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京都地方裁判所 平成25年(ワ)110号 判決

原告人

被告

株式会社Y

主文

一  被告は、原告に対し、二八四万九二九六円及びこれに対する平成二〇年九月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、五四二万円及びこれに対する平成二〇年九月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告の所有する中型貨物自動車が、A(以下「A」という。)の運転する普通乗用自動車に衝突され、損傷を受けたとして、原告が、Aとの間で対物賠償責任保険を含む自動車総合保険契約を締結していた被告に対し、同契約約款に基づく直接請求として、保険金五四二万円(内訳:修理費用三八八万五〇〇〇円、将来の代車費用九四万五〇〇〇円、交通費一〇万円、弁護士費用四九万円)及びこれに対する本件事故の日である平成二〇年九月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認定できる。)

(1)  原告が主張する交通事故(以下「本件事故」」という。甲一、二九、乙一七:一三頁、一七頁(乙一七の頁数は、同号証中の聴取報告書に付された通し頁数を指す。以下同じ。))

日時 平成二〇年九月一四日午前〇時一〇分ころ

場所 京都府久世郡〈以下省略〉敷地内

加害車両 普通乗用自動車(ナンバー〈省略〉)

保有者 B(以下「B」という。)

運転者 A

(以下「B車」という。)

被害車両 中型貨物自動車(ナンバー〈省略〉)

保有者 原告

(以下「原告車」という。)

事故態様 AがB車を運転して後進中、B車後部を、駐車中の原告車後部レッキング装置(事故車両を牽引する際に事故車両を固定する装置。アンダーリフトともいい、以下「本件装置」という。)に衝突させた。

(2)  責任原因(弁論の全趣旨)

仮に、本件事故が発生し、これがAの故意に基づくものでないとすれば、Aには、B車を後進させるにあたり、後方の安全を確認して進行させる注意義務があるのに、これを怠った過失があり、Aは、原告に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。

(3)  保険契約(乙一、二、一九)

本件事故当時、Aは、被告との間で、次の内容の対物賠償責任保険を含む自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた。

① 被保険者 A

② 被保険自動車 普通乗用自動車(日産・プリメーラ、ナンバー省略〈省略〉、以下「A車」という。)

③ 期間 平成一九年九月二九日から一年間

④ 保険金額 対物 無制限

⑤ 他車運転危険担保特約

a 被告は、被保険者が自ら運転者として運転中の他の自動車を被保険自動車とみなして、被保険自動車の保険契約の条件に従い、普通保険約款賠償責任条項を適用する(乙一九:四条一項)。

b 自動車の修理、保管、給油、洗車、売買、陸送、賃貸、運転代行等自動車を取り扱う業務として受託した他の自動車を運転しているときに生じた事故により、被保険者が被った損害に対しては、保険金を支払わない(以下「他車運転免責条項」という。乙一九:八条)。

⑥ 直接請求 対物事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、被告が被保険者に対して支払責任を負う限度において、被告に対し、損害賠償額の支払を請求することができる。被告は、被保険者が破産した場合に、損害賠償請求権者に対し、被保険者に支払うべき保険金の額を限度とする損害賠償額を支払う(乙二:八条)。

⑦ 故意免責 被告は、保険契約者又は被保険者の故意により生じた損害については、保険金を支払わない(以下「故意免責条項」という。乙二:九条)。

(4)  Aの破産(弁論の全趣旨)

Aは、大阪地方裁判所にて、破産開始決定を受け、平成二四年六月二〇日、免責決定を得た。

二  争点

(1)  本件事故の発生

(2)  Aの故意

(3)  他車運転免責条項該当性

(4)  他車運転免責条項による免責主張の可否

(5)  原告の損害額

三  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件事故の発生)について

(原告の主張)

AがB車を運転して後進中、B車の後方に駐車していた原告車後部の本件装置にB車後部を衝突させる本件事故が発生した。

(被告の主張)

本件事故にあっては、原告から、原告車が事故によって損傷したとの外形的事実について、合理的な疑いを入れない程度にまで立証されていない。

(2)  争点(2)(Aの故意)について

(被告の主張)

