大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成14年(ワ)107号 判決

原告

同訴訟代理人弁護士

森川明

藤澤眞美

渡辺馨

川中宏

村山晃

村井豊明

久保哲夫

飯田昭

荒川英幸

浅野則明

岩橋多恵

藤浦龍治

奥村一彦

被告

株式会社京都エステート

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

中山慈夫

男澤才樹

中島英樹

主文

1  本件解雇無効確認の訴えを却下する。

2  原告が被告の従業員である地位を有することを確認する。

3  被告は,原告に対し,平成13年11月30日から本判決確定の日まで毎月25日限り,金29万6000円を支払え。

4  原告の訴え中,本判決確定の日の翌日から毎月25日限り,金29万6000円の割合による金員の支払いを求める部分を却下する。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

6  この判決は,3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告が原告に対して平成13年11月30日付にてなした解雇が無効であることを確認する。

2  主文2項同旨

3  被告は,原告に対し,平成13年11月30日から毎月25日限り,金29万6000円を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が被告に対し,被告が原告に対して行った解雇が無効であることと,被告の従業員である地位を有することの確認を求めるとともに,解雇日以降の賃金の支払いを求めている事案である。

1  争いのない事実等(証拠で認定する場合は末尾に証拠を示す)

(1)  被告は,昭和13年8月に設立され,平成13年9月までの社名は京都機械株式会社と称し,本店所在地は京都市南区吉祥院〈以下省略〉にあったが,その後,平成13年9月,本店所在地を肩書地に移し,社名も現在のものに変更した。

原告は,昭和41年3月23日に被告に入社し,染色整理仕上機械の設計の業務中心に仕事をしていた。

(2)  訴外株式会社イマジカ(以下「イマジカ」という。)は,平成11年9月,被告の株式を追加取得し,議決権の62.5パーセントを所有する筆頭株主となった(〈証拠省略〉)。

(3)  被告には,労働組合として京都機械労働組合(後のJAM京都機械労働組合。以下「JAM労組」という。)があり,当初原告も所属していたが,その後,原告は,平成13年7月11日,JAM労組に対して組合脱退届を提出し,全日本金属情報機器労働組合(略称JMIU。以下「JMIU」という。)京滋地方本部機械金属支部に加入した。

(4)  被告は,平成13年9月30日をもって機械部門を廃止し,新たに設立された会社(以下「新京都機械」という。)に機械部門の営業を譲渡し,三和工場等を賃貸した。新京都機械の出資者は,B(取締役社長)とC(専務)で50パーセント,被告と被告の取締役であったDの合計が50パーセントとなっており,会社設立後,一定期間内に管理職が出資し,被告持分株式の一部を買い取ることとなっていた。(〈証拠省略〉)

(5)  被告は,原告に対し,平成13年11月13日付け内容証明郵便により,同月30日をもって解雇する旨通知した(以下「本件解雇」という。)。

(6)  原告の平成13年11月当時の給与額は月額29万6000円,給与支払日は毎月25日であった。

2  争点

(1)  争点1(本件解雇について,解雇無効確認の確認の利益)

(被告の主張)

原告は,解雇無効確認の訴えと従業員である地位確認の訴えとを同時に訴求していることになる。しかし,解雇無効確認の訴えは,そもそも過去の法律行為の効力の存否を確認の対象とするものであるうえ,従業員である地位確認の原因に過ぎないから,現在の法律関係(従業員である地位)の確認を求めている本件において,さらに解雇の無効確認を求める法律上の利益はない。

したがって,原告の解雇無効確認を求める訴えは,確認の利益を欠くことが明らかであるから,不適法な訴えとして却下されなければならない。

(2)  争点2(整理解雇の効力)

(被告の主張)

いわゆる「整理解雇の4要件」とされる〈1〉人員整理の経営上の必要性,〈2〉解雇回避措置の有無ないし解雇回避努力の実施,〈3〉被解雇者選定の合理性,〈4〉解雇手続の妥当性,については,その「要件」を1つでも欠ければ整理解雇は無効となるという意味での法律要件ではなく,解雇権の行使が濫用となるかどうかの判断要素を類型化したものにすぎないと解される。したがって,整理解雇が解雇権の濫用となるか否かの判断にあたっては,いわゆる「整理解雇の4要件」について,その1つ1つを分断せずに全体的・総合的に捉えるべきであり,解雇が有効となるために,常に,いかなる場合においても4要件のすべてを充足しなければならないとする理由はないし,他方,4要件以外の事項を考慮しなければならない場合もある。したがって,本件整理解雇が権利濫用であるか否かも,このような枠組みに従って判断されなければならないところ,上記〈1〉から〈4〉の判断要素(以下「要件」という用語は誤解を招くおそれがあるため,以下では「判断要素」という。)を総合的に判断すれば,本件整理解雇が権利の濫用でないことは明らかである。

