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京都地方裁判所 平成12年(ヨ)642号 決定

債権者 A野株式会社

右代表者代表取締役 B山春夫

右代理人弁護士 籏進

同 加藤倫子

同 鈴木誠

同 森田尚男

同 加藤厚

同 井上裕介

債務者 近藤忠孝

他2名

右両名代理人弁護士 別紙代理人目録に記載のとおり

主文

一  本件申立てを却下する。

二  手続費用は債権者の負担とする。

理由

第一申立て

債務者らは、別紙書籍目録記載の書籍を、出版し、販売し、無償配布し、又は第三者に引き渡してはならない。

第二事案の概要

債権者は、「A野」のサービスマークを用いてコンビニエンスストアを経営している株式会社であり、債務者近藤忠孝及び債務者小山潤一は共著で別紙書籍目録記載の書籍(以下、「本件書籍」という。)を債務者株式会社かもがわ出版(以下、「債務者会社」という。)から出版しようとしているものであるが、本件書籍により債権者の名誉及び信用が毀損されるとして、これを出版し、販売し、無償配布し、又は第三者に引き渡すこと(以下、「出版等」という。)の差止め(以下、「出版差止め」という。)を求めているものである。

一  当事者間に争いのない事実

1  債権者は、「A野」のサービスマークを用いて、直営あるいはフランチャイズ方式により、コンビニエンスストア経営を行っている株式会社であり、「A野」は、債権者の呼称・表示であり、債権者を指し示す。

コンビニエンスストア「A野店」は、債権者のフランチャイズ店舗、経営委託あるいは債権者の直営店であり、単に「A野」と呼ばれることも多く、これら店舗は北は青森県から西は岡山県まで、また本州のみならず四国にも店舗展開しており、総計約二六〇〇店舗となっている。

2  債務者小山は、平成八年二月九日債権者とA野・フランチャイズ契約を締結し、同年三月一五日A野宇治田原店を開店したが、平成一〇年一月三〇日債権者から契約を解除され、現在名古屋地方裁判所において契約解除をめぐって訴訟が係属しているところである。

3  債務者近藤は、右訴訟事件で債務者小山の訴訟代理をしている弁護士である。

4  債務者近藤及び債務者小山は、共同して本件書籍を執筆し、債務者会社は、出版社であるが、平成一二年七月末に本件書籍を出版し、今後もその出版を継続しようとしている。

二  争点

1  債権者に、本件書籍の出版差止めを求める権利があるか。

2  保全の必要性があるか。

争点に関する債権者及び債務者らの各主張は、仮処分命令申立書、答弁書及び各主張書面に記載のとおりであるから、これらを引用する。

第三争点に対する判断(争点1について)

一  出版差止請求の要件について

1  実体的要件について

(一) 出版物が、法人の名誉や信用を毀損するものである場合に、人格権としての名誉権に基づいて、仮処分命令によってその出版物の出版、販売及び無償配布等を事前に差し止めることは原則として許されないが、(1)①その表現内容が真実でなく又は②それが専ら公益を図る目的のものでないことが、明白であって、かつ、(2)被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、例外的にこれが許されるものと解される。

(二)(1) ところで、出版等が既に行われている場合であっても、その部数が比較的少部数に止まるときは、仮処分命令による出版差止めの要件は、右の事前差止めの場合に準じて考えるのが相当である。

(2) 本件書籍は、平成一二年七月末に出版されているのであるが、既に出版されている部数は三〇〇〇部程度と比較的少部数にとどまるものであるから、本件において、出版差止めの要件は右の事前差止めの場合に準じて考えることとする。

(三) ところで、右(一)、(1)①の要件については、真実でない部分は重要な事実でなければならない。事実のささいな部分が虚偽であったとしても表現内容が真実でないものとみることはできない。

そして、重要な事実について虚偽であった場合には、これを表現者が真実であると信じ、そのように信じたことに相当の理由があったとしても出版差止めが認容されるべきである。一般的に人格権に基づく差止請求の場合には、加害者に故意過失のあることを要件とすることはできないからである。