本件事故は、原告とAが通謀して故意に生じさせたものであるから、故意免責条項により被告は免責される。

すなわち、本件装置の損傷は、本件事故以外の事故あるいは経年劣化等によるものでありながら、原告は、本件事故によってこの事実を隠蔽し、被告から保険金としてその修理費用を支出させることを目的として、Aと意を通じ、本件事故を故意に生じさせたものである。

このことは、Aの説明する本件事故態様は、故意に原告車との接触を企図した運転方法としか解せないこと、Aの説明する本件事故の発生状況(AがB車を借りた経緯、本件事故現場を訪れた目的、B車の損傷内容と程度、本件事故後の原告への連絡)には、不自然な変遷や客観的事実との齟齬があること、原告とAは以前からの知り合いで、双方に経済的に困窮し、不正な保険金請求を企てる共通の動機があることから推認される。

(原告の主張)

本件事故態様に関するAの供述に不自然なところはなく、Aの法廷での供述にあいまいな点があるとすれば、本件事故から四年ほどが経過し、同人が脳梗塞に罹患し、尋問期日が一回延期になった後の尋問であり、同人の記憶の劣化や記憶の混乱が生じていたからにすぎない。

また、本件事故の前後を通じてAと原告との間に頻繁な電話連絡がないこと、原告による保険金請求の回数は多くなく、支払われた保険金も一五万五〇〇〇円にすぎないことは、本件事故が被告の主張するような故意による偽装事故でないことを裏付ける。

(3)  争点(3)(他車運転免責条項該当性)について

(被告の主張)

Aは、本件事故当時、中古車販売の卸業務を行っており、Bが所有するB車について、本件事故のおよそ一〇日前より、同人から売却を依頼され、これに基づき業務受託していた。Aは、本件事故当日もB車を買い手のところへ見せに行っており、その帰りに本件事故を起こした。

このように本件事故は、AがB車の売買という、自動車を取り扱う業務として受託した他の自動車を運転しているときに生じた事故であるから、他車運転免責条項により被告は免責される。

(原告の主張)

Aは、本件事故の前に、自身が乗車していた車両のバッテリーがあがったため、BからB車を借りて運転していたにすぎない。

したがって、他車運転免責条項には当たらない。

(4)  争点(4)(他車運転免責条項による免責主張の可否)について

(原告の主張)

被告は、本訴終了時点になって初めて他車運転免責条項による免責を主張し、この点に着目した尋問がなされていないAの証言を援用している。

このような被告の主張は時機に後れており、訴訟手続の信義則にも反しており、排斥されるべきである。

(被告の主張)

関係供述等の証拠を総合検討した結果、新たな攻撃防御方法が発見されたため、これを主張立証したまでであり、他車運転免責条項による免責主張が時機に後れ、又は信義則違反であるとの主張は、否認し争う。

(5)  争点(5)(原告の損害額)について

(原告の主張)

ア 修理費用 三八八万五〇〇〇円

原告車はレッカー車であり、本件事故により、原告車後部の本件装置が損傷した。

本件装置は特殊装置であり、本件事故時には生産中止となっていたから、同等の品質を備える新品装置と交換する必要があり、これに上記金額を要した(なお、当初の見積金額より、装置輸送費その他の費用として一五万二二五〇円の追加費用が発生したが、これについては請求しない。)。

イ 将来の代車費用 九四万五〇〇〇円

本件装置の交換には一か月(三〇日)を要し、将来、本件装置の修理(交換取替)をなす際には、原告車と同等のレッカー車を代車として借りる必要がある。

この代車費用には、一日当たり三万一五〇〇円として三〇日分の上記金額を要する。

ウ 交通費 一〇万〇〇〇〇円

原告車を京都府から岡山県にある修理会社a社に移動するための交通費(高速道路通行料)として、片道二万五〇〇〇円を要し、本件事故後の搬入時及び将来の修理の際の搬入時の二回の往復分として、上記金額を要する。

エ 弁護士費用 四九万〇〇〇〇円

オ 合計 五四二万〇〇〇〇円

(被告の主張)

すべて否認ないし争う。

本件装置の損傷は、本件事故以外の事故あるいは経年劣化等によるものであり、本件事故によるものではない。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(本件事故の発生)について

