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京都地方裁判所 平成14年(ワ)394号 判決

岡山県〈以下省略〉

原告

上記訴訟代理人弁護士

杉山潔志

東京都中央区〈以下省略〉

被告1

光陽トラスト株式会社

上記代表者代表取締役

神戸市〈以下省略〉

被告2

Y1

大阪府門真市〈以下省略〉

被告3

Y2

千葉県市川市〈以下省略〉

被告4

Y3

兵庫県尼崎市〈以下省略〉

被告5

Y4

上記被告ら訴訟代理人弁護士

後藤次宏

主文

1  被告1,被告4及び被告5は,原告に対し,連帯して,200万円及びこれに対する平成12年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告1,被告2,被告4及び被告5は,原告に対し,連帯して,959万9412円及びこれに対する平成12年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告1,被告2及び被告3は,原告に対し,連帯して,119万9412円及びこれに対する平成12年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その4を被告1及び被告2の負担とし,その3を被告3,被告4及び被告5の負担とする。

6  この判決の1項ないし3項及び5項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告らは,原告に対し,連帯して,1879万8530円及びこれに対する平成12年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告1に対して,主位的に,原告と被告1との間の商品先物取引委託契約(以下「本件契約」という。)は心裡留保もしくは錯誤により無効であるとして不当利得返還請求権に基づき,予備的に,被告1の従業員である被告2ないし被告5の共同不法行為に対する使用者責任による損害賠償請求権に基づき,被告2ないし被告5に対しては,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告が被告1に預託した200万円,1199万9265円,1399万9265円及び80万円の証拠金合計2879万8530円から返還済みの1000万円を控除した残額1879万8530円相当の損害賠償金及びこれに対する平成12年7月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求めた事案である。

1  前提となる事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  原告は,平成11年10月から本件口頭弁論終結時まで岡山県●●●に収入役として勤務しており,被告1と本件契約を締結するまで商品先物取引及び株式取引の経験はなかった。

(2)  被告1は,商品取引所法に基づく商品市場における上場商品及び上場商品指数の取引,取引の受託及び取次などを目的とする株式会社であり,関門商品取引所の受託会員となっている。

(3)  平成11年11月から平成12年4月19日(原告が後記80万円の証拠金を被告1に送金した日)まで,被告2は被告1の営業部第1営業部長,被告3は被告1の京都支店長(但し,平成12年3月末ころまで),被告4は被告1の京都支店営業部主任(但し,平成11年11月末ころまで),被告5は同支店営業部外務員であった。

(4)  原告と被告1は,平成11年11月22日付けにて,本件契約を締結し,原告は,同月24日,被告5に証拠金200万円を交付した。

(5)  原告は,平成11年11月26日に証拠金1199万9265円を,同年12月3日に証拠金1399万9265円を,平成12年4月19日に証拠金80万円をそれぞれ被告1に送金した。

(6)  被告1は,原告に対し,平成11年12月21日に400万円,同月22日に200万円,同月28日に100万円,平成12年1月14日に300万円(合計1000万円)をそれぞれ返還した。

2  争点及び当事者の主張

(1)  本件契約は心裡留保又は錯誤により無効といえるか(争点1)。

(原告)

① 被告4及び被告5は,平成11年11月22日午後6時ころ,原告の執務する町役場に原告を訪ねてきた。

被告5がトウモロコシの先物取引について説明を始めたので,原告が取引の意思がない旨を告げると,被告4は,実際にはそのような事実はないにもかかわらず,被告5に対し,原告の意思を確認しないで伝票を上げたのか,会社を辞めなければならないなどと言って被告5を責めるとともに,原告に対し,被告5を助けたいので,力を貸して欲しいなどと言った。

原告は,被告5に同情し,200万円であれば用意できると言ったところ,被告4は2週間ほどで2%程度の利息を付けて返すなどと約束したので,原告は200万円を出捐することにした。

