京都地方裁判所 平成24年(ワ)1864号 判決
本訴原告兼反訴被告(以下「原告」という。)
有限会社X
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
長澤格
同訴訟復代理人弁護士
山田敏之
同
石原大幹
同
佐藤功治
本訴被告
有限会社Y1(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役
B
本訴被告兼反訴原告
Y2(以下「被告Y2」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士
飯田昭
主文
一 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
二 原告は、被告Y2に対し、一万円及びこれに対する平成二四年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Y2のその余の反訴請求を棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴ともにこれを三分し、その二を原告の、その余を被告Y2の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
【本訴請求】
一 請求の趣旨
(1) 原告が、別紙物件目録〈省略〉記載の各土地について、採石権を有することを確認する。
(2) 被告Y2は、原告に対し、別紙物件目録〈省略〉記載の各土地につき、平成二〇年六月二六日設定を原因する別紙登記目録〈省略〉記載の採石権の設定登記手続をせよ。
(3) 被告らは、原告に対し、連帯して、一〇〇〇万円及びこれに対する平成二三年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は、被告らの負担とする。
(5) 三項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
【反訴請求】
一 請求の趣旨
(1) 原告は、被告Y2に対し、五八二万九八六二円及びこれに対する平成二四年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(1) 被告Y2の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は被告Y2の負担とする。
第二本訴請求に関する当事者の主張
【請求原因】
一 当事者
原告は、土、砂、砂利の採集及び販売等を業とする特例有限会社である。原告は、平成二〇年一二月五日、「有限会社a」から現商号へ商号変更した。
被告会社は、土木工事、建築工事等を業とする特例有限会社であり、被告Y2は、被告会社の取締役を務めている。
二 採石権確認請求
(1) 採石権の存在
原告は、平成二〇年六月二六日、別紙物件目録〈省略〉記載の各土地(以下、各土地を順に「五七番土地」「五七番三土地」といい、両土地を併せて「本件土地」という。)の所有者であったC(以下「C」という。)から、本件土地について採石権の設定を受けた。もっとも、本件土地に対する原告の採石権について登記はされなかった。
なお、本件土地の実測面積は、登記簿上の面積よりもずっと広く、五七番土地が二五三三・八六平方メートル、五七番三土地が一八四四・六七平方メートルである。
上記採石権設定の際、Cは、本件土地の所有権を移転する場合、原告の採石権を譲受人に認めさせることを誓約した。採石権の存続期間については明示の合意はなかったものの、採石法上の最長期間である存続期間二〇年間(同法五条二項)の黙示の合意がされていた。
原告は、同年一二月四日、本件土地の岩石採取計画について京都府知事の許可を受け、本件土地における採石作業を開始した。
本件土地を含む原告の採石事業は大がかりなもので、採石場には原告の採石権を示す看板が掲示されており、採石のための重機も設置されていた。本件土地はGoogleマップにおいても((有)a岩石採取場」との記載がされており、地元住民や業者は、誰もがその存在を認識していた。
(2) 破産管財人による本件土地の任意売却
Cは、平成二二年三月一七日、破産手続開始の申立てをし(以下「本件破産手続」という。)、同年九月一〇日、破産手続開始決定がされ、D弁護士が破産管財人に選任された(以下「D管財人」という。)。
D管財人は、同年一〇月一五日、本件土地を含む合計二〇筆の土地及び三箇所の建物(以下、併せて「本件売買不動産」という。)を被告会社に一五〇万円で売却する旨の任意売却許可申請書を破産裁判所に提出し、同月一九日、同裁判所は、上記任意売却を許可する決定をした(以下「本件売却許可決定」という。)。
D管財人が本件任意売却許可申請を行ったのは、被告会社が「いくらなら売ってくれるのか」などとD管財人に執拗に働きかけを行ったからであった。
原告は、本件破産手続の申立代理人、D管財人及び被告会社に対し、原告の採石権についての適切な処理を申し入れたが、有効な回答は得られなかった。
本件売却許可決定を踏まえ、被告会社は、同年一二月一六日、D管財人との間で本件土地の売買契約を締結し、同土地の所有権を取得した。
(3) 被告会社の対応
被告会社は、本件売却許可決定がされた直後から、原告に対し、本件土地について建設的な話をしたいなどとして様々な要求を行ってきたが、原告は、被告会社の要求には応じない姿勢を貫いていた。
すると、被告会社は、平成二三年二月二五日付け通知書により、原告に対し、原告の採石権は被告会社への対抗力が認められないため、本件土地への立入りや採石行為等を禁止する旨主張するに至った。
そのため、原告は、本件土地についての採石工事一切を中止せざるを得ない状況となった。
(4) 被告Y2への本件土地の所有権移転
本件土地は、平成二三年八月一日、被告会社から被告Y2に売却され、その所有権が移転した。被告会社は、いわゆる同族会社であり、被告Y2も、本件土地についての前記の諸事情を十分に認識した上で、本件土地を購入したものである。
(5) 採石権の対抗
被告Y2が民法一七七条の「第三者」に当たるのであれば、採石権についての登記を具備していない原告は、被告Y2に本件土地の採石権を対抗することができない。
