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京都地方裁判所 平成23年(行ウ)42号 判決

主文

1  本件訴えのうち,主位的請求の請求の趣旨の(2)に係る訴えの部分を却下する。

2  原告のその余の主位的請求を棄却する。

3  本件訴えのうち,予備的請求の請求の趣旨の(2)に係る訴えの部分を却下する。

4  原告が,京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例別表所定の第3種地域内の別紙1記載の1ないし4の各施設の敷地から70m以内に含まれない場所において,利用者の求めに応じて風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項2号所定の接待飲食等営業に係る別紙3記載の1及び2に掲げる事項に関する情報を提供する方法により,風俗案内所を営む法的地位を有することを確認する。

5  原告のその余の予備的請求を棄却する。

6  訴訟費用は,4分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  主位的請求

(1)  原告が,京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例別表所定の第3種地域において,利用者の求めに応じて風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項2号所定の接待飲食等営業に係る別紙3記載の1及び2に掲げる事項に関する情報を提供する方法により,風俗案内所を営む法的地位を有することを確認する。

(2)  原告が,前項の風俗案内所の内部において,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項2号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し,若しくはこれを連想させる図画若しくは文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置する法的地位を有することを確認する。

2  予備的請求

(1)  原告が,京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例別表所定の第3種地域内の別紙2記載の1ないし4の各施設の敷地から70m以内に含まれない場所において,利用者の求めに応じて風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項2号所定の接待飲食等営業に係る別紙3記載の1及び2に掲げる事項に関する情報を提供する方法により,風俗案内所を営む法的地位を有することを確認する。

(2)  原告が,前項の風俗案内所の内部において,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項2号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し,若しくはこれを連想させる図画若しくは文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置する法的地位を有することを確認する。

第2事案の概要

本件は,京都府風俗案内所の規制に関する条例(平成22年京都府条例第22号。以下「本件条例」という。)が,本件条例3条1項各号所定の各施設(以下「本件条例に係る保護対象施設」といい,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号。以下「風営法」という。)2条1項所定の風俗営業及び同条5項所定の性風俗関連特殊営業等並びに風俗案内を規制する各種の法令等において,その敷地から一定の距離以内の地域が営業禁止区域と定められている,学校,児童福祉施設,病院,図書館,保健所等の各施設を,総じて「保護対象施設」という。)の敷地から200m以内の地域を営業禁止区域と定め,同区域内における風俗案内所の営業を全面的に禁止し,その違反者に対して刑罰を科すること等を規定しているところ,京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和34年京都府条例第2号。以下「京都府風営法施行条例」という。)別表所定の第3種地域(以下,単に「第3種地域」といい,同別表所定の第1種地域,第2種地域も,単に「第1種地域」,「第2種地域」という。)において,本件条例2条5号所定の風俗案内所を営んでいた原告が,①本件条例2条4号ないし6号,3条1項,7条2号,12条1項,13条1項,16条1項1号及び同項3号(以下,これらの規定を併せて「本件各規定」という。)は,風営法に抵触し,憲法94条に違反する,②本件条例2条4号ないし6号,3条1項,16条1項1号は,明確性の原則に反し,憲法31条に違反する,③本件各規定は,営業の自由を不当に制限するものであって,憲法22条1項に違反する,④本件各規定は,営利的表現の自由を不当に制限するものであって,憲法21条1項,22条1項に違反すると主張し,主位的に,原告が,第3種地域において,利用者の求めに応じて風営法2条1項2号所定の接待飲食等営業に関する情報を提供する方法により,風俗案内所を営む法的地位を有すること及び同風俗案内所の内部において,風営法2条1項2号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し,若しくはこれを連想させる図画若しくは文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置する法的地位を有することの確認をそれぞれ求めるとともに,予備的に,原告が,第3種地域の内の,本件条例に係る保護対象施設(ただし,同項5号の診療所から患者を入院させるための施設を有しない診療所(以下,同施設を有する診療所を「有床の診療所」,同施設を有しない診療所を「無床の診療所」という。)を除く。)の敷地から70mの範囲に含まれない場所において,上記主位的請求と同様の法的地位を有することの確認をそれぞれ求める事案である。

1  法令等の定め

(1)  本件条例

ア 1条(目的)

この条例は,風俗案内所に起因する府民に著しく不安を覚えさせ,又は不快の念を起こさせる行為,犯罪を助長する行為等に対し必要な規制を行うことにより,青少年の健全な育成を図るとともに,府民の安全で安心な生活環境を確保することを目的とする。

イ 2条(定義)

この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。

① 接待風俗営業  歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなして飲食させる営業をいう。

② 性風俗営業  人の性的好奇心に応じて人に接触する役務を提供する営業をいう。

③ 利用者  風俗案内所を利用して接待風俗営業又は性風俗営業に関する情報の提供を受けようとする者をいう。

④ 風俗案内  次のいずれかに該当する行為をいう。

ア 利用者の求めに応じ,接待風俗営業又は性風俗営業に係る次に掲げる事項に関する情報を提供すること。

(ア) 客が受けることができるサービスに係る時間,料金,方法等の内容

(イ) 利用者が示す条件に合致する内容のサービスを提供する営業に関する名称,所在地及び電話番号その他の連絡先

イ 接待風俗営業又は性風俗営業の客になろうとする者を,当該営業の営業所若しくは受付所(当該営業の役務の提供以外の客に接する業務を行うための施設をいう。)又は当該営業を営む者が指定する場所に案内すること。

ウ 接待風俗営業又は性風俗営業の客になろうとする者に対し,接待風俗営業若しくは性風俗営業を営む者又はこれらの代理人,使用人その他の従業者(以下「代理人等」という。)と待ち合わせるための場所を提供すること。

⑤ 風俗案内所  風俗案内を業として行う施設であって,不特定の者が出入りすることができるものをいう。

⑥ 事業者  風俗案内所を営む者をいう。

⑦ 青少年  18歳未満の者をいう。

⑧ 風俗営業者  風営法2条2項に規定する風俗営業者であって,同条1項1号又は2号に規定する営業を営むものをいう。

⑨ 性風俗特殊営業者  風営法2条6項1号若しくは2号又は7項1号に規定する営業を営む者をいう。

ウ 3条(営業禁止区域)

(ア) 1項

風俗案内所は,次に掲げる施設の敷地から200m以内の区域(以下「営業禁止区域」という。)において営んではならない。

① 学校教育法1条に規定する学校

② 児童福祉法7条1項に規定する児童福祉施設

③ 図書館法2条1項に規定する図書館

④ 博物館法(昭和26年法律第285号)2条1項に規定する博物館

⑤ 医療法1条の5第1項に規定する病院及び同条2項に規定する診療所

⑥ 保健所

⑦ 主として街区内に居住する者の利用に供することを目的とする都市公園(都市公園法施行令(昭和31年政令第290号)2条1項1号に規定するものをいう。)

(イ) 2項

前項の規定は,同項の規定の適用(この条例の施行による適用を除く。)の際現に営業禁止区域以外の区域で営まれている風俗案内所については,当該適用の日から1年間は,適用しない。

エ 4条(事業者の禁止行為)

事業者は,その行う事業に関し,次に掲げる行為をしてはならない。

① 性風俗営業に関し,風俗案内を行うこと(次条2項の規定に違反する行為を除く。)。

② 公衆の目に触れるような場所において,不特定の者に対し,利用者となるよう勧誘すること。

③ 青少年を業務に従事させること。

④ 青少年を風俗案内所に利用者として立ち入らせること。

オ 5条(風俗営業者等の禁止行為)

(ア) 1項

風俗営業者は,3条の規定に違反する風俗案内所を利用して広告又は宣伝をしてはならない。

(イ) 2項

性風俗特殊営業者は,風俗案内所において風営法28条5項(風営法31条の3第1項において準用する場合を含む。)に違反して広告又は宣伝をするほか,風営法28条5項1号に規定する広告制限区域等において営まれている風俗案内所を利用して広告又は宣伝をしてはならない。

カ 6条(一般的遵守事項)

(ア) 1項

事業者は,その行う事業に関し,次に掲げる事項を遵守しなければならない。

① 風営法3条1項の規定に違反して営まれている接待風俗営業に関し,風俗案内をしないこと。

② 公衆の目に触れるような場所において,不特定の者に対し,呼び掛け,又はビラその他の文書図画を配布し,若しくは提示して利用者となるよう誘引しないこと。

③ 利用者を勧誘する目的で,公衆の目に触れるような場所において,勧誘の相手方となるべき者を待たないこと。

④ 接待風俗営業の営業所において卑わいな行為が行われていると思わせる事項を利用者に告げ,又は卑わいな行為が行われている接待風俗営業に関し,風俗案内をしないこと。

⑤ 略

(イ) 2項

事業者は,青少年が風俗案内所に立ち入ることができない旨を,公安委員会規則で定めるところにより,風俗案内所の入口に表示しなければならない。

(ウ) 3項

(エ) 4項

警察官は,事業者又はその代理人等がその行う事業に関し1項に違反する行為を現に行っているときは,当該行為をしている者に対し,当該行為の中止を命じることができる。

キ 7条(表示物等の遵守事項)

事業者は,その行う事業に関し,次に掲げる行為をしてはならない。

① 風俗案内所に,公安委員会規則で定める性風俗営業を表すもの又は性的感情を刺激するものの基準に該当する図画又は文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置すること。

② 風俗案内所の外部に,又は外部から見通すことができる状態にしてその内部に,接待風俗営業に従事する者を表し,若しくはこれを連想させる図画又は文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置すること。

ク 12条(指示)

(ア) 1項

公安委員会は,事業者又はその代理人等がその行う事業に関し,この条例の規定(6条3項を除く。)に違反したときは,当該事業者に対し,当該違反行為の再発を防止するため必要な指示をすることができる。

(イ) 2項

公安委員会は,風俗営業者又はその代理人等が当該営業に関し,5条1項の規定に違反した場合において,善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し,又は青少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるときは,風営法16条又は21条の規定による条例の規定に違反するものとして,当該風俗営業者に対し,風営法25条の規定により,善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は青少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な指示をすることができる。

(ウ) 3項

公安委員会は,性風俗特殊営業者又はその代理人等が当該営業に関し,5条2項の規定に違反したときは,風営法28条5項又は8項(風営法31条の3第1項において準用する場合を含む。)の規定に違反するものとして,当該性風俗特殊営業者に対し,風営法29条又は31条の4第1項の規定により,善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は青少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な指示をすることができる。

ケ 13条(事業停止命令等)

(ア) 1項

公安委員会は,事業者又はその代理人等がその行う事業に関し,この条例の規定(6条3項を除く。)に違反した場合において,青少年の健全な育成を著しく害し,若しくは府民の安全で安心な生活環境を著しく阻害するおそれがあると認めるとき又は事業者が前条1項の規定による指示に違反したときは,当該事業者に対し,6月を超えない範囲内で期間を定めてその行う事業の全部又は一部の停止を命じることができる。

(イ) 2項

公安委員会は,風俗営業者又はその代理人等が当該営業に関し,5条1項の規定に違反した場合において,著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し,若しくは青少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき又は風俗営業者が前条2項の規定による指示に違反したときは,風営法16条又は21条の規定による条例の規定に違反するものとして,当該風俗営業者に対し,風営法26条1項の規定により,当該風俗営業の許可を取り消し,又は6月を超えない範囲内で期間を定めて当該風俗営業の全部若しくは一部の停止を命じることができる。

(ウ) 3項

公安委員会は,性風俗特殊営業者又はその代理人等が当該営業に関し,5条2項の規定に違反したとき(風営法28条5項(風営法31条の3第1項において準用する場合を含む。)の違反に当たる場合に限る。)又は性風俗特殊営業者が前条3項の規定による指示に違反したときは,当該性風俗特殊営業者に対し,風営法30条1項又は31条の5第1項の規定により,8月を超えない範囲内で期間を定めて当該性風俗特殊営業の全部又は一部の停止を命じることができる。

コ 16条(罰則)1項

次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

① 3条1項の規定に違反した者

② 4条の規定に違反した者

③ 13条1項の規定による命令に違反した者

(2)  風営法

ア 1条(目的)

この法律は,善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し,及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため,風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について,営業時間,営業区域等を制限し,及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに,風俗営業の健全化に資するため,その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする。

イ 2条(用語の意義)

(ア) 1項

この法律において「風俗営業」とは,次の各号のいずれかに該当する営業をいう。

① キヤバレーその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客の接待をして客に飲食をさせる営業

② 待合,料理店,カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業(前号に該当する営業を除く。)

③ ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,客に飲食をさせる営業(1号に該当する営業を除く。)

④ ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業(1号若しくは前号に該当する営業又は客にダンスを教授するための営業のうちダンスを教授する者(政令で定めるダンスの教授に関する講習を受けその課程を修了した者その他ダンスを正規に教授する能力を有する者として政令で定める者に限る。)が客にダンスを教授する場合にのみ客にダンスをさせる営業を除く。)

⑤ 喫茶店,バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で,国家公安委員会規則で定めるところにより計った客席における照度を10ルクス以下として営むもの(1号から3号までに掲げる営業として営むものを除く。)

⑥ 喫茶店,バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で,他から見通すことが困難であり,かつ,その広さが5㎡以下である客席を設けて営むもの

(以下略)

(イ) 2項

この法律において「風俗営業者」とは,次条1項の許可又は7条1項,7条の2第1項若しくは7条の3第1項の承認を受けて風俗営業を営む者をいう。

(ウ) 3項

この法律において「接待」とは,歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう。

(エ) 4項

この法律において「接待飲食等営業」とは,1項1号から6号までのいずれかに該当する営業をいう。

(オ) 5項

この法律において「性風俗関連特殊営業」とは,店舗型性風俗特殊営業,無店舗型性風俗特殊営業,映像送信型性風俗特殊営業,店舗型電話異性紹介営業及び無店舗型電話異性紹介営業をいう。

(カ) 6項

この法律において「店舗型性風俗特殊営業」とは,次の各号のいずれかに該当する営業をいう。

① 浴場業(公衆浴場法(昭和23年法律第139号)1条1項に規定する公衆浴場を業として経営することをいう。)の施設として個室を設け,当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業

② 個室を設け,当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業(前号に該当する営業を除く。)

③ 専ら,性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行その他の善良の風俗又は少年の健全な育成に与える影響が著しい興行の用に供する興行場(興行場法(昭和23年法律第137号)1条1項に規定するものをいう。)として政令で定めるものを経営する営業

④ 専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け,当該施設を当該宿泊に利用させる営業

⑤ 店舗を設けて,専ら,性的好奇心をそそる写真,ビデオテープその他の物品で政令で定めるものを販売し,又は貸し付ける営業

⑥ 前各号に掲げるもののほか,店舗を設けて営む性風俗に関する営業で,善良の風俗,清浄な風俗環境又は少年の健全な育成に与える影響が著しい営業として政令で定めるもの

(キ) 7項

この法律において「無店舗型性風俗特殊営業」とは,次の各号のいずれかに該当する営業をいう。

① 人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で,当該役務を行う者を,その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの

② 電話その他の国家公安委員会規則で定める方法による客の依頼を受けて,専ら,前項5号の政令で定める物品を販売し,又は貸し付ける営業で,当該物品を配達し,又は配達させることにより営むもの

ウ 3条(営業の許可)

(ア) 1項

風俗営業を営もうとする者は,風俗営業の種別(前条1項各号に規定する風俗営業の種別をいう。以下同じ。)に応じて,営業所ごとに,当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。

(イ) 2項

公安委員会は,善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があると認めるときは,その必要の限度において,前項の許可に条件を付し,及びこれを変更することができる。

エ 4条(許可の基準)2項

公安委員会は,前条1項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは,許可をしてはならない。

① (略)

② 営業所が,良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき。

③ 略

オ 16条(広告及び宣伝の規制)

風俗営業者は,その営業につき,営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。

カ 21条(条例への委任)

12条から19条まで及び前条1項に定めるもののほか,都道府県は,条例により,風俗営業者の行為について,善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し,又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な制限を定めることができる。

キ 22条(禁止行為)

風俗営業を営む者は,次に掲げる行為をしてはならない。

① 当該営業に関し客引きをすること。

② 当該営業に関し客引きをするため,道路その他公共の場所で,人の身辺に立ちふさがり,又はつきまとうこと。

(以下略)

ク 27条の2(広告宣伝の禁止)

(ア) 1項

前条1項の届出書を提出した者(同条4項ただし書の規定により同項の書面の交付がされなかった者を除く。)は,当該店舗型性風俗特殊営業以外の店舗型性風俗特殊営業を営む目的をもって,広告又は宣伝をしてはならない。

(イ) 2項

前項に規定する者以外の者は,店舗型性風俗特殊営業を営む目的をもつて,広告又は宣伝をしてはならない。

ケ 28条(店舗型性風俗特殊営業の禁止区域等)

(ア) 1項

店舗型性風俗特殊営業は,一団地の官公庁施設(官公庁施設の建設等に関する法律(昭和26年法律第181号)2条4項に規定するものをいう。),学校(学校教育法1条に規定するものをいう。),図書館(図書館法2条1項に規定するものをいう。)若しくは児童福祉施設(児童福祉法7条1項に規定するものをいう。)又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲200mの区域内においては,これを営んではならない。

(イ) 2項

前項に定めるもののほか,都道府県は,善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があるときは,条例により,地域を定めて,店舗型性風俗特殊営業を営むことを禁止することができる。

(ウ) 5項

店舗型性風俗特殊営業を営む者は,27条の2に規定するもののほか,その営業につき,次に掲げる方法で広告又は宣伝をしてはならない。

① 次に掲げる区域又は地域(3号において「広告制限区域等」という。)において,広告物(常時又は一定の期間継続して公衆に表示されるものであつて,看板,立看板,はり紙及びはり札並びに広告塔,広告板,建物その他の工作物等に掲出され,又は表示されたもの並びにこれらに類するものをいう。以下同じ。)を表示すること。

イ 1項に規定する敷地(同項に規定する施設の用に供するものと決定した土地を除く。)の周囲200mの区域

ロ 2項の規定に基づく条例で定める地域のうち当該店舗型性風俗特殊営業の広告又は宣伝を制限すべき地域として条例で定める地域

② 人の住居にビラ等(ビラ,パンフレット又はこれらに類する広告若しくは宣伝の用に供される文書図画をいう。以下同じ。)を配り,又は差し入れること。

③ 前号に掲げるもののほか,広告制限区域等においてビラ等を頒布し,又は広告制限区域等以外の地域において十八歳未満の者に対してビラ等を頒布すること。

(エ) 8項

27条の2及び5項に規定するもののほか,店舗型性風俗特殊営業を営む者は,その営業につき,清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。

(オ) 12項

店舗型性風俗特殊営業を営む者は,次に掲げる行為をしてはならない。

① 当該営業に関し客引きをすること。

② 当該営業に関し客引きをするため,道路その他公共の場所で,人の身辺に立ちふさがり,又はつきまとうこと。

(以下略)

コ 31条の3第1項(接待従業者に対する拘束的行為の規制等)

18条の2第1項並びに28条5項及び7項から9項までの規定は,無店舗型性風俗特殊営業を営む者について準用する。(以下略)

(3)  京都府風営法施行条例

ア 1条(定義)

この条例において「第1種地域」,「第2種地域」,及び「第3種地域」とは,別表に掲げる地域をいう。

イ 3条(営業場所に係る許可の基準)

(ア) 1項

風営法4条2項2号に規定する地域は,次のとおりとする。

① 第1種地域

② 次の表の左欄に掲げる施設の敷地(当該施設の用に供するものとして決定した土地を含む。)から,同欄に掲げる区分に応じ,それぞれ,営業所が,第2種地域にある場合にあっては同表の中欄,第3種地域にある場合にあっては同表の右欄に掲げる距離以内の地域

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前項の規定にかかわらず,3月以内の期間を限って営む風俗営業に係る営業所については,風営法4条2項2号に規定する地域は,京都府公安委員会(以下「公安委員会」という。)が告示する地域とする。

(ウ) 3項

前2項の規定は,営業をする場所が常態として移動する風俗営業に係る営業所については適用しない。

ウ 6条(一般的遵守事項)

風俗営業者は,次に掲げる事項を遵守しなければならない。

① 当該営業に従事しない者の客引行為による客を引き受け,又は引き受けさせないこと。

② 営業所で卑わいな行為又は容装その他善良の風俗を害する行為をし,又はさせないこと。

③ 通行人に不安又は迷惑を覚えさせるような仕方で呼び込み行為をし,又はさせないこと。

④ 客室又は客席以外の場所で営業をし,又はさせないこと。

⑤ 営業所に客を宿泊させ,又は寝具その他これに類するものを客に使用させないこと(旅館業に係るものを除く。)

⑥ 客に不当な料金を請求し,又はさせないこと。

⑦ 客の求めない飲食物を提供し,又はさせないこと。

⑧ 正当な理由なく営業所の出入口,客室又は客席に施錠をし,又はさせないこと。

⑨ 営業所において店舗型性風俗特殊営業,受付所営業(風営法31条の2第4項に規定する受付所営業をいう。以下同じ。)及び店舗型電話異性紹介営業を営み,又は営ませないこと。

エ 10条(店舗型性風俗特殊営業及び受付所営業の禁止地域の設定の基点となる施設)

風営法28条1項(風営法31条の3第2項の規定により適用する場合を含む。)に規定する条例で定める施設は,次のとおりとする。

① 病院及び診療所

② 保健所

③ 博物館

④ 主として街区内に居住する者の利用に供することを目的とする都市公園(都市公園法施行令2条1項1号に規定するものをいう。)

オ 11条(店舗型性風俗特殊営業,受付所営業及び店舗型電話異性紹介営業の禁止地域)

風営法28条2項(風営法31条の3第2項の規定により適用する場合及び風営法31条の13第1項において準用する場合を含む。)の規定により,次の表の左欄に掲げる店舗型性風俗特殊営業,受付所営業及び店舗型電話異性紹介営業は,同欄の区分に応じ,それぞれ同表の右欄に掲げる地域においては,営むことを禁止する。

file_6.jpgMEELROMI BOER, RIGOR, mmA | mM, me SORRO} b2—-FAERRIMMO BORK, S| MRR OMS ABERUTICAR ROE R wee REA em 1 MeRRO ed備考 (略)

カ 13条(店舗型性風俗特殊営業及び店舗型電話異性紹介営業の広告又は宣伝の制限)

風営法28条5項1号ロ(風営法31条の13第1項において準用する場合を含む。)に規定する条例で定める地域は,次の表の左欄に掲げる店舗型性風俗特殊営業及び店舗型電話異性紹介営業の種類に応じ,それぞれ同表の右欄に掲げる地域とする。

file_7.jpgMEE2ROMIFOER, MRLGORR, MRA | IMM, m2 BOERO I HLF VERRTMRO SOR RE | MORK EM 3 ARORORR wee or REL Orem aeRO Cd備考 (略)

キ 別表(1条関係)

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(1)  本件条例の案は,平成22年7月21日に京都府議会において可決され,本件条例は,同年11月1日に施行された(争いがない。)。

(2)  原告は,平成23年2月2日,本件条例違反で逮捕された(争いがない。)。

上記逮捕に引き続き,原告は,同年2月5日,勾留されたが,その被疑事実は,「被疑者Xは,京都市〈以下省略〉において,風俗案内所「a」を営むもの,Dは,同店の従業員であるが,同人らは共謀の上,同店の営業に関し,同年1月24日午後11時2分ころ,医療法(昭和23年法律第205号)1条の5第2項に規定する診療所に該当する京都市〈以下省略〉所在のb店の敷地から200m以内の営業禁止区域である,上記「a」の営業所内において,上記Dをして,利用者E(当時31歳)の求めに応じ,「キャバクラですか。キャバクラだったら60分6000円です。「b」というお店だったら,女の子も飲んで6200円でいける店。」と接待風俗営業店「c」で客が受けることのできるサービスに係る時間,料金,方法等の内容に関する情報を提供し,もって,条例に規定する営業禁止区域内において風俗案内所を営んだものである。」というものであった(甲2)。

その後,原告は,同年2月21日まで,京都府警d警察署代用監獄に勾留され,同日起訴猶予処分で釈放された(争いがない。)。

3  争点

(1)  本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか(本案前の争点)

(2)  確認の利益の有無(本案前の争点)

(3)  本件各規定が風営法に抵触するものであるか(本案の争点)

(4)  本件条例2条4号ないし6号,3条1項,16条1項1号が明確性の原則に違反するか(本案の争点)

(5)  本件各規定が営業の自由を不当に制限するものであるか(本案の争点)

(6)  本件各規定が営利的表現の自由を不当に制限するものであるか(本案の争点)

4  争点に関する当事者の主張の要旨

(1)  争点(1)(本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか)について(本案前の争点)

(原告の主張)

原告は,本件訴えにおいて,単に抽象的,一般的に本件条例の適法性,合憲性の確認を求めているのではなく,条例の個別的な適用対象である原告の具体的な法的地位の確認を求めているのであるから,本件訴えは,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(行訴法4条)に該当するというべきである。

原告は,かつて風俗案内所の経営者であった者であり,本件条例の制定,施行により,風俗案内所の営業活動の制限を受け,その営業活動によって得ていた利益を得ることができなくなり,その損害は,継続的に拡大していく。確かに,原告は,本件条例3条1項に違反する木屋町界隈での風俗案内所の営業を再開し,もう一度逮捕,勾留やその後に続く公訴提起を受けた上で,それらの刑事司法手続において本件条例の適法性,合憲性を争うことも可能であるが,そのような方法は営業の自由に係る法的利益の救済手続のあり方として迂遠どころか酷に過ぎ,刑事処分を受けない段階における公法上の法律関係に関する確認の訴えによる争訟が認められるべきである。

(被告の主張)

本件において,原告が所有し又は賃借する建物において風俗案内所を営むこと自体は,同建物の所有権又は賃借権といった権原により可能となるものであり,本件条例によって,原告に対して何らかの公法上の地位が付与されているわけではない。したがって,本件訴えは,原告の具体的な公法上の地位又は権利利益を対象とするものではないから,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(行訴法4条)に該当せず不適法である。

(2)  争点(2)(確認の利益の有無)について(本案前の争点)

(原告の主張)

原告は,平成21年6月1日から,京都市〈以下省略〉上の建物(以下「本件建物」という。)において,風俗案内所であるe店を営業してきた。

原告は,本件条例の施行を受けて,いったんはe店を閉店したが,新たに古物営業法(昭和24年法律第108号)3条に基づく古物商の許可を得て,本件建物において,a店を開店した。a店では,当初は,風俗営業を営む店舗(以下「風俗営業所」といい,風営法2条6項にいう店舗型性風俗特殊営業を営む店舗(以下「店舗型性風俗特殊営業所」という。)及び同条9項にいう店舗型電話異性紹介営業を営む店舗とを併せて「風俗営業所等」という。)の情報を記載したチケットを販売する方法で風俗営業所の案内を行っていたが,警察官から同方法も本件条例に抵触する可能性が高い旨の注意を受けたことや利用者の要望を受けたことから,平成22年末頃から,本件条例施行前と同様の方法で風俗営業所への案内を行うようになった。

ところが,原告は,前記前提事実のとおり,本件条例違反により逮捕,勾留された。

原告は,現在でも,従前と同じ場所又はその付近で風俗案内所の営業を再開することを望んでいるところ,原告が再度の逮捕,勾留を受けることなく風俗案内所の営業を再開するためには,予め本件各規定が違憲無効であることを確認し,適法に風俗案内所を営む法的地位を有することを確認しておく必要がある。

したがって,原告には,本件訴えに係る主位的請求及び予備的請求をする法律上の利益がある。

(被告の主張)

仮に,本件訴えが,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に当たるとしても,以下のとおり,本件訴えは,紛争の成熟性を欠くから,やはり,不適法である。

すなわち,原告が,一定の地域内において風俗案内所を営む法的地位を有すること等の確認を求めている趣旨は,本件各規定が違憲無効であることを理由として,本件各規定で定められた遵守事項を遵守すべき義務を負わないことを確認するものであると解されるところ,法令等により課された公法上の義務の存否を争う訴訟が争訟性,成熟性を有するといえるためには,義務違反の効果として,将来何らかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけでは足りず,当該不利益処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情があることを要する。しかしながら,原告は,e店もa店も経営していたわけではなく,風俗案内所の営業を再開するための具体的な設備等を有しておらず,現に風営法3条1項の許可を得て風営法2条1項2号に該当する営業を行っているため,風俗案内所の営業を再開しなければ,直ちに生活に窮する等の事情はない。したがって,上記特段の事情がないから,本件訴えは,紛争の成熟性を欠き,不適法である。

(3)  争点(3)(本件各規定が風営法に抵触するものであるか)について(本案の争点)

(原告の主張)

ア 風俗営業者による広告及び宣伝に対する風営法と本件条例の規制目的は,いずれも,善良の風俗,清浄な風俗環境の保護及び青少年の健全な育成である。

イ 風俗営業者が広告又は宣伝を行うと,風営法によれば,一定の場合には行政処分の対象となるものの(25条,26条),刑罰が科されることはない。他方,広告又は宣伝を行った風俗営業者が,営業禁止区域内の風俗案内所の共謀共同正犯又は幇助犯に当たる場合には,中止命令等の行政処分を経ることなく,本件条例16条1項1号,3条1項,刑法60条,62条により刑罰が科され得る。こうした風営法と本件条例との間の規制態様の差異は,風俗営業について自主的な健全化のための努力を尊重するという風営法の趣旨に反するものであって,本件条例16条1項1号,3条1項は,風営法に違反する。

ウ 風俗営業者と風俗案内所の営業者が同一であり,その者が,営業禁止区域内の風俗案内所で広告又は宣伝を行った場合,その行為は,風俗案内所の営業者の行為であると同時に,風俗営業者自身の行為であるにもかかわらず,本件条例16条1項1号,3条1項により,刑罰が科され得る。このような規制も,風営法の規定と矛盾抵触するものであり,法律の範囲を逸脱するものであって違法である。

エ なお,被告は,①風俗営業者が自ら広告又は宣伝を行う場合と,風俗案内所を利用して広告又は宣伝を行う場合とで,異なる扱いをしても合理的である,②捜査機関は,本件条例と風営法との整合性を検討して,本件条例の適用を差し控えることがあり得る,③原告の上記主張は,適用違憲の理由としてであれば格別,法令違憲の理由としては失当である旨主張する。

しかしながら,上記①については,風俗営業者が自ら広告又は宣伝を行う場合と,風俗案内所を利用して広告又は宣伝を行う場合とで,後者についてだけ刑罰をもって取り締まらなければならないとするほどの違いを見出すことはできない。上記②については,刑罰を受ける可能性自体が国民に対して多大な萎縮効果を及ぼすし,被疑者を起訴するか否かを決するのは検察官であり,刑罰権の発動の有無を決するのは裁判所であるから,被告が,本件条例16条1項1号,3条1項の適用に対する統制をし得るとはいえない。上記③については,法令違憲性を論じる前提として,当該法令の具体的な適用場面を想定してはならないとはいえず,被告の主張こそ失当である。

