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京都地方裁判所 平成17年(ワ)1820号 判決

主文

1  被告株式会社ライフは、原告X1に対し、金106万3983円及び内金55万3021円に対する平成16年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告株式会社ライフは、原告X2に対し、金18万4349円を支払え。

3  原告両名の被告株式会社ライフに対するその余の各請求及び被告Y2に対する各請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用中、原告X1に生じた費用はこれを3分し、その1を同原告の負担とし、その余を被告株式会社ライフの負担とし、原告X2に生じた費用はこれを6分し、その5を同原告の負担とし、その余を被告株式会社ライフの負担とし、被告株式会社ライフに生じた費用は、これを12分し、その2を原告X1の負担とし、その5を同X2の負担とし、その余を同被告の負担とし、被告Y2に生じた費用は原告らの負担とする。

5  この判決第1、2項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1原告の請求

1  被告らは、原告X1に対し、各自金173万1969円及び内金172万3045円に対する平成16年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告X2に対し、各自85万2910円及び内金85万1165円に対する平成16年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、平成12年6月30日に東京地方裁判所で会社更生手続開始決定を受け、平成13年3月29日に更生手続終結決定を受けた被告株式会社ライフ(以下「被告ライフ」という。)との間で、上記開始決定の前後を通じて、利息制限法の制限利率を超える利息約定のもと、金銭消費貸借取引を継続した原告らが、上記制限超過利息を順次元本に充当すると、過払金が生じているとして、被告ライフに対しその返還を求めるとともに、上記開始決定までに発生した過払金返還請求権が上記会社更生手続において失権したのであれば、それは、被告ライフ及び上記会社更生手続において被告ライフの更生管財人であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)が原告らが更生債権届出をすることを妨害したためであるとして、被告ライフに対しては民法709条に基づいて、被告Y2に対しては平成14年12月13日法律第154号による改正前の会社更生法(以下「旧会社更生法」という。)98条の4第1項ないし民法709条に基づいて、それぞれ損害の賠償を求め、原告らが上記開始決定の後に支払った弁済金について、これは被告ライフの欺罔行為によって支払ったものであるとして、被告ライフに対しては民法709条により、被告Y2に対しては平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)266条の3により、それぞれ損害の賠償を求めた事案である。

1  前提事実〔争いがないか、各項末尾に記載の証拠及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる。〕

(1)  当事者

ア 被告ライフは、昭和23年3月4日に設立された金銭貸付業等を目的とする株式会社であるが、平成12年5月19日東京地方裁判所に対し、旧会社更生法に基づき会社更生手続開始の申立をした。同裁判所によって、平成12年6月30日午後5時に更生手続開始決定が、平成13年1月31日に更生計画認可決定が、同年3月29日に更生手続終結決定がそれぞれなされた。(甲6)

イ 被告Y2は、長年、大手の消費者金融業者である「アイフル株式会社」(以下「アイフル」という。)の代表取締役を務めてきた者であるが、平成12年10月12日、東京地方裁判所によって、被告ライフの更生管財人に選任された。

ウ 原告X1(以下「原告X1」という。)は、昭和58年11月24日から平成16年4月19日までの間、被告ライフとの間で、利息制限法の制限利率を超える利息約定のもと、継続的に金銭消費貸借取引(いわゆるカードキャッシングの方式)をした者である。

エ 原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成元年4月6日から平成15年12月30日までの間、被告ライフとの間で、利息制限法の制限利率を超える利息約定のもと、継続的に金銭消費貸借取引(いわゆるカードキャッシングの方式)をした者である。

(2)  被告ライフに対する会社更生手続(以下「本件会社更生手続」という。)の概要(乙1)

ア 平成12年5月19日、被告ライフは、東京地方裁判所に会社更生手続開始申立を行い、同日、同裁判所は、保全管理命令を発した。

イ 同年6月30日、同裁判所は、被告ライフについて会社更生手続開始決定を行い、A弁護士を更生管財人に選任した。更生債権者の債権届出期間は、同年8月15日までとされた(以下「本件開始決定」という。)。

ウ 同年9月11日、第1回の債権調査期日が開かれた。

エ 同年10月12日、被告ライフとアイフルとの間でスポンサー契約が締結され、(1)イのとおり、被告Y2が被告ライフの事業者管財人に選任された。

オ 同年11月14日、第2回の債権調査期日が開かれた。

カ 同年12月7日、第3回の債権調査期日が開かれ、債権調査が終了した。

キ 同年12月27日、更生計画案が提出された(以下「本件計画案」という。)。

ク 平成13年1月31日、関係人集会で本件計画案が可決され、裁判所から本件計画案の認可決定がなされた(以下「本件認可決定」という。)。

ケ 同年2月28日、本件認可決定が確定した。

コ 同年3月28日、更生担保権者に対して一括弁済が実施された。

サ 同月29日、優先・一般更生債権者に対して一括弁済が実施され、更生手続終結決定がなされた。

(3)  原告らと被告ライフとの取引

ア 原告X1は、被告ライフとの間で、昭和58年11月24日から平成16年4月19日までの間、別表1の「借入金額」欄記載のとおり金銭を借り入れ、「支払い済みの額」欄記載のとおり返済をした。なお、原告X1と被告ライフとの取引は、利用限度額の範囲内で原告X1は繰り返し金銭を借り入れることができ、残高を基準とするリボルビング方式で返済するというものであった(以下「本件X1取引」という。)。

イ 原告X2は、被告ライフとの間で、平成元年4月6日から平成15年12月30日までの間、別表2記載の「借入金額」欄記載のとおり金銭を借り入れ、「支払い済みの額」欄記載のとおり返済をした。なお、このうち、同表190番、192番、195番、197番、199番、201番、203番、204番、206番、207番、209番、212番、214番、216番、217番及び219番の各取引は、プレイカード(旧デミカード)を利用した取引で(以下「プレイカード取引」という。)あり、それ以外の取引は、ラ・ヴィータカードを利用した取引である(以下「ラ・ヴィータカード取引」という。)。なお、原告X2と被告ライフとの間の上記各取引は、いずれも、利用限度額の範囲内で原告X2は繰り返し金銭を借り入れることができ、残高を基準とするリボルビング方式で返済するというものであった(以下、プレイカード取引とラ・ヴィータカード取引を総称して、「本件X2取引」という。)。

