京都地方裁判所 平成22年(ワ)838号 判決
原告
X1 他2名
被告
Y1 他1名
主文
一 被告らは、連帯して、原告X1及び原告X2に対し、それぞれ四一三六万五九七円及びこれに対する平成二一年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告X3に対し、一一〇万円及びこれに対する平成二一年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その四を被告らの連帯負担、その一を原告らの連帯負担とする。
五 この判決の第一項及び第二項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、連帯して、原告X1及び原告X2に対し、それぞれ四九六五万三七五八円及びこれに対する平成二一年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告X3に対し、二二〇万円及びこれに対する平成二一年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
四 仮執行宣言
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、平成二一年三月七日午前七時一四分ころ、京都市右京区西院南高田町三番地先の国道九号線と西大路通との交差点において発生した被告Y1(以下「被告Y1」という。)運転の大型特殊自動車(クレーン車)(以下「被告車」という。)とA(以下「被害者」という。)が運転していた自転車とが衝突し、被害者は転倒し、被告車に轢過され、まもなく脳挫傷により死亡したという交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、被害者の父である原告X1(以下「原告X1」という。)、被害者の母である原告X2(以下「原告X2」という。)及び被害者の妹である原告X3(以下「原告X3」という。)が本件事故は被告Y1の過失によるとして、被告Y1に対しては、民法七〇九条に基づき、被告Y1の使用者であり、被告車の運行供用者である被告株式会社Y2(以下「被告会社」という。)に対しては、民法七一五条及び自賠法三条により、本件事故により被害者が被った損害に関し、原告X1及び原告X2はこの損害賠償請求権を相続したとすると共に、原告ら自身がそれぞれ親族固有の損害を被ったとして、損害賠償金及びそれに対する本件事故発生日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める事案である。
二 前提となる事実
次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、証拠または弁論の全趣旨により認められる。
(1) 本件事故
発生日時 平成二一年三月七日午前七時一四分ころ
発生場所 京都市右京区西院南高田町三番地先の国道九号線と西大路通との交差点(以下「本件交差点」という。)内
事故の内容 被告Y1運転の被告車が西大路通を北行して本件交差点に差し掛かり、本件交差点を左折して国道九号線を西に向けて進行しようとした際、西大路通の西側歩道を自転車に乗って北行し本件交差点を直進しようとした被害者に気付かないまま左折時巻き込みの形態で衝突し、転倒した被害者を轢過するなどした。
事故結果 被害者は脳挫傷の傷害を負い、同日、死亡が確認された。(甲一から三まで)
(2) 当事者等
被告会社は、本件事故当時、被告Y1の使用者であり、被告車の運行供用者でもあり、被告Y1は被告会社の業務の執行中に本件事故を起こした。
原告X1は被害者の父、原告X2は被害者の母、原告X3は被害者の妹である。原告X1と原告X2の他に被害者の相続人はいない。(甲五、三〇)
(3) 被告らの責任原因
被告Y1は、本件事故につき左折時の左折先の安全確認義務に違反した過失があり、民法七〇九条により、被害者の死亡に関し原告らに対する損害賠償責任を負う。
被告会社は、本件事故につき、民法七一五条及び自賠法三条により、被害者の死亡に関し原告らに対する損害賠償責任を負う。
三 争点及び争点に関する当事者の主張の概要
本件の争点は、(1)過失相殺及び(2)損害の額であり、各争点に関する当事者の主張の概要は以下のとおりである。
(1) 過失相殺について
(被告ら)
