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京都地方裁判所 平成13年(ワ)1853号 判決

主文

1  被告は,原告らに対し,各1307万2132円及びこれに対する平成13年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを4分し,その3を原告らの負担とし,その余は被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告らに対し,9541万8699円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成13年7月17日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,自動車専用道路において,並行して敷設されている橋梁の中央空間部分から転落して死亡した者の両親である原告らが,当該空間部分に転落防止措置がなされていなかったことは道路の管理の瑕疵に当たるとして,被告に対し,国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。

1  前提となる事実(争いのない事実。弁論の全趣旨。証拠によって容易に認定できる事実については証拠を示す。)

(1)  当事者等

ア A(昭和50年4月24日生まれ。以下「A」という。)は原告らの二男であり,大学を卒業して就職した後,三重県津市に居住していた。

Aが自動車運転免許証を取得したのは18歳の頃であり,就職してからも仕事と私生活の両面で自動車を運転していた。

Aは,平成12年10月29日,一般国道25号(以下「名阪国道」という。)の一部である山添橋から転落して死亡した。

イ 原告らは,Aの相続人として,各2分の1の割合で相続した。

ウ 被告は,名阪国道の管理者である。

(2)  名阪国道

名阪国道は,一般国道25号のうち三重県亀山市a字bc番地から奈良県天理市d町字ef番のgまでの区間について,自動車のみの一般交通の用に供する自動車専用道路として指定された道路であり,一般国道であるので,制限時速は毎時60キロメートルとなっているが,上下線とも片側2車線あって,北側が上り車線,南側が下り車線となっている。

(3)  山添橋の構造等

山添橋は,名阪国道のうち奈良県山辺郡h村大字ij番地先に架けられた全長128メートルの橋梁であり,上下線がそれぞれ独立した橋梁であって,別紙(2)ないし(4)の図面に記載された構造となっている。

山添橋は,山間部に架けられており,橋から地上までの距離は,最も高いところで約33メートルあり,上り車線の幅員は9.95メートル,下り車線の幅員は10.05メートルあり,2つの橋梁間には幅0.55メートルの空間部分(以下「本件空間部分」という。)が存在する。

Aが転落した当時,上下線ともに,反対車線との間に,高さ25センチメートル幅55センチメートルのコンクリートの縁石に高さ0.65メートル(路面からの高さ0.9メートル)の橋梁用車両防護柵(以下「中央ガードレール」という)が設置されていたが,本件空間部分には転落防止用ネット等の転落防止措置は取られていなかった。

(3)  Aの死亡の経緯

ア Aは,平成12年10月29日午後7時5分ころ,普通乗用自動車を運転して,名阪国道上り車線を走行中,同所山添橋手前において運転を誤って,山添橋手前約38・1メートルの地点の中央分離帯に衝突し,更に,山添橋手前約15・4メートルの地点で走行車線側のガードレールに衝突した後,山添橋上を約40・2メートル進んだ地点(以下「停止地点」という。)において,車両前方を中央ガードレールに向けて停止した(以下「本件衝突事故」という。その後の転落位置も含めた位置関係については別紙(1)図面記載のとおり。乙12の1ないし5)。

イ Aは,本件衝突事故後,車両から降りて車両後部から自動車非常停止表示板を取り出して,これを車両後方に設置し,自己の携帯電話から110番通報を試みるなどするうちに,停止地点から進行方向と逆に約33メートル戻った山添橋上(西端から約7.2メートルの地点)で,自ら中央ガードレールを乗り越えたところ,本件空間部分から約13メートル下の地面に転落し,右後頭部打撲によって死亡した(以下「本件転落事故」という。乙12の1及び5,同13の1,原告B)。

(4)  本件衝突事故の直後,A運転車両の後続車7台によるいわゆる玉突き事故が発生した(甲7,乙12の2,13の1及び2,14の1ないし3)。

2  争点

(1)  本件空間部分に転落防止措置を採らなかったことが道路の管理の瑕疵に当たるか(本件空間部分から歩行者が転落することを予測することができたか。)。

(2)  損害

3  争点(1)についての当事者の主張

(1)  原告らの主張

ア 以下に述べるとおりの山添橋の状況等からすれば,山添橋上を歩行する者が本件空間部分を安全な場所と考えて,そこに進入することは通常ありうる行為であったということができ,被告は,本件空間部分から歩行者が転落することは通常予測することができたということができる。したがって,被告には,本件空間部分に容易に乗り越えられない防護柵を施すか転落防止ネットを設置する等の転落防止措置を採る義務があり,この措置が採られていなかったことは,道路の管理の瑕疵にあたる。なお,本件転落事故後には,本件空間部分の下部にネット状のロープが張られるようになった。

