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京都地方裁判所 平成19年(行ウ)12号 判決

主文

1  京都市長が原告に対し平成19年2月13日付けでした懲戒免職処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,被告の職員であった原告が,処分行政庁から違法な懲戒免職処分をされたとして,被告に対し,その取消を求めた事案である。

1  基礎となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  原告は,平成7年4月1日,被告に調理師として採用され,平成14年4月1日から,京都市A保育所(以下「本件保育所」という。)に配属され,乳幼児に対する給食の調理及びその食材の発注に関する業務に従事していた。

Bは,平成13年4月から平成18年3月31日まで本件保育所に調理師として勤務し,同年4月1日から作業員として本件保育所で再任用されていた。

(2)  被告が設置する保育所において,給食に用いる調味料,乾物及び米等については,在庫確認の上,必要量と購入量を計算して一括して発注することとされ,その余の食材については,京都市保健福祉局子育て支援部保育課(以下「保育課」という。)が作成した統一献立表に基づき,副所長が主催し,調理師及び保育士等が参加して毎月1回開催される各保育所の給食委員会において作成された献立表に記載された児童1人当たりの分量に,児童数(ただし,各月当初の在籍児童数から離乳食対象児童数を控除したもの。)に検食,保存食及び展示食の3食分を加えた数を乗じて算出した必要量によって発注することとされていた(乙97)。

(3)  被告は,平成13年度以降,各保育所における給食の食材の発注に関する業務につき調理師が関与すべき範囲を段階的に広げており,本件保育所においては,平成15年度に,原告及びBに対し,食材の在庫を確認すること,食材の必要量を計算すること,必要量を注文書に記入して副所長に提出すること等が指示され,以後,これらの業務を原告及びBが行っていた(乙54)。

(4)  Cは,平成17年4月から本件保育所の副所長であり,Dは,平成18年4月から本件保育所の所長である。

(5)ア  本件保育所において,平成17年4月から平成18年9月までの間に購入された牛乳,牛肉・豚肉,鶏肉類,魚類,パン,小麦粉,片栗粉,みそ,米,清酒,赤ぶどう酒,白ぶどう酒,うす口しょう油,こい口しょう油及び酢の量は別紙1~15のとおりである(乙8~22)。

イ  本件保育所において,平成17年4月から平成18年6月までの間に,事前に原告ら調理師から副所長に提出される注文書によることなく,追加発注された食材は,別紙16のとおりである(乙36)。

ウ  本件保育所において,平成17年4月から平成18年6月までの間に,注文書によって購入された食材のうち,献立表に記載がないにもかかわらず購入された食材は,別紙17のとおりである(乙37)。

エ  原告及びBは,平成17年4月から平成19年1月までの間,別紙18のとおり,注文書に記載する方法によりすじ肉を発注した(乙47)。このうち,少なくとも,平成17年4月6日,同月20日,同年6月17日,同年12月14日,同月21日に発注した分以外のすじ肉は,同人らが私的に使用する分(以下「私物」ともいう。)として発注したものである。

(6)  Dが本件保育所の所長となった後,Dが前に副所長として勤務していたE保育所に比べて,本件保育所における食材の発注量が多いことに気がつき,平成18年6月から,上記(2)記載の必要量とするように是正の取組みがされた。

(7)  被告が定めた「京都市職員の懲戒処分に関する指針」(以下「本件指針」という。)には,要旨,以下の記載が存在する(乙1~3)。

ア 処分基準

(ア) 一般服務関係

a 不適切な事務処理

故意又は重大な過失により適切な事務処理を怠り,公務の運営に支障を生じさせた職員は,減給又は戒告とする。

b 勤務態度不良

職務遂行に当たって上司の命令に従わない等により公務の運営に支障を生じさせた職員は停職,減給又は戒告とする(ただし,上記非違行為及びこれに対する懲戒処分は平成18年4月に追加されたものである。)。

(イ) 公金及び公物の取扱い関係

a 公金公物処理不適正

無断流用等,自己が保管する公金又は公物の不適正な処理をした職員は,停職,減給又は戒告とする(なお,上記非違行為に対する懲戒処分である停職は,平成18年4月に追加されたものである。)。

イ 処分の過重又は軽減等

(ア) 複数の非違行為を行った場合の取扱い

職員が非違行為に該当する行為を二以上行ったときは,当該職員に対し,当該非違行為に応じ規定されたそれぞれの懲戒処分のうち最も重い処分より重い懲戒処分をすることができる。この場合,規定された懲戒処分の種類のうち最も重い懲戒処分が停職の場合にあっては免職,減給の場合にあっては停職、戒告の場合にあっては減給とする。