(被告の主張)

ア 条例は,地方公共団体がその自治権に基づき,議会の議決によって制定する法の一形式であるところ,憲法94条は,地方公共団体が法律の範囲内で条例を制定することができる旨定めている。

風俗案内所は,平成17年の風営法の改正により,風俗営業及び性風俗関連特殊営業(以下,両者を併せて「風俗営業等」という。)の広告及び宣伝等に対する規制が強化されたことを受けて,脱法的に広告又は宣伝を行うべく発生した業態であるところ,風営法が風俗案内所に対する規制を設けていないのは,規制をせずに放置すべしとしているのではなく,風俗案内所の発生を想定していなかったからにすぎない。したがって,風営法の趣旨に反する風俗案内所について,条例により規制を設けることは,風営法に違反したことにはならない。

イ(ア) 原告は,風営法によれば,風俗営業者の風営法16条(広告及び宣伝の規制)違反については,行政処分がなされ得るにとどまり,刑罰が科せられることはないのに,風俗営業者も,風俗案内所の営業者の共同正犯又は幇助犯として刑罰を科される可能性があり,風営法が,風俗営業者の広告及び宣伝を刑罰の対象としなかった趣旨目的と,矛盾抵触する旨主張する。

しかし,風俗営業者が,その営業につき,自ら広告又は宣伝をした場合と,風俗案内所の営業者を利用した場合とで,異なる扱いをするのにも,合理的な理由があるともいい得る。

(イ) また,捜査機関も,純然たる風俗営業者が,風俗案内所を利用して広告又は宣伝をしたという場合,風営法で処罰されない行為について,あえて,風俗案内所の営業者の共同正犯又は幇助犯として立件して刑罰の対象とすることは,差し控えるということも十分に想定される。

(ウ) 原告の上記(ア)の主張は,実際に風俗営業者が刑罰を科された事例において,適用違憲の主張として行うならば格別,あえて例外的な事例を想定した上で,当該事例を,本件条例3条1項,16条1項1号の法令違憲の理由とすることは失当である。

ウ 原告は,風俗営業者が風俗案内所をも営業し,本件条例3条1項所定の営業禁止区域において,自らが営む風俗営業所への案内を行う事例を挙げ,この事例において,本件条例16条1項1号,3条1項により,風俗営業者に刑罰が科されるとすると,風営法による規制が行政処分のみであることと矛盾抵触する旨主張する。

しかしながら,イ(イ)と同様,捜査機関が,本件条例3条1項,16条1項1号の適用を差し控えることは十分に考えられるところである。

エ 原告は,昭和59年の風営法改正の際の国会衆議院地方行政委員会の会議録(甲75,76)により,上記改正の趣旨は,風俗営業について規制を緩和すること等にあることを立証するようである。しかし,上記改正後の風営法は,風俗営業の体裁をとりながら性的役務を提供するという営業形態を許容するものではない。そして,上記のような営業形態をとる店舗が後を絶たないことに照らすと,本件条例は,風営法の趣旨と矛盾抵触するものではない。

(4)  争点(4)(本件条例2条4号ないし6号,3条1項,16条1項1号が明確性の原則に違反するか)について(本案の争点)

(原告の主張)

本件条例は,違反者に対して刑事罰を科するものであるから,憲法31条により,構成要件の明確性が求められる。また,本件各規定は,風俗案内という表現行為そのものを規制するものであるから,明確性の原則に適合しているか否かは,厳格に判定されなければならない。

しかるところ,本件条例2条4号の「風俗案内」という用語の定義は,極めて曖昧であり,通常の判断能力を有する一般人においては,処罰を受ける範囲を正確に判断することができず,予測可能性を確保することができない。その結果,京都府民(以下「府民」という。)は,自己防衛のために本来規制対象ではない活動まで自粛せざるを得なくなり,その萎縮効果は甚だしい。

したがって,本件条例2条4号ないし6号,3条1項,16条1項1号は,明確性の原則に違反し,原告の営利的表現の自由を不当に制限するものとして違憲である。

(被告の主張)

本件条例2条4号は,「風俗案内」の内容として,アないしウで具体的に定義付けを行っており,本件条例2条4号ないし6号,3条1項,16条1項1号は,明確性の原則に反するものではない。

(5)  争点(5)(本件各規定が営業の自由を不当に制限するものであるか)について(本案の争点)

(原告の主張)

ア 営業の自由とこれに対する制限

憲法22条1項は,職業選択の自由を保障しており,この自由は選択した職業を遂行する自由たる営業の自由をも内包する。したがって,原告には,風俗案内所の営業という職業を選択し,その営業活動を行う権利が認められる。本件条例は,営業禁止区域内における風俗案内所の営業を全面的に禁止し,風俗案内所内部に接待飲食等営業に従事する者を表示すること等をも禁止して,原告の営業の自由を制限している。

イ 営業の自由に対する過度の制限(比例原則違反)

営業の自由といえども絶対無制約なものではなく,実質的公平の原理である公共の福祉による制限を受ける。特に,ある地域の風情や情緒をどのような方法でどの程度保護し,その地域で現に行われている適法な営業活動との間でどの程度の調和を図るかという問題に関する議会の判断は,それが合理的裁量の範囲にとどまる限り尊重されるべきものである。しかし,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される営業の自由の性質,内容及び制限の限度等の観点から,立法機関の合理的裁量の範囲を逸脱していると判断される場合には,当該条例は,規制対象者の憲法上の権利を不当に制限するものとして違憲と判断されなければならない。

(ア) 規制の目的

本件条例の目的は,祇園,木屋町界隈から風俗案内所を根絶することにあり,違法な風俗営業所等の取締りといった消極的,警察的なものでもなければ,風俗案内所を根絶することで何らかの社会政策ないし経済政策上の目的を達成しようとするものでもない。風俗案内所を根絶することで実現するとされる利益は,祇園,木屋町界隈の風情や情緒といった具体的な犯罪事実の発生やそのおそれ以前の漠とした感情であり,人によって受取り方や感じ方が異なる性質のものである。そもそも,風俗案内所を根絶したところで,適法に営業する風俗営業所等自体を撲滅することはできない以上,本件条例によって,立法者の企図する風情や情緒が実現される保証はなく,それは観念上の想定にとどまる。したがって,本件条例の上記目的を正当化することは困難である。

より具体的にみるに,条例制定を望んだ地域住民の立場からみた本件条例の立法目的は,本件条例2条2号にいう性風俗営業(以下,単に「性風俗営業」という。)の広告又は宣伝を請け負い,悪徳な風俗営業所等と結託する風俗案内所を祇園,木屋町から一掃し,祇園,木屋町界隈にかつての風情を取り戻すことと認められるところ,風俗案内所が,性風俗営業の広告又は宣伝を請け負い,悪徳な風俗営業所等と結託しているという事実はなく,また,風俗案内所を一掃することは,祇園,木屋町界隈にかつての風情を取り戻すという目的と関連性がないか,少なくとも過剰な手段である。

(イ) 規制の必要性

本件条例によって,風俗案内所営業といった新たな犯罪類型を作り出し,刑罰をもってこれを取り締まったところで,立法目的が実現されない以上,規制の必要性も認められない。

なお,被告は,風俗案内所が,風営法16条によって禁止された広告及び宣伝を,脱法的に請け負う業態であると主張するが,風俗案内所の広告又は宣伝は,いずれも,警察庁生活安全局作成の風営法に関する解釈運用基準にいう「公衆の目に触れやすいもの」でもなければ,「衣服を脱いだ人の姿態や性交,性交類似行為,性器等を描写するもの,風俗営業所内で卑わい行為が行われていることを表すもの」でもないから,風営法16条によって禁止された風俗営業所周辺における正常な風俗環境を害するおそれのある方法での広告又は宣伝に当たらず,風俗案内所がこれを脱法的に請け負うということもいえない。

被告は,本件条例3条1項による規制の必要性を根拠づける立法事実として,①風俗案内所と店舗型性風俗特殊営業との結びつきと②風俗案内所と「性風俗営業まがいの営業を行う店」との結びつきを主張する。まず,上記①のうち,風俗案内所と風営法による届出済みの店舗型性風俗特殊営業との結びつきは,認められない。また,上記①のうち,無届けの店舗型性風俗特殊営業と風俗案内所との結びつきが明確に認められる例は,被告が本件条例制定の必要性を検討していたと主張する平成20年12月8日より後に発生した1件だけであり,しかも,風営法の適用によって適正に取り締まられていること,風営法27条の2所定の広告又は宣伝とは異なる風俗案内という行為態様を取り締まる必要性等が認められるとしても,その必要性は極めて限定的であり,規制手段も,本件条例4条のような規制で十分であることからすると,上記結びつきは,本件条例3条1項による規制の必要性を根拠づけるものとはなり得ない。さらに,上記②については,被告の主張によっても,風俗案内所と「性風俗営業まがいの営業を行う店」との結びつきは明らかでなく,これも本件条例3条1項による規制の必要性を根拠づけ得ない。

(ウ) 規制の内容

本件条例は,京都府風営法施行条例において,その3条1項2号にいう施設には含まれないものとされている無床の診療所をも保護対象施設に含めた上で,本件条例に係る保護対象施設の敷地から200mという風営法による店舗型性風俗特殊営業の営業禁止区域よりも広大な範囲を営業禁止区域として定めることによって,祇園,木屋町界隈における風俗案内所の営業を,経過規定を設けることもなく全面的に禁止するとともに,これを新たな犯罪類型としてその構成要件を定めた上で,刑罰を科すものである。罰則の適用についても,在宅捜査等の緩やかな方法によることなく,事前予告なしの逮捕,勾留をもって臨むものであることは,既に原告自身が体験済みである。このように,本件条例における上記のような規制態様は,極めて強力である。特に,祇園,木屋町界隈は京都府風営法施行条例において最も緩やかな規制区域(第3種区域)とされていることを併せ考えると,同地域における風俗案内行為を規制するに当たっては,京都府に認められる裁量の幅は自ずと狭いものと解さなければならず,規制の必要性と合理性は実質的かつ具体的に判断されなければならない。

また,被告の主張によれば,本件条例の制定過程で重視されたのは,風俗案内所と性風俗関連特殊営業及び「性風俗営業まがいの営業を行う店」との結びつきであるにもかかわらず,本件条例3条1項により,適法に風俗営業を営む店舗への案内も規制されることになる。

