京都地方裁判所 平成15年(行ウ)1号 判決
主文
1(1) 被告は,別紙1-1「請求一覧表(会派)」の「相手方」欄中「日本共産党宇治市会議員団構成員」欄記載の相手方各自に対し,金12万7899円を請求せよ。
(2) 被告は,別紙1-1「請求一覧表(会派)」の「相手方」欄中「自民党市民クラブ構成員」欄記載の相手方各自に対し,金2110円を請求せよ。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,別紙1-1「請求一覧表(会派)」及び別紙1-2「請求一覧表(個人)」の各「相手方」欄記載の各相手方に対し,これに対応する各表の「請求額」欄記載の各金員(ただし,「民主市民ネット構成員」,「日本共産党宇治市会議員団構成員」,「自民党市民クラブ構成員」,「公明党宇治市議会議員団構成員」,「社会議員団構成員」及び「新世会議員団構成員」欄記載の各相手方については,各自に対し,当該会派に対応する別紙1-1「請求一覧表(会派)」の同表「請求額」欄記載の各金員)をそれぞれ請求せよ。
第2事案の概要
1 本件は,宇治市議会の平成13年当時の6会派(以下「本件各会派」という。)及び別紙1-2「請求一覧表(個人)」の「相手方」欄記載の6議員(以下「本件各議員」という。)が,宇治市議会政務調査費の交付に関する条例(以下「本件条例」という。)に基づき交付を受けた平成13年度の政務調査費を,宇治市議会政務調査費の交付に関する条例施行規則(以下「本件規則」という。)に定める使途基準に違反し,調査研究活動に要する経費以外に使用して,当該支出分を利得し,一方,宇治市は同額の損失を被ったと主張して,宇治市の住民である原告が,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,本件各会派の構成員であった者及び本件各議員(以下「本件各相手方」という。)に不当利得返還請求をすることを求める住民訴訟である。
2 争いのない事実
(1)ア 原告は,宇治市の住民である。
イ 本件各議員は,平成13年当時,宇治市議会の議員であった者である。
また,平成13年当時,宇治市議会には,民主市民ネット,日本共産党宇治市会議員団(以下「共産党議員団」という。),自民党市民クラブ,公明党宇治市議会議員団(以下「公明党議員団」という。),社会議員団及び新世会議員団の6会派(本件各会派)が存在し,それぞれ,別紙1-1「請求一覧表(会派)」の「相手方」欄中当該会派欄記載の議員によって構成されていた。
(2)ア 宇治市は,平成12年,法100条12項及び13項(平成14年3月法律第4号による改正前のもの。改正後は,1項ずつ繰り下げられ,13項及び14項となっている。以下,同条項については,現在の条文番号により表記する。)の規定を受けて,本件条例及び本件規則を制定し,これらの規定に従い,平成13年度以降,同市議会の会派及び議員に対し,政務調査費を交付することとした。
イ 宇治市は,本件各会派及び本件各議員を含む23名の宇治市議会議員に,その申請に基づき,平成13年度の政務調査費として別紙2「政務調査費一覧表」の「交付申請額」欄記載の金額を交付した。
ウ 本件各会派及び上記23名の議員は,別紙2「政務調査費一覧表」の「報告日」欄記載の日に,宇治市議会議長に対し,交付を受けた政務調査費の使用に関する実績報告書を提出し,剰余金が発生している場合にはこれを宇治市に返還した。これによって,本件各会派及び上記の各議員についての平成13年度の政務調査費の金額が同表「交付確定額」欄記載のとおりと確定した。
(3) 原告は,平成14年10月7日,宇治市監査委員に対して,政務調査費を調査研究活動に要する経費以外の使途に充てた会派及び議員に不当利得返還請求をすべきことなどを内容とする監査請求を行った。監査委員は,同年12月5日付けで,政務調査費の使途について疑問を抱かざるを得ないものがあるとして,被告に対し,議会との間で使途基準の具体化等について調整を図るよう要望するとしたが,不当利得返還請求を求める点については,直ちに理由があるとするまでの判断には至らないとして,監査請求を棄却し,原告は,同月6日,その通知を受領した。
(4) 本件各会派は,平成15年4月,宇治市議会議員選挙が行われたことに伴い消滅した。
3(1) 本件条例の関係規定は,次のとおりである。
第1条(趣旨)
この条例は,地方自治法(中略)第100条第13項及び第14項の規定に基づき,宇治市議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として政務調査費を交付するについて必要な事項を定めるものとする。
第2条(交付対象)
政務調査費は,宇治市議会における会派(2人以上の所属議員で構成される議員組織をいう。以下同じ。)及び議員に対して交付する。
第3条(会派に対する政務調査費)
会派に対する政務調査費は,当該会派の所属議員数に30,000円を乗じて得た額を月額とする。
(以下省略)
第4条(議員に対する政務調査費)
議員に対する政務調査費は,20,000円を月額とする。
(以下省略)
第5条(使途基準)
政務調査費は,規則で定める使途基準に従って使用するものとし,議員の調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならない。
第8条(政務調査費の返還)
(中略)
2 交付された政務調査費に剰余金が生じたときは,(中略)当該剰余金を返還しなければならない。
第10条(委任)
この条例に定めるもののほか,政務調査費の交付に関し必要な事項は,規則で定める。
(2) 本件規則の関係規定は,次のとおりである。
第1条(趣旨)
この規則は,宇治市議会政務調査費の交付に関する条例(中略)第10条の規定に基づき,政務調査費の交付について必要な事項を定めるものとする。
第8条(使途基準)
条例第5条に規定する政務調査費の使途基準は,別表第1及び別表第2のとおりとする。
第10条(返還の指示)
議長は,政務調査費の交付を受けた会派又は政務調査費の交付を受けた議員が当該政務調査費を議員の調査研究に資するため必要な経費以外のものに充てたと認めるときは,当該政務調査費の全部又は一部を市長へ返還することを指示することができる。
別表第1
会派に対する政務調査費の使途基準
項目
内容
研究研修費
会派が開催する研究会若しくは研修会に要する経費又は他の団体等が開催する研究会若しくは研修会への会派の所属議員の参加に要する経費(会場賃借費,講師謝礼,出席者負担金,会費,交通費,旅費,宿泊費等)
調査費
会派が行う調査研究活動に必要な先進地調査又は現地調査に要する経費(交通費,旅費,宿泊費等)
資料購入費
会派が行う調査研究活動に必要な図書,資料等の購入に要する経費
広報費
会派が行う調査研究活動若しくは議会活動又は市の政策について,市民に対して会派が行う報告又は広報に要する経費(広報紙,報告書等の印刷費及び送料,会場賃借費等)
事務費
会派が行う調査研究活動に必要な事務に要する経費(事務用品購入費,備品購入費,事務機器のリース料,通信費,燃料費等)
その他の経費
その他会派が行う調査研究活動に要する経費
(注) 会派に対する政務調査費は,次の各号に掲げる経費に充てることができない。
(1) 交際的経費(慶弔費,せん別金,病気見舞金等)
(2) 政党活動に要する経費(党費,党大会参加費,機関紙印刷・製本費等)
(3) 選挙運動に要する経費
(4) 海外視察に要する経費
別表第2
議員に対する政務調査費の使途基準
項目
内容
研究研修費
議員が開催する研究会若しくは研修会に要する経費又は他の団体等が開催する研究会若しくは研修会への議員の参加に要する経費(会場賃借費,講師謝礼,出席者負担金,会費,交通費,旅費,宿泊費等)
調査費
議員が行う調査研究活動に必要な先進地調査又は現地調査に要する経費(交通費,旅費,宿泊費等)
資料購入費
議員が行う調査研究活動に必要な図書,資料等の購入に要する経費
広報費
議員が行う調査研究活動若しくは議会活動又は市の政策について,市民に対して議員が行う報告又は広報に要する経費(広報紙,報告書等の印刷費及び送料,会場賃借費等)
事務費
議員が行う調査研究活動に必要な事務に要する経費(事務用品購入費,備品購入費,事務機器のリース料,通信費,燃料費等)
その他の経費
その他議員が行う調査研究活動に要する経費
(注) 議員に対する政務調査費は,次の各号に掲げる経費に充てることができない。
