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京都地方裁判所 平成18年(ワ)1927号 判決

主文

1  被告は,原告らに対し,900万円及びこれに対する平成18年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを5分し,その2を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が600万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告らに対し,1500万円及びこれに対する平成18年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,宇治市の住民である原告らが,従前,平成14年3月30日法律第4号による改正前の地方自治法(以下,旧地方自治法といい,改正後の法律を現行地方自治法という。)242条の2第1項4号に基づき提起した住民訴訟に勝訴したため,被告に対し,旧地方自治法242条の2第7項の規定に基づき,原告らが弁護士に支払うべき報酬及びこれに対する訴状送達の翌日である平成18年8月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1  基礎となる事実(争いのない事実並びに末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

(1)  宇治市の住民である原告らは,旧地方自治法242条の2第1項4号に基づき,平成13年5月23日,大阪弁護士会所属の弁護士3名を訴訟代理人として,本件訴訟の被告である宇治市(以下,住民訴訟における被告らと区別するため「本件被告」という。)の行った土木工事等の入札に参加した業者等77名に対し,契約締結に先立つ入札が談合によるものであり,これによって本件被告が被った損害額合計4億0934万4469円の賠償を求める住民訴訟を提起した(京都地方裁判所平成13年(行ウ)第16号。甲1)。

(2)  業者の内4名については平成14年3月26日に損害賠償請求を認容する判決が下され,確定した(甲2の1・2)。

(3)  業者の内59名については平成15年10月30日に損害賠償請求を認容する判決が下され,内6名については控訴されず確定した(甲3の1・2)。残りの53名については大阪高等裁判所に控訴がなされ(大阪高等裁判所平成15年(行コ)第108号。以下,京都地方裁判所平成13年(行ウ)第16号と合わせて「本件住民訴訟」という。なお,本件訴訟で対象とされている弁護士報酬は,上記63名の業者についての訴訟に関する報酬であることについては原告らと本件被告との間で争いがない。),原告らは,第1審の代理人でもあった大阪弁護士会所属の弁護士1名に控訴審の代理を依頼した。その後,同弁護士が控訴審の訴訟活動を行い,平成18年1月31日には,控訴棄却判決が下され,確定した(甲4の1ないし4)。

(4)  本件住民訴訟における審理の経過,期間,弁護士の訴訟活動の概要は以下のとおりである。

ア 期間

平成13年5月23日(提訴)~平成18年1月31日(控訴審判決)。

イ 弁論等の回数

京都地方裁判所において18回,大阪高等裁判所において14回。

ウ 提出された証拠(枝番号のついたものは合わせて1点とした。)

甲号証51点,乙号証64点,合計115点。

エ 被告の数

63名。

オ 損害賠償の対象となった工事の数

184件。

カ その他

本件住民訴訟では,被告(控訴人)となった業者等が談合の事実を否認したため,本件住民訴訟における原告らの訴訟代理人弁護士(以下「本件住民訴訟原告ら代理人弁護士」という。)は11分冊にわたる刑事記録を分析し,各入札において談合が行われたことを裏付ける作業等を行った。

(5)  原告らは,本件住民訴訟原告ら代理人弁護士に対し,勝訴した場合は相応の報酬を支払う旨約した(報酬額については,具体的な定めはないが,原告らが勝訴したとき,旧地方自治法242条の2第7項に基づき,原告らが本件被告に対し,弁護士報酬の支払を求め,本件被告から得ることができた額をもって本件住民訴訟についての報酬額とする旨合意していたことが認められる。)。

(6)  本件住民訴訟は,業者63名との関係では,本件被告の各業者に対する損害賠償請求が認容された判決が確定し,損害賠償請求の認容額は,元金1億3358万8991円及びそれに対する遅延損害金である。その結果,本件被告は,平成18年11月7日の時点で,第1審確定分については遅延損害金も含め460万1853円,控訴審確定分については遅延損害金も含め8976万4494円を既に回収し,今後12万円を分割払いで回収する予定である。