(エ) 営業の自由の性質及び内容並びに風俗案内所の機能

a 営業は,人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに,分業社会においては,これを通じて社会の存続と発展に寄与するという側面も有するから,各人が自己のもつ個性を全うすべき場として,個人の人格的価値と不可分の関連を有するものである。

b 風俗案内所には,以下のような社会的,経済的機能が認められる。すなわち,風俗案内所は,他の風俗営業所を探す方法と異なり,常に一定の場所に店舗を構えて従業員を常駐させているため,案内された風俗営業所の苦情を伝えるのが容易であり,料金が事前の説明に比べて異常に高いというようなトラブルにあった場合に警察に届けるのに便宜である。そして,このことは,風俗業界における不良店の淘汰を通じて,各風俗営業所の質の維持,改善をもたらす。風俗案内所には,風俗営業の新規開業を促し,その営業を支えるという経済的機能が認められ,新規開業に伴う什器,飲食物等の新たな需要を生み出すなどの効果もある。

c なお,原告が風俗案内所で利用者に案内してきた風俗営業所は,すべて,風営法3条1項の許可を得ている風営法2条1項ないし4項の風俗営業である。

(オ) 他の法令との比較

a 本件条例と風営法及び京都府風営法施行条例との比較

本件条例は,保護対象施設に無床の診療所を含む点,経過規定による既得権保護を図っていない点で,風営法及び京都府風営法施行条例による性風俗関連特殊営業に対する規制よりも強度の規制を課している。

b 本件条例と他府県の風俗案内所規制条例との比較

東京都の歓楽的雰囲気を過度に助長する風俗案内の防止に関する条例(平成18年東京都条例第85号)は,風俗案内所を規制対象としているが,規制の主な内容は,性風俗営業の宣伝行為の禁止,騒音や営業時間に対する規制,卑わいな広告等の禁止であり,風俗案内所の営業自体を禁止するものではない。

広島県歓楽的雰囲気を過度に助長する風俗案内の防止に関する条例(平成18年広島県条例第4号)も,風俗案内所の営業そのものを禁止するものではない。

大阪府特殊風俗あっせん事業の規制に関する条例(平成17年大阪府条例第102号)は,性風俗営業に関する風俗案内を禁止しているが,保護対象施設に無床の診療所を含んでおらず,営業禁止区域を,保護対象施設の敷地から100m又は50mとし,キタやミナミの中心部を規制対象から外している。

愛知県風俗案内所規制条例(平成24年愛知県条例第14号)は,性風俗営業の案内は全面禁止としているが,性風俗営業以外の案内に対しては,風俗営業所に対する愛知県の風営法の施行条例による規制と同じ規制を課している。

沖縄県風俗案内業の規制に関する条例(平成24年沖縄県条例第48号)は,性風俗営業の案内は,性風俗営業の営業許可地域内においてのみ許容しているが,性風俗営業以外の案内に対しては,風俗営業に対する沖縄県の風営法の施行条例と同じ規制を課している。

(カ) 小括

祇園,木屋町界隈がもともと歴史的な歓楽街であり,風俗営業の許可基準も京都府下で最も緩やかに設定されており,そうである以上,これを紹介する風俗案内行為に対しても同様の寛容さが認められるべきであるところ,京都府の立法態度は,風俗案内行為に対しては刑罰による威嚇をもって厳しく対処するという矛盾するものになっており,他の法令との比較結果等をも踏まえて考えると,本件各規定の制定は,京都府に対して認められた合理的裁量の範囲をはるかに逸脱している。仮に,被告が主張するように,風俗案内所が風営法の規制対象となっていないことや,その営業につき許可制や届出制がとられていないことにより,青少年の健全な育成及び府民の安全,安心な生活環境に悪影響が及んでいるというのであれば,風俗案内所にも,風俗営業所に対するのと同じ規制をすることで足りるはずである。被告が主張する規制の必要性は,風俗案内所に対して何らかの規制を及ぼす必要性にすぎず,その規制内容が風俗営業所に対するそれよりもはるかに強度でなければならない理由を,被告は何ら主張していない。

(被告の主張)

ア 合憲性の推定

条例は,地方公共団体において,その住民の代表者である議員で構成される議会の議決を経て成立するものであるから,その合憲性が推定されるべきである。

イ 営業の自由に対する不当な規制との主張について

(ア) 規制の目的本件条例1条の定める目的は,善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し,及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止すること等を挙げた風営法の目的と類似するものである。

加えて,古都らしい風土,文化に反する行為,青少年の健全な育成を害する行為等についてこれを規制する気運が高いという京都の実情に照らせば,本件条例は,京都らしい生活環境を確保するとことをも目的としており,その目的は,風営法1条と共通する消極的,警察的目的のみならず,環境保全的な意味合いの積極的な目的をも含んでいる。

本件条例の目的が,祇園,木屋町界隈で営業していた風俗案内所の根絶である旨の原告の主張は,否認する。

(イ) 規制の必要性

a 風俗案内所の営業は,風営法上,風俗営業者による風営法22条2号所定の行為(以下「客引準備行為」という。)や性風俗営業の広告及び宣伝が直罰化されたことを受け,客引きや広告又は宣伝を脱法的に請け負う業態であり,風営法の趣旨に反するものである。

風俗案内所は,派手できらびやかな外装を施したり,風俗営業に関する情報をより多く発信したり,卑猥な情報の掲出を積極的に行ったりし,このような歓楽的・享楽的雰囲気が,周辺の風俗環境等に与える影響は極めて大きい。また,風俗案内所は,風俗営業所等を訪れるよりも不特定多数の者が来訪し,風俗案内所が醸し出す歓楽的・享楽的雰囲気が与える影響は自ずと大きくなる。加えて,風俗営業所等の案内を希望する利用者の中には,性的役務を期待する者も多く,性的役務が提供される風俗営業所等への案内を行えば,風俗案内所を訪れる利用者も多くなること,性的役務が行われる風俗営業所等においては,客1人当たりの料金が相対的に高くなり,当該風俗営業所等から風俗案内所に支払われる業務委託料も高くなること,性的役務が行われる風俗営業所等を紹介する場合とそうでない場合とで,風俗案内所の業態を変更する必要が特にないこと等の理由により,風俗案内所は,性的役務を提供する営業所への案内を行うことになりやすく,善良な風俗環境に与える影響が大きい。

さらに,風俗案内所は,出入口を開放等していることなどからすると,風俗営業所に比較して,はるかに敷居が低く,青少年にとっても,その利用につき心理的抵抗が小さく,その利用を防ぎにくい。また,青少年が風俗案内所を利用するのでなくても,風俗案内所が外部に露出する歓楽的雰囲気の大きさからすれば,青少年に与える影響の程度は極めて大きい。

b 京都府においても,無届けで風営法2条6項2号所定の店舗型性風俗特殊営業を行う,風俗営業所として許可を受けながら実際には店舗型性風俗特殊営業における「異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務」を個室を設けない形で行う等,脱法的に性風俗営業まがいの営業を行う店舗は枚挙にいとまがない。

そして,本件条例制定時,京都府や他の都道府県において,実際には店舗型性風俗特殊営業を行っている風俗営業所及び上記のような性風俗営業まがいの営業を脱法的に行う風俗営業所と風俗案内所との結びつきが認められた。

c 前記a及びbの風俗案内所の実態にかんがみると,風俗案内所の影響力は,風営法による各種規制の下にある風俗営業所とは比較にならないほど強い。したがって,その影響から保護対象施設の周辺における清浄な風俗環境を保全し,青少年の健全な育成を図り,府民の安全で安心な生活環境を確保するという目的に照らせば,風俗案内所と保護対象施設との間には,相当の距離を保つ必要があることは明らかである。

d 風俗営業所を利用しようとする者がその情報を収集する手段としては,原告が指摘するとおり,雑誌やインターネットを利用する方法があるから,風俗案内所が必要不可欠な存在とはいえない。

また,風俗営業所を利用した客が当該店舗との間でトラブルを生じた場合には,直接,行政機関や捜査機関に届ければ良いし,不良店の淘汰は,風俗案内所によらずとも,行政処分等の効果により可能であるから,風俗案内所が不良店淘汰のための必要不可欠な社会的機能を担っているとはいえない。

(ウ) 規制の内容

本件条例は,風俗案内所の営業について許可制をとるものではなく,風営法の風俗営業所に対する規制と比較すると,その規制は限定的である。また,本件条例3条1項は,京都府下における同項各号所定の保護対象施設の敷地から200m以内の区域においての営業を禁止しているものの,それ以外の区域での営業を禁止していない。

なお,本件条例は,無床の診療所をも保護対象施設に含んでいるが,現在では,夜間診療が広く行われていること,無床の診療所を利用する通院患者も静謐な環境での治療を必要とすること,上記通院患者の中には,年少者も数多く含まれていることからすれば,無床の診療所であっても風俗案内所の影響から保護すべきである。

また,風俗案内所に対する制限の程度については,営業の自由を必要以上に制限してはならないが,他方で,風俗営業等に関する他の規制としては,店舗型性風俗特殊営業につき,保護対象施設の敷地の周囲200mの区域内(風営法28条第1項),店舗型電話異性紹介営業につき,保護対象施設の敷地の周囲200mの区域内(風営法31条の13,28条1項),京都府では,テレホンクラブ等営業につき,保護対象施設の敷地の周囲500mの区域内(青少年の健全な育成に関する条例(昭和56年京都府条例第2号。ただし,平成13年京都府条例第44号による改正前のもの。)24条の2),出会い系喫茶等営業の規制につき,保護対象施設の敷地の周囲200mの区域内(同条例(ただし,平成22年京都府条例第33号による改正前のもの。)24の7第1項)をそれぞれ営業禁止区域とするといった例があること,パブリックコメントによれば,風俗案内所の営業禁止区域を保護対象施設の敷地の周囲500m区域内とすべきとの意見もあること等からして,本件条例3条1項の規制が必要かつ妥当である。

(エ) 他の法令との比較について

風俗案内所を規制する条例を制定,施行した京都府以外の都道府県は,東京都,大阪府,広島県,千葉県,愛知県及び沖縄県であるところ,本件条例は,届出制を採用せず,人的規制(欠格事由)を設けず,営業禁止区域を設けているものの同区域以外で風俗案内所を営業することを禁止していないという点で,他府県の条例に比べて,その規制の程度は緩やかである。

(オ) 小括

前記アのとおり,条例は,一般に,その合憲性が推定されることに加え,営業の自由を制限する法律や条例については,議会の判断が合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてその判断が尊重されるべきである。

前記の風俗案内所の実態やその影響力の大きさ,規制の必要性,内容に照らせば,本件各規定につき上記合理的裁量の範囲を逸脱するとはいえず,本件各規定は,営業の自由を不当に制限するものではない。