(イ) 情状等による過重及び軽減等

上記ア及びイ(ア)により懲戒処分を行う場合において,①職員が行った行為の態様等が極めて悪質であるとき,②職員が違法行為を継続した期間が長期にわたるとき,③職員が管理又は監督の地位にあるなど,その占める職制の責任の度が特に高いとき,④職員が非違行為を行ったことを理由として過去に懲戒処分を受けたことがあるときは,これらの規定により行うことができる懲戒処分より重い懲戒処分を行うことができる。この場合,規定された懲戒処分の種類のうち最も重い懲戒処分(上記イ(ア)により最も重い懲戒処分より重い懲戒処分を行うことができる場合にあっては,当該重い懲戒処分)が停職の場合にあっては免職,減給の場合にあっては停職,戒告の場合にあっては減給とすることを原則とする(なお,事由②は,平成18年9月に追加されたものである。)。

(8)  京都市長は,平成19年2月13日,原告に対し,地方公務員法(以下「法」という。)29条1項各号により,懲戒免職処分(以下「本件懲戒処分」という。)をした。本件懲戒処分の処分説明書には,処分理由として,以下の記載がある。

原告は,「A保育所において,平成14年4月以降,調理業務に従事していたが,平成17年4月から平成18年6月までの間,上司に諮ることなく,保育課の定める必要量を大幅に上回る量であることを認識しながら,同僚と共謀して,給食材料(以下「食材」という。)の発注を長期にわたり継続して行い,京都市に計29万4361円の損害を与えた。また,同人は,平成17年4月以降,上司に諮ることなく,独断で献立の変更や追加発注を度々行った。さらに,同人は,食材と一緒に私物を発注しており,平成17年4月以降の上司からの再三の指導にもかかわらず改めなかった。いずれも,職務上の指示,命令を遵守し,市民の疑惑や不信を招くような行為を厳に慎まなければならない公務員として許される行為ではない。特に,過剰発注して余剰となった大量の食材については,(1)同人らはすべて廃棄したと申述しているが,仮に申述どおり,十数名から数十名分に相当する食材を上司に諮ることなく日々廃棄し続けたとすれば,常識では考えられない極めて不適正な処理であること,(2)当該保育所への調査を開始した平成18年6月以降,保育課の定める必要量で不足が生じることはなく,児童一人当たりの食材費の執行額が約2分の1に下がっていることを考えると,公務における規律と秩序維持の観点から,断じて許されるものではなく,その責任は極めて重大である。したがって,法第29条各号により懲戒処分として免職した。」

(9)  原告は,平成19年4月6日,本件懲戒処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

なお,京都市長は,本件懲戒処分がされた平成19年2月13日,Bに対し,懲戒免職処分を,平成17年度に本件保育所の所長であった者及びCに対し,それぞれ戒告処分を,D,保健福祉局保健福祉総務課担当課長,同局子育て支援部保育課長に対し,それぞれ市長名での厳重文書訓戒を,保健福祉局長,同局子育て支援部長,同局保健衛生推進室健康増進課長,子育て支援政策監に対し,それぞれ市長名での口頭厳重注意をした(乙50,71)。

2  争点及びこれに対する当事者の主張

本件における争点は,本件懲戒処分が,懲戒権者である京都市長の裁量権を逸脱,濫用してなされた違法な処分であるか否かである。

(原告の主張)

原告が,平成17年4月から平成18年6月までの間,本件保育所において,保育課の定める必要量以上の食材を発注していたこと,私物であるすじ肉を,給食の食材とともに注文書に記載する方法により発注したことがあることは事実であるが,以下の事情に鑑みれば,本件懲戒処分が事実を誤認し,かつ,社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権を逸脱,濫用したものであることは明らかである。

(1)ア 本件保育所においては,原告が配属される以前の,調理師が給食の発注業務を担当していなかったころから,児童の需要等に鑑み,保育課の定める必要量以上の食材を発注する状態が続いており,原告も,Bら本件保育所に以前から勤務していた職員の指導の下で,①人気のあるメニューがある場合の飲食量の増加,②秋期以降の出席児童数の増加,③各児童の成長等に伴う秋期以降の飲食量の増加等に照らし,給食が不足するのはかわいそうであるといった理由から,保育課の定める必要量以上の食材を発注していたものである。なお,原告は,児童1人当たりの分量に保育所の在籍人数を乗じて必要量を算定すると聞いていただけである。

個別の食品についていえば,牛乳を多く発注したのは,上記②,③の理由によるものであり,平成17年11月1日に多数の発注をしたのは,保育士から,牛乳パックを工作に用いるので1リットル単位の発注をしてほしい旨依頼されたためである。肉類,魚類及びパンを多く発注したのは,上記①から③までの理由によるもので,Bからは,唐揚げ,コロッケ,ハンバーグその他児童の好きなメニューについては,児童数が40人であっても50人分発注するように指導を受けていた。また,肉類及び魚類の調理等に必要となる小麦粉の発注量も,これらの食材の発注量の増加に伴って増加している。

なお,片栗粉や調味料等については,在庫量を踏まえてBが発注の要否及び発注量を判断していた。

そして,このような食材の発注状況について,本件保育所の歴代の所長及び副所長は,何らの指示,指導も行わず,これを黙認又は容認していた。

その後,原告は,保育課の定めた必要量を上回る食材を発注すべきでない旨の指導を受けたことから,平成18年6月以降は,当該必要量に従って食材を発注した。

イ 次に,注文書に記載のない食材の追加発注は,急に食材が必要になったり,発注に漏れがあった場合に行うものであり,児童の需要を考慮して,Bの判断で行っていたものである。

追加発注の有無及び内容は納品書で確認することができるが,所長及び副所長がこれに異議を述べたことはなかった。

ウ すじ肉については,平成17年4月6日,同月20日,同年6月17日,同年12月14日,同月21日に発注し,給食のお好み焼きの具材として使用した分以外のものは,私物として発注したものであるが,いずれも原告及びBが代金を支払っている。私物であるすじ肉の発注については,平成18年6月ころに,保育所からの発注と私物の発注との区別を明確にし得るよう,注文書の枠外に記載するよう指導を受け,以後,これに従って発注をするように改めたことがあるが,私物の発注自体を止めるように命じられたことはなく,上司である副所長の承認を得ていたのである。

その後,私物の発注を止めるよう指示を受けたため,原告及びBは,平成19年1月以降,私物の発注をすることを止めた。

なお,平成18年5月9日に納入された私物は,Bが発注したもので,同人がこれを用いてばら寿司を作っているが,本件保育所の所長や他の職員もこれを容認しており,一緒にばら寿司を食べている。また,同月12日に納入された大納言小豆は,Bが発注したもので,原告は関与していない。

エ 原告は,発注した食材をすべて調理しており,調理せずに廃棄したり,私物として持ち帰ったことはない。

調理した給食に余剰分が生じた場合には,児童のお代わり分として提供し,それでも生じた余剰分はやむを得ず廃棄したことがあり,行事食や初めてのメニューを調理して余剰分が生じた場合には,本件保育所の職員全員で喫食していたが,調理して生じた余剰分を持ち帰ったり,調理師の間で喫食したことはない。

なお,牛乳については,余剰分が生じて賞味期限が経過してしまった場合には廃棄していたが,これは,本件保育所に納入される牛乳の賞味期限が2~3日と短かったことと,納入業者から,1か月単位で事前に発注した牛乳の数量を,前日に変更することのないよう求められており,発注の量を減らして調整することが困難であったという事情によるものである。また,廃棄される牛乳の量も,秋期以降の出席児童数の増加や,各児童の成長等に伴う秋期以降の飲量の増加のため,それほど多くはなかった。

(2) 上記(1)の事情に加え,平成18年6月に至るまで,各市立保育園から購入内訳表の提出を受けており,原告の発注の量や内容が適正であったか否かを容易に把握し得たはずの保育課からも何らの指導,注意もなかったことからすれば,当時,原告の発注の量や内容は適正であると考えられていたというべきであり,そうでないとしても,原告がそのように信じたことについては正当な理由があるというべきであること,原告らは横領行為に及んだわけではないこと,このような事情を考慮すれば,本件で最も厳しく処分されるべきであるのは,原告ら現場の調理員ではなく,自己の職責を怠り,調理員に対する適正な指導を怠った保育課の責任者,本件保育所の所長,副所長らというべきであること,にもかかわらずなされた本件懲戒処分は,被告の職員の不祥事が確たる裏付け取材もなくスキャンダラスにテレビ等で放映されていた当時の状況の中で,本件についてもテレビで放映された翌日に実施された予断と偏見に基づく事情聴取に依拠し,被告の調査特別委員会の実質的な最終日に下されたもので,報道関係者,市議会,委員会からの追及を免れるためにされた政治的かつ意図的な処分であることは明らかであること等に照らせば,本件懲戒処分が事実を誤認し,かつ,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を逸脱・濫用した違法なものであることは明らかである。

(被告の主張)

(1)ア(ア) 京都市が設置する保育所においては,給食の食材の発注を,献立表に記載された児童1人当たりの分量に,現在の児童数に検食,保存食及び展示食の3食分を加えた数を乗じて算出した必要量によって行うこととされているが,原告及びBは,平成17年4月から平成18年6月までの間,この必要量を大きく上回る数量の食材を,過剰であることを認識しながら,上司である本件保育所の副所長の承認を得ることなく,納入業者に示される注文書に記載して副所長に提出し,又は,直接納入業者に電話をするなどして,別紙19のとおり,日々繰り返し発注しており,同期間中に牛乳,牛肉・豚肉,鶏肉,魚類及びパンを過剰発注して被告に損害を与えた額は,再計算したところ,28万5207円に上る。

牛乳は,ほぼ毎日おやつとして,児童1人当たり120ccが提供されるほか,食材としても使われるが,食材の分は別紙1では翌日使用分として計上されている。平成17年4月から平成18年6月までの間に購入した牛乳のうち,必要量を超過する分は,合計49万8481mlで,500mlの牛乳パックに換算すると847本である。特に,平成17年10月から平成18年3月までの間は,概ね毎日6~6.5lが発注されており,500mlの牛乳パックに換算して3本以上超過している。牛乳の賞味期限は,10日以上あり,余った分は翌日以降の発注を減らして調整できるはずである。

(イ) また,原告及びBは,上記期間において,副所長の承認を得ることなく,合理的理由もないのに,別紙16のとおり,給食の食材を追加発注していた。なお,そのうち特に不適切なものは,同別紙網掛け部分であり,平成18年4月7日のたかのつめは保育所で一切使用しないものである。

(ウ) さらに,原告及びBは,本件保育所が購入する給食用の食材と一緒に私物であるすじ肉を発注し,納入業者から給食用の食材と一緒に納品を受けており,平成17年4月以降,本件保育所の副所長から,私物発注を止めるよう度々指導を受けていたのにこれを改めず,平成18年12月20日に,保育課から同様の注意を受けたにもかかわらず,同月25日,翌月分の給食の食材と一緒に,私物であるすじ肉を発注した。

平成18年5月9日に発注された椎茸1袋,ちりめんじゃこ1袋,かまぼこ3袋,生姜2袋は,当日の献立である牛肉のしぐれ煮とは関係のない食材であり,Dが業者の請求で個人負担したものである。同月12日に発注された大納言小豆もおはぎの材料であり,同様にDが個人負担した。これらは,原告が私物を公費負担させようとしたものである。

(エ) なお,原告は,その弁解を前提としても,過剰発注して余った使用可能な食材を大量に廃棄していたことになる。

イ 上記ア(ア),(イ)の行為は,被告の定める法令等及び上司の命令に従う義務に違反し(法32条),全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,全力を挙げて職務の遂行に専念すべきことを定めた法30条に違反するもので,本件指針にいう不適切な事務処理に該当し,法29条1項1号,2号に該当する。

また,上記ア(ウ)の行為のうち,勤務中に私物を発注したことは,地方公共団体の職員が,勤務時間及び職務上の注意力のすべてを職責遂行のために用い,当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事すべきことを定めた法35条に違反するもので,本件指針にいう不適切な事務処理に該当し,私物の発注を止めるようにとの上司の指示,注意を受けたのにこれに従わなかったことは,上記の命令に従う義務に違反するもので(法32条),平成18年3月までは本件指針にいう不適切な事務処理に,同年4月からは勤務態度不良に該当するもので,法29条1項1号,2号に該当する。

さらに,上記ア(エ)の行為は,本件指針にいう公金公物不適正処理に該当するもので,上記ア(イ),(ウ)の行為と併せると,法30条,信用失墜行為を禁止した法33条に違反し,法29条1項1号,3号に該当する。

(2) 上記(1)のとおり,原告の行為は,本件指針の定める加重事由である複数の非違行為を行ったとき,非違行為の態様等が極めて悪質であるとき,非違行為を継続した期間が長期にわたるときに該当し懲戒免職処分を選択し得る場合に該当し,その態様は食材の自宅への持ち帰りが疑われるほどの常識では考えられない悪質なもので,かつ長期間に及ぶものである。以上の点に加え,原告は,米,小麦粉,片栗粉,みそ,清酒,赤ぶどう酒,白ぶどう酒,うす口醤油,こい口醤油及び酢といった食材又は調味料についても必要量の2倍以上の量を発注しており,調理室で当日の給食と無関係の食材を調理し,休憩時間を遵守しないなど服務態度に問題が多く見られたこと,これらの点に関する原告の弁解は理解し難いもので,反省している様子はうかがえないこと等に照らせば,本件懲戒処分は,適切な裁量権の行使に基づく,相当かつ妥当なもので,裁量権を逸脱・濫用した違法なものでないことは明らかである

