大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成24年(わ)1092号 判決

主文

被告人を懲役7年6月に処する。

未決勾留日数中365日をその刑に算入する。

平成24年11月20日付け起訴状記載の公訴事実(同年12月27日付け訴因等変更請求書による訴因変更後のもの)については,被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,平成23年11月3日午後8時21分頃,京都市(以下省略)から南方約600メートル先の京都市(以下省略)において,息子であるA運転の普通乗用自動車(以下「被告人車」という。)に同乗していたところ,B運転の普通乗用自動車(以下「B車」という。)とすれ違う際,Bと口論になった。

第1被告人は,Bに対し,その頭部を木の棒で1回突く暴行を加え,よって,Bに完治まで2週間の後頭部挫創の傷害を負わせた。

第2被告人は,前記犯行後,Bから被告人車の後部を蹴られるなどしたことに憤慨し,Aと共謀の上,Bを死亡させる危険性があることを認識しながら,被告人車の後方に停車していたB車後部バンパー付近に背をもたれかけて路上に座り込む状態となっていたBに対し,Aに被告人車を故意に後退させてBの胸部に後部バンパーを衝突させた上,Bの上半身を被告人車後部バンパーとB車後部バンパーとの間に挟み込み,更にAに被告人車のアクセルを踏み続けさせてBの胸部を圧迫するなどし,Bに全治見込み不明の両眼眼球運動障害及び両眼複視,加療約8週間を要する見込みの両側多発肋骨骨折,肺挫傷及び外傷性血気胸等の傷害を負わせたが,殺害するに至らなかった。

(証拠の標目)

省略

(事実認定の補足説明)

第1争点

傷害罪及び殺人未遂罪の成否に関する争点は,①Bを木の棒で突く暴行を加えたのは被告人か(傷害罪),②Aが被告人車を後退させ,Bを車両の間に挟み込んで胸部等を圧迫したか(殺人未遂罪),③前記②の行為につき,被告人とAとの間に共謀が認められるか(殺人未遂罪),である。

前記①,②についての直接証拠はBの証言(以下「B証言」という。)であり,前記③についての直接証拠はAの検察官調書([証拠番号省略]の各採用部分。以下,単に「A調書」という。)であるから,以下,その信用性について検討する。

第2B証言の信用性について

1  供述概要

狭い山道でB車と被告人車がすれ違う際に口論となった。2台の車が30センチ程度離れてほぼ横並びとなって停車したが,被告人が被告人車の助手席ドアから降りてBの右後方の位置に回り込み,木の棒を向けてBを威嚇してきた。続いてAも助手席ドアから降りてBの右前方の位置に回り込んできたが,被告人が命じたことからAは被告人車に乗り込み,被告人車を数メートル前方に移動して停止させた。被告人車が停止した直後に,右後方の位置から被告人に木の棒で後頭部を突かれた。被告人とAが入れ替わるような時間はなかった。頭の傷を確認した後,B車の運転席ドアを勢いよく開けて後方を見たところ,被告人が被告人車の助手席に乗り込む様子を目撃した。被告人車が発進しようとしたため,追いかけて後部トランク付近を蹴ったところ,蹴りの衝撃で体勢を崩し,B車の後部バンパー付近に背をもたれかけて座る状態になった。その直後,被告人車が後退してきて,B車の後部バンパーと被告人車の後部バンパーの間に胸部等を挟まれる状態となったが,被告人車はさらに後退を続け,数秒間胸部等を圧迫された。

2  信用性について

Bは,被告人らと口論になり,木の棒で威嚇された際の状況や,被告人車が移動・停止した直後に木の棒で突かれた状況,その後被告人車が後退して胸部等を挟まれた際の状況等について,具体的かつ詳細に供述しており,全体的な話の流れにも不自然な点はない。また,Bが嘘をついて被告人を陥れる理由もないし,大筋では捜査段階から一貫した供述をしている。

B証言のうち「被告人に木の棒で突かれた」という部分について更に検討する。夜間で辺りはまっ暗であったものの,B車及び被告人車のヘッドライトに照らされた範囲は明るく,事件の約1か月後に多くの写真の中からAを選別できたことからすれば,Bは当時の状況をある程度正確に観察,記憶できていたことが認められる。そして,Bは,被告人とAの体型や行動を明確に区別して供述しており,二人を取り違えた様子も見受けられない。また,狭い山道で口論となったことに照らせば,横並びに近い状態で停車し,運転席ドアを開けるのは難しかったと考えるのが自然であり,これを前提とすれば,助手席にいた被告人(この事実は争いがなく,証拠上も明らかに認められる。)が先に降りて威嚇したなどという証言内容も,ごく自然なものである。

