京都地方裁判所 平成14年(行ウ)45号 判決
原告 A株式会社
同代表者代表取締役 甲
同訴訟代理人弁護士 谷口忠武
谷口直大
向井裕美
新崎長政
成田康宏
同補佐人税理士 岡嶋貞夫
第1事件被告 中京税務署長 井土兼剛
第2事件被告 国
同代表者法務大臣 南野知恵子
被告両名指定代理人 小林邦夫
田邉澄子
渡邊正子
石原恵麻
木田嘉明
表内武司
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1) 被告中京税務署長が平成13年10月31日付けでした原告の平成12年7月1日から平成13年6月30日までの課税期間に係る消費税額及び地方消費税額の更正並びに過少申告加算税を賦課する決定をいずれも取り消す。
(2) 被告中京税務署長が平成13年10月31日付けでした原告の平成12年7月1日から平成13年6月30日までの事業年度の法人税についての更正を取り消す。
2 第2事件
被告国は、原告に対し、5億9939万5942円及びこれに対する平成13年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 第1事件は、原告が、被告中京税務署長から平成13年10月31日付けで受けた平成12年7月1日から平成13年6月30日までの期間(以下「本件期間」という。)に係る消費税額及び地方消費税額の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分、並びに本件期間に係る法人税額の更正処分(これらをまとめて、以下「本件各処分」という。)について、これらは原告が消費税の課税事業者ではないという誤った前提に基づく違法な処分であるとして、被告中京税務署長に対して、本件各処分の取消しを求めるものである。
第2事件は、原告が本件各処分を受けたのは、中京税務署職員の誤った教示に基づくものであり、同職員の違法行為により、4億8210万5942円の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の還付を受けることができず、また、7229万円の過少申告加算税賦課決定処分を受けたとして、被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき、5億9939万5942円(弁護士費用4500万円を含む)及びこれに対する平成13年11月1日(不法行為以後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
2 基礎となる事実(当事者間に争いのない事実)等
(1) 当事者
原告は、有価証券の売買及び不動産の賃貸業を営む同族会社であり、乙(以下「乙」という。)は、その従業員である。
(2) 消費税法(平成15年3月31日法律第8号による改正前のもの。以下「法」という。)の関係規定
ア 基準期間とは、法人についてはその事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が1年未満である法人については、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)をいう(法2条1項14号)。
イ 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円以下である者(以下「免税事業者」という。)については、消費税を納める義務を免除する(法9条1項)。
ウ 免税事業者が、課税期間の開始前までに、消費税の納税義務の免税を受けない旨を記載した届出書(以下「消費税課税事業者選択届出書」という。)を税務署長に提出した場合には、免税の規定を適用しない(法9条4項)。
エ 課税事業者は、確定申告義務がない場合においても、仕入れに係る消費税額等の税額控除額又は中間納付額に係る控除不足額があるときは、控除不足額の還付を受けるため申告書を税務署長に提出することができる(法46条1項)。
オ 課税期間の基準期間における課税売上高が3000万円を超えることとなった場合には、事業者は、その旨を記載した届出書(以下「消費税課税事業者届出書」という。)を速やかに税務署長に提出しなければならない(法57条1項1号)。
(3) 事業年度の変更
原告は、平成12年6月15日、被告中京税務署長に、原告の会計年度を毎年9月末日から6月末日に変更する旨の法人の異動等届出書を提出した(乙5)。それにより、原告の事業年度は、「平成10年10月1日から平成11年9月30日」(基準期間)に続く事業年度が「平成11年10月1日から平成12年6月30日」、となり、その後の事業年度が「平成12年7月1日から平成13年6月30日」(本件期間)となった。