名誉信用毀損行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実の真実性の証明があるときは違法性を欠き、その証明がなくても、行為者において真実と信ずるにつき相当の理由があるときは故意又は過失がなく、不法行為は成立しないと解される。しかしながら、行為者に故意過失がないときであっても、これによって名誉信用毀損行為が継続されてよいとする理由はないから、出版差止めの場合には、このようなときであってもこれが認容されるべきである。不法行為の成否が問題となる場合と出版差止めの場合とではその要件を同様に解することはできないのである。

2  主張、立証責任について

(一) 前記1(一)(1)及び(2)の要件の主張、立証責任は債権者が負うものと解するのが相当である。

(二) そして、その立証の程度は、(1)の要件については明白性が要求されることからその疎明の程度は高度なものでなければならないが、(2)の要件については通常の疎明の程度で足りるものと解される。

立証の程度について証明まで要求することは相当ではない。けだし、もともと民事保全における保全すべき権利又は権利関係は疎明すれば足りるのである(民事保全法一三条二項)し、同法二三条四項但書きによって口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ない場合には別異に解すべき必要もあるであろうが、このような期日を経る場合には、債務者に十分な反対疎明の機会も与えられるからである。

二  前記一1(一)(1)①の要件(表現内容の真実性)について

1  本件書籍の内容の概観について

(一) 本件書籍は、一一〇頁の書籍であるが、債務者近藤執筆の「まえがき」に続き、同債務者執筆の「『現代の奴隷解放』運動の広がりと闘いの前進」という表題のもとに、次の記載がある。

「一 コンビニフランチャイズ契約の異常性と不公正(一〇頁)

二 やめたくてもやめられない「現代の奴隷」契約(一五頁)

三  社会問題としてのコンビニフランチャイズ契約問題

―「激烈」な流通革命の中の「激甚」な被害の「激増」(一八頁)

四  全国的な闘いの始まり

―A野による店舗襲撃事件とコンビニ(被害者)協議会の結成(二四頁)

五  コンビニフランチャイズ契約の反社会性(二六頁)

六  店舗側敗北の歴史とその原因(三〇頁)

七  運動の広がりと闘いの前進(三八頁)

八  店主の敗北の歴史を勝利の歴史に(四八頁)」

(二) 次に、債務者小山執筆の「A野に見るコンビニ商法の実態」という表題のもとに次の記載がある。

「はじめに

一 A野本部による深夜の暴挙(五六頁)

二 虚偽の予測と欺瞞的な勧誘(五九頁)

三 詐欺的要素の濃いフランチャイズ加盟店契約(六五頁)

四 本部本位で進む新規店舗の開店(六九頁)

五 開店後初めて分かる本部の虚偽と裏切り(七三頁)

六 脅しと開き直りの企業体質(七八頁)

七 不誠実な企業姿勢の追及(八三頁)

八 悪徳商法(フランチャイズシステム)への啓発(九〇頁)

九 生かすも殺すも本部の采配一つ(九六頁)

一〇 悪徳企業A野との闘い(九九頁)

一一 いまだ常態化するA野の脅しとごまかし(一〇二頁)」

最後に、債務者小山執筆の「あとがき」がある。

2 債権者が、本件書籍の中で表現された内容について問題があると主張する部分は極めて多岐にのぼる。しかしながら、その中には表現内容が真実ではないと主張するものでないものも含まれている。そこで、これらの主張の中から具体的に指摘された事実が真実ではないと債権者が主張するものについて検討する。以下には、それぞれ、(1)で本件書籍に記載されている内容、(2)でそれについての債権者の主張及び(3)で裁判所の判断を示すこととする。

(一)(1)① 「店主側は、年中無休・長時間労働体制、夫婦すれ違いによる家庭崩壊など苛酷な就労と生活を余儀なくされながら、恒常的に赤字であり、自分の労働対価分の人件費を取得できないだけでなく、営業の継続により債務のみが増大していくという最悪の実態である。」(一〇頁)