ア 人員削減の必要性

(ア) 人員整理の経営上の必要性については,「企業の合理的運営上やむを得ない必要性があれば足りる」と解すべきである。そして,本件のような不採算部門の廃止に伴う人員整理の場合,当該部門における経営上の必要性の有無を判断すれば足りるのであって,当該部門のみならず企業全体としての経営上の必要性を判断しなければならないというものではない。

被告は,平成13年3月期決算において,巨額の未処理損失を計上するに至り,莫大な借入金及び償還を要する預かり保証金・敷金を抱えていた。人員整理の対象となった被告の機械部門の業績は最近10年間悪化の一途をたどっており,黒字健全化する見込みはなかった。したがって,被告は機械部門を廃止して機械部門に従事していた被告全従業員を整理し,賃料収入により借入金等の返済に充てていくほかなく,したがって,原告を除く従業員は全員割増賃金を得て退職し,原告を整理解雇したものである。巨額の未処理損失を計上し,莫大な借入金及び償還を要する預かり保証金・敷金を抱えた企業において,慢性的・恒常的に赤字体質で黒字健全化する見込みのなかった部門を廃止することによって赤字の増大を防ぎ,従業員を配置する必要のない賃貸業務のみを行って賃料収入をもって借入金等の返済に充てていくという施策は高度な経営判断であって,それ自体経営者が自由に決しうることであるうえ,何ら合理的な判断でもない。

(イ) そして,被告の全従業員は機械部門に従事していたところ,この機械部門が廃止されるのであるから,原告を含む全従業員が剰員となることは明らかであり,その後,原告以外の従業員がすべて退職した結果,原告が剰員となったのであるから,人員整理の必要性は優にみとめられる。

(ウ) しかも,被告は,機械部門を廃止して全従業員を削減し,従業員の存在しない法定の取締役及び監査役のみで構成される会社となって,賃料収入をもって借入金等の返済に充てていくこととしたものであり,機械部門廃止後は従業員を配置して担当させるような業務は全くない。

以上のとおりであるから,本件において,人員整理の経営上の必要性があったことは明らかである。

イ 解雇回避措置について

企業が具体的に置かれた経営環境の中でその経営状態に応じてどのような解雇回避措置ないし解雇回避努力をどの程度現実に実行できるかは,使用者の経営政策上の判断によらざるを得ないところであるうえ,企業経営に伴い危険を最終的に負担するのは使用者であることからすれば,使用者にはあらゆる解雇回避措置を講ずることが義務づけられていると考えるべきではなく,個別の企業の実情に応じた使用者の裁量がみとめられるべきである。したがって,企業の行った経営上の努力が,当該企業の置かれた経営環境や経営状態等に照らし,著しく不相当・不合理でない限り,解雇回避措置を尽くしたとみるべきである。

本件において,

(ア) 被告は,機械部門の廃止に先立ち,割増退職金付きの希望退職募集を行っている。

(イ) また,退職者の再就職を考慮し,被告の代表取締役であったBらが新京都機械を設立し,被告を退職する者の再就職に向けての努力も行っている。

被告は,退職した従業員を支援すべく,新京都機械の債務について5億円の債務保証を行っているほか,工場建物,設備機械等を廉価で賃貸するなど特別の配慮まで行っている。この新京都機械への転職について,JMIU京滋地方本部との団体交渉の中で,被告と同じ労働条件による新京都機械での勤務(実質出向勤務)を求める申入れがあり,被告は,原告に対し,新京都機械に転職を希望するのであれば,他の従業員同様,転職届を提出してほしいと話したが,原告は,あくまで被告と同一労働条件による再雇用を要求してこれに応じようとしなかった。

(ウ) 被告は,本件解雇に先立って,新京都機械に対し,原告を出向として(従前と同一の労働条件で)受け入れられないかと打診もしたが,同社に転職した従業員は賃金切り下げ等を甘受して必死に努力している中で,原告のみを出向で受け入れるわけにはいかないという事情もあって承諾を得られなかった。

(エ) 本件では,機械部門が廃止されるのであるから,機械部門に従事していた原告が被告に残る道は他部門への配転か出向しか考えられないところ,機械部門廃止後,被告にはそもそも従業員を配置するような業務自体が存在せず,配転により原告の雇用を継続することは不可能であった。また,被告には子会社はなく,原告を出向させることができるような関連会社もなかった。被告は,イマジカグループ内での雇用確保も検討し,イマジカウエストやイマジカテックに打診もしてみたが,いずれも厳しい経営環境の中で既存従業員の雇用確保で精一杯である旨の回答であった。

以上のとおりであるから,被告の置かれた経営環境や経営状態に照らせば,被告が行った解雇回避措置は相当かつ合理的なものであり,被告は解雇回避措置を尽くしているといえる。原告は,割増退職金付きの希望退職にも応募せず,原告がこれまで従事してきた業務を引き継いだ新京都機械への再就職のあっせんにも応じなかったのであるから,本件解雇は,被告が解雇回避努力を尽くしたにもかかわらず,原告がこれらをすべて拒否した結果というほかない。