イ 名阪国道は,制限速度に違反して高速で走行する車両の多い高速道路状態の道路であり,交通事故率も非常に高い。そのため,同国道は自動車専用道路ではあるものの,事故発生時に車両乗員が車道上を歩行しなければならない事態が生じうることを容易に想定することができる。

ウ 一般論では,事故後,自動車専用道路上を歩行する者にとって,退避のための比較的安全な場所として想定されるのは,幅員及び走行車両の速度などの点からみて追越車線側路肩ではなく走行車線側路肩と考えられるが,本件においては,以下の理由で,走行車線側路肩は退避に不適であった。

第1に,山添橋は,2.5秒に1台程度の割合で,高速走行の車両が通過する場所であるから,事故等による車両の停止位置等によって,追越車線側に降車せざるを得なくなった場合には,走行車線側路肩に移動するためには,走行車両に注意を払いつつ,約8メートルの距離を横断しなければならないこととなるが,これは相当に危険な行為である。

第2に,名阪国道上り線において,山添橋に至る箇所は緩やかな左カーブの弧を描いており,本件衝突事故現場からでは,後続して走行してくる車両を見通すことができなかった。

第3に,本件転落事故当時は,夜間で見通しが悪く,また走行車両のヘッドライト等の影響によって,走行車両との距離感覚を把握しづらい状況にあった。

このような状況等からすれば,道路を横断して走行車線側路肩に移動することの方が,追越車線側路肩を歩行するよりも危険の多い行為であったということができる。

エ ガードレールの外側を安全な退避場所と考えることが可能であることは,免許取得の学科教本(甲9)に事故時の避難の挿絵としてそのように描かれていること,高速道路サービスエリアでのチラシ(甲20)でも事故時の退避場所として,「ガードレールの外など安全な場所」と記載されていることからも明らかである。

オ 山添橋は,車両運転手等が一見して橋と認識できるものではなく,特に,夜間において,道路の状況が確認できる程度の照明灯の照射のもとでは,一層,その認識は困難であったと考えられる(Aの名阪国道走行歴も2,3回程度であった。)。まして,走行車両の運転手等が,上下線はそれぞれ独立した橋梁であることを認識できるものではなかった。追越車線の右には高さ約60センチメートル程度のガードレールが設置されているところ,上下線が独立した橋梁であるとの認識がない者であれば,本件空間部分は中央帯となっており,本件空間部分にも橋梁が続いていると考えるのが通常である。検証の結果も,中央ガードレール内は,「各車線の縁石上方部分………が視認できるものの,それより下方部分は暗いため,物体の存在は視認できない」状況であったとし,地上まで10メートル近くもある空間になっていることを確認できる状態ではないとしているのであり,本件空間部分は橋梁が続いているように見えると認めることができる。

カ 山添橋においては,過去に自動車衝突事故に際し,車両同乗者が本件空間部分から地上に転落して死亡した事件が発生していたのであるから,被告としては,山添橋上における自動車交通事故に際し,人が本件空間部分から転落することがあること,これによって死亡することがあることは予測することができる事項であったということができる。

キ 本件衝突事故後にAが取った行動(自動車非常停止表示板の設置,携帯電話による110番通報)は,自動車運転者の事故後の処理としては的確であるし,Aは,Cにおいて安全運転基本講習を終了しており,安全運転に対する知識及び技能を十分に備えていたものといえることからすれば,Aの事故後の行為を異常ということはできない。

(2)  被告の主張

ア 名阪国道は,全線4車線で計画されたが,昭和40年12月16日に,まず,現在の下り車線である2車線を使用して,片側1車線の暫定の供用を開始した後,昭和52年までに,残りの2車線の工事をして,完成した箇所から順次4車線として供用したものである。山添橋についても同様に下り車線と上り車線は別途の工事として施工されたため,橋梁は別になっており,本件空間部分が存在していたのである。