② 以上によれば,原告はトウモロコシの先物取引を行う意思はなく,被告4及び被告5の欺罔行為によって,被告5に同情し,被告5が責任を負わされるのを回避するために,200万円を出捐することにしたものであり,形式を整えるだけとの被告5らの言葉を信頼して約諾書等の書類に署名押印したが,本件契約を成立させる意思はなかったから,民法93条により本件契約は無効である。

また,原告は,被告4及び被告5の欺罔行為によって,錯誤に陥って,被告5に同情し,被告5の窮状を救済するとの動機から本件契約を締結したものであるから,本件契約は民法95条により無効である。

(被告ら)

① 原告の主張①については,被告4及び被告5が,原告主張の日時・場所に原告を訪ねたこと並びに原告と被告1は証拠金200万円くらいから取引を始めることになったことは認め,その余は否認する。

② 原告の主張②は否認ないし争う。

被告4及び被告5は先物取引の仕組みを説明し,原告は約諾書,アンケート及び口座設定申込書に署名押印している。取引意思のない者はこのような書類に署名押印はしないものである。

(2)  被告2ないし被告5の共同不法行為の成否(争点2)

(原告)

① 本件契約の締結にあたっての欺罔行為(以下「本件欺罔行為」という。)

被告4及び被告5は,平成11年11月22日,原告の委託を受けて先物取引に関する伝票を作成・処理していないにもかかわらず,このような手続をしたかのように虚偽の事実を述べて原告を欺罔し,原告の被告5に対する同情を利用して本件契約を締結させた。

② 説明不足

本件契約の締結前に,被告4及び被告5は,原告に対し,先物取引の仕組みやその投機的性質について十分な説明をしなかった。

③ 断定的判断の提供及び損失負担・利益保証の約束

ア 被告4及び被告5は,平成11年11月22日,原告に対し,トウモロコシが不作で絶対儲かるなどと利益を生じることが確実である旨の断定的判断を提供し,かつ,2週間ほどで2%程度の利息を付して返すなどと損失負担ないし利益保証を約束して本件契約を締結させ,同月24日,証拠金200万円を被告5に交付させた。

イ 被告2及び被告4は,平成11年11月25日,原告に対し,追証拠金の返還は200%保証する,絶対に損はさせないなどと損失負担を約束し,被告5は,会社のトップが責任ある話をしているので信用してほしいなどと言って,同月26日,証拠金1199万9265円を送金させた(以下「本件損失負担約束1」という。)。

ウ 被告2及び被告3は,平成11年11月30日,原告に対し,同年12月20日までに返還するなどと損失負担を約束して,同月3日,証拠金1399万9265円を送金させた(以下「本件損失負担約束2」という。)。

④ 無断売買

本件契約に基づき,平成11年11月24日から平成12年6月12日まで,原告名義で関門商品取引所におけるトウモロコシの先物取引(以下「本件各取引」という。)がされているが,いずれも原告の指示なしに行われた無断売買である。

⑤ 両建

本件各取引のうち,平成11年11月24日及び同月26日に合計175枚の買玉が建てられており,他方,同月30日に175枚の売玉が建てられているが,これは両建である。

両建は技巧的な制度であり,原告は先物取引自体の仕組みも十分に理解しておらず,このような原告に対して両建を勧誘し,行わせることは違法である。

⑥ 向い玉

被告1は,原告を含む全委託者に対して,ほぼ恒常的に向い玉を建てている。

受託会社が向い玉を建てると,委託者の利益は受託会社の損失となり,委託者の損失は受託会社の利益となり,あたかも委託者と受託会社が勝負しているような状況となり,受託会社が委託者の利益のために行動することが困難となる。

たしかに最終的な委託者の損益は相場変動の結果によるとしても,相場変動は全く予想できないではないうえ,受託会社が損失を意図して向い玉を建てるはずはなく,そうである以上,向い玉を建てている場合,受託会社に対して委託者の利益のために行動することを期待することは困難であり,向い玉は,委託者と利益相反する危険性が高く,委託者の利益を害するおそれが大きい。そのうえ,原告に対して,被告1が向い玉を建てることの説明はなかった。

