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京都地方裁判所 平成18年(行ウ)21号 判決

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  右京税務署長が原告に対して平成17年3月15日付けでした平成14年分の所得税の更正処分(ただし,平成19年2月15日付け更正処分によって減額された後の部分)のうち,総所得金額3493万7039円,納付すべき税額346万0600円を超える部分を取り消す。

2  右京税務署長が原告に対して平成17年3月15日付けでした平成14年1月1日から平成14年12月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分のうち,課税標準額7171万6000円,消費税については差引税額143万4300円,地方消費税については譲渡割額35万8500円を超える部分を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,A弁護士会所属の弁護士である原告が,同弁護士会法律相談センターの行う無料法律相談業務に従事した対価として同弁護士会から支給された日当を給与所得として確定申告をしたのに対し,右京税務署長がこれを事業所得であるとして更正処分をしたところ,被告に対し,その取消しを求めた事案である。

2  基礎となる事実(争いのない事実並びに各項掲記の各書証及び弁論の全趣旨によって認められる事実)

(1)  原告は,A弁護士会に所属する弁護士であり,京都市内に事務所を設けて弁護士業務を行っている。

(2)  原告は,平成15年3月14日,原告の平成14年分の所得税について別表1,原告の平成14年1月1日から平成14年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という)に係る消費税について別表2の各確定申告欄記載のとおりの内容の確定申告をした。

原告は,上記各確定申告において,A弁護士会法律相談センター(以下「法律相談センター」という。)が京都府及び京都市から委託を受けて行う無料法律相談業務(以下「本件相談業務」という。)に従事した対価としてA弁護士会から平成14年中に支給された別表3の金額欄記載の各日当合計15万円(以下「本件日当」という。)を給与所得としていた。

(3)  右京税務署長は,本件日当は給与所得ではなく,事業所得であるとして,平成17年3月15日付けで,原告の平成14年分の所得税について別表1,原告の本件課税期間に係る消費税について別表2の各更正処分欄記載のとおりの内容の更正処分をした(甲1,甲2。以下,これらの更正処分をそれぞれ「本件所得税更正処分」,「本件消費税更正処分」といい,これらを併せて「本件各更正処分」という。)。

(4)  原告は,本件各更正処分を不服として,平成17年3月24日,右京税務署長に対し異議申立てをしたが(甲3),右京税務署長は,同年6月22日,上記各異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした(甲4,甲5)。

原告は,平成17年6月30日,国税不服審判所長に対し,本件各更正処分のうち,給与所得として申告した15万円を事業所得とした部分の取消しを求める審査請求をしたが(甲6),国税不服審判所長は,平成18年3月27日付けで,上記各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし,同裁決書謄本は同年4月7日に原告に送達された(甲7の1・2)。

(5)  右京税務署長は,原告の平成14年分の所得税について,原告の確定申告では,本件日当に係る源泉徴収税額として別表3の源泉徴収税額欄記載のとおり合計1万3200円が計上されていたところ,源泉徴収されるべき額は正しくは別表4記載のとおり合計1万5000円であるとして,平成19年2月15日付けで,別表1の再更正処分欄記載のとおり,原告が納付すべき税額を減額する内容の更正処分(以下「本件所得税再更正処分」という。)をした(甲14)。

(6)  右京税務署長が本件所得税更正処分(ただし,本件所得税再更正処分による一部取消し後のもの)において原告が納付すべき税額等を算出した根拠は,以下のとおりである。

ア 総所得金額     3498万5339円

上記の額は,以下の(ア)ないし(ウ)の合計額である。

(ア) 事業所得の金額     3103万9574円

上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に事業所得の金額として記載した額に,原告が給与収入としていた本件日当15万円及び雑所得としていたA弁護士会から支給されたその他の日当(以下「本件その他の日当」という。)4万8000円を加算した額である。

(イ) 給与所得の金額     93万9900円

上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に給与収入の金額として記載した額から本件日当15万円を減額した額から,所得税法28条3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後の額である。

(ウ) 雑所得の金額     300万5865円

上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に雑所得の収入金額として記載した額から本件その他の日当4万8000円を減額し,支払事実がない必要経費1万4400円を加算した額である。

