇〇万円、五回分割払い、初回支払後入居という二一一号室の買受け条件を示し、これに対して、右会社は、同被告への売却を断ったところ、同年一〇月一一日に、甲野組組員Cが同病院の赤木虎夫事務局長の右太股を包丁で刺し、入院加療約一ヵ月を要する重傷を負わせるという刺傷事件が発生した。

8  被告Aらは、被告Bが一一一号室の出入口を別に作って以来、本件マンションの出入口を使用していないから、本件マンションの管理費を支払う必要はないとして、昭和五〇年七月から本件マンションの管理費(現在の月額七七〇〇円)及び途中から積立金(現在月額七七〇円)も支払わないようになった。

9  管理費の他にも、被告Bは、本件マンションの駐車場区画のうち一一一号室前の一区画を使用しながら、分譲業者である近畿土地から駐車場の永久使用権を買っていると主張して、管理組合の定めた駐車場料金(現在月額二二〇〇円)を支払わない。

10  被告Bは、家族とともに転居し、主たる住所を京都市内の左京区松ケ崎に移転している。

11  平成二年一一月には、被告B及び被告会社は、再び、一一一号室を改造し、以前に改造した西側出口を大きく張り出した出入口にし、外壁を黒塗りとし、玄関ドアをスモークガラスとし、玄関に向かって左側にモニターカメラを設置し、サーチライトを取り付け、玄関庇部分に「(有)○○総合企画」という金看板を掲げた。

12  原告自治会は、このような状態に対処するため、平成二年一二月二一日、原告梅津及び原告御手洗を指定訴訟追行者として、京都地方裁判所に一一一号室の暴力団事務所としての使用禁止等を求める仮処分の申請を行なった。平成三年二月六日、同裁判所は一一一号室の暴力団事務所としての使用禁止及び一一一号室に掲示された甲野組を表示する文字板、同組を表象する紋章、額縁、提灯、日本刀等の撤去などを認める仮処分の決定をした。被告B及び被告会社は、平成三年二月一五日の仮処分の執行の際には、文字板、紋章、額縁、提灯等を撤去していたが、日本刀については仮処分の執行後に再び掲げられた。

13  平成二年一二月八日及び平成三年一月二七日に改正された本件マンション管理規約(以下「管理規約」という。)には以下のような規定がある。

(一) 区分所有者及び占有者は、その占有使用部分及び共用部分をそれぞれの定められた用法によって使用し、その使用にあたっては、共同の利益を守り、良好な環境を保持するように努めなければならない(二六条一項、二項)。

(二) 区分所有者及び占有者は、共同生活環境が侵害される恐れがある者又は暴力団もしくはその構成員に、その所有又は占有部分を譲渡または貸与してはならないとともに、自ら暴力団の構成員になり、又はその専有部分を暴力団事務所として使用し、もしくは次の各号に列記する行為をしてはならない(第二六条の二、新設。)

(1) 専有部分の内外を問わず、対象物件内へ暴力団の組織、名称、活動等に関する看板、名札、写真、絵画、提灯、代紋、その他これに類する物件を掲示又は搬入する行為

(2) 対象物件内に暴力団構成員、同準構成員等を居住させ、又はこれらの者を反復継続して出入りさせる行為

(3) 対象物件内又はこれに近接する場所において、暴力、傷害、脅迫、恐喝、器物破損、逮捕監禁、凶器準備集合、賭博、売春、ノミ行為、覚醒剤、拳銃、火薬類等に関する犯罪を実行すること(関係者が同様の犯罪を実行する場合を含む)

(4) 対象物件又はこれに近接する場所において粗野または乱暴な言動をして、居住者、管理者、出入者等に迷惑、恐怖感、不安感を与える行為(関係者が同様の行為をする場合を含む)

(三) 区分所有者及び占有者が、「建物専有部分の基本構造を変更したり、その外観を変更すること」、「公序良俗に反する行為をすること」、「他人に迷惑を及ぼしたり、不快の念を抱かせる行為をすること」を禁止している(二七条二、七、八号)。

(四) 「共用部分(専用使用部分を含む)の変更及び専有部分の変更であっても、コープ鴨川A棟の建物全体の外観に影響を及ぼす変更は総会の決議を経て行なわなければならない」と定めている(二九条一項)。

