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京都地方裁判所 平成18年(ワ)3137号 判決

原告

A野花子

同訴訟代理人弁護士

竹下義樹

吉田雄大

中島俊則

宮本恵伸

大杉光子

伊藤隆穂

被告

五代目B山組三代目C川組D原興業こと

六代目B山組D原会こと

D原太郎

主文

一  被告は、原告に対し、一二六五万円及びこれに対する平成一五年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一六二〇万円及びこれに対する平成一五年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  原告の主張

(1)  訴外E田ことA田松夫(以下「訴外E田」という。)らによる原告に対する共同不法行為の存在

ア 原告は、平成一三年八月二日午前二時四七分ころ、京都市中京区の道路を横断中、訴外B野ことC山竹夫運転のD川タクシーに衝突され、その結果、脳挫傷、外傷性クモ膜下出血等の重傷を負った(以下「本件交通事故」という。甲四)。そして、平成一五年八月五日、本件交通事故による後遺障害として、自賠責保険の後遺障害等級併合二級の認定を受けた(甲五、六)。

イ 原告は、平成一五年八月五日、自賠責保険から、本件交通事故の後遺障害に基づく保険金として二四四三万円を支払う旨の通知を受けた。

同月八日、原告は、このうち八四〇万円を、訴外E原梅夫(以下「訴外E原」という。)に交付した。

ウ 平成一五年一一月六日、原告は、労災保険から、休業補償として、約三五〇万円の支払いを受けた。

同月一〇日、原告は、このうち一七〇万円を、訴外E原の銀行口座に振り込んだ。

エ 平成一五年一一月一八日、原告は、一五〇万円を、訴外E原の銀行口座に振り込んだ。

オ 上記イないしエ記載の原告の訴外E原に対する金銭の交付及び振り込みは、訴外E田、訴外E原及び訴外A川春夫(以下「訴外A川」という。)らが共謀の上、原告が遭遇した本件交通事故の示談交渉や後遺障害等級の認定手続に関与したかのように装い、暴力団関係の威力を背景として、重篤な後遺障害を負って判断能力が低下している原告を畏怖状態に陥れ、手数料等名下に一一六〇万円を喝取したものである。具体的な喝取の態様は(ア)ないし(ウ)記載のとおりである。

(ア) 原告は、平成一五年三月一二日、アルバイト先の客として知り合った訴外E原から電話で呼び出され、出向くと車に乗せられ、京都市左京区にある「E田総業」という名前の暴力団事務所に連れて行かれた。向かう途中、原告とは初対面の訴外A川も車に乗ってきた。

「E田総業」の事務所の中に通されると、訴外E田のほかに四、五名の暴力団員がおり、訴外E原から訴外E田に、「この子が事故で大怪我した可哀相な子です。」と原告のことが紹介された。訴外E田は、原告が交通事故にあったことを以前から知っていた様子であり、「何とかしてやらんとなあ。」といった。原告は、暴力団事務所の中で組関係者に囲まれている状態であったので、訴外E原やほかの者の話を黙って聞いていた。

事務所を出た帰りの車の中で、原告は、訴外E原より、訴外E田の名刺を渡され、「これを持っていたら怖いものはない。水戸黄門の印籠と同じや。」といわれ、訴外E原や訴外A川から、本件交通事故に関し相談に乗ると、何度もいわれた。

