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京都地方裁判所 平成20年(ワ)1079号 判決

主文

1  被告は被告が消費者と金銭消費貸借契約を締結するにあたって,別紙契約条項目録記載1の契約条項等,貸付金の最終弁済期日前に貸付金を全額返済する場合に,借主が返済する残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項を含む契約の締結を停止せよ。

2  被告は別紙契約条項目録記載1の契約条項等,貸付金の最終弁済期日前に貸付金を全額返済する場合に,借主が返済する残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項を含む借用証書の用紙を廃棄せよ。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

5  この判決は主文1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文1項に同旨

2  被告は被告が消費者と金銭消費貸借契約を締結するにあたって,別紙契約条項目録記載2の契約条項等,期限の利益を喪失したことを理由に,借主に,貸付金の残元金全部を直ちに返済すべき義務が発生した場合に,借主が,返済する残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項を含む契約の締結を停止せよ。

3  主文2項に同旨。

4  被告は別紙契約条項目録記載2の契約条項等,期限の利益を喪失したことを理由に,借主に,貸付金の残元金全部を直ちに返済すべき義務が発生した場合に,借主が,返済する残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項を含む借用証書の用紙を廃棄せよ。

5  仮執行宣言

第2事案の概要など

1  事案の概要

原告は消費者契約法(以下「法」という。)13条3項の適格消費者団体であるが,貸金業を営む事業者である被告が借主である消費者との間で金銭消費貸借契約を締結する際に使用し,又は使用するおそれがある上記第1の1項及び2項に記載の契約条項は法10条に該当し無効であると主張して,被告に対し,法12条3項に基づき,上記第1の1項及び2項の契約条項を含む契約締結の差止め及び同各契約条項を含む借用証書の用紙の廃棄を求める。

以下,別紙契約条項目録記載1の契約条項等,利息付金銭消費貸借契約の借主(以下,特に断らない限り利息付金銭消費貸借契約の借主のことを単に「借主」という。)が貸付金の返済期限が到来する前に,貸付金を全額を返済する場合に(期限の利益を喪失したことによる返済を除く),返済時までの期間に応じた利息以外に返済する残元金に対し割合的に算出される金員を貸主に対し交付する旨を定める契約条項を「本件条項A」といい,別紙契約条項目録記載2の契約条項等,借主が期限の利益を喪失し,貸付金の残元金を直ちに返済すべき義務が発生した場合に,返済時までの期間に応じた利息及び遅延損害金以外に返済する残元金に対して割合的に算出された金員を貸主に対し交付する旨を定める契約条項を「本件条項B」といい,両者を合わせて「本件各条項」という。また,本件各条項等,借主が期限前に貸付金の全額を返済する場合に,借主が利息及び遅延損害金以外の金員を貸主に交付する旨を定める契約条項を「早期完済違約金条項」という。

2  前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)

(1)  当事者

原告は消費者の権利に関して,消費者や消費者団体・関係諸機関・消費者問題専門家等との連携・連絡・助言・相互援助等を図りつつ,消費者の被害の未然若しくは拡大の防止,及び被害救済のための活動を行うことによって,消費者全体の利益擁護を図り,もって消費者の権利の実現に寄与することを目的とする特定非営利活動法人であり,内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体である(甲1,記録中の履歴事項全部証明書)。

被告は金融業務等を目的とする株式会社である(記録中の履歴事項全部証明書)。

(2)  被告による早期完済違約金条項の使用

被告が平成17年8月3日,金銭を貸し付けた際に使用した契約書には,下記の条項が記載されている(甲3)。

貸付金の弁済期日が到来する前に,貸付金額の全部を償還することができるものとします。この場合は,償還する残元金に対する3パーセントの違約金を負担します(本件条項Aと同旨)。又,第2項(期限の利益の喪失)により貸付金の全部を償還する場合も同様とします(本件条項Bと同旨)。

(3)  原告の被告に対する問い合わせ

原告は被告に対し,平成19年12月28日,同月27日付の「お問い合せ」と題する書面(以下「本件お問い合せ」という。)で概要以下の内容を含む質問をし,平成20年1月17日までに回答するよう求めた(甲10〔枝番含む〕。)。