次に,B証言のうち,被告人車が後退してきてバンパーの間に挟まれたなどと供述する部分については,Bが受けた傷,事件現場のタイヤスリップ痕,被告人車及びB車の損傷状況等の客観的事実と整合する。

これらの事情によれば,B証言は信用できる。

3  弁護人の主張

これに対し,弁護人は,Bが被害届において被告人の年齢を20代前半であると申告していたことや,Bが面通しを行った際,5人の中から被告人を犯人として選び出すことができなかった点を指摘し,B証言は信用できないと主張する。

確かに,被害直後から年齢を大きく取り違えていること,被告人を選別できなかったことをみれば,Bが被告人の顔を十分に観察,記憶できたかについては,疑問の余地がある。しかしながら,被告人の面通しが行われたのは事件から約9か月後であり,Aを選別できた当時よりも記憶が薄れていたと認められるし,前記のとおり,Bは,被告人車の助手席ドアから先に降りてきた人物が後方から棒で突いてきたと明確に証言しており,その内容は十分に信用できることからすれば,被告人の顔に関する観察や記憶が若干曖昧であることは,B証言の信用性を左右するものではない。

その他,弁護人が主張する諸点を踏まえて検討しても,B証言の信用性は揺るがない。

4  小括

以上により,信用できるB証言によれば,争点①については,被告人がBを木の棒で突いたことが,争点②については,Aが被告人車を後退させ,車両の間にBを挟み込んで胸部等を圧迫したことが認められる。

第3A調書の信用性について

1  供述概要

被告人に言われて被告人車を前進させ,B車から4,5メートル離れたところに停車してけっこうすぐだったと思うが,被告人が助手席に戻ってきた。そのまま被告人車を前進させようとしたところ,後ろから「ドン」という音がした。被告人から「バック入れろや」,「よっしゃ,いったれや」と言われ,ギアをバックに入れてアクセルを踏み,目視で後方を確認しながらBに向けて被告人車を後退させた。Bを車両の間に挟み込んだ状態になった後,被告人から「もっといけや」というような事を言われ,ギアをバックに入れたまま約5秒ないし10秒間アクセルを踏み続けた。

2  信用性について

Aは,法廷では,Bを木の棒で突いたのが自分であり,被告人車を後退させたのは被告人であるなどと供述しており,捜査段階においても犯行状況に関する供述を二転三転させている。また,Aは,傷害罪で起訴されなかった一方,殺人未遂罪で起訴されて自分の公判を控えており,殺人未遂罪の責任を被告人一人に背負わせるため,わざと嘘をつく可能性がある。こうしたことから,A調書の信用性も慎重に検討する必要がある。

もっとも,A調書のうち,Aが運転者であったなどと述べる部分については,自分にも殺人未遂罪の責任があることを認める内容の不利な供述であることに加え,前記のとおり信用できるB証言の内容と合致している。また,A調書のうち,被告人に車両を後退させるよう指示されたと述べる部分については,犯行後,被告人がCに「車のトラブルでAが喧嘩をした,Aに『やれ』と言ったら本当にやってしまった,ひいてしまった」旨の話をした事実(被告人からその旨の話を聞いたとするCの証言(以下「C証言」という。)が信用できることは,後記のとおりである。)によって裏付けられている。そうすると,A調書は,B及びCの各証言と一致する限りにおいては,信用することができる。

これに対し,弁護人は,関西弁を話さない被告人が「バック入れろや」,「よっしゃ,いったれや」などの発言をするはずがない旨主張するが,いずれも関西特有の言葉とまではいえず,被告人の発言としても不自然ではない。その他弁護人が指摘する諸点は,いずれもA調書の信用性を揺るがすものではない。