(6)  争点(6)(本件各規定が営利的表現の自由を不当に制限するものであるか)について(本案の争点)

(原告の主張)

ア 憲法21条1項,22条1項は,営利的表現の自由を保障する。原告は,風俗案内所において,利用者の要望を聞いてこれを理解し,これに対する自身の考えを伝えることができる。原告には,利用者との自由な言葉のやり取りを通じて,利用者の満足を導くとともに,自己の経済的利益を実現し,その営みを通じて得られる達成感,満足感により自己の人格を全うし,もって自己実現を図るという営利的表現の自由がある。

本件各規定は,上記営利的表現の自由を不当に制限しており,これは憲法21条1項,22条1項に違反するものである。

イ 風俗案内所の営業自体が許されるべきものである以上,その内部に,接待飲食等営業に従事する者を表示すること等も,当然に許されるべきである。

(被告の主張)

ア 本件条例3条1項の規制は,営業禁止区域内における風俗案内所の営業の禁止であって,同規制は,営利的表現の自由の規制というより,むしろ営業の自由の制限として論じられるべきものである。

イ また,原告は,原告には,風俗案内所の内部に接待飲食等営業に従事する者等を表示する法的地位が認められるが,本件条例第7条2号は,風俗案内所の内部に,接待飲食等営業と同義と解される接待風俗営業に従事する者等を表示すること等を禁止して,原告の営利的表現の自由を制限していると主張する。

原告の接待飲食等営業に従事する者等を表示する等の表現行為は,営利的表現であると同時にわいせつ表現でもあるところ,これらの表現の自由が憲法上保護の対象となり得るとしても,その程度は,他の表現の自由に比べて低いというべきである。

風俗案内所の実態,風俗案内所が府民の生活環境及び青少年の健全な育成に与える影響の大きさ並びに風俗案内所の脱法的性格からすれば,風俗案内所を規制する必要性が存在することは明らかであって,風俗案内所に対する規制は,憲法21条1項に違反しないものというべきである。

ウ なお,原告は,本件訴えにおいて,風俗案内所の内部において,風営法2条1項2号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し,若しくはこれを連想させる図画若しくは文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置する法的地位を有することの確認を求めている。

しかしながら,本件条例7条2号は,風俗案内所の内部において,接待飲食等営業と同義と解される接待風俗営業に従事する者の写真等を表示すること自体禁止するものではなく,「外部から見通すことができる状態にしてその内部に」掲出することを禁止しているのみであるから,上記請求は,前提を欠いているものというべきである。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか(本案前の争点))について

(1)  被告は,原告が所有し又は賃借する建物において,風俗案内所を営むこと自体は,同建物の所有権又は賃借権といった権原により可能となるものであり,本件条例によって,原告に対して何らかの公法上の権利が付与されているわけではないから,本件訴えは,いずれも,「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当しない旨主張する。

しかしながら,本件で,原告は,本件条例が,一定の地域において風俗案内所を営むことを禁止ししていること等につき,これが原告の憲法上の権利を不当に制限するものである旨主張しているのであり,原告が,本件条例との関係で,ある地域で適法に風俗案内所を営む法的地位を有するか否か,風俗案内所の内部において,適法に,風営法2条1項2号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し,若しくはこれを連想させる図画若しくは文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置する法的地位を有するか否かについての争いは,原告と本件条例を定めた地方公共団体たる被告との間の公法上の法律関係に関する争いであることは明らかである。

したがって,被告の上記主張は失当である。

(2)  なお,当事者双方は,本件各規定によって制限される原告の法的地位が具体的なものであるかという点や本件各規定の合憲性を刑事訴訟や行政処分の取消訴訟の中ではなく,本件訴訟のような形で争うことが適切かという点につき主張をし,これを,本件訴訟の訴訟物たる公法上の法律関係の具体性の問題と位置づけたり,法律上の争訟性の問題と位置づけたりしているが,上記の諸点は,いずれも,本件訴えに確認の利益(特に,紛争の成熟性)があると認められるかという問題と共通する問題であるから,後記2において判断することとする。

2  争点(2)(確認の利益の有無(本案前の争点))について

(1)  前記前提事実,当事者間に争いのない事実,括弧内の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実を認めることができる。

ア G又はその関連法人である株式会社fは,平成14年頃,Gの内妻Iの名前で,g株式会社から,同社所有の本件建物を賃借した。Gは,平成16年又は同17年頃までは,本件建物において,自ら風俗案内所を経営していたが,その頃から業務委託の名目で本件建物を第三者に転貸するようになった。(甲5,79,乙93,原告本人,弁論の全趣旨)

イ 原告は,平成21年5月頃,Gとの間で,本件建物を月額60万円の賃料で転借する旨の契約を締結し,同月1日から平成23年2月1日までの間,月額60万円の転借料(名目は,業務委託料であった。)をIの口座に振り込む方法により,支払った(甲80,原告本人,弁論の全趣旨)。

ウ 原告は,平成21年6月1日頃から,本件建物において,Kを名目上の管理者,Lを店長として,e店を経営するようになった。

原告は,当時,風営法2条1項2号に該当する風俗営業所である「h」を経営していたことから,Lに対し,案内先の風俗営業所については,利用者の意向を最優先するよう指示するとともに,利用者が特に意向を示さないときなどには,h店に案内をするよう指示していた。(以上,甲79,乙58,94,原告本人,弁論の全趣旨)

エ 原告は,平成22年の夏頃,Nから,古物営業法3条所定の許可を得た上で風俗営業所の割引チケットを販売するという方法によれば,本件条例施行後も,風俗案内所の営業を実質的に続けることができるから,これを一緒に行おうとの誘いを受け,これに応じた(甲79,乙59,62,原告本人)。

オ 本件条例は,平成22年7月21日,京都府議会において可決成立し,同年11月1日から施行された(争いがない。)。

カ 本件建物は,本件条例3条1項所定の営業禁止区域内にあるため,本件条例の施行により,原告は,本件建物において,適法にe店の営業を継続することが不可能となった。

そこで,原告は,いったん,e店を閉店した上で,平成22年11月頃,自ら古物営業法3条所定の許可を受け,同許可に基づき,本件建物において,古物商を装ってa店の営業を開始した。原告は,a店において,当初は,風俗営業所の情報を記載したチケットを販売する方法で風俗営業所の案内を行っていたが,京都府警察の警察官から,同方法も本件条例に違反する可能性が高いとの注意を受けたこと,口頭での風俗営業所の案内を求める利用者が後を絶たないことから,平成22年末頃から,利用者からどのような風俗営業所についての情報を求めているか聞き出し,それに応じて,風俗営業所に関する情報を口頭で提供する方法による風俗案内を再開した。

a店及びNが経営する風俗案内所であるi店の経営方針の決定や売上金の管理は,Nが行っていた。原告は,Nから毎月60万円を受け取って,本件建物の転借料の支払に充てていた。原告は,h店の経営等で忙しかったため,a店の営業に関してはその大部分をNに任せていたが,原告自らが,本件建物に赴き,従業員に対して案内の方法等を指導することもあった。(以上,甲79,乙59,62ないし68,70,74ないし77,86,87,90,原告本人,弁論の全趣旨)

キ 原告は,平成23年2月2日,本件条例違反により逮捕され,同年2月5日から同月21日まで,前記第2の2記載の被疑事実により勾留されたが,同日,起訴猶予処分により釈放された(争いがない。)。

ク 原告は,平成23年9月21日,本件訴訟を提起した(弁論の全趣旨)。

(2)ア  本件条例は,3条1項所定の営業禁止区域における風俗案内所の営業を一律に禁止する一方,その余の区域においては,その営業を無制限に許すものであり,風俗案内所の営業につき許可制等を採用する場合と異なり,風俗案内所の営業開始に先立ち,何らかの行政処分が予定されているわけではない。そうすると,営業禁止区域における風俗案内所の営業を望む者が,同営業に先立ってあらかじめその適法性を確認するためには,本件訴えのような,実質的当事者訴訟としての確認の訴えによるほかはない。

イ  ところで,本件条例3条1項,13条1項,16条1項1号によれば,上記営業禁止区域において風俗案内所を営業した者に対しては,事業停止命令が発せられ,あるいは,刑罰が科され得る。そうすると,本件条例3条1項,13条1項,16条1項1号等の合憲性を争いたい者にとっては,事業停止命令の取消訴訟や刑事訴訟の中で,これを争うという方法も存在する。

しかしながら,事業停止命令は営業の自由を侵害し,刑事手続における身柄の拘束等も身体の自由を侵害するものである。とりわけ,本件条例の仕組みからすると,本件条例3条1項に違反した者については,直ちに,本件条例16条1項1号の構成要件に該当することとなり,何らの行政処分を経なくても,逮捕,勾留されたり,起訴されたりすることがあり得る。

以上からすると,本件条例3条1項所定の営業禁止区域における風俗案内所の営業を望む者に対して,事前にその適法性を確認することを認めず,実際に同営業を開始し,事業停止命令を受けたり,起訴されたりした後に,専ら事業停止命令の取消訴訟や刑事訴訟の中で,本件条例3条1項,13条1項,16条1項1号等の合憲性を争うことを求めるのは,あまりに酷であり,紛争解決の方法として極めて迂遠である。したがって,本件条例3条1項所定の営業禁止区域において風俗案内所の営業を行う蓋然性があると認められる者については,同営業を適法に営む法的地位を有することの確認を求める訴えの利益があると解するのが相当である。

ウ  そして,前記(1)の各事実によれば,原告は,従前,e店の経営者であり,a店の営業にも一定程度関与していたこと,原告は,風営法2条1項2号所定の風俗営業所をも営んでおり,同時に風俗案内所を営むことによって,自らが営む風俗営業所の客を増やすことができるとの期待を抱いていることが認められ,これらの各事実からすれば,原告については,今後も,本件条例3条1項所定の営業禁止区域において,風俗案内所の営業を行う蓋然性があるとみるのが相当である。

被告は,前記(1)カの事実等からして,原告は,a店の経営につき,Nに対して従属的な立場にあったこと等を指摘するが,それらのことは,上記の認定判断を左右するに足りない。

エ  以上からすれば,原告には,被告との間で,本件条例3条1項所定の営業禁止区域において,風俗案内所の営業を適法に営む法的地位を有することの確認を求める訴えの利益があると解するのが相当であり,本件訴えに係る各請求のうち,前記第1の主位的請求(1)及び同予備的請求(1)は,いずれも確認の利益を有する適法な訴えに係る請求である。