なお、原告の本件期間に係る基準期間(平成10年10月1日から平成11年9月30日)の課税売上高は360万円であった。
(4) 「消費税課税事業者届出書」(乙4)の提出
原告は、平成12年6月15日、被告中京税務署長に、上記法人の異動等届出書と同時に、「消費税課税事業者届出書」(以下「本件届出書」という。乙4)を提出した。
本件届出書には、適用開始課税期間は「自平成12年7月1日 至平成12年6月30日」と記載され、その課税期間の基準期間欄、基準期間の総売上高、課税売上高欄は空白のままであったが、中京税務署の職員は、適用開始課税期間の終期を「平成13年6月30日」として、本件届出書に係るデータをコンピュータに入力した。
(5) 確定申告
原告は、平成13年8月28日、被告中京税務署長に、本件期間に係る消費税等の還付税額を4億8210万5942円とする確定申告書を提出した。原告のした上記確定申告の内容は、別紙1「課税の経緯(消費税等)」の確定申告欄のとおりである。
また、原告は、同日、本件期間に係る法人税等について欠損金額を4億7379万5930円とする確定申告書を提出した。原告のした上記確定申告の内容は、別紙2「課税の経緯(法人税)」の確定申告欄のとおりである。
なお、原告は、同年7月ころ、中京税務署から、法人税の申告書用紙とともに、あらかじめ整理番号、課税期間の年月日等を印字した消費税の確定申告書用紙の送付を受けた。
(6) 本件各処分
被告中京税務署長は、平成13年10月31日付けで、原告が消費税の課税事業者でないことを理由として、本件期間の消費税等の課税標準額及び税額を0円とする更正処分をし、また、過少申告加算税7229万円の賦課決定処分をした(別紙1の更正処分等欄のとおり)。
また、被告中京税務署長は、本件期間に係る法人税に関する所得金額について、原告が消費税の課税事業者でないから、税抜経理を税込経理に改めると仮受消費税額として経理している金額が益金に計上され(別紙3の2)、仮払消費税額として経理している金額が損金に計上される(別紙3の3)ことを理由として、差引き6237万1710円を加算し、また、別紙3の1の有価証券評価損の損金不算入を理由として2615万7940円を加算し、本件期間に係る欠損金額を3億8526万6280円、翌期に繰り越す欠損金額を5億2731万3656円とする更正処分をした(別紙2の更正処分等欄のとおり)。
(7) 不服申立て
原告は、平成13年11月12日、被告中京税務署長に対し、本件期間から消費税の課税事業者となっているとして、本件各処分について異議の申立てをした(別紙3の1の有価証券評価損の否認に関しては不服を述べていない。)が、被告中京税務署長は、平成14年1月21日、異議申立ての棄却決定をした。
これに対して、原告は、同年2月7日、国税不服審判所長に対し、審査の請求をしたが、国税不服審判所長は、同年10月3日付けで、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、そのころ原告に通知した。
(8) 原告が、本件期間において消費税の課税事業者でない場合には、本件期間における消費税等及び法人税に関しては、本件各処分のとおりとなるが、消費税の課税事業者である場合には、消費税等については原告の確定申告のとおり、法人税については原告の異議申立てのとおりとなる。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件各処分の適法性-原告は本件期間において消費税の課税事業者であったかどうか(被告中京税務署長が原告を課税事業者ではないと扱うことは信義則上許されないかどうか)。
ア 被告中京税務署長の主張
(ア) 原告の本件期間に係る基準期間の課税売上高は360万円であり、所定の期間内に消費税課税事業者選択届出書は提出されていないから、原告は消費税等の免税業者であり、法46条の還付申告はできない。したがって、原告が課税事業者ではないことを前提とする被告中京税務署長の本件各処分は適法である。
(イ) 法の規定による各種届出書の処理は、その外観に基づき画一的にされるべきであり、当該届出書の提出に至る経緯などを考慮に入れる余地はないから、原告が平成12年6月15日に本件届出書を提出した経緯、その後の中京税務署における処理等から、原告が法9条4項に基づく課税事業者選択の意思表示をし、被告中京税務署長が、消費税課税事業者選択届出を受けたと扱っていたと考えることはできない。
なお、中京税務署が原告に対し、整理番号、課税期間の年月日等をあらかじめ印字した消費税の確定申告書用紙を送付したことは、納税者の便宜を考慮した行政サービスの一環にすぎず、これをもって、被告中京税務署長が、原告が消費税の課税事業者となったことを認めていたことの表れと解することはできない。