イ 所得控除の金額     397万3290円

上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に記載したのと同額である。

ウ 課税総所得金額     3101万2000円

上記の額は,アの額からイの額を控除した後の額(ただし,国税通則法118条1項により,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

エ 納付すべき税額     347万1300円

上記の額は,以下の(ア)の額から(イ)及び(ウ)の合計額を控除した額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

(ア) 算出税額     898万4440円

上記の額は,ウの額に所得税法89条1項(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(以下「負担軽減法」という。)4条による。)の規定を適用して算出した額である。

(イ) 定率減税額     25万0000円

上記の額は,負担軽減法6条2項の規定に基づいて計算した額であり,原告が平成14年分の確定申告書に記載したのと同額である。

(ウ) 源泉徴収税額     526万3134円

上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に記載した額に,原告が本件日当に係る源泉徴収額とした1万3200円と源泉徴収されるべき額である1万5000円との差額である1800円を加算した額である。

(7)  右京税務署長が本件消費税更正処分において原告が納付すべき税額等を算出した根拠は,以下のとおりである。

ア 課税売上高     7185万8962円

本件日当及び本件その他の日当は事業所得に当たるとすると,消費税法上の事業者が行った資産の譲渡等に該当するため,消費税法4条1項及び地方税法72条の77の2号の規定により消費税等を課すこととなる。

上記の額は,原告が本件課税期間の消費税等の確定申告書に本件課税期間の課税売上高として記載した額と本件日当15万円及び本件その他の日当4万8000円との合計額に105分の100を乗じて算出した額を加算した額である。

イ 課税標準額     7185万8000円

上記の額は,アの額から1000円未満の端数を切り捨てた額である(消費税法28条1項,国税通則法118条1項)。

ウ 課税標準に対する消費税額     287万4320円

上記の額は,イの額に100分の4を乗じて算出した額である(消費税法29条)。

エ 控除対象仕入税額     143万7160円

上記の額は,ウの額に簡易課税制度のみなし仕入率50パーセントを乗じた額である。なお,原告は簡易課税制度選択届出書を提出しており,弁護士業は第5種事業に該当することから,みなし仕入率は50パーセントである(消費税法37条,消費税法施行令57条)。

オ 消費税の納付税額     2万9800円

上記の額は,以下の(ア)の額から(イ)の額を控除した額である。

(ア) 差引税額     143万7100円

上記の額は,ウの額からエの額を差し引き,100円未満の端数を切り捨てた額(国税通則法119条1項)である。

(イ) 中間納付税額     140万7300円

上記の額は,原告が本件課税期間の消費税等の確定申告書に記載したのと同額である。

カ 地方消費税額

(ア) 課税標準となる消費税額     143万7100円

上記の額は,オ(ア)の額である(地方消費税に係る課税標準は,地方税法72条の82の規定により消費税額を用いる。)。

(イ) 納付譲渡割額     7400円

上記の額は,以下のaの額からbの額を控除した額である。

a 譲渡割納税額     35万9200円

上記の額は,(ア)の額に100分の25を乗じ(地方税法72条の83),100円未満の端数を切り捨てた額である(同法20条の4の2第3項)。

b 中間納付譲渡割額     35万1800円

上記の額は,原告が本件課税期間の消費税等の確定申告書に記載したのと同額である。

キ 消費税及び地方消費税の合計納付税額     3万7200円

上記の額は,オの額とカ(イ)の額の合計額である。

(8)  本件日当が事業所得に当たるとすると,本件所得税更正処分(ただし,本件所得税再更正処分による一部取消し後のもの)のとおり,原告の平成14年分の所得税に係る総所得金額は3498万5339円,納付すべき税額は347万1300円となるのに対し,本件日当が給与所得に当たるとすると,別表1の仮定計算欄記載のとおり,原告の平成14年分の所得税に係る総所得金額は3493万7039円,納付すべき税額は346万0600円となる。

また,本件日当が事業所得に当たるとすると,本件消費税更正処分のとおり,原告の本件課税期間に係る消費税及び地方消費税の課税標準額は7185万8000円,消費税の差引税額は143万7100円,地方消費税の譲渡割納税額は35万9200円となるのに対し,本件日当が給与所得に当たるとすると,別表2の異議申立て欄及び審査請求欄記載のとおり,原告の本件課税期間に係る消費税及び地方消費税の課税標準額は7171万6000円,消費税の差引税額は143万4300円(ただし,別表2の上記各欄の記載は端数切捨て前の額),地方消費税の譲渡割納税額は35万8500円となる。

