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京都地方裁判所 平成24年(ワ)3893号 判決

原告

被告

Y1〈他1名〉

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、四五二万一六七七円、及び、これに対する平成二一年九月二五日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一五分し、その一四を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

被告らは、原告に対し、連帯して、六七一六万二一八一円、及び、これに対する平成二一年九月二五日から支払済みまで年五%の割合による金員、を支払え。

第二争いのない事実

被告Y1運転・被告Y2所有の普通乗用自動車(ナンバー〈省略〉)は、平成二一年九月二五日午後六時三〇分頃、京都府舞鶴市字下福井二番地四一で、原告同乗・A運転の普通乗用自動車(ナンバー〈省略〉)に、追突した(以下「本件事故」という。)。

第三当事者の主張の要旨

一  原告

(1)  原告は、本件事故について、被告Y1に対し民法七〇九条に基づき、被告Y2に対し自動車損害賠償保障法三条に基づき、次の損害の連帯賠償を求める(附帯請求は、不法行為の日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払請求である。)。

ア 入院雑費

二二万七二〇〇円

(=1600円/日×142日〔a病院入院期間〈後記(2)ア〉〕)

イ 付添看護費

六九万六〇〇〇円

(=3000円/日×232日〔a病院入院日~症状固定日〈後記(2)ア〉〕)

ウ 介護器具費

四万六〇二〇円(甲一〇―一~五)

エ 入通院慰藉料

二八〇万〇〇〇〇円(後記(2)ア)

オ 逸失利益

一七五五万八八七六円

(≒345万9400円/年〔賃金センサス平成22年・産業計・企業規模計・学歴計・女・全年齢平均〕×100%〔後記(2)イ〕×5.0757〔67歳まで6年間に対応するライプニッツ係数〕)

カ 将来介護費

一六〇三万四〇八五円

(=3000円/日×365日×14.6430〔平均余命27年間に対応するライプニッツ係数〕)

キ 後遺障害慰藉料 二三七〇万〇〇〇〇円(後記(2)イ)

ク 弁護士費用 六一〇万〇〇〇〇円

(2)ア  原告(昭和二四年○月○日生)は、本件事故(平成二一年九月二五日)により、b病院で、平成二一年九月二六日、頚椎捻挫と診断されて、通院し、c医療センターに、平成二一年一〇月九日~一二月一〇日、通院し、脊髄(C三/四)圧迫と診断されて(甲五)、平成二二年一月一四日~三月一一日、入院し、同年一月二六日、脊椎前方固定術を受け、a病院に、平成二二年三月一一日~七月三〇日、リハビリ目的で、入院した(甲六)。

イ  原告は、平成二二年一〇月二八日、左上肢使用不能・立位困難の自覚症状、立位ではロンベルグサイン陽性で片足起立の保持は全く困難等の他覚症状および検査結果、肩関節機能障害(屈曲:他動右一八〇度左八〇度・自動右一八〇度左〇度、外転:他動右一八〇度左一一〇度・自動右一八〇度、左〇度)、肘関節機能障害(屈曲:他動右一五〇度左一一〇度・自動右一五〇度左〇度)を遺して症状固定したと診断された(甲六)。

これは、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」(自動車損害賠償保障法施行令別表一二級一号)に該当する。

二  被告ら

(1)  原告は、平成一四年一二月九日のMRI検査で、脊椎(C三~七)整合不整・椎体変形・椎間板変性が認められ(乙四p一一二)、同年一二月一八日、脊椎(C四/五・五/六)前方固定術を受け(乙四p三三)、平成一五年一月六日には、左肩痛・両足しびれを訴え(乙四p一〇二)、平成一六年七月一七日、乗車していたバスが追突した事故に遭い(乙五p一四)、平成二一年六月一九日にも、両上肢のしびれを訴え(乙五p五七)、同年九月一八日にも、両下肢のしびれを訴えていた(乙五p五八)。

本件事故(平成二一年九月二五日)は、軽微であった(乙一~三)。平成二一年一〇月九日のMRI検査で髄内輝度変化はなかった(乙一八)。トレムナー反射等は陰性で、ホフマン検査は、同年九月三〇日になって、陽性を示した(乙六P九)。両上肢・両下肢には、同年九月三〇日になって、しびれが現れた(乙六p八)。上肢の疼痛は、右だけで、左は訴えなかった(乙五p七一)。歩行困難も、平成二二年一月一四日頃になって、訴えた(乙五P九〇)。平成二二年八月二六日FIM(機能的自立度評価)が一一三点/一二六点で、介護度〇であった(乙五p一五)。