したがって,恒常的に被告1の向い玉が建てられていた本件各取引は違法である。

⑦ 仕切拒否

原告は,被告2ないし被告5に対し,平成11年12月8日到達の書面にて,同月20日までに原告名義で行われている本件各取引を手仕舞いするように請求したにもかかわらず,引き続き原告名義で原告の指示を受けずに本件各取引を継続するとともに,平成14年4月17日ころ,被告3は,原告に対し,「80万円の追証拠金を支払わなければ,これまで支払った金員が無駄になる。」などと電話をし,同月19日,原告に証拠金80万円を送金させた。

⑧ 小括

被告2ないし被告5は,農産物商品の先物取引等を目的とする被告1の従業員であるから,商品取引所法,同法施行規則や日本商品先物取引協会の規則を遵守し,委託者の利益のために取引をしなければならない義務があるのに,この義務に違反し,共同して,前記①ないし⑦のとおり,本件契約を締結し,証拠金を預託させ,本件各取引を行ったものであるから,共同不法行為が成立する。

(被告ら)

① 原告の主張①は否認する。

被告4及び被告5は原告に先物取引のリスクを説明し,取引に参入する旨の承諾を得ている。

② 原告の主張②は否認する。

③ 原告の主張③のアないしウについて,原告主張の日に原告主張の金額の証拠金の交付又は送金があったことは認め,その余は否認する。

④ 原告の主張④は否認する。

被告1は本件各取引について原告の残高確認を得ており,無断売買ではない。

⑤ 原告の主張⑤は争う。

⑥ 原告の主張⑥は否認ないし争う。

被告1は本件各取引の全部に対して向い玉を建てているわけではない。

向い玉を建てた時点では委託者及び受託会社のいずれにも損益は発生しない。いずれかに損益が発生するのはその後の相場変動の結果であり,その相場変動が必ずしも受託会社の側に有利に動くとは限らないから,委託者を害するとは断定できない。

本件でも,被告1の自己玉にも莫大な損金が発生している。

⑦ 原告の主張⑦について,被告2ないし被告5に対して原告主張の書面が送付されたことは認め,その余は否認する。

⑧ 原告の主張⑧について,被告2ないし被告5に原告主張の義務があることは認め,その余は否認ないし争う。

(3)  被告2ないし5の共同不法行為による原告の損害(争点3)

(原告)

原告は,被告2ないし被告5の共同不法行為により,被告1に預託した証拠金合計2879万8530円から返還を受けた1000万円を控除した残額1879万8530円相当の損害を受けた。

(被告ら)

原告が預託した証拠金が合計2879万8530円であること及び被告1が1000万円を返還したことは認め,その余は否認する。

(4)  被告1の使用者責任(争点4)

(原告)

被告1は,被告2ないし被告5の使用者であり,本件契約の勧誘・締結,証拠金の預託及び本件各取引は,被告2ないし被告5が被告1の事業の執行につき行ったものであるから,被告1には原告の受けた前記(3)の損害について民法715条により使用者責任がある。

(被告1)