3  C証言の信用性について

なお,弁護人は,C証言は信用できない旨主張するので,以下,その信用性について検討する。

(1) 供述概要

平成24年7月下旬頃,被告人から電話があり,焦った様子で「Aが逮捕されたのでどうしたらいいか」などと相談された。事件の内容について聞くと,前記のとおり犯行を告白された。共犯や教唆になるので,被害者に素直に謝るように言ったり,被告人に依頼していた仕事は大丈夫かなどと問うたが,被告人は笑いながら「自分はつかまらない」などと言った。また,被告人が逮捕された後,依頼していた仕事の件で連絡をすると,被告人の妻であるDが電話に出て,被告人は逮捕され,8月末までは出てこれないというような話を聞いた。依頼していた仕事を被告人がやり遂げることができるか関心があったので,しつこく事件の内容を聞くと,Dは,「車のトラブルで口論となり,被告人が『やれ』と言ったらAがやってしまった」旨を述べていた。

(2) 信用性について

Cは,被告人から犯行を打ち明けられた際の経緯や状況について,共犯や教唆になると被告人に述べたこと等,会話内容を交えて具体的に供述しており,ないことをあるように作り上げたとは思えないリアリティーがある。また,Cが暴力団の元組長であることに照らせば,Aが逮捕されてせっぱ詰まった被告人が捜査機関への対応を相談するため,Cに犯行の概略を告白したとしても,不自然とはいえない。さらに,Cと被告人との間には仕事上多少のトラブルがあったり,10万円程度の金銭の貸し借りがあったかもしれないが,平成24年7月当時も仕事を依頼できる信頼関係が残っていたのであるから,Cが偽証罪に問われる危険を冒してまで嘘をつき,被告人を無実の罪に陥れるとは考え難い。以上に加えて,供述の核心部分は捜査段階から一貫した内容であることからすれば,C証言は信用することができる。

なお,弁護人は,①Dは被告人から事件の内容につき口止めをされていたというのに,Cからの電話で被告人の犯行を告白したという点や,②焦って電話をかけてきた被告人が笑いながら話をしたという点で不自然であるなどとして,C証言は信用できないと主張する。

しかしながら,①については,Cは被告人に依頼していた仕事の都合上,被告人がいつ頃釈放されるのかについて関心を持ち,Dにしつこく事件の内容を聞いたというのであるから,Dが捜査とは関係しない場面でCに事件の内容を話したことが,特に不自然とはいえない。また,②についても,共犯になるのではないか,仕事の件は大丈夫かなどと聞いてくるCの追及をかわすため,冗談めかした口調になったとしても不自然とはいえない。なお,Aが逮捕されたという状況を考えれば,被告人が根も葉もない冗談を言うために犯行を告白したとは考えられない。その他,弁護人が主張する諸点を踏まえて検討しても,C証言の信用性は揺るがない。

4  小括

以上によれば,被告人車を後退等させるよう被告人に指示されたとするA調書は信用できるから,争点③については,被告人とAとの間に共謀が認められる。

第4前記認定に反する各供述の信用性について

A,D及び被告人は,法廷において,前記B証言及びA調書に反する内容の供述をするので,以下,その信用性について検討する。

1 Aの証言について

Aは,法廷では,被告人車を前進させた後で車を降りたところ,被告人から木の棒を渡されて殴るよう指示された,それからBと言葉を交わし,その後に木の棒でBを突いた,被告人車が後退した際に運転していたのは被告人であるなどと供述する。

しかしながら,Aは,B車と被告人車がすれ違う際Bと口論になった状況等は具体的に証言できているのに,木の棒で突く前にBと交わしたという会話の内容は覚えていないなど,暴行及びその前後の状況については,曖昧な証言に終始している。また,Aの証言を前提とすれば,Bは,被告人車が前進した後に相応の時間が経過してから暴行されたことになるが,Bが木の棒で突かれた後に現実にとった素早い行動に照らせば,この間にBが防御らしい防御をしなかったというのも不自然である。さらに,Aに嘘をつく動機があること,これまで供述を二転三転させていることは前記のとおりであるから,信用できるB証言と矛盾する部分については,Aの証言は信用できない。

2 Dの証言について

(1) 供述概要

Dは,法廷において,2台の車は運転手が互いに口論しながらすれ違い,すれ違った後に被告人車が停車した,Aが先に運転席ドアから降り,その後に被告人も車外に出たものの,Aに「早く戻ってこい」などと声をかけただけで,すぐに助手席に戻った,Aが運転席に戻り,被告人の指示を受けずに被告人車を後退させた後,バーンなどという大きな音が聞こえたなどと供述する。