しかし、以下の各事情から、被告会社及び被告Y2は、いずれも原告の対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有しない「背信的悪意者」であり、民法一七七条の第三者に該当しないから、原告は、本件土地の採石権を被告らに対抗することができる。
ア 採石権の認識
上記(1)のとおり、被告会社は、現地調査を行えば、本件土地に原告の採石権が設定されていることを容易に認識しうる状況にあった。被告会社は、京丹後市に本店を置く土木工事等の業者であるが、原告が本件土地で採石事業を行っていることは、地元の業者であれば当然認識していることであった。
また、本件任意売却当時、Cの息子は被告会社に勤務しており、被告会社は、本件土地の権利関係を容易に知り得る状況にあった。
イ 不当な目的
被告会社は、本件土地を含む二〇筆の土地及び建物を合計一五〇万円で購入している。これらの不動産の中には、固定資産評価額が三〇〇万円を超える物件も含まれており、被告会社は、本件土地を極めて低廉な価格で購入したと評価できる。実際、被告会社は、本件土地を被告Y2に代金一万円で売却している。
それにもかかわらず、被告会社は、本件売却許可決定がされた直後から、原告に対し、本件土地について建設的な話がしたいなどと述べ、原告との交渉機会を持つべく積極的に行動していた。
その後も、被告会社は、原告に対し、本件土地を一五〇〇万円でなら売却してもよいと述べるなど、様々な手段で原告との交渉の機会を持つべく行動していた。
このことからも、被告会社は、原告に高く売りつけるなど不当な目的で本件土地を購入したと認められる。被告Y2についても、被告会社の取締役であり、実質的には代表取締役として行動している者であるため、被告会社の属性を承継しているということができる。
(6) よって、原告は、被告Y2に対し、本件土地について、採石権の確認及び採石権の設定登記手続を求める。
三 被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
(1) 原告の採石権
前記二のとおり、原告は、本件土地について採石権の設定を受けており、同権利は、被告らに対して対抗可能な権利である。
(2) 被告らによる侵害行為
被告会社は、平成二三年二月二五日付け通知書により、原告に対し、本件土地への立入りや採石行為等を禁止し、原告は、本件土地での採石工事一切を中止せざるを得なくなった。
被告Y2は、同年八月一日、被告会社から本件土地を購入し、被告会社と同様原告に対し、本件土地への立入りや採石行為等を禁止している。
被告らは、本件土地の所有者もしくは前所有者であるが、原告の採石権との関係では背信的悪意者であって、原告の採石工事を妨害する権限はなかったのであるから、被告らによる採石工事の妨害行為は、原告の採石権の侵害行為といえる。
(3) 原告の損害
ア 営業損害
原告は、平成二〇年一〇月、本件土地を含む一六筆の土地について総採掘量を一五万五四三〇立方メートルとする開発行為に関する計画書を京都府に提出し、採石についての許可を受けた。
しかし、原告は、平成二三年一〇月、被告らの妨害行為によって本件土地の採石を行えない状況にあったため、本件土地を除く一四筆の土地について総採掘量六万一一五四立方メートルとする開発行為に関する計画書を京都府に提出し、採石についての許可を受けた。
そうすると、原告の採石工事は、被告らの妨害行為の結果、総採掘量が九万四二七六立方メートルも減少することになった(一五万五四三〇-六万一一五四=九万四二七六)。
原告の、平成二一、二二年度の山土の採掘量及び売上高は以下のとおりである。
採掘量 売上高
平成二一年度 一一九二五・五立方メートル 九四四万三八八五円
平成二二年度 一二四〇二立方メートル 九六六万六〇九五円
(二年合計:二四三二七・五立方メートル 一九一〇万九九八〇円)
したがって、一立方メートル当たりの売上高は約七八五円となり、被告らの妨害行為による減少分九万四二七六立方メートルの売上高は約七四〇〇万六六六〇円となるから、原告は同額の損害を負うことになる。
イ 弁護士費用
被告らによる採石権侵害行為と因果関係の認められる弁護士費用は、上記アの損害額の一割である七四〇万〇六六六円が相当である。
ウ 上記ア及びイを合計すると、被告らの行為によって原告に生じた損害額は、八一四〇万七三二六円である。
(4) よって、原告は、被告らに対し、民法七一九条に基づき、連帯して、八一四〇万七三二六円のうち一〇〇〇万円及びこれに対する平成二三年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【請求原因に対する被告らの認否】
一 請求原因一は認める。
二 同二(1)のうち、本件土地について原告の採石権設定登記がされていない事実及び本件土地の実測面積については認め、その余は不知。
三(1) 同二(2)のうち、第一、第二段落は認める。なお、被告会社は、Cが所有する本件売買不動産と、Cと同時に破産した同人の三男Eの所有する土地一筆とを一括して二〇〇万円でD管財人から購入したものである。
第三段落は否認する。
第四段落は不知。第五段落は認める。
(2) 本件土地の売却は、そもそも被告らから持ちかけたものではなく、D管財人から被告Y2に連絡があり、買わないかと持ちかけられたものである。すなわち、D管財人から被告らに対し、Cの自宅及び資材置場とともに本件土地を一括で売却したいとの話が持ちかけられたことに対し、被告らは、Cの自宅及び資材置場については買い受ける意向があるが、本件土地は不要であると回答した。これに対し、同管財人から、別々には売却しにくいので、本件土地もまとめて買ってほしいとの強い要請があり、被告会社が購入したものである。売買金額については、D管財人が、幾らであれば購入できるかと聞いてきたため、被告Y2は「全部合わせて二〇〇万円であれば買います」と答えたところ、後日同管財人から、裁判所の許可が出た旨の返事があり、同金額に決定したものである。
四 同二(3)第一段落のうち、被告会社が原告に対し甲第一〇号証(FAX送信書)を送信した事実は認めるが、その余は否認する。
第二段落は認める。
第三段落は否認する。原告が本件土地の開発工事を中止したのは平成二三年一〇月三一日であり、それまでは、原告は本件土地の開発工事を続けていた。
