京都地方裁判所 平成15年(行ウ)28号 判決
主文
1 被告が原告に対し平成15年7月23日付けでした「秘書広報課に係る食糧費のすべての公文書<平成14年度>」の公文書部分開示決定のうち,別紙非開示文書一覧表の文書番号1の「非開示箇所」欄記載⑭及び⑮の箇所,並びに同表の文書番号2ないし7,9ないし38,40ないし57の各「非開示箇所」欄記載の各箇所を非開示とした部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が原告に対し平成15年7月23日付けでした「秘書広報課に係る食糧費のすべての公文書<平成14年度>」(以下「本件公文書」という。)の公文書部分開示決定(以下「本件処分」という。)のうち,別紙非開示文書一覧表(以下「別紙一覧表」という。)の文書番号1ないし57の各「非開示箇所」欄記載の各箇所(以下「本件各非開示箇所」という。)を非開示とした部分を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,城陽市情報公開条例(平成14年城陽市条例第8号,以下「本件条例」という。)に基づき,その実施機関である被告に対し,本件公文書の開示を求めた原告が,別紙一覧表「文書名」欄記載の各文書(以下「本件各文書」という。)のうち,広報モニターの住所,慰労昼食会の出席者である大学助教授及び学生の氏名,債権者の代表者印等の印影,口座番号等が記載された各箇所(本件各非開示箇所)について,本件条例に定められた不開示情報に該当することを理由に,被告がこれを開示しない旨の本件処分をしたことは違法であると主張して,本件処分のうち,本件各非開示箇所を非開示とした部分の取消しを求める事件である。
2 本件条例の関係規定は,次のとおりである。
第2条(定義)この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 実施機関
市長,公営企業管理者,消防長,教育委員会,選挙管理委員会,公平委員会,監査委員,農業委員会,固定資産評価審査委員会及び議会をいう。
(2) 公文書
実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画(中略)であって,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。(以下省略)
第3条(実施機関の責務)
実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,公文書の開示を請求する権利を十分に尊重するとともに,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる個人に関する情報を公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。
(以下省略)
第5条(開示請求権)
何人も,実施機関に対し,当該実施機関の保有する公文書の開示を請求することができる。
第7条(公文書の開示義務)
実施機関は,開示請求があった場合は,開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されているときを除き,請求者に対し,当該公文書を開示しなければならない。
(1) (省略)
(2) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,個人が特定され得るもの(他の情報と照合することにより,個人が特定され得るものを含む。)のうち,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの又は個人を特定され得ないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。
ア 法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報
イ 人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報
ウ 当該個人が公務員(中略)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分
(3) 法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。(以下省略)
(4) ,(5)(省略)
(6) 公にすることにより,人の生命,身体,財産等の保護又は犯罪の予防,捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められる情報
(7) (省略)