(ウ) 原告が本件届出書を提出する経緯として主張する事実(後記イ(ア))はない。
むしろ、乙が、法に対する不十分な知識あるいは誤解に基づき、自分で消費税課税事業者届出書の用紙を持ち帰ったか、窓口職員に対する不十分な説明に基づきその交付を受けたと推認するのが自然である。
仮に、原告が本件届出書を提出した経緯に係る事実が認められるとしても、原告が消費税課税事業者選択届出書を提出していないと取り扱うことは信義則に反しない。
イ 原告の主張
(ア) 乙は、平成12年6月12日又は同月13日ころ、中京税務署の法人課税第1部門を訪れ、対応した同部門の若い男性職員に対し、現在、原告が免税事業者であること、翌月に大きな資産取得をする予定であることを伝えた上で、消費税の還付を受けるために課税事業者になりたいので、そのための用紙と会計年度変更のために提出すべき書類の用紙の交付を求めたところ、同職員は、「消費税課税事業者届出書」と題する用紙(乙1)及び「法人・源泉徴収義務者の異動等届出書」と題する用紙を乙に交付した。
そこで、原告は、これらの届出書を提出することによって、消費税課税事業者になることができると考えて、本件届出書及び「法人・源泉徴収義務者の異動等届出書」を被告中京税務署長に提出した。
すなわち、免税事業者である原告が、消費税課税事業者となるために届け出る趣旨で、中京税務署職員に、消費税課税事業者となることを選択したい旨を伝えた上で、同職員から交付を受けた用紙を用いて、本件届出書を提出したのであるから、原告には消費税課税事業者選択届出の意思があったのであり、本件届出書の提出をもって法9条4項の届出書の提出ということができる。
なお、本件届出書には、適用開始課税期間の欄に「自平成12年7月1日至平成12年6月30日」という存在し得ない期間が記載されており、基準期間及び基準期間における課税売上高の欄に記入がないのであるから、その届出書によって基準期間を特定することはできず、消費税課税事業者届出と解することはできない。
また、原告は、平成13年7月ころ、中京税務署から消費税の確定申告書用紙(整理番号、課税期間の年月日等があらかじめ印字されたもの)の送付を受けている。これは、被告中京税務署長が、原告を消費税課税事業者として扱っていること、原告が提出した「消費税課税事業者届出書」(乙4)を消費税課税事業者選択届出として受領したことを表している。
(イ) 仮に、原告の「消費税課税事業者届出書」(乙4)の提出を消費税課税事業者選択届出とすることができないとしても、上記の各事情や、「消費税課税事業者届出書」と題する用紙と「消費税課税事業者選択届出書」と題する用紙は紛らわしく、課税者側でこのような紛らわしい状態を作出していることなどの事情からすれば、被告中京税務署長において、原告が消費税課税事業者選択届出書を提出していないと取り扱うことは信義則に反し許されない。
(2) 中京税務署職員の違法行為の有無、違法行為があったとして違法行為と相当因果関係のある損害(争点2)
ア 原告の主張
中京税務署職員は、乙の適切な説明に対して、「消費税課税事業者選択届出書」の用紙を交付すべきところ、誤って「消費税課税事業者届出書」の用紙を交付し、誤った指導教示を行った。また、中京税務署職員は、原告から本件届出書の提出を受けたが、当該書面には、適用開始課税期間の欄に「自平成12年7月1日 至平成12年6月30日」という存在し得ない期間が記載されており、基準期間及び基準期間における課税売上高の欄が空欄のままであった。中京税務署の職員は、このような明らかに記載不備のある届出書について、原告に確認指導すべきであったのに、そのまま処理した。
さらに、被告中京税務署長は、原告に対して、消費税確定申告書用紙を送付し、原告を消費税の課税事業者であるかのように扱った。
中京税務署職員及び被告中京税務署長が、以上の一連の職務行為において、職務上の注意義務を怠った結果、原告が消費税の還付申告ができなくなったのであり、原告は、被告中京税務署長から平成13年10月31日付けで更正処分を受け、4億8210万5942円の消費税及び地方消費税の還付を受けることができず、また、7229万円の加算税賦課決定処分を受けた。
イ 被告国の主張
乙が中京税務署職員に対して「消費税課税事業者選択届出書」の用紙の交付を求めたことはなく、また、中京税務署職員が、乙に対して、「消費税課税事業者選択届出書」の用紙を交付すべきところ、誤って、「消費税課税事業者届出書」の用紙を交付した事実や、誤った指導教示を行ったという事実はない。