ア 被告が早期完済違約金条項に基づいて違約金を請求するのはどのような場合か。

イ 被告の借用証書の早期完済違約金条項の記載を削除する改訂の予定の有無。

(4)  原告の被告に対する申し入れ

原告は被告に対し,平成20年2月2日,同月1日付の「申入書」と題する書面(以下「本件申入書」という。)で,被告が使用する借用証書のうち,早期完済違約金条項の使用を停止し,契約書面から早期完済違約金条項を削除することを求める旨を申し入れ,同月15日までに回答するよう求めた(甲11〔枝番含む〕。)。

(5)  原告の被告に対する事前請求書の送付

ア 原告は被告に対し,平成20年3月26日付の「申入書兼消費者契約法41条1項に基づく事前請求書」と題する書面(以下「本件事前請求書」という。)で申入れ及び請求をしたところ,本件事前請求書には概要以下の記載がある(甲12〔枝番含む〕)。

(ア) 請求の要旨

早期完済違約金(期限の利益喪失時の違約金を含む)について定める,被告の借用証書の契約条項11項(下記)について

11 貸付金の弁済期日が到来する前に,貸付金額の全部を償還することができるものとします。この場合は,償還する残元金に対する3パーセントの違約金を負担します(本件条項Aと同旨)。又,第2項(期限の利益の喪失)により貸付金の全部を償還する場合も同様とします(本件条項Bと同旨)。

a 被告の借用証書契約条項11項第2文等,貸付金の最終弁済期日前に貸付金を全額返済する場合に,借主が,返済残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項の使用を停止することを求める。

b 被告の借用証書契約条項11項第3文等,期限の利益を喪失したことを理由に,借主に貸付金の残元金全部を直ちに返済すべき義務が発生した場合に,借主が,返済する残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項の使用を停止することを求める。

c 被告の借用証書契約条項11項第2文及び第3文等,上記a及びbに該当する契約条項を含む借用証書の用紙を廃棄することを求める。

(イ) 紛争の要点

被告は早期完済違約金条項を使用しているが,早期完済違約金条項は借主である消費者に対して,民法136条に基づく期限の利益の放棄を著しく困難にする規定であるとともに,商法514条に比して消費者の義務を加重する規定であって,実質的には利息制限法や出資法に違反する高利を消費者に負担させる契約条項であるから,消費者契約法10条により無効と判断される。また,被告は早期完済違約金条項を使用するおそれが高い。

よって,上記(ア)請求の要旨記載のとおり請求する。

イ 本件事前請求書は平成20年3月27日,被告に到達したが,被告が受取りを拒絶したため,原告に返送された(甲12〔枝番含む〕)。

3  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  原告の本件差止請求に係る訴えは不適法か(本案前の主張)(争点(1))

ア 被告

(ア) 貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律(平成18年法律第115号。以下「貸金業法等改正法」という。同法附則1条各号の規定を除き平成19年12月19日施行。)による改正後の貸金業法及び同法施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。平成19年12月19日施行。)により契約書に利息制限法を超える金利を支払う義務がない旨等の記載を義務付けられた上記平成19年12月19日以降,被告は契約書式を改訂し,上記法改正により被告が従前の契約書式を引き続き使用してはいないことは容易に予測がつく。それにもかかわらず,原告は被告が従前の契約書式を継続して使用しているかどうかを確認することなく本件差止請求に係る訴えを提起した。その上,本件差止請求に係る訴えは原告の独自の意見,見解に基づくものであるから,本件差止請求に係る訴えは差止制度の濫用であり,被告に不当な応訴の負担を強いるものであるから不適法である。