(7)  弁護士報酬につき,平成16年4月1日より前は,各地の弁護士会は,日本弁護士会会規に定める報酬等の基準に基づき,報酬規程を定めていた。

(8)  平成14年4月1日時点の大阪弁護士会における報酬規程(甲10)によれば,民事訴訟事件についての報酬は原則として「着手金は事件等の対象の経済的利益の額を,報酬金は委任事務処理により確保した経済的利益の額をそれぞれ基準として算定する」とされている(12条)。訴訟事件の着手金及び報酬金は,上記の「経済的利益」を基準として次表のとおり算定するとされている(16条1項)。

経済的利益の額

着手金

報酬金

300万円以下の部分

8%

16%

300万円を超え,3000万円以下の部分

5%

10%

3000万円を超え,3億円以下の部分

3%

6%

3億円を超える部分

2%

4%

なお,会員(弁護士会の会員のことを指す。以下同じ。)は,事件の内容により,着手金及び報酬金を,上記基準から30%の範囲内で増減額することができ(16条2項),また,民事事件につき同一会員が引き続き上訴事件を受任するときは,着手金を適正妥当な範囲内で減額することができる(16条3項)。

そして,「経済的利益」の算定については,事件の内容に応じた算定基準の定めがあり,金銭債権は,「債権総額(利息及び遅延損害金を含む。)」が原則であり(13条1号),また,その算定ができないときは,その額を「800万円」とした上で,弁護士が事件等の難易,軽重,手数の繁簡(紛争の実態)及び依頼者の受ける利益等を考慮して「経済的利益」の額を増減額することができる(15条1項,2項)とされている。

2  争点

本件訴訟の争点は,本件住民訴訟における訴訟活動の報酬として原告らが本件住民訴訟原告ら代理人弁護士に支払を約束した,旧地方自治法242条の2第7項により原告らが本件被告に支払を請求することができる「相当と認められる額」がいくらであるか,である。

そして,平成16年4月1日より前においては,弁護士に訴訟事務の委任を行うときの報酬について,通常は,その弁護士が所属する弁護士会の定める報酬規程に依拠して算定されていたところ,原告らが本件住民訴訟において弁護士に依頼を行ったのは,控訴審においても平成15年であるところから,本件住民訴訟において本件被告が負担するべき「相当と認められる額」を決するに当たり,平成16年4月1日に廃止される以前の大阪弁護士会における報酬規程(以下「弁護士報酬規程」という。)を参考にして算定することにつき原被告間に争いはない。

しかし,「報酬」に当たる費目,報酬額算定の基準とすべき「経済的利益」の額の求め方及び報酬額算定に当たり考慮する本件住民訴訟原告ら代理人弁護士の訴訟活動の評価には以下のとおり争いがある。

(原告の主張)

(1) 弁護士費用相当額の算定については,地方公共団体が受けた経済的利益が基準とされるべきであり,これに個別の案件により増減額の修正が加えられるべきである。

そして,本件被告は,本件住民訴訟で原告らが勝訴した結果,新聞報道によれば,平成18年6月19日の時点で9135万6326円の支払を受けたとされており,その後も金銭を回収している。

また,本件住民訴訟は被告の数が63名と多数,かつ損害賠償の対象となった工事の数も184件と多数であり,被告らが談合の事実を否認したため,本件住民訴訟原告ら代理人弁護士は大量の刑事記録を分析し,各入札において談合の事実が行われたことを裏付ける作業に相当の労力を要した。また,控訴審における審理中,裁判所から本件被告に対し,訴訟に参加されたい旨の要請がなされたが本件被告はこれを拒否し,原告らは本件住民訴訟の遂行に際して本件被告の協力を得ることはできなかった。

以上の事情を勘案すると,本件訴訟において原告らが本件被告に対して請求できる,本件住民訴訟原告ら代理人弁護士の報酬額は1500万円が相当である。

(2) なお,住民訴訟提起の手数料算定の基礎となる訴額につき,算定不能として扱うべきであるとの最高裁判所裁判例があるが,これは,住民訴訟を提起する権利が地方公共団体の構成員である住民全体の利益を保障するために法律によって特別に認められた参政権の一種であることを理由に,この権利を保障する趣旨の判断である。