(4)  原告らと本件会社更生手続

本件開始決定当時、利息制限法超過利息を順次元本に充当すると、原告両名とも、計算上は過払金が発生していたが、原告らは、本件会社更生手続において、更生債権届出をしなかった。

2  当事者の主張の骨子

(1)  被告ライフに対する請求について

ア 請求原因(原告ら)

(ア) 過払金返還請求

a 本件X1取引における利息制限法超過利息を順次元本に充当し、過払金に対して年5パーセントの割合による利息を付加し、過払金発生後の貸付金を過払金の利息、同元本の順に充当すると、別表1記載のとおり、平成16年5月23日において、過払金元金172万3045円、残利息8924円が発生していた。

b 本件X2取引における利息制限法超過利息を順次元本に充当し、過払金に対して年5パーセントの割合による利息を付加し、過払金発生後の貸付金を過払金の利息、同元本の順に充当すると、別表2記載のとおり、平成16年1月13日において、過払金元金85万1165円、残利息1745円が発生していた。

c よって、原告らは被告ライフに対し、上記各過払金、各残利息及び各過払金元金に対する原告X1については平成16年5月24日から、原告X2については平成16年1月14日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息(以下、「本件通算過払金」という。)の支払を求める。

(イ) 不法行為に基づく損害賠償請求

a 本件開始決定がなされるまでに発生した過払金返還請求権について

仮に、本件通算過払金のうち、本件更生手続が開始されるまでに発生した部分〔原告X1については、過払金元金93万2801円、残利息2852円(別表1の297番の金額)及び上記元金に対する平成12年6月27日から同月30日まで民法所定の年5分の割合による利息、原告X2については、過払金元金86万8012円、残利息4万4091円(別表2の153番の金額)及び上記元金に対する平成12年6月27月から同月30日まで民法所定の年5分の割合による利息、以下、「本件開始決定前過払金」という。〕の返還請求権が本件認可決定によって失権したとすれば、

(a) 被告ライフは、本件会社更生手続において、原告らを本件会社更生手続から殊更に除外し、原告らが債権届出をすることを妨害した。

なお、被告ライフは、更生担保権者及び一般更生債権者に対する弁済資金の多くをライフの資産を引き当てとするノンリコース調達で賄ったが、そのためのデューデリジェンスにおいて、700万に及ぶ各口座情報が過去2年にわたって遡って分析されたから、被告ライフが、原告らが更生債権者であることを知っていたことは明らかである。

(b) 被告ライフによる上記妨害のため、原告らは、債権届出をすることができず、失権した。

(c) これは、被告ライフの不法行為であり、これによって、原告らは、本件開始決定前過払金と同額の損害を被った。

(d) よって、原告らは被告ライフに対し、上記各損害金の支払を求めることができる。

b 本件開始決定後の弁済金について

本件開始決定時において、原告らには過払金が発生しており、原告らには被告ライフに対して弁済する義務がなかった。しかるに、被告ライフは、なお原告らに債務があるかのように欺罔して、原告らに対して貸金の返還を請求し、原告X1からは、別表1の298番から385番までの各「支払い済みの額」欄に記載のとおり(合計115万円)、原告X2からは、別表2の154番から220番までの各「支払い済みの額」欄に記載のとおり(合計121万4000円)、それぞれ貸金返還名下に金銭を騙取した。

よって、原告らは被告ライフに対し、不法行為による損害賠償として、上記各金員の支払を求めることができる。

c 以上のとおり、原告らは被告ライフに対し、それぞれa及びbの合計額の支払を求めることができるところ、本件通算過払金返還請求権の金額の範囲内で、a及びbの各金銭の支払を求める。

イ 請求原因に対する認否(被告ライフ)

(ア) ア(ア)のa及びbの主張に対し

a 計算結果はいずれも争う。

b 本件X2取引のうち、プレイカード取引は、ラ・ヴィータカード取引とは別個の取引である。

(イ)a ア(イ)のaの(a)ないし(d)の主張に対し

被告ライフに、原告らを更生債権者として扱う義務があったとの主張は否認する。被告ライフは、約定利率に基づく貸金債権を資産として管理しており、利息制限法所定の制限利率に基づいて充当計算をした結果に基づく貸金債権及び過払金返還債務を管理しているのではない。したがって、特定の取引について、特定の時期において過払金が発生しているか否かを把握しておらず、原告らが更生債権者であるとの認識も有していなかった。

原告らの被告ライフに対する各本件開始決定前過払金返還請求権が失権したのは、原告らが更生債権届出をしなかったことによる結果にすぎない。

b ア(イ)のbの主張に対し

原告らの主張は否認する。

上記のとおり、被告ライフは、本件開始決定時において原告らが過払金返還請求権を有しているとは認識しておらず、原告らを欺罔する意思はなかった。

本件開始決定後、原告らが被告ライフに対して弁済をしたのは、原告らが約定に基づいて任意に弁済を継続したからであって、被告ライフが原告らに弁済を請求したからではない。

また、本件X2取引のうち、プレイカード取引は、本件開始決定後に原告X2が被告ライフとの間で新たに始めた取引であり、原告X2は、これに基づいて被告ライフに弁済金を支払ったのである。

ウ 抗弁(被告ライフ)

(ア) 過払金返還請求のうち、本件開始決定前過払金返還請求に対し-失権

a 原告らの各本件開始決定前過払金返還請求権は、本件会社更生手続における更生債権に該当する。

なお、金銭消費貸借契約は双務契約ではなく片務契約であるから、過払金返還請求権は、旧会社更生法103条1項、208条7号が定める共益債権には当たらない。

b 原告らの各本件開始決定前過払金返還請求権については、本件計画案に定めがなかったから、旧会社更生法241条によって、失権した。

(イ) 相殺

被告ライフは、平成20年4月30日に開かれた本訴第16回弁論準備手続期日において第7準備書面を陳述することにより、被告ライフの原告らに対する次の各債権を自働債権として、原告X1については被告ライフに対する本件開始決定後の過払金返還請求権を受働債権として、原告X2については被告ライフに対する本件開始決定後のラ・ヴィータカード取引による過払金返還請求権を受働債権として、それぞれ対当額で相殺する旨の意思表示をした。

a 原告X1について(立替金請求権)