五 同二(4)につき、被告会社から被告Y2への本件土地の売買の事実及び被告会社が同族会社である事実は認める。
被告会社が被告Y2に本件土地の所有権を移転したのは、原告からの苦情に対し、被告Y2において対応するためである。
六(1) 同二(5)本文第一段落は認め、第二段落は否認する。
(2) 同二(5)ア第一段落のうち、被告会社が京丹後市に本店を置く土木工事等の業者である事実は認めるが、その余は不知ないし否認する。
同ア第二段落のうち、Cの息子が被告会社に勤務していた事実は認めるが、その余は否認する。
(3) 同二(5)イ第一段落のうち、被告会社が本件土地を含む本件売買不動産を一五〇万円で購入した事実及び被告会社が被告Y2に本件土地を一万円で売却した事実は認めるが、その余は否認する。
同イ第二段落は認める。
同イ第三段落は否認し、第四段落は争う。
(4) 本件土地の売買において、D管財人は民法一七七条の第三者に該当し、その管財人から裁判所の売却許可決定を受けて本件土地を買い受けた被告会社が背信的悪意者に該当することはあり得ない。
仮に、上記主張が認められないとしても、本件事実関係の下では、被告らは背信的悪意者には該当しない。
七 請求原因三(1)は否認する。
同(2)のうち、被告会社が原告に対し甲第一一号証の通知書を送付し、本件土地への立入りや採石行為等を禁止した事実及び被告Y2が平成二三年八月一日に本件土地を被告会社から購入した事実は認めるが、その余は否認する。
同(3)は争う。
第三反訴請求に関する当事者の主張
【反訴請求原因】
一 本件土地の購入
被告会社は、本件破産手続において、本件土地を含む本件売買不動産について、D管財人による任意売却の申出を受けて購入を決断し、平成二二年一〇月一九日、破産裁判所から本件売却許可決定を受け、同管財人と本件売買不動産の売買契約を締結した。
被告会社は、同年一二月一六日、上記売買契約に基づき、本件土地の所有権を取得し、移転登記を経由した。
二 原告による採石行為
(1) 被告らは、本件売却許可決定がされた直後の平成二二年一〇月下旬には、同決定を提示して、原告代表者に対し、本件土地を取得したので、今後は同土地には立ち入らないでほしい旨申し入れた。
(2) それにもかかわらず、原告は、本件土地に重機を投入して占有した上で、本件土地における採石を継続した。
そこで、被告会社は、原告に対し、平成二三年二月二五日付け通知書を送付し、本件土地への立入りや採石行為をしないよう求めた。
しかし、原告は、その後も本件土地の占有を継続したため、被告会社は、平成二三年一〇月二三日、不動産侵奪罪により告訴状を提出した。
その結果、被告会社は、同年一〇月三一日、原告から謝罪文の送付を受けた。
(3) 原告が本件土地の開発行為を中止したのは、平成二三年一〇月末のことであり、それまでは採石行為を含む開発行為を続けていた。
(4) 原告が、本件土地を被告らの承諾なく不法に占有したり、かつ土砂の採掘行為を行ったりしたことは、本件土地に対する被告らの所有権を侵害する不法行為に該当する(下記三のとおり、被告Y2は、平成二三年八月一日、被告会社から本件土地を購入していることから、同年七月三一日までは被告会社の、同年八月一日以降は被告Y2の、本件土地に対する所有権を侵害したことになる。)。
三 被告Y1社から被告Y2への債権譲渡
(1) 被告Y2は、被告会社から、平成二三年八月一日本件土地を購入し、その所有権を取得した。
(2) 被告会社は、被告Y2に対し、上記同日、本件土地に関して被告会社が原告に対して有する損害賠償請求権を譲渡した。
被告会社は、原告に対し、平成二五年一一月二六日、上記債権譲渡について通知した。
四 損害額
(1) 本件土地の借地代相当損害金 四九八万九八六二円
原告は、被告会社が本件土地の所有権を取得した平成二二年一二月一六日以降平成二三年一〇月末日までの間(一〇・五か月)、本件土地を不法に占有した。
本件土地の借地料は、少なくとも見積もっても一平方メートル当たり月額一一〇円であるから、これに本件土地の実測面積四三二〇・二三平方メートルを乗じると、本件土地の借地料は月額四七万五二二五円となる。これに不法占有期間(一〇・五か月)を乗じると、原告の行為により被告Y2に生じた損害は四九八万九八六二円と算出される。
(2) 原告が無断で持ち去った土砂代 八四万円
原告が本件土地から無断で持ち去った土砂の量は、五〇〇立方メートルである。これに、土砂一立方メートル当たりの単価一六八〇円(京丹後市の公共工事における単価)を乗じると、原告の土砂持ち去りにより被告Y2が受けた損害額は八四万円と算出される。
(3) 上記(1)及び(2)を合計すると、原告の不法行為により被告Y2が受けた損害額は、五八二万九八六二円となる。
五 よって、被告Y2は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、五八二万九八六二円及びこれに対する平成二五年八月一六日(反訴状送達の日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【反訴請求原因に対する原告の認否】
一 請求原因一は認める。
二 同二のうち(1)は認める。同(2)のうち、被告会社が原告に対し、平成二三年二月二五日付け通知書を送付し、本件土地への立入りや採石行為をしないよう求めたこと、原告が謝罪文を交付したことは認め、その余は否認ないし不知。
同(3)は否認し、同(4)は争う。
三 同三(1)(2)は認める。
四 同四は争う。
被告Y2は、本件土地の借地料相当額の損害金につき、平米あたり月額一一〇円とし、その根拠として被告会社と第三者との間で締結した貸賃借契約書を提出している。しかし、本件土地と被告が賃借する土地とは、固定資産評価額に対する平米単価が全く異なるため、本件土地の借地料の参考とはならない(本件土地の平米単価が約一二円~一五円程度であるのに対し、被告の賃借している土地の平米単価はいずれも一万四〇〇〇円前後であり、両者は著しく乖離している。)。
また、被告Y2は、原告が持ち去った土砂の単価として、京丹後市の公共工事資料に基づき一立方メートルあたり一六八〇円と主張するが、同資料に記載された土砂の単価は、採掘・加工済みの土砂の仕入れ代金であり、土砂そのものの価格とは大きく異なるため、被告Y2の主張は失当である。