(3)  ところで,原告は,本件訴えに係る各請求のうち,前記第1の主位的請求(2)及び同予備的請求(2)において,風俗案内所の内部において,接待飲食等営業に従事する者を表し,若しくはこれを連想させる図画若しくは文字,数字その他の記号を表示し,又は表示したものを掲出し,若しくは配置する法的地位を有することの確認を求めている。

しかし,本件条例7条2号は,「風俗案内所の外部に,又は外部から見通すことができる状態にしてその内部に」,上記表示等をすることのみを禁止しているところ,原告が,風俗案内所の外部において上記法的地位を有することの確認を求めているものではないことは明らかであり,また,原告の主張が,「外部から見通すことができる状態にしてその内部に」上記表示等をすることも許されるべきだという主張だとみることはできない。

したがって,原告の上記各請求は,原告と被告との間で,実質的に争いとなっていない事項について確認を求めるものであり,訴えの利益を欠く不適法なものである。

3  争点(3)(本件各規定が風営法に抵触するものであるか(本案の争点))について

(1)  条例が国の法令に違反するかどうかは,両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば,ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも,当該法令全体からみて,同規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは,これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなり得るし,逆に,特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも,後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり,その適用によって前者の規定の意図する目的と効果を何ら阻害することがないときや,両者が同一の目的に出たものであっても,国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく,それぞれの普通地方公共団体において,その地方の実情に応じて,別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは,国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく,条例が国の法令に違反する問題は生じ得ない(最高裁昭和50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁)。

(2)ア  風営法の目的は,善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し,及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため,風俗営業等について,必要な規制を施すことと,風俗営業の健全化に資するため,その業務の適正化を促進する等の措置を講じることにあり(1条),上記規制の1つとして,風俗営業者に対し,その営業につき,営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならないとの規制を施している(16条)。また,店舗型性風俗特殊営業及び無店舗型性風俗特殊営業を営む者等に対しても,広告制限区域等において,広告物を表示する方法若しくはビラ等を頒布する方法等によって,広告又は宣伝をしてはならない旨の規制,及び公安委員会に対して届け出た店舗型性風俗特殊営業又は無店舗型性風俗特殊営業等以外の店舗型性風俗特殊営業又は無店舗型性風俗特殊営業等を営む目的をもって,広告又は宣伝をしてはならない旨の規制を施し,さらに,上記届出をしていない者に対しては,店舗型性風俗特殊営業又は無店舗型性風俗特殊営業等を営む目的をもって,広告又は宣伝をしてはならない旨の規制を施している(27条の2,28条5項,31条の2の2,31条の3第1項)。

そして,風俗営業者に対する上記規制に違反した者に対して,公安委員会は,必要な指示や営業許可の取消し又は営業停止命令をすることができ(25条,26条),営業停止命令に違反して営業を行った者は,2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し,又はこれを併科することとされている(49条4号)。他方,店舗型性風俗特殊営業又は無店舗型性風俗特殊営業を営む者が上記の規制に違反した場合には,風俗営業者と同様の制裁が加えられ得るほか(25条,26条,49条4号),直接刑罰の対象となり,100万円以下の罰金に処せられる(53条1号,2号)。

イ  本件条例の目的は,風俗案内所に起因する府民に著しく不安を覚えさせ,又は不快の念を起こさせる行為,犯罪を助長する行為等に対し必要な規制を行うことにより,青少年の健全な育成を図るとともに,府民の安全で安心な生活環境を確保することにある(1条)。そして,本件条例は,上記目的を達成するための規制として,本件条例に係る保護対象施設の敷地から200m以内の区域を営業禁止区域と定め(3条1項),この規定に違反して風俗案内所を営んだ者に対して,公安委員会は,必要な指示や事業停止命令等を行うことができるものとされているほか(12条,13条),同違反は,直接刑罰の対象となり,6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることとなる(16条1号)。

ウ  風営法の目的と本件条例の目的を比較すると,いずれも,青少年の健全な育成を図ることが含まれている点では共通しているが,前者には,善良の風俗と清浄な風俗環境を保持するため,風俗営業等について,必要な規制を施すことと,風俗営業の健全化に資するため,その業務の適正化を促進する等の措置を講じることが含まれているのに対し,後者には,風俗案内所に起因する府民に著しく不安を覚えさせ,又は不快の念を起こさせる行為,犯罪を助長する行為等に対し必要な規制を行うことにより,府民の安全で安心な生活環境を確保することが含まれていることからすると,風営法と本件条例とは,その規制目的に共通する部分があるものの,全く同一の規制目的により制定されたものとはいえない。

そして,風営法は,風俗営業等に関する広告又は宣伝について一定の規制を施しているところ,風俗営業等に関する広告又は宣伝に含まれるとは必ずしもいえない風俗案内という行為について,風営法による規制以外の規制を条例によって施すことを一切許さない趣旨であると解するに足りる根拠は見当たらない。

そうすると,風営法において規制対象となっていない風俗案内所を,風営法とは一部異なる公益上の目的に基づいて本件条例により規制することは,直ちに風営法に抵触するものではなく,また,憲法94条,地方自治法14条1項に違反するものでもない。

(3)  原告は,①広告又は宣伝を行った風俗営業者が,営業禁止区域内の風俗案内所の共謀共同正犯又は幇助犯に当たる場合には,本件条例16条1項1号,3条1項,刑法60条,62条により,②風俗営業者と風俗案内所の営業者が同一であり,その者が,営業禁止区域内の風俗案内所内で広告又は宣伝を行った場合には,本件条例16条1項1号,3条1項により,刑罰が科され得るが,風営法によれば,風俗営業者による広告又は宣伝は,刑罰の対象とされていないのであるから,本件条例16条1項1号,3条1項は,風営法と抵触する旨主張する。

しかしながら,上記①の場合に当該風俗営業者に本件条例16条1項1号,3条1項,刑法60条又は62条所定の罪が成立するか否かは,刑法60条,62条の適用の当否の問題として,その解釈によって決せられるべき事柄であるから,仮に,上記解釈の結果,当該風俗営業者に本件条例16条1項1号,3条1項,刑法60条又は62条所定の罪が成立することとなっても,そのことから,本件条例16条1項1号,3条1項が風営法に抵触するということにはならない。また,上記②の場合は,当該風俗営業者が,風俗案内所の営業者でもあることに基づいて,刑罰が科され得るのであるから,この場合に,当該風俗営業者に本件条例16条1項1号,3条1項所定の罪が成立し得ることによって,これらの規定が,風営法に抵触することにもならない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

4  争点(4)(本件条例2条4号ないし6号,3条1項,16条1項1号が明確性の原則に違反するか)について

(1)  ある刑罰法規があいまい不明確なゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによってこれを決定すべきである(前記昭和50年最大判)。

(2)  原告は,本件条例2条4号,3条1項,16条1項1号の各規定が,あいまいで不明確である旨主張するが,その趣旨は,本件条例2条4号における「風俗案内」という用語の定義があいまいで不明確であるというものであると解される。

この点につき検討するに,本件条例2条4号は,「風俗案内」という用語の意義を定めているところ,同号アは,「利用者の求めに応じ,接待風俗営業又は性風俗営業に係る次に掲げる事項に関する情報を提供すること」と規定し,「接待風俗営業」及び「性風俗営業」という用語については,同条1号及び2号でその意義を規定し,「情報」の内容についても,同条4号アの(ア)及び(イ)で詳らかにしている。また,同号イ及びウの各規定の内容も,その意味するところは十分に明確というべきである。これらの規定からして,通常の判断能力を有する一般人において,具体的場合にその行為が,「風俗案内」に当たるかどうかを判断することは十分可能であると考えられる。原告の主張は,独自の見解というほかなく,同主張は採用することができない。

(3)  なお,原告は,本件条例2条4号を字義どおりに解釈すれば,コンビニエンスストアにおいて風俗営業等に係る情報が掲載された雑誌等を販売する行為も,「風俗案内」に該当しかねないことを,不明確性の論拠の1つとするようである。

しかしながら,コンビニエンスストアにおいて上記雑誌等を販売する行為は,コンビニエンスストアを利用する客の具体的な求めに応じて風俗営業等に係る情報を提供するものではないから,「利用者の求めに応じ」という要件を満たさず,本件条例2条4号アには該当しない。また,コンビニエンスストアにおいて上記雑誌等を販売する行為が文言上も同号イの「場所に案内すること」や同号ウの「待ち合わせの場所を提供すること」に当たらないことは明らかである。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

5  争点(5)(本件各規定が営業の自由を不当に制限するものであるか(本案の争点))について

(1)  憲法22条1項は,何人も,公共の福祉に反しない限り,職業選択の自由を有すると規定している。上記自由に対する規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは,これを一律に論ずることができず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。この場合,上記のような検討と考量をするのは,第一次的には立法府の権限と責務であり,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。しかし,上記の合理的裁量の範囲については,事の性質上おのずから広狭があり得るのであって,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものといわなければならない(最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁)。

(2)  規制の必要性及び目的

ア 括弧内の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

(ア) 本件条例制定前の平成21年10月1日に,京都府警察本部生活安全対策課によって行われた風俗案内所の実態調査によれば,京都府において営業されている風俗案内所は,24店舗(京都市内の木屋町地区に17店舗,祇園地区に7店舗)であり,広告の対象となっている風俗営業所の内訳は,キャバレー等が4店舗,いわゆるキャバクラ等が24店舗,深夜酒類提供が17店舗,飲食店が9店舗であり,広告の表示内容としては,半裸,下着,水着姿等の女性の写真,イラストを表示して広告をしている店舗が16店舗,胸,尻,股間等を強調した女性の写真,イラストを表示して広告をしている店舗が19店舗,接客をする従業員の写真,イラストを表示して広告をしている店舗が22店舗存在した(乙4,5)。

上記調査によれば,風俗案内所は,その内部に風俗営業所のポスター等が張り巡らされ,利用者においてインターネット回線に接続されたパソコンを使用したり,性風俗営業に係る情報が掲載された雑誌等を閲覧したりすることが可能な状態にあった。風俗案内所の建物は,ガラス張りであるとか,のれんがかけられているだけであるなど,外部から容易にその内部を目にし得る状態であった。また,風俗案内所の従業員が,通行人を呼び込むなどの様子も見られた。(乙3)

(イ) 京都府においては,京都府風営法施行条例により,店舗型性風俗特殊営業のうち風営法2条6項1号及び2号所定の各営業を新規に行うことは,その全域で禁止されており,現在では,従来から同2号所定の営業を行っている22店舗のみがその営業を行っている(弁論の全趣旨)。