(イ)a 適格消費者団体が差止請求に係る訴えを提起しようとするときは,被告となる事業者に対し,あらかじめ書面により差止請求をし,その書面の到達した時から1週間を経過することが必要である(法41条1項)。

b しかし,被告は原告からの訴訟予告の事前請求書について了知していない。

確かに,被告は原告からの配達証明郵便の受領を拒否したが,それは原告の本件お問い合せ及び本件申入書の内容があまりに不当であったことによる。また,原告は適格消費者団体であるから,配達証明郵便による文書送付が奏功しなかった場合には,念のため普通郵便で書面による事前請求をし,事業者に自主的な改善または反論の機会を与えるなどの配慮をすべきである。

c また,本件事前請求書には訴状記載の請求の趣旨と同様の記載がされているが,請求の趣旨訂正の申立書記載の請求の趣旨と同様の記載はない。

d よって,本件差止請求に係る訴えは法41条の事前請求の要件を満たしておらず不適法である。

(ウ) 以上から,本件差止請求に係る訴えは却下されるべきである。

イ 原告

(ア) 原告は平成20年3月26日,法41条1項で求められる内容を記載した本件事前請求書を被告の本店所在地に宛てて送付し,本件事前請求書は被告に同月27日に届いたが,被告の受領拒否によって原告に返送された。原告は同月28日,再度内容証明郵便により本件事前請求書と同内容の書面を送付したが,被告の受領拒絶により原告に返送された。

また,原告は本件事前請求書の送付以前に,被告に対し,本件お問い合せ及び本件申入書を送付した。なお,本件お問い合せで別紙とした借用証書の添付を失念したが,質問事項を見れば早期完済特約金に関する問い合わせであることは容易に認識できる。また,本件申入書には早期完済特約金に関する申し入れであることが記載されている。

(イ) 法41条1項規定の事前請求書面は請求の要旨が記載されている必要があるところ,訴状記載の請求の趣旨と請求の趣旨訂正の申立書記載の請求の趣旨との間に請求の要旨に変更はないから,原告が被告の送付した本件事前請求書には請求の要旨の記載があったといえる。

(ウ) 以上のとおり,本件差止請求は法の要件を満たしており適法である。

(2)  被告が不特定かつ多数の消費者との間で本件各条項を含む消費者契約の締結を現に行い又は行うおそれがあるか(争点(2))

ア 原告

(ア) 過去若しくは現在において違反行為がなされた事実があれば,特段の事情のない限り,使用のおそれがあり,違反行為を一時やめていても,それだけで,将来違反行為がなされるおそれがないとはいえない。

被告は平成17年8月3日時点では,本件各条項と同趣旨の条項を含む契約書を使用していたのであるから,本件各条項を含む消費者契約の締結を現に行い又は行うおそれがあるというべきである。

また,被告は本件各条項が無効であることを認めていないことからしても,本件各条項を含む消費者契約の締結を行うおそれがあるといえる。

(イ) 被告が契約書式の改訂により本件条項Bを削除したのは,被告が遅延損害金率を出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)により刑罰の対象とされない上限である年29.2パーセントに設定しているからにすぎない。そして,被告が遅延損害金について利息制限法4条が有効と認める年率を採用した場合には本件条項Bを復活させて使用するおそれは極めて高い。

イ 被告

(ア) 原告の上記アの主張は否認ないし争う。

(イ) 被告は本件条項Aを使用しているが,被告が現に使用している条項では出資法5条2項の規定に違反しない範囲においてのみとする旨を明示している。

(ウ) 被告は平成19年12月19日以降,契約書式を改訂し,本件条項Bを使用していないし,今後も使用の予定はない。

(3)  本件条項Aは法10条に該当する条項か(争点(3))

ア 原告

(ア)a 期限の利益は借主のために存在するから,借主は民法136条2項により一方的に期限の利益を放棄することができる。

しかし,本件条項Aは借主が期限の利益を放棄して期限前に一括で返済しようとする際に借主に違約金の支払義務を負わせるものであり,民法に比して借主である消費者の義務を加重している。

b 借主が期限前に返済することは借主による期限の利益を放棄することを前提とした権利行使である。また,被告は広告において,返済方式として一貫して自由返済のみを掲げており,実際の契約においても自由返済を採用している。よって,借主が期限前に返済することは債務不履行ではない。したがって,本件条項Aは借主に債務不履行がないにもかかわらず損害賠償義務を負わせる条項であり,民法に比して借主である消費者の義務を加重している。

c 商法514条は商行為によって生じた債務に関して法定利率は年6分とすると規定している。よって,被告の消費者に対する貸付利率が年6分を超える場合,本件条項Aは常に商法514条に比し,借主である消費者の義務を加重する。