イ 自動車専用道路として指定されている名阪国道において,歩行者が想定されるのは,道路上において自動車事故が発生した場合に,車両運転手や車両同乗者が降車した場合である。この場合,降車後に車両運転手等が行うべき行動は,後続車両に事故発生を知らせて,後続車両による二次的事故発生防止措置を講じること,及び周囲の安全を確認の上より安全な場所へ移動して警察等が事故現場に来るまでその場で待避することである。したがって,山添橋には少し離れた所にある非常電話や車両駐車帯等といった,より安全な場所へ移動する等の安全性を確保しておくことが要請されるが,以下のとおり,山添橋上においては,通常予想される危険に対する安全性は考慮されていた。

ウ 山添橋上り車線においては,追越車線の右側に75センチメートルの路側帯と,幅55センチメートルの縁石が存在し,縁石の上に,本件空間部分に車両等が入らないよう中央ガードレールが設置され,夜間であっても橋梁であることが認識できるよう,山添橋手前部分において光射塗料で「山添橋」と記載された標識とこれを照らす白色照明灯が設置されており,さらに,山添橋道路上の状況を確認できるよう,これを照射するに十分なナトリウム照明灯が設置されていた。

エ 名阪国道は,大阪・奈良等と名古屋・津等を結ぶ道路の中で,自動車専用道路であるために,歩行者及び自転車の通行や信号を,気にすることなく通行でき,一方で一般国道であるために料金を支払うことなく利用できるので,非常によく利用される道路である。したがって,津に所在する会社で働き,自動車を運転することが多いAが,営業のためにあるいは個人的理由により,名阪国道を通行していたであろうことは容易に想像できる。したがって,Aは,山添橋についてもある程度の認識を有していたであろうことは想像に難くない。

また,山添橋上では,走行車両による振動が大きいことから,初めて名阪国道を走行した者であっても,車道上に降り立てば走行車両による振動を大きく感じることができ,これによって自分が橋梁部分の道路上に立っていることを,夜間であっても即座に判断できる。そして,山添橋上の照明灯や対向車のヘッドライト等により,夜間においてもその車道上がかなり明るく照射されているとともに,本件空間部分において橋梁がつながっていないことが容易に確認できる。

オ Aは,本件衝突事故後,山添橋上を約33メートル移動していたのであるから,本件衝突事故によって,一旦は気が動転していたとしても,歩行中に,山添橋上の走行車両による大きな振幅を感知し,自分が橋梁上にいることを確認できた。また,その間,本件空間部分をのぞき込むことによって,橋梁がつながっていないことやその間に足場がないことを確認できた。しかるに,足場がないことを認識しながら,あえて本件空間部分に自ら入っていったのである。

カ 名阪国道に存在する橋梁は,いずれも上下線の中央部分が空間となっている。そして,同国道では,橋梁上も含め毎年何件かの交通事故が発生しているが,この橋梁の中央部分の空間に自らの意思で入り,落下した者はA以外には1人として存在しない。本件衝突事故直後に後続車両による追突事故が発生したが,これら後続車両の運転手らの中で,中央ガードレールを乗り越えて本件空間部分に入っていった者も誰一人いなかった。

なお,原告の指摘する,過去の自動車事故における車両同乗者の地上転落については,その被害者が本件空間部分から転落したとの結論は出ておらず,仮に,本件空間部分から転落したとしても偶発的要素が重なったためというほかない。

キ 警察においても,本件空間部分に人が自らの意思で入ることを予測していないし,名阪国道を管理するD,あるいは同事務所から名阪国道の巡回,道路等構造物の破損箇所の修理,落下物の除去等に関する事務を請け負っているE大阪支店奈良事務所では,警察から,交通事故発生などの理由により入り込む人が存在する可能性があることを前提に,名阪国道に存在する本件空間部分に落下防止措置を講じるよう指導を受けたことはない。また,ガードレールや防護柵を乗り越えて落下する人がいる可能性があることを前提として,その危険を回避する措置を規定する法令は存在しない。

近畿地方整備局管内において,橋梁の下に道路や駐車場等があるなどの理由により,落下物防止ネット等が設置されている所はある。しかし,人がガードレールや防護柵を乗り越えて落下することを防止するためのネットを設置している場所はない。現在,本件空間部分に落下物防止ネットが設置されているのは,原告らからの強い要望を受けた奈良県警察本部高速道路交通警察隊が,Dに強く要請したためであって,第三者に損害を生じさせる危険が高いと判断されたからではない。