(1) 交際的経費(慶弔費,せん別金,病気見舞金,名刺印刷費等)
(2) 政党活動に要する経費(党費,党大会参加費,機関紙印刷・製本費等)
(3) 選挙運動に要する経費
(4) 海外視察に要する経費
4 争点及び争点についての当事者の主張
本件各相手方は,宇治市より交付された政務調査費を,本件規則別表第1及び別表第2の定める使途基準(以下「本件使途基準」という。)に違反する使途に使用したかどうか。
本件使途基準に反する使途に政務調査費を使用した場合,その使用額を不当利得として宇治市に返還すべき義務を負うか。
(原告の主張)
(1) 政務調査費は,会派又は議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として交付されるものであり,本件規則において,その使途基準(本件使途基準)が定められているが,本件各会派及び本件各議員による下記(2)の各支出は,これに違反しており,ひいては,本件条例に違反するものである。
政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,これを調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならず,剰余金が生じたときは速やかに宇治市に返還しなければならないから,これを調査研究活動に要する経費以外の使途に充てたときには,その相当額を法律上の原因なくして利得し,その結果,宇治市は同額を損失していることになる。したがって,本件各会派を構成していた者及び本件各議員は,それぞれ,各支出相当額を不当利得として宇治市に返還すべき義務を負う。
なお,平成15年1月16日,その当時の宇治市議会の会派の幹事会は,政務調査費の使途基準について,別紙3のような申合せ(以下「本件申合せ」という。)をしている。これ自体は,法的な規範性を有するものではないが,その内容は,宇治市議会の各会派及び議員が,自らの利益保護を考慮し,政務調査費の意義及び算定基準を最大限緩やかに解したものであって,客観的には,政務調査費として支出が認められるのは,これよりも厳しい基準によるものと解される。
(2)ア 民主市民ネット
(ア) 民主市民ネットは,平成13年10月15日から同月17日まで,長崎市及び佐世保市に,「先進市視察等」,「他市の議会活動の実態調査」の目的で視察を行い,その費用として旅行会社に支払った86万2004円及び昼食代5775円(合計86万7779円),訪問先への土産代1万4700円並びに長崎孔子廟中国歴代博物館入館料3675円を同年度の政務調査費から支出している。
しかし,視察の費用として,「宇治市議会の議員の報酬及び費用弁償等に関する条例」(以下「旅費条例」という。)の定める基準は,社会通念上妥当な基準であり,本件申合せにおいても,旅費条例の基準によることとされている。したがって,旅費条例の基準を超えて視察旅費等を政務調査費から支出することは許されない。そして,旅費条例の定める基準では,同じ旅程での宿泊費及び日当は30万8800円,交通費実費は39万2000円の合計70万0800円であるから,これを超える16万6979円は,違法な支出である。
また,土産代は,政務調査との関係が認められず,本件使途基準が支出を認める項目のいずれにも該当しない。行政機関の間で,資料提供やヒアリングを行うことは,公的な共助として,当然に受け入れて協力すべきものであり,土産を持参することを要する関係ではない(土産を持参することが礼儀であると考えるのであれば,個人的に負担すべきものである。)。
更に,長崎孔子廟中国歴代博物館の入館は,上記視察旅行の目的外の行動であるから,その入館料を政務調査費から支出することも認められない。
(イ) よって,民主市民ネットが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち,上記の合計18万5354円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,民主市民ネットの構成員であった者は,同額を宇治市に返還する義務を負う。
イ 共産党議員団
(ア) 共産党議員団は,市政及び市議会の報告のための広報宣伝活動に使用しているとして,議員団車のガソリン代2万4301円,軽自動車税4000円,車検代11万5724円及び保険料2万5060円を平成13年度の政務調査費から支出している。しかし,議員団車は,政党活動及び選挙運動にも使用されており,車の維持経費や保険料は,政務調査との関連性がなく,これらの支出は,議員の調査研究に資するため必要な経費に充てたものとはいえない。
仮に,議員団車が政党活動等に使用されていないとしても,議員団車の関係費用として,政務調査費から支出が認められるのは,調査目的の運行のためのガソリン代が限度であり,軽自動車等の維持管理に要する費用は,本件使途基準にいう「事務費」の概念を超えるものであり,これらに政務調査費を支出することは許されていない。
(イ) 共産党議員団は,平成13年度の政務調査費から「赤旗」の購読料5万1600円を支出している。しかし,会派ないし会派の議員の所属する政党の機関誌を購入することは,その政党を経済的に支援し,また,政党の方針及び意向を学習するためであるから,その購読料は,本件使途基準で政務調査費を充てることができないとされている「政党活動に要する経費」に当たる。したがって,共産党議員団が,共産党の機関誌である「赤旗」の購読料を政務調査費から支出することは許されない。
(ウ) よって,共産党議員団が支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち,上記の合計22万0685円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,共産党議員団の構成員であった者は,同額を宇治市に返還する義務を負う。
ウ 自民党市民クラブ
(ア) 自民党市民クラブは,平成13年度において,「研究研修費」として合計13万1660円を政務調査費から支出しているが,そのうち,平成13年4月3日に行われたひまわり会との合同研修会費(6000円)以外は,単なる会議の費用にすぎない。とりわけ,平成13年5月17日,20日及び21日の会議は,公明党議員団及び新世会議員団との議会人事のためのものにすぎない。
政務調査費を研究会や研修会等に要する費用に充てることが認められるのは,その研究会や研修会等が調査研究の目的を有している場合に限られ,単なる会議に要する費用に充てることは許されないから,上記13万1660円のうち12万5660円は,違法な支出である。
(イ) 自民党市民クラブは,平成13年8月7日から同月9日まで,川越市,さいたま市等に視察(4名参加)を行い,その費用として旅行会社に一括して支払った代金及び飲食代の合計33万9914円を平成13年度の政務調査費から支出している。しかし,旅費条例の定める基準では,同じ旅程での宿泊費及び日当は15万4400円,交通費実費は11万3520円の合計26万7920円であるから,これを超える7万1994円は,違法な支出である。
また,自民党市民クラブは,平成14年2月19日及び同月20日,倉敷市及び呉市に視察(6名参加)を行い,その費用として旅行会社に一括して支払った代金及び飲食代の合計29万4909円を政務調査費から支出している。しかし,旅費条例の定める基準では,同じ旅程での宿泊費及び日当は12万4800円,交通費実費は15万4260円の合計27万9060円であるから,これを超える1万5849円は,違法な支出である。
自民党市民クラブは,上記各視察の際の土産代合計2万1000円を政務調査費から支出しているが,これが,政務調査費を充てることができないものであることはア(ア)と同様である。
(ウ) 自民党市民クラブは,平成13年度の政務調査費から,コーヒー豆代として3781円を支出している。これは,個人の嗜好品に対する支出であって,政務調査との関係が認められないものであり,本件使途基準上使用が認められている項目のいずれにも該当せず,むしろ,本件使途基準で充てることができないとされている「交際的経費」に当たる。
(エ) 自民党市民ネットは,平成13年度の政務調査費から,自民党の機関誌である「りぶる」及び「自由民主」の購読料として2万6600円を支出している。しかし,これが許されないことは,イ(イ)と同様である。