もっとも,利息制限法の制限の範囲内であれば無効とされないから法12条3項但書により差止めの対象とならないが,利息制限法所定の制限を超過する場合には差止めの対象となる。

d 法10条前段において明文による法律上の任意規定のみならず,①情報力・交渉力の格差がない状態下において期待される権利義務関係,②問題とされる契約条項がなければ消費者に認められていたであろう権利義務関係,③不文の任意法規・一般法理が消費者の義務を加重するか否かの比較対象となる。

そして,被告は消費者に対し,利息制限法の制限を超えるかその上限に近い金利で貸し付けていて,かかる利率で金銭を借りる消費者は資金需用のある期間内で契約を締結することを望み,長期の契約は希望せず,資金状態が好転すれば,返済を希望するから,情報力・交渉力の格差がない状態下においては事業者に生ずる事務手数料を超えた金員の支払を消費者に求める契約内容とはならず,本件条項Aは消費者の義務を加重する。

また,貸主は早期に返済を受けた場合,返済された資金を別途貸し付けて利息を得ることができるから,期限前弁済において,事務手数料を超える金員を徴求しないのが通例である。よって,事業者を貸主,消費者を借主とする場合,期限の利益は消費者のために設けられていることを原則とすることが不文の法理となっているといえる。したがって,不文の法理による消費者の義務と比較して本件条項Aは借主である消費者の義務を加重する。

(イ) 本件条項Aは貸付利率や早期完済の時期によっては,実質年率が著しく高くなり,利息制限法や出資法という刑罰規定を伴う強行法規に違反する可能性がある。また,本件条項Aは早期完済を無意味にするもので,消費者に実質高利の負担を強いるものであるから信義誠実の原則に反し借主である消費者の利益を一方的に害する規定である。

イ 被告

(ア) 原告の上記アの主張は否認ないし争う。

(イ) 借主は期限の利益を放棄することができるが,同放棄によって貸主の利益を害することはできず,相手方に生じる損失を填補する義務を負う(136条2項但書)。よって,本件条項Aが民法に比して借主である消費者の義務を加重することにはならない。

被告が現在使用している契約書式には出資法5条2項の規定に反しない範囲においてのみとする旨の記載があり,被告が現在使用している早期完済違約金条項は出資法に反しない。

(ウ) 本件条項Aは借主の申入れにより早期に完済する場合の定めであって,借主に早期完済を義務付けるものではないから,債務者が任意に早期完済する場合,本件条項Aによって出資法に違反しない範囲で高利率の利息の支払を余儀なくされても,それは割賦弁済を続けることができるのに一括弁済を選択した結果による。

よって,本件条項Aそれ自体及びその適用が社会通念に照らして許容されないわけではない。

(4)  本件条項Bは法10条に該当する条項か(争点(4))

ア 原告

(ア) 民法419条は債務不履行の場合の損害賠償額を法定利率によって定めるとし,被告と消費者との金銭消費貸借契約における法定利率は年6分(商法514条)である。しかし,本件条項Bは残元金に対する一定の割合(別紙契約条項目録記載2の契約条項は3パーセント)による違約金を規定しており,民法,商法の公の秩序に関しない規定に比し,借主である消費者の義務を加重している。

(イ) また,違約金(特約金)は利息制限法4条3項により賠償額の予定とみなされる。その結果,契約で定められた遅延損害金にさらに違約金を付加して賠償する必要があることになる。よって,本件条項Bは実質的に高利の賠償額の予定をしたことになり,仮に契約で定められた遅延損害金率が年利29.2パーセントであれば常に年利29.2パーセントを超える賠償額の予定をしたこととなり,利息制限法4条及び出資法5条2項に違反する。

かかる規定は信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害する。

イ 被告

原告の上記アの主張は否認ないし争う。

第3当裁判所の判断

1  原告の本件差止請求に係る訴えは不適法か(本案前の主張)(争点(1))

(1)ア  前提事実のとおり,原告は「適格消費者団体」(法2条4項)である。また,被告は金融業務等を目的とする株式会社であるから,「事業者」(法2条2項)である。

そして,事業者である被告が個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)との間で締結した金銭消費貸借契約は「消費者契約」(法2条3項)に該当する。