ク 原告らは,ガードレールの外に出て避難を促す文書の存在を理由に,ガードレールの外は道路上より安全であると信じて行動する者がいることは予測可能であるかのような主張を述べている。

しかしながら,高速道路や自動車専用道路におけるガードレールは,路外の切り立った崖や急な傾斜,足場の悪い岩場や樹木帯のような危険な場所へ車両が逸脱するなどの事態とならないように防護することを目的として設置されているのであるから,通常,その外側は危険な場所であることが多い。もちろん,時にガードレールの外側が比較的平坦であるなどの理由により,避難場所として適切な場所であることもあり得るので,甲第9号証や甲第20号証は,このような避難場所として適切と判断できる場合のことを前提としているものであり,崖や急斜面等の場合でも,必ずガードレールの外側に出るように指示するものではない。

ケ 中央ガードレールの高さが60センチメートル程度であるのは,同ガードレールに車両が衝突してきた場合,当該車両の乗員の頭部の安全性を確保するためであるから,人が乗り越えられないような高い柵としなかったことは,道路の設置・管理の瑕疵にならない。

コ 以上によれば,被告は,Aのような異常行動を通常予測することはできなかったものであり,人間が,橋梁上にいることを認識しながら,足場が確認できない場所に入り,落下して死傷するという危険を侵すことまで予測した上で,これを回避するための措置を採る義務は全くなく,本件空間部分に転落防止措置を採っていなかったことは,道路施設が通常有するべき安全性を欠いていたということはできない。

2  争点(2)についての当事者の主張

(1)  原告らの主張

本件において,原告らの受けた損害は合計9541万8699円であり,その内訳は以下のとおりである。

ア 逸失利益

Aは昭和50年4月24日生まれの男子であり,本件当時,株式会社テルモにおいて就業していた。平成12年度の年収は約401万3314円が見込まれていた。そして,Aは単身者であったが,近い将来一家の支柱となることが予測されていたから,生活費控除は4割が相当である。また,近時の低金利政策は容易に回復することが予測できないから,中間利息控除については,近時の裁判例に従い2ないし3パーセントとして計算するべきである。Aは健康であったから,就労可能年数は67歳とする。

以上を前提に逸失利益を計算すると次のとおりとなる(ただし,将来のベースアップは考慮しないで,ライプニッツ係数は3パーセントとして計算した。)。

401万3314円×(1ー0.4)×23.7013=5707万2455円

イ 葬儀費用

(ア) 葬儀代           259万9244円

(イ) 仏壇仏具一式        150万円

(ウ) 永代使用・管理料      303万6000円

(エ) 石碑            378万円

(オ) お布施代等          43万1000円

合計1134万6244円

ウ 慰謝料

Aは一家の支柱ではなかったものの,原告らはAに対して大きな期待を有しており,精神的にもAに頼る側面が強かった。したがって,原告らがAを突然奪われた精神的苦痛は一家の支柱に準ずるものとして考慮するべきである。

2500万円

エ 弁護士費用                  200万円

(2)  被告の主張

いずれも争う。

第3争点に対する判断

1  争点(1)について

(1)  証拠(甲6ないし8,乙7,8の1ないし5,9,12の1,検証)及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに前提となる事実を総合すると次の事実が認められる。

ア 名阪国道は,橋梁部分以外の道路部分(以下「地上道路部分」という。)においては上下線の間に空間はなく,上下線の間には中央分離のガードレールが存在し,その構造物を支える地覆部分は道路部分よりも若干盛り上がって,はっきりと視認でき,上下線は一体の4車線の道路としての構造を有していると認識される。

イ 名阪国道の地上道路部分の中央分離ガードレールは,ある部分では1枚の構造物であるが,ある部分では2枚の構造物で帯状に数10センチメートルの空間を囲う形でできており,とりわけ,上り線山添橋の手前の地上道路部分では,中央分離ガードレールは2枚の構造物で帯状に空間を囲っている。

ウ 山添橋の中央ガードレールは,橋の手前の地上道路部分の中央分離ガードレールとは各構成部分の厚さ等が異なっているが,高さはほぼ同等であり,また2枚の構造物からできていて,その間の空間を帯状に囲う点でも共通している。