平成21年から同23年までの間,風営法2条1項2号の所定の営業の許可を得た店舗において,京都府風営法施行条例第6条2号にいう「卑わいな行為又は容装その他善良の風俗を害する行為」を行ったとして営業停止命令を受けた店舗は,9つあり,その中に原告が経営していたh店があり,h店への案内を行っていたのは,a店及びi店であった。(甲79,乙69,92,118,原告本人)その他,平成20年9月から平成23年1月頃までの間で,風俗営業所において,性的役務を提供したとして,その営業者が逮捕,起訴され,又は警察による捜査の対象となった例は,少なくとも3件ある。そのいずれの風俗営業所についても,風俗案内所による案内が行われており,その一部については,当該風俗営業所とこれを案内する風俗案内所の従業員等が一部共通であったり,当該風俗営業所からこれを案内した風俗案内所に対して案内料が支払われたりしていた。(乙37,110,111,114,115)そして,上記のように,風俗案内所と違法に性的役務を提供する店舗との結びつきが認められる事例は,京都府内に限らず,全国的に発生していた(乙129,130)。

イ 以上の各事実によれば,一般に,風俗案内所が,利用者を呼び込むために,享楽的,歓楽的雰囲気を醸し出すものであること,違法に性的役務を提供する店舗と結びつきがちなものであることは明らかである。

そして,とりわけ,自らが行う風俗案内につき対価を収受しない風俗案内所においては,通行人等にとって,そこに立ち入ることについての心理的抵抗が少なく,不特定多数の利用者が訪れることが容易に推察される。これは,当該風俗案内所の建物がガラス張り等である場合にはなおさらのことであり,上記心理的抵抗の少なさは,青少年にとっても同様であると解される。

現に,証拠(乙11)によれば,本件条例の制定過程において,風俗案内所の営業実態として,卑わいな広告等の掲出,通行人の呼び込みや勧誘,違法な風俗営業所等への案内が行われており,これらがいずれも,青少年の健全な育成を阻害し,又は府民に著しい不安や不快感を与えるものであることが指摘されている。

これらのことからすれば,本件条例が「風俗案内所に起因する府民に著しく不安を覚えさせ,又は不快の念を起こさせる行為,犯罪を助長する行為等に対し必要な規制を行うことにより,青少年の健全な育成を図るとともに,府民の安全で安心な生活環境を確保すること」(1条)を目的として掲げ,これを達成するため,各種の規制を施すことは,重要な公共の福祉に合致するものとしてその必要性の存在を認めることができる。

ウ 原告は,本件条例の目的は,祇園,木屋町界隈から風俗案内所を根絶することにあるなどと主張するが,風俗案内所の根絶や風俗営業所等の撲滅は,本件条例に基づく各規制の効果と捉えるべきものであり,それ自体が本件条例の究極的な目的ということはできない。

(3)  規制の内容及び制限の程度

本件条例3条1項は,第1種地域の全域並びに第2種地域及び第3種地域のうち本件条例に係る保護対象施設の敷地から一定の距離内を営業禁止区域として設定した上で,当該営業禁止区域における風俗案内所によるあらゆる風俗案内という営業を全面的に禁止するものであり,これに違反した者は,本件条例16条1項1号により直ちに刑事罰の対象となることが予定されている。そして,本件条例の目的に照らすと,風俗案内所について各種の規制を行う必要性があることは,前記のとおりであるところ,当該目的を達成するために,本件条例3条1項のように,学校等の施設が所在する第3種地域のうち一定の区域を営業禁止区域として設定した上で,そこでの風俗案内所の営業の全部又は一部を禁止し,これを刑事罰で担保するという手段を採用することは,それ自体合理的なものであるということができる。そして,風俗案内所の営業に対する規制の根拠である当該営業がもたらす弊害に鑑みると,学校等の施設を保護対象施設とした上で,その敷地から一定の距離内を風俗案内所の営業禁止区域として設定することは,合理性を有する規制手段であるといえる。

もっとも,上記規制手段は,特定の区域における風俗案内所の営業を,刑罰をもって全面的に禁止するものであるから,営業が禁止される区域の設定方法及び禁止される営業内容の特定に当たっては,国民の営業の自由に配慮することが求められるものであって,当該区域が過度に広範にわたって設定され,あるいは禁止される営業内容の特定が規制の必要性を超えるものであるような場合には,規制目的との関係で合理的な関連性がないものとして,立法府の裁量を逸脱したものと評価される場合があるものというべきである。

ところで,京都府風営法施行条例3条1項2号による風俗営業所の第3種地域における営業禁止区域は,同条所定の無床の診療所を除く保護対象施設の敷地から最大で70m以内の地域に限られるところ,本件条例3条1項による第3種地域における営業禁止区域は,同条所定の無床の診療所を含む保護対象施設の敷地から200m以内とされている。また,風俗営業所等における営業内容には,接待飲食等営業や性風俗関連特殊営業等があり,風営法及び京都府風営法施行条例は,いずれもこれらの風俗営業が周辺地域にもたらす弊害の程度に応じて,その規制態様を異にしているところ,本件条例3条1項は,営業禁止区域を設定するに当たり,風俗案内所における情報提供について,接待飲食等営業の情報提供と性風俗関連特殊営業の情報提供との間で区別を設けておらず,当該営業禁止区域における風俗案内所の営業を全面的に禁止している。

まず,無床の診療所を含む点について,第3種地域における静謐な環境において治療等を受ける必要性が高いのは,入院患者だけではなく通院患者も同じであり,また,無床の診療所の診察時間と風俗案内所の営業時間が全く異なるとはいえないから,本件条例3条1項が保護対象施設として無床の診療所を掲げていることについては,合理性がないとはいえない。

しかしながら,第3種地域における保護対象施設との関係で,風俗案内所における接待飲食等営業に関する情報を提供する方法での営業が公共の福祉に対してもたらす弊害が,風俗営業所における接待飲食等営業がもたらす弊害よりも大きなものであることについては,本件の全証拠によっても明確な根拠を認め難い。なお,被告は,風俗案内所の実態を指摘して,風俗案内所の影響力は,風営法による各種規制の下にある風俗営業所とは比較にならないほど強いと主張するが,風俗案内所についての実態は前記(2)ア,イのとおりであるとしても,それをもって,接待飲食等営業に関する情報を提供する方法での風俗案内所の営業が公共の福祉に対してもたらす弊害が,風俗営業所における接待飲食等営業がもたらす弊害よりも大きいとはいうことはできない。

これに伴い,第3種地域における風俗案内所による営業の禁止区域を設定するに当たり,接待飲食等営業に係る情報提供と性風俗関連特殊営業に係る情報提供とを区別せず,両者についての営業を,一定の区域内では全面的に禁止することとした上で,その区域について,風俗営業所に対する保護対象施設の敷地からの距離制限(最大70m)よりも大きな距離制限(200m)を採用することについても,明確な根拠を認め難い。

被告は,風俗案内所の制限の程度について参照すべきものとして,店舗型性風俗特殊営業等に対する保護対象施設の敷地から200m又は500mの区域内の規制を挙げるが,いずれも接待飲食等営業に関する規制ではない。また,パブリックコメントに保護対象施設の敷地から500mの区域内を営業禁止区域とすべきであるとの意見があるとしても,そのような意見の存在が前記判断を左右するものではない。

(4)  本件条例3条1項,16条1項1号の合憲性

以上によれば,青少年の健全な育成を図ること及び府民の安全で安心な生活環境を確保するという本件条例の目的は,風俗案内所がもたらす弊害及びこれを規制する必要性に鑑みると,公共の福祉に適うものとして合理的であるものの,当該規制目的を達成するために,京都府内の第3種地域のうち,本件条例に係る保護対象施設(学校,児童福祉施設,病院,無床のものを含む診療所及び図書館)の敷地から少なくとも70mを超える区域において接待飲食等営業の情報提供を行う風俗案内所の営業を全面的に禁止し,これを刑事罰で担保するという手段を採用することは,規制目的と規制手段との間に合理的な関連性を認めることができず,本件条例3条1項,16条1項1号のうち,当該規制に係る部分は,府民の営業の自由を立法府の合理的裁量の範囲を超えて制限するものとして,憲法22条1項に違反し,無効であるというべきである。

(5)  他方,本件条例3条1項,16条1項1号は,そのうちの前記部分に限って無効であるから,前記各条項の有効な部分によって風俗案内所の営業が禁止されている区域において,公安委員会が,本件条例に違反した事業者に対して必要な指示を行い(本件条例12条1項),当該違反が青少年の健全な育成を著しく害し,若しくは府民の安全で安心な生活環境を著しく阻害するおそれがあると認めるとき又は事業者が当該指示に違反したときに,当該事業者に対して6月を超えない範囲内で期間を定めてその行う事業の全部又は一部の停止を命じることができるとすること(本件条例13条1項)は,本件条例の規制目的との関係で,規制の範囲及び手段の双方について合理的な関連を有するものであるといえるから,本件条例12条1項,13条1項は,国民の風俗案内所を営業する自由を,立法府の合理的裁量の範囲を超えて制限するものとはいえず,憲法22条1項に違反するものとは認められない。

6  争点(6)(本件各規定が営利的表現の自由を不当に制限するものであるか)について

仮に,営利的表現の自由なるものが憲法上保護されており,かつ,原告が風俗案内所を営むという行為が,営利的表現行為に当たるとしても,営利的表現の自由についても,公共の福祉による必要かつ合理的な制限は許されるべきである。

そして,前記5における検討に照らせば,京都府内の第3種地域のうち,本件条例に係る保護対象施設の敷地から70m以内の区域を風俗案内所の営業禁止区域とするという規制は,営利的表現の自由との関係でも,必要かつ合理的な制限というべきである。

7  結論

以上によれば,主位的請求(2)及び予備的請求(2)に係る訴えは,いずれも不適法であるから却下することとし,主位的請求(1)は,理由がないから棄却することとし,予備的請求(1)のうち,原告が,京都府風営法施行条例別表所定の第3種地域の内,本件条例に係る保護対象施設の敷地から70m以内に含まれない場所において,利用者の求めに応じて風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項2号所定の接待飲食等営業に関する情報を提供する方法により,風俗案内所を営む法的地位を有することの確認を求める部分は,理由があるから認容し,その余の予備的請求(1)は棄却することとする。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栂村明剛 裁判官 井上泰人 裁判官 髙津戸拓也)

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