ウ 解雇対象者選定の合理性について

本件は,企業の維持・存続が困難となった被告が,機械部門を廃止して機械部門に従事していた全従業員を削減することとした事案であり,削減対象者は従業員全員である。

そして,原告を除く従業員全員が被告の解雇回避措置としての希望退職募集や新京都機械への再就職あっせんに対応した中で,原告のみが希望退職募集にも新京都機械への再就職にも応じず,その結果被告の従業員は原告のみとなったのである。すなわち,本件整理解雇時までに他の従業員はすべて退職しており,従業員は原告のみであったから,本件における解雇対象者選定が合理的であることは疑いなく,この点の合理性が問題となる余地はない。

エ 解雇手続の妥当性

被告は,本件整理解雇に先立って,機械部門廃止及び全従業員削減について,原告を含む全従業員にその経緯及び内容を説明し,さらに当時原告も加入していたJAM労組との間で,団体交渉や窓口折衝を通じ,説明・協議を尽くしている。そして,JAM労組は,平成13年7月5日,被告の経営状態からみて機械部門廃止及び全従業員削減はやむを得ない,と機械部門廃止及び全従業員削減を基本的に了承し,その後,被告との間で,機械部門廃止及び全従業員削減を前提として,同日,同月10日,同月12日及び同月25日に団体交渉を行い,同月26日の臨時組合大会において,機械部門廃止及び全従業員削減に同意したのであるから,被告は原告がJAM労組を脱退した同月11日までに,機械部門廃止及び全従業員削減について,必要な説明・協議を尽くしていたといえる。

被告は,さらに,JMIU京滋地方本部との団体交渉にも応じ,同年8月31日,同年9月18日及び同月26日の3回にわたり,団体交渉を行い,機械部門廃止・全従業員削減について,説明・協議した。さらに,解雇後も4回にわたり団体交渉を行っており,十分に協議を尽くしている。

したがって,機械部門の廃止に伴い,これに従事していた原告を整理解雇したのはまさにやむを得ないものというほかなく,解雇権の濫用でないことは明らかである。

(原告の主張)

いわゆる整理解雇は,労働者の落ち度によらないで,労働者から一方的に収入を得る手段を奪い,労働者にとって重大な結果をもたらすものであるから,このような解雇の効力については慎重に判断されなければならず,人員の削減の必要性があったかどうか,解雇回避努力を尽くしたかどうか,被解雇者の選定に妥当性があったかどうか,解雇手続が相当であったかどうかなどについて検討し,これらの要素を総合考慮の上,解雇の効力を判断するのが相当である。

ア 人員削減の必要性について

人員削減の必要性については,客観的に高度の経営危機から人員削減措置が要請されていることを必要と解すべきである。

ところが,被告は,3年間で4億8000万円の経常黒字決算を行っていること,年額9億7000万円を超える安定的な賃料収入を得ていること,会社には時価85億円以上の土地と取得価格65億円の建物が資産として確保されていること,会社の累積損失は土地代と退職金・事業転換に伴う費用であり今後は増える見込みがなく,平成20年までに長期借入金が返済され,平成21年までに短期借入金が返済され,預かり保証金も平成30年までに償還されることが認められる。

そうすると,会社の経営状況は極めて健全でかつ完全に安定軌道に乗っていることは明らかで,企業が客観的に高度の経営危機下にあったとは到底いえない。

仮に,被告が主張するとおり,機械部門のみの経営上の必要性を検討しても,被告には,平成13年6月25日の時点で,「機械部門閉鎖,全労働者削減」の必要性はなかったものである。被告は,老舗企業として安定した顧客を確保しており,新規の大型受注は冷え込んでいたものの,従来の顧客からの修理取替の依頼はあり,機械部門の売上は平成11年6月期からは概ね15億円程度の安定売上を確保していた。そして,被告は,平成13年3月期には,機械部門の存続を認めてきていた。平成13年6月の会社からの提案は原告らにとって青天の霹靂であり,被告の筆頭株主であるイマジカの意思を一方的に押しつけられたことによるものである。実際,被告は機械部門の閉鎖後,同一場所で従前の従業員のうち27名を「再雇用」し,経営主体が変更された形で同一の営業を継続している。したがって,機械部門の閉鎖が「客観的に高度の経営危機からの要請」とは無縁の株主からの押しつけであったことは明らかである。

仮に,被告に機械部門を閉鎖し,人員削減をする必要性があったとしても,平成13年11月13日には,被告は恒常的に経営黒字が見込まれ,人員削減の必要性が完全になくなっており,ことさら原告一人を解雇しなければならない合理的理由は何らなかった。