損害保険料率算出機構は、左上肢使用不能・立位困難等について、自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断した(乙一〇―一・二)。

したがって、原告主張の症状について、本件事故との因果関係はない。

(2)  損益相殺 ▲四七七万〇三〇〇円(乙一一)

理由

第一当裁判所の判断

一  原告の左上肢使用不能・立位困難について、本件事故との因果関係等

(1)  原告が脊椎の症状で本件事故の約七年前から継続的に受診していた医療機関は、本件事故による脊椎(C三/四)の変性があると診断した(後記第二―二・四(2)イ(イ))。確かに、原告には本件事故の約五年前にも脊椎(C三/四)の変性があった(後記第二―二(1)イ(イ)、七)。しかし、前記医療機関が、これを考慮することなく前記診断をしたとは認められないし(後記第二―二(4)イ(ア)(オ)、(5)イ(イ))、本件事故後、メリットが小さくリスクが大きい脊椎固定術の適用があると診断したこと(後記第二―四(3)イ(イ))も考慮すれば、前記診断は、主治医の診断として、信用できる。

また、本件事故後、特に握力は、著しく低下を続けた(後記第二―二(4)イ(キ)、四(2)イ(カ))、(3)イ(キ)~(コ)、六(1))。病的反射であるトレムナー反射も、ホフマン反射も、陽性と診断されるようになった(後記第二―四(1)イ(イ)、(2)イ(オ))。このような上肢の症状の進行については、脊椎(C三/四)の変性と関連性がある(後記第二―八)。

なお、本件事故による原告同乗四輪の損傷の程度は小さい(後記第二―三(2))。

しかし、車両の損傷の程度と人体への影響との関係は、複雑な要素(車両重量、接触面積、衝突部位の可塑性、車両の緩衝機能、防御意識、頑健さ等)によって影響されるから、単純に車両の損傷の程度が小さいから人体への影響も小さいとは評価できない。

(2)  ところで、原告の脊椎(C三~七・L三~S)は、本件事故前から変性があった(後記第二―二(1)イ(イ)、(5)イ(エ))。本件事故前は、その内、脊椎(C四~六)について、症状が改善しない可能性もある予防的な手術を受けたにすぎなかった(後記第二―二(1)イ(ウ)、四(3)イ(イ))。

原告が本件事故後に手術を受けたのは、本件事故による脊髄圧迫が診断された脊椎(C三/四)だけではなく、本件事故による変性が指摘されなかった脊椎(C六/七)も含まれた(後記第二―四(2)イ(イ)、(3)イ(ウ))。

原告は、本件事故の約七年前から、四肢体幹のしびれや肩痛を継続して訴え、本件事故前の約二年間も、鎮痛剤等まで処方されて、本件事故直前も、下肢のしびれを訴えていた(後記第二―二)。他方、本件事故直後訴えたのは、頚部痛と両上下肢のしびれであった(後記第二―四(1)イ、(2)イ(ア)~(ウ))。原告が歩行障害を訴えたのは、本件事故から約一月半後であったし(後記第二―四(2)イ(キ))、左上肢の可動域制限を訴えたのは、脊椎(C三/四・六/七)前方固定術の後であった(後記第二―四(3)イ(オ))。同手術後に症状が増強した手は(後記第二―四(4)イ)、本件事故前に手術がされて、本件事故による変性が指摘されなかった脊椎(C四/五、C五/六)も、関連性がある部位である(後記第二―二(1)イ(ウ)、八)。

なお、原告は、本件事故前の「左腕はまし」(後記第二―二(5)イ(ウ))との表現から、症状の存在が認められるとまでは言い切れないと主張し、本件事故後の「歩行障害は目立たず」(後記第二―四(2)イ(イ))との表現から、何とか歩けていたという状態であったと主張して、本件事故前に症状は消滅し、本件事故後に現れた症状の全てが本件事故に起因するかのようにいう。しかし、これは原告の主観的な評価にすぎない。平成一六年七月一七日の事故の賠償に関する診断書再作成に係る原告の依頼の内容等(後記第二―二(4)イ(キ))も考慮すれば、採用できない。

(3)  そこで、本件事故が既に発生していた原告の素因による症状の進行を早めたと認め、本件事故による他覚症状の内容、これと関連性がある症状の範囲、素因と関連性がある症状の範囲、本件事故直後の症状の程度等を考慮して、症状固定までの損害について、五〇%の限度で、本件事故との因果関係を認め、後遺障害について、自動車損害賠償保障法施行令別表二 一二級一三号に相当する限度で、本件事故との因果関係を認める。