弁護士報酬額の算定に当たって基礎となる「経済的利益」について,形式的に上記判例を当てはめて,算定不能として扱うとすれば,いかに困難であり,かつ,地方公共団体にもたらされる利益が高額な事件であっても,弁護士は低額の報酬で訴訟を遂行せざるを得なくなり,弁護士が住民から依頼を受けることが困難となり,実際上,住民訴訟を提起することが困難となってしまうのであって,このような事態は,上記判例が意図する権利の保障とは相反する。

(本件被告の主張)

(1) 本件請求に係る「報酬」とは着手金ではなく弁護士報酬規程にいう報酬金のことである。

(2) 弁護士報酬規程における報酬金の算定基準である「委任事務処理により確保した経済的利益の額」とは,依頼者の受けた経済的利益を指すものであると解されるところ,本件住民訴訟における原告らの主張は客観訴訟である住民訴訟により本件被告の会計上の行為を正すことにあったもので,個別原告の経済的利益を意図したものではない。単純に賠償金の額を基準とすることは,住民である原告らの得る利益を主観訴訟である一般民事訴訟における経済的利益と混同した結果でしかない。

(3) 現行地方自治法上,242条の2に基づく住民訴訟において,原告住民勝訴の場合の弁護士報酬額の基準と被告地方公共団体勝訴の場合の弁護士報酬額の基準は,同条1項のいわゆる1号ないし4号請求のいずれの請求であっても,ほぼ同一と考えてよい。4号請求は金銭的に評価できる訴訟類型であるが,1号ないし3号請求ではそのような評価は困難な場合が多い。いずれの訴訟類型にも共通の報酬額算定基準を求めないと,報酬額算定の裁判基準としては適切でない。このような考慮は旧地方自治法に基づく4号請求における弁護士報酬額の算定基準を考える上でも妥当である。

(4) 以上の事情から,本件訴訟において,原告らが本件被告に請求できる本件住民訴訟原告ら代理人弁護士の報酬額については,「委任事務処理により確保した経済的利益の額」を算定不能として扱い,経済的利益の額を800万円とした上で相当な報酬額を決するべきである。

(5) 基準報酬額は,事件の内容により30%の範囲内で増減額することができるところ,本件住民訴訟においては,以下の事情が指摘される。

ア 本件住民訴訟の争点は①監査請求の適法性,②談合の有無並びに③本件被告の損害発生の有無及びその金額の3点であった。

イ 争点①は,法律判断であり,弁護士業務として特段の労力を必要とする争点ではない。争点②は,本件被告で行われた205件の入札事案における各談合の有無という事実の認定の問題であるところ,いずれも,贈収賄刑事事件の供述調書等一件記録からの認定であり,本件住民訴訟で新たに証拠が創出されたものではない。

争点③の本件被告の損害発生の有無及びその金額は,上記の刑事記録及び補足的に本件被告からの嘱託記録に基づき証拠判断がなされたものであり,原告らの特段の新たな立証活動に基づくものではない。

原告らは,本件住民訴訟において,設計金額の80%相当額を落札金額の正常基準として,これを超えている落札金額との差額(消費税加算)を損害とすべきとの主張を行っていたが,これは,単なる判断基準の設定であり,特段の主張及び立証を必要としたものではない。すでに,同種談合事件の判例はいくつもあり,それらの先例を参考としての主張であったといえる。

ウ 以上のとおり,本件住民訴訟は,入札件数も多く,また,その結果としての損害金額が高額になったものであるものの,その審理は刑事記録および入札記録にすべて依拠した判断にとどまるものである。依頼事案として,弁護士業務が特段の難易,労力を要するものであったとはいえない。

弁論の回数が多いという事情が主張されているが,多数の業者が被告当事者であったことによるものであって,争点にかかわる特段の困難な事情によるものではない。なお,単純に弁論の回数,裁判期間の長期などの事情は,本来は着手金の範疇に属する事情であって,報酬金の判断基準とはいえない。