仮に、原告が主張するとおり、中京税務署の窓口職員が原告の税務相談に応じて誤った教示等をしたとしても、原告は、本件届出書の提出に先立ち、窓口職員により教示された情報等をうのみにせずこれを確認すべきであったにもかかわらず、これを怠り、漫然とその提出に至ったものということができるから、原告が受けた教示等の誤りを理由として損害賠償請求をすることは許されない。
また、原告が提出した本件届出書において基準期間欄等に記入漏れがあっても、これは消費税課税事業者届出書に必要不可欠な記載事項とまではいえず、これらの記載不備が原告が提出した消費税課税事業者届出書の効力を左右するものではないから、原告に対し記載不備の連絡をしなければならない法的義務が発生するとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 前記基礎となる事実に加えて、証拠(甲1ないし3、10、11、13、14、16ないし18、20、乙1、2、4ないし6、証人乙、証人丙)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、有価証券の売買と不動産賃貸等をする株式会社であり、その売上高は年1億円を超えることもあるが、消費税法上の課税売上高は一貫して3000万円未満(平成10年10月1日から平成11年9月30日のそれは360万円)の免税事業者であって、原告が消費税の確定申告したことはなかった。
イ 原告は、平成12年3月ころ、160億円を超える事業用資産を同年7月末に買い受けることが決まったため、仕入税額控除をすることによって消費税の還付を受けることを計画した。
そこで、乙は、平成12年4月ころ、原告の顧問税理士事務所の職員から、平成12年6月末までに、法人の異動等届出書を提出して会計年度を9月末日から6月末日に変更した上、同時に、消費税課税事業者となるための届出書を提出することによって、本件期間において消費税の課税事業者になるように指導を受けた。その際、税理士事務所にそれらの届出用紙はなかったため、届出用紙の交付は受けなかったし、届出書の正式な名称も聞かなかった。
乙は、事業年度を変更するための届出書と消費税課税事業者となるための届出書の用紙を中京税務署で取得した上で、自ら、その届出書に記載することとしたが、「消費税課税事業者選択届出書」のほかに、「消費税課税事業者届出書」があることは認識していなかった。
一方、乙は、法人の異動等届出書については、以前にも提出したことがあったため、手続について具体的に理解していたし、法人税確定申告書の別表などについては、自ら、中京税務署に赴き、職員に声をかけた上、棚から用紙を探して持ち帰ったことがあった。
ウ 乙は、平成12年6月12日又は同月13日ころ、中京税務署の2階にある法人課税第1部門に赴き、「消費税課税事業者届出書」の用紙及び「法人・源泉徴収義務者の異動等届出書」の用紙を取得した。
エ その当時、中京税務署の法人税第1部門には、外来者との対応をするためのカウンターがあり、その内側に税務署職員の席が配置されていた。同部門の窓口対応が可能であった男性職員は7名であり、そのうち20歳代くらいに見える男性職員は丙(以下「丙」という。)のみであった。また、カウンターの内側には棚があり、税務署に提出しなければならない用紙などが分類されて入れられていたが、カウンターの外の通路側の棚にも同様の用紙が分類して入れられており、用紙の名前がラベル等で表示されており、外来者もその棚から自由に用紙を探して取ることができる状態であった。
オ 乙は、上記各用紙に自ら必要事項を記入し、同月15日、本件届出書及び「法人・源泉徴収義務者の異動等届出書」を被告中京税務署長あてに提出した。
本件届出書には、不動文字で「基準期間における課税売上高が3、000万円を超えることとなったので、消費税法第57条第1項第1号の規定により届出します。」との文言が記載されていたが、乙は、それを読んだものの、課税事業者となる届出書を出せばいいという程度の認識しかなかったことから、特に疑問を感じることはなかった。また、基準期間及び基準期間の課税売上高を書く欄については、欄が設けられている趣旨が理解できなかったため何も記入せず、さらに、適用開始課税期間の欄には、「自平成12年7月1日 至平成12年6月30日」と誤って記載した。
カ 中京税務署職員は、同年6月19日、原告から提出された「法人・源泉徴収義務者の異動等届出書」(乙5)に基づき、原告の事業年度の終期を9月末日から6月末日とする入力処理をした。それにより、原告の事業年度は、「平成10年10月1日から平成11年9月30日」に続く事業年度が、「平成11年10月1日から平成12年6月30日」となり、その次の事業年度が「平成12年7月1日から平成13年6月30日」(本件期間)となった。