② 「コンビニフランチャイズ契約は、あまりにも不公平であり、不公正であるが、この結果がたまたま店主の運が悪かったり、怠慢であったり、無能力であったりなどの、各店主の個別的な事情によって発生したのではなく、また、たまたま紛争が発生した店主と本部の個別問題というのでもなく、全国的にコンビニフランチャイズ契約による営業に必然的に発生している社会現象であるということが重要である。」(一三頁)

(2)① 恒常的に赤字というのは事実無根である。「店主側」と一般論での問題提起をされているが、債権者に加盟する店舗で利益を出しているものが現に多く存在するのにもかかわらず、債権者の加盟店では一般的に恒常的に赤字が発生しているのだと誤認させる。また、フランチャイズオーナーは独立事業者である以上、人件費を自身で取得するという考え方自体が間違っている。

② コンビニフランチャイズ契約が不公平で不公正というのは言いがかり的表現である。同契約において、加盟者が労働対価分の人件費を取得できなかったり、経費が加盟者の自己負担となることを例示してこう断定しているが、これらは独立事業者としては当然のことであり、不公平で不公正とはいえない。

(3) (1)の記載が含まれる本件書籍一〇頁から一五頁にかけては、債権者のみならず、債権者以外の各本部のコンビニフランチャイズ契約をも併せて検討し、コンビニフランチャイズ契約が一般的に有している問題点を指摘しているものであって、債権者のコンビニフランチャイズ商法のみを問題としているものではない。

このことは、本件書籍の、「その一方で、本部側は左表のように、毎月一店舗約一〇〇万円もの多額のロイヤリティーを、安定的・継続的に取得している。これは、他のコンビニ経営においても、ほぼ同様の実績である。(「左表」は省略するが、債権者、ヤマザキデイリー及び東近畿スパーが本部名として記載されている。)片や、店主は事業主とされているので、過酷な労働に加え、自己の労働対価分すら捻出できず、経営が赤字になってもすべて自己負担になるのに対して、本部側は店主の犠牲の上に、このような巨額のロイヤリティーを確保し続け、コンビニ業界の繁栄を築いているのである。」(一一頁)との記載からも明らかである。

したがって、右(1)の記載内容は債権者の名誉・信用を毀損するものではない。

(二)(1) 「しかし、コンビニ店主の場合には、契約上の、高額の『解約違約金』条項に縛られて、やめたくてもやめられないというのが、多くの店主の実態である。『酷い労働下におかれてやめたいと思いながらもやめられない』、「これはまさに奴隷状態である。『コンビニは現代の奴隷契約』(本間重紀編『コンビニの光と影』)と言われるゆえんである。解約違約金をはじめ、契約解除の場合に本部から店主に請求される精算金の一例(小山潤一氏の場合)をあげると、次の通りである。

A野勘定(未払金) 一一一五万円

解約違約金 一二七三万円

二四時間補助違約金 一〇〇万円

銀行借入返済立替 一四一八万円

内装割賦返済 四一九万円

売上未送金ペナルティー 一五五万円(未送金と同額)

合計 四四八〇万円

このような大金が準備できないため、ズルズルと営業を継続し、負債額を増やし続けている店主も多い。」(一五ないし一六頁)

(2) 債務者小山の例は、契約解除の場合であり、解約違約金はあくまで契約解除の場合の算出金額例である。契約解除とは、フランチャイズ契約違反行為に基づき、一方的な契約の強制終了である。店主側の事情でやめるという中途解約の話をしておきながら、精算例として、契約違反行為をしたために契約解除となった債務者小山の例を持ち出すのは不適切である。また、売上未送金ペナルティは、店主側に非があるため当然に発生したものである。

(3) (1)の記載が含まれる本件書籍一五頁から一八頁にかけては、コンビニ店主が廃業したくても、高額の解約違約金を支払わざるを得ないこと及び契約の保証人となっている一族を巻き込むことになるからそれができないこと等が記載されている。そして、この部分も債権者のコンビニフランチャイズ商法のみを問題としているのではなく、同商法を一般的に問題としているのである。

もっとも、本件書籍一六頁には、解約違約金をはじめ、契約解除の場合に本部から店主に請求される精算金の一例として債務者小山の場合を取り上げているが、これはあくまでも契約の一例として取り上げているものであって、債権者のコンビニフランチャイズ契約を問題としているものではない。これは、右(1)の末尾「このような大金・・・店主も多い。」との記載からも明らかである。