これを超えるものは、素因によるものとして、本件事故との因果関係を認めない。

二  損害

(1)  治療費、文書料、装具費、杖費 二三〇万六九六〇円

原告は具体的に主張しないが、医療機関等に直接支払われたことが認められるから、公平の観点から、因果関係の割合を考慮した上、損害と認める。

四六三万三八七〇円(乙一一~一六〔枝番含〕)×因果関係五〇%(前記一(3))=二三〇万六九六〇円

(2)  入院雑費 一五万〇七五〇円

1500円/日×(2日+57日+142日〔後記2―4(3)〕)×因果関係50%(前記1(3))=15万0750円

(3)  付添看護費

原告の年齢(六〇~六一歳)、機能的自立度評価(後記第二―四(3)イ(カ)~(サ))、医療機関の体制として近親者付添看護が必要不可欠とは認められないことに鑑みれば、近親者の援助は、損害とは認められない。

(4)  介護器具費 二万三〇一〇円

四万六〇二〇円(甲一〇―一~五)×因果関係五〇%(前記一(3))=二万三〇一〇円

(5)  入通院慰謝料 一四〇万〇〇〇〇円

入院期間、通院頻度、装具の処方、因果関係の割合等を考慮した。

(6)  逸失利益 二一一万一二五七円

本件事故との因果関係を認める後遺障害の程度、原告の年齢(症状固定時六一歳)を考慮して、原告の基礎収入を家事従事者として二九七万一一〇〇円/年(賃金センサス平成二二年・産業計・企業規模計・学歴計・女・六〇~六四歳)、労働能力を一四%、六年間喪失したと認める。

297万1100円/年×14%×5.0757(6年間に対応するライプニッツ係数)≒211万1257円

(7)  将来介護費

本件事故との因果関係を認める後遺障害の程度(前記一(3))等を考慮して、損害とは認めない。

(8)  後遺障害慰藉料 二九〇万〇〇〇〇円

本件事故との因果関係を認める後遺障害の程度(前記一(3))等を考慮した。

(9)  損益相殺 ▲四七七万〇三〇〇円

同一の不法行為による身体傷害に基づく全ての損害の賠償請求権は、不法行為時に発生し、その損害の額については、被害者が不法行為時から生ずることのあり得る中間利息を不当に利得することのないように算定すべきである(最三小昭和五八年九月六日判決民集三七巻七号九〇一頁)。

被告Y2が保険契約を締結していたd保険(株)は、原告が負担すべき時に、ほぼその都度、治療費・文書料・装具費・杖費・入院雑費等、合計四七七万〇三〇〇円を賠償したことが認められる(乙一一)。

原告は、この賠償が、本件事故の時から各賠償までに発生した遅延損害金から充当されるべきであると主張する。しかし、この場合、各賠償に係る損害について、本件事故の時から原告がそれぞれ負担すべき時までに生ずることのある中間利息を不当に利得することのないように算定しなければならない。

このような遅延損害金の発生と中間利息の控除を考慮すれば、前記既払金は、前記(1)~(8)と損益相殺するのが相当である。

(10)  被告らに負担させる原告の弁護士費用 四〇万〇〇〇〇円

本件事案の性質、認容額等を考慮した。

三  まとめ

以上の通り、原告の請求は一部理由があるから、その限度で認容し、民事訴訟法六四条本文・六五条一項但書、二五九条一項を適用して、主文の通り、判決する。

第二前記第一の判断のために証拠等により認定した事実

一  原告(昭和二四年○月○日生)は、配偶者であるA(昭和二六年○月○日生)と同居し(甲一)、平成二年七月七日、(社)hダンス協会連合会の技術級アソシエイト・ダンス教師の認定を受けた(甲一一)。

二(1)ア 原告は、c医療センター(e病院)脳神経外科に、平成一四年一二月九日、頚椎症・頚椎椎間板ヘルニアの傷病名で、通院し、同年一二月一一日~平成一五年三月二日、入院した(乙四p一六九~一七五)。

イ(ア)  平成一四年一二月九日、一〇年前より右上肢しびれ、同年一二月二日頃より左肩痛、牽引後より四肢体幹にしびれが広がったと訴えた(乙四p一八一)。

(イ) 同年一二月九日のMRI検査で、脊椎(C三~七)整合不整・椎体変形・椎間板変性が認められ、頚椎症脊椎神経根症・椎間孔狭窄との所見を示された(乙四p一一二)。