(イ) 原告は、自賠責保険への請求手続や、労災保険の申請手続きを自分で行っていたが、訴外E原から、後遺障害の等級が決まり、保険金が振り込まれたら教えるようにといわれていたので、平成一五年八月八日、自賠責保険より後遺障害に基づく保険金として二四四三万円の支払いがあったことを、訴外E原に連絡した。すると、訴外E原は、訴外E田と共謀のうえ、「その金(自賠責保険からの支払金)が全て自分のものになると思ったらあかんで。お前の後遺症で二級の等級が出ると思うか? 二級出すためにたくさんの人に動いてもらったんや。その人らに支払わなければならない。ヤクザに動いてもらってタダで済ますつもりか。」とか「沢山の人に動いてもらっている。休業補償が出たのもB原さんらが動いてくれたからや。誰もタダでは動いてくれん。」「そんなんで(支払を断って)ええんか。そのかわり俺は知らんで。」などと、訴外E田及び訴外B原ら訴外E田の配下の者が障害等級の認定や休業補償の支給に尽力し、原告がかかる金員を支払わなければ原告に対し生命・身体に危害が加わるおそれがあると脅迫し、かかる脅迫に畏怖した原告から平成一五年八月八日に金八四〇万円を、同年一月一〇日に金一七〇万円をそれぞれ喝取している。

(ウ) また、訴外E原は、訴外E田の配下の訴外B原を同席させたうえで、平成一五年八月下旬ないし同年九月上旬ころ、原告を京都市南区の寿司屋に呼び出し、「D川タクシーからの事故の件で受け取った損害賠償の半分を渡します」という誓約書を書かせたうえで、平成一五年一一月八日、原告に対し、「訴外E田の保釈保証金として一五〇万円を支払えば、誓約書を返すが、これを断れば誓約書の内容の支払を一生続けなければならない。」と脅し、かかる脅迫に畏怖した原告から金一五〇万円を喝取している。

(2)  上記不法行為は、被告の「事業の執行につ」き(民法七一五条一項)、被告の被用者である訴外E田らが行ったこと

ア 被告は、平成一五年ころ、指定暴力団五代目B山組の三次団体D原興業(五代目B山組三代目C川組D原興業)の組長であり、五代目B山組の二次組織であった三代目C川組の舎弟頭(平成一五年五月からは相談役)の地位にあった。また、被告は、現在は指定暴力団六代目B山組の二次団体D原会(六代目B山組D原会)の組長である(以下、断りのない限り平成一五年ころの肩書を表示する。)。

イ 訴外E田は、平成一五年ころ、指定暴力団五代目B山組の四次団体E田総業(五代目B山組三代目C川組D原興業E田総業)の組長であり、現在は指定暴力団六代目B山組の三次団体E田総業(六代目B山組D原会E田総業)の組長である。

訴外E田は、平成一〇年一二月、被告と親分子分の盃を交わし、D原興業の若中(直参)となり、平成一五年以前から現在に至るまで、D原興業(現在はD原会)において若中(直参)の地位にある。

ウ 五代目B山組においては、組長C田夏夫を頂点とするピラミッド型の階層的組織を形成しつつ、下部組織及びその構成員は、五代目B山組総本部の容認のもと、その所属する組織の名称、代紋を使用するなどして、暴力団の威力を利用して資金獲得活動を行う反面、その所属する組織の組長に対し、毎月上納金を納めていたものである。D原興業もまた、他の暴力団と同様、その構成員は組長の絶対的な服従統制下に置かれていた。

エ 訴外E田は、「D原興業E田総業組長」なる肩書きを有する名刺を作成し、その事務所には「D原興業」と記載のあるネームプレート及びカレンダーを備えていたものであるが、このような行動に出たのは、D原興業の構成員であることを誇示し、その威力を背景にみかじめ料の徴収等の資金獲得活動を行うことを目的としていたものであり、かつかかる名称の使用についても被告の承諾を得ていたものである。

また、訴外E田は、D原興業の若中として、被告に対し、上納金として毎月五万円を支払っており、訴外E田によるD原興業の威力を利用した資金獲得活動の収益が被告に取り込まれる体制となっていた。このように、訴外E田は、被告の直接・間接の指揮監督のもと、D原興業の事業である、同暴力団の威力を利用した資金獲得活動に従事していたものということができる。