イ 被告は誠意ある協議,交渉を行わなかった

原告は,平成13年7月11日付けでJAM労組に対し組合脱退届を提出した後はJAM労組の会議などには参加しておらず,したがって,会社とJAM労組との交渉経過についてその都度知りうる立場にはなかった。そして,原告は,平成13年7月11日,被告に対して新たにJMIU労組に加入したことを通知し,同時に機械部門の閉鎖問題について団体交渉開催の要求書を提出した。しかし,会社は,「同一議題について三者と団体交渉するわけにはいきません」等と対応し,その後も同様の回答が7月31日付け,8月8日付けと繰り返された。その結果,第1回の団体交渉は8月31日になって開催された。会社のこの対応は団交拒否そのものであり,このような理由にならない口実で団体交渉を50日間も引延ばしたのは,その間にJAM労組との間で交渉を詰め,協定化した上で,個々の労働者とも個別合意を急ぎ,職場内での会社側有利に既成事実化を進めようとしたものとしか考えられない。団体交渉に向けての会社側の姿勢は極めて不誠実で,JMIU労組に対する団交拒否そのものであった。

また,団体交渉開始後においても,組合は,事業報告書,ジャスコ関連の資料,機械部門の赤字の実態が判明する資料などの開示を求めたが,会社は資料開示に応じないなど,意味のある団体交渉なくして解雇したというに等しいものであった。

しかも,会社は,就業規則で定めた組合との協議決定を経ずに解雇をしたものであって,重大な手続違反がある。会社は新しい就業規則を作成していたとするが,当時作成されたとは考えられず,また,正規の手続きは経ておらず,効力が生じていたとは認められないものである。

ウ 解雇回避の努力が尽くされていない

会社は9月18日の第2回団体交渉において転職届の用紙を交付した。転職届は会社への退職届としては完結しているものであり,新京都機械への採用の保障がなされないまま提出できないのは当然であるところ,会社は原告の採用は新京都機械の問題であるから分からないと回答するなど無責任なものであった。それにもかかわらず,原告に転職届の提出を迫るのは,退職を強要するものである。

しかも,新京都機械の株主は,設立してから平成14年12月まで,B,Cが50パーセント,被告及びイマジカ(旧名称)グループ役員のDが残り50パーセントであり,原告の採用問題について決められない筈がなかった。しかも,原告の給与額は,平成11年7月の能力給導入に伴う格付時に他の労働者と比較して大幅に下げられており,原告が被告での労働条件と同一のものを新京都機械において求めるのは当然であった。また,被告は原告を在籍出向させる方法もあったにもかかわらず,すべて実現しなかったのは,被告が原告を新京都機械に採用することを拒否したというのが実情である。

被告の大株主であるイマジカ(旧名称)は子会社22社,関連会社4社があり,JMIU労働組合では,関連会社への出向,転籍などを求めたが,会社はこのような解決方法に言及していなかった。被告の乙山社長は法廷において,グループ企業への出向を検討していたと供述しているが,それまでの被告との交渉の経緯に照らして,実際にこの努力を払っていたとはとても信用できない。

さらに,被告における業務として,賃貸物件の保守,管理,修理等の業務が必要であり,会社での仕事も考えられた。

以上を考慮すると,本件で会社が原告を解雇することを回避する努力を尽くしたとは到底言うことができない。

(3)  争点3(本件解雇が不当労働行為として無効か)

(原告の主張)

原告は一貫して労働者の権利を守る立場で活動してきた。被告はこのような原告の組合員としての活動を嫌悪し,あるいはこのような原告の思想,信条を嫌悪し,このため,賃金差別をしたり,雇用保障のない転職届(退職届)の提出を執拗に求めたりしたが,原告がこれに応じなかったため,本件解雇にいたったものである。したがって,これは,不当労働行為として労働組合法7条1項に違反し,あるいは労働基準法3条に違反し,無効である。

(被告の主張)

被告は,原告に対して,組合員としての活動,思想,信条を嫌悪した事実はなく,賃金差別をしたり,転職届の提出を執拗に求めた事実もない。

第3争点に対する判断

1  争点1について

本件解雇無効確認の訴えは,過去の法律関係の確認を求めるものである。したがって,上記の法律関係を確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合のほかは,確認の利益を欠き,不適法な訴えとして却下を免れない。

これを本件についてみるに,原告は,本件解雇が無効であることの確認を求めるとともに,原告が被告の従業員である地位を有することの確認を求めている。したがって,本件解雇の無効を確認すべき利益はないといわなければならない。

そうすると,本件解雇の無効確認を求める訴えは,却下すべきである。

2  争点2について

(1)  証拠(〈証拠省略〉)によると,被告が原告を解雇するに至る経緯について,以下の事実を認めることができる(末尾には主たる証拠を摘示する。)。

ア 原告(昭和○年○月生)は,被告に,昭和41年3月に入社して以来,約35年間被告に勤務していた。

被告は,JAM労組と,平成6年10月28日,工場敷地を訴外a株式会社(後にb社に商号変更)に賃貸し資産を有効に活用するため協定書を締結し,工場を京都市南区吉祥院から京都府天田郡三和町に移転することとした。(〈証拠省略〉)

イ さらに,被告は,JAM労組に対して,平成7年11月10日,規模縮小の上,コストダウンの徹底等あらゆる合理化をはかって生き残り対策を行い企業の維持を期したいとして,人員削減(定年年齢一時的引き下げ,希望退職者約20名の募集),賃金手当の減額,労働時間延長,経費低減等を行いたい旨の申入れを行った。(〈証拠省略〉)