イ(ア)  前提事実(5)のとおり,本件事前請求書には請求の要旨として「被告の借用証書契約条項11項第2文等,貸付金の最終弁済期日前に貸付金を全額返済する場合に,借主が,返済残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項の使用を停止することを求める。」「被告の借用証書契約条項11項第3文等,期限の利益を喪失したことを理由に,借主に貸付金の残元金全部を直ちに返済すべき義務が発生した場合に,借主が,返済する残元金に対し割合的に算出される違約金を負担するとの契約条項の使用を停止することを求める。」との記載がある。

法41条1項が事前請求書に請求の要旨の記載を求めているのは事業者が自ら不当行為の是正をする機会を与えることにあると解されるから,「請求の要旨」とは差止請求の相手方である事業者等に対し,訴えによって差止めの対象となる行為がどのような行為かを示す程度の事項をいうと解するのが相当である。

上記のとおり,本件事前請求書には原告が事業者である被告に対し,本件各条項の使用について是正を求める旨の記載があり,訴えによって差止めの対象となる行為が本件各条項を含む契約の締結であることが示されているといえるから,「請求の要旨」の記載があるといえる。

(イ)  また,前提事実(5)のとおり,本件事前請求書には被告が使用している早期完済違約金条項は法10条により無効と判断されるから早期完済違約金条項を含む契約締結の差止め及び予防措置を求める旨の記載があるから,争いになっている実情が記載されているといえ「紛争の要点」の記載があるといえる。

さらに,証拠(甲12〔枝番含む〕)によれば,本件事前請求書には原告の名称,住所,代表者の氏名,電話番号,ファクシミリの番号,被告の名称及び代表者の氏名,「2008年3月26日」,「法41条1項に基づく事前請求書」との各記載があることが認められ,法施行規則32条1項(法41条1項の「内閣府令で定める事項」)に定める①名称及び住所ならびに代表者の氏名,②電話番号及びファクシミリの番号,③事業者等の氏名または名称及び住所,④請求の年月日,⑤法41条1項の請求である旨の記載があるといえる。

(ウ)  よって,本件事前請求書には法41条1項及び法施行規則32条1項が要求する事項が記載されているといえる。

ウ(ア)  前提事実及び証拠(甲12〔枝番含む〕)によれば,原告は被告に対し,平成20年3月26日付で本件事前請求書を送付し,本件事前請求書は同月27日,被告に到着したが被告が受取りを拒絶したため,同日原告に返送されたことが認められる。

(イ)  上記(ア)のとおり,本件事前請求書は被告の受取拒否によって被告が受領するには至っていない。しかし,被告が受取拒否しなければ,通常,被告に到達するところ,被告が本件事前請求書の受取拒否をした日は平成20年3月27日であり,本件事前請求書は同日到達したものとみなされる(法41条2項)。

エ  よって,原告は被告に対し,平成20年3月27日,法41条1項に定める書面による事前の請求を行ったといえる。

そして,原告は同年4月8日に本件差止請求に係る訴えを提起しているから,法41条1項に定める書面による事前の請求が到達した時から1週間を経過した後に,本件差止請求に係る訴えを提起したといえる。

したがって,本件差止請求に係る訴えは法41条1項の要件を満たし適法である。

(2)ア  被告は原告が法41条1項の事前請求書を普通郵便で送付すべきであると主張する。しかし,原告にかかる義務を認める根拠はないから,被告の上記主張は採用できない。

イ  被告は本件事前請求書には請求の趣旨訂正の申立書記載の請求の趣旨と同文言の記載はないと主張する。

しかし,上記(1)イ(ア)で説示したとおり,本件事前請求書には法が要求する「請求の要旨」の記載があるといえる。なお,本件事前請求書記載の請求の要旨が「契約条項の使用を停止することを求める。」であり,本件請求の趣旨が「契約条項を含む契約の締結を停止せよ。」である点で両者の表現文言は異なるが,かかる相違があるからといって,本件事前請求書に法が要求する「請求の要旨」の記載を欠くということはできない。