(a) 原告X1と被告ライフは、昭和58年11月23日ころ、大要以下のとおりの立替払契約を締結した。

ⅰ 原告X1は、被告ライフが発行するカードを利用して、被告ライフの加盟店において商品を購入することができる。

ⅱ 原告X1がカードを利用して商品を購入したとき、被告ライフは、当該加盟店に対し、当該購入代金を立替払する。

ⅲ 被告ライフが立替払したとき、原告X1は被告ライフに対し、当該立替金及び被告ライフが指定する手数料を支払う。

(b) 原告X1は、別紙明細表記載のとおり、カードを利用して商品を購入し、被告ライフは、加盟店に購入代金を立替払した。

(c) よって、被告ライフは原告X1に対し、4万0771円の立替金請求権を有するところ、そのうち立替金元金の残金3万8663円(別紙明細表の「No1」の残金額から手数料を控除した3万1790円と「No2」の残金額6873円の合計額)を相殺の自働債権とする。

b 原告X2に対し(貸金債権)

本件プレイカード取引は、本件開始決定後に始まった新たな取引であり、同取引における利息制限法による制限超過利息を順次元本に充当すると、別表3記載のとおり、平成15年12月29日において、元本が45万0171円残存している。この貸金返還請求権を相殺の自働債権とする。

エ 抗弁に対する認否、反論(原告ら)

(ア) 失権の抗弁に対し

a 利息制限法を超過する利息約定のもとに行われる継続的な金銭消費貸借契約は、借主が借入金の返済義務を負い、貸主が過払金の返済義務を負うから、双務契約であるか、双務契約に準じる契約であるというべきである。

b 被告ライフは、本件開始決定後も原告らとの間で取引を続けたから、旧会社更生法103条1項によって、管財人は、双務契約の継続を選択したというべきである。

c そうすると、本件開始決定前過払金返還請求権は、旧会社更生法208条7号により、共益債権に当たるから、本件認可決定によっても失権しない。

(イ) 相殺の抗弁に対し

自働債権の存在を争う。

オ 失権の抗弁に対する権利濫用の再抗弁(原告ら)

被告ライフが原告らに対して失権の主張をするのは、権利の濫用であって許されない。

カ 再抗弁に対する認否(被告ライフ)

争う。

(2)  被告Y2に対する請求について

ア 請求原因(原告ら)

(ア) 本件開始決定前過払金返還請求権について

a 旧会社更生法98条の4に基づく損害賠償請求

(a) 更生管財人は、善良な管理者の注意をもってその職務を行わなければならず、管財人がその注意を怠ったときは、その管財人は、利害関係人に対して損害賠償の責めに任ずる(旧会社更生法98条の4)

(b) 被告Y2は、本件会社更生手続における更生管財人として、多数の過払金債権者の存在を認識していたから、原告らを含むこれらの過払金債権者に対し、個別に促すか、その旨を新聞で公告する等の方法で更生債権届出の機会を与えるべき職務上の義務があったのに、これを果たさず、義務を怠った。

(c) その結果、原告らは、各本件開始決定前過払金返還請求権が失権し、各本件開始決定前過払金返還請求金額と同額の損害を被った。

b 民法709条に基づく損害賠償請求

(a) 被告Y2は、原告らが被告ライフに対して本件開始決定前過払金返還請求権を有していることを知っていたから、更生管財人として原告らに対し、個別に促すか、その旨を新聞で公告する等の方法で、原告らに更生債権届出の機会を与えるべき作為義務があったのに、これを怠った。

(b) その結果、本件各開始決定前過払金返還請求権が失権し、原告らは、各本件開始決定前過払金返還請求金額と同額の損害を被った。

(イ) 本件開始決定後の弁済金について

被告ライフは、(1)ア(イ)bに記載のとおり、本件開始決定後も原告らに対し違法に貸金の返還請求をし、原告らから金銭を騙取した。被告Y2は、本件会社更生手続中は、更生管財人、その終結後は被告ライフの代表取締役として、上記違法な請求を止めさせるべき作為義務があったのに、これを怠った。

よって、旧商法266条の3により、被告Y2には、原告らに対し、上記騙取金額を賠償する責任がある。

(ウ) 以上のとおり、原告らは被告Y2に対し、それぞれ(ア)及び(イ)の合計額の支払を求めることができるところ、被告ライフに対する請求金額の範囲内で、(ア)及び(イ)の金銭の支払を求める。

イ 請求原因に対する認否・反論(被告Y2)

(ア) ア(ア)の主張に対し

被告Y2が原告らを更生債権者として扱わなかったのは、原告らが更生債権届出をしなかったからであって、原告らが失権したのは、更生債権届出をしなかったことによる必然的結果である。旧会社更生法上、更生管財人が、更生債権届出をしていない更生債権者を届出をした更生債権者と同列に扱うべき義務はない。

なお、本件更生手続開始決定がなされた事実や更生債権届出の期間等は、官報又は更生裁判所が指定する新聞紙に掲載する方法によって公告されており、原告らに対しても更生債権を届け出る機会は十分に与えられていた。更生管財人に、それ以上に更生債権者に対して更生手続に参加するのに必要な情報を提供するべき義務はない。

(イ) ア(イ)の主張に対し

被告ライフの行為が欺罔行為にならないこと、被告ライフの行為と原告らが弁済を継続したこととの間に因果関係がないことは、被告ライフの主張((1)イ(イ))と同様である。