理由
第一本訴請求について
一 請求原因一、同二(1)のうち本件土地について原告の採石権設定登記がされていない事実及び本件土地の実測面積、同二(2)のうち第一、第二、第五段落の事実、同二(3)第一段落のうち被告会社が原告に対し甲第一〇号証(FAX送信書)を送信した事実及び第二段落の事実、同二(4)のうち被告会社が被告Y2に本件土地を売却した事実及び被告会社が同族会社である事実、同二(5)本文第一段落の事実、同(5)ア第一段落のうち被告会社が京丹後市に本店を置く土木工事等の業者である事実、同第二段落のうちCの息子が被告会社に勤務していた事実、同(5)イ第一段落のうち被告会社が本件土地を含む本件売買不動産を一五〇万円で購入した事実及び被告会社が被告Y2に本件土地を一万円で売却した事実、同イ第二段落の事実は、当事者間に争いがない。
これらの争いのない事実並びに証拠〈省略〉によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告による採石事業等
原告は、平成八年から、本件土地を含む京丹後市丹後町○○地区(以下「○○地区」という。)での採石事業を開始した。○○地区における原告の採石事業は、対象区域の土地から風化花崗岩を掘削して搬出するという内容であった(以下、風化花崗岩のことを「岩石」「土砂」「山土」などと呼称することがある。)。当初原告は、期間を一二年間とする事業計画を立て、地権者への説明を行い、その同意を得た上で採石事業を行っていた。原告による上記採石事業は、計画どおり平成八年から平成二〇年にかけて行われ、そのころ完了した。
その後、原告は、新たに期間を平成二〇年から一五年間とする事業計画を立てた。原告は、平成二〇年初め頃から各地権者に対し、事業計画の内容、期間が一五年間であることや、対象土地からの山土採取に対する対価の支払方法等について説明を行い、各地権者の同意を得ていった。山土採取の対価として原告が地権者に支払う金額は、山土一立方メートル当たり一〇〇円に満たない程度の金額であった。
なお、○○地区における原告の採石事業に関する地権者の同意の取付け、京都府への認可申請手続やそれに伴う図面の作成等の業務については、原告の依頼により、「b」の屋号で事業を営むF(以下「F」という。)が主に行っていた。
(2) 本件土地に関する採石の同意等
原告は、平成二〇年六月二六日、Cとの間で、同年九月から平成二三年九月までの三年間、同人の所有する本件土地から岩石を採取すること(採石権)について同意を得るとともに、原告が本件土地において岩石採取の目的で開発行為を施行することについて同意を得た。なお、原告とCとの間で交わされた岩石採取に関する同意書における本件土地の使用期間が、事業計画期間である一五年間ではなく三年間とされたのは、採石事業を行う際に必要となる京都府の認可が三年ごとに更新する必要があるためであった。
同時に、原告とCは、京都府知事に対し、本件土地における開発行為の施行に伴い残置する森林等について、①残置森林等を保存すること、②残置森林計画を遵守すること、③残置森林等の所有権その他森林等利用権利を他に譲渡したときは、上記①ないし③の誓約事項を当該譲受人に承継させることを誓約する旨の誓約書を提出した。
(3) 採石事業の開始等
原告は、平成二〇年一二月四日、本件土地を含む○○地区の一六筆の土地(合計面積二万六八七〇平方メートル。以下「本件対象区域」という。)において、同日から平成二三年一二月三日までの三年間、合計七万九八三五トンの風化花崗岩を採取する旨の岩石採取計画について京都府知事の認可を受け、本件対象区域における採石作業を開始した。
本件対象区域の採石場には、原告が同区域における岩石採取の開発行為につき認可を受けたことを示す看板が掲示されており、採石のための重機も置かれていた。本件対象区域は、Googleマップにおいても「(有)a岩石採取場」との記載がされていた。
なお、被告会社は、平成二二年三月当時、本件売買不動産のうち一一筆の土地を、資材置場としてCから賃借していた(以下「本件資材置場」という。)。本件資材置場は、○○地区を流れる竹野川を挟んで本件土地を含む本件対象区域の対岸に位置し、同資材置場からは本件土地を一望することができた。被告Y2は、本件資材置場に頻繁に出入りしていた。
(4) 本件土地の任意売却の経緯
ア Cは、平成二二年三月一七日、京都地方裁判所宮津支部(破産裁判所)に対し、本件破産手続開始の申立てをし、同年九月一〇日、破産手続開始決定がされ、D管財人が選任された。同時に、Cの三男であるEについても破産手続開始決定がされ、同じくD管財人が選任された。
イ 被告会社の従業員であったEを通じて、本件破産手続の開始を知った被告Y2は、Cから賃借していた本件資材置場を、被告会社の事業に必要であったことから何とか購入したいと考え、D管財人に電話をして、本件資材置場の購入希望を伝えた。被告Y2が当初購入を希望したのは本件資材置場のみであり、本件土地についての購入希望の申出はなかった。被告Y2の申出を受けたD管財人は、本件売買不動産のうち本件資材置場以外の山林等が売れ残っても処分に困ると考え、被告Y2に対し、本件土地を含む本件売買不動産を全て一括して買ってほしいと申し入れた。これに対し、被告Y2は、当初は本件資材置場とCの自宅については買い受ける意思があるが、本件土地やその他の不動産は不要である旨を伝えたものの、D管財人から、残りの不動産(山林等)を別途売却するのは困難であるのでまとめて買ってほしいと再度要請があったことから、本件売買不動産及びE所有不動産一筆の一括購入を検討することとし、D管財人に対し、「全部合わせて二〇〇万円であれば買います」と伝えた。
ウ その後、D管財人は、破産裁判所から、本件売買不動産を一五〇万円(Eの土地一筆の売買を合わせると合計二〇〇万円)で被告会社に売却することについての内諾を得て、その旨を被告会社に伝えた。
エ D管財人は、平成二二年一〇月一五日、破産裁判所に対し、本件土地を含む本件売買不動産を被告会社に一五〇万円で売却する旨の任意売却許可申請を行い、同月一九日、本件売却許可決定がされた。