第8条(部分開示)
実施機関は,開示請求に係る公文書の一部に前条各号の不開示情報が記録されている場合において,当該不開示情報が記録されている部分とそれ以外の部分とが容易に,かつ,開示請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,当該不開示情報に係る部分を除いて,公文書の開示をしなければならない。
第11条(開示請求に対する措置)
実施機関は,開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示するときは,その旨の決定(中略)をし,速やかに,請求者に対し,その旨並びに開示する日時及び場所を書面により通知しなければならない。
2(省略)
3 実施機関は,第1項の規定による公文書の一部を開示する旨の決定(中略)をした旨の通知をするときは,当該通知にその理由を付記しなければならない。(以下省略)
3 基礎となる事実(当事者間に争いのない事実,並びに証拠(甲1ないし甲7,乙1及び乙2(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は,京都府城陽市に主たる事務所を有する特定非営利活動法人であり,被告は,本件条例の実施機関である。
(2) 原告は,平成15年7月3日,被告に対し,本件条例に基づき,本件公文書の開示を請求したところ,被告は,同年7月23日付けで,本件公文書のうち,本件各文書中の別紙一覧表「非開示箇所」欄記載の各箇所に記載された内容は,本件条例7条2号及び6号に該当するとして,上記各箇所を非開示とし,その他の部分については開示する旨の本件処分をし,同日ころ,これを原告に書面で通知した。
(3) 本件各文書は,いずれも本件条例2条2号所定の公文書に該当する。
(4) 本件各非開示箇所には,別紙一覧表「記載内容」欄記載のとおりの内容の記載がある。(なお,以下,本件各文書の各非開示箇所については,別紙一覧表の文書番号及び当該非開示箇所の番号により,「非開示箇所1-①」などと表示する。ただし,当該文書中の非開示箇所が1か所のみである場合は,文書番号により「非開示箇所3」などと表示する。)本件各非開示箇所に記載されている内容は,以下の4種類に大別される。
ア 広報モニターの住所(以下「本件広報モニター住所」という。)
(非開示箇所1-①ないし⑮)
イ 京都精華大学慰労昼食会(以下「本件慰労昼食会」という。)に出席した同大学助教授及び学生の氏名(以下「本件学生等氏名」という。)(非開示箇所2-①ないし⑧)。
なお,城陽市は,ISO14001認証の取得事業(以下「本件ISO認証取得事業」という。)を京都精華大学(以下「精華大」という。)との協働で行うこととし,平成14年3月29日,精華大との間で,認証取得プロジェクトに係る協定に調印(以下,この協定の調印式を「本件調印式」という。),この協定に基づいて,精華大の学生らの協力を得て本件ISO認証取得事業を進めた結果ISO14001認証を取得した。本件慰労昼食会は,精華大の助教授及び学生が城陽市のISO認証取得に貢献したことに対する慰労の趣旨で,平成15年3月28日,城陽市が取得したISO14001認証の認証登録証の交付式(以下「本件交付式」という。)に引き続いて行われたものである。
本件ISO認証取得事業の過程で作成された「内部環境監査指摘事項是正処置書」には,精華大の助教授が代表内部環境監査員として,精華大の学生1名が監査チーム長として,それぞれ監査員の意見を記載して署名押印している。
ウ 債権者の振込先金融機関名,支店名,預金種目及び口座番号(以下「本件金融機関情報」という。)
(非開示箇所8-①ないし⑫,27-①ないし⑧,30-①ないし⑥,39-①ないし⑪,40-②ないし⑤,41-②ないし⑤,42-②ないし⑤,45-①ないし⑬,46-①ないし⑬,47-②ないし⑤,49-③ないし⑥,55-③ないし⑥及び56-①ないし⑫)
エ 債権者の私印又は代表者印の印影(以下「本件印影」という。)
(非開示箇所3ないし7,9,10-①,②,11ないし14,15-①,②,16-①,②,17ないし20,21-①,②,22,23,24-①,②,25,26-①,②,28,29,30-⑦,31ないし38,40-①,41-①,42-①,43,44,47-①,48,49-①,②,50-①,②,51ないし54,55-①,②及び57)
4 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件広報モニター住所は,本件条例7条2号の不開示情報に該当するか(争点1)。
(被告の主張)
ア 本件広報モニター住所は,「個人に関する情報」に当たり,また,旧大字及び旧小字から,当該住所地の居住者である個人が特定できるから,「個人が特定され得るもの」に当たる。