3  主たる争点

(1)  原告らの各本件開始決定前過払金返還請求権が本件認可決定により失権したか

(2)  被告ライフは、本件会社更生手続で原告らが債権届出をすることを妨害したか

(3)  被告Y2には、原告らに対し、個別に促すか、その旨を新聞で公告する等の方法で更生債権届出の機会を与えるべき作為義務があったか

(4)  本件開始決定後、被告ライフが、原告らに対し、貸金の返還を請求し、あるいは返還金を受け取ったことが、原告らに対する不法行為になるか。被告Y2に、被告ライフをして原告らに対する上記請求を止めさせるべき義務があったか。

(5)  被告ライフの失権の主張は権利の濫用として許されないか

(6)  被告ライフの相殺の主張の当否

第3当裁判所の判断

1  原告らの各本件開始決定前過払金返還請求権が本件認可決定により失権したか(争点(1))

(1)  原告らの各本件開始決定前過払金返還請求権は、本件会社更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であるから、本件会社更生手続における更生債権であり(旧会社更生法102条)、原告らは、更生債権届出期間内に届け出なかったから、本件更生計画認可決定により、失権したものである。

(2)  もっとも、基本契約に基づいて継続的に貸付と弁済が繰り返される金銭消費貸借取引によって生じる過払金返還請求権が発生するのが取引終了時であると解することができれば、本件開始決定前過払金返還請求権は、本件開始決定がなされた時点では、発生していなかった(潜在的な権利として存在していたにすぎない)から、更生債権には当たらず、失権していないと解する余地がないではない。

しかしながら、基本契約に基づいて継続的に貸付と弁済が繰り返される金銭消費貸借取引において、計算上過払金が生ずれば、借主は、貸主に対し、いつでもその返還を請求することができること(借主が貸主に対して過払金返還請求の意思表示をすれば、その後借主が約定利率にしたがった弁済をするとは考えられないし、貸主が借主からの新たな借入の申込みに応じるとも考えがたいから、取引は事実上終了するであろうが、借主が過払金の返還を請求するに当たって、取引終了の意思表示を要するわけではない。)、従来、本件と同種の過払金返還請求訴訟において、借主は、計算上過払金が生じた日からの利息をも請求するのが通常であり、裁判例においてもこれを認容しているのが一般である(当裁判所に顕著である。)ところ、本訴においても、原告らは、別表1、2をみれば明らかなように、過払金が生じた日からの利息を請求しているが、これは、計算上過払金が生ずれば、過払金返還請求権が発生しているとの認識を前提にしていると考えられること等の事実に鑑みると、計算上過払金が生じたときには、その金額の過払金返還請求権が発生するものと解するのが相当である。そうすると、本件開始決定前過払金返還請求権は、本件開始決定がなされた当時、既に発生していたのであって、更生債権であると認めざるを得ない。

なお、基本契約において、借主は極度額の範囲内で繰り返し借り入れることができ、返済は残高を基準とする一定額と定めるリボルビング方式によることが定められた貸付の場合(本件各取引もこれに該当する。)、債務の弁済は、各貸付毎に個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく、借入金の全体に対して行われると解されるが、だからといって、個々の弁済毎に計算上生じる過払金返還請求権を、その都度発生する別個の請求権であると解することの妨げになるものではない。

(3)  次に、原告らは、原告らの本件開始決定前過払金返還請求権が旧会社更生法208条7号、103条1項の「共益債権」にあたると主張する。

そこで検討するに、旧会社更生法208条7号、103条1項は、契約によって当事者双方が互いに相手方に対して債権を有し、債務を負担することになる双務契約が、更生手続開始当時において双方未履行の状態にある場合において、管財人が債務の履行を請求するときに、相手方が有する請求権を共益債権としたものであって、その趣旨は、管財人が履行を選択した場合に、相手方が債務の履行を強制されながら、反対債権が更生債権として扱われてしまうことによる不公平を救済しようとするものと解せられる。

これに対し、金銭消費貸借契約は借主のみが返済義務を負う片務契約であり、貸主が負うことのある過払金返還債務は、金銭消費貸借契約の履行の結果発生する債務ではあるが、契約によって貸主が負担する債務ではないし、仮に、契約によって貸主が負担する債務と同視できるとしても、本件開始決定時における被告ライフと個々の顧客との債権債務状況は、顧客が貸金返還債務を負担しているか、被告ライフが過払金返還債務を負担しているかのいずれかであって、双方の債務が未履行の状態にあるということはあり得ず、管財人が履行を選択するということもあり得ない。

そうすると、本件開始決定前過払金返還請求権が上記「共益債権」にあたると解することはできない。

2  被告ライフは、本件会社更生手続で原告らが債権届出をすることを妨害したか(争点(2))

(1)  旧会社更生法の定め

ア 事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができないときは、その会社が、会社に破産の原因たる事実の生ずる虞があるときは、その会社のほか、資本の10分の1以上に当る債権を有する債権者又は発行済株式の10分の1以上に当る株式を有する株主も、裁判所に対し、更生手続開始の申立てをすることができる(旧会社更生法30条1項、2項)。なお、会社更生手続開始申立書の必要的記載事項に更生債権者の氏名等はない(同法32条)。一般に、更生裁判所は、申立人に対し、更生債権者一覧表の提出を求めている(公知の事実である。)が、これは、あくまで申立人に対し任意の協力を求めているものと解せられる。

イ 裁判所が更生手続開始の決定をしたときは、裁判所は、更生手続開始決定の主文、更生債権の届出期間等、法律の定める事項を公告するほか、知れたる更生債権者には、上記事項等を記載した書面を送達しなければならない(同法47条1項、2項)。

ウ 管財人は、裁判所の定める期間内に、更生債権者の氏名及び住所、更生債権の内容及び原因等を調査して裁判所に報告しなければならない(同法180条)。更生手続に参加しようとする更生債権者は、裁判所の定めた届出期間内に、債権の内容、原因等、法律の定める事項を裁判所に届け出なければならない(同法125条1項)。

エ 裁判所書記官は、届出に基づいて、更生債権者表を作り、更生債権の内容及び原因等、法律が定める事項を記載しなければならない(同法132条)。

オ 更生債権調査の期日においては、届出のあった更生債権について、同法132条に掲げる事項を調査し、期日において管財人、更生債権者等の異議がなかったときは、更生債権の内容等が確定する(同法143条)。確定した更生債権については、更生債権者表の記載は、確定判決と同一の効力を有する(同法145条)。