ウ 被告とJAM労組は,平成8年3月8日,現状の緊急避難措置としての人員削減,手当の減額,労働時間の変更,経費の低減に関して協定書を締結し,これにより,35名(管理職4名,組合員31名)の従業員が退職し,従業員が110名程度から75名程度に減少した。(〈証拠省略〉)

エ 被告は,平成10年6月23日,京都市南区吉祥院の工場跡地に地上5階建の建物を新築し,同年7月,所有不動産をa社に賃貸し,同所に洛南ショッピングセンターがオープンした。被告は,a社から,以後,安定的に賃料収入を得ている。(〈証拠省略〉)

被告の92期(平成10年6月21日から平成11年6月20日)の決算は,a社洛南ショッピングセンターがオープンし,賃貸料として売上に寄与することとなったが,染色機械と食品機器の機械部門では売上が大幅に減少し,営業利益も多額の赤字を計上することとなった。そして,売上合計額がほぼ昨年同額の24億8500万円,経常利益は3億4400万円となり,当期利益は4億9200万円となった。(〈証拠省略〉)

オ なお,被告の平成11年6月期の業績は,売上24億8600万円,営業利益4億2500万円,経常利益3億4500万円,当期利益4億9300万円,繰越損失21億9800万円であった。(〈証拠省略〉)

カ 被告は,JAM労組に対して,平成11年4月21日,「吉祥院の跡地利用によるa社からの賃貸料収入が始まっていますが,これについては,当面,初期投資の費用に充当するほか,これまでの累積債務の返済にあてなければなりませんが,製造部門の不振は,今期2月までの合計損益において,この収入をも食いつぶす結果となってしまいました。」「大株主は,これ以上の会社資産の目減りは容認できない,いわんや製造部門の赤字を賃料収入で補うがごときは,とうてい許されるべき経営ではないとの立場から,速やかな抜本的対策を強く求めてきています」として,希望退職者の募集,残った従業員の労働条件の変更,経費節減等を申し入れた。被告は,JAM労組と,平成11年5月31日,希望退職の募集,残った従業員の労働条件の変更(賃金体系を変更して年齢給と能力給に分け,この2本柱をベースにした賃金体系とすることなど)について協定を締結し,この結果,24名(管理職4名,組合員20名)が退職し,従業員数は75名程度から50名程度になった。また,賃金体系が変更され,原告の賃金は,これにより,約10万円引下げられることになり,同年齢の従業員5名中最低額の支給額となり,原告は評価に納得がいかないとして被告に説明を求める書面を提出した。(〈証拠省略〉)

キ 被告の93期(平成11年6月21日から平成12年3月31日)の決算は,決算日の変更にともない営業期間が9か月強と短くなったことと厳しい業況と相侯って売上合計額は14億1025万円,経常損失は4125万3000円となり,さらに過年度減価償却費3億6739万6000円,希望退職に基づく退職金1億5901万1000円を特別損失に計上し,最終当期損失は5億9302万5000円,前期繰越損失21億9786万8000円,当期未処理損失27億9089万4000円という結果となった。(〈証拠省略〉)

ク 被告の94期(平成12年4月1日から平成13年3月31日)の決算は賃貸部門においてはa社洛南店が安定的に売上に寄与しているが,機械部門において,後半期に受注が減少し,目標売上ができなかったことから,売上高は25億3527万1000円,経常利益は1億9277万6000円となった。ただし,退職給付引当金4億661万7000円を特別損失に計上したため,当期損失は2億4173万4000円,前期繰越損失27億9089万4000円,当期未処理損失30億3262万8000円という結果となった。そして,被告は,賃貸部門での安定した売上と利益を基本に,機械部門の健全化を早急に取り組むことを決意し,染色機械については国内ユーザーからの大型受注が見込めない中,中国,東南アジア,パキスタンを重要市場として重点的に営業活動をし,10月に大阪で開催される国際繊維機械見本市に出展し,新たな展開を勧(ママ)めることにするとの方針を示していた。(〈証拠省略〉)

ケ 被告は,JAM労組に対して,平成13年6月25日,「第93期と第94期の決算を終えましたが,既に案内通り機械部門の成績は計画を大幅に下回り,連続の赤字を計上する結果となり,賃貸収入を食いつぶす惨憺たる状況となってしまいました。」「株主の意思は固く,機械部門の閉鎖と全従業員が退職する道を選ばなければならなくなりました。」「なお,せめても京都機械の機械製造会社としての伝統を絶やさない為,私BとC専務は,小規模ながらこの機械部門を継承すべく,『新会社』の設立を計画いたします。」との申入れを行い,機械部門を閉鎖し,賃貸部門だけの会社にすること,完全に退社する従業員に対して,規定により計算された退職金に割増を付けて支給すること(59歳以上残月額給与の4分の1,55歳以上 会社都合退職率の10%増し,50歳以上 会社都合退職率の15パーセント増し,以下の年齢については省略),株主の意向は平成13年9月末までに機械部門を閉鎖したいこと,新会社の従業員は基本は現在の京都機械の従業員から募集すること,新会社に転職する従業員に規定により計算された退職金を支給すること,労働条件は新会社の条件によること,新会社を(ママ)平成13年10月1日設立を目標とすることを示して,全従業員の退職を申し入れた。(〈証拠省略〉)