エ 名阪国道の上り車線から見た山添橋の入口付近は,上り車線と下り車線とが一体となっているような外観であり,同橋上においても,走行車両の中からは,上り車線と下り車線とが独立した橋梁であることは認識しがたいし,山添橋上の歩行者が,中央ガードレールから1メートル程離れた位置から道路中央部を一見した場合も,中央ガードレール内に地覆が存在しないこと,上り車線と下り車線が,それぞれ独立した橋梁であることを認識することはできない。しかし,昼間の明るい時であれば,さらに近づいて中央部分を覗けば,そこから遙かに下に地表が見えて,本件空間部分の存在に容易に気づくことができる。

オ 山添橋は,山間部に所在し,付近に人家はほとんどないために,日没後,山添橋付近の上り車線を照らすのは,山添橋の手前にある白色照明灯及び山添橋上の2つのナトリウム照明灯のみである。白色照明灯とナトリウム照明灯との間隔は60メートルであり,2つのナトリウム照明灯の間隔は55メートルである。本件転落事故と同日時頃においては,同橋上では2.5秒に1台の割合で走行車両が通過し,これらの車両はいずれも法定速度を超過して走行していて,その流れがほぼ途切れないため,山添橋上は,ナトリウム照明灯のほか,上下両車線を走行する車両の前照灯によっても照らされている。

しかし,歩行者が中央ガードレールに近づいて,その内部を覗き見たときは,照明灯などの明かりによって,ガードレールの縁石部分についてはコンクリート面であることを認識することができるのに対し,本件空間部分は,その下の地表にも全く明かりはないため,全くの暗闇であり,足場となるべき底部を認識することはできないし,逆に空間になっていることも,見ただけでは認識することはできない。

カ 山添橋においては,上り車線走行車線側の路肩の幅員は,縁石部分を除き1.34メートルであり,追越車線側の路肩の幅員は,0.98メートルである。これに比べて,山添橋手前の地上道路部分においては,走行車線左側の路肩は山添橋上よりはるかに広く,また上り車線の山添橋手前(大阪側)の約90メートルのところに幅員約4メートルの非常駐車帯が存在している。

キ 山添橋手前の白色照明灯の下には「山添橋」と記載された標識が設置されており,光射塗料によって日没後においても,山添橋手前にさしかかった自動車運転者には「山添橋」の標識を認識することができる。また自動車を降車して山添橋上に立つと,他車両の走行による道路の振動を体感することができる。

ク 昭和60年5月22日の山添橋付近での正面衝突事故において,助手席から車外に投げ出された男性が,山添橋の本件空間部分から落ちて死亡していたことがある。

(2)  被告は,昭和60年の事故について,被害者が本件空間部分から落ちたことを否定するが,証拠(甲13ないし16,原告B)によれば,上記認定事実どおり認められ,これを否定する被告の論拠は,極めて弱い推論にすぎない。しかしながら,この事故の存在は,本件転落事故とは異なり,自動車の衝突事故により,被害者が助手席から直接飛び出して本件空間部分から転落したという偶発的なものであって,これを理由に本件空間部分からの転落防止措置の必要が迫られるというべきものではない。何故なら,衝突事故による自動車からの直接の飛び出しによる転落を防ぐということになれば,本件空間部分に限られた問題ではなく,走行車線の左側のガードーレールの外への飛び出しも防ぐべきことになるし,衝撃の強さをどこまで想定すべきかによっては,極めて背の高いガードレールを必要とすることになるが,そのようにしても被害者を救える目処もなく,現実的ではない。

(3)  以上の事実に基づいて判断する。

ア 名阪国道を通行する車両の運転者にとって,山添橋が上下車線が別々の橋梁でできており,本件空間部分が存在していることを認識することは,通常困難であり,むしろ一体の橋梁であると認識するのが普通であると考えられる。

イ 本件衝突事故後,車外に出たAは,追突事故の発生も当然認識していたと考えられ,そのような状況の現場で待機するには,山添橋上の路側帯の幅員は狭く,いずれも適当な避難場所とは言えず,一方本件空間部分に橋梁が続いていると考えると,鉄製の構造物である中央ガードレールによって,上り車線からも,下り車線からも隔離された場所として,本件空間部分は最も好ましい避難場所であると認識したものと推定され,このような認識は,通常,誰でもが同様の認識をするものと考えられる。