第3争点に対する判断

法29条1項は,職員に同項各号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,戒告,減給,停職又は免職の懲戒処分を行うことができる旨を規定するが,法は,すべての職員の懲戒について「公正でなければならない」と規定し(法27条1項),すべての国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われなければならない(法13条)と規定するほかは,どのような非違行為に対しどのような懲戒処分をすべきかについて何ら具体的な基準を設けていない。

したがって,懲戒権者である京都市長は,非違行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,職員の非違行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する懲戒処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分をすべきかを,その裁量により決定することができると解されるから,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したものと認められる場合でない限り違法とならないものと解するべきである(最高裁判所昭和63年1月21日第一小法廷判決・裁判集民事153号117頁,最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。

そこで,以下,本件懲戒処分が京都市長の裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したものといえるかどうかを検討する。

1  前記基礎となる事実,証拠(甲3,4,乙54,71,95~97,106)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

(1)  原告は,平成14年4月1日,本件保育所に配属され,本件懲戒処分を受けるまでの間,調理師として乳幼児に対する給食の調理及びその食材の発注に関する業務に従事しており,原告と共に同業務に従事していたのは,平成13年4月に本件保育所に配属され,平成18年3月31日に退職したものの同年4月1日から作業員として再任用されていたBと,同日から本件保育所に調理師として配属されたFであった。

(2)ア  被告の設立した保育所における給食の食材の原則的な発注手続は,以下のとおりである。

(ア) 保育課の栄養士が統一献立表を作成し,本件保育所を含む各保育所に配布する。

(イ) 副所長の主催する給食委員会において,統一献立表を基に,行事予定や児童の状況等を考慮し,本件保育所の献立表を作成し,関係職員及び保護者に配布する。

(ウ) 調理師が,調味料,乾物,米等の一括購入する食材の在庫を確認し,その余の食材については,献立表に記載された児童1人当たりの分量に,児童数(ただし,各月当初の在籍児童数から離乳食対象児童数を控除したもの。)に検食,保存食及び展示食の3食分を加えた数を乗じて算出した必要量を計算する。

(エ) 一括購入する食材については,一括購入算定表に発注すべき分量等を記入し,その余の食材については,注文書に必要量を記入し,副所長に提出する。

(オ) 副所長が,一括購入算定表及び注文書の内容を点検し,毎月25日ころに翌月分の注文書を納入業者にファクシミリ送信又は手交して発注する。

(カ) 調理師が,保育所に納入された食材の確認をする。

(キ) 副所長が,納品伝票等に基づき購入内訳書を3部作成し,1部を納入業者に交付し,1部を保育課に提出される精算書に添付し,1部を当該保育所で保管する。

(ク) 所長が,購入内訳書の添付された精算書に押印して保育課に提出する。

(ケ) 保育課が,精算書及び購入内訳書に基づき,精算処理をする。

なお,前月に発注した給食の材料に追加の増減がある場合には,調理師から報告を受けた所長又は副所長が納入業者に連絡をしたり,調理師が納入業者に連絡をし,事後に所長又は副所長に報告する方法により,発注量の調整が行われていた。

イ  本件保育所においては,給食委員会は,原告及びBが開催の必要性に疑問を呈したことを受けて,平成17年10月から平成18年1月までの間,開催されなかった。

(3)  本件保育所においては,平成15年度に,原告及びBが,上記手続に沿った発注業務に従事すべきものとされ,平成18年3月までは原告及びBが,同年4月以降は,両名に加えてFがこれらの業務に従事していたが,納入業者への追加発注の連絡は,原告及びBが行っており,注文書への発注量の記載は,平成16年4月から平成18年4月分の食材については原告が,同年5月分以降は,原告から指導を受けたFが行っていた。

2(1)  まず,平成17年4月から平成18年6月までの間,本件保育所において,保育課の定める必要量以上の食材を発注していたことは当事者間に争いがなく、ことに平成17年11月ころから平成18年5月までの間にその量が多くなっていることは別紙1~5及びこれらをまとめた別紙20から明らかである。なお,小麦粉,片栗粉,みそ,米,清酒,赤ぶどう酒,白ぶどう酒,うす口しょう油,こい口しょう油及び酢については,過剰に発注されているが,本件懲戒処分の理由とはされていない。