オ 被告Y2は、同月二〇日、D管財人に対し、本件売買不動産等の売買代金二〇〇万円及び登記費用を持参したい旨連絡し、同月二二日、D管財人の事務所に上記二〇〇万円及び登記費用を持参した。D管財人は、被告Y2が持参した二〇〇万円を受領したものの、被告会社との正式の売買契約の締結前であったことから、被告Y2に対し「預り証」を交付した。
(5) 本件任意売却許可決定後の本件土地を巡る交渉経過等
ア 被告Y2は、本件売却許可決定後の平成二二年一〇月下旬頃、原告事務所を訪問し、原告代表者に本件売却許可決定書を示して、本件売買不動産の所有者がCから被告会社に変更になった旨を告げ、原告の採石場が本件売買不動産に含まれているかどうかを確認した。これに対し、原告代表者は、本件土地が本件対象区域に含まれる旨を説明し、被告Y2は、原告の採石事業の対象地域に本件土地が含まれることを確定的に認識した。そこで、被告Y2は、原告代表者に対し、原告が被告会社との間で、本件土地での採石について新たに契約を締結するか、本件土地を買い取るなりしてほしい旨申し入れた。原告代表者は、被告Y2からの突然の話に戸惑い、その場では特に返答をしなかった。
イ その後、被告Y2は、原告の事業のために地権者との交渉等を行っていたFに対し、本件土地の所有権を取得したので、原告において本件土地を買い取るなり、借り受けるなら新たに契約を結ぶなりしてほしいと申し入れ、本件土地の売買価格としては、一五〇〇万ないし二〇〇〇万円でないと話にならない旨を伝えた。原告代表者は、Fから、被告Y2の上記申入れを聞いたものの、余りに金額が高かったことから、被告Y2の申出には応じなかった。
なお、平成二二年当時の本件土地の固定資産評価額は、合計で二万円に満たなかった。
ウ 原告代表者は、同年一〇月二八日、京丹後警察署に対し、被告Y2から上記イ記載の申入れを受けている旨を相談したところ、警察官から、本件土地の売買契約書を確認すること、相手方と交渉する際は弁護士に立会いを求めて毅然と対応することなどの教示を受けた。
エ 被告会社は、平成二二年一一月一日付けで原告に対し、「上記土地(本件土地)の件で双方合意の上建設的なお話をしたくお願いします」「迅速な対応をお願いします」「(送信三回目)」などと記載した文書をFAX送信した。
(6) 本件売買不動産に関する売買契約の締結
D管財人と被告会社は、平成二二年一二月一六日、本件土地を含む本件売買不動産の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、各不動産の所有権は、同日Cから被告会社に移転した。
(7) 被告会社の原告に対する通知書の送付
被告会社は、代理人弁護士を通じて、平成二三年二月二五日付け「ご通知」と題する書面を送付し、被告会社が本件土地の所有権を取得したことを告知するとともに、本件土地について原告の採石権は被告会社への対抗力がないこと、原告の「本件土地への立ち入りや採石行為等、本件土地に対する所有権侵害行為」を一切しないよう求めた。
(8) 被告Y2への本件土地の売却
被告会社は、被告Y2に対し、同年八月一日、本件土地を代金一万円で売却し、同月二日所有権移転登記をした。
(9) 原告による採石事業の再度の認可申請を巡る経緯等
ア 本件対象区域における原告の採石事業に関する京都府の認可は、三年ごとの更新が必要であり(前記第一の一(2))、平成二〇年一二月に開始した採石事業の認可期間の満了日が平成二三年一二月三日であったことから、原告の依頼を受けたFは、同年七月頃から、再度の認可申請に向けた手続を開始した。
イ 京都府に対する採石事業(開発行為)の認可申請のためには、①土地所有者等関係権利者の同意書及び②利害関係者の同意書が必要となる。①は、対象区域の土地で土砂を採掘・搬出することに所有者等として同意する内容のものであり、認可申請に不可欠な書類である。②は、対象区域の土地に隣接する土地の所有者等に、対象区域の土地で土砂を掘削・搬出することに同意してもらう内容のものであり、認可のために不可欠なものではないものの、京都府が行政指導により認可申請の際に通常徴求している書類である。
ウ 原告は、平成二三年七月頃から同年一〇月頃にかけて、Fを通じて被告Y2に対し、本件土地で採石事業を行うための再度の認可申請に必要であるとして、土地所有者等関係権利者としての同意を何度も依頼したか、同人は「同意はしない」と返事をするだけで、態度を変えようとしなかった。そのため、原告は、被告Y2から本件土地に関する所有者としての同意を得ることは不可能であると考え、やむなく本件対象区域(一六筆)から本件土地二筆を除く形で採石事業の申請を行うこととした。
本件土地を採石事業の対象区域から除外するとしても、本件土地が対象区域に隣接することになることから、原告は、被告Y2に対し、利害関係者としての同意(以下「隣接同意」という。)についても何度も依頼したが、同人は、「同意はしない」「権利同意代として一五〇〇万円は必要だ」「隣接同意が得られない場合、岩石採取許可が下りないのだから、その場合の損害金額は幾らになるのか」などと述べ、同意しようとしなかった。
そこで、原告は、京都府(土木事務所)と協議した結果、被告Y2の隣接同意を得ることが著しく困難な状況にあることを踏まえ、本件土地を除いた一四筆の区域での採石事業の認可申請について、被告Y2の隣接同意がないままでの認可申請が認められることになった。
なお、原告は、本件土地以外の対象区域内の土地一四筆及びその隣接地の地権者からは、特段の問題なく、所有者等としての同意及び隣接同意を得ることができた。
二 原告の採石権の被告らに対する対抗力の有無
(1) 採石権は、他人の土地において岩石及び砂利を採取する権利であり、物権である(採石法四条一項、三項)。したがって、採石権は、不動産に関する物権変動の対抗要件について定めた民法一七七条の規律に服し、登記をしなければ「第三者」に対抗することができない(不動産登記法三条九号参照)。
そして、民法一七七条の「第三者」には、対象不動産に対する差押債権者が含まれるところ、破産手続は破産者の総財産に対する包括執行としての性格を持ち、破産管財人は破産者の総財産に対する差押債権者と同視できる地位にあるから、同様に同条の「第三者」に含まれると解される。したがって、破産手続開始決定までに登記が具備されなければ、当該物権変動を破産管財人に対抗することはできない。