(オ) よって,自民党市民クラブが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち上記の合計26万4884円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,自民党市民クラブの構成員であった者は,同額を宇治市に返還する義務を負う。
エ 公明党議員団
(ア) 公明党議員団は,平成13年度の政務調査費から,同年13年5月17日,同月20日及び同月21日に行った会議の費用8411円並びに同年12月24日及び平成14年1月20日に行った団会議の費用4326円を「研究研修費」として支出している。しかし,前者の会議は,自民党市民クラブ及び新世会議員団との議会人事のためのものであり,後者も単なる会議であるから,ウ(ア)と同様,その費用は議員の調査研究に資するため必要な経費には当たらず,これを政務調査費から支出することは許されない。
(イ) 公明党議員団は,平成13年5月31日及び同年6月1日,東京都に視察(4名参加)を行い,その宿泊飲食費として11万6544円を平成13年度の政務調査費から支出している。しかし,旅費条例の定める基準では,同じ旅程の宿泊費及び日当は,8万3200円であるから,これを超える3万3344円は,違法な支出である。
また,公明党議員団は,平成14年2月12日から同月14日まで,北九州市及び湯布院町に視察(4名参加)を行い,その費用として旅行会社に一括して支払った代金及び飲食代の合計33万9888円を政務調査費から支出している。しかし,旅費条例の定める基準では,同じ旅程での宿泊費及び日当は15万4400円,交通費(実費)は12万円の合計27万4400円であるから,これを超える6万5488円は,違法な支出である。
(ウ) 公明党議員団は,平成13年度の政務調査費から,お茶,お菓子代として4万1382円,食器洗剤代等として382円を「事務費」として支出しているが,これらは,政務調査との関係が認められないもので,本件使途基準上使用が許される項目のいずれにも該当しない。
(エ) 公明党議員団は,平成13年度の政務調査費から,公明党の機関誌である「公明新聞」の購読料として4万5380円を支出している。しかし,これが許されないことはイ(イ)と同様である。
(オ) よって,公明党議員団が支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち上記の合計19万8713円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,公明党議員団の構成員であった者は,同額を宇治市に返還する義務を負う。
オ 社会議員団
(ア) 社会議員団は,平成13年9月3日から同月5日まで,広島市及び光市に視察(2名参加)を行い,その宿泊飲食費7万8950円を平成13年度の政務調査費から支出している。しかし,旅費条例の定める基準では,同じ旅程での宿泊費及び日当は7万7200円であるから,これを超える1750円は,違法な支出である。
(イ) 社会議員団は,平成13年度の政務調査費からお茶代6300円を支出しているが,これは,政務調査との関係が認められないもので,本件使途基準上使用が許される項目のいずれにも該当しない。
(ウ) 平成13年度の政務調査費から,新社会党中央本部の機関紙である「週刊・新社会」の購読料として7200円を支出している。しかし,これが許されないことはイ(イ)と同様である。
(エ) よって,社会議員団が支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち上記の合計1万5250円,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,社会議員団の構成員であった者は,同額を宇治市に返還する義務を負う。
カ 新世会議員団
(ア) 新世会議員団は,会議費用13万5230円を平成13年度の政務調査費から支出しているところ,同年5月17日,同月20日及び同月21日の会議は,自民党市民クラブ及び公明党議員団との議会人事のための会議であり,その他の「団会議」も二人だけで,大津市所在のリゾートホテル「ロイヤルオーク」を使用して行ったものであるから,政務調査との関係は認められず,これらの費用を政務調査費から支出することは許されない。
(イ) 新世会議員団は,平成13年7月17日から同月19日まで,苫小牧市及び伊達市に視察(2名参加)を行い,その費用として旅行会社に一括して支払われた代金及び飲食代の合計20万3799円を政務調査費から支出している。しかし,旅費条例の定める基準では,同じ旅程での宿泊費及び日当は7万7200円,交通費(実費)は12万6120円の合計20万3320円であるから,これを超える479円は,違法な支出である。
(ウ) 新世会議員団は,平成13年度の政務調査費から,室内装飾費2100円を支出しているが,これは,政務調査との関係が認められないもので,本件使途基準上使用が許される項目のいずれにも該当しない。
(エ) よって,新世会議員団が支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち上記の合計13万7809円は,調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,新世会議員団の構成員であった者は,同額を宇治市に返還する義務を負う。
キ A
Aは,平成13年度の政務調査費から原動機付自転車のガソリン代及びタクシー代として8515円及び2万6130円を支出しているが,それらの少なくとも半分(合計1万7322円)は政務調査と無関係な支出である。
よって,Aが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち,上記1万7322円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,Aは,同額を宇治市に返還する義務を負う。
ク B
(ア) Bは,平成13年度の政務調査費から,平成14年2月21日に行われた地域生活支援セミナーの参加費二人分2600円及び平成13年12月12日の同セミナー出席の際の駐車料金1700円を「研究研修費」として支出している。しかし,上記参加費のうち一人分1300円は過剰なものであり,駐車料金も,上記セミナーへの参加と無関係(提出されている領収証の日付は平成13年12月1日となっており,上記セミナーの開催日とは異なっている。)な支出である。
(イ) Bは,平成13年8月30日及び同月31日,東京都大田区で視察調査を行い,その費用を同年度の政務調査費から支出している。しかし,その費用のうち,土産代1万5225円は,ア(ア)のとおり,政務調査費から支出することが許されないものであり,食事代2583円も政務調査とは無関係である。
(ウ) Bは,平成13年度の政務調査費から,後援会事務所の電話料金全額3万1913円を「事務費」として支出しているが,後援会事務所の電話を政務調査に利用したとしても,その利用分は,半分を超えることはないから,少なくとも上記の半額の1万5956円は,政務調査と関係のないものである。
(エ) よって,Bが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち上記の合計3万6764円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,Bは,同額を宇治市に返還する義務を負う。
ケ C
Cは,平成13年度の政務調査費から,議員連盟研修会費1000円及び私立幼稚園振興会研修会費3000円を「研究研修費」として支出しているが,前者は「衆議院議員Zを励ます議員連盟」によるものであり,同連盟の趣旨からして,後者は「振興会費」であって,研修会参加費としての支出ではなく,共に政務調査との関連性がないものである。
よって,Cが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち,上記の合計4000円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,Cは,同額を宇治市に返還する義務を負う。
コ D
Dは,平成13年度の政務調査費から,ガソリン代5万0567円を「事務費」として支出しているが,そのうちの少なくとも半分(2万5283円)は政務調査と無関係である。