オ 上記(1)記載の訴外E田らによる共同不法行為においても、原告が畏怖したのは、訴外E田が暴力団に所属しており、同人の意思に反して金員の交付を拒絶した場合、生命・身体に危害が加わるおそれがあったためである。そして、訴外E田が暴力団員であると認識したのは、訴外E原らにより、平成一五年三月一二日に訴外E田の事務所に連れて行かれたからであるが、その事務室内には「D原興業」の記載のあるネームプレート、カレンダー、「教訓:三代目C川組」なる書面等、E田総業が五代目C川組D原興業に属する暴力団であることを誇示する備品や書面が設置されており、更に、その帰りに、原告は、(1)オ(ア)記載の名刺を渡されたのであるが、その名刺には表面に「D原興業E田総業組長E田松夫」の記載があり、裏面には「D原興業本部」の住所電話番号が記載されていた(甲三)。

このように、訴外E田は、D原興業の名前及び連絡先の記載がある名刺を交付するなどして、D原興業の構成員であることを示しており、また、かかる名刺の交付については当然のことながら、被告自身も容認していたものであるから、訴外E田らによる原告に対する上記共同不法行為には、暴力団であるD原興業の威力が利用されていたということができる。

(3)  原告に生じた損害

本件不法行為は、被告と民法七一五条所定の使用者・被用者の関係にあった訴外E田が、被告の事業である「D原興業の威力を利用した資金獲得活動」として行ったものであるから、訴外E田らによる本件不法行為につき、被告は、民法七一五条一項による使用者責任を負うことは明らかである。

ア 喝取金 一一五〇万円

ただし、喝取金合計一一六〇万円から、訴外E原及び同A川が、平成一八年八月三一日、原告代理人に支払った一部弁済金一〇万円を控除した金額である。

イ 慰謝料 二〇〇万円

ただし、原告が訴外E田らによる本件不法行為により被った精神的損害である。

ウ 弁護士費用 二七〇万円

ただし、本件訴訟を提起するために必要となった弁護士費用である。なお、本件事案は、①被告が現在、六代目B山組という日本最大の暴力団の直参という地位にあり、同人が組長を務めるD原会も六代目B山組の二次団体として約一〇〇〇名の組員を擁しており、かかる被告に対し、本件不法行為についての使用者責任を追及する訴訟を提起することは、通常の民事訴訟とは異なる作業や配慮を必要としたこと及び②まず、その実行者である訴外E田、訴外E原及び訴外A川を被告として民事訴訟を提起し、同人らに対し金一二八〇万円の支払を命じる判決がなされているが、訴外E田らから支払がなされなかったために、本訴の提起を余儀なくされており、原告としては、上記訴訟と本訴と二重に弁護士費用を負担しなければならない状況にあること、といった特殊性に鑑み、損害額の二割を相当とすべきである。

二  被告の認否

被告は、原告の請求の棄却を求める旨の答弁書を提出するものの、口頭弁論期日には出頭せず、原告の上記主張する事実に対し争うことを明らかにしない。

第三当裁判所の判断

一  被告は、原告の主張する事実に対し、争うことを明らかにしないのであるから、本件訴訟においては、原告の主張する事実を全て自白したものとみなす。とすれば、被告は、原告に対し、使用者責任に基づき、訴外E田らの喝取行為(原告の主張(1)。以下「本件喝取行為」という。)によって生じた損害について賠償する責任がある。

二  したがって、本件喝取行為の被害金一一五〇万円について、被告は賠償責任を負う。

また、原告は、慰謝料として、二〇〇万円を請求するが、財産的損害が回復されれば、精神的損害も慰謝されると思われるので、この請求は認めないこととする。

さらに、上記認容額及び本件訴訟の経過を考慮すれば、弁護士費用として、認められる損害は一一五万円が相当である。被告が具体的な答弁を行わず、事実関係に実質的な争いが生じていない本件事案においては、なお弁護士費用を損害額の二割として算定するまでの事情があるとは認められない。

以上、原告に生じた損害額については合計一二六五万円と認めるのが相当である。

三  よって、原告の請求は、被告に対し、一二六五万円及びそれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六四条ただし書きを、仮執行宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村隆次 裁判官 下馬場直志 向健志)

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