被告1が被告2ないし被告5の使用者であること,本件契約の勧誘・締結及び本件各取引が被告1の事業の執行につき行われたものであることは認め,その余は争う。

第3争点に対する判断

1  争点1について

(1)  甲26,乙18,原告及び被告5の各供述によれば,被告5は,平成11年11月16日ころ電話により,同月18日面談により,原告に対し,商品先物取引を勧誘したが,甲20及び原告の供述によれば,その時点では原告から取引をしても良いとの返事はもらっていなかったと認められる。それにもかかわらず,被告5及びその上司である被告4がわざわざ京都から遠方の原告の勤務先まで訪ねていること,たかだか2,3回の勧誘を受けたからといって,原告が全く経験のない商品先物取引に手を出すとは考え難いこと,原告が被告2ないし被告5に送付した甲21において,原告はこのときの状況を詳細に記載しており,しかも,「ちょっと待て,それは大変な事だ。Y4君はXさんの意思を確認しないで伝票を上げて来たのか,そのことの重大さが判っているのか,犯罪行為であり,君はこの社会から追放されるし,会社も辞めなければならない。本当にそんな事をしたのか。」,「この物を業界の人間が買い取る事は違法であり,我々には何ともできない」という被告4の発言が記載されているが,商品先物取引の経験のない原告が作文できるような表現ではないことを考慮すれば,実際にこのようなやりとりが行われたと認められる。

以上によれば,この点についての甲26及び原告の供述は採用でき,被告4及び被告5の各供述と併せ考察すれば,被告両名は,被告5は実際には伝票を上げていないにもかかわらず,被告5が原告の意思を確認しないで伝票を上げてしまったかのような芝居をして,原告の同情を引き,その結果,原告は,被告5が原告の承諾を得ないまま取引の手続をとったものと誤信し,被告5を助ける意味で,本件契約を締結し,200万円を出捐することにしたと認められ,原告には具体的な先物取引をする意思はなかったと認められる。

(2)  以上の認定事実に基づいて,心裡留保又は錯誤について検討すると,原告は具体的な先物取引をする意思はなかったと認められるが,原告の供述によれば,本件契約は個々の先物取引をするにあたっての基本的な契約であることは原告も理解していたと認められるから,本件契約の締結自体が心裡留保によるものとはいえない。

また,原告が本件契約を締結するに至ったのは,被告4及び被告5の前記芝居によって被告5に同情し,被告5を助けるためであったから,原告には本件契約の締結にあたって動機の錯誤があったといえるが,原告は本件契約がどういう契約であるかということは理解していたと認められるから,上記動機が本件契約の要素にまでなっていたと解するのは相当でない。

したがって,本件契約が心裡留保又は錯誤により無効であるとはいえない。

2  争点2について

(1)  本件欺罔行為について

前記1(1)によれば,被告4及び被告5は,共同して,本件欺罔行為によって原告に本件契約を締結させたと認められ,これは商品取引所法152条1号に反し,違法であり,被告両名の共同不法行為が成立する。

なお,この点に関し,被告4及び被告5と共同不法行為となる被告2及び被告3の加害行為については,原告の主張はないうえ,証拠上も認められない。

(2)  本件損失負担約束1について

① 甲26及び原告の供述によれば,以下のアないしエの事実が認められる。

なお,乙19,乙24,被告2及び被告4の各供述によれば,この証拠金は追証拠金ではなく,取引を増やす(増玉)ための証拠金というのであるが,商品先物取引は初めてであり,しかも前日に証拠金200万円を預託したばかりの原告に対し増玉を勧め,2000万円もの多額の証拠金(但し,すぐに1200万円に下げている。)の預託を勧めることはそれ自体問題があるうえ,本件各取引について原告が注文をしたこと及び原告と被告2ないし被告5又は被告1の他の従業員との間で個々の取引についてのやりとりがあったことは証拠上認められないこと(乙13の1ないし6によれば原告は残高確認をしているが,追認としての意味は別としても,個々の取引が原告の指示に基づいてなされたとは認められない。),原告が200万円の証拠金による取引によって利益を得たことは証拠上認められないことに徴すれば,原告が取引を増やすために1200万円もの大金を出捐するとは考え難く,200万円の証拠金の損失を回避するためにやむなく出捐することにしたと考えられる。そして,損失回避のためさらに大金を出捐する以上,証拠金の返還が確実であると思わせるような発言が原告に対してなされたと解するのが自然であることを考慮すれば,乙19,乙24,被告2及び被告4の各供述は採用できない。

ア 平成11年11月25日,被告4から原告に対し,市場の変動で先日の200万円が維持できない,2000万円を追加して用意してほしいとの連絡があったが,原告は,2週間後には利子を付けて返すと言ったではないか,損が出てもすぐに取引を終わってほしいと言った。