よって,Dが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち,上記2万5283円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,Dは,同額を宇治市に返還する義務を負う。
サ E
Eは,平成13年度の政務調査費から,宇治日中友好議員懇話会及び大久保駐屯地新年交礼会の各会費各4000円を「研究研修費」として支出し,京都新聞の購読料7万3260円を「資料購入費」として支出している。しかし,前者の各会費は,本件使途基準で充てることができないとされている「交際的経費」に当たり,京都新聞は,Eと他の一人の議員で構成される新世会議員団も会派として購読しているから,更に個人としての購読料を政務調査費から支出することは濫費に当たり,いずれも許されない。
よって,Eが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち,上記の合計8万1260円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,Eは,同額を宇治市に返還する義務を負う。
シ F
(ア) Fは,平成13年度の政務調査費から,宇治市国際親善協会会費2000円,宇治日中友好議員懇話会会費1万円,大久保駐屯地新年交礼会会費4000円及び関友会の年会費3000円を「研究研修費」として支出している。しかし,これらはいずれも「交際的経費」であって,政務調査との関連性がない。
(イ) Fは,平成13年度の政務調査費からガソリン代3万6635円を「事務費」として支出しているが,そのうちの少なくとも半分(1万8317円)は政務調査と無関係である。
(ウ) よって,Fが支給を受けた平成13年度の政務調査費のうち,上記の合計3万7317円は,議員の調査研究に資するため必要な経費以外に充てたものであるから,Fは,同額を宇治市に返還する義務を負う。
(被告の主張)
(1) 政務調査費が法制化されるに至った経緯に照らせば,法100条13項にいう「議員の調査研究に資するための経費」とは,単に調査研究に直接用いられる費用に限られるものではなく,議会の活性化を図り,住民の要望を市政に反映する過程において行われる議員の調査活動の基盤を充実させるために用いられる費用を広く含むというべきである。そして,原告が調査研究活動に要する経費以外の使途に充てたものと主張する支出については,下記(2)のとおり,いずれも本件使途基準に従ったものである。
なお,本件申合せは,政務調査費の使途・運用について,より透明性を高めるため,平成14年度以降の政務調査費の使途・運用について申し合わせたものであって,平成13年度の政務調査費の使途・運用に関する基準ではなく,本件条例及び本件使途基準の解釈の指針となるものではない。
(2)ア 視察旅費,土産代,食事代等(民主市民ネット,公明党議員団,社会議員団,新世会議員団,B)について
(ア) 視察費用
旅費条例は,旅費額を定額で算定するので,実際にかかった費用を超えても支払われ,また,日当が加算されるが,政務調査費は,トータルの限度額はあるものの,個別の使途についての金額制限はなく,かかった実際の費用を対象としている。視察費用が旅費条例の基準を超えているからといって,直ちに本件使途基準に違反するということはできない。
(イ) 土産代
視察先の行政機関から,通常の業務を超えて,資料の提供,案内や説明等を受けるに当たり,心ばかりの土産を持参することは,常識の範囲内であり,調査活動に関連する費用である。また,「交際的経費」とも性格を異にする。
(ウ) 長崎孔子廟中国歴代博物館入館料(民主市民ネット)
先進地調査において,博物館,美術館,記念館,歴史的な施設等を視察し,また,展示物を見学することは,施設と調和した街づくりという観点からみて必要な見聞である。
(エ) 食事代(B)
視察に伴うものであり,本件使途基準にいう「調査費」に当たる。
イ 議員団車関係費用,ガソリン代,タクシー代(共産党議員団,A,D,F),電話代(B)について
共産党議員団が使用している自動車は,政党の広報活動には使用されておらず,住民の要望を聞いたり,街頭での広報活動を行ったりする会派活動に使用されている。したがって,そのガソリン代,維持費,保険料等は,本件使途基準にいう「事務費」に当たる。
また,A,D及びFのガソリン代及びタクシー代も,地域における議員活動のためのオートバイなどの燃料費やタクシー代は,本件使途基準が明記しているところであり,半分に限る理由はない。
更に,Bの電話料金は,本件使途基準の「事務費」で例示されている通信費に当たり,半分に制限する理由はない。
ウ 政党の発行する新聞雑誌等の購読料(共産党議員団,自民党市民クラブ公明党議員団,社会議員団)について
「赤旗」,「りぶる」及び「自由民主」,「公明新聞」,「週刊・新社会」の購読料は,いずれも本件使途基準にいう「資料購入費」に当たる。会派の議員が所属する政党の発刊する新聞,雑誌等についても,それを購読することが,直ちに「政党活動」に当たるとはいえず,購読料を「政党活動に要する経費」であるとして排除すべき理由はない。
エ 会議費用(自民党市民クラブ,公明党議員団,新世会議員団)について
本件使途基準にいう「研究研修費」の「研究会」及び「研修会」の文言は,いわゆる勉強会等に限ることを想定しているものではなく,会派の団会議や会派間の会議(住民の要望をふまえた施策のための調整,議会人事等の会議)の費用もこれに含まれる。
なお,原告は,新世会議員団の会議場所がリゾートホテル「ロイヤルオーク」であることを問題とするが,本件条例等に会議場所についての制限はなく,同ホテルでの会議費用は金額からみても常識の範囲内である。
オ 茶,コーヒー豆代,洗剤代,室内装飾費(自民党市民クラブ,公明党議員団,新世会議員団)について
会議の実施場所でもあり,外来客を応接する会派控室におけるコーヒー代,お茶代,お菓子代及び食器洗剤代であり,議員個人の嗜好のための費用ではないから,会議等に付随する費用として,本件使途基準にいう「事務費」に当たる。
また,室内装飾費も,来客を予定する会派控室に花を飾った費用であり,金額もわずかであって,常識の範囲内である。
カ その他
(ア) 地域生活支援セミナー参加費及び駐車料金(B)について
領収証には二人分となっているが,政務調査費は一人分のみを受けている。
地域生活支援セミナーは,駐車料金の領収証の日付と同じ平成13年12月1日に行われたもので,参加費は後日支払ったため,領収証にはその支払日が記載されているものである。
(イ) 議員連盟研修会費,私立幼稚園振興会研修会費(C)について
前者は,党員でない者も参加する,政治や行財政関係の研修会への参加費であり,本件使途基準が禁止する「政党活動に要する経費」には該当しない。
後者も,少子化の中で私立幼稚園の現状や課題,幼稚園教育に関する意見や情報を交換をする研修会の参加費であり,本件使途基準に違反しない。
(ウ) 宇治日中友好議員懇話会会費(E,F)について
宇治市が友好都市盟約を締結している中国咸陽市と,議員として友好交流を進めていくための意見交換や情報交換を行う会の会費であり,本件使途基準にいう「研究研修費」に当たる。また,これが「交際的経費」に当たるともいえない。
(エ) 大久保駐屯地新年交礼会会費(E,F)について
自衛隊に基地周辺住民などから受ける意見や要望をふまえ,自衛隊幹部等と意見交換や情報交換を行う機会になっている会の会費であり,本件使途基準にいう「研究研修費」に当たる。また,これが「交際的経費」に当たるともいえない。
(オ) 宇治市国際親善協会会費,関友会年会費(F)について
宇治市国際親善協会は,宇治市がカナダのカムループス市,中国咸陽市等と友好都市の盟約を締結していることから,市民が積極的に国際交流を進め,そのために意見や情報を交換する民間団体であり,その会費は,本件使途基準にいう「研究研修費」に当たる。また,これが「交際的経費」に当たるともいえない。
関友会は,自衛隊に関する情報を発信する機関誌を発行している会であり,その会費は,本件使途基準にいう「研究研修費」に当たる。また,これが「交際的経費」に当たるともいえない。
(カ) 「京都新聞」購読料(E)について
会派の購入と議員個人の購入とは別個の費用であり,重複の請求とはいえない。
第3当裁判所の判断