イ 本件広報モニター住所は,現に個人の居住する自宅の所在地であるという,高度に私的な情報である上,これが公開されいったん個人のプライバシーが害されると,その回復は不可能であるから,個人の生活の静謐を保護するため,これを公開しない必要性が非常に高い。他方,広報モニターの情報を開示することは,広報モニターの募集及びその活動に関する公費の支出が適正であるか否かの判断を可能とする点をその目的とするところ,本件広報モニター住所は,上記目的達成の上では全く意義を有しない。したがって,本件広報モニター住所は,「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に当たる。
ウ なお,広報モニターの中には,「広報じょうよう」に氏名,住所(旧大字及び旧小字)及び写真が掲載されている者もいるが,これは,広報モニターの中から選ばれる特派員として掲載されているものであり,特派員の選考に当たっては,特派員レポートとして氏名,住所等を掲載することにつき,個別の承諾を得るという手続をとっている。したがって,特派員の個人情報の開示の程度と広報モニター全体としてのそれとは別に考えるべきである。
(原告の主張)
ア 本件広報モニター住所は,番地の記載まではなく,従来慣例として公表されていた旧大字及び旧小字までの記載にとどまる。
イ 平成14年8月21日付けの「広報じょうよう」には,広報モニター特派員レポートとして,A及びBの氏名,住所(旧大字及び旧小字)及び写真を掲載している。このように,本件広報モニター住所は,城陽市自らが公表しているものである。
(2) 本件学生等氏名は,本件条例7条2号の不開示情報に該当するか(争点2)。
(被告の主張)
ア 本件慰労昼食会に出席した精華大の助教授及び学生の氏名は,「個人に関する情報」であって,「個人が特定され得るもの」である。
イ 本件慰労昼食会に関する情報の開示を請求する目的は,公費の支出が適正であるか否かを判断する資料を得る点にあるところ,このような目的達成のためには,本件慰労昼食会が,いつ,どこで催されたか,出席者の肩書及びその人数,そして費用が開示されれば十分であり,本件学生等氏名を開示すべき必要性はない。他方,個人の氏名は,直接個人を特定しうる高度に私的な事項である。
したがって,本件学生等氏名は,「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に当たる。
ウ なお,本件ISO認証取得事業それ自体,あるいは本件調印式及び本件交付式の模様が新聞に掲載されたことは,本件慰労昼食会出席者の個人情報の開示とは何ら関係がない。
また,洛南タイムスに,本件調印式及び本件交付式の出席者の氏名が掲載されたのは,同紙の独自取材に基づくものであり,城陽市が公表したものではない。
更に,「内部環境監査指摘事項是正処置書」の署名は,城陽市の環境マネジメントシステムの適用範囲において行う内部環境監査の実施及びこれに関する報告書の作成に当たり,代表内部環境監査員及び監査チーム長としての資格においてされたものであり,本件慰労昼食会の出席者の氏名を開示することとは関係がない。
(原告の主張)
ア 本件慰労昼食会は,本件ISO認証取得事業に関して,本件交付式が行われた後に行われたものである。本件ISO認証取得事業は,全国的にまれなケースとして注目され,城陽市,精華大,その学生等の社会的評価を高めた事業であり,また,城陽市が自ら積極的に広報活動を展開して推進されたもので,秘密裡に進められた事業ではない。
イ 平成14年3月29日に行われた本件調印式及び平成15年3月28日に行われた本件交付式の模様は新聞報道もされ,地元紙である洛南タイムスには,大学側の出席者である助教授及び学生の氏名が掲載されている。
ウ 更に,「内部環境監査指摘事項是正処置書」に記載された助教授及び学生の氏名の署名は開示されている。
エ よって,本件学生等氏名は,本件条例7条2号の不開示情報に該当しない。
(3) 本件金融機関情報は,本件条例7条3号又は6号の不開示情報に該当するか(争点3)。
(被告の主張)
ア 本件条例7条3号該当性
(ア) 一般的に,事業を営む者が取引をする銀行口座については,いわゆる内部管理情報として秘匿しておくことができるものであり,事業者は,その開示の可否及び範囲を自ら決定する権利を有しているというべきである。したがって,事業者の意思によらずその内部管理情報を公開することは,事業者の正当な期待に反し,本件金融機関情報は,本件条例7条3号の「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する。