コ 当時JAM労組は管理職15名を除く35名の全従業員(原告を含む)で組織されていた。被告はJAM労組と,同月28日,被告提案について第1回団体交渉を実施し,その後も折衝を行った。JAM労組執行部は,組合員に対して,「大株主が決めた閉鎖に関する意向については,イマジカが自発的に取り下げない限り,法律的には有効である。現状から判断して,イマジカに自発的に閉鎖の意向を撤回させることは無理と判断し,かつ,闘争体制を組んでも最後まで闘えない人が相当数出ると予想される。以上の観点から,機械部門閉鎖ついて悔しいけれど認めた上で,条件闘争に入っていきたい。条件面については,現在会社から提示されている条件のまま合意するつもりはない。会社と交渉をした上で,その結果を全員に問うこととしたい。」との見解を示し,職場集会での討議の結果,条件闘争に入ることとなり,JAM労組は,機械部門ないし及び全従業員削減を基本的に了解した。(〈証拠省略〉)

サ 被告は,これを受けて,同月6日以降,JAM労組との間で機械部門廃止及び全従業員削減を前提とした退職金の上積み等の条件交渉に入った。さらに同月10日,同月12日及び同月25日の4回にわたり,退職条件,新たに設立される会社の概要及び被告を退職する従業員の取り扱い等について団体交渉を行って説明協議を実施した。被告の提示した労働条件は,基本給が18歳で10万円のところを8万円に,30歳で15万円のところを12万円に,55歳で13万円のところを10万円とし,その他能力給の表を作り直す,新会社設立後3年間は,50歳以上で「基本給」を10パーセント減額(以下の年齢については省略)するものであり,これが原告に適用された場合,それまで年齢給能力給合計29万6000円と別居手当2万円の合計31万6000円が支給されていたものが,24万8400円と,6万7600円も減額される可能性のあるものであった。(〈証拠省略〉)

シ 原告は,平成13年7月11日,JAM労組が「機械部門の閉鎖を認め条件闘争に入る旨」の見解を示したことへの不満から,JAM労組に対して組合脱退届を提出し,JMIU京滋地方本部機械金属支部に加入した。JMIUは,金属情報機器関連の労働者で組織されている単一の労働組合で,中央本部,支部,分会という統一的な組織となっている。そして,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対し,その旨通知した。そして,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対して,同日,機械部門の閉鎖と新会社設立について,同月16日に団体交渉を開催することを申し入れた。(〈証拠省略〉)

ス これに対して,被告は,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)に対して,同年7月16日,同一議題について3者と団体交渉するわけにはいかず,交渉当事者を特定した上改めて申し入れるよう申し入れた。しかし,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対して,同月24日,再度,JMIU京滋地方本部機械金属支部の京都機械内における組合活動,機械部門の閉鎖についてを議題とする団体交渉を,8月7日または14日に行うよう申し入れた。(〈証拠省略〉)

セ 被告とJAM労組は,同年7月26日,機械部門の閉鎖と新会社の設立について妥結協定書を締結した。その内容は,現京都機械の機械部門を閉鎖し,賃貸部門だけの会社にすること,JAM労組の組合員は全員退職すること,退職日は平成13年9月30日付けとすること,完全に退職する組合員には,規定により計算された退職金に割増金(59歳以上残月額給与の2分の1,55歳以上 会社都合退職率の20%増し,50歳以上 会社都合退職率の25パーセント増し,以下の年齢については省略),再就職の斡旋はしないこと,新会社の社名は京都機械株式会社を使用すること,資本の出資者はB(取締役社長)とC(専務)で50パーセント,現京都機械とDの合計が50パーセントとすること,従業員は基本的には現京都機械から募集すること,採用条件は別に定める,各人の意思決定については,所定の届出用紙(退職届または転職届)に署名捺印し平成13年8月10日までに会社に提出すること,などというものであった。原告は,被告から,この妥結協定書の内容について,知らされることはなかった。(〈証拠省略〉)

ソ 他方,被告は,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)に対して,同年7月31日,同月11日付け書面による団体交渉の開催申し入れについて,同一議題について3者と団体交渉するわけにはいかず,交渉当事者を特定した上改めて申し入れるよう回答並びに申し入れを行った。これに対して,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対して,同年8月1日,団体交渉の交渉当事者であるJMIUは単一組織であり,団体交渉の交渉当事者は中央本部・地方本部・支部の役員および当該組合員であるとして,8月7日または14日には必ず団体交渉を開催されるよう申し入れを行った。(〈証拠省略〉)