1(1) 証拠(乙1ないし乙8,乙11)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
従前,多くの地方自治体で,議会における会派の行う活動は議会活動そのものではないものの,会派として行う様々な調査研究活動の成果が政策提言や予算要望等,住民要望の実現のために生かされており,これらの会派活動には公益性があるとの考えに基づき,議会における会派に対し,法232条の2の規定を根拠として,調査研究費等の名称で補助金が交付されており,宇治市においても,交付要綱等を定め,会派に対して,「市政調査研究費」が交付されていた。
もっとも,上記のような補助金としての調査研究費は,その法的位置づけがあいまいであるなどの問題があったことから,全国都道府県議会議長会や全国市議会議長会等が,会派又は議員の調査研究活動の基盤を充実させ,ひいては地方議会の権限強化と活性化を図るため,その法的位置づけを明確にするよう強く要望していた。
上記の要望を受けて,平成12年5月法律第89号により,政務調査費について定めた法100条12項及び13項(当時,現在は13項及び14項)が追加され,同条項は,平成13年4月1日から施行されて,平成13年度以降,条例の定めるところにより,議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付できることとなった。
(2) 法100条13項は,政務調査費の使途について,「議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として」という以上に,具体的な内容を明確にしていない。これは,各地の実情に応じた運用を図るべく,各地方自治体の議会が定める条例にその具体化を委ねることとしたものと解される。したがって,政務調査費の使途については,法の趣旨に反しない限りにおいて,各自治体における条例の定めるところに従うものと解するのが相当である。
(3) 本件条例5条は,政務調査費の使途について,本件規則に定める使途基準に従うものとしており,本件使途基準は,使用が許される支出項目として,「研究研修費」,「調査費」,「資料購入費」,「広報費」,「事務費」及び「その他の経費」の6項目を挙げ,それぞれについてその内容を説明,例示するとともに,使用が禁止される支出項目として,「交際的経費」,「政党活動に要する経費」,「選挙運動に要する経費」及び「海外視察に要する経費」の4項目を挙げているところ,これは,法100条13項にいう「議員の調査研究に資するため必要な経費」の内容を具体化し,あるいは一部限定的に解釈したものであって,法の趣旨に反するものでないことは明らかである。したがって,宇治市において,政務調査費の交付を受けた会派又は議員がこれを充てることができる支出項目については,本件使途基準に従って判断すべきである。
(4) そして,本件規則は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員がこれを調査研究に資するため必要な経費以外のものに充てたときは,議長がその全部又は一部を市長へ返還することを指示することができる旨規定するのみで(本件規則10条),議長の指示がない場合の取扱いについては何ら規定していないが,剰余金が生じた場合の返還義務を定める本件条例8条2項の規定に照らせば,政務調査費を本件使途基準に反する使途に充てた会派又は議員がこれを保持する法律上の理由はないというべきであるから,議長の指示がない場合には,会派又は議員は,民法の規定に基づき,本件使途基準に反する使途に充てた額に相当する金員について,宇治市に対し,不当利得返還義務を負うというべきである。
2 以下,本件各会派及び本件各議員の各支出項目が本件使途基準に反するか,個別に検討する。
(1) 視察旅費,土産代,食事代等の支出について
ア(ア) 民主市民ネット
証拠(甲8の4,5,13)及び弁論の全趣旨によると,民主市民ネットは,平成13年10月15日から同月17日まで,長崎市及び佐世保市(8名参加)に視察に赴き,その費用として,旅行代理店に対する旅費等支払86万2004円,昼食代5775円,土産(茶)の購入費1万4700円,長崎孔子廟中国歴代博物館入館料(7名分)3675円などを,平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
(イ) 自民党市民クラブ
証拠(甲10の18ないし24,27,28,30,35,37ないし43,乙14の1,証人C)及び弁論の全趣旨によると,自民党市民クラブは,平成13年8月7日から9日まで,川越市,さいたま市及び東京都(4名参加)に,平成14年2月19日及び20日,倉敷市及び呉市(6名参加)にそれぞれ視察に赴き,前者の視察のための費用として,旅行代理店に対する旅費等29万2125円,食事代及び喫茶代4万7789円,視察先への土産(茶)の購入費1万0500円などを,後者の視察のための費用として,旅行代理店に対する旅費等27万5448円,食事代及び喫茶代2万0091円,視察先への土産(茶)の購入費1万0500円などを,それぞれ平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
(ウ) 公明党議員団
証拠(甲11の10ないし17,19,21,乙12,証人G)及び弁論の全趣旨によると,公明党議員団は,平成13年5月31日及び6月1日,東京都(4名参加)に,平成14年2月12日から14日まで,北九州市及び大分県湯布院町(4名参加)にそれぞれ視察に赴き,前者の視察のための費用として,飲食代2万2491円,視察先への土産(茶)の購入費1万3500円を含む合計30万8452円,後者の視察のための費用として,飲食代9万3146円,視察先への土産(茶)の購入費9030円を含む合計39万5788円を,それぞれ平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
(エ) 社会議員団
証拠(甲13の7ないし13)及び弁論の全趣旨によると,社会議員団は,平成13年9月3日から5日まで,広島市,柳井市及び光市(2名参加)に視察に赴き,その費用として,昼食代3990円,視察先への土産(茶)の購入費1万6000円を含め,宿泊料,宿泊の際の飲食代など合計15万5391円を,平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
(オ) 新世会議員団
証拠(甲14の11ないし17,19,20,乙13,証人F)及び弁論の全趣旨によると,新世会議員団は,平成13年7月17日から19日まで,登別市,苫小牧市及び伊達市(2名参加)に視察に赴き,その費用として,宿泊費及び飲食代の合計20万3799円を,平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
(カ) B
証拠(甲22の20,21)及び弁論の全趣旨によると,Bは,平成13年8月30日及び31日,東京に視察に赴くに当たって,視察先への土産を購入し,また,視察中に食事をして,それらの代金合計1万7808円を,平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
イ(ア) 他の地方自治体等を訪問し,その様々な運用状況等(特定の調査項目がある場合にはその調査項目)について視察を行うことは,会派ないし議員としての調査活動であることが明らかであって,それに要する費用は,本件使途基準にいう「調査費」に該当すると解される。
(イ) これに関し,原告は,まず,同一の旅程において旅費条例の規定上支給される宿泊費及び日当と交通費実費の合計額を超える視察費用は,政務調査費から支出することは許されない旨主張する。
確かに,このような視察旅費についても,その旅費等を旅費条例の規定する金額の範囲内にとどめることは,政務調査費の使途及び金額を透明なものとし,その相当性を担保することにもなり,望ましいことではある。前記認定のとおり,本件申合せにおいて,調査研究活動に必要な旅費等は旅費条例及び宇治市職員旅費条例に定める額を基準とすることとされているのも,そのことが考慮されたものと解される。