とりわけ牛乳については,その超過が顕著であり,平成17年4月から平成18年6月までの間に購入した牛乳のうち,必要量を超過する分は,合計49万8481mlで,500mlの牛乳パックに換算すると847本,金額に換算すると9万8252円である。

そして,平成17年4月には、Cが副所長として着任し,原告は、注文書への記載をするようになっていた。

原告は,本件保育所に納入される牛乳の賞味期限が2~3日と短く,納入業者から前日に数量を変更することのないよう求められていたなどと主張するが,いかにも不自然であるうえ,納入業者の反対趣旨の陳述(乙86)もあり,採用の限りではない。

また,原告は,児童1人当たりの分量に保育所の在籍人数を乗じて必要量を算定すると聞いていたと主張するが,そのように算定しても必要量が増加するわけではない。

(2)  証拠(乙71)によれば,平成17年度における入所児童1人当たり月当たりの給食材料購入額は,京都市内の被告が設置する31の保育所の平均が5784円であるところ,本件保育所がその中で最も高い7800円であり,これに次ぐE保育所とG保育所が各6919円であったことが認められ,本件保育所の購入額は,平均額を3割以上上回るのみならず,次順位の額を1割以上上回っている。

もとより,保育所に登所する児童数や保育所の所在場所により,仕入単価は異なるものであり,単純に単価が高ければその分無駄な材料購入がされているといえるわけではなく,上記証拠によれば,平成16年以前も,本件保育所の給食材料購入額が高い方であったことが認められるところである。

しかし,被告が設置する保育所では,保育課が作った統一献立表の献立を各保育所で調理員が作るのであるから,児童数や所在場所により仕入単価が異なるとしても,各保育所毎に,材料購入額にそれほど大きな差はないものと考えられる。

証拠(乙77,78)によれば,米と牛乳について,その必要量と購入量とを,本件保育所とE,G,H各保育所とで比較したデータがあり,児童数が,本件保育所は30~42であるのに対し,Eは62~64,Gは63~74,Hは103~110であって,その規模が異なるところ,規模の大きい方が1人当たりの単価を下げることができることを考慮する必要があるが,その点を考慮しても,本件保育所が概ね1割程度購入量が必要量を上回っているのに対し,他の3つの保育所は殆ど購入量が必要量を下回っているという顕著な差があることが認められる。ただ,上記データからは,対象とした品目や保育所の数からして,すべての食材について被告が設置するすべての保育所との関係で顕著な差があるとまではいえない。

しかし,以上を総合すると,他の保育所との関係でも,平成17年度における本件保育所の給食材料購入額が多かったといい得るものである。

(3)  本件保育所における別紙1~5の発注のうち,その必要量からの超過量の多いものをみると、牛肉・豚肉(別紙1)に関しては、平成17年11月17日の牛ミンチが61人分、同年12月27日の豚フィレが48人分、平成18年2月14日及び同月28日の豚ミンチが各61人分超過しており、鶏肉(別紙2)に関しては、平成17年11月22日の手羽元が53人分、平成18年2月6日の鶏肉が76人分、同月20日の鶏肉が74人分超過している。

証拠(乙6)によると,平成17年11月17日の昼食メニューがコロッケ、同年12月27日の昼食メニューがヒレカツ、平成18年2月14日及び同月28日のおやつメニューがお好み焼きであり、平成17年11月22日の昼食メニューが鶏手羽元マーマレード煮、平成18年2月6日及び同月20日の昼食メニューが丸大根のみそ煮(鶏肉入り)であるから、超過分の材料と当日のメニューとは対応しており、原告主張の人気メニューのうちコロッケが含まれている。

しかし,その超過量をみると,その量は著しく,具体的メニューと対応させても,児童が全部食べることを予定していたというのは不自然であるといえよう。

(4)  原告は,平成16年4月からは,注文書を記入しており,副所長からは在籍人数に規定の量を掛けた量を発注するように言われていたが,Bの指示によりそれよりも多く発注していた旨,唐揚げ、コロッケ、ハンバーグなど児童に人気のあるメニューでは多めに発注し、作った分を児童が食べていた旨,おかずのお代わりは調理室の前の配膳台に置いていたが,それほど頻繁ではなかった旨,余った分は廃棄していた旨を供述する。

証拠(乙99の1・4,証人D)によれば,平成18年6月まで使っていた小さい方の皿では,規定量で丁度収まるくらいであり(乙99の1),規定量より多いと皿から溢れることになる(乙99の4)ものと認められる。