(ウ) 同年一二月一八日、脊椎(C四/五・五/六)前方固定術を受けた(乙四p三三)。

(2) 原告は、c医療センター脳神経外科に、平成一六年五月二一日、通院し、両肩の痛みがやはり強い・両足底しびれ残存と訴えた(乙五p九)。

(3) 原告は、平成一六年七月一七日、乗車していたバスが追突した事故に遭った(乙五p一四)。

(4)ア 原告は、c医療センター脳神経外科に、平成一六年七月二一日~平成一八年一一月二四日、外傷後頚部症候群の傷病名で、通院した(乙四p一八八~一九〇、五p一四~四〇)。

イ(ア)  平成一六年七月二一日、両上肢(右のほうが強い)のしびれ感(以前よりきつくなった)・後頚部のだるい痛い感じを訴え、同日のMRI検査で、平成一五年一一月のものと比較して、脊椎の変化なしとの所見を示された(乙五p一四)。

(イ) 平成一七年六月三日、頚椎カラー装着を進められた(乙五p二六)。

(ウ) 同年七月七日、(社)hダンス協会連合会の認定ダンス教師(技術級アソシエイト)の認定証の交付を受け、同年七月二四日、指定研修会を受講した(甲一一)。

(エ) 同年七月二七日、頚椎カラー装着中で、二週間くらい前、つまづいて転びそうになった、そのときに衝撃を感じて以来、くらっとすると訴えた(乙五p二七)。

(オ) 平成一八年四月二八日、他覚的には新たな外科的適応となる所見に乏しいとの所見を示された(乙五p三三)。

(カ) 同年一一月二四日、右優位の両上肢しびれ感(事故の後に以前より増強)・後頚部痛の自覚症状を遺して、症状固定と診断された(乙四p一八九~一九二)。

(キ) 平成一九年二月一六日、夫は病名を頚椎捻挫として保険がおりたので自分も外傷性頚部症候群ではなく頚椎捻挫としてほしい・文面に事故前は自覚的に症状は改善したと書いて欲しい・事故後包丁がもちにくくなったり書字がしにくくなったことを記載して欲しい等と訴え(乙五p四一~四二)、c医療センターはその旨の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を作成した(乙四p一九三~一九五)。

この頃、握力は左一八kg右七・五kgであった(乙四p一九三~一九四)。

(5)ア 原告は、c医療センター脳神経外科に、平成一九年八月三一日~平成二一年九月一八日、約三か月毎に通院し、頚椎症・うつ病・睡眠障害等に効用があるデパス〇・五mgを三錠/日、鎮痛剤であるボルタレン二五mgを三錠/日等を処方された(乙五p四五~五八)。

イ(ア)  平成一九年一一月三〇日、ボルタレンは飲まないようにしているが、そうするとやはり痛いと訴えた(乙五p四五)。

(イ) 平成二一年二月六日、寒くなると肩が痛くなったり足の裏がしびれたりすると訴え、同年一月二三日のMRI検査で、平成一七年五月のものと比較して、神経圧迫の程度に著変なしとの所見が示された(乙五p五二・五六)。

(ウ) 同年六月一九日、首の後ろから右手の平と右尺側のしびれ・首の後ろから肩のあたりに比べてだるくなる・左腕はまし・両足の裏もびりびりしびれると訴えた(乙五p五七)。

(エ) 同年九月一八日、長いこと歩くと足がぴりぴりして重だるいような感じがしてしびれる感じ、特に右等と訴え、脊椎(L三/四/五/S)椎間狭小化・関節面変性、脊椎(L二/三/四)椎間板膨隆と黄色靭帯肥厚による軽度脊柱管狭窄を認めるとの所見、特にL三/四で椎間孔狭窄との所見が示された(乙五p五八、乙七p一一)。

三(1)  原告は、平成二一年九月二五日、釣りからの帰宅途中で、本件事故に遭った(原告本人)。

(2)  原告同乗四輪は、追突事故である本件事故により、リアパネルの板金・リアバンパフェイシア取替等八万七五八一円を必要とした(乙一~三)。

四(1)ア 原告は、b病院に、平成二一年九月二六日~一〇月二三日(実四日)、頚椎捻挫・ストレスによる不眠の傷病名で、通院した(乙六、一二〔枝番含〕)。

イ(ア) 平成二一年九月二六日、頚部痛・硬直を訴え、ジャクソンテスト・スパーリングテスト・徒手筋カテスト・ホフマン反射・トレムナー反射は陰性だった(乙六p一〇)。

(イ) 同年九月三〇日、両上下肢のしびれを訴え、ホフマン反射は陽性だった(乙六p八)。

(2)ア  原告は、c医療センター脳神経外科・整形外科に、平成二一年一〇月二日~一二月一〇日(実一〇日)、頚椎捻挫・頚椎症の悪化の傷病名で、通院し(乙五、一三―一~二〔枝番含〕)、この間、f病院に、平成二一年一〇月二四日~一〇月二九日(実二日)、外傷性頚部症候群の傷病名で、通院した(乙七、一四〔枝番含〕)。

イ(ア)  平成二一年一〇月二日、両手がしびれる・右手で字を書いていると右側に字が寄って行くと訴え、歩行スムーズと評価され、ネックカラー装着を指導された(乙五p六一)。

(イ) 同年一〇月九日、首が痛いと訴え、歩行障害や根症状は目立たずと評価され、脊椎(C三/四)椎間板ヘルニア突出、本件事故による変化認めるとの所見が示された(乙五p六三)。

(ウ) 同年一〇月二二日、両下腿にもしびれが出現していると訴えた(乙五p六七)。

(エ) 同年一〇月二四日、腰部の症状も本件事故の賠償として診てほしいと訴えた(乙七p一〇)。

(オ) 同年一〇月二四日、ラセーグ反射は陰性、ホフマン反射・トレムナー反射は陽性を示した(乙七p一〇)。

(カ) 同年一〇月二九日、握力は右六・一kg左六・七kgであった(乙七p一一)。

(キ) 同年一一月五日、歩行障害ありと訴え、腰部脊柱管狭窄症に外傷が加わり下肢症状の悪化に関与している可能性も否定できないが、頚椎が主病変との所見が示された(乙五p六八~七〇)。

(ク) 同年一一月二五日、徐々にひどくなっている・しびれとくらくらする・右側のほうがひどく腕が上がらないと訴え(乙五p七一)、脊椎(C三/四)脊髄圧迫あり・同年一〇月九日とは著変なしとの所見が示された(乙五p七二)。

(ケ) 同年一二月一〇日、放置すると症状進行・進行を止めるためには手術しか方法がないと説明された(乙五p七八)。

(3)ア  原告は、c医療センター整形外科に、平成二一年一二月二四日~二五日・平成二二年一月一四日~三月一一日、頚椎症性脊髄症の傷病名で、入院し(乙五、一三―二〔枝番含〕)、a病院に、同日~七月三〇日、頚部脊髄症の術後の傷病名で、入院した(乙八、一五―一~五〔枝番含〕)。

イ(ア)  平成二二年一月一四日、一週間前より歩けなくなってきた・足に力が入らない・立位保持困難等と訴えた(乙五p九〇)。

(イ) 同年一月二五日、手術は予防的・症状改善しない可能性・最悪四肢麻痺・どうしてもしなければならない手術ではない・リスク受け入れられなければ手術しない方が良いと説明された(乙五p二八五)。

(ウ) 同年一月二六日、左肩が肩こりと訴え(乙五p一二〇)、脊椎(C三/四・六/七)前方固定術を受けた(乙五p三二七)。

(エ) 同年一月二八日、両上下肢のしびれ・上肢痛は軽減し、頚椎から後頭部にかけてと採骨した右腸骨部の疼痛を訴えた(乙五p一三七・一四一)。

(オ) 同年二月七日、肩挙上困難・疼痛を訴えた(乙五p一五七)。

(カ) 同年三月一一日、歩行障害を訴え、FIM(機能的自立度評価。一一〇点以上で介護時間〇分と判断される。)九〇点/一二六点であった(乙八p一一三・一三五、弁論の全趣旨)。