しかし,本件使途基準には,「調査費」として支出することができる金額の上限について何ら定められていないから,調査研究活動に必要な先進地調査又は現地調査に要する経費として支出され,その目的の範囲内のものであると認められる限りは,旅費条例の規定する金額を超えた場合にその超過額が本件使途基準に反する支出となるものと解することはできず(社会通念上著しく高額であったり,視察のための費用としては不相当な項目に金銭が支出されている場合に,社会通念上の相当額を超える部分,あるいは不相当な項目についての支出が,本件使途基準に反することは別である。),旅費条例の規定による金額を超えた部分が,それだけで本件使途基準に反するものということはできない(本件申合せは,そもそも,平成14年度以降に適用されるものである上,これに反する支出であっても,直ちに本件使途基準に反することにはならない。)。
(ウ) 原告は,また,上記支出のうち,土産の購入代金は,「交際的経費」に当たり政務調査費から支出することが許されないものである旨主張する。
しかし,このような視察先への土産は,視察への協力に対する謝礼としての意味を有するものと解され,社会通念上適正な範囲内のものであれば,これを「交際的経費」ということはできず,先進地調査又は現地調査に要する経費として,本件使途基準にいう「調査費」に該当するというべきである。
そして,上記アの各土産代は,その土産の内容,金額に照らして,社会通念上適正な範囲内のものと認められるから,上記土産代の支出は,いずれも本件使途基準に反するとはいえない。
(エ) 更に,長崎孔子廟中国歴代博物館の見学も,宇治市の文化,観光,街づくりなどの政策立案等に当たり有益でないとはいえず,その入館料も本件使途基準にいう「調査費」に該当するということができる。
(2) 議員団車関係費用,ガソリン代,タクシー代(共産党議員団,A,D,F),電話代(B)
ア(ア) 共産党議員団
証拠(甲9の8,43,44,45,47ないし49,52,55ないし58)及び弁論の全趣旨によると,共産党議員団は,軽自動車(議員団車)を保有し,それを市政,市議会の報告のための使用していたところ,平成13年度においては,議員団車のガソリン代として合計2万4301円並びに軽自動車税4000円,車検代11万5724円及び保険料2万5060円の合計14万4784円を,いずれも「事務費」として政務調査費から支出したことが認められる。
(イ) A,D及びF
証拠(甲21の6ないし14,甲24の43,44,甲26の11,12,乙15,証人F)及び弁論の全趣旨によると,Aは,議員活動に使用する原動機付自転車のガソリン代及びタクシー代としてそれぞれ8515円及び2万6130円を,D及びFは,それぞれ,議員活動に使用する車両のガソリン代として5万0567円及び3万6635円を,いずれも平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
(ウ) B
証拠(甲22の28ないし30)及び弁論の全趣旨によると,Bは,後援会事務所の電話料金合計3万1913円を平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
イ(ア) 本件使途基準は,「事務費」として燃料費を例示しており,議員活動のために利用する車両の燃料費を政務調査費から支出することは,本件使途基準に反するものではない。
なお,これについて,原告は,共産党議員団の議員団車は,政党活動及び選挙運動にも使用されている旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。また,原告は,A,D及びFの上記ガソリン代又はタクシー代のうち少なくとも半分は政務調査とは無関係に支出された旨主張するところ,議員活動のために利用する車両であっても,各議員の私的な用途にも利用されていることは考えられるが,上記のガソリン代が,上記の各議員が1年間に購入したガソリン全量の代金であるかどうかも明らかではなく(タクシー代も同様),政務調査費で購入されたガソリンの半分が,政務調査と無関係に使用されている旨の具体的な主張,立証はない。
よって,上記アのガソリン代及びタクシー代の支出が本件使途基準に反するものとは認められない。
(イ) また,後援会事務所の電話料金は,本件使途基準にいう「事務費」のうち通信費に該当する。
原告は,通話のうち,政務調査に関係のあるものは半分を超えることはない旨主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
よって,上記アの電話代の支出が本件使途基準に反するものとは認められない。
(ウ) これに対し,議員団車の軽自動車税,車検代及び保険料について,共産党議員団は「事務費」としてこれを支出しているところ,本件使途基準は,「事務費」の内容について,「調査研究活動に必要な事務に要する経費」であるとしており,その文言及びその例として示されている項目(事務用品購入費,備品購入費,事務機器のリース料,通信費,燃料費等)に照らせば,これは,調査研究活動そのものに伴う事務に要する経費をいうものと解される。
軽自動車税,車検代及び保険料は,車両の維持管理等に当たって必要となる費用にすぎず,その車両が調査研究活動の手段として使用されるものであるとしても,車両の維持管理が,調査研究活動そのものに伴う事務ということはできない。そうすると,上記軽自動車税等は,本件使途基準にいう「事務費」には該当せず,また,本件使途基準上使用が許されるその他の項目のいずれにも該当しない。
そうすると,共産党議員団が,上記軽自動車税等に政務調査費を支出したことは,本件使途基準に反するものと認めるのが相当である。
(3) 政党の発行する新聞雑誌等の購読料(共産党議員団,自民党市民クラブ,公明党議員団,社会議員団)
ア 証拠(甲9の6,21,23ないし25,甲10の49,52,54,甲11の22,23,甲13の15,16,乙12,乙14の1,証人C,証人G)及び弁論の全趣旨によると,共産党議員団は,日本共産党が発行する新聞である「赤旗」の購読料として5万1600円を,自民党市民クラブは,自民党が発行する雑誌である「りぶる」及び「自由民主」の購読料として合計2万6600円を,公明党議員団は,公明党が発行する「公明新聞」,「公明グラフ」などの購読料合計4万5380円を,社会議員団は,新社会党が発行する新聞である「週刊・新社会」の購読料7200円を,それぞれ平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
イ 上記のような各雑誌及び新聞の購読料は,本件使途基準にいう「資料購入費」に該当すると解するのが相当である。
そして,当該会派と関係のある政党の出版物を購読することが,その政党を経済的に支援し,また,政党の方針及び意向を学習するとの側面があるとしても,そのことから直ちに,本件使途基準にいう「政党活動」に当たるとはいえない。
そうすると,上記各購読料の支出は,いずれも本件使途基準に反するとはいえない。
(4) 会議費用(自民党市民クラブ,公明党議員団,新世会議員団)
ア 証拠(甲10の4,6ないし11,13,15ないし17,甲11の3,7,8,甲14の6ないし10,乙12,乙13,乙14の1,証人C,証人G,証人F)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
自民党市民クラブは,平成13年5月17日から平成14年2月9日までの間,宇治市内又は城陽市内のホテル等で10回にわたって議会役員人事等に関する他会派との調整のための会議及び会派内でのいわゆる団会議を行い,その会場費として合計6万3250円(喫茶店において会議を行った際の代金2875円を含む。)のほか,会議の際の喫茶代6300円を,平成13年度の政務調査費から支出した。
そのうちの平成13年5月17日及び20日にアイリスイン城陽で開催された会議及び同月21日に宇治第一ホテルで開かれた会議は,公明党議員団及び新世会議員団との三者の議会役員人事等に関する調整のための会議であって,会場費は各会派が3分の1ずつ(3回分合計で8411円ずつ)負担し,いずれも平成13年度の政務調査費から支出した。
公明党議員団は,上記会議のほか,平成14年1月20日及び同年2月24日,それぞれ喫茶店及びプラムイン城陽で団会議を開き,その費用として合計4326円を,平成13年度の政務調査費から支出した。
更に,新世会議員団は,上記3会派で開いた会議のほか,平成13年4月17日から平成14年2月15日までの間に7回,会派内の団会議を大津市所在のいわゆるリゾートホテルであるロイヤルオークで開き,その費用合計12万6819円を,平成13年度の政務調査費から支出した。