証拠(甲一、五、六、八、乙一七:二四頁)によれば、平成二〇年九月一四日午前〇時一〇分ころ、京都府久世郡〈以下省略〉敷地内において、B車後部のリアゲートが、駐車中の原告車後部の本件装置に衝突する本件事故が発生したことが認められる。

この点、被告は、原告車が本件事故により損傷したとの外形的事実の立証がないと主張するが、本件保険契約約款に基づく直接請求の要件である「対物事故」としては、上記事実が認められれば足り、被告が主張する上記事実は、Aの故意又は原告の損害額の有無を判断するに当たり考慮すべきものである。

二  争点(2)(Aの故意)について

(1)  掲記の証拠によれば、次の事実が認められる。

ア 本件事故現場の状況

原告は、b社の屋号で自動車のレッカー業を営んでおり、本件事故現場は、b社の事務所前駐車場である。

b社の事務所は、別紙一(乙一四:一枚目)に二一・七mと記載された線に面して存在する建物を三分割した北西側の端に位置する。

上記建物前の敷地(別紙一の斜線部分)は、駐車場になっている。

本件事故当時、上記駐車場には、原告車が、別紙二(乙一四:二枚目)に記載されたレッカー車の駐車位置に、同記載の向きで駐車してあり、b社の事務所前には他に駐車車両はなかったが、b社の事務所の隣の倉庫前には、二台ほど駐車車両があった。(甲二八、二九、乙八、乙一七添付の二〇〇八年一〇月七日撮影にかかる写真報告書)

イ 本件事故に至る経緯

Aは、平成二〇年九月一二日午後一時ころ、A車で、伏見区向島にあるパチンコ店に行き、同店の駐車場にA車を停め、パチンコに興じた。

同日午後四時ころ、Aはそろそろ帰ろうと考え、A車のエンジンを掛けようとしたが、スモールランプを付けたままであったため、バッテリーがあがってしまっており、エンジンが掛からなかった。

Aは、パチンコ店の近くに住むBから車を借りようと、Bに電話で連絡し、Bの了解を得た。

Aは、A車をそのままにして、B車が駐車してある駐車場まで歩いて行き、その場でBから鍵を受け取り、B車を借りた。

Aは、その日原告に対し、午前〇時ころb社の事務所に行く旨告げであったため、それまで、B車で八幡にあるコーナンとヤマダ電機へ買い物に行き、その後人と会った後、b社の事務所に向かった。(乙八、乙一七:一四頁、一七頁、二五頁、四一頁)

ウ 本件事故状況

Aは、平成二〇年九月一四日午前〇時過ぎ、別紙二に幅五・二mと記載された道路を、B車で南西から進行し、b社の事務所前の駐車場にB車を頭から進入して駐車し(B車の駐車位置及び方向は、概ね、別紙二に記載されたワゴンRの駐車位置及び方向のとおり。)、b社の事務所を訪れた。

しかし、b社の事務所は、シャッターが閉まり、誰もいないようであったため、Aは、方向転換して来た道路を戻ろうと、ハンドルを左に切りながらB車を後退させた。

方向転換を終える直前、B車後部の左リアゲートが、駐車してあった原告車後部の本件装置に衝突し、B車後部の左リアゲート(乙七の損傷一)に本件装置の先(乙七の部品一)が突き刺さり、その反動でB車後部の右リアゲート(乙七の損傷二)も本件装置(乙七の部品二)に当たった。(甲五、六、八、二九、乙八、乙一七:一四頁)

エ 本件事故後の経過

b社の事務所の隣人は、本件事故時の衝突音を聞きつけ、本件事故直後の現場に出て行き、原告に電話で本件事故を連絡した。

Aは、B車に原告車の本件装置が突き刺さった状態のまま、B車から降り、上記隣人が原告に連絡しているのを見て、自身は警察に連絡した。

先に現場に到着した警察官が、Aから話を聞いていると、原告が到着し、警察官立会の下、現場確認が行われ、原告もB車が原告車に衝突した状況を写真に撮った。

原告車は、本件装置の下からオイル漏れが発生しており、原告はAに原告車の修理を求めた。

現場確認を終え、Aは、B車に乗り、突き刺さった本件装置を抜くようにB車を動かし、来た道路を戻り、もとの駐車場にB車を返した。

その際、Aは、同じ駐車場に駐めてあったAの保有する車両(パジェロ、ただしナンバーがなく走行不能。)にバッテリーを繋ぐためのケーブルを積載していたことを思い出し、ケーブルを取ってパチンコ店の駐車場に戻り、A車のケーブルを繋ぎ、A車を同駐車場から出した。

