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京都地方裁判所 平成3年(わ)119号 判決

主文

被告人を懲役六年及び罰金一〇〇万円に処する。

未決勾留日数中四五〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある覚せい剤二五袋(平成三年押第二〇四号の1ないし13、16ないし18及び20ないし28)を没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、平成三年一月二三日午後六時五〇分ころ、大阪市天王寺区清水谷町二〇番七号ハイツヒルトン「パート4」五〇一号室において、フェニルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する覚せい剤二五袋合計約三三〇・八五グラム(平成三年押第二〇四号の1ないし13、16ないし18及び20ないし28はその鑑定残量)を所持したものである。

(証拠の標目)(省略)

(争点に対する判断)

一  弁護人は、本件証拠中被告人の覚せい剤所持の事実を示す証拠物、鑑定書等は違法収集証拠であって証拠能力がないから排除されるべきであり、また、被告人には覚せい剤所持の認識がなく、もちろん営利の目的もなかったから、被告人は無罪である旨主張し、被告人も右主張に沿う供述をするので、以下、検討する。

二  前掲各証拠によると、京都府中立売警察署の警察官らは、当時被告人の内妻であった中村淳織(以下「淳織」という。)に対する別件の覚せい剤取締法違反被疑事件について、同女及び被告人の居住する判示ハイツヒルトン「パート4」五〇一号室(以下「五〇一号室」という。)を捜索場所とする捜索差押許可状の発布を受け、平成三年一月二三日に同所を捜索し、その際、同日午後六時五〇分ころ、現場に居合わせた被告人が手に持っていたボストンバッグの中から二五袋合計約三三〇・八五グラムの覚せい剤(以下「本件覚せい剤」という。)を発見し、これを差し押さえたことが認められる。

三  弁護人は、右捜索差押の手続は、刑事訴訟法所定の捜索差押許可状の呈示及び捜査官以外の者の立会の各要件を欠き、また、五〇一号室の場所に対する捜索差押許可状により被告人の身体を捜索したもので、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある旨主張する。

そこで、右捜索差押の経過について検討すると、関係証拠によれば、前記警察官らは、前記同日午後三時四〇分ころ、五〇一号室付近に赴き、証拠隠滅工作を防ぐため、在室者がその玄関扉を開けたときに入室して捜索を実行すべく同室付近において張り込みを続けていたところ、同日午後六時四〇分ころ、在室していた被告人が外出しようとして同室の玄関扉を若干開け、顔を出して室外の様子をうかがうような態度を示したので、すかさず走り寄って同扉から次々に室内に入り込み、同室玄関付近において「警察や。ガサや。」と被告人に告げ、続いて同室内各室に立ち入って淳織を捜したが不在であったことから、被告人を立会人として捜索を実行することとし、同室内南東側ダイニングキッチンにおいて被告人に対し前記捜索差押許可状を示して捜索を開始した、その際、警察官らは、被告人が右手に前記ボストンバッグを持っていたので、再三にわたり右バッグを任意提出するように求めたが、被告人がこれを拒否して右バッグを抱え込んだので、やむを得ず抵抗する被告人の身体を制圧して強制的に右バッグを取り上げてその中を捜索し、同日午後六時五〇分ころ、右バッグの中から本件覚せい剤を発見し、同日午後六時五八分、被告人を覚せい剤営利目的所持の現行犯人として逮捕し、次いで逮捕に伴う捜索を実施して本件覚せい剤、ボストンバッグ等を差し押さえたことが認められる。