カ 更生計画においては、全部又は一部の更生債権者の権利を変更する条項を定めなければならず、更生計画認可の決定があったときは、計画の定め及び法律によって認められた権利を除き、更生会社はすべての更生債権についてその責を免れる(同法211条、241条)。

(2)  上記の法律の定めをみると、法は、会社自身が申し立てた場合であっても、申立会社に対し更生債権者一覧表の提出を義務づけていないのであって、会社更生手続が開始されたことの更生債権者に対する告知は、公告によってなされるものと考えていることが明らかである。そうすると、会社更生手続開始を申し立てた会社が、更生裁判所に対し、一部の更生債権者の記載が漏れた更生債権者一覧表を提出し、その結果、当該更生債権者に対して更生手続開始決定等の送達がなされず、そのため、当該更生債権者の更生債権届出がなされないまま更生計画案の認可決定がなされ、当該更生債権が失権したとしても、会社が、当該更生債権者に損害を与える目的でその上記更生債権者一覧表を更生裁判所に提出した等の特段の事情のない限り、会社の上記提出行為が当該更生債権者に対する不法行為と評価されることはないというべきである。

(3)  本件会社更生手続においても、被告ライフは更生裁判所に対し、債権者一覧表を提出したと推測されるし、その中に原告らの記載はなかったものと推測されるが、本件において、上記特段の事情を認めるに足る証拠はない。かえって、本件会社更生手続開始決定がなされた平成12年6月当時、被告ライフは、自らがした金銭消費貸借取引には貸金業法43条1項のみなし弁済の規定の適用があり、過払金返還債務はないとの立場をとっていたと推測されるし、最高裁判所平成16年2月20日第2小法廷判決(民集58巻2号475頁参照)が貸金業法43条1項の適用要件について厳格に解釈すべきとして、いわゆる厳格説を採用することを明確にするまでは、最高裁判所平成2年1月22日第2小法廷判決(民集44巻1号332頁参照)が「契約書面及び受取証書の記載が法の趣旨に合致するものでなければならない」と判示し、これを、契約書面及び受取証書の記載内容が「法の趣旨に合致」すれば足りると理解する向きもあったことから、みなし弁済規定の具体的な適用については、要件該当性を厳格に考える考え方から柔軟に考える考え方まで、様々な考え方が提示されており、少なくとも近年のように、大手の消費者金融業者の取引においても、当然のように、みなし弁済規定の適用はなく、過払金返還請求が認められるとは考えられていなかったことは当裁判所に明らかである。

加えて、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によると、本件更生手続開始申立当時、被告ライフは、金銭消費貸借取引の顧客について、約定利率による残債権額をもって管理しており、利息制限法の制限利率による引き直し計算後の債権額ないし過払い債務額をもっては管理していなかったこと、本件更生手続開始申立当時、被告ライフには632万人のカード会員が存在したこと、以上の事実が認められるから、事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができないか、破産の原因たる事実の生ずるおそれがあるとして本件更生手続開始申立をしようとした被告ライフが、カード会員のうちカードキャッシング取引をしている全顧客について利息制限法の制限利率に基づく引き直し計算をし、過払金が発生している会員を債権者一覧表に登載することは、現実問題として、極めて困難なことであったというべきである。

なお、原告らは、被告ライフの資産のデューデリジェンスにおいて、700万口座に及ぶ各口座情報が過去2年にわたって遡って分析されたから、被告ライフは、原告らが更生債権者であることを知っていた旨主張するところ、なるほど、証拠(甲21、乙5)によると、被告ライフのスポンサーの選定過程で詳細なデューデリジェンスが行われ、700万口座に及ぶ各口座情報が過去2年にわたって遡って分析されたことが認められる。しかしながら、過払金返還請求権の発生の有無や金額を確認するためには過去2年の取引を遡るだけでは足らないことは明らかであるから、上記分析の目的は、各債権の不良債権化の程度を把握することにあったと認めるのが相当であって、上記デューデリジェンスがなされたからといって、被告ライフにおいて、原告らが過払金債権者であることを具体的に認識していたとはいえない。

(4)  もっとも、裁判所がする公告の事実上の効果には限界があるから、被告ライフが独自に全国紙等に広告を出す等の方法で、過払金債権者に対し、被告ライフについて更生手続が開始された事実を周知するとともに、債権届出の方法等について情報提供をすることが望ましかったということはできるが、被告ライフにこれをすべき作為義務があったとまでいうことはできない。

(5)  よって、被告ライフが更生裁判所に対して提出した更生債権者一覧表に原告らの記載がなく、他に原告らに対し、その更生債権届出を促す措置をとらなかったことをもって「原告らの更生債権届出を妨害した」とはいえないし、そのことが原告らに対する不法行為になるということはできない。他に、被告ライフが「原告らの更生債権届出を妨害した」と認めるべき証拠はない。

3  被告Y2において、原告らに対し、個別に促すか、その旨を新聞で公告する等の方法で更生債権届出の機会を与えるべき作為義務があったか(争点(3))

(1)  被告Y2は、更生管財人として、善良な管理者の注意をもってその職務を行う義務を負っていたものではあるが、仮に更生管財人が、更生債権届出をしていない更生債権者が存在することを知っていた場合であっても、既に更生裁判所がした公告によって更生手続開始の告知を受けて更生債権届出の機会を与えられている更生債権者に対し、更に個別に促すか、その旨を新聞で公告する等の方法で更生債権届出の機会を与えるべき作為義務があったと解する根拠は認めがたく、被告Y2が原告らに対しこれらの方法を講じなかったことが、旧会社更生法98条の4や民法709条に該当するとは認められない。

(2)  しかも、被告Y2において、原告らが更生債権者であることを具体的に認識していたと認めがたいことは、2の(3)で被告ライフについて説示したのと同様である。

4  本件開始決定後、被告ライフが、原告らに対し、貸金の返還を請求し、あるいは返還金を受け取ったことが、原告らに対する不法行為になるか。被告Y2に、被告ライフをして原告らに対する上記請求を止めさせるべき義務があったか(争点(4))