3  争点及び争点についての当事者の主張

本件日当は,事業所得に当たるか,給与所得に当たるか

(被告の主張)

ア 原告は,直接的にはA弁護士会法律相談センター規程(会規第10号。以下「本件規程」という。甲8)8条に基づく法律相談センターの指定により本件相談業務に従事したものであるが,本件規程はA弁護士会の総会により改廃できるものであり,原告はA弁護士会の会員として本件規程の適用を受けるものであるから,原告は,雇用契約又はこれに類する関係に基づき労務を提供したものではない。

イ 本件規程が定める法律相談に当たっての遵守事項は,一般的な指導監督にすぎず,A弁護士会は,原告に対し,法律相談の内容については何ら指揮命令をしていない。また,指定された相談担当日に差支えを生じた場合には交代も可能であり,原告が本件相談業務に従事する際にA弁護士会から受けている空間的,場所的拘束は極めて希薄である。したがって,原告は,A弁護士会の指揮命令に従って労務を提供したとはいえない。

ウ 原告は,弁護士としての公益的使命の実現のため,弁護士法並びにこれを受けて定められたA弁護士会会則(以下「本件会則」という。乙1)及び本件規程の規定に基づき本件相談業務に従事して,本件日当の支給を受けたものであるから,本件相談業務は,原告の計算と危険において独立して営まれたものであり,本件日当は,事業所得に当たる。

(原告の主張)

ア 原告が,法律相談名簿への登載を受けた上で法律相談を担当することは,強制加入団体であるA弁護士会の本件会則上の義務として定められており,原告には,原則として諾否の自由はない。

そして,原告は,本件相談業務に従事するに当たり,A弁護士会から特定の場所・日時を指定され,京都府及び京都市の職員がその設備を用いて運営する会場において,本件規程に定められた遵守事項に従いつつ,1件当たり20分で法律相談に応じることが求められており,その対価として支給される日当は,相談件数にかかわらず,定額である。

したがって,本件日当は,A弁護士会又は京都府及び京都市から空間的,時間的な拘束を受け,その指揮命令の下に提供した労務の対価として支給されたものというべきである。

イ 所得税基本通達28-9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日,夜間診療の委嘱料)は,医師又は歯科医師が,地方公共団体等の開設する救急センター,病院等において休日,祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等は,給与等に該当するとしている。

本件日当は,上記の委嘱料等と構造が類似する。

ウ 財団法人Bセンターの全国の支部においては,法律相談日当について,給与所得として源泉徴収がされている。

エ したがって,本件日当は,給与所得に当たる。

第3争点に対する判断

1  所得税法27条1項は,「事業所得とは,農業,漁業,製造業,卸売業,小売業,サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定している。これを受けて,所得税法施行令63条(事業の範囲)は,同項に規定する政令で定める事業として,その1号ないし11号において,農業,製造業,サービス業等の具体的な事業類型を定めるほか,その12号において,「前各号に掲げるもののほか,対価を得て継続的に行なう事業」と定めている。

一方,所得税法28条1項は,「給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。」と規定している。

そして,最高裁昭和56年4月24日第2小法廷判決・民集35巻3号672頁(以下「最高裁昭和56年判決」という。)は,「およそ業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得(所得税法27条1項,所得税法施行令63条12号)と給与所得(同法28条1項)のいずれに該当するかを判断するにあたっては,租税負担の公平を図るため,所得を事業所得,給与所得等に分類し,その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨,目的に照らし,当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。」,「その場合,判断の一応の基準として,両者を次のように区別するのが相当である。すなわち,事業所得とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい,これに対し,給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお,給与所得については,とりわけ,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示している。

2  証拠(甲8,甲9の1・2,甲10の1・2,甲11,乙1ないし乙3)及び弁論の全趣旨によれば,本件日当の性格に関し,次のとおりの事実が認められる。

(1)  A弁護士会は,弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)の反面義務として,市民が法律相談を受ける機会の拡充を志向しており,本件規程を定め,同会に法律相談センターを設置して,京都府市民のために迅速適正な法律相談,弁護士紹介等を行い,もって人権の擁護及び社会正義の実現に資するものとしている(本件規程1条)。