右認定に反し、被告人は、外出しようとして五〇一号室の玄関扉を開けたところ、いきなり警察官らが室内に乱入し、玄関付近で無言のまま被告人の腰に抱き付き両腕をねじ上げるなどして被告人を制圧し、そのままの状態で被告人をダイニングキッチンまで引きずって行き、それから初めて捜索であると告げたが、その後捜索差押許可状を示すこともなく強制的に被告人が持っていたボストンバッグを取り上げてその中を捜索した旨供述する。しかしながら、被告人の右供述は、仮にそのとおりとすれば、被告人は何ら右捜索を妨害したり罪証隠滅行為に及ぶ気配を見せたりしていないのであるから、警察官らが被告人を制圧する必要は全くなく、この点で被告人の供述内容は不自然であるといわざるを得ないこと、右捜索に当たった警察官である証人盛岡富夫及び同橋本悟は、本件公判において、いずれも明確に被告人の述べる右事実を否定して前記認定のとおりの捜索状況を述べているところ、右各証言は相互に符合し、いずれも具体的かつ詳細で特に不自然、不合理な点はなく、十分に信用できるものであること、さらに、右橋本作成の写真撮影報告書(検3号)中には、被告人が警察官らから捜索差押許可状を呈示されている写真が存在するが、右写真は右橋本証言を明確に裏付けるものであることなどの点に照らしてたやすく信用できない。なお、被告人は、右写真について、これは右一連の捜索手続がすべて終了した後に警察官の指示によりこのような格好をさせられ、写真を撮られたものであると供述しているが、右写真に写された状況は、五〇一号室のダイニングキッチンにおいて、左手に手袋をはめ右手に前記ボストンバッグを持った被告人が警察官の呈示する右許可状を眺めているというものであって、捜索開始時の警察官及び被告人の状況として不自然なところはなく、また、被告人は、警察官らが五〇一号室に立ち入ったときには手袋をはめていたと供述しているところ、右橋本作成の写真撮影報告書(検69号)中の本件覚せい剤発見直後の写真に写っている被告人が左手に手袋をはめていないように見えることなどからすると、右許可状呈示の写真は右覚せい剤発見直後の写真よりも前に撮影されたものと考えるのが自然である。加えて、被告人は、本件捜査段階において当初黙秘し、同年二月五日に至り警察官に対して覚せい剤所持の認識を否認する内容の供述を始めたが、捜査の違法性については何ら供述せず、かえって「捜索差押許可状を見せられ警察官である事も告げられ捜索が始まったのです。」と供述し、その後捜査の違法性を主張するようになった同月一四日にも、検察官に対し、警察官らに右バッグを取り上げられた後「もぎ取られたバッグはその後手にしておりません。それは断言できます。」と供述しているのであり、以上によれば右写真の撮影時期に関する被告人の供述は到底信用できない。

右認定の捜索差押の経過によれば、警察官らは捜索の開始に当たって捜索場所である五〇一号室に居住する被告人に対し捜索差押許可状を呈示し、立会人を被告人として捜索を実施したものであり、また、右場所に対する捜索差押許可状の効力は、捜索場所に居住し、かつ捜索開始時に同場所に在室している者の携帯するバッグにも及ぶものと解されるから、右捜索差押の手続には何ら違法はないというべきである。弁護人は、立会人を制圧して行った捜索は実質的に立会を欠くものにほかならないと主張するが、警察官らは被告人に立会の機会を与えて捜索を開始したところ、被告人が携帯していたボストンバッグを抱え込んでその任意提出を拒み捜索を妨害したので、これを制圧して捜索を続行したものであって、このような行為は捜索のための適法な有形力の行使というべく、これにより結果的には被告人が右バッグ内の捜索状況を観察できなかったとしても、これをもって立会の要件を欠いたということにはならない。

したがって、右捜索差押により得られた証拠物、鑑定書等はすべて適法な捜査により収集された証拠であり、いずれも証拠能力を有するものである。

四  次に、被告人に判示覚せい剤所持についての認識があったか否かについて検討する。

関係各証拠によれば、次の事実が認められる。

前記捜索により本件覚せい剤が発見されたボストンバッグは、被告人の所有するもので、その中には被告人のひげそり、靴下、下着などのほか、被告人の預金通帳、印鑑、国民健康保険被保険者証等が在中する黒色セカンドバッグ一個及びえんじ色のセカンドバッグ一個が入っており、そのえんじ色のセカンドバッグの中には封筒包み三個が入っていて、その一つには一三袋の覚せい剤が、他の一つには三袋の覚せい剤が、別の一つには九袋の覚せい剤及び注射器二本が入っていた。そして、これらの覚せい剤入りの袋はいずれもチャック付プラスチックフィルム製のものである上、右一三袋分のうち一二袋は、縦約八・五(一袋のみ約八・一)センチメートル、横約五・一(一袋のみ約五・二)センチメートルのほぼ同形の袋であって約四・一六ないし約四・三〇グラムのほぼ同量の覚せい剤が入っており、右三袋分は、縦約一一・六センチメートル、横約七センチメートルの同形の袋であって約四八・四三ないし四八・五五グラムのほぼ同量の覚せい剤が入っており、また、右九袋分は、縦約七・七ないし八・六センチメートル、横約五ないし五・一センチメートルのほぼ同形の袋であって様々な量の覚せい剤が入っていた。さらに、右九袋の覚せい剤が入っていた封筒には、紙片に包まれた白色粉末も入っており、右紙片からは淳織の指紋が発見された。このほか、右捜索により五〇一号室のダイニングキッチンに置かれた金庫の中から注射器一本、同室南西側洋間の洋服だんすの中から上皿天秤一式が発見された。