Aは、その日のうちにBに連絡し、B車を返却した旨を伝えたが、BがB車の損傷を確認していないと述べたため、本件事故については告げなかった。

翌一五日、Aは、Bから損傷を確認したとの連絡を受け、本件事故について報告するとともに、B車はAが修理すると伝え、同月一八日ころ、Aの所有する車両(ライフ)とB車を交換し、B車を引き取った。(甲五、六、八、二九、乙一七:七頁、一五頁、一八頁、一九頁、二一頁、二四頁、二五頁)

(2)  被告は、Aの説明する本件事故態様は故意に原告車との衝突を企図した運転方法としか解せない上、本件事故の発生状況に関するAの説明は不合理であり、原告とAには不正な保険金請求を企てる共通の動機があるから、本件事故は原告と通謀したAの故意によるものであると主張する。

ア まず、本件事故態様について、被告は、駐車場に頭から進入したB車の左方に原告車が存在する状態で方向転換するのであれば、通常、右にハンドルを切って後退するのに、左にハンドルを切って後退したという運転方法自体、故意に原告車との接触を企図した運転方法であると主張し、Aの主張する態様で本件事故を偶然に生じさせるのは不可能であるとして、証拠(乙一四、一六)を提出する。

しかし、被告が証拠(乙一四、一六)で前提とするB車の位置や向きは、Aの説明をもとに作成された略図(乙八:一七頁)によるものであって、正確性に欠ける上、原告車の位置や敷地からのはみ出し具合についても、再現の正確さには疑問がある。このような正確性に疑問がある両車両の位置関係を前提にした被告の主張は採用できない。

また、証拠(乙八)によれば、B車の左方には原告車があった一方で、右方にも駐車車両があったことが認められ、このような状況下で、Aがもと来た道を戻るのに、左にハンドルを切って後退し、方向転換を試みることが不自然とはいえない。

イ 次に、本件事故の発生状況に関するAの説明について、被告は、B車を借りた理由についてAの供述が変遷していること、本件事故現場を訪れた目的についてAと原告の供述は曖昧であること、B車には本件事故では説明できない損傷があること、本件事故により本件装置がB車のリアゲートを貫通したとのAの供述は事実と異なること、本件事故後にAからも電話で連絡を受けたとの原告の供述は事実と異なることを指摘し、本件事故が故意に招致されたことを推認させると主張する。

(ア) B車を借りた理由について、証拠(甲二九、乙八、乙一七:一四頁)によれば、Aは、当初、A車のバッテリーがあがり動かなくなったためBから借りたと被告に説明していたが、尋問時には、BからB車が売れるのであれば売って欲しいとの委託を受けて借りていた旨供述し、その内容に変遷のあることが認められる。

しかし、証拠(甲二九、乙八、乙一七:一四頁、一七頁)によれば、被告に対する説明は、本件事故後二〇日の平成二〇年一〇月三日になされたものであり、かつその内容は同日のBの説明とも一致しているのに対し、尋問は、本件事故から四年近く経過した平成二四年八月二九日になって、Aが脳の病気に罹患したため尋問期日が一回延期になった後に実施されたものであること、AとBは一五年来の知り合いであり、車金融に携わっていたBからAが車を引き取り、Aがこれを売るといった関係にあったことが認められる。

このような事実にかんがみれば、Aは、本件事故前にBから車を借りた理由について、本件事故から時間が経った尋問時には、記憶が後退し、それまでBから車を引き取った際の出来事と混同していることが疑われ、当初の説明と尋問時の供述が異なることを、あながち不合理ということはできない。

(イ) 本件事故現場を訪れた目的について、証拠(甲二八、二九、乙八、九、乙一七:一四頁、二一頁、四一頁)によれば、Aは、被告に対し、Aの裁判で原告に弁明書を書いてもらっていたところ、和解に関する経過報告を行うためであったと説明し、原告は、被告に対し、Aの裁判の証人になっており、その件で来る約束になっていたと説明し、尋問時には、Aも原告も詳細は忘れた旨供述していることが認められ、結局、Aの訪問目的が何であったかは明らかでない。