この点、前記認定のとおり、原告は、本件土地に対する採石権について設定登記を具備していないから、第三者たるD管財人にその効力を対抗することはできない。
(2) また、D管財人が、本件土地について、いったん原告の採石権の対抗を受けない状態で管理処分権を取得した以上、同管財人から本件土地の所有権を譲り受けた者も、その主観面を問題にするまでもなく、同様に原告の採石権の対抗を受けることのない完全な所有権を取得するものというべきである。このように解さないと、破産管財人が破産財団に所属する不動産を迅速に売却することが困難となり、その結果破産手続の迅速性を著しく損ない、ひいては破産手続の目的(破産法一条)を達することができなくなるからである。
したがって、被告会社は、本件売買契約に基づき、本件土地につき、原告の採石権の対抗を受けることのない完全な所有権を取得し、同被告から本件土地の所有権を取得した被告Y2についても、同様に原告の採石権の対抗を受けることはない。
(3) 仮に、破産管財人からの不動産の譲受人についても、背信的悪意者に当たる場合には、民法一七七条により登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する「第三者」には当たらないとの見解を採る余地があるとしても、以下に述べるとおり、被告らは背信的悪意者には当たるとは認められないから、いずれにしても原告の主張は理由がない。
すなわち、前記認定のとおり、被告会社は、当初本件土地の購入を希望していなかったところ、D管財人から、本件土地を含めて本件売買不動産を一括して購入してほしい旨の要請を受けたことから、本件土地の購入を決断したものである(以上の認定は、破産管財人であった証人Dの回答書に基づくものであって信用性が高いということができる。)。そして、被告らが、原告による採石事業の対象区域に本件土地が含まれることを確定的に知ったのは、本件売却許可決定後の平成二二年一〇月下旬原告代表者からその旨を聞いた時点であり、本件売却許可決定時点では、本件対象区域に本件土地が含まれるとの明確な認識はなかったのである。
かかる本件土地売買の経緯に照らせば、被告らが、原告に高値で売りつけて法外な利益を得る等の不当な目的をもって本件土地を購入したとは認められず、その他、被告らが背信的悪意者に当たると認めるに足りる証拠はない。
なお、前記認定のとおり、被告らは、本件土地の購入後、原告に対し、本件土地を極めて高値で売りつけようとしたり、原告が本件土地で採石事業を行うための再認可申請に必要な、所有者としての同意や隣接同意を拒絶するなどの行動に及び、結果として原告が本件土地を採石事業の対象区域から除外せざるを得ない事態が生じたことが認められる。しかし、かかる事情は本件土地の売却許可決定後に生じた事情であるから、被告らの行為が事後的に不当な利益を得る目的で行動したと評価する余地があるとしても、かかる事情をもって被告らを本件土地の売買につき背信的悪意者とまで認めることはできない。
(4) 原告は、被告らが背信的悪意者に該当するか否かの判断は、本件売却許可決定日時点ではなく被告会社が正式に本件売買契約を締結した平成二二年一二月一六日を基準とすべきであると主張する。
しかし、法律専門家でない被告らとしては、本件土地の売買について破産裁判所の売却許可決定を得た以上、実質的に売買が成立したもの(後日の売買契約書の調印は形式的なもの)と考えて、以後所有者として行動することは特に不自然なこととはいえないし、そのことが殊更信義則に反するということも困難である。また、破産実務において、不動産の任意売却許可決定がされる際には、対象不動産及び売買金額が確定しており、その他主要な売買条件も確定していることが多く(売却許可決定の申請書に売買契約書が添付されていることも多い。)、いったんある不動産について破産裁判所による売却許可決定がされれば、その後同決定が取り消されることはほぼ皆無といってよいから、実質的にみれば、売却許可決定がされた時点において売買が成立したと同視できる状況にあるものと認められる。
以上に鑑みると、本件土地の売買に関して被告らが背信的悪意者に該当するかどうかの判断は、本件売買契約締結時点ではなく、本件売却許可決定時点を基準とすべきである。
(5) 以上によれば、原告は、登記を具備していない以上、本件土地に対する採石権を被告らに対抗することはできない。
よって、原告が被告らに採石権を対抗できることを前提とする①採石権の確認請求及び②被告Y2に対する採石権の設定登記手続請求は、いずれも理由がない。
三 請求原因二について
請求原因二(不法行為に基づく損害賠償請求)も、原告が本件土地に対する採石権を被告らに対抗することができることを前提とするから、その前提が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
四 まとめ
よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がない。
第二反訴請求について
一 反訴請求原因一の事実、同二(1)及び(2)のうち被告会社が原告に対し平成二三年二月二五日付け通知書を送付して本件土地への立入りや採石行為等の禁止を求めた事実、同三(1)(2)の各事実は、当事者間に争いがない。
以上の争いのない事実並びに証拠〈省略〉によれば、反訴請求に関連する事実として、次の事実が認められる。
(1) 原告が、平成二〇年一二月から平成二三年一二月までの間、本件対象区域において実施してきた採石事業において、本件土地は、山土(岩石)の採掘区域には含まれていなかった(証拠〈省略〉の添付図面を見ると、「採掘箇所」〔赤色塗りつぶし部分〕が本件土地にまたがっていないことが分かる。)。本件土地において原告が山土の採掘を行ったのは、平成八年から平成二〇年までの間の採石事業においてであった。
原告が採掘した山土は、いったん本件対象区域内にある堆積場に仮置きされるところ、山土の堆積場とされていた区域の一部は本件土地のうち五七番三土地にまたがっていた(証拠〈省略〉の添付図面の「堆積場」〔四角いオレンジ色塗りつぶし部分二箇所(以下「本件堆積場」という。)のうち図面下部の方〕の一部が、五七番三土地内に存在する。)。