また、中京税務署職員は、平成12年6月23日、原告から提出された本件届出書に基づき、平成10年10月1日から平成11年9月30日の基準期間について原告の消費税上の課税売上高が3000万円を超えた旨の届出と解し、平成12年7月1日から平成13年6月30日までの課税期間(本件期間)から消費税の課税事業者となった旨の入力処理をした。
キ 被告中京税務署長は、上記入力処理に基づき、平成13年7月ころ、原告に対して、本件期間に係る法人税の確定申告書用紙と本件期間に係る消費税の確定申告書用紙を送付した。
その後、原告は、平成12年8月28日、被告中京税務署長に対し、送付された用紙を用いて、本件期間に係る法人税及び消費税の確定申告をした。
(2) 以上のうち、乙が「消費税課税事業者届出書」用紙等を取得した経過について、原告は、乙が平成12年6月12日又は同月13日、中京税務署の法人課税第1部門を訪れ、対応した同部門の若い男性職員に対し、現在、原告が免税事業者であること、翌月に大きな資産取得をする予定であることを伝えた上で、消費税の還付を受けるために課税事業者になりたいので、そのための届出書の用紙と会計年度変更のための届出書の用紙交付を求めた旨主張し、証人乙もこれに沿う供述をし、中京税務署の財務事務官の乙に対する平成13年11月20日付けの質問てん末書(乙6)、乙の陳述書(甲16)にも同旨の記載がある。
しかし、乙は、平成13年11月20日に税務署職員から質問を受けた際には、対応した職員について、男性であったという以外には思い出せないと述べている(乙6)のに、これよりも後の証人尋問においては20歳代と供述している(平成16年4月13日付の甲16の記載も同じ。)。当時法人課税第1部門で唯一の20歳代に見える男性職員であった丙は、国家公務員3種試験に合格し、平成11年4月に財務事務官に採用され、平成12年4月まで税務大学校で研修を受けた後、同年4月末日に中京税務署に配属されたばかりの職員であるところ(証人丙)、同証人は、平成12年6月当時、免税事業者であること、翌月に大きな資産取得をする予定であることを告げられ、消費税の還付を受けるために課税事業者になるための用紙と会計年度変更のための交付を求められれば、上司に相談した上で応対すると供述しているが、上記の経歴に照らしても、その供述内容は合理的である。そして、同証人は、乙に用紙を交付した記憶がないと供述しており、他に乙に用紙を交付したことを認める税務署職員はいない。また、上記のとおり、「消費税課税事業者届出書」の用紙及び「法人・源泉徴収義務者の異動等届出書」の用紙は、いずれも、税務署職員を経ずに自ら探して取得することも可能であることが認められる。
これらを考慮すると、上記乙の供述、甲16、乙6の記載は、直ちには採用することができず、乙が税務署職員に尋ねることなく自ら各用紙を探して取得した可能性や、乙が税務署職員に消費税課税事業者届出書の用紙を求めるような表現(例えば、「消費税課税事業者届出書を下さい。」、「消費税の課税事業者となる届出書を下さい。」など。)で用紙の交付を求めた可能性を否定することはできないから、上記原告主張事実を認めることはできない。
2 本件各処分の適法性(争点1)について
(1) 原告は、免税事業者である原告が消費税課税事業者となるために届け出る趣旨で、「消費税課税事業者届出書」と題する用紙に記入して被告中京税務署長に提出したのであるから、消費税課税事業者選択届出の意思表示があると主張する。
確かに、上記事実からすれば、原告は、法9条4項の届出をする意思であり、原告の担当者である乙も内心は、消費税課税事業者選択届出書を提出する意思であったが、誤って本件届出書を提出したものと認められる。
しかし、本件届出書には、「基準期間における課税売上高が3、000万円を超えることとなったので、消費税法第57条第1項第1号の規定により届出します。」と記載されているのみで、免税事業者が法9条1項本文の適用を受けないこととする旨の記載はないから、本件届出書の提出を法9条4号に基づく届出と解することはできない。
原告は、本件届出書(乙4)には、適用開始課税期間の欄に「自平成12年7月1日 至平成12年6月30日」という存在し得ない期間が記載されており、基準期間及び基準期間における課税売上高の欄に記入がないのであるから、その届出書によって基準期間を特定することはできず、消費税課税事業者届出と解することはできないと主張するが、上記の事業年度の変更を前提とすれば、「自平成12年7月1日 至平成12年6月30日」は、「自平成12年7月1日 至平成13年6月30日」を誤記したものと容易に判断することができる。また、消費税課税事業者届出書は、基準期間における課税売上高が3000万円を超えたことの報告の書面にすぎず、同書面の提出によって何らかの法的効果が生じるものではないから、基準期間における課税売上高の記載が空欄のままであったとしても、適用開始課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円を超えたという報告があったと解すれば足りる。そして、実際には基準期間における課税売上高が3000万円を超えないというのであれば、消費税課税事業者届出書が無意味なものとなるのみであり、それを超えて、同届出が、消費税課税事業者選択届出として有効となると解することはできない。