(三)(1) 「コンビニ店舗の数は、一九九一年に四万一〇五〇軒であったが、年々増大し、九七年には五万軒に達した。しかし、増加と同時に毎年多くの閉店者も続出した。その被害の激しさは、

年 店舗数 出店数 閉店数 出店数に対する閉店率

九二年 四二一一六 二七六四 一六九八 六一・四%

九三年 四三五一〇 二八七七 一四八三 五一・五%

九四年 四五二〇七 三〇七三 一三七六 四四・八%

九五年 四六八三四 三一六九 一五四二 四八・七%

九六年 四八五六七 三二一八 一四八五 四六・一%

九七年 五〇一二一 三三七二 一八一八 五三・九%

という統計資料(MCR統計)が、明白に示しているところである。これが

九九年 五二八一三 三四五一 二二一三 六四・一%

となり、閉店率がますます増大している。」(一九ないし二〇頁)

(2) 出店数自体が増加し、店舗全体の数が増えているのであるから、確率からして閉店数が増えるのは自明の理である。出店数に対する閉店率というのは、「出店する店舗のうち、閉店する店舗の割合」とはいえない。閉店の増加ということについて論ずるのであれば、「全店舗数に占める閉店数の割合を算出すべきである。MCR統計には「閉店率」という項目はない。また、閉店の理由はさまざまであり、売り上げがよくても都市計画などでやむなく閉店をする場合や、加盟者自身がやる気をなくして閉店する場合、さらに環境変化により別の場所に移るなどの理由もあるのであり、閉店率をもって「店主側の被害」と言い切るのは適切ではない。

(3) 右(1)もコンビニフランチャイズ契約を一般的に問題としているものであって、債権者の同契約を問題としているものではない。しかも、債権者の右(2)の主張は、表現内容が真実に反することを主張するものではない。MCR統計には「閉店率」という項目はないという主張についても、右(1)では、「閉店率」という言葉の意味を明らかにして用いているのであるし、いずれにしても、債権者の名誉や信用を毀損するものではない。

(四)(1) 「1A野による店舗襲撃事件の衝撃

名古屋に本社をもつA野が、一九九八年一月三〇日午前零時八分、A野の京都・宇治田原店の店主小山潤一氏が経営する店舗を襲撃して、店主の経営を不能にするという、実力行使の暴挙が発生した。小山氏は、A野に一方的に有利で店主に苛酷な契約とその深刻な経営状況を報じた新聞を店に張り出した。これは店主の苦況を顧客に知ってもらい、理解を得るためであった。これが『A野イメージをこわした契約違反』であることを理由に、一九九八年一月三一日限り契約解除するという通知を受けたが、A野の主張によってもまだ契約期間内である、前日の一月三〇日午前零時八分、A野の役員も含む本部の者六十余名の集団が店舗を襲撃し、看板を壊し、商品や現金をもち去るという驚くべき事件が発生した。この暴挙により小山氏は廃業に追い込まれた。」(二四頁)

「小山氏は、さっそくこの実行行為者を威力業務妨害・強盗罪等で刑事告訴し、所轄の京都府警田辺警察署も、管内の安寧秩序を乱された暴挙に対して、重視して対処せざるを得なくなった。」(二五頁)

「この、通称『A野宇治田原店』といわれる店舗に、一九九八年一月三〇日深夜午前零時八分、A野本部の役員でもある取締役(C川松夫)を先頭に、本部社員及びA野本部の関係業者ら約六〇名にも及ぶ人数が突如押し掛け、本部の一方的な契約解除を理由に店舗の明け渡しを強行してきた。

当時店内には、私ども夫婦とアルバイト一名の三名と、店内の雑誌コーナーで雑誌の立ち読みをされていたお客様が二名、買物をされていたお客様が数名おられた。そこへ突然、A野本部社員の本部総務部部長(D原竹夫)、関西地区本部関西運営部部長(E田梅夫)、関西運営部統括マネージャー(A田一郎)、関西運営部ゾーