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京都地方裁判所 平成14年(わ)61号 判決

主文

被告人を懲役4年6月に処する。

未決勾留日数中150日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1平成14年1月11日午後11時31分ころ,普通乗用自動車を運転し,京都市x区(以下省略)の信号機により交通整理の行われている交差点を南から北へ向かい直進するに当たり,対面する信号機が赤色の灯火信号を表示しているのを同交差点の停止線手前約60メートルの地点で認め,直ちに制動措置を講じれば同停止線の手前で停止することができたにもかかわらず,京都駅へ行くのに先を急ぐため,同交差点で停止することなく直進しようと決意し,同交差点の赤信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約60キロメートルの速度で自車を運転して同交差点に進入したことにより,折から,右方道路から青色信号に従って同交差点内に進入してきたA(当時34歳)運転の原動機付自転車左側部に自車前部を衝突させて同人を前方にはね飛ばした上,路上に転倒させ,よって,同人に頭蓋骨骨折による脳挫傷の傷害を負わせ,そのころ,同所において,同人を同傷害により死亡させ,

第2公安委員会の運転免許を受けないで,前記日時場所において,普通乗用自動車を運転した。

(証拠の標目)

省略

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は刑法208条の2第2項後段に,判示第2の所為は平成13年法律第51号附則9条により同法による改正前の道路交通法118条1項1号,64条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入することとする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,普通乗用自動車を運転していた際,前方の赤信号を認めたにもかかわらず,殊更に無視して時速約60キロメートルで交差点に進入して被害者運転の原動機付自転車に衝突し,同人を死亡させたという危険運転致死及びその際における無免許運転の各事案である。

被告人は,友人方で開かれた新年会に出席して飲酒した後,友人が携帯電話のいわゆる出会い系サイトを通じて会う旨約束をした女性を早く迎えに行きたいとの一念から,本件各犯行に及んだものであって,その身勝手な動機に酌むべき事情はない。また,被告人は,赤色信号無視,速度超過,ベルト装着義務違反等による多数の交通違反歴を有し,速度超過や無免許運転の罪により平成13年1月及び同年5月にそれぞれ罰金刑に処せられ,同月運転免許取消処分を受けたにもかかわらず,被告人の供述によれば,その後も常習的に無免許運転をしているほか,赤色信号無視や飲酒運転を多数回行っているのであって,被告人の交通法規に対する規範意識の欠如は明らかである。被告人は,本件犯行現場に至るまでに同乗者から運転速度等について度々注意を受け,本件交差点の停止線手前約60メートルの地点で赤色信号を認め,同乗者からもその旨注意を受けたにもかかわらず気にとめることなく,クラクションを1,2度鳴らしたのみで殊更に赤色信号を無視し,時速約60キロメートルで交差点に進入したというものであって,被告人の運転行為は,無謀かつ危険極まりないものであったといえる。被害者は青信号に従って進行していたもので,全く落ち度はなく,その生命を奪った結果の重大さはいうまでもない。一瞬にして貴重な生命を奪われた被害者の無念さは察するに余りあり,実業団のバレーボール選手として活躍し,家族思いであったかけがえのない娘であり姉である被害者を失った遺族らの悲しみと怒りは相当に大きく,処罰感情が強固であるのも当然である。さらに,近時悪質な運転行為によって事故を起こした運転者に対する社会的な批判の高まりから法改正が行われたという事情に鑑みれば,上記のとおり無謀かつ危険極まりない運転行為によって重大な結果を発生させた被告人に対しては厳しい処罰をもって臨む必要がある。以上の諸事情からすると被告人の刑事責任は相当に重い。

そうすると,被告人が若年であり上記以外には前科はないこと,反省と謝罪の弁を当公判廷で述べていること,被告人の母親が,謝罪のため遺族方を訪問し,当公判廷において社会復帰後の被告人の監督を誓っていること,示談成立には至っていないものの,既払の自賠責保険金の他に任意保険により3000万円余の賠償の見込みがあり,被告人の両親も賠償金として弁護人に450万円を預けた上で被害弁償に向けた努力をしていることなどの被告人に有利に斟酌すべき事情を考慮しても,被告人を主文掲記の刑に処するのが相当である。

(求刑 懲役6年)

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古川博 裁判官 楡井英夫 裁判官 杉本正則)

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