しかし、証拠(甲二八、乙一七:二〇頁)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当日、原告はAとの約束を忘れて帰宅してしまっていたこと、本件事故により当初の約束は果たせないままとなったことが認められる。

このような事実にかんがみれば、Aの用事はそれほど大事なものではなく、原告にも目的を明確には告げていなかったことが窺われ、訪問目的についてAと原告の供述が曖昧であることをもって、不合理ということはできない。

(ウ) B車の損傷について、被告は、B車には本件事故では説明がつかない損傷(乙七の三ないし五)がある上、本件装置の先(乙七の部品一)がB車後部の左リアゲート(乙七の損傷一)を貫通し、車内から本件装置の先端が確認できたとのAの供述(甲二九)は事実に反すると主張し、これに沿う証拠(乙七、一二)を提出する。

しかし、Aや原告が、本件事故では説明のつかないB車の損傷を、本件事故によるものであると主張しているわけではない。また、本件装置の先がB車後部の左リアゲートに突き刺さった状態や、B車の該当部分の外板が破れた状態を見たAが、本件装置がB車後部の左リアゲートを貫通したと思い込んだとしても不思議はない。

(エ) 本件事故後の原告への連絡について、被告は、Aからも本件事故について電話連絡を受けたとの原告の供述(乙九、乙一七:二一頁)は事実に反すると主張し、これに沿う証拠(乙一一)を提出する。

しかし、証拠(甲二八)によれば、原告は、Aから原告車に当ててしまったとの話を聞いた記憶があることから、Aからも電話連絡を受けたような記憶であると述べているにすぎないことが認められる。

このように原告の供述は確かな記憶に基づくものではない上、本件事故現場でAから聞いた話と取り違えているにすぎないと解され、被告の指摘は当を得ない。

ウ また、被告は、原告とAには不正な保険金請求を企てる共通の動機があるとして、原告とAが以前からの知り合いであることや、原告には消費税法違反で告発された過去があり、保険金請求歴が複数あること、Aは破産していることを指摘する。

しかし、証拠(甲一八)によれば、原告による保険金請求歴は、平成二二年一一月から平成二三年六月にかけて三回であり、そのうち保険金の支払を受けたのは二回で合計一五万五〇〇〇円にすぎないことが認められる。

また、前記前提事実及び証拠(甲一九、二八)によれば、原告は、原告車を修理に出したものの、被告が保険金の支払に応じず、営業に差し支えが生じたため、応急修理を施して使用することとし、その費用三四万円ほどをAに請求し、Aがこれを支払っていること、Aが破産したのは、それから約四年後であることが認められる。

これらの事実によれば、被告の指摘する事実をもって、不正な保険金請求を企てる動機に当たるとは言い難い。

エ 以上によれば、被告が指摘する事実をもって、本件事故が故意に招致されたことを推認するには足りず、他にこれを認めるに足る証拠及び推認させるに足る事実もない。

したがって、本件事故につきAの故意は認められず、本件保険契約に基づく原告からの直接請求に対し、故意免責条項の適用はない。

三  争点(3)(他車運転免責条項該当性)について

AがB車を運転していた理由について、被告は、尋問時のAの供述(甲二九)をもとに、業務としてBから売却の委託を受けてB車を運転していたものであると主張する。

しかし、尋問時のAの供述が、本件事故から四年近く経過した後のものであり、記憶の後退や混同が疑われ、信用できないことは既に認定したとおりである。他方、本件事故に近接した平成二〇年一〇月三日に被告がAから聴取したところ(乙一七:一四頁)によれば、AはA車のバッテリーがあがり動かなくなったためB車を借りたことが認められ、この内容は、同日中に被告がBから聴取したところ(同:一七頁)と一致し、同月二〇日に被告が再度Aに聴取した際にも同様の回答をしていることからして(同:四一頁)、信用するに足りる。