(2) 信用性について

Dの証言によれば,被告人車とB車は,運転手が互いに口論をしながらすれ違ったことになるが,暗く狭い山道で車を運転してすれ違う際にそうした余裕があるとは考えにくく,その供述内容は不自然である。また,Dは,捜査段階においては,①被告人車に先に戻ってきたのは被告人ではなくAである,②Aが被告人車を後退させる前に大きな音を聞いたなどと供述しており,法廷で供述を変えている。Dは,その理由について,取調べの際に連れていった子供が泣いていたため,調書の内容を十分に確認できなかったなどと供述するが,説得力のある説明とはいい難い。これらの事情に加え,Dは,被告人の妻であり,被告人をかばって嘘をつく可能性があることも踏まえると,Dの証言は信用できない。

3 被告人の供述について

(1) 供述概要

被告人は,法廷において,Bと口論になったが2台の車は横並びで停車したことはなく,すれ違った後に被告人車が停車した,Aが先に運転席ドアから降りた,DにAを止めるように言われたので自分も車の外に出てAの方を見ると,Aが棒を構えている様子が見えたが,Aに早く車に戻るように注意してすぐに助手席に戻った,Bが車両後部を蹴る音は聞いていないし,助手席のリクライニングを倒して横になっていたため,被告人車が後退したことにも気付かなかったなどと供述する。

(2) 信用性について

狭い山道で運転手が互いに口論しながらすれ違うという内容が不自然であることは,前記のとおりである。また,被告人は,Aを止めるために車外に出たはずであるのに,棒を構えているAに対し,口頭で注意をしただけですぐ助手席に戻り,その後の動向を見ていなかったというのであるが,それはいささか不自然である。さらに,いくらリクライニングを倒していても,自車が後退すればそれに気付くのが自然であるし,被告人は,捜査段階において,「被告人車が後退したことが分かった,その際に車体が何かに当たっている音やタイヤがスピンする音が聞こえた」などと供述していたのであって,法廷で合理的な理由もなく供述を変えている。これらの事情によれば,被告人の法廷での供述は信用できない。

第5結論

以上によれば,傷害罪及び殺人未遂罪が成立する。

(累犯前科)

1  事実

平成7年11月14日千葉地方裁判所宣告

詐欺,殺人,窃盗,死体遺棄の罪により懲役13年

平成20年5月27日刑の執行終了

2  証拠

(省略)

(法令の適用)

罰条

第1の行為  刑法204条

第2の行為  刑法60条,203条,199条

刑種の選択

第1の罪  懲役刑

第2の罪  有期懲役刑

累犯加重  いずれも刑法56条1項,57条(再犯。なお,第2の罪については刑法14条2項の制限内で加重)

併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条

未決勾留日数の算入  刑法21条

訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

殺人未遂罪についてみると,被告人車とB車の後部バンパーの間に被害者を挟み込み,更にアクセルを踏んで胸部等を圧迫したというものであり,極めて危険かつ悪質な犯行である。自動車が眼前に迫ってきて挟まれるなどの恐怖はかなり大きかったであろうし,両側多発肋骨骨折等の重傷を負い,眼の障害は全治見込み不明であることからしても,犯行の結果は重大である。本件ではこれらの犯情を最も重視すべきである。また,被告人には殺人の前科があるのに殺人未遂罪に及んだこと,これまで何ら反省の態度を示していないことから,再び何らかの罪に及ぶおそれは否定できない。こうした一般情状も一定程度は考慮すべきである。

そうすれば,被告人の刑事責任は重いから,本件が計画的な犯行ではなく,被告人に強い殺意はなかったこと等被告人に有利な事情を考慮しても,主文の刑は免れない。

(求刑―懲役12年。ただし無罪となった通貨偽造・同行使罪も含めたもの)

(一部無罪の理由)

第1本件公訴事実中,平成24年11月20日付け起訴状記載の公訴事実(同年12月27日付け訴因変更等請求書による訴因変更後のもの)の要旨は,

「被告人は,Aと共謀の上,

1  平成23年9月5日頃,京都市(以下省略)の当時の被告人方において,行使の目的で,カラーコピー機能を有するプリンターを用いて,真正な金額五千円の日本銀行券2枚の各表面及び裏面を白紙の表裏に複写し,これを裁断するなどし,もって通用する金額五千円の日本銀行券約30枚を偽造し