(イ) なお,原告は,最高裁平成11年(行ヒ)第50号同14年9月12日第一小法廷判決・集民207号77頁(以下「奈良県食糧費判決」という。)を根拠に,本件金融機関情報も開示されるべきである旨主張する。
しかし,奈良県食糧費判決は,そもそも,事業者の取引態様が相手方により多様であり,それに伴って金融機関情報の管理態様もおのずと多様であるという事実を看過し,事業者の有する金融機関情報の要保護性を軽視した不当なものである上,本件金融機関情報における債権者のほとんどは,飲食料品販売業,飲料宅配業及び宿泊,宴会施設であり,その業務形態も多くの場合,不特定多数の顧客との取引よりも,ほとんどの場合,限定された相手方との継続的な取引を目的とするものであるから,本件とは事案を異にする。
また,奈良県食糧費判決の判断枠組みが本件にも当てはまるとしても,地方公共団体との取引に当たっては,ほとんどの場合,その代金支払方法として,原則として請求書の交付による後払方式を採らざるを得ないことから,本件金融機関情報に係る各債権者は,城陽市と取引関係に入るに当たり,このような特別事情のあることを認識し,これを受け入れる形で金融機関情報を記載した請求書を交付しているものであって(とりわけ,非開示箇所42-②ないし⑤及び同47-②ないし⑤に記載された金融機関情報は,スタンプ式となっている。),顧客が城陽市であるからこそ,特別に金融機関情報を開示したものであり,本件金融機関情報については,奈良県食糧費判決にいう「特段の事情」がある。
イ 本件条例7条6号該当性
本件金融機関情報は,当該債権者が日常の取引その他の業務に用いる口座を特定するものであるが,このような情報を,契約の当事者として相当程度の信頼関係に立つ取引先のみならず,広く公に開示することを認めた場合,第三者に悪用される危険は飛躍的に増大する。ことに,昨今では,ヤミ金融の手口としてのいわゆる「押し貸し」,ネットバンキング機能を利用した,他人の銀行口座から自己又は架空の銀行口座への入金詐欺,果ては他人の銀行口座を利用しての各種犯罪が急激に増加している。何より,このような情報は,偽造印影と組み合わせて悪用されることで,犯罪のおそれが増大するのみならず,その内容自体も悪質化するおそれがあり,債権者の財産上の権利が侵害される危険性の高いものである。
したがって,本件金融機関情報は,公にすることにより,債権者の財産等が犯罪の危険にさらされ,犯罪の予防,捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められる情報に当たるから,本件条例7条6号の不開示情報に該当する。
(原告の主張)
ア 奈良県食糧費判決に照らせば,本件金融機関情報は,本件条例7条3号の不開示情報に該当しない。
イ 本件金融機関情報が本件条例7条6号の不開示情報に該当するとの被告の主張は争う。
(4) 本件印影は,本件条例7条3号又は6号の不開示情報に該当するか(争点4)。
(被告の主張)
ア 本件条例7条3号該当性
現在の我が国において,あらゆる文書作成の局面で印章が重要視され,文書の成立の真正自体が印章の印影によって左右されているという現状にかんがみると,少なくとも文書の成立の真正を証明しうる程度の印影につき,これを公に開示すれば,事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれは大きい。
事業者は,金融機関情報の記載と同様に,自己の経営判断によって限定した取引において,限定された相手方に対してのみ請求書を交付し,そこに当該書面の作成の真正を証するため,その保有する印章を押捺して用いるのが通常である。本件印影も,これにより書面の成立の真正を証明するに足る種類のものである。
よって,本件印影は,本件条例7条3号の不開示情報に該当する。
イ 本件条例7条6号該当性
本件印影を開示すると,印影の偽造が誘発されるおそれが多分にあり,また,金融機関情報とあわせて開示されることにより,債権者の財産上の権利が侵害される危険性が高い。読み取り技術の発達により印影の偽造が多発している現代にあっては,特に,犯罪予防の見地からその開示には慎重であるべきである。
よって,本件印影は,本件条例7条6号の不開示情報に該当する。
(原告の主張)
ア 奈良県食糧費判決に照らせば,本件印影は,本件条例7条3号の不開示情報に該当しない。
イ 本件印影が本件条例7条6号の不開示情報に該当するとの被告の主張は争う。
第3当裁判所の判断
1 本件広報モニター住所の本件条例7条2号の不開示情報該当性(争点1)について