(1)  原告らと被告ライフは、利息制限法の制限額は超過するものの、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)による規制以下の利息約定を含む金銭消費貸借契約を任意に締結し、原告らは、その約定にしたがって、自らの意思で上記超過利息の支払を続けてきたものである。

利息制限法の制限を超過する利息約定は、その超過部分は無効であり(同法1条1項)、借主が任意に支払った制限超過の利息・損害金は当然に残存元本に充当され(最高裁判所大法廷昭和39年11月18日判決・民集18巻9号1868頁参照)、元本が完済となったときは、借主は貸主に対してその後に債務の存在することを知らないで支払った金額の返還を請求することができる(最高裁判所大法廷昭和43年11月13日判決・民集22巻12号2526頁参照)が、他方で、登録を受けた貸金業者は、借主が利息として任意に支払った金銭の額が利息制限法の制限額を超える場合であっても、貸金業法43条1項のいわゆるみなし弁済の要件を満たせば、当該超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなすことができたのであるから、登録を受けた貸金業者がみなし弁済の要件を満たすと認識して利息制限法の制限超過利息を受け取ること、支払期日を通知する等の方法で任意の支払を促すことは、その認識に明かな過失があると認められれば格別、そうでない以上、違法とはいえない。そして、被告ライフは、本件会社更生手続開始決定がなされた当時、自らがした金銭消費貸借取引にはみなし弁済の規定の適用があると認識していたと推測されることは前記のとおりである。

(2)  なお、証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によると、本件X1取引及び本件X2取引における約定には、借主が弁済を1回でも怠れば当然に期限の利益を失う旨の期限の利益喪失約款が付されていた事実が認められるところ、このような約款が存在することは、借主に対して利息の制限超過部分を支払うことを事実上強制することになるから、このような約款の下で借主が利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合は、特段の事情がない限り、貸金業法43条1項にいう「任意に支払った」とはいえないというべきである(最高裁判所第二小法廷平成18年1月13日判決・民集60巻1号1頁参照)。しかしながら、期限の利益喪失約款の下での超過利息の返済に任意性がないという考え方は、上記最高裁判決がなされる以前は、同旨の下級審裁判例も存在したとはいえ、決して一般的な考え方とはいえなかったことは当裁判所に明かである。そうすると、本件更生手続開始決定がなされた当時、被告ライフがみなし弁済規定の適用があると認識していたことに過失があるとはいえない。

(3)  よって、本件開始決定後、被告ライフが、原告らに対し、貸金の任意の支払を促し、あるいは返還金を受け取ったことが、原告らに対する不法行為になるということはできない。また、被告ライフが、原告らに対し、上記任意の支払の促しを超えて貸金の返還を請求したことについては、これを認めるに足る証拠がない。したがって、被告Y2について、何らかの義務違反があったということもできない。

5  被告ライフの失権の主張は、権利の濫用として許されないか(争点(5))

(1)  被告ライフに対する会社更生手続について、第2の1(2)の事実のほか、証拠(乙1、5)によると、次の事実が認められる。

ア 被告ライフの保全管理人は、平成12年6月2日、裁判所の許可を得て、全国紙3紙、地方紙3紙に「ライフカードはこれまでどおりお使いいただけます」という見出しの社告を掲載した。これは、全国632万人のカード会員の脱会を防止するためであった。

イ 被告ライフの更生管財人は、債権者の利益の極大化及び全従業員の雇用確保を基本理念に据えて職務を執行したが、営業資産が劣化すると、基本理念の実現はもとより、会社の再建そのものが困難となるため、営業資産劣化の防止策として、加盟店、カード提携先に対する支払継続が確実であることの周知徹底、カード会員の不安の払拭、ATM・CD利用再開交渉等に取り組むとともに、スポンサーを早期に選定し、更生手続自体を早期に終結させることを目指した。

ウ 更生管財人は、更生計画の基本スキームとして、更生担保権者、更生債権者に対し、権利変更後の債権額を一括して弁済し(一括弁済方式)、スポンサーは、被告ライフという企業そのものを承継し(いわゆるM&Aの手法を用いた企業承継方式)、スポンサー契約に基づき算出される企業価値相当額を原則としてすべて債権者への弁済に当てる(企業価値相当額弁済方式)との手法を採用した。

エ スポンサーの選定については、広く候補を募り、事業の運営、従業員の雇用、更生計画のスキーム等についての提案を求めた。スポンサー候補は、被告ライフの主要資産についてデューデリジェンスを経て提案を提出し、その中からスポンサーとしてアイフルが選ばれた。なお、そのスポンサー契約では、基準日現在の資産評価の方法について、営業資産(バルクセールによる処分を予定しているものを除く)は、本件更生手続開始決定日から基準日までの残高変動額を加減して算定した金額とする旨合意された。

オ 債権調査の結果、確定したのは、更生担保権が約3010億円、優先的更生債権が約6億円、一般更生債権が約3206億円、劣後的更生債権が約2億円であり、一般更生債権者の中には、2名の過払金債権者が存在した。

カ 弁済資金は、債権流動化の手法により調達する資金、アイフルからの株式払込金及び借入金並びに被告ライフの手元資金から調達された。債権流動化の手法の概要は、営業資産を信託銀行に信託し、信託財産を対象とする信託受益権を取得し、このうち優先受益権をSPC(特別目的会社)に譲渡し、SPCから譲渡代金の支払を受けるというものであった。以上によって、約4750億円の資金が捻出され、更生担保権及び更生債権に対する弁済がなされた。上記過払金債権者2名も弁済を受けた。一般更生債権に対する弁済率は、54.298パーセントとなった。