イ 本件使途基準における「研究研修費」は,「研究会」又は「研修会」の開催又は参加に要する経費を内容とするものであるが,前記のとおり,政務調査費は,会派又は議員の調査研究活動の基盤を充実させ,議会の活性化を図ることを目的として法制化されたものであることから,ここにいう「研究会」又は「研修会」とは,いわゆる勉強会に限らず,議会の活性化に資する会議その他の会合も含む趣旨であると解するのが相当である。そして,本件使途基準において,研究研修費の内容として,研究会等の会場賃借費が例示されている。
また,少人数の会議を喫茶店で行うことは,必ずしも稀なことではなく,その場合には,会場費の負担に替えて(あるいは加えて),喫茶代金の負担が伴うが,その費用も研修会等に要する経費に当たるというべきであり,更に,研修会,会議等において,お茶やお茶菓子程度の飲食を伴うことは,会合の活性化や円滑化に資するものとして,一般的にみられるものであるから,その費用は,その研修会等に要する経費に含まれるというべきである。
そうすると,自民党市民クラブ,公明党議員団及び新世会議員団が行った上記各会議は,本件使途基準にいう「研究会」又は「研修会」に含まれ,これらの会場賃借費や喫茶代は,本件使途基準にいう「研究研修費」に該当するというべきである。
なお,新世会議員団の会派内の団会議は,わずか2名の議員が,宇治市からやや離れた地にあるリゾートホテルまで赴き,必ずしも割安とはいえない費用を支払っていることに照らせば,証人Fが,自らが会員であり部屋を安く借りられ,また,会合を行うのに便利であることから,団会議の場所として上記ホテルを利用した旨供述していることを考慮しても,その必要性や,ひいては会議の実体の有無等については,疑念を抱かせるものといわざるを得ない。しかし,団会議が実体のないものであるなど,上記費用が議会の活性化に資する会議その他の会合とは全く無関係の支出であると認めるに足りる証拠はないから,その相当性については問題となりうるとしても,いまだ,上記会議費用が本件使途基準に反するとまではいえない。
(5) 茶,コーヒー豆代,洗剤代,室内装飾費(自民党市民クラブ,公明党議員団,社会議員団,新世会議員団)
ア 証拠(甲10の59,60,66,69,甲11の27,32ないし35,甲13の22,25,26,甲14の32,35,乙12,乙13,乙14の1,証人C,証人G)及び弁論の全趣旨によると,自民党市民クラブは,会派の控室において使用するコーヒー豆を購入し,その代金3781円を,公明党議員団は,会派の控室に備え置く茶葉及びお茶菓子,会派控室で使用した食器を洗うための食器洗剤及びスポンジを購入し,それらの合計4万1764円を,社会議員団は,会派の控室に備え置く茶葉を購入し,その代金合計6300円を,新世会議員団は,会派控室に飾る花を購入し,その代金2100円を,それぞれ平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
イ(ア) お茶代,コーヒー代及びお茶菓子代については,会派に所属する議員が,控室における休憩などの際,研究会,会議等とは無関係に使用していた分も含まれる可能性は否定できない。しかし,証人Cは,自民党市民クラブの会派控室において,所属議員による会議や市民との面談等が行われ,その際にお茶,コーヒーを出すことがある旨,証人Gも,公明党議員団の控室での会議や市民との面談等でお茶やお茶菓子を出すことがある旨供述している。両会派のみならず,他の会派においても,そのようなことがあることも全く否定することはできないし,その他,前記のとおり,控室における会議等の際に,お茶やお茶菓子程度の飲食を伴うこともあり,それらの趣旨で飲食をした後に,その食器を洗う必要もある。そうすると,コーヒー豆,茶葉,お茶菓子,食器洗剤及びスポンジの購入代金は,研究会等に要する経費又は調査研究活動に必要な事務に要する経費として,「研究研修費」又は「事務費」に該当しないとまではいえず,本件使途基準に反する支出ということはできない。
(イ) また,上記のとおり,控室を,研修会(会議)等に用いることがあり,市民との面談等に用いることがある以上,そこに2100円程度の花を飾ることは,会議,面談を円滑に進めるための必要最小限の装飾として,社会通念上,研修会等に要する経費,あるいは,調査研究活動そのものに伴う事務の費用ともいえないことはなく,本件使途基準にいう「研究研修費」又は「事務費」に当たらないとはいえない。
(6) その他の費用
ア 議員インターン(研修生)昼食代(自民党市民クラブ)
証拠(甲10の4,12,乙14の1,証人C)及び弁論の全趣旨によると,自民党市民クラブは,政治学を学ぶ大学生を対象とする研修会を行った際,昼食として弁当をとり,会派控室において大学生と会食を行い,その代金2110円を平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
上記会食は,研修の一環として行われたものであると認められるが,研修会等の場で,その主催者が,お茶やお茶菓子を超えて,食事を提供することまでは,通常行われないのであり,研修会が長時間にわたるなどして,食事を必要とする場合があるとしても,その費用は,本来その参加者が自ら負担すべきものというべきである(大学生である研修生に対して,かかる費用負担を求めることがためらわれるのであれば,議員がその私費にて負担すべきである。)。いずれにしても,研修生の昼食代が,「会派が開催する研究会若しくは研修会に要する経費」に当たるということはできない。そうすると,上記昼食代は,本件使途基準にいう「研究研修費」に該当するとはいえず,また,本件使途基準上使用が許されるその他の項目のいずれにも該当しない。
そうすると,上記昼食代の支出は,本件使途基準に反するものというべきである。
イ 地域生活支援セミナー参加費及び駐車料金(B)について
(ア) 証拠(甲22の17,18)及び弁論の全趣旨によると,Bは,平成14年2月21日に行われた地域生活支援セミナーに参加し,その参加費として2600円を平成13年度の政務調査費から支出したこと,この支出は,Bのほか「H」なる人物の参加費を含んでいることが認められるところ,B自身のセミナー参加費は「研究研修費」に当たるとしても,政務調査費の交付を受けた議員以外の者のセミナー参加費を政務調査費から支出することが許されないことは,政務調査費の趣旨及び本件使途基準の文言からも明らかである。よって,上記セミナー参加費のうち,「H」なる人物のために支出したと認められる1300円分は,本件使途基準に反する。
(イ) また,証拠(甲22の17,19)及び弁論の全趣旨によると,Bは,地域生活支援セミナーに参加するための平成13年12月1日の駐車料金として1700円を,また,同セミナーの参加費1万円をいずれも平成13年度の政務調査費から支出しているところ,同セミナーの参加費の領収証(甲22の19上段右側)の作成日付は,平成13年12月12日であって,上記駐車をした日(平成13年12月1日)とは異なっていることが認められる。
原告は,この事実から,同セミナーの開催日は,平成13年12月1日ではなく,同日の駐車料金は,同セミナーの参加とは関係のない支出である旨を主張し,これに対し,被告は,同セミナーの参加費は,セミナーの開催当日ではなく,後日支払ったため,領収証の日付が開催日とは異なったにすぎない旨主張するところ,被告の主張のとおり,セミナー参加費の領収証の領収年月日が,セミナーの開催日とは異なっていることもあり得ないことではない(政務調査費実績報告書中の支払明細書では,上記セミナーの参加は平成13年12月12日と記載されている(甲22の17)が,それも,セミナー参加費の領収証に合わせたものと解する余地もある。)。そうすると,上記駐車料金が,上記セミナーへの参加のための経費(本件使途基準にいう「研究研修費」に含まれると解される。)ではなく,ひいて,その支出が,本件使途基準に反するものであるとまでは認めることができない。
ウ 議員連盟研修会費,私立幼稚園振興会研修会費(C)について
証拠(甲23の4,9,10,乙14の1,証人C)及び弁論の全趣旨によると,Cは,「衆議院議員Zを励ます議員連盟」が平成13年10月20日に開催した研修会の会費1000円及び「宇治市私立幼稚園振興会」が平成14年1月24日に開催した教育懇談会の会費3000円を,いずれも平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