(キ) 同年三月三〇日、右腸骨部疼痛を訴え、伝い歩きがやや疼痛回避性、FIM一〇二点/一二六点、握力右一kg左四・五kgであった(乙八p一一三・一四〇)。

(ク) 同年四月三〇日、FIM一〇七点/一二六点、握力右一九mmHg左二〇mmHgであった(乙八p一一四・一四九)。

(ケ) 同年五月二八日、FIM一〇八点/一二六点、握力右二〇mmHg左二五mmHgであった(乙八p一一五・一五七)。

(コ) 同年六月二五日、FIM一〇九点/一二六点、握力右三kg左一・八kgで、両T字杖で屋外歩行可能・手摺使用で階段昇降可能であった(乙八p一一六・一六三)。

(サ) 同年七月三〇日、FIM一一三点/一二六点であった(乙八p一一七)。

(4)ア  原告は、a病院に、平成二二年八月二日~一〇月二八日(実二一日)、頚部脊髄症の術後の傷病名で、通院し(乙八、一五―六~八〔枝番含〕)、g薬局で調剤を受け(乙一六―一~三)、この間、c医療センターに、同年八月六日~九月三〇日(実三日)、頚部脊髄症の傷病名で、通院した(乙五、一三―三~四〔枝番含〕)。

イ(ア)  平成二二年八月六日、左上肢振戦・にぎれない・握力低下・左肩甲部しびれあり、右下肢冷感・右臀部から大腿前面にかけてのしびれ、右腸骨部歩行時痛と訴えた(乙五p二二三)。

(イ) 同年九月一七日、左手振戦・だる痛い・しびれ、下肢しびれ、頚部だる痛い、八月に比べてひどくなったような気がする等と訴えた(乙五p二二五)。

五(1)  原告は、平成二二年一〇月二八日、左上肢使用不能・立位困難の自覚症状、立位ではロンベルグサイン陽性で片足起立の保持は全く困難等の他覚症状および検査結果、肩関節機能障害(屈曲:他動右一八〇度左八〇度・自動右一八〇度左〇度、外転:他動右一八〇度左一一〇度・自動右一八〇度、左〇度)、肘関節機能障害(屈曲:他動右一五〇度左一一〇度・自動右一五〇度左〇度)を遺して症状固定したと診断された(甲六)。

(2)  原告は、平成二二年一一月三〇日、左上肢使用不能について「一上肢の機能を全廃したもの」(身体障害者福祉法施行規則別表五上肢機能障害二級四号)に、立位困難について「体幹の機能障害により歩行が困難なもの」(同体幹機能障害三級)、併せて一級相当と判断された(甲七)。

(3)  損害保険料率算出機構は、平成二三年一一月一日・平成二四年八月二三日、左上肢使用不能・立位困難等について、自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断した(乙一〇―一・二)。

六(1)  原告は、平成二二年一一月一日、上腕周径右二六・〇cm左二四・五cm・前腕周径右二三・五cm左二三・〇cm、握力右二・〇kg左測定不能であった(乙八p一八)。

(2)  原告は、平成二二年一二月二七日、上腕周径右二五・五cm左二五cm・前腕周径右二二・五cm左二二・五cmであった(乙八p二八)。

(3)  原告は、c医療センターで、平成二三年九月八日、左手が重たい、両手が意図しない動きをする・しびれ、右腸骨部痛、右肩痛、腰痛を訴えた(乙五p二六六)。

(4)  原告は、平成二三年一二月八日、c医療センター整形外科医師に対し、後遺障害非該当に納得できないとして、意見書を求めたところ、同医師から、当科受診以降の病状については記載できるが本件事故との因果関係については証明できない・手術は病状上必要があり行ったと説明された(乙五p二六七)。

七  原告の平成一六年七月二一日の頚椎MRI検査と平成二一年一〇月九日の頚椎MRI検査に比べて、平成二一年一月二三日の頚椎MRI検査は、撮影時の頚椎後屈の程度が弱いこと、平成一六年七月二一日の頚椎MRI検査によれば、脊椎(C三/四)脊柱管狭窄・脊髄圧迫が認められることを考慮すれば、脊椎(C三/四)脊柱管狭窄・脊髄圧迫が明らかではない平成二一年一月二三日の頚椎MRI検査と、脊椎(C三/四)脊柱管狭窄・脊髄圧迫が認められる平成二一年一〇月九日の頚椎MRI検査を比較して、C三/四脊柱管狭窄・脊髄圧迫が平成二一年一月二三日~一〇月九日に発生したとはいえないとの専門的知見がある(乙一〇―二、一八)。

八  頚椎症性脊髄症の責任椎間板高位決定の診断指標として、C三/四は、筋力低下が三角筋に、知覚障害が上肢に現れ、C四/五は、筋力低下が上腕二頭筋に、知覚障害が手に現れ、C五/六は、筋力低下が上腕三頭筋に、知覚障害が前腕から手にかけて現れるとの専門的知見がある(乙一九―二)。

(裁判官 永野公規)

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