原告は、本件堆積場内に、採掘した山土を仮置きしていた。
(2) 原告は、被告らから、本件堆積場に仮置きしていた山土の一部が本件土地(五七番三土地)に侵入している旨の指摘を受け、平成二三年一月か二月頃、本件土地内に仮置きしていた山土を撤去した。この時原告が本件土地から撤去した山土の量は、重機を使って短時間で撤去できる程度の量であった。
(3) 原告は、平成二三年八月、本件土地のうち五七番三土地に重機一台を二週間程度置いていたことがあった。
また、原告は、同年一〇月一一日頃にも、同じく五七番三土地に重機一台を置いていたことがあった。
(4) 被告Y2は、平成二三年一〇月二三日、京丹後警察署に対し、本件土地の購入後、原告が本件土地に無断で侵入し、重機等を置いたり、山林を削り取ったりしているとして、原告代表者を不動産侵奪罪で告訴した。
(5) 平成二三年一〇月、被告Y2から原告に対し、本件土地に存在する法面(原告が過去に採掘等を行った箇所。以下「本件法面」という。)を復旧してほしいと要望があった。本件法面の復旧工事のためには、本件土地と隣接地の境界を確定する必要があったことから、Fが被告Y2に、境界確定のための現地立会いを依頼したところ、被告Y2は、まずはこれまでの本件土地への無断侵入等の謝罪をしなければ立会いに応じない旨を述べた。
そこで、原告代表者は、同月三一日、被告Y2の要望に沿って、下記の内容の謝罪文を作成の上、末尾に原告及び原告の取締役Gが記名押印の上、被告Y2に交付した(以下「本件謝罪文」という。)。
記
「 有限会社Xは、貴殿の所有する土地にお断りなく、重機での侵入及び山土の仮置き等を、行ってまいりました。
有限会社Xは、この様な行為をしたことを認め、所有者様に対して、以後、無断立ち入りのないように致します。
ここに謝罪を申し上げます。」
(6) 原告は、京都府の許可を得て、平成二三年一一月一二日から本件法面の復旧工事に着手し、約二週間で工事を完了した。当該復旧工事は、本件法面を段切りした上で盛り土を行い、植生土のうを敷き詰めて、丸太の杭で滑り止めを作るという内容であり、盛り土に使用した土壌は、元の土壌と同じ風化花崗岩であった。
二 原告による本件土地での採石行為の存否
(1) 被告Y2は、原告が、被告会社による本件土地購入後も、平成二三年一〇月三一日まで本件土地における採石行為を続け、五〇〇立方メートルの山土(土砂)を持ち去った旨主張する。被告Y2がその主張の主な根拠とする点は、①被告Y2が、平成二三年一〇月下旬頃、Fから、復旧計画図面を見せられ、原告が被告らに無断で本件土地を削り取った部分を復旧したいとの申出を受け、その際Fから、削り取った山土の量が約五〇〇立方メートルであると聞いたこと、及び②証拠〈省略〉の写真を比較すると、写真手前に写っている平地の形状が変化し、土の色が変わっていることから、原告による山土の採掘が推測されることの二点である。
しかし、上記①及び②は、いずれも信用性に乏しいか、そもそも原告による採石行為を裏付けるに足りる内容のものとはいえず、他に原告が本件土地において被告らに無断で採石行為をしたと認めるに足りる証拠はない。理由は以下のとおりである。
(2) 上記①の点(被告Y2供述)について
上記①の被告Y2の供述内容については、証人Fが明確にこれを否定している。そもそも、前記第二の一(1)のとおり、本件土地において原告が岩石採取を行ったのは、平成八年から平成二〇年にかけての採石事業においてであって、平成二〇年一二月から始まった本件対象区域における採石事業では、本件土地は山土の採掘区域に含まれていなかったのである。京都府土木事務所作成に係る平成二三年一一月八日付け事務連絡文書においても、「Y2地(本件土地)内の殆どの箇所はこの三年間採掘していない状況で緑化の進展もみられる」旨の記載が存在する。これらの事実に照らしても、被告Y2の供述内容を否定するFの上記証言内容は信用性が高いというべきである。
被告Y2は、原告作成に係る復旧工事計画図面を基に原告が削り取った土量を計算すると約五一〇・三立方メートルになり、Fから聞いた数字とほぼ合致するとして、乙第一三号証を提出する。しかし、乙第一三号証は、復旧工事において一時的に削り取った段切り部分まで掘削範囲に含めたり、採掘量の算定根拠となる数値(法面の延長を一八メートルとしている点)が実際と異なるなど、計算の前提に誤りがあり、信用性に乏しいといわざるを得ない。また、前記説示のとおり、本件法面における原告による山土の採取は、平成二〇年以前に行われたものであるから、仮に乙第一三号証の内容の一部が事実に合致するとしても、平成二〇年以前の採掘を証するものにすぎず、被告会社が本件土地の所有権を取得した後に原告が本件土地で採掘したことの根拠とはなり得ないというべきである。
したがって、上記①の被告Y2供述は、信用することができない。
(3) 上記②の点について
被告Y2は、乙第一五号証の四及び七の写真を見比べて、土の色や形状が変わっていることを、原告による本件土地の採掘の根拠とする。しかし、被告Y2自身も、原告が実際に本件土地を採掘している場面を目撃したとまでは供述していないのであって、上記指摘は、あくまで当該写真に基づく被告Y2の「推測」にすぎない。また、当該写真のみでは、被告Y2が指摘する土壌の変化をはっきりと読み取ることはできない上、仮に何らかの変化が認められるとしても、それが原告の採掘行為によるものであると認めるに足る立証はない(例えば、土の色や形状の変化は、風雨等の自然現象によっても起こり得ることである。)。
なお、証拠〈省略〉の各写真の中には、重機が写っているものがあるが、いずれも当該重機が採掘行為をしていることの立証はないから(各写真を撮影した被告Y2自身もそのような供述はしていない。)、当該写真をもって原告による採石行為を認定することはできない(証拠〈省略〉の各写真は、撮影年月日が、被告による本件土地所有権取得前の平成二二年一〇月二四日であるから、被告Y2が主張する不法行為とは無関係である。)。
(4) さらに、被告が、原告に要求して作成させた本件謝罪文には、「重機での侵入及び山土の仮置き等」を認める旨の記載はあるが、採石行為については全く触れていない。仮に原告が被告らに無断で本件土地の採石行為をしていたのであれば、原告が本件謝罪文を作成する際に、被告Y2が、所有権侵害の態様としては最も重大であるはずの採石行為を記載するよう要求していないのは、いかにも不自然である。