原告は,前者は,議員連盟による会合の参加費であるから,政務調査との関連性がなく,後者も「振興会費」であって,研修会参加費としての支出ではないから,政務調査との関連性がない旨主張する。
しかし,証人Cは,前者の研修会は,京都南部地区の地方議会の議員が,地元選出の衆議院議員であるZを招いて,各自治体が抱える課題等の意見交換等を行い,また,Z議員から国政の報告を受けるものであったと供述するところ,そのような趣旨を含むものではなかったとは認められず,これが「研究会」ないし「研修会」に該当しないとする理由はない。また,後者は,証拠(乙14の1,2,証人C)によると,私立幼稚園父母の会,教育委員会,府議会議員等が参加して,幼稚園の現状や課題,幼稚園に関する意見交換や情報交換を行う懇談会の会費であったことが認められ,いずれも,「研究研修費」に含まれるものとして,その支出が本件使途基準に反するともいえない。
エ 宇治日中友好議員懇話会会費,大久保駐屯地新年交礼会会費(E,F)
証拠(甲25の4,5,甲26の4ないし6,乙13,乙15,証人F)及び弁論の全趣旨によると,E及びFは,平成13年10月25日に開催された「宇治日中友好議員懇話会」の会費各4000円及び「大久保自衛隊協力会支部連合会」が平成14年1月11日に開催した大久保駐屯地新年交礼会の会費各4000円を,それぞれ平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
原告は,上記各会費の支出は「交際的経費」に該当する旨主張し,これに対し,証人Fは,上記各会合のうち前者は,中国咸陽市との友好交流を進めるための意見交換や情報交換を行う会であり,後者は基地周辺住民等から自衛隊に寄せられる意見や要望等をふまえ,自衛隊幹部等と意見交換や情報交換を行う会である旨供述するところ(乙13,乙15にも同旨の記載がある。),これらの会合がFの供述する趣旨を含むものではなかったとは認められず,これらの参加費が,本件使途基準にいう「研修研究会」の費用に該当せず,「交際的経費」に当たるとする理由はない。
よって,上記各会費の支出は,本件使途基準に反しない。
オ 宇治市国際親善協会会費,関友会年会費(F)について
証拠(甲26の4ないし6,乙15,証人F)及び弁論の全趣旨によると,Fは,「宇治市国際親善協会」の平成13年度会費2000円及び「関友会」の平成14年度会費3000円をそれぞれ平成13年度の政務調査費から支出したことが認められる。
原告は,上記各会費の支出は「交際的経費」に該当する旨主張するところ,乙15及び証人Fの証言によると,宇治市国際親善協会は,宇治市と友好都市盟約を締結しているカナダのカムループス市及び中国の咸陽市と,市民が積極的に国際交流を進められるよう,意見交換や情報交換をする団体であり,関友会は,陸上自衛隊関西補給処のいわゆるOBを主体とした会であり,Fは自衛隊に39年間勤務していた関係で関友会の会員となっていることが認められる。そうすると,宇治市国際親善協会の会費は,本件使途基準にいう「研究研修費」に含まれるというべきであり,これを「交際的経費」に当たるというべき理由はない。
これに対し,関友会は,自衛隊OBの会であり,Fも自衛隊OBとしてその会員になっているというのであるから,その会費を交際的経費に当たるとみる余地もある。しかし,証人Fは,関友会は,自衛隊の活動状況等を記載した機関紙を発行し,補給処長の講演等も行っている旨供述する(乙15にも同旨の記載がある。)ところ,同会がそのような活動を行っていないと認めるに足りる証拠はなく,そうすると,同会の会費が本件使途基準にいう「研究研修費」に含まれず,専ら「交際的経費」に当たると認めるだけの理由はない。
そうすると,上記各会費の支出が本件使途基準に反するとは認められない。
カ 「京都新聞」購読料(E)について
証拠(甲25の8,9,乙13)及び弁論の全趣旨によると,Eは,「京都新聞」を購読し,その購読料として合計7万3260円を平成13年度の政務調査費から支出したことが認められるところ,これは,本件使途基準にいう「資料購入費」に該当するものということができる。
証拠(甲14の21ないし25)及び弁論の全趣旨によると,Eが所属する新世会議員団も,会派として京都新聞を購読しており,また,新世会議員団の所属議員は2名であることが認められ,このことから,原告は,Eが更に京都新聞を購読してその費用を政務調査費から支出することは不当である旨主張する。しかし,所属議員が2名のみであっても,会派として購読している新聞を自宅に持ち帰ったり,記事を切り抜いたりすることが,常に可能とは限らないのであって,個人としての調査研究活動を行うため,所属する会派とは別に個人としても新聞を購読することも,直ちに不必要な支出ということはできない。
よって,上記購読料の支出は,本件使途基準に反しない。
3(1) 以上の次第で,本件各会派及び本件各議員が平成13年度の政務調査費から支出したとするもののうち,共産党議員団の議員団車の軽自動車税等合計14万4784円,自民党市民クラブの研修生の昼食代2110円,Bの他人のセミナー参加費1300円の各支出は,いずれも本件使途基準に反するものである。
しかし,上記の会派又は議員が,宇治市から交付を受けた政務調査費のほかに,調査研究活動に要する費用を支出しており,政務調査費を上記の本件使途基準に反する支出に充てなければ,その他の調査研究活動に要した費用に充てたことが想定できる場合には,結果的には,その他の調査研究活動に要する費用に充てられたことが想定できる限度では,当該会派又は議員には利得がなく,宇治市にも損失がないことになり,各会派又は議員は,その部分について,宇治市に対する不当利得返還義務を負わない。
(2)ア 共産党議員団は,別紙2「政務調査費一覧表」記載のとおり,調査研究活動に要する費用として,宇治市から交付を受けた政務調査費288万円を超える289万6885円を支出している。そして,議員団車の軽自動車税等に関する支出以外の支出は,本件使途基準に反すると認めるに足りる証拠はないから,議員団車の軽自動車税等について政務調査費から支出されなかった場合には,上記超過部分である1万6885円については,政務調査費から支出されたことが想定され,同額については宇治市に損失は生じていない。
そうすると,共産党議員団が不当に利得しているのは,議員団車の軽自動車税等の支出に相当する額から,上記1万6885円を控除した12万7899円となり,共産党議員団は,宇治市に対し,同額を返還する義務を負っていたものである。
イ Bは,別紙2「政務調査費一覧表」記載のとおり,調査研究活動に要する費用として,宇治市から交付を受けた政務調査費24万円を超える34万3066円を支出している。そして,他人のセミナー参加費に関する支出以外の支出は,本件使途基準に反するとは認められないから,他人のセミナー参加費について政務調査費から支出されなかった場合には,上記超過部分である10万3066円については,政務調査費から支出されたことが想定され,結局,Bに利得はないことに帰する。
ウ 自民党市民クラブについては,上記のような事情はなく,研修生の昼食代2110円を不当に利得しているから,これを宇治市に返還する義務を負っていたものである。
(3) ところで,前記認定のとおり,共産党議員団及び自民党市民クラブは,平成15年4月の選挙に伴って既に消滅しているが,会派自体は,権利義務の帰属主体となるものではなく,会派に交付された政務調査費は,会派構成員に不可分的に帰属すると解されるから,それに関する不当利得返還債務も,会派構成員に不可分的に帰属すると解するのが相当である。
したがって,上記各会派の構成員であった者は,各自,宇治市に対し,当該会派が不当に利得していた額を返還する義務を負うというべきである。
4 よって,原告の本訴請求は,被告に対し,共産党議員団の構成員であった議員各自に12万7899円を,自民党市民クラブの構成員であった議員各自に2110円を,それぞれ請求することを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,61条に従い,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 下馬場直志 裁判官 財賀理行)
file_2.jpg別紙