よって,上記被告の主張は採用できない。

ウ  したがって,本件差止請求に係る訴えが法41条1項の要件を満たしていないとの被告の主張は採用できない。

(3)ア  被告は貸金業法等改正法の施行以降は被告が従前の契約書式の使用を継続していないことは容易に予測がつくにもかかわらず,原告は被告が従前の借用証書を使用しているかどうか確認することもなく本件訴えを提起したことは差止制度の濫用であり,被告に不当な応訴の負担を強いるものであるから不適法であると主張する。

イ  しかし,本件差止請求において問題となるのは被告が従前使用していた契約条項そのものではなく,それを含む本件各条項である。その上,証拠(乙6,7)によれば,被告が改訂後と主張する契約書式には「貸付金の弁済期日が到来する前に,貸付金額の全部を償還することができるものとします。この場合は,償還する残元金に0.03を乗じた金額(残元金に対する3パーセント)の早期完済特約金を負担します(ただし,出資法〔昭和29年法律第195号〕第5条第2項の規定に違反しない範囲においてのみとします。)。」との記載があることが認められるから,被告が本件条項Aの使用を継続していないとはいえない。さらに,前提事実(3)及び(4)のとおり,原告が被告に対し,本件お問い合せ及び本件申入書により早期完済違約金条項の使用停止に関して申し入れたのに対し,弁論の全趣旨によれば,被告はそれらに応答しなかったことが認められることを合わせて考えると,原告による本件差止請求に係る訴えが差止制度の濫用であるとはいえない。原告による本件訴えの提起が不適法であると認むべき証拠はない。

ウ  よって,上記アの被告の主張は採用できない。

2  被告が不特定かつ多数の消費者との間で本件各条項を含む消費者契約の締結を現に行い又は行うおそれがあるか(争点(2))

(1)  本件条項Aについて

上記1(3)イのとおり,被告が改訂後の借用証書として提出した乙7には出資法に違反しない範囲との限定は付されているものの本件条項Aの記載があるから,事業者である被告が不特定かつ多数の消費者との間で本件条項Aを含む消費者契約の締結を現に行っているとことが肯認でき,また,行うおそれがあるといえる。

(2)  本件条項Bについて

ア 前提事実(2)のとおり,被告は過去に本件条項Bを含む消費者契約の締結を行っていた。しかし,上記1(3)イのとおり,被告の改訂後の借用証書(乙6ないし乙8)では本件条項Bは使用されていないから,被告が本件条項Bを含む消費者契約の締結を現に行っているとはいえない。

イ このように,被告は契約書式を改訂し現在,本件条項Bを使用していないことからすると,被告が不特定かつ多数の消費者との間で本件条項Bを含む消費者契約の締結を行うおそれがあると認めることはできない。

ウ 原告は被告が遅延損害金について利息制限法4条が有効と認める年率を採用した場合に本件条項Bを復活させて使用するおそれが極めて高い旨及び被告が過去において本件条項Bを使用しており,本件条項Bが無効であることを認めていないことからすると現在本件条項Bの使用をやめていても,将来の使用のおそれは否定できない旨主張する。

しかし,上記1(3)イのとおり,被告は現に契約書式から本件条項Bを削除しており,単に従前の契約書式の本件条項Bを二重線で抹消するなどして一時的に使用を中断しているのとは事情が異なることに本件訴訟において今後使用の予定はないと述べている(弁論の全趣旨)から原告の上記主張は採用できない。

3  本件条項Aは消費者契約法10条に該当する条項か(争点(3))

(1)ア  本件条項Aが利息付金銭消費貸借契約における民法・商法に定める消費者の義務を加重するかについて検討する。

イ(ア)  借主は同種・同等・同量の物を返還する義務(民法587条)及び元本の存在を前提とした利息の支払義務を負う。

(イ)  また,借主は期限前に期限の利益を放棄して返済する場合には,元本に対する期限までの利息を支払う義務を負う(民法136条2項但し書)。

(ウ)  もっとも,利息制限法1条1項及び2条は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする利息制限法所定の制限内の利息の取得のみを認める趣旨の規定である。この趣旨に照らせば,利息制限法を適用した結果過払金が発生し,かつ,他に借入金債務が存在した場合は,特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されるものと解される。そして,借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超えるために過払金が生じ,他方で,他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限利率を超える場合には,貸主は充当されるべき他の借入金の元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である(最高裁平成15年7月18日第2小法廷判決・民集57巻7号895頁)。以上のことから,当該他の借入金債務の利率が制限利率を超える場合,利息制限法は,当該他の借入金債務について民法136条2項但書の適用を排除する趣旨と解するのが相当であるから,この限りで,他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生は認めることはできないというべきである。