2  同月6日午後6時40分頃,同市(以下省略)の『E酒店』において,缶コーヒー1本を購入してその代金110円を支払うに際し,同店経営者Fに対し,前記偽造した金額五千円の日本銀行券のうち1枚を真正なもののように装って手渡して行使し

3  同日午後7時35分頃,同市(以下省略)の米菓製造販売店『G』において,おかき1袋を購入してその代金330円を支払うに際し,同店従業員Hに対し,前記偽造した金額五千円の日本銀行券のうち1枚を前同様に装って手渡して行使した」

というものである。

第2争点等

Aが前記公訴事実記載の通貨偽造・行使の犯行に及んだことは当事者間に概ね争いがなく,争点は被告人とAとの間の共謀の有無である。

検察官は,①被告人及びAの携帯電話の通話明細の精査結果([証拠番号省略]。以下「本件通話明細」という。)及び②Aの証言により,被告人とAとの間の共謀が認められる旨主張するところ,当裁判所は,被告人とAとの間に共謀があったことにつき合理的な疑いが残ると判断したので,以下,その理由を説明する。

第3本件通話明細について

検察官は,被告人が,本件偽造通貨行使の直前・直後の時間帯において,実行犯であるAと携帯電話で複数回連絡を取り合っていることを指摘し,被告人が本件偽造通貨行使に関与している可能性が大きいと主張する。

しかしながら,被告人とAはそれ以外の時間帯でも頻繁に連絡を取り合っており,通話履歴だけでは本件偽造通貨行使等に関連した通話であったか否かは明らかにならないから,被告人が関与している可能性を示すものとはいえるが,関与している可能性が大きいとまではいえない。検察官の主張は採用できない。

第4Aの証言について

1  供述概要

平成23年9月5日,翌日に被告人に頼まれて陸運局に行く用事があったため,京都市(以下省略)所在の当時の被告人方に宿泊した(なお,その当時は京都市a区に住んでおり,衣類等の荷物はaの家に運んでいた。)。その日の夜10時頃,目の前にいた被告人から偽札を作ることを持ちかけられ,プリンターを用いて二人で偽札を作成した。被告人に手本を見せてもらい,試行錯誤をしながら同日午後11時頃に1枚目を完成させた。2枚目以降は,被告人がコピーし,Aが裁断するという方法で作成を続け,翌6日の午前零時までの間に偽札を30枚ほど完成させた。作成した偽札は被告人が保管することになった。なお,後日に偽一万円札を一人で作ったことがあるが,被告人と偽札を作ったのはこの時だけである。

平成23年9月6日に陸運局に赴いたが,昼頃に被告人から電話があり,前日に作成した偽札の使用を持ちかけられた。被告人とはコンビニの駐車場で落ち合い,被告人が被告人方から持参した偽札と着替えの服を受け取った。偽札を行使して釣り銭を受け取った後,被告人に連絡して再び別のコンビニの駐車場で待ち合わせ,釣り銭を分け,未使用の偽札も被告人に渡し,それぞれの車で被告人方に帰った。その後,被告人から残りの偽札を渡されて処分するように言われたが,そのうち2枚は独断で行使した。その時に得た釣り銭から分け前を被告人に渡し,残りの偽札は処分した。