原告の供述するように,必ずしもいつもお代わりを準備しているわけでなく,それにもかかわらず,規定量よりも多い給食を作っていたとすると,皿に盛りきれないほどの量をいつも児童に提供していたことになり,本件保育所の児童だけが,そのような量を毎日食べていたとは考えがたいところである。原告は,平成18年6月に規定量に戻してからは,牛乳を欲しがって泣く2歳児がいたなどと供述するものの,他に,同月に規定量に戻ってから特段食事の量が不足していたことを窺わせる証拠はなく,児童らが同月よりも前には増量した分を好んで食べていたとの原告の供述は合理的でない。

原告は,余った分は廃棄していたと供述するが,過剰発注を続けたうえ,過剰な分を廃棄し続けたということになると,かなり不自然であって,調理師が食材ないし調理品を私用に供していたのではないかとの疑問さえ生じ得るところであるが,いずれにせよ,食材を過剰発注し続けたうえ廃棄を重ねたとすると,不適正な処理であるといわざるを得ない。

(5)  Cは、発注する品目に漏れがないかはチェックしていたが、その分量まではチェックしていなかったと供述し,Dも保育所の業務におけるそのような実務を認める供述をする。

発注については,副所長がチェックできる態勢になっていたといえるから,そこで異議がでなければ,原告らの過剰発注を副所長が容認していたと捉えられてもやむを得ない。

さらにいうなら,保育課で精算処理をする際に、京都市内の各保育所での支払額はわかるわけであるから、他の保育所との相違も判明し得たといえる。

(6)  以上の(1)~(5)からすると,原告の行った過剰発注は,規定量との比較はもとより,他の保育所との比較によって,現実の必要性からしても,かなり著しいものであったといえるが,他面,副所長ないし保育課が看過していたころから,これを容認していたと捉えられてもやむを得ないところもあったといえる。

3  原告は,追加発注は,Bが行い,Bが調理師を止めてからは,原告が言って副所長がしていたと供述する。

この点,B自体は,わからないとか明確に覚えていないとも供述するが,B自身又は副所長が業者に連絡していたという趣旨の供述もする。そして,平成17年度に関しては,調理室で勤務する調理師は,Bと原告の2人だけであり,原告は,Bが追加発注するのを黙認していたとはいうことができる。

他面,追加発注についても,副所長は,購入内訳書を3部作成し,そのうちの1部は当該保育所で保管するから,追加発注を知り得る立場であったといえる。

4(1)  原告は,私物であるすじ肉の購入につき,以前から,私物を発注しており,監査の入った平成18年6月からは,給食材料注文書の枠外に記入するように副所長から言われて,そのようにしていたが,同年12月に,私物の発注を止めるように言われ,その時点で発注済みの平成19年1月分以外は購入していないと供述する。

Cは,副所長として,平成18年6月には私物の発注を止めるよう原告に告げたが,原告が従わないので,やむなく枠外に書く扱いにしたと供述するが,そのような経緯があるにせよ,現に給食材料注文書の枠外を利用して発注が続けられたのをCが知っていた以上,これを容認していたといわれてもやむを得ないところである。また,同月より前は,Cが,平成17年夏ころ私物発注の代金を集めるのを断ったとは供述するものの,私物の発注を止めるよう原告に告げていたと認めるに足りる証拠はない。

すじ肉の購入のうち平成17年12月14日,同月21日に発注されたものは,給食材料注文書(乙41)には,「給食に使います」と記載されているのに,それらの日のメニューがお好み焼きではないので(乙6,82,83),その具材として使用したとの原告の主張が根拠を欠くことになる。

(2)  また,原告は,平成18年5月9日に納入されたばら寿司の材料や同月12日に納入された大納言小豆は,Bが発注したもので,同人がこれを用いてばら寿司やおはぎを作り,本件保育所の所長や他の職員もこれを容認し一緒に食べたなどと供述する。出勤簿(乙90)上,同月9日及び12日にBは出勤していないし,所長であるDは,調理室から酢の臭いがしていたことがあったが自分はばら寿司を食べたことはなく調理師だけで食べたと思う旨,ばら寿司の材料を公費で負担することはできないので,Dが負担した旨供述しており,原告の供述を直ちに採用することはできない。他面,Dがばら寿司の材料費を負担しながら,ばら寿司を作ったことを原告らに対して問題にしたことを窺わせる証拠もなく,私物の発注や調理室を利用しての調理に対するDの対応も不明瞭であるといわざるを得ない。