したがって、他車運転免責条項には該当しない。

四  争点(4)(他車運転免責条項による免責主張の可否)について

争点(3)で認定したところによれば、争点(4)について判断するまでもない。

五  争点(5)(原告の損害額)について

(1)  修理費用 二五四万九二九六円

ア 証拠(甲六、八、乙一七:三一頁)によれば、本件事故により、原告車には、本件装置のシリンダー部分からオイル漏れが発生する損傷が生じたことが認められる。

この点、被告は、本件装置の損傷は本件事故以外の事故あるいは経年劣化等によるものであると主張し、証拠(乙一五、乙一七:六頁、三七頁、三八頁、添付の「事故現場オイルと思われる痕」と題する写真)中にはこれに沿う部分がある。

しかし、証拠(乙一七添付の上記写真)を見ても、オイル漏れが本件事故前から生じていたと認めるには足りない。

もっとも、証拠(甲二、乙一七:二一頁、二九頁、三八頁、四〇頁)によれば、本件装置と同等の品質を備える装置の新品価格は二七〇万円であるのに対し、原告は本件装置を含む原告車を平成二〇年五月に前所有者から二八〇万円という破格で購入していること、本件装置は古いもので、前所有者が本件装置にかなり手を加えていることが認められる。

これらの事実に証拠(乙一五、乙一七:三七頁、三八頁)を併せて見れば、本件装置の時価は二七〇万円よりかなり低いことが窺われ、このように古くなった本件装置に、本件事故が加わり、B車が衝突した勢いで本件装置の右側(乙七の部品一)が引っ張られ、オイル漏れが発生したとみるのが自然である。

そうすると、本件事故による損傷自体を否定する被告の主張は採用できず、本件装置が古いものであることは修理費用額において考慮することで足りる。

イ 証拠(甲二、三〇、三一)によれば、本件事故時に本件装置は生産中止となっており、部品供給に時間を要するため、同等の品質を備える装置を取り付ける方法での修理を行い、この修理に三八八万五〇〇〇円(内訳、代替装置二七〇万円、取付工事一〇〇万円、消費税一八万五〇〇〇円)を要したことが認められる。なお、原告は、上記費用のほか、装置輸送費、作業油、ショートパーツ、塗装費用として一四万五〇〇〇円を支払ったことが認められるが、原告はこれを請求しない旨、明示している。

もっとも、既に認定したとおり、本件装置の時価は二七〇万円よりかなり低いことが窺われ、経済的全損と解すべきところ、上記原告が拠出した修理費用全額を本件事故による損害と認めることはできない。

そして、証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、交換部品があると仮定して修理する場合の費用は、工賃を含めて二五四万九二九六円であること、他に被告は本件装置の時価について具体的な立証をしないことが認められ、これらの事情に鑑みれば、本件事故と相当因果関係のある修理費用としては、この金額を限度として認めるのが相当である。

(2)  将来の代車費用 〇円

原告は、本件装置の修理に要する期間につき、原告車と同等のレッカー車を代車として借りる必要があると主張する。

しかし、証拠(甲二八)によれば、原告は、原告車の他に一台、原告車より小さいレッカー車を保有していることが認められ、代車の必要性を直ちには認めがたい。

その上、証拠(甲一九、二八、三〇、三一)によれば、原告は、本件事故後、原告車を応急修理し、平成二五年二月に、本件装置と同等の品質を備える装置に取り替える方法での修理を行ったことが認められるものの、上記いずれかの修理に際し、原告が代車を使用し、代車費用を支払ったと認めるに足る証拠はない。

したがって、原告の主張する代車費用を本件事故による損害と認めることはできない。

(3)  交通費 四万〇〇〇〇円

証拠(甲二、三、二八、三〇、三一)によれば、原告は、本件事故後、応急修理と本格的な修理の二回にわたり、原告車を京都府久世郡にあるb社から、岡山市にある修理業者に持ち込み、原告車を置いて帰り、修理後に取りに行き、原告車に乗って帰ってきたことが認められ、この二往復分の交通費は、本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。

そして、上記交通費は、少なくとも片道一万円を要したとみて、二往復分の四万円を認めるのが相当である。

(4)  弁護士費用 二六万〇〇〇〇円

本件の事案内容、審理経過、認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、二六万円と認めるのが相当である。

(5)  合計 二八四万九二九六円

前記(1)ないし(4)の合計

六  結語

よって、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないから、これを付さない。

(裁判官 上田賀代)

別紙一・二〈省略〉

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