このように,上記最高裁判例は,金銭消費貸借契約一般について,民法136条2項但書の適用を排除したものではないのであって,約定利率が利息制限法所定の制限利率を上回っているか否かに関係なく金銭消費貸借一般について同但書が適用されないかのごとき原告の主張は,採用できない。

しかしながら,貸付利率が利息制限法所定の制限利率を超える利息付金銭消費貸借契約が存在する場合に,本件条項Aを含んだ金銭消費貸借契約書用紙を用いて他の金銭消費貸借契約が締結されると,当該他の金銭消費貸借について,上記最高裁判例の趣旨に反して充当されるべき元本に対する期限までの利息の取得を認めるのと等しいような内容の合意が成立したことになり,本件条項Aは民法の規定による消費者の義務を加重するものとして機能することになる。

ウ  原告は利息付金銭消費貸借における期限の利益は借主についてのみ存する旨主張する。しかし,上記イ(イ)のとおり,利息付金銭消費貸借契約の貸主は原則として,期限までの利息を得る利益があるといえ,これは貸主が事業者であっても異なることはなく,同(ウ)のとおり,上記最高裁判例もそのような金銭消費貸借契約について一般的に民法136条2項但書の適用を排除したものではないから,原告の上記主張は採用できない。

(2)  本件条項Aが消費者の義務を加重する場合にそれが信義則に反して消費者の利益を一方的に害するかについて検討する。

ア 前記(1)イ(ウ)に説示したとおり,利息制限法所定の制限利率を超える約定利息を定めた金銭消費貸借契約が存在する場合は,本件条項Aは消費者の義務を加重するものと評価せざるを得ず,そのような場合,本件条項Aは消費者が法律上支払義務を負わない金員を支払うことを内容とする条項として,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものと評価せざるを得ない。

イ 被告は借主が任意の意思に基づいて早期に完済するときに本件条項Aによって高率の利息支払を余儀なくされても,それは割賦弁済を続けることができるのに,あえて一括弁済を選択した結果によるものであるから信義則に反しないと主張する。しかし,上記アのとおり,本件条項Aが義務を加重する場合は借主である消費者が法律上の支払義務がない金員を支払わざるを得ない内容を定めるのであるから,被告の上記主張は採用できない。

(3)  以上によれば,本件条項Aは貸付けの内容いかんによっては消費者の義務を加重する場合があり,かかる場合は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるといえる。そこで,本件条項Aが使用された消費者契約の貸付利率等いかんによっては消費者の義務を加重する場合もあると考えられる場合に法12条3項による差止めを求めることができるかについて検討する。

ア 証拠(甲20)及び弁論の全趣旨によれば,国民生活審議会消費者政策部会に設置された消費者団体訴訟制度検討委員会の平成17年6月23日付の報告書には概要以下の記載があることが認められる。

(ア) (前略)該当する契約条項が具体的なケースによって有効・無効の判断が分かれ得るものや,該当する契約条項の一部についてのみ無効とされるものがある。こうした一部無効とされる契約条項については,①無効となる場合があり得る契約条項がそのまま使用されることは適当でないこと,②事業者には消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮することが求められていること(法3条),からこれらの規定に該当する契約条項についても差止めの対象とすべきである。

(イ)a 具体的なケースで判断が分かれるもの

「いかなる理由があっても事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする。」

上記条項は事業者の故意又は過失による債務不履行,不法行為があった場合,法8条1項2号,4号により無効と判断されるが,事業者の故意又は重大な過失がなければ有効とされている。

b 契約条項の一部が無効となる例

「契約後にキャンセルする場合には,以下の金額を解約料として申し受けます。(結婚式場等の契約の例)