(5) 以上のとおり、被告Y2供述、証拠〈省略〉によっては、原告による本件土地の違法な採石行為を認定することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
三 原告による本件土地の不法占有の存否
(1) 原告の重機による本件土地の不法占有について
前記第二の一(3)のとおり、原告は、平成二三年八月及び一〇月、本件土地のうち五七番三土地に原告の重機を二週間程度無断で置いていた事実が認められる。原告の重機による本件土地(五七番三土地)の不法占有期間は、同年八月は二週間程度であるが、同年一〇月分については証拠上明らかでない(被告Y2の主張によれば、原告による不法占有は同年一〇月三一日まで続いたということであるから、占有期間は最長でも、同年一〇月一一日から同月三一日までの三週間である。)。
この点、被告Y2は、証拠〈省略〉の各写真に原告の重機が写っていることを根拠に、原告が上記以外の時期にも、本件土地に無断で侵入した旨主張する。
証拠〈省略〉の写真には、黄色い重機が写っており、これが原告の重機であることが認められるものの、写真右側に位置する本件土地(五七番三土地)と原告が採石権の同意を得ている隣接地(写真左側。京丹後市丹後町△△五七番四の土地。以下「五七番四土地」という。)の境界が不分明であり、黄色い重機が本件土地内にあるとは断定できない。
なお、証拠〈省略〉にも原告の黄色い重機が写っているが、これは本件土地ではなく五七番四土地内にあることが明らかである。
その他、上記以外の時期に、原告の重機が本件土地に無断で侵入したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(2) 山土の残置による本件土地の不法占有について
前記第二の一(2)のとおり、原告は、被告会社が本件土地の所有権を取得した平成二二年一二月一六日から平成二三年一月か二月頃までの間(長くても三か月弱程度)、本件土地のうち五七番三土地の一部に被告らに無断で山土を仮置きし、同土地を不法占有していたことが認められる。
原告がいかなる量の山土を本件土地のどの範囲に残置していたかは、証拠上明らかでない。もっとも、前記認定のとおり、本件土地内に残置された山土は重機を使って短時間で撤去できる程度の量であったこと(F証言によれば、重機で一杯か二杯分程度〔調書二七頁〕)が認められるし、証拠〈省略〉の図面上も、「堆積場」のうち五七番三土地にまたがっている部分の面積はごく一部である(図面から概算すると、五七番三土地全体の面積の六~七%程度であろう。しかも、五七番三土地にまたがっている堆積場の範囲の全てにわたり、原告の掘削した山土が仮置きされていたとは限らない。)。
(3) なお、本件土地のうち五七番土地については、原告が不法占有したことの立証は一切ない。
四 被告Y2の損害
(1) 上記二及び三によれば、被告会社が本件土地の所有権を取得した後に、原告が本件土地で採石行為をした事実は認められず、原告が被告Y2に対して不法行為責任を負うのは、本件土地(五七番三土地)の不法占有、すなわち①平成二三年八月及び一〇月に、それぞれ二週間及び三週間程度、五七番三土地に重機を無断で置いたこと、及び②平成二二年一二月一六日から平成二三年二月頃までの間(最長でも三か月弱)、同土地の一部(最大でも全体の面積の六~七%程度)に山土を無断で仮置きしたことについてである。
(2) 原告による本件土地(五七番三土地)の不法占有によって被告Y2に生じた損害は、同土地の借地料相当額により算定するのが相当であると解されるが、当該金額を算定するための的確な証拠はない。
被告Y2は、本件土地の借地料の立証方法として証拠〈省略〉を提出し、本件土地の借地料は、少なく見積もっても一平方メートル当たり月額一一〇円であるから、それに本件土地全体(五七番土地及び五七番三土地)の面積及び不法占有期間(一〇・五か月)を乗じた金額を被告Y2の受けた損害であると主張する。
しかし、被告Y2が借地料の根拠として挙げる契約は、その対象とする土地の一平方メートル当たりの単価(固定資産評価額)が本件土地の一〇〇〇倍近い金額であることに鑑みると、直ちに本件土地の借地料の参考とすることはできない。また、被告Y2は、損害の算定方法として、本件土地の面積全体を乗じているが、前記のとおり、原告が重機及び山土の仮置きにより不法占有したのは、本件土地のうち五七番三土地のみであって、さらにそのうちのごく一部にすぎないのであるから、その算定方法は失当である。
(3) そこで、当裁判所は、①本件土地の所在及び現況、②本件土地の価格(固定資産評価額は二万円弱)、③上記(1)のとおり、原告は本件土地のうち五七番三土地のごく一部(最大でも六~七%程度)を不法占有したにすぎず(重機による占有範囲は重機一台分のみである。)、その期間も最長で三か月弱にすぎないこと、④本件不法占有に至った経緯(特に山土の仮置きについて、原告は、被告会社が本件土地所有権を取得する前から、本件土地の一部を山土の堆積場として使用しており、被告会社への所有権移転後もその占有状態を継続したにすぎないこと)、⑤被告Y2が現在本件土地を何の用途にも利用していないこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮して、民事訴訟法二四八条により、原告の不法占有により被告Y2に生じた損害額を一万円と認める。
五 まとめ
よって、原告は、被告Y2に対し、不法行為に基づく損害賠償として一万円及びこれに対する不法行為後の日である平成二四年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
第三結論
以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないのでいずれも棄却し、被告Y2の反訴請求は主文の限度で理由があるので認容し、その余は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 川淵健司)
別紙 物件目録〈省略〉
別紙 登記目録〈省略〉