右認定の被告人の本件覚せい剤所持の態様、本件覚せい剤の一部が入っていた同じ封筒の中に淳織の指紋の付着した紙片が在中していたこと、その他五〇一号室の室内から覚せい剤に関係すると思われる物品、殊に本件覚せい剤の小分けに使用されたのではないかと思われる上皿天秤一式が発見されていることなどに加えて、前記捜索時に被告人が右ボストンバッグの捜索を殊更拒んだことなどを併せ考えると、被告人が本件覚せい剤の所持について認識を有していたことはこれを十分に推認することができる。

これに対し、被告人は、右えんじ色のセカンドバッグは右捜索のあった平成三年一月二三日の午前一時ころに被告人方を訪れた知人から中身を告げられずに預かったものであり、被告人は右バッグに覚せい剤が入っていることを全く知らなかったと弁解する。しかし、被告人は一貫して右知人の氏名等につき黙秘しており、仮に被告人の右弁解が真実であるとすれば、本件のような重大事件について右知人の氏名等を明らかにしようとしないことは納得できないし、そもそも知人が本件のように多量の覚せい剤をその中身を告げずに被告人に預けるなどということ自体、通常考えられないことである。さらに、右弁解は右バッグ内の封筒の中に覚せい剤とともに入っていた紙片から淳織の指紋が発見されているという客観的事実にも反するものである(すなわち、被告人の供述によれば右知人と淳織とは全く面識がないというのであるから、被告人が右バッグを預かる以前に右紙片に同女の指紋が付着した可能性はほとんどなく、また、関係証拠により淳織は右捜索前日の夜から右捜索当時まで五〇一号室に居なかったことが明らかであるから、右の間に右紙片に同女の指紋が付着することもあり得ない。)。以上の諸点に照らすと、被告人の右弁解は到底これを信用することはできない。

五  そして、被告人が所持していた本件覚せい剤が約三三〇・八五グラムと極めて多量であって、このように多量の覚せい剤を財産的利益を目的とせずに所持することは通常考え難いこと、前記認定のとおり右覚せい剤の一部が複数の同種同形の袋にほぼ同量ずつ分けて入れられていたこと、五〇一号室から上皿天秤一式が発見されていることなどの点を総合すれば、被告人が右覚せい剤を営利の目的で所持していたことは明らかである。

六  以上により、弁護人の主張はいずれも理由がなく、判示事実はこれを優に認定できる。

(累犯前科)

被告人は、昭和六一年九月二二日、大阪地方裁判所で詐欺、同未遂、業務上過失傷害、道路交通法違反、覚せい剤取締法違反の罪により懲役二年四月に処せられ、昭和六三年一二月一〇日右刑の執行を受け終わったものであって、右事実は検察事務官作成の前科調書及び右判決書謄本(検17号)によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は平成三年法律第九三号附則三項により同法による改正前の覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項に該当するところ、情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、被告人には前記前科があるので、刑法五六条一項、五七条により右懲役刑に同法一四条の制限内で再犯の加重をし、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役六年及び罰金一〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中四五〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、押収してある覚せい剤二五袋(平成三年押第二〇四号の1ないし13、16ないし18及び20ないし28)は判示の罪に係る覚せい剤で、いずれも犯人の所有するものであるから、前記同様改正前の覚せい剤取締法四一条の六本文によりこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、覚せい剤の営利目的所持一件の事案であるが、被告人の所持していた覚せい剤は、合計約三三〇・八五グラムと極めて多量であること、被告人は覚せい剤取締法違反罪又は同罪を含む前科四犯(その中には営利目的所持、譲渡の事案もある。)等一一犯の前科を有し、前刑執行を終えてわずか二年後に本件犯行に及んだものであること、また、被告人は捜査、公判段階を通じ終始本件犯行を否認し、改悛の情が全くうかがえないこと、さらに、被告人は暴力団組員としての経歴が長く、遵法精神にも甚だ欠ける点があることなどに照らすと、被告人の刑責は重大であり、本件では幸いにも右多量の覚せい剤の害悪が社会に拡散するまでには至らなかったことなどの被告人に有利な事情をしんしゃくしても、主文掲記の量刑はやむを得ないものと考える。

よって、主文のとおり判決する。

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