(6) 以上,原告らの請求額算定の基礎は誤っている。

第3当裁判所の判断

1  旧地方自治法242条の2第7項にいう「報酬」の意義

弁護士報酬規程によれば,「弁護士報酬は,法律相談料,書面による鑑定料,着手金,報酬金,手数料,顧問料及び日当とする。」とされており(甲10),社会通念上も,訴訟事件における弁護士報酬とは,着手金及び報酬金双方を含んだ概念であると理解されている。

よって,同項における「報酬」を,着手金を含まない報酬金のみのことであると主張する本件被告の主張には理由がない。

2  「経済的利益」の算定について

(1)  旧地方自治法242条の2第7項は,住民が勝訴したときに,住民が,当該住民が代位した普通地方公共団体に対し,自分が依頼した訴訟代理人たる弁護士に対して支払う報酬額の範囲内で相当と認められる額を請求することができる旨を定めており,あくまで弁護士報酬の一次的な支払義務者は依頼者である住民であることが予定されている。

また,弁護士報酬規程にいう「委任事務処理により確保した経済的利益の額」とは,当該訴訟の遂行により依頼者に生じる経済的利益を前提としていると解されるところ,本件住民訴訟において,依頼者とは原告らである以上,本件住民訴訟で原告らが勝訴した場合に本件被告が受ける経済的利益をもって,これが直ちに依頼者である原告らの受ける利益であると考えることはできない。

以上の事情からは,本件住民訴訟において,少なくとも報酬金については,弁護士報酬額算定の基礎となる経済的利益の額は算定不能と解する余地がないでもないが,他方,どのような規模の住民訴訟においても,常に住民訴訟の報酬金算定の基準額を算定不能として800万円と擬制するのは硬直的に過ぎるというべきである。

そもそも,委任契約における報酬は両当事者の合意に基づき決せられるのが原則であるところ,弁護士報酬を算定する上で,着手金の算定基準となる「事件等の対象の経済的利益の額」及び報酬金の算定基準となる「委任事務処理によって確保した経済的利益の額」については,依頼者と弁護士との間で,事件等の難易,軽重,手数の繁簡等の紛争の実態を考慮して決められるものである。

とすれば,裁判所が本件住民訴訟における相当な報酬額を決定する上でも,これら紛争の実態,本件被告がその後確保できた経済的利益,社会的相当性などを総合して勘案する必要がある。

(2)  そこで,原告らが弁護士に訴訟遂行を委任した本件住民訴訟の紛争の実態等がいかなるものであったかを考察する。

ア 本件住民訴訟における紛争の実態について

そもそも,旧地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟(以下「旧4号訴訟」という。)は,個人の利益を離れて,地方財務行政の適正化のために特別に普通地方公共団体の住民に原告適格が付与された客観訴訟である。

そして,旧4号訴訟における訴訟物は,普通地方公共団体が有する金銭債権であり,訴訟物が原告の有する被保全債権額の範囲に限定される通常の代位訴訟とは異なり,住民が行う訴訟遂行及び住民が依頼する弁護士の訴訟活動は,正に普通地方公共団体に自らの金銭債権を確保させることを目的として行われるものといえる。

その結果,普通地方公共団体が有する損害賠償請求権や不当利得返還請求権に基づく請求が認容されれば,その普通地方公共団体に生じている損害が填補され,同地方公共団体が本来有するべき財産が確保されること,すなわち同地方公共団体の経済的利益が確保されることになる。

とすれば,本件住民訴訟における本件住民訴訟原告ら代理人弁護士の訴訟活動の実態は,本件被告が本件住民訴訟の被告らに対して有する損害賠償請求権の行使過程そのものであるといえる。

イ 具体的な本件住民訴訟の難易,軽重,手数の繁簡等について

本件住民訴訟の実態は,前記基礎となる事実記載のとおり,5年近くの期間にわたり多数回の弁論が開かれ,相当数の書証も提出されている。

原告らは,これらの事情をもって,本件住民訴訟が膨大・長期にわたったことを指摘する。しかし,従来,各弁護士会が民事訴訟に関する報酬規程を「事件等の対象の経済的利益」及び「委任事務処理により確保した経済的利益」を基準にして定めてきたように,社会通念上,訴訟における委任事務の難易及び繁簡と事件等の対象ないしその処理により確保される経済的利益の大きさとの間には,一定程度の相関関係が認められるところ,本件住民訴訟の難易,軽重,手数の繁簡等は,本件住民訴訟のように認容額が1億円を超えるような訴訟としては,通常想定される範囲の委任事務であるといえる。