(1) 本件広報モニター住所は,各広報モニターの住所が,旧大字及び旧小字により表記されているものであるところ,個人の住所は,「個人に関する情報」であって,「個人が特定され得るもの」に該当する。また,旧大字及び旧小字のみで,番地等の記載がないとしても,これが公になることにより,不特定多数の者におおよその居住地域が知られることとなり,私生活の平穏が害されるおそれがあることから,本件広報モニター住所は,原則として,「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」(本件条例7条2号)に当たるというべきである。また,本件全証拠によっても,本件広報モニター住所が,同号ただし書の各除外事由に該当すると認めるに足りない。
(2) しかし,甲4によれば,文書番号1の文書に記載されている広報モニターのうち,A及びBについては,城陽市の広報誌である「広報じょうよう」(平成14年8月21日発行)に,広報モニターの身分において,その氏名と住所(旧大字及び旧小字)が掲載されたことが認められ,また,城陽市は,上記両名の住所の掲載に当たっては,それぞれその承諾を得たものである(弁論の全趣旨)。そうすると,上記両名は,広報モニターの身分において,その住所が不特定多数の者に知られることを許容していたものと認められ,このような場合には,その住所が「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」(本件条例7条2号)に当たるということはできない。したがって,本件処分のうち,A及びBの住所が記載された箇所についても,他の広報モニターの住所と同様に非開示とした部分は違法である。
(3) 以上のとおり,本件処分のうち,非開示箇所1-①ないし⑬を非開示とした部分は適法であるが,非開示箇所1-⑭,⑮を非開示とした部分は違法である。
2 本件学生等氏名の本件条例7条2号の不開示情報該当性(争点2)について
(1) 甲3の2,甲5,甲6,甲7の1ないし8及び弁論の全趣旨によれば,本件ISO認証取得事業は,官学協働方式で行われた全国的にも極めてまれなケースであるとして注目されており,本件交付式の模様は新聞各紙でも報道され,中でも洛南タイムスは,これに出席した精華大の助教授及び学生の氏名も報道していたことが認められる。
(2) 第2の3(4)イなお以下で認定した事実及び上記(1)の事実によると,本件慰労昼食会に出席した精華大の助教授及び学生は,本件ISO認証取得事業に関与し,本件交付式に出席した者と共通するものと考えられるところ,本件ISO認証取得事業が精華大の助教授及び学生の社会的評価を高めるものであったことや,本件交付式の模様はマスコミに公開され,これに出席した精華大の助教授及び学生の氏名も新聞報道により既に公表されていること,また,本件慰労昼食会が前記のような趣旨により行われたものであって,これに出席した事実を殊更に秘匿しなければならない事情もうかがわれないことに照らせば,本件学生等氏名は,「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とはいえないというべきである。
(3) そうすると,本件学生等氏名は,本件条例7条2号の不開示情報に該当せず,本件処分のうち,非開示箇所2-①ないし⑧を非開示とした部分は違法である。
3 本件金融機関情報の本件条例7条3号又は6号の不開示情報該当性(争点3)について
(1) 本件条例7条3号該当性
ア 本件条例7条3号は,法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものは,不開示情報に当たるとするが,元来は事業者が内部限りにおいて管理して開示すべき相手方を限定する利益を有する情報であっても,事業者がそのような管理をしていないと認められる場合には,これが開示されることにより正当な利益等が害されると認められることにはならないというべきである。
イ 甲3の8,27,30,39ないし42,45ないし47,49,50,55,56及び弁論の全趣旨によれば,本件金融機関情報は,飲食料品販売業者,宿泊,宴会施設を営む会社の城陽市あての請求書に各債権者が記載したもの,あるいは,城陽市収入役が,宴会,宿泊施設を営む会社あてに請求された代金を振り込みによって支払った際の振込金受取書に記載されたもの(非開示箇所8-①ないし⑫,39-①ないし⑪,45-①ないし⑬,46-①ないし⑬)であり,振込金受取書に記載されたもののうち非開示箇所45-①ないし⑬及び46-①ないし⑬は,請求書に記載されたもの(非開示箇所40-②ないし⑤,41-②ないし⑤)を城陽市収入役において転記したものであり,請求書に記載されたものは,各債権者が代金の振込送金先を指定する趣旨で記載したものであると推認することができる。なお,甲3の49,50,55によると,非開示箇所49-③ないし⑥,55-③ないし⑥は,いずれも被告が公開した平成15年2月17日付けのマルトシ珈琲株式会社の請求書に記載された取引金融機関,支店,預金の種別及び口座番号と同一のものと推認することができる。