被害者は、対面信号青の表示に従い、歩行者用横断歩道を走行し、時速一五ないし二〇キロの速度で進行しようとしていたが、対面信号が青色を表示していることに気を許し、時速約一五キロを超えるくらいの速度で左折進行していた被告車の前方を相当な速度で自転車を運転したまま進行しようとしたものであり、高速度で、前側方不注視のまま運転した過失が認められ、過失割合は、被告Y1八五対被害者一五が相当である。
(原告ら)
争う。
左折する四輪車と直進する自転車との本件事故のような衝突態様の事故は、自転車側の基準となる過失割合は一〇%程度である。
これに加えて、本件においては、①被告車は大型(マイナス五%相当の修正要素)の特殊車両であり、にもかかわらず、先導車の配置等の必要な措置を講ずることなく運行されていたこと、②人通りが多く、横断歩道・自転車横断帯が設けられている地点(マイナス五%相当の修正要素)であるにもかかわらず、被告Y1は一時停止等の歩行者の安全に配慮する措置を執らなかったこと、③上記①及び②の事情を総合すると被告Y1には著しい過失(マイナス五ないし一〇%相当の修正要素)という事情があり、被害者側の過失割合を加算する事情はない。
よって、過失相殺を認めるべきではない。
(2) 損害の額について
(原告ら)
ア 治療費 一五万五一〇〇円
イ 逸失利益 五六八八万三二一六円
被害者は、本件事故当時一七歳の高校生であり、中高一貫教育システム試行対象校の中学に入学し、その高校に進学して、高校二年生のとき生徒会長を務め、成績優秀、大学進学予定であった。基礎収入は、男子の大学卒業の賃金センサスによる年収六八〇万七六〇〇円(平成一九年、大学卒、男子、平均賃金)とすべきである。
就労期間については、五年後から五〇年後までの四五年間であり、ライプニッツ係数は、五〇年の係数一八・二五五九から五年の係数を差し引いて、一三・九二六四とする。
生活費控除率は、四〇%とする。
680万7600円×13.9264×0.6=5688万3216円
ウ 慰謝料(被害者本人分) 二五〇〇万円
エ 小計、既払金控除及び相続
上記アからウまでの合計は八二〇三万八三一六円
既払金控除 -15万5100円=8188万3216円
相続 原告X1、原告X2各二分の一 各四〇九四万一六〇八円
オ 葬儀費用 二四二万四三〇〇円
原告X1及び原告X2で共同で支出した葬儀関連費用。
カ 原告ら固有の慰謝料
原告X1、原告X2 各三〇〇万円
原告X3 二〇〇万円
キ 弁護士費用
原告X1、原告X2 各四五〇万円
原告X3 二〇万円
ク 各原告の請求しうる額
(ア) 原告X1、原告X2
それぞれ4094万1608円+242万4300円÷2+300万円+450万円=4965万3758円
(イ) 原告X3
200万円+20万円=220万円
(被告ら)
ア 治療費 一五万五一〇〇円を認める。
イ 逸失利益
争う。
平成二一年の賃金センサス、学歴計、女性全年齢平均賃金の年収三四八万九〇〇〇円を基礎収入とし、一七歳のライプニッツ係数一七・三〇四、生活費控除率四〇%で計算し、348万9000円×17.304×0.6=3622万4193円
上記金額が相当である。
ウ 慰謝料
争う。
被害者本人分及び原告らの固有損害分を含め合計で二〇〇〇万円が相当である。
エ 小計、既払金控除及び相続
既払金が一五万五一〇〇円であることは認める。
オ 葬儀費用
争う。一五〇万円が相当である。
カ 原告ら固有の慰謝料
被害者本人分と合計で二〇〇〇万円が相当である。
キ 弁護士費用
争う。
第三当裁判所の判断
一 過失相殺について
(1) 事実関係
関係証拠(甲一、二、一二から二五まで)によれば、本件事故発生状況につき前記前提となる事実記載の事実に加え、次の事実が認められる。
本件交差点は、合計五車線の国道九号線と合計七車線の西大路通の交差点であり、幹線道路同士の交差点で交通量は多い。車道と別にかなり広い歩道が設けられている。道路規制等については、速度は五〇キロに規制され、転回禁止、歩行者横断禁止、駐車禁止、歩道自転車通行可などが定められている。
被告Y1及び被害者が本件交差点に進入したとき、その対面信号は青であった。被告車は、時速一五キロをやや超える程度の速度で本件交差点での左折を開始し、被害者の自転車も概ね同じ程度の速度で本件交差点に差し掛かり、交差点手前において、被告車と被害者の自転車は概ね並走していた。
被害者は、本件交差点手前まで歩道上を走行し、本件交差点においては、上記歩道の延長にある自転車走行帯上を走行していた。
(2) 過失割合の判断