タ しかし,被告は,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)に対して,同年8月3日,同一議題について独立した4者と並行して団体交渉するわけにはいかず,交渉当事者を特定した上改めて申し入れるよう回答並びに申し入れを行った。これに対して,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対して,同月13日,交渉当事者は全日本金属情報機器労働組合京滋地方本部とする旨回答し,8月14日には必ず団体交渉を開催するよう申し入れた。しかし,被告は,全日本金属情報機器労働組合京滋地方本部に対し,同年8月14日,申し入れの日時である8月14日は業務の都合により応じられない旨回答した。(〈証拠省略〉)

その後,被告は,JMIU京滋地方本部に対して,同年8月16日,同月24日に団体交渉の開催を申し入れたが,原告らは,同月17日,この時は原告らが差し支えのため別期日に開催することを依頼した。(〈証拠省略〉)

結局,同年8月31日に第1回目の団体交渉が開催されることとなり,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対し,平成13年9月3日,原告の被告内での労働組合活動を保障するための要求事項を列挙した「要求書」と,8月31日開催の「機械部門の閉鎖」問題に対する団体交渉で申し入れた,整理解雇の要件に関する会社見解,被告の事業報告書の提出,a社関連費用の明細の提出,機械部門の赤字の説明を文書で回答を求める「申入書」を提出した。(〈証拠省略〉)

チ 被告は,JMIU京滋地方本部に対して,同年9月6日,9月18日に団体交渉開(ママ)催する旨の通知を行った。これに対し,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対し,重ねて,「機械部門の閉鎖の理由」に関して,整理解雇の要件に関する会社見解,被告の事業報告書の提出,a社関連費用の明細の提出を求めるとともに,第2回団体交渉を9月11日ないし12日のいずれかに開催することを求めた。(〈証拠省略〉)

ツ 被告は,JMIU京滋地方本部に対して,同月10日,団体交渉開催日として9月11日または12日のいずれも都合がつかないとして,9月18日に団体交渉を開催する旨申し入れた。また,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対して,9月11日,機械部門の閉鎖が迫ってきたことから,雇用確保を優先させることとし,他方新京都機械の賃金体系によれば原告の賃金が大幅に減額されることが予想されたため,10月1日付けで設立予定の新京都機械に原告を雇用すること,労働条件については現在の被告の条件によることを求める「要求申し入れ書」を提出した。また,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)は,被告に対して,同月13日,団体交渉開催日として9月18日はあまりにも遅いといわざるをえないが,9月末に機械部門の閉鎖が迫っていることからこれに応じる旨回答するとともに,従前と同様の申入れを行った。(〈証拠省略〉)

テ 第2回目の団体交渉は9月18日に開催され,被告は,原告が新会社に転職したい意思表示があった以上,「転職届」を提出してもらう,雇用継続については分からないと回答した。また,被告は,原告に対し,転職届にある「私は,機械部門の閉鎖について同意し,退職します。なお,新たに設立される会社に転職を希望します。また,提示されている新会社の労働条件,及び,転職者の退職金の条件について承認します。」と記載のうち,「機械部門の閉鎖について同意」という文書は削除してもいいので転職届を提出をするよう促したが,新会社での雇用はあくまで新会社が判断して決めることであり,被告としては何も言えないと述べるにとどまった。(〈証拠省略〉,被告代表者)

ト 第3回目の団体交渉は平成13年9月26日に開催された。被告は,原告に対し,「転職届を出してもらった上で,被告としてどうするのか検討したい。8月10日までに出してもらった方については全員雇用は保障している。それまでにだしてもらえたら別だったが…」と述べ,原告は,「退職はしない。転職届は白紙委任の状態でだせない。勤務場所,内容等について9月28日までに文書回答をお願いしたい。」などと求めたが,被告は,「役員と連絡とれない。検討はするが結論がでるかどうかわからない。とりあえず検討はするがどうなるかわからない。」などと回答するにとどまった。(〈証拠省略〉)

ナ 被告においては,原告を除く被告の従業員全員(49名)は,同月30日退職し,その一部である27名が新京都機械に採用され,被告は,9月30日をもって機械部門を廃止した。また,被告は,同年10月1日,新京都機械に機械部門の営業を譲渡し,三和工場等を賃貸した。(〈証拠省略〉)

ニ 被告代表者と原告は,同月28日,10月1日以降の処遇等について電話で話し合いを行い,被告代表者は,原告に対し,「10月1日からの雇用契約は京都エステートに継続する。賃金,労働条件は旧京都機械当時と同一とする。但し勤務場所はまだ答えられない。新京都機械へ出向させることはできない。勤務場所の特定については原告の組合と協議する。」と伝えた。また,原告は,京都エステートに対し,10月18日,勤務場所,勤務内容を至急指示するよう求めた。(〈証拠省略〉)

ヌ 被告は,平成13年10月1日付けで就業規則を変更し,それまでの就業規則では解雇する場合には,組合に通知し,組合より異議の申出があるときは,組合と協議決定すると規定していた(16条)ところを削除した(13条)(〈証拠省略〉)。

ネ 被告は,原告に対して,平成13年11月13日,同月30日付けで解雇する旨通知した。(〈証拠省略〉)