キ 平成12年10月31日現在、被告ライフが顧客から起こされていた過払金返還請求訴訟は9件であった。

(2)  上記事実及び前提事実を踏まえて検討する。

ア 前記のように、本件会社更生手続開始申立当時、被告ライフは、自らがしていた金銭消費貸借取引には貸金業法43条1項のみなし弁済の規定の適用があるとの認識のもと、約定利率による残債権額をもって顧客管理をしていたし、一般的にも、当然のように過払金返還請求が認められるとは考えられていなかった。しかしながら、近年ほどの数ではないとはいえ、当時も大手の消費者金融会社を相手とする過払金返還請求訴訟は提起されていたし、これを認容する判決も少なからず言い渡されていたことは当裁判所に明らかであるし、被告ライフを被告とする過払金返還請求訴訟も、上記のとおり9件が係属していたのである。

イ そうすると、本件会社更生手続において、被告ライフや更生管財人は、あるいは更生裁判所においても、法的知識がないために何らの権利主張をしていないが、法律家の適切なアドバイス等を得ることができれば、被告ライフに対して過払金の返還を請求する可能性のある膨大な数の債権者が存在すること、これらの債権者の中には、被告ライフが会社更生手続開始申立てをした事実を知らない者が多いし、仮に知っても、自らが権利者であることを認識していない者が大多数であるから、更生債権届出をすることはわずかな例外を除いて事実上期待できず、結果的に膨大な数の債権者が失権してしまう結果になることを認識していたと考えられる。

ウ 2の(3)で記載したように、被告ライフにおいて、カードキャッシング取引をしている全顧客について利息制限法の制限利率に基づく引き直し計算をし、過払金が発生している会員を債権者一覧表に登載し、更生裁判所をして、更生手続開始決定等を記載した書面を送達させることは現実的には極めて困難であった。しかし、失権する債権者数をなるべく減らすためには、せめて、全国紙に、カードキャッシングをしている顧客に向けて、過払金返還請求権が発生している可能性があること、その場合、更生裁判所に対して更生債権届出をしないと失権してしまうことを広告し、注意を促すことは考え得る方策であったというべきである。しかし、その措置はとられなかった。

エ 他方、本件会社更生手続においては、営業資産の劣化を防ぎ、これを早期にスポンサーに承継させることが至上命題とされた。営業資産の劣化を防ぐためには、顧客の大部分を占めるカード会員が被告ライフとの取引を安心して従来どおり続けることができる体制を作ることが必要であり、(1)イのとおりその対策がとられた。他方、本件会社更生手続を契機に、顧客が利息制限法及び貸金業法の正しい知識を持つことになれば、過払金が発生している顧客の中にはその旨の債権届出をしてくる者がいるだろうし、そうでなくとも、利息制限法の制限利率に基づく残債務額の確定を求めてくる顧客が多数生じることが予想され、約定利率に基づいて管理されている営業資産は著しく劣化することになる。被告ライフや更生管財人が意識していたか否かはともかく、大多数の顧客が法律の正しい知識を持たず、約定利率に基づく貸金返還債務を負担していると認識している状態をそのまま維持することは、営業資産の劣化を防ぎ、本件会社更生手続の基本理念を実現するために、極めて好都合だったのである。

なお、顧客との法律関係は、債権債務を含めて営業資産であるとの評価も可能であると考えられ、旧会社更生法208条2号や8号に基づき、過払金返還請求権を共益債権とする旨の取り扱いもあり得たと考えられるが、その措置もとられなかった。

オ 以上のように、原告らは、自らが更生債権者であるとの自覚を持つ機会すら与えられないまま失権したのであり、そのことについて責められるべき事情が見あたらないのに対し、被告ライフは、原告らを含む膨大な数の過払金債権者が存在することを知り、これらの債権者に債権届出をさせるためには、一般の会社更生事件とは異なる特別な措置が必要であることも自覚しながら、何らの措置をとらないで放置し、いわば膨大な数の過払金債権者が眠った状態にあることを利用して営業資産の劣化を防ぎ、その結果、極めて迅速に会社の再建を果たすという多大の利益を得たのである。

これらの事実を総合すると、その後、法律の正しい知識を得て、過払金の返還を求めた原告らに対し、被告ライフが、本件認可決定による失権を主張するのは、信義に悖るというべきであり、届出をした一般の更生債権者が失権した債権額の54.298パーセントを超える部分についてはともかく、届出をした一般の更生債権者が弁済を受けた債権額の54.298パーセントの部分についての失権の主張は、権利の濫用として許されないというべきである。

カ なお、上記のように、被告ライフの更生計画認可決定による失権の主張の一部を制限することは、窮境にはあるが再建の見込みのある株式会社について、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図ることを目的とし、その目的を図るため、更生計画の認可があったときは、更生会社は、更生計画の定め又は会社更生法の規定によって認められた権利を除き、すべての更生債権について責を免れると定め、更生計画及び旧会社更生法241条ただし書が定める以外には、これに例外を認めていない旧会社更生法の法意に反するのではないかとの疑いがないではない。すなわち、破産法においては、破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権については、破産債権者が破産手続開始決定があったことを知らなかった場合には免責効の例外が認められている(破産法253条1項6号)し、民事再生法においては、再生債権者の責めに帰することができない事由によって債権届出期間内に届出をすることができなかった再生債権や、再生債務者が認否書に記載しなかった再生債権について、免責効の例外が認められている(民事再生法181条1項1号、3号)が、旧会社更生法にはこれと同趣旨の規定は設けられていない。旧会社更生法では、更生会社に債権者名簿の作成、提出、その他知れたる債権者の届出が義務づけられていない(2の(1)ア)から、破産申立人である破産者に対し、債権者一覧表の提出を義務づけている破産法(20条2項)、再生債務者に、届出がされていない再生債権の内容等を認否書に記載することを義務づけている民事再生法(101条3項)と同趣旨の規定を設けることができないのは当然であるが、自己の責めに帰すべき事由がなく債権届出をしなかった債権者を救済する趣旨の規定がない点で、旧会社更生法の法意は、破産法や民事再生法とは異なるのである。

また、アイフルは、更生債権届出がなされていない過払金返還請求権が失権することを前提に被告ライフの資産評価をして被告ライフに資金注入をし、被告ライフはこれによって再建を果たしたのであるから、失権の主張が制限されるとなれば、アイフルや被告ライフに不測の損害を与えることにもなりかねない。