他方,本件被告は,本件住民訴訟において,本件住民訴訟原告ら代理人弁護士が,主要な争点につき,刑事一件記録および本件被告が保有していた入札記録に依拠して訴訟活動を行った点から,本件住民訴訟原告ら代理人弁護士の訴訟活動は,特に困難な事案に関するものとはいえず,また特段の労力を要するものでなかった旨言及するが,この点をもって,本件住民訴訟の委任事務の実態が,請求額ないし認容額が同程度の他の訴訟の委任事務と比して特に容易であったとまでは認められない。

ウ 本件被告が確保できた経済的利益について

本件住民訴訟において,本件住民訴訟原告ら代理人弁護士の訴訟活動により本件被告が確保した経済的利益は,前記基礎となる事実記載のとおり,本件被告が本件住民訴訟の判決に基づき弁済を受け,また受ける見込みのある債権の総額である9448万6347円と認められる。

そして,前記イ記載のとおり,本件住民訴訟の具体的な難易,繁簡などを考慮しても,この額を変動させるべき具体的事情がないので,本件住民訴訟における本件住民訴訟原告ら代理人弁護士に対する報酬金の算定基準となる「経済的利益」は9448万6347円とすべきである。

エ 着手金について

本件住民訴訟においては,原告らと訴訟代理人弁護士との間で,着手金及び報酬金について事後的に一括して支払うことが合意されていたという事情があり,着手金についても,報酬金と同様に,本件住民訴訟の結果,被代位者である本件被告が現に回復した財産額を基準に着手金の相当額を算定することが相当である。

よって,本件住民訴訟原告ら代理人弁護士に対する着手金の算定基準となる「経済的利益」も9448万6347円とみるべきである。

3  当裁判所が「相当」と認める報酬額について

(1)  以上の「経済的利益」の額を前提に,弁護士報酬規程を参照すると,報酬金の目安は,約700万円と算定される。

同様に,着手金の目安については,第1審,控訴審ともに約350万円と算定される。もっとも本件住民訴訟は第1審における代理人弁護士がそのまま控訴審でも受任した事案であり,控訴審着手金は相当減額することが通常と考えられるので,当裁判所は,本件住民訴訟の第1審,控訴審を通じ,着手金の目安は合計500万円と算定する。

(2)  相当報酬額を決する上で,事件の内容に応じて30%の範囲内での増減額をするかどうかにつき検討するに,事件の難易及び軽重については「経済的利益」の具体額の算定において考慮済みであるため,当裁判所としては,この点につき,特に増減額することをしない。

もっとも,本件被告は自ら訴訟を提起する場合であれば顧問弁護士等と交渉し,報酬規程を基準とした巨額の支出負担を免れ,公費の支出を抑えているのが通常と思われる。

また,弁護士報酬として1200万円もの巨額の支出がなされれば,住民の税金によって運営されている本件被告の財政に少なからぬ負担を与えることは明らかである。本件住民訴訟は本件被告の財務行政の適正化を志向する住民である原告らによって提起されたものであり,弁護士も普通地方公共団体である本件被告の財務行政を適正化するために委任事務を行ったと推認され,その報酬については,ビジネスにおいて生じた同規模の紛争における訴訟活動と比べて低額で合意がなされるのが通常であると推認できる。

とすれば,当裁判所としては,報酬として「相当な額」を考えるに当たっては,かかる事情(社会的相当性)も考慮し,(1)で導いた着手金及び報酬金の各目安額の合計である1200万円より30%の範囲内で減額するのが相当であると考える。

(3)  よって,本件住民訴訟に関して,原告らが本件住民訴訟原告ら代理人弁護士に対して支払を約した相当報酬額は900万円であると認める。

4  結論

以上のとおり,原告らの請求は,相当報酬額900万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年8月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村隆次 裁判官 向健志)

裁判官森田浩美は差し支えにより署名押印することができない。裁判長裁判官 中村隆次

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