また、原告は、中京税務署職員に、消費税課税事業者となることを選択した旨を伝えた上で、同職員から交付を受けた用紙を用いて、届出書を提出したのであるから、消費税課税事業者選択届出をしたと解されると主張するが、上記のとおり、原告が中京税務署職員に消費税課税事業者となることを選択した旨を伝えた事実は認められない。
原告は、平成13年7月ころに税務署から消費税の確定申告書の用紙が送付されてきたことを理由に、被告中京税務署長が本件届出書を消費税課税事業者選択届出書として受領していることが明らかと主張するが、上記認定のとおり、被告中京税務署長は、本件届出書の提出を消費税課税事業者届出書の提出として受け、消費税の確定申告書の用紙を送付したと認められるのであるから、原告の主張は採用できない。
(2) また、原告は、中京税務署が消費税課税事業者選択届出書を提出していないと取り扱うことは信義則に反すると主張し、前項の事情のほか、「消費税課税事業者届出書」と題する用紙と「消費税課税事業者選択届出書」と題する用紙は紛らわしく、課税者側でこのような状態を作出しているという事情を挙げるが、各用紙には、その根拠条文が明記されており、用紙の記載内容を確認すれば、両者が異なる趣旨の用紙であることを理解することは困難ではない。また、上記認定事実に照らし、原告の提出した本件届出書の内容、それを提出した経緯、それを提出した後の事情のいずれにおいても、被告中京税務署長が原告から消費税課税事業者選択届出書の提出を受けていないと取り扱うことが信義則に反するとすべき事情があるとはいえない。
(3) したがって、原告は、消費税課税事業者選択届出書を提出したとはいえないから、本件期間について、消費税の課税事業者となっていないと認められ、それを前提とする本件各処分も適法といえる。
3 中京税務署職員の違法行為及び因果関係のある損害(争点2)について
原告は、中京税務署職員の誤った指導教示が原因で、原告は、消費税課税事業者届出書の提出するところを誤って消費税課税事業者届出書を提出したと主張するが、上記のとおり、中京税務署職員が乙の求めに反して用紙を交付したという原告主張の事実を認めることはできない。
また、原告は、本件届出書には、適用開始課税期間の欄に「自平成12年7月1日 至平成12年6月30日」という存在し得ない期間が記載されており、基準期間及び基準期間における課税売上高の欄が空欄のままであったから、このような明らかに記載不備のある届出書について、中京税務署の職員が原告に確認指導すべきであったと主張するが、前記のとおり、「自平成12年7月1日 至平成12年6月30日」は、「自平成12年7月1日 至平成13年6月30日」の誤記と容易に判断することができるのであって、それを前提に、基準期間における課税売上高が3000万円を超えたという報告があったと理解するのが自然であるから、中京税務署の職員がそのように理解して原告に確認をしなかったことは違法ではない。
さらに、原告は、被告中京税務署長が原告に対して消費税の確定申告書を送付した行為を違法行為と主張するようであるが、上記のとおり、被告中京税務署長は、本件届出書の提出を消費税課税事業者届出書の提出として受け、消費税の確定申告書の用紙を送付したにすぎないのであって、何ら違法なものではない。
以上のとおり、被告中京税務署長又は中京税務署職員に原告主張の違法行為があるとはいえず、その余について判断するまでもなく、原告の国家賠償請求は理由がない。
第4 結論
以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 下馬場直志 裁判官 財賀理行)
別紙1
課税の経緯(消費税等)
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別紙2
課税の経緯(法人税)
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別紙3
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