二当事者の主張

1  原告らは、被告Bが、二度にわたり他の区分所有者の同意を得ることなく一一一号室を違法に改装したこと、一一一号室を暴力団事務所としたこと、本件マンションで発生させた事件や脅迫的な言動によって他のマンション住民に甚大な恐怖感を与えたことなどが、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)の義務違反者に対する制裁規定に該当すると主張し、区分所有者である被告丙沢に対しては同法五九条に基づく区分所有権の競売を、占有者である被告B及び被告会社に対しては同法六〇条に基づく引渡を、被告ら全員に対して同法五七条に基づく原状回復をそれぞれ請求している。

2  これに対し、被告らは、要旨、本件マンション一階部分については、その目的は当初居住のほか事務所とする事も可能だったものであり、これに伴い、被告Bは、一一一号室入居の際、独自の出入口の設置、専用の庭を取り込んでの玄関の築造、当初から存在する地下の空洞を利用して地下室を作ることについて、近畿土地の同意を得ていたものであり、一一一号室は被告会社の事務所として使用していたものであり、暴力団事務所として使用したこともなく、結局、被告らには、区分所有法の義務違反者に対する制裁規定に該当するような事由はないなどと主張して原告らの請求を争っている。

第三当裁判所の判断

一証拠(〈書証番号略〉、検証、鑑定、原告梅津、原告自治会代表者、被告B、同坂田)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認定できる。

1  本件マンションが建築された昭和四五年ころ、本件マンションには入居者は、一〇世帯ほどしかなく、次第に入居者が増えていくという状態にあった。

2  被告Bが本件マンションに入居したのは、昭和四五年ころであり、同被告は本件マンションの一室に賃借人として、丁海夏子及び三人の子供と共に「野村」という名前で居住を始めた。このころは、同被告は、一一一号室において家族とともに住み、自治会結成の会合に参加する、近所の子供が同被告の子供のところに遊びに来るといった生活を送っていた。

3  当初、本件マンションに自治会はなく、分譲業者である近畿土地が、管理人を出し、本件マンションの管理と入居者の世話をする形であったが、その後に、マンション管理の必要から、本件マンションにも自治会が結成され、自治会が依頼した管理人が置かれるようになった。被告Bは、自治会が結成される過程においては、委員を勤めるなど自治会に参加をしていたが、昭和四八年三月ころ、管理規約として、マンションのそれぞれの外観を変えることができない、改装をすることができないという条項の制定について審議している管理規約の原案作成の場に、同被告が、自分の買ったマンションだからどうしようと勝手ではないかと非常な勢いで怒鳴り込んで来たことがあった。

4  被告Bは、昭和四七年ころから昭和五〇年ころまでの間に、一一一号室の西側の外壁面にひさしを取り付けて独自の出入口を設け、前にある生垣とその基礎部分を取り除き、駐車場との境に白柵、後にはブロック塀を作り、郵便受けも設置し、その結果、本件マンションの玄関を通らずに、西側駐車場から直接出入り出来るようにし、同被告は、新しい出入口のみを使用するようになった。そして、従来玄関に面していたマンション内の通路には、戸棚をおいた。

右の通路は、夜一〇時以降、居住者以外の者が入れないように本件マンションの正規の出入口は閉めてしまうため、夜間に本件マンション住民が利用する通路であり、本件マンション住民は、一一一号室北側の路地を通って、マンション横の入口から、右通路を利用して各室に入る際、同被告が一一一号室の改造を行い、夜間通路の両側に木箱や鳥かごを置き、竿を渡して洗濯物を干したりするなど、非常用の通路を私有地のように使ったため、夜間通路の利用に不便が生じた。

5  更に、出入口の工事の他にも、工事中、土砂を一一一号室から運び出していることから本件マンションの住民は不思議に思っていたところ、一一一号室に遊びにいった近所の子供から聞き、一一一号室に地下室が作られていることを知った。その地下室は、一一一号室の床下を利用し、柱の下の基礎部分を避ける形で別紙3のような地下室で、広さ約24.4平方メートル、地下室の床から一階の床までの高さ約三メートルのもので、その内部に付属設備として、流し、ガス器具、照明、コンセント及び換気扇を有している。

6  右のような状況に対し、本件マンションの居住者の不安は増大し、管理人や管理組合役員が話合い、当時役員をしていた佐竹に被告Bと、未払分の本件マンション管理費の支払、通路に置いた戸棚の撤去及び出入口は独自のものを使用するのではなく、本件マンションの本来の出入口を使用するように交渉することを依頼し、同被告に出入口の改装に対し、抗議を申入れたが、佐竹は、逆に組員に監禁されて詰問されたらしく、交渉の経過を話そうとせず、役員を辞任して、翌年には引越してしまった。