実際に使用される日から1年以上前の場合 契約金額の80パーセント」

上記条項は実際に使用するのが1年後であるにもかかわらず,契約金額の80パーセントを解約料として請求する場合には,通常は事業者に生じる平均的損害を超えていると考えられるので,法9条1号に該当し,平均的損害を超える部分については無効とされている。

イ 上記アのとおり,平成18年の法改正にあたって上記消費者団体訴訟制度検討委員会は,該当する契約条項が具体的なケースによって有効・無効の判断が分かれ得るものや,該当する契約条項の一部についてのみ無効とされる契約条項については,①無効となる場合があり得る契約条項がそのまま使用されることは適当でないこと,②事業者には消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮することが求められていること,からこれらの規定に該当する契約条項についても差止めの対象とすべきであると報告している。かかる報告を踏まえて検討すると,差止請求の対象である当該契約条項を含む契約の他の契約条項(本件では貸付利率等)によって当該契約条項が法10条に該当し無効・有効の判断が分かれる場合であって,当該契約条項を使用した契約締結を差止めるべき必要性が高い場合には,当該契約条項を使用した契約締結を差止めの対象とすることも許容するのが法12条の趣旨であると解される。

利息制限法所定の制限利率を超過する利息付金銭消費貸借が存在する場合,本件条項Aは消費者の義務を加重するものと評価せざるを得ない。被告が改訂したと主張する契約書式である借用証書(乙7)には本件条項Aに関して出資法に違反しない範囲においてのみとするとの制限が設けられている(同証書11項)ものの,同条項に利息制限法所定の制限についての記載はなく,前記のような場合に本件条項Aを適用しないことが明らかにされているとはいえない。そして,被告は平成20年3月17日付の消費貸借契約において貸付利率を年29.2パーセントとしていることが認められる(甲15)し,過去に利息制限法所定の制限を超える利率で貸付けを行っていたことが窺われ(甲7の判決文における第1貸付等),貸金業法等改正法のいわゆる完全施行(施行日〔平成19年12月19日〕から起算して2年6月を超えない範囲〔平成22年6月19日以前〕で政令で定める日)により,みなし弁済の廃止,出資法上限金利の引下げ等が実施されるまでは貸付利率については利息制限法所定の制限を超える利率を採用することが十分に考えられることからすれば,本件条項Aを差止めるべき必要性は高いといえる。また,法3条は事業者には消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮すべき旨を求めていることからすると,利息制限法に違反する可能性がある本件条項Aの差止めを認めても事業者である被告の利益を不当に害するとはいえない。

したがって,本件条項Aは差止めの対象となるというべきである。

(4)  以上から,本件条項Aは貸付利率等によっては消費者の義務を加重する場合があり,かかる場合は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして,法10条により無効となる場合があり,法12条により差止めの対象となるといえる。したがって,原告の被告に対する本件条項Aを含む契約の締結の停止を求める請求には理由がある。

4  本件条項Aを含む借用証書は本件条項Aを含む消費者契約の締結に供した物であるといえ,また,供した物でないとしても,本件条項Aを含む借用証書の廃棄は本件条項Aを含む消費者契約の締結の停止若しくは予防に必要な措置であるといえる。

よって,原告の被告に対する本件条項Aを含む借用証書の廃棄を求める請求には理由がある。

5  結論

以上によれば,原告の請求は主文1項及び2項の限度で理由があるからこれを認容し(なお,上記2項に仮執行宣言を認めるのは相当でないと考える。),その余の請求はその余の争点(争点(4))について判断するまでもなく,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻本利雄 裁判官 和久田斉 裁判官 波多野紀夫)

別紙契約条項目録

1 以下の条項のうち第2文

貸付金の弁済期日が到来する前に,貸付金額の全部を償還することができるものとします。この場合は,償還する残元金に対する3パーセントの違約金を負担します。又,第2項(期限の利益の喪失)により貸付金の全部を償還する場合も同様とします。

2 以下の条項のうち第3文

貸付金の弁済期日が到来する前に,貸付金額の全部を償還することができるものとします。この場合は,償還する残元金に対する3パーセントの違約金を負担します。又,第2項(期限の利益の喪失)により貸付金の全部を償還する場合も同様とします。

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