イ 間もなく,被告2から原告に対し,資金は1200万円あれば大丈夫です,返還は200パーセント保証します,絶対に損はさせませんなどと電話があったので,被告1に1200万円を支払うことにした。

また,被告5は,被告2と電話を代わって,原告に対し,会社のトップが責任ある話をしているので信用して下さいなどと言った。

ウ 同日午後6時ころ,被告2及び被告5が原告を町役場に訪れ,原告は1200万円は明日振り込むが,大金であり,確実に返済して欲しいと言うと,被告2は,1200万円のお金は損益の出るお金ではないので安心して下さい,自分が責任を持って保障します,利益を上乗せしてお返ししますと約束した。

エ 原告は,翌26日,1200万円から振込手数料を控除した1199万9265円を被告1に送金した。

② 以上の認定事実によれば,被告2,被告4及び被告5は,共同して,損失負担を約束したうえ,原告に証拠金1199万9265円を預託させたものであり,これは商品取引所法136条の18第2号に反し,違法であり,共同不法行為が成立する。

なお,この点に関し,被告2,被告4及び被告5との共同不法行為となる被告3の加害行為については,原告の主張はないうえ,証拠上も認められない。

(3)  本件損失負担約束2について

① 甲26及び原告の供述によれば,以下のアないしエの事実が認められる。

なお,乙19,乙20,被告2及び被告3の各供述によれば,被告2及び被告3は,この証拠金については相場の状況を見ながら返すと約束したことは認めているものの,その趣旨は,相場の状況が返せる状況であれば(利益が出た場合又は建玉を損切りして残金があった場合)返すという意味であって,返還約束があったことを認めているものではないが,これまで原告は本件各取引による利益は受け取っていないこと,この証拠金は友人から借金して工面していること,前提となる事実(6)のとおり,合計1000万円が被告1から返還されていることに照らせば,返還約束があったと認めるのが相当である。

ア 平成11年11月30日,被告3は原告に対し,市場が予想を超える動きをしているので,さらに1400万円の追証拠金が必要になりましたと電話してきたが,原告は,被告3の要求を拒否するとともに,支払済みの証拠金の返還を求めた。

しばらくして被告2から電話があり,市場が予想外の動きとなっているが,こんなことは長く続かない,数日で持ち直すので,被告3の言うとおりにしてほしいと言うので,原告は,あなた方は信用できないなどと抗議し,言い争いとなった。

イ 同日午後6時30分ころ,被告2及び被告3は,町役場に原告を訪れ,1400万円を用意しないと先に支払った金員が全て返還できなくなると繰り返すので,原告は,すでに預託している1400万円を失うことを恐れて,1400万円を用意できるか相談してみることとした。

ウ 原告は,同日夜友人に相談したところ,同年12月20日に返済する条件で1400万円を借りることができることになったので,被告2に対し,同日までに返還してもらう条件で1400万円を送金する旨連絡した。

エ 原告は,同月3日,1400万円から手数料735円を控除した1399万9265円を被告1に送金した。

② 以上の認定事実によれば,被告2及び被告3は,共同して,返還を約束したうえ,原告に証拠金1399万9265円を預託させたものであり,これは商品取引所法136条の18第2号に反し,違法であり,共同不法行為が成立する。

なお,この点に関し,被告2及び被告3との共同不法行為となる被告4及び被告5の加害行為については,原告の主張はないうえ,証拠上も認められない(なお,このころ,被告4は京都支店から転勤していた。)。

3  争点3について

(1)  原告は,被告4及び被告5の本件欺罔行為の共同不法行為により証拠金200万円相当の損害(その後の証拠金ないしその残金相当額の損害は本件欺罔行為と相当因果関係があるとはいえない。)を,被告2,被告4及び被告5の本件損失負担約束1の共同不法行為により証拠金1199万9265円相当の損害を,被告2及び被告3の本件損失負担約束2の共同不法行為により証拠金1399万9265円相当の損害を,それぞれ受けたと認められる。