7  右の頃から、一一一号室に出入りする者は、他のマンション住民の駐車区画に勝手に車を駐車させ、本件マンション住民が自車の出入りの妨害になっているとして車の移動を頼んでも、暴言を吐いたり、住民の車をパンクさせたり、フロントガラスを割ったり、バックミラーを折る等の言動をとって、車を移動させることはなかった。

8  被告Bの子供とカサブランカの客が接触事故を起こした際に同被告が相手方へ抗議をした時の態様は、上半身裸となっていれずみを見せ、日本刀を半ば抜き掛けた状態で持って、文句を言うためにカサブランカに乘込み、その客が逃げ出すや日本刀でカサブランカの椅子等の備品を叩くといったものであった。

9  被告Bと関西建物サービス株式会社の本件マンション二一一号室に関する売却交渉の過程においては、昭和六三年九月ころ、再び、同被告から、二一一号室が水漏れを起こしている、被害を見にきてくれと言われ、同被告方を右会社の社員が訪れたところ、同被告から「このまま上を持っとったらトラブルが起こるし、この際譲ったらどうや。」と申入れられ、右会社としてもトラブルの発生をおそれて同室の売却をしようとしたが、同被告に譲渡することは、暴力団に譲渡することになり社会的には問題と思われたことと、同被告が暴力団組長であることから代金が確実に支払われるか不安であったこともあって、右会社は、同被告への売却を断ったものである。この売買交渉の過程において、同被告は、再三、医療法人十全会京都双ケ岡病院の事務局長の電話番号を教えろと迫るなどした。

10  右のような事件によって本件マンション住民や周辺住民は恐怖感を募らせていった。

11  被告会社は、昭和六三年ころ、当時甲野組組員であったCと同じく組員であったDが相談し、組の活動資金を得るために作られた会社で、カラオケ機のリース、注文家具の仲介、絵のリース等を営業目的としていた。ただ、会社として、最初から順調ではなかったので、先ず、カラオケ機のリースを通じて、スナック等の水商売関係に顔をつなぎ、その後、地域繁栄促進補助会という会を作り、会員を募って資金を得ることを計画した。

同年六月ころから、本件マンションの附近で、波北三千生の経営する喫茶店に対し、Dらにおいて前記の地域繁栄促進補助会に入会することを強要し、波北がこれを断ると、連日、組員が店を訪れ、暴言を吐き、いかにも暴力団組員であるということがわかるような振舞をして客席に居座るなどして、店の営業を妨害した。この営業妨害の際に、Dは甲野組の肩書入りの名刺や被告会社の肩書入りの名刺を使っていた。

12  被告Bが住居を一一一号室から左京区松ケ崎に移転させたのは、平成元年初めのころであり、同年二月ころ、同被告は本件マンションを甲野組の新事務所と表示した移転通知を配付し、一一一号室を、暴力団会津小鉄系甲野組の組事務所として使用し始めた。

13  平成二年一一月一三日より被告Bは、一一一号室の著しい改造工事に着手した。同工事は、本件マンションの駐車場に仮説小屋を設けて、隣の一一二号室の垣根を大型機械のユンボでつぶし、共有部分の生垣とその基礎部分を完全に撤去し、一一一号室の駐車場に面した西側の壁面を完全に取り去って、ひさしを上部外壁に取り付け正面玄関として突出させるとともに、室内とベランダの境にあるアルミサッシを撤去し、ベランダと共有部分である専用庭の部分を建物内部に取り込んで建物を増築し(増築面積約12.9平方メートル)、室内間仕切りを撤去し、配管スペースと便所を除いて、浴室の撤去、台所の移動、新たな玄関を設置して、内部を事務所用ワンフロアに変更するものであった。

その他、専用庭と駐車場の境界部分に設置されていたフェンス、縁石も撤去され、撤去した部分の一部は、一一一号室の専用庭部分をはみだして玄関へのアプローチにし、その他の部分は石積をして、木を植えて花壇にしたが、この花壇は一部、共用部分である本件マンションの北側犬走り部分にまでわたっている。その他の一一一号室外側北側部分は、洗濯機、エアコン室外機の置場として利用され、共用部分たる北側コンクリート外壁に、換気扇用の直径約三〇センチメートルの穴、換気口用の直径約12.5センチメートルの穴二か所、エアコン配管用の直径約7.5センチメートルの穴三か所の合計六か所の穴が開けられた。

14  このような被告Bらの改装中、マンション住民らは昼夜を問わない騒音や埃に悩まされ、自らの垣根をユンボで壊された隣室の一一二号室の住民が同被告方へ文句を言いにいったところ、「ごちゃごちゃ言うな、もっときれいにしたる」といった発言をし、本件マンション住民らは、このような同被告らの改築に対して、工事途中は、同被告らに対する恐怖心が先立ち、何ら抗議行動をとることはできなかった。