前記上り車線の山添橋手前(大阪側)の非常駐車帯まで行くことは,かなり現場を離れることになるうえ,そこまで行く途中の危険も考えると,前記非常駐車帯で待機すべきだったとまでは言えない。

ウ 事故後,山添橋上を歩行したAは,そこが橋梁であることは容易に認識することができたと考えられる。しかし,問題は,橋梁であるか否かの認識ではなく,上下線が,それぞれ独立した橋梁であることまで認識できるか否かであるところ,夜間においては,中央ガードレール内を見ても,その内部は暗闇状態で,一見して安全な足場となるべき場所がないことを認識することは困難であり,構造的に一体となった橋梁であると誤認しているため,暗闇であっても,橋梁部分が中央ガードレール内にも続いていると認識しても不思議ではない。

エ 以上によれば,当時のAの認識と行動は,一般人として通常の認識と行動であったと解されるものであり,山添橋上において,人が中央ガードレールを乗り越えるという行動は通常予測することができる行動であるということができる。

オ 本件空間部分からの転落事故を防ぐには,必ずしも,人がその空間部に入った後に転落することを防止するために,その体重を支えるに足りる程度の丈夫なネットを貼るという方法を採る必要はなく,本件空間部分への進入を防ぐために,空間の上部にそこへ立ち入らせない程度のネット等を貼れば足りることであると考えられる。

(4)  結論

Aが本件衝突事故後,中央ガードレールを乗り越えたことにより,山添橋から転落して死亡した事故は,名阪国道山添橋の管理の瑕疵によるものということができる。

2  争点(2)について

(1)  逸失利益                5928万0886円

Aは,死亡時25歳であり,就労可能年数は67歳までの42年間とし,生活費割合は50パーセントとする。Aの平成12年度10月分までの収入は,294万4895円であり(甲第4号証),同年度の大卒男子の20歳ないし24歳の平均賃金は322万1800円,25歳ないし29歳の平均賃金は444万4500円であって,これと比較すると,当時のAの給与は平均賃金よりは若干低いが,生涯にわたっては,平均賃金の給与を得る蓋然性が高いと認められるので,口頭弁論終結時に判明している平成13年度大卒男子全年齢平均賃金680万4900円を基礎収入として,本人の生活費の50パーセントを控除し,就労可能年数42年の年5パーセントのライプニッツ係数17.423を乗じて算出すると次のとおりになる(以下の計算は1円未満切り捨てとする。)。

(680万4900円×0.5)×17.423=5928万0886円

(2)  葬儀費用は120万円とするのが相当である。

(3)  慰謝料は2000万円とするのが相当である。

(4)  以上合計金額  8048万0886円

(5)  過失相殺 7割

検証の結果によれば,本件転落事故と同時刻ころの本件空間部分は,全くのの暗闇であって,橋梁が続いているとすると,両側の縁石の高さから考えても,縁石からの若干の光の反射により,そこまで真っ暗であることはないと考えられるほどの暗さである。そのうえ,仮に,橋梁がつながっているとしても,本件空間部分の底部の位置が何処にあるかについても,あまりに暗闇であるために不安を感じる程である。したがって,Aにおいて,本件空間部分の足をおろすにあたり,通常であれば,懐中電灯,ライターやマッチ等の光を用いたり,石や物等を放り込んで,本件空間部分の底部の位置や形状を探るのが,普通の対応であると考えられる。しかるに,Aが転落した事実から判断すると,Aはこのような配慮をすることなく,安易に,本件空間部分に体重のかかる方法で本件空間部分に足を入れたものと推認されるので,7割の過失相殺をすべきである。

(6)  原告ら各人の相続額 1207万2132円

相殺後損害額2414万4265円の半額である。

(計算式) 8048万0886円×0.3÷2=1207万2132円

(7)  弁護士費用      各100万円

原告らそれぞれについて,弁護士費用のうち,100万円を本件転落事故と相当因果関係にあるものと認める。

(8)  原告ら各人の合計額  1307万2132円

第4結論

以上認定の事実によれば,原告らの請求は,それぞれ1307万2132円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年7月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による損害金の支払いを求める限度で理由があるので,その限度で認容することとし,その余は理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判官 葛井久雄 裁判官 西垣昭利 裁判官 中野希美)

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