しかしながら、単に原告らが更生債権届出をする機会を事実上与えられなかったに止まらず、本件更生計画のスキーム自体が、原告ら過払金債権者が眠った状態にあることを事実上利用して営業資産価値の劣化を防ぎ、早期の終結を図ったという意味で、過払金債権者を犠牲にする構造にあったことを考慮すると、旧会社更生法の法意やアイフル及び被告ライフの利益は、私法全体を貫く基本理念である信義則の前に、一歩退くべきであると考える。

6  以上の検討の結果によれば、被告ライフに対し、本件通算過払金の返還を求める原告らの請求のうち、本件各開始決定前過払金の返還を求める部分は、その54.298パーセントの部分で正当であるが、その余は理由がなく(なお、届出をした一般更生債権者も劣後的更生債権である開始決定後の利息については弁済を受けていないから、上記の部分に対する利息の請求を認めるのは相当でない。)、本件更生手続開始決定後の過払金の支払を求める部分は正当である。他方、原告らの被告ライフに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がなく、被告Y2に対する各請求も理由がない。そこで、上記金額を算定すると、次のとおりとなる。

(1)  原告X1について

ア 原告X1について、本件開始決定前過払金の金額は、別表1のとおり、過払金元金93万2801円、残利息2852円(別表1の297番の金額)及び上記元金に対する平成12年6月27日から同月30日まで民法所定の年5分の割合による利息である510円である(1円未満四捨五入、以下同じ)から、合計93万6163円となる。

(計算式)932801×0.05×4/366=509.7

これに54.298パーセントを乗じると、50万8318円となる。

(計算式)936163×0.54298=508317.7

イ 原告X1の本件開始決定後の過払金額について、別表1のうち、平成12年6月30日の残元金を零として算出すると、別表4のとおり、平成16年5月23日において、元金が59万2143円、利息が2831円となる。

(2)  原告X2について

ア 原告X2について、本件開始決定前過払金の金額は、別表2のとおり、過払金元金86万8012円、残利息4万4091円(別表2の153番の金額)及び上記元金に対する平成12年6月27日から同月30日まで民法所定の年5分の割合による利息である474円であるから、合計91万2577円となる。

(計算式)868012×0.05×4/366=474.3

これに54.298パーセントを乗じると、49万5511円となる。

(計算式)912577×0.54298=495511.0

イ 原告X2の取引のうち、ラ・ヴィータカード取引とプレイカード取引は、別個のカードを利用した取引であって、別個の基本契約に基づく別個の取引と認めるのが相当であるから、過払金も別個に計算することとする。

そうすると、その結果は、別表5の1、2のとおり、ラ・ヴィータカード取引については、平成12年6月30日の残元金を零として算出すると、平成15年12月30日において、過払金13万9231円が生じていたことになり、他方、プレイカード取引においては、平成15年12月29日において、なお45万0171円の債務が残存していたことになる。

7  被告の相殺の抗弁について

(1)  原告X1について

ア 証拠(乙16ないし19)及び弁論の全趣旨によると、原告X1と被告ライフは、昭和58年11月23日ころ、原告X1は同被告ライフ発行にかかるカードを利用して商品を購入することができ、被告ライフは、その購入代金を立替払いし、原告X1は被告ライフに対し、立替金及び被告ライフが指定する手数料を支払う旨の立替払契約を締結したこと、原告X1は、被告ライフ発行のカードを利用して別紙明細表記載のとおり商品を購入したこと、その利用金額、手数料、支払済み金額、残金は同明細表記載のとおりであることが認められる。

イ そうすると、被告ライフの主張にかかる立替金残金3万8663円の自働債権の存在を認めることができる。

ウ 被告ライフは、自働債権の弁済期について主張しないから、期限の定めのない債権として取り扱うしかなく、成立と同時に弁済期にあるというべきである。他方、受働債権である本件開始決定後の過払金返還請求権も、期限の定めのない債権であり、被告ライフはいつでもこれを弁済できるから、双方の債権が成立したとき(すなわち、自働債権3万1790円については平成16年1月10日、6873円については同年3月21日)にそれぞれ相殺適状が生じたというべきである。

エ よって、別表4の計算表に、平成16年1月10日の3万1790円の相殺、同年3月21日の6873円の相殺を付加すると、原告X1の本件開始決定後の過払金返還請求権は、別表6のとおり、平成16年5月23日において、元金55万3021円、利息2644円、以上の合計55万5665円が残存したことになる。

(2)  原告X2について

原告X2については、前記のとおり、ラ・ヴィータカード取引においては、平成15年12月30日において、過払金13万9231円が生じていたが、プレイカード取引においては、平成15年12月29日において、なお45万0171円の債務が残存していた。よって、相殺適状を平成15年12月30日として計算すると、自働債権が元金45万0171円及びこれに対する1日分の年18パーセントの割合による利息222円(450171×0.18×1/365=222.0)、以上の合計45万0393円、受働債権が13万9231円であるから、相殺の結果、自働債権が31万1162円残存したことになる。

なお、被告の原告X2に対する相殺の意思表示は、本件開始決定前過払金の支払義務が認められるのであれば、それも受働債権とする趣旨であると解するのが相当であるから、更に、本件開始決定前過払金49万5511円と相殺すると、受働債権である本件開始決定前過払金が18万4349円残存することとなる。

8  結論

以上の検討の結果によれば、原告X1の被告ライフに対する本訴請求は、本件開始決定前過払金50万8318円、本件開始決定後過払金55万5665円及び内金55万3021円に対する平成16年5月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求める限度で正当として認容するべきであり、その余は失当として棄却するべきであり、原告X2の被告ライフに対する請求は18万4349円の支払を求める限度で正当として認容するべきであり、その余は失当として棄却するべきであり、原告らの被告Y2に対する本訴各請求はいずれも失当として棄却するべきである。

(裁判官 井戸謙一)

(別表)1~6〈省略〉

(別紙)明細表〈省略〉

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