本件規程は,法律相談センターは,法律相談所の開設並びに運営,地方公共団体その他の団体の委嘱による無料法律相談活動等の業務を行うものとし(2条),法律相談センターに,弁護士会員の希望を照会し調整して作成した無料法律相談担当弁護士名簿を含む10種の名簿を備え付けるものとしている(4条)。そして,弁護士会員は,老齢,病気その他やむを得ない事情による場合を除いて,少なくとも上記各名簿のうち無料法律相談担当弁護士名簿を含む5種の名簿のいずれかへの登載を申し出て,法律相談センターの行う業務に協力しなければならないものとし(7条),法律相談センターは,上記各名簿に従い,各種法律相談の担当弁護士会員及び相談担当日を指定するものとしている(8条)。一方,本件会則は,会員は,弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現を達成するため,A弁護士会が設置している各種委員会の活動及び同会の行う公益的活動に積極的に参加しなければならない旨規定しており(16条の2),これによると,本件規程の規定する法律相談センターの行う業務に対する協力は,本件会則16条の2の規定する公益的活動への参加の一環と認められる。

また,本件規程は,法律相談担当弁護士の遵守事項として,①担当時間を厳守し,その時間中,担当場所に詰め,誠実に相談事務を処理すること,②やむを得ない事由により,相談担当日に差支えを生じた場合は,自ら交代の弁護士を定め,事前に法律相談センターに届け出ること,③自己又は特定の弁護士及び弁護士法人のために事件の依頼を勧誘しないこと,④担当した相談についての遅刻等の不始末,相談者からの苦情申入れなどに関するA弁護士会からの照会に誠実に回答することを定めている(9条)。

そして,本件規程は,A弁護士会は,各法律相談担当弁護士等に対し,常議員会の議により定める額の旅費日当等を支給するものとしており(11条),これを受けて,A弁護士会法律相談センター旅費日当等支給規則(規則第55号。以下「本件規則」という。甲11)は,京都市内に事務所を設ける弁護士が京都市内(α,β及びγを除く。)において担当する無料法律相談に対して支給する旅費日当等の額を,一律に1万5000円と定めている(1条1号)。

(2)  本件規程(会規)の制定及び改廃は,A弁護士会総会の決議事項とされており,本件規則の制定及び改廃は,A弁護士会常議員会の決議事項とされている(本件会則5条2項,28条3号,44条2項4号)。

また,法律相談センターの運営は,A弁護士会の会長が常議員会の議を経て弁護士会員の中から選任した委員をもって組織される法律相談センター運営委員会が行うものとされている(本件規程3条)。

(3)  京都府は,平成13年4月1日及び平成14年4月1日,A弁護士会に対し,京都府が行う京都府民無料法律相談事業のうち,京都府民無料法律相談に係る指導及び助言に関する業務を,委託期間を1年と定めるほか,委託料並びに委託業務の実施場所,実施回数,実施時間等を具体的に定めて委託し,A弁護士会は,会長が常議員会の議を経て(本件規程6条),これを受託した(甲9の1・2)。

また,京都市は,平成13年4月1日及び平成14年4月1日,A弁護士会に対し,京都市無料法律相談事業に係る相談業務を,委託期間を1年と定めるほか,委託料並びに委託業務の実施場所,実施期日,実施時間等を具体的に定めて委託し,A弁護士会は,同様にこれを受託した(甲10の1・2)。

(4)  原告は,法律相談センターが,同センターに備え付けられた無料法律相談担当弁護士名簿に従い,A弁護士会が京都府及び京都市との間の(3)の各契約に基づき受託した無料法律相談業務について,原告を担当弁護士として指定したため,別表3の実施日欄記載の各日に,同表の相談場所欄記載の各場所における無料法律相談業務に従事し,その対価として,A弁護士会から本件日当の支給を受けた。

3  上記の事実によれば,本件日当は,A弁護士会の会員である原告が,同会の会員らの総意により,弁護士の使命を達成するための公益的活動の一環である無料法律相談活動を行うための規律として自治的に定められた本件規程の規定に従い,無料法律相談業務に従事した対価として,A弁護士会から原告に対し支給されたものであると認められるから,その給付の原因であるA弁護士会と原告との間の法律関係は,雇用契約又はこれに類する支配従属関係ではないことが明らかである。

したがって,本件日当は,「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に当たらないというべきである。

なお,本件規程9条(遵守事項)によれば,法律相談担当弁護士は,法律相談センターから相談を担当すべき日時・場所の指定を受けたときは,自ら交代の弁護士を定めて届け出ない限り,指定された日時・場所において法律相談を担当することを要し,また,自己又は特定の弁護士及び弁護士法人のために事件の依頼を勧誘してはならず,担当した相談についての遅刻等の不始末,相談者からの苦情申入れ等に関するA弁護士会からの照会に誠実に回答すべきものとされているが,これらの遵守事項は,法律相談業務が公益的活動であることに伴う最低限のルールを定めたものにすぎないと認められ,本件規程に上記の規定があることは,本件日当が「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に当たらないとの判断を左右するものではない。

4  原告は,医師又は歯科医師が地方公共団体等の開設する救急センター,病院等において休日,祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等や,財団法人Bセンターの委嘱を受けた相談担当弁護士が同センターから支給を受ける日当が給与所得として扱われていることとの比較においても,本件日当は給与所得に当たると解すべきであると主張する。

しかし,証拠(乙12ないし乙16,社団法人C医師会,社団法人D歯科医師会及び財団法人Bセンターに対する各調査嘱託の結果)によれば,以下のとおり,地方公共団体等の開設する休日急病診療所等において休日診療等を担当した医師等に対する報酬の支払者とその支払を受ける診療担当医師等との間の法律関係及び財団法人Bセンターにおいて交通相談業務を担当した弁護士に対する日当の支払者である同財団法人と相談担当弁護士との間の法律関係は,本件相談業務に関する原告とA弁護士会との間の法律関係とは異なり,会員間の自治的な取り決めに基礎をおくものであるとは認められないから,これらの報酬又は日当と比較して本件日当の性格を論ずることは,その前提を欠き失当である。

(1)  財団法人E診療所が京都市の委託を受けて実施するE診療所等における休日診療等の場合,担当医師に対する報酬の支払者は,財団法人E診療所であり,財団法人E診療所と社団法人C医師会との間には,財団法人E診療所が管理する診療業務に従事する医師の派遣に関する契約書及び覚書が存在し,上記覚書において,休日診療等に派遣する医師の数及びその医師を社団法人C医師会が措置すること並びに派遣する医師に対する報酬の額が定められているが,社団法人C医師会内部又は社団法人C医師会と担当医師との間には,休日診療等に関する取り決めはない。

財団法人Fが大阪市の委託を受けて実施する休日急病診療所等における休日診療等の場合も,担当医師に対する報酬の支払者は,財団法人Fであり,財団法人Fと社団法人G医師会との間には,急病診療に関する委託契約書及び大阪市急病診療業務実施に関する覚書が存在し,上記委託契約書において出務医師に対する報償費の額が,上記覚書において財団法人Fが社団法人G医師会に対して医師の出務その他必要な事業の協力を依頼し,社団法人G医師会がこれを承諾することがそれぞれ定められているが,社団法人G医師会内部又は社団法人G医師会と担当医師との間に休日診療等に関する取り決めがあるかは明らかではない。

(2)  京都市の委託を受けて社団法人D歯科医師会が運営するH診療所等における休日診療等の場合,担当歯科医師に対する報酬の支払者は,社団法人D歯科医師会であり,京都市とその委託を受けた社団法人D歯科医師会との間には契約が存在するが,社団法人D歯科医師会内部又は社団法人D歯科医師会と担当歯科医師との間には,休日診療等に関する取り決めはない。

(3)  財団法人Bセンターが実施する交通事故相談業務の場合,相談は,財団法人Bセンターの会長又は支部長が委嘱する相談担当弁護士が行い,財団法人Bセンターが相談担当弁護士に対し日当を支給する。

5  以上によれば,本件日当は,給与所得には当たらず,弁護士がその計算と危険において独立して行う業務から生じた所得であって,所得税法施行令63条11号にいう「その他のサービス業」から生ずる所得に該当し,事業所得に当たるというべきである。

第4結論

よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村隆次 裁判官 谷口園恵 裁判官 向健志)

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