一般的な飲食料品販売業者等ないし,宿泊,宴会施設を営む会社の業務態様をみれば,不特定多数の者を顧客とするのが通例であり,そのような業者が,代金の請求書等に口座番号等の金融機関情報を記載して顧客に交付している場合には,金融機関情報を内部限りにおいて管理することよりも,決済の便宜に資することを優先させているものと考えられ,請求書等に記載して顧客に交付することにより,金融機関情報が多数の顧客に広く知れ渡ることを容認し,当該顧客を介して更に広く知られうる状態に置いているものということができる。このような情報の管理の実態にかんがみれば,顧客が城陽市であるからこそ債権者が特別に金融機関情報を開示したなどの特段の事情がない限り,本件金融機関情報のうち請求書に記載されたもの(これを城陽市収入役が転記したものを含む。以下,同じ。)は,これを開示しても債権者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められるものには当たらないというべきである(奈良県食糧費判決参照)。
そして,本件においては,各債権者が,顧客が城陽市であるからこそ特別に請求書に記載された金融機関情報を開示したなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
ウ これに対し,非開示箇所8-①ないし⑫,39-①ないし⑪は,城陽市収入役が「プラムイン城陽」に代金を振り込みの方法によって支払った際の振込金受取書に記載されたものであるが,プラムイン城陽は,振込先の金融機関情報を請求書に記載していない(甲3の37)。
そして,事業者がどの金融機関のどの支店にいかなる種別の預金口座を有しているのかは,元来は,事業者が内部限りにおいて管理して開示すべき相手方を限定する利益を有する情報であるところ,プラムイン城陽において,上記の情報を,相手方を限定して開示していないと認めるに足りる証拠はないから,上記非開示箇所は,本件条例7条3号に該当する情報というべきであり,これを開示しないことは適法である。
エ
(ア) なお,被告は,請求書に記載された本件金融機関情報に係る債権者の業務形態は,不特定多数の顧客との取引よりも,限定された相手方との継続的な取引を目的とするものであるから,奈良県食糧費判決とは事案を異にする旨主張するが,本件における各債権者が,上記主張のような業務形態を採っているものと認めるに足りる証拠はない。
(イ) また,被告が主張するように,地方公共団体との取引に当たっては,その代金支払方法として,原則として請求書の交付による後払方式を採らざるを得ず,本件各債権者もこのような特別事情を認識した上でこれを受け入れているのであるとしても,このことから直ちに,これらの債権者が,顧客が城陽市であるからこそ特別に金融機関情報を開示したものと推認することはできない。
むしろ,上記イ掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,各債権者が請求書に記載した本件金融機関情報は,いずれも,請求書の定型用紙にあらかじめ印刷されていたものか,あるいは,金融機関情報が刻印されたスタンプを押捺することによって記載されたものと認められるところ,本件金融機関情報に係る各債権者は,代金の請求等に際し顧客に自らの金融機関情報を知らせることが日常化しているからこそ,事務の簡略化のため,事前にこのような定型用紙又はスタンプを用意しているものと考えられるのであり,各債権者は,城陽市以外の顧客に対しても,広く金融機関情報を開示していることがうかがわれる。
オ よって,本件金融機関情報(非開示箇所8-①ないし⑫,39-①ないし⑪を除く。)は,本件条例7条3号の不開示情報に該当しない。
(2) 本件条例7条6号該当性
被告は,金融機関情報を広く公に開示することを認めた場合,第三者に悪用される危険が飛躍的に増大し,債権者の財産上の権利が侵害される危険性が高いことから,本件金融機関情報は本件条例7条6号の不開示情報に該当する旨主張するところ,確かに,犯罪手口の巧妙化が進む昨今の情勢に照らせば,金融機関情報の取扱いには慎重さが求められるようになっているといわなければならない。しかし,金融機関情報が第三者に知られることによりこれが悪用されるおそれは,なお抽象的なものにとどまり,金融機関情報が開示されたとしても,このことから直ちに,債権者の財産等が危険にさらされ,犯罪の予防,捜査に支障が生じるおそれがあるとまでは認められないというべきである。
したがって,本件金融機関情報は,本件条例7条6号の不開示情報に該当しない。