15  被告Bは、前記12のとおり平成元年二月ころから、一一一号室を暴力団事務所として使用していたが、同年一一月ころからの改造により本格的に暴力団事務所としての体裁を整え、組事務所として使用するにいたった。事務所内には、暴力団会津小鉄であることを示す瓢箪のマークや提灯、「甲野組本部」と書かれた額及び五本の日本刀などが掲げられた。

16  平成二年一二月一〇日午後には、黒いスーツ、パンチパーマ、サングラスといった風体で外車等に乗った暴力団風の男約二〇人が、一一一号室に集結し、組事務所開きを行なった。右の事務所開きの際には、暴力団員風の男がつるはしをもってもう一人の暴力団員風の男に殴りかかろうとすることもあった。

17  更に、本件マンションの駐車場に、来客用の駐車区画は設けられていないため、来客は管理人に申し出て、空いている駐車区画に車を駐車させることとなるが、一一一号室への来客は、事務所開設以前と同様に、他人の駐車場所に対して管理人に断らずに駐車をし、何台分もの駐車区画を利用し、本件マンション住民が車を駐車させようとしても、一一一号室の来客に怒鳴られたり、脅かされたりするため、本件マンション住民は、自らの駐車場さえ使用することができなくなった。

18  このような一見して暴力団とわかる黒服の男の出入りや他人の駐車場所に対する外車の違法駐車が日常的に行なわれるようになり、本件マンションの住民及び地域の住民は、マンション前の生活道路を安心して通れない状態になった。夜間の出入口についても、従来夜間出入口として使用していた一一一号室脇の北側出入口の使用を中止し、平成三年一月には、玄関右側のアルミサッシの戸から居住者のみが、鍵を使用して出入りできるように夜間出入口を新たに設置した。

19  平成二年一二月三日、本件マンションの居住者有志が集って、暴力団排除対策委員会を発足させ、暴力団事務所の撤去を求め、デモ、署名運動を展開するようになり、暴力団排除の訴訟提起のために、訴訟追行者の選定、管理規約の整備といった措置をとるべく、平成二年一二月八日に、原告自治会は、京都教育文化センターにおいて臨時総会を開催し、区分所有法第五七条に基づき共同利益背反行為停止請求の提訴を行なうこと、原告梅津及び同御手洗を区分所有法五七条三項に基づき訴訟追行者と指定することを、議決権数及び区分所有者のほとんど全員全個数一致の賛成で決議した上で、平成三年一月二六日に、管理規約に暴力団排除条項を設けるなどの、管理規約の改正を行い、先ず、被告B及び被告会社らの使用禁止の仮処分を京都地裁に申請した。

20  被告B及び被告会社は、一一一号室に対する仮処分の審尋の期間中においても、行動を改めないばかりか、同被告及びその配下の甲野組員らが、同年一月一六日に本件マンションの各戸を二人組でノックして回り、事務所として使用していないかを確認する、写真を撮影するなど住民に対する威迫行為を行ない続け、右仮処分決定後も、同被告及び被告会社は、引続き暴力団員及びその関係者を出入りさせ、暴力団事務所としての使用を継続し、仮処分の執行の際には撤去していた文字板、紋章、額縁、提灯等についても、平成三年二月一五日の仮処分の執行後に、再び日本刀を掲げるなどし、同年一月一五日ころには、同被告他四名の者が、原告梅津方を訪ね、ドアを叩き、チャイムを鳴らして、「こら、お前こんなとこ、自転車置いたら邪魔じゃ、さっさとどけんかい、偉そうにするな、こら」と文句を言い、一メートル半位のところから写真を撮りに来たため、原告梅津方の子供が脅えて泣きだしてしまうなどのいやがらせ行為があった。

21  競売請求にあたって、原告自治会は、平成三年一月二六日に弁解の機会を与えるため、通知を発送し、被告らに到達した。

22  平成三年三月ころから、会津小鉄組系の暴力団と山口組系の暴力団の間の抗争事件が生じ、会津小鉄系の組長宅など連続した四件の発砲事件で死傷者二名が出て、新聞等でも大きく取上げられたが、一一一号室では、三月一三日から一週間程入口全体をシートで覆い隠していた。

23  平成三年九月ころには、被告Bは、野球賭博の賭金を負けた者から取り立てるために、一一一号室に債務者を連れ込み、約一時間半にわたって債務者を監禁し、この債務者を殴ったり、脇差しをちらつかせる等の暴行脅迫を行う事件を起こし、この事件により、逮捕され、起訴された。

24  平成三年一一月ころ、居住者の一人が他所にマンションを購入するため、本件マンションを担保にして資金の融資を銀行に申入れたところ、銀行から本件マンションには暴力団組事務所があるので融資をすることはできないと断られた。

二なお、被告らは、本件マンション一階部分は、その使用目的は居住のほか事務所とする事も可能であり、被告Bは、一一一号室入居の際、独自の出入口の設置、専用の庭を取り込んでの玄関の築造、当初から存在する地下の空洞を利用して地下室を作ることについての同意があったと主張するが、いずれも分譲業者である近畿土地はこれらの点を否定しているうえ(〈書証番号略〉)、まず、使用目的の点については、前記認定の一一一号室の間取りや、ほかに事務所として使用している者がないことにも照らすと、事務所として使用することまで許されていたものとは認められず、また、改装工事の承諾の点については、仮に近畿土地の承諾があったものとしても、被告Bが工事を行なった各部屋に接続するバルコニーや基礎部分、専用庭、地下部分はいずれもマンションの共有部分に属し(管理規約六条、七条)、分譲開始後にあっては、共用部分の変更は区分所有者の集会の決議(区分所有法一七条、昭和五九年の同法の改正前の一二条にあっては、共有者全員の合意)を必要とするが、これが存在せず、また、管理規約二六条の二、二七条、二九条に違反することは明らかであるから、右改造は違法であることを免れないものというべきである。

三そこで、右認定事実に基づき、被告らに対する請求について検討するのに、被告Bによる二回にわたる違法な改造行為、配下の組員らの事務所としての使用、駐車場やマンション内の一一一号室前通路の使用についての日頃の言動、その他マンション内外における粗暴な言動など一連の行為は、他の区分所有者らに恐怖感を与えてその平穏を著しく害し、本件マンションの評価を低下させたものであり、その管理、使用に関して区分所有者共同の利益に違反する行為であり、、これによる他の区分所有者らの共同生活上の障害は著しい程度に至っているものと認められる。また、従前に比べ、一一一号室での組員らの出入りは少なくなっていることが認められ、現在のマンションの所有者である被告丙沢は、その本人尋問において今後その家族とともに居住するために使用すると供述しているが、一一一号室が当初被告Bの家族によって使用されていながら暴力団事務所に利用されるに至ったものであること、その後の同被告らの一連の問題に対する区分所有権者らに対する対応、被告丙沢は暴力団事務所としての使用禁止等についての裁判所の仮処分申請直後に一一一号室の区分所有名義を取得したものであること、被告Bと被告丙沢の近親関係などを考慮すると、被告らの対応に任せることなどの方法で他の区分所有権者らの共同生活上の重大な障害を除去して円満な共同生活の維持を図ることは困難であるといわざるを得ない。

四そうすると、原告らの請求は、競売、引渡、原状回復のいずれについても理由がある。

また、前記認定の事実からすると、被告らの行為は、建物の管理及び使用に関し区分所有者たる原告らの共同の利益に反しているばかりではなく、原告らの共同生活上の利益を著しく損なうものと認められるから、区分所有者に対し不法行為の責めを負うものというべきである。

ところで、原告自治会は、原告ら区分所有者が区分建物に関する共同の利益のために構成した団体であるから、区分所有者に代って被告らに対し、本件マンションに関し生じた不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができると解するのが相当である。そして原告自治会は、原告らの被った損害としての弁護士費用二〇〇万円の支払いを求めているが、本件事案の概要や難易その他の諸般の事情を考慮すると右金額が被告らの右不法行為と相当因果関係にたつものと認められる。

なお、本件については、仮執行の宣言は相当でないので付さないこととして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官下村浩藏 裁判官大野勝則 裁判官梶美奈子)

別紙物件目録

一棟の建物の表示

所在 京都市左京区聖護院蓮華蔵町四六番地

建物の番号 コープ鴨川 A棟

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根五階建

床面積 壱階 1069.85平方メートル

弐階 1014.05平方メートル

参階 1014.05平方メートル

四階 978.30平方メートル

五階 978.30平方メートル

敷地権の目的たる土地の表示

土地の符号 1

所在及び地番 京都市左京区聖護院蓮華蔵町四六番

地目 宅地

地積 3130.82平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 蓮華蔵町四六番壱壱四

建物番号 コープ鴨川A棟壱壱壱

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造壱階建(地下室有)

床面積 48.25平方メートル

敷地権の表示

土地の符号 1

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 壱〇〇〇分の七

別紙図面1ないし4〈省略〉

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