2  信用性について

Aは,捜査段階から一貫して,目の前にいた被告人から偽札作りを持ちかけられたなどと供述しているが,持ちかけられた際の状況や会話内容を伴っておらず,その供述は著しく具体性を欠いている。他方,Aは,被告人とともに偽札を作った状況につき,具体的かつ詳細に供述しているが,Aが後に一万円札を一人で偽造していたことや,時期不詳ながら偽札の作り方をインターネットサイトで検索したことが認められるから,上記具体的かつ詳細な供述が被告人と一緒に偽札を作成したことを強く裏付けるとまではいえない。また,Aは以前にも被告人から偽造通貨に関する話を聞いたことがあったとはいうものの,当日に何のきっかけもなく偽札を作成することになったというのであれば,余りにも唐突で不自然である。京都市a区に住んでいたのに,わざわざ陸運局から遠い被告人方に泊まったというのも,若干不自然の感は否めない。そして,被告人から電話で偽札を使用することを持ちかけられ,コンビニの駐車場で待ち合わせをして偽札を受け取ったという点も,Aがその前日に被告人方に泊まっていたのであれば,被告人があえて電話で偽札の使用を持ちかけたり,コンビニの駐車場で待ち合わせをして偽札を渡したというのは不自然であるし,その際被告人がAの服を持参したという点も,Aが衣類等の荷物をaの家に運んでいたことからして,やや不自然である。さらに,コンビニの駐車場で待ち合わせをして被告人に釣り銭を渡したという点については,その後二人とも被告人方に帰宅したのであれば,あえてコンビニの駐車場で待ち合わせをする必要があったとは考えにくく,別の車両に乗っていたとはいえ,いずれも被告人方に向かっているはずの時間帯に,Aと被告人が携帯電話で通話をした履歴が存在することとも整合しない(この点につき,Aは待ち合わせた理由や電話の内容を具体的に証言できていない。)。被告人が自ら行うことも容易であったはずの偽札の処分をAに依頼したことや,Aがその一部を処分せずに独断で使用し,被告人に分け前を渡した際に,被告人から特に何も言われなかったと供述する点も,不自然である。このように,A証言には不自然な点が数多く見受けられ る。

以上に加えて,Aは,捜査段階においては,①被告人とともに一万円札と五千円札を偽造したことがある,②偽札を行使した後は,いつも分け前は被告人方で分けていたなどと供述しており,法廷ではその供述を合理的な理由もなく変えている。また,Aは,本件と同じ通貨偽造等の罪で起訴されて自分の公判を控えており,自分の責任を軽くするため,被告人に指示されたなどと嘘をつく可能性がある。なお,Aは,前記のとおり捜査段階において,偽一万円札も被告人と一緒に作成した旨の供述をしているが,自分の責任を軽くしようとして嘘をついた疑いも否定できない。

これらの事情によれば,A証言は信用できない。

3  検察官の主張

これに対し,検察官は,A証言は,①本件通話明細等の客観的証拠や,当時被告人方に偽造に使用されたプリンターが置いてあったという事実と合致すること,②供述内容には具体性があり,証言態度も誠実であること,③Cの証言と合致することから,信用できるなどと主張する。

しかしながら,①については,前記のとおり,本件通話明細は,被告人が本件偽造通貨行使に関与したことを直接的に裏付けるものではないし,平成23年9月5日当時被告人方に偽造に使用されたプリンターが存在していたことを示す確たる証拠はなく,仮に被告人方に存在していたとしても,被告人が本件偽造に関与していたことを決定的に裏付けるものとまではいえない。また,②については,Aは偽札を作成した際の状況については詳細かつ具体的に供述しているものの,前記のとおり,被告人から偽札の作成を持ちかけられた際の状況等,共謀の部分については具体性を欠く供述をしている。③についても,Cの証言の要旨は,「平成23年9月5日の午後11時頃に被告人から電話があり,『西の方』『中国』『稼げる』『ばれない』『福沢諭吉が打ち出の小槌のようにできる』等と言われ,偽札の話だと思った,その後も,『ルートができた』『絶対ばれない』『一口乗りませんか』等と電話で話をされたことがあり,偽札の話を持ちかけられたと思った」などというものであり,その証言が全て信用できるとしても,被告人が本件通貨偽造・行使に関与したことを直接裏付けるものとまではいえない。すなわち,『福沢諭吉が打ち出の小槌のようにできる』という発言に関しては,A証言によれば,その日午後11時頃の時点においては,被告人らは試行錯誤をしながら偽造五千円札の1枚目を作成した段階に過ぎず,『福沢諭吉が打ち出の小槌のようにできる』というような状況にはなかったことから,前記被告人の発言が本件偽造への関与を強く裏付けるとはいえないし,Cが聞いたその余の発言は,いずれもAとの偽札作成等を告白するような内容の話ではないから,A証言の信用性を十分に補強するものとはいえない。したがって,検察官の主張はいずれも採用することができない。

第5結論

以上によれば,本件公訴事実中,平成24年11月20日付け起訴状記載の公訴事実(同年12月27日付け訴因等変更請求書による訴因変更後のもの)については,被告人とAとの間の共謀を認めるには合理的疑いが残り,結局犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により被告人に無罪の言渡しをする。

(裁判長裁判官 後藤眞知子 裁判官 髙橋孝治 裁判官 板東純)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例