ノ 被告は,JMIUと,年末一時金要求と解雇撤回についての団体交渉を,平成13年11月22日,同月30日,同年12月14日,平成14年2月25日の4回実施した。(〈証拠省略〉)

ハ 被告の平成4年6月期から平成13年上半期の機械部門のみの業績は,売上は毎期ごとに低減し,ほぼ毎期とも営業損失,経常損失を計上していた。(〈証拠省略〉)

(2)  以上を前提に判断する。

ア まず,被告がいかなる事業を継続させ,いかなる事業を廃止するかは,被告自身の責任で行われるものであるから,被告全体として見るまでの必要はないというべきである。

そうすると,被告においては,機械部門は売り上げが減少して赤字が続く一方,賃貸部門では賃料収入が安定的に見込まれている状況であることから,機械部門を廃止をすることに決めたこと自体については,一応合理性を有するものと認めることができる。そうであれば,機械部門の廃止により配置させておく必要のなくなった従業員を削減する必要も生じることから,原告を含めて人員削減の必要性は認められ,機械部門閉鎖,全労働者削減の必要性がなかったとはいえない。さらに,被告の経営を決定するに際して,株主の意向が反映されるのは当然のことであるから,その意向を尊重することが「株主の押しつけ」であるとすることもできない。

イ しかし,被告の筆頭株主であるイマジカは,被告の機械部門が赤字であること,将来a社に対して多額の保証金返還義務を有していることを前提に被告の株式を買い増しした結果筆頭株主となっているのであるから,当初から賃貸部門の収益性に着目してこれのみを存続させ,機械部門の廃止・従業員の解雇は検討していたものというべきであって,不要となる従業員の処遇について,イマジカを含めて検討する必要があったというべきである。ところが,被告は,それを検討した事情は認められず,機械部門を分離して新京都機械を設立するに際して,原告が新京都機械への雇用継続を求めているにもかかわらず,被告からの退職を前提とする転職届を提出するよう求め,しかも,新京都機械への雇用継続はその株主構成からして十分に被告において可能と思われるのに,別法人であることを楯に新京都機械への雇用は分からないと回答するに終始していたことが認められる。なお,被告代表者は,当法廷において,被告の株主であるイマジカのグループ会社についても雇用確保の努力をした旨供述するが,それ以前の交渉経緯に照らして裏付けのない供述であって,信用することはできない。

また,被告は,割増退職金つきの希望退職を募っていることを主張し,この主張に沿った証拠(〈証拠省略〉,被告代表者)も存するが,JMIU京滋地方本部,同機械金属支部,同機械金属支部京都機械組合員(原告)に対して示したものではない。さらに,被告は,原告が賃金切り下げ等の要求を受け入れなかったことから新京都機械で雇用することはできなかったと主張するが,そもそも,被告は原告に対して一旦被告からの退職を求めており,新京都機械での雇用を保証していないのであるから,その点をもって原告の責めに帰するものとすることはできない。

以上の点からすると,本件において,被告が解雇回避努力を尽くしたとは認めるに至らない。

ウ そして,被告が原告を解雇するに際して,原告の所属する労働組合が団体交渉を要求したのに際して,被告は交渉者を特定するよう求めているが,これは,JAM労組との交渉に際して原告の所属組合と団体交渉することによりその内容が影響を及ぼすことを避けるとともに,被告が機械部門の閉鎖をするとした9月30日に向けて原告を追い込み,被告に有利な解決を図るために行われたと認めざるをえない行為であり,正当な理由がなく団体交渉を拒絶するものである。また,団体交渉は原告らから7月16日に団体交渉を申し入れた後,8月31日,9月18日,9月26日の3回にわたって行われたが,被告はいずれも退職届を前提とする転職届の提出を求めることに終始するなど実質のないものであったこと,しかも,被告は,被告としては雇用継続をする意思もなく,従業員は原告1名しかいなかったにもかかわらず,あえて就業規則を被告に有利に改訂し,それまで必要とされていた組合との協議事項を削除した就業規則に基づき解雇するなどに鑑みると,解雇手続が相当とは到底解することはできない。

エ そうすると,本件解雇は,整理解雇の要件を充足しないというべきであるから,本件解雇は,その余の点を判断するまでもなく,権利濫用として無効というべきである。

(3)  そうすると,原告は,被告に対し,平成13年11月30日から毎月25日限り,金29万6000円の賃金の支払いを請求できることになるが,本判決確定の日の翌日以降の請求にかかる訴えについては,本判決確定後も被告が原告に対する賃金の支払を拒否するおそれが認められないかぎり,予め請求する必要がないところ,本件では,そのようなおそれを認めるに足りる証拠はないので,訴えの利益を欠くものとして却下を免れないというべきである。

よって,原告の被告に対する請求は,原告が被告に対し,平成13年11月30日から本判決確定の日まで,毎月25日限り,金29万6000円の支払いを求める限度で理由があり,その余は却下すべきである。

3  結論

よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 浅田秀俊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例