(2)  なお,被告らからは過失相殺の明示の主張はないが,当事者の一方から被害者の過失を基礎づける事実の主張があり,この事実が認定できる場合には裁判所は損害賠償の額を定めるについて被害者の過失を斟酌することができるから,以下,この点を検討する。

① 本件欺罔行為は,商品取引所法152条1号に反する違法な行為であり,しかも,被告4及び被告5の両名によって巧みに行われていることを考慮すれば,本件欺罔行為により錯誤に陥って本件契約を締結し,証拠金200万円を預託した原告に過失があるというのは相当ではない。

② 本件損失負担約束1及び同2については,商品取引所法136条の18第2号に反し,違法であるが,損失負担約束は商品先物取引市場の公正を害し,公序良俗に反する行為であって,このような約束に応じて証拠金を預託した原告には過失があるといわざるを得ない。

しかし,すでに認定した本件契約の締結に至った経過,2回目及び3回目の証拠金を預託するに至った経過並びに原告はそれまでに預託した証拠金の損失を回避したい一心の心理的状態の下で,損失負担約束を受け,証拠金を預託したと認められること等を総合考慮すれば,本件損失負担約束1及び同2による証拠金の預託については,原告には2割の過失があったと認めるのが相当である。

したがって,本件損失負担約束1による損害賠償の額は,1199万9265円×(1-0.2)の計算により959万9412円であり,本件損失負担約束2による損害賠償の額は,1399万9265円×(1-0.2)-1000万円の計算により119万9412円である(なお,前提となる事実(6)及び被告2の供述等によれば,この証拠金については1000万円が返還されている。)。

4  争点4について

被告1が被告2ないし被告5の使用者であることは当事者間に争いがなく,本件欺罔行為,本件損失負担約束1及び同2の各共同不法行為が被告1の事業の執行につき行われたことは明らかであるから,被告1は,使用者責任に基づき,前記3で認定した損害(本件損失負担約束1及び同2による損害については過失相殺後の金額)を賠償する義務がある。

5  説明不足,無断売買,両建,向い玉及び仕切拒否について

原告は,本件各取引について,上記各違法事由を主張するが,説明不足については,被告4及び被告5の共同不法行為の主張であり,これによる損害は証拠金200万円相当額の損害と認められるが,これについては,本件欺罔行為の共同不法行為による損害として認められるから,説明不足の共同不法行為の成否を判断する必要はない。その他の上記違法事由については,関与した取引,関与の態様及び関与の時期を特定した被告2ないし被告5の具体的な加害行為の主張はないうえ,証拠上もこのような加害行為は認められないから,共同不法行為を認定することはできず,被用者の不法行為を前提とする被告1の使用者責任も認定できない。

なお,原告が平成12年4月19日に被告1に送金した証拠金80万円については,原告は被告3の関与を主張するが,Bの証言によれば,この証拠金の預託を求めたのは被告3の後任者である同人であると認められるが,同人の不法行為又は同人,被告2及び被告5(なお,被告3及び被告4はいずれも京都支店から転勤している。)による共同不法行為となる各人の加害行為については,原告の主張はないうえ,証拠上も認められない。

したがって,結局,本件において認定できる共同不法行為は,前記のとおり,本件欺罔行為,本件損失負担約束1及び同2の3件であり,被告1の使用者責任が成立するのもこれら3件についてである。

第4結論

以上によれば,原告の請求は,被告1,被告4及び被告5に対する200万円及びこれに対する共同不法行為後の日である平成12年7月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払い,被告1,被告2,被告4及び被告5に対する959万9412円及び共同不法行為後の日である平成12年7月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払い,並びに,被告1,被告2及び被告3に対する119万9412円を及び共同不法行為後の日である平成12年7月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度で理由があるが,その余は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 田中義則)

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