(3) 以上のとおり,本件金融機関情報(非開示箇所8-①ないし⑫,39-①ないし⑪を除く。)は,本件条例7条3号及び6号の不開示情報のいずれにも該当しないから,本件処分のうち,これを非開示とした部分は違法である。
4 本件印影の本件条例7条3号又は6号の不開示情報該当性(争点4)について
(1) 本件条例7条3号該当性
ア 甲3の3ないし7,9ないし26,28ないし38,40ないし44,47ないし55,57及び弁論の全趣旨によれば,本件印影は,各債権者が,見積書,請求書等の作成に当たり,その成立の真正を証する趣旨で押捺したものと認められるところ,これが本件条例7条3号の不開示情報に該当するか否かについては,本件金融機関情報の場合と同様に解することができ,顧客が城陽市であるからこそ債権者が特別に押印したなどの特段の事情がない限り,これを開示しても債権者の正当な利益等が害されると認められるものには当たらないというべきである。
そして,本件においては,各債権者が,顧客が城陽市であるからこそ特別に請求書等に押印したなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
イ なお,被告は,特に個人業者の場合,日々の営業活動において請求書に押捺する印章と銀行印とを必ずしも区別することなく用いることもある旨主張するが,本件各債権者において,そのような事情が存するとの立証はなく,また,仮にそのような事情があるとしても,当該債権者の判断において,請求書等に押印して顧客に交付することにより,その印影が多数の顧客に広く知れ渡ることを容認し,当該顧客を介して更に広く知られうる状態に置いている以上,これを別異に解する理由はない。
ウ よって,本件印影は,本件条例7条3号の不開示情報に該当しない。
(2) 本件条例7条6号該当性
被告は,本件印影を開示すると,印影の偽造が誘発されるおそれが多分にあり,また,金融機関情報とあわせて開示されることにより,債権者の財産上の権利が侵害される危険性が高いことから,本件印影は,「犯罪の予防,捜査(中略)に支障を及ぼすおそれがあると認められる情報」に該当する旨主張するところ,確かに,印影の読み取り技術等が向上し,印影の偽造による犯罪被害も発生している現状においては,印影の取扱いには慎重さが求められるようになっているといわなければならない。しかし,文書に押捺された印影を用いて印影が偽造されるなどして悪用されることは,なお特殊なケースにとどまるものであり,印影が開示されたとしても,そのことから直ちに,犯罪の予防に支障が生じるおそれがあるとまではいえないというべきである。
また,本件印影は,前記認定のとおり,文書の成立の真正を証するために押捺されたものであり,当該債権者の日常の業務において,請求書等以外の文書にも広く押捺されていることがうかがわれ,本件印影は,城陽市以外の顧客その他の第三者にも広く知れ渡っているものと考えられるから,本件条例に基づきこれが開示されたからといって,直ちに犯罪を誘発することになるということもできない。このことは,仮に,本件印影に係る各債権者が日々の営業活動において請求書に押捺する印章と銀行印とを必ずしも区別することなく用いていたとしても,同様に解される。
したがって,本件印影は,本件条例7条6号の不開示情報に該当しない。
(3) 以上のとおり,本件印影は,本件条例7条3号及び6号の不開示情報のいずれにも該当しないから,本件処分のうち,これを非開示とした部分は違法である。
5 なお,被告は,食糧費等に関する公文書の開示請求権は,公費の使途を明らかにし,公費の支出の適正化を図るという目的達成のため,開示の必要性がある場合でなければ認められないとの趣旨と解される主張をするが,本件条例によれば,実施機関は,開示請求があった場合は,当該公文書に不開示情報が記録されているときを除き,請求者に対し,当該公文書を開示しなければならないのであり(本件条例7条),その他の各規定をみても,開示の必要性が開示請求の要件とされていないことは明らかであるから,被告の上記主張は失当である。
6 以上のとおり,本件広報モニター住所のうちA及びBの住所,本件学生等氏名,本件金融機関情報(非開示箇所8-①ないし⑫,39-①ないし⑪を除く。)及び本件印影は,本件条例7条所定の不開示情報に該当せず,原告の本訴請求は,本件処分のうち上記各情報が記載された箇所を非開示とする部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条ただし書に従い,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 下馬場直志 裁判官 財賀理行)
別紙は省略