平成18年4月7日に納入されたたかのつめについても,原告は知らないと供述しており,同日はBも出勤しており(乙90),その分量からして原告が知らなかった可能性もないとはいえない。

5(1)  以上の検討によると,被告が本件懲戒処分の理由として主張する点のうち,平成17年4月から平成18年6月までの間,上司に諮ることなく,保育課の定める必要量を大幅に上回る量であることを認識しながら,同僚と共謀して,食材の発注を長期にわたり継続して行い,京都市に計28万5207円の損害を与えたことは基本的に原告も争っておらず,認定することができる。また,平成17年4月以降,上司に諮ることなく,独断で献立の変更や追加発注を度々行ったことに原告が関与したこと自体は認定することができる。他方,私物を発注していたことは原告も認めているものの,平成17年4月以降の上司からの再三の指導にもかかわらず改めなかったとの点は,指導の存在が認められないため,認定することはできない。

(2)  まずは,上記の点を本件指針の処分基準に当てはめてみると,不適切な事務処理に該当し,減給又は戒告となる。また,上記の過剰発注の結果廃棄を続けたことは,公金公物処理不適正に該当し,平成18年3月以前の行為は減給又は戒告となり,同年4月以降の行為は停職,減給又は戒告となる。

そうすると,上記各非違行為の類型は,いずれもそれだけでは免職とはされないものである。

(3)  次に,処分の加重事由に当てはめてみると,過剰発注と私物発注とを別の種類の非違行為とみれば,複数の類型の非違行為を行っていたといえるし,少なくとも過剰発注を複数回行っていたという意味では,複数の非違行為にあたるといえなくはない。もっとも,平成18年9月の改正で加えられた違法行為を継続した期間が長期にわたるという場合が同種行為を繰り返すことと解するならば,過剰発注を複数回行っていたというだけでは複数の非違行為にはならないともいえる(なお,上記改正は,本件処分理由とされる非違行為の後にされたものである。)。また,上記の点で複数の非違行為を行ったとまではいえないとしても,過剰発注を複数回行っていたこと自体は,行為の態様が極めて悪質であるということになる可能性がある。ことに,前記の牛乳の発注に関しては期間と超過量からして,極めて悪質であるといえよう。そうすると,不適切な事務処理を複数回行ったとし,かつ,その態様が極めて悪質であるというならば,不適切な事務処理の類型に対応する最も重い処分である減給よりも重い停職をさらに加重して免職になり得るということになるが,複数の非違行為を行ったという点に若干の疑義があり,これとは別にその態様が極めて悪質であるという点で加重までするというのは,加重事由の解釈としては広すぎるといえる。

さらに,過剰発注の結果廃棄を続けたことが,公金公物処理不適正として極めて悪質であるとまでいえるかというと,公金及び公物の取扱い関係で免職とされる類型が,公金又は公物を横領し,窃取し又は詐取した場合(平成18年9月からは故意に公物を損壊した場合も)に限られていること(乙1~3)からすると,廃棄を長期間にわたり複数回行ってきたとしても,公金公物処理不適正の類型に対応する最も重い処分である停職よりも重い免職にあたるというには,なお疑義がある(前記4記載の平成17年12月14日及び同月21日におけるすじ肉の発注についても,横領であるとまではいえないし,本件懲戒処分の理由ともされていない。)。

そして,過剰発注の結果廃棄を続けたことと,過剰発注と私物発注とを併せると,複数の非違行為を行った場合ということになり,公金公物処理不適正の類型に対応する最も重い処分である停職よりも重い免職にあたるとはいえるが,廃棄を続けたことは過剰発注の結果であることからすると,過剰発注を基準にすると加重して免職とするのは重すぎるのに,公金公物処理不適正を基準にして免職とまでするのは,均衡を失するといえる。

(4)  以上によると,被告の運用していた本件指針を基準にする限り,免職という処分は均衡を失しており,裁量権の行使としては不相当であって,重すぎることになると解される。加えて,原告が,調理業務を怠ったり,遅延したりして,児童の給食やおやつに支障が生じたことを窺わせる証拠はない。上記処分理由に対する原告の弁解は合理的とはいい難いもので,反省している様子も窺えないことを考慮しても,本件懲戒処分は,被告自ら定めて運用してきた本件指針に反するものであり,本件指針に依らない処分をしなければならないような事情も見いだせず,裁量権を逸脱した違法なものであるというほかない。

第4結論

以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容する。

(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 佐野義孝)

裁判官芝田由平は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 瀧華聡之

(別紙省略)

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