左折四輪車と直進自転車との事故については、主たる過失は、四輪車側の左折に伴う安全確認義務違反にある。そして、四輪車が先行していて左折を開始し、後方から追いついてきた自転車と衝突した際には、自転車側にも危険回避義務違反の過失が若干認められ、その場合の基本的過失割合は、四輪車九:自転車一と解すべきであり、反対に、自転車が先行していて、後方から追いついてきた四輪車の左折により衝突が生じた場合、後方から来る左折車を察知して危険を回避することは期待できないこと、交差点付近は原則として追い越し禁止とされていることなどから、自転車側の過失は認められず、四輪車側の過失を一〇割とすべきものと解される。本件においては、どちらも明確に先行しておらず、ほぼ並走で交差点に進入していることから、基本的な過失割合は、四輪車九五:自転車五と解するのが妥当である。そして、被害者の自転車が自転車通行帯を走行しているので、横断歩道上の歩行横断者と同様に特に注意を要するというべきで、自転車側(原告側)に五%有利に修正を行うのが相当である。また、上記認定の具体的な事情のもとで、被害者がほぼ同程度の速度で概ね並進していた被告車が十分な徐行をすることもなく、左折してくることを予測し、これとの衝突を回避することは、実際上非常に困難であり、期待できなかったというべきである。
以上によれば、本件において、過失相殺は認められない。
二 損害について
(1) 治療費 一五万五一〇〇円
争いがない。
(2) 死亡による逸失利益 四六七〇万一一九四円
関係証拠(甲三一から三六)によると、被害者は、本件事故による死亡時一七歳の高校生であり、在籍していた高校は、中高一貫の進学校で、被害者は学業成績も優秀であるのみならず、高校二年生の三月に卒業式において在校生を代表して送辞を述べるなどもしており、また、本件事故以前に具体的な大学進学の希望を既に表明しており、父母らもこれを応援していた事実が認められ、したがって、大学に進学し卒業する蓋然性が認められる。
よって、本件事故により死亡していなければ、大学を卒業後、就職して稼働することが予想され、逸失利益については、大学卒業予定時期である本件事故の五年後から、五〇年後(六七歳)までを稼働期間とし、中間利息控除については、ライプニッツ係数の五〇年のもの一八・二五五九から五年のもの四・三二九四を差し引いた数値である一三・九二六五を用い、平均賃金に関する最新の数値である平成二一年賃金センサスの大学卒業者の男女平均、産業計、企業別計、全年齢平均賃金である年収六〇九万七一〇〇円(月額39万6900円×12+年間賞与133万4300円の合計)を基礎収入として、四五年間稼働する前提で、生活費控除率については四五%として計算するのが相当である。
なお、今後五〇年程度将来までにわたる男女の賃金格差の動向については、男女雇用機会均等法の施行や、男女共同参画政策の推進などに照らし、格差が相当程度縮小してゆくことが予想され、五〇年後まで概ね現在と同様の性別による賃金格差が維持されると予想することに合理性は見いだせず、若年未就労者女性の基礎収入については男女平均賃金を採用することにむしろ合理性が認められる。長期的に男女賃金格差が不変で推移することを前提としなければ合理性を見いだせない被告らの主張も、①男女の賃金格差は全て女性に対する就職及び職業遂行上の不当な差別が原因で発生していること、②数十年の期間の内に女性に対する就労上の差別は基本的に撤廃され、その結果女性の平均賃金が男性の平均賃金とほぼ等しくなると予想されるということの二点を前提としないと合理性が根拠付けられない原告らの主張も、ともに採用できない。
609万7100円×13.9265×0.55=4670万1194円
(3) 死亡慰謝料 二五〇〇万円(被害者本人分)
(4) 葬儀費用 一五〇万円
(5) (1)から(4)までの合計 七三三五万六二九四円
(6) 既払金の控除
-15万5100円(治療費)=7320万1194円
(7) 相続
÷2=3660万597円(原告X1、原告X2)
(8) 固有慰謝料
原告三名につき各一〇〇万円
(9) 小計
原告X1及び原告X2 各三七六〇万五九七円
原告X3 一〇〇万円
(10) 弁護士費用の加算
原告X1及び原告X2 各+三七六万円=四一三六万五九七円
原告X3 +一〇万円=一一〇万円
三 結論
以上によれば、原告らの請求は主文において認容した限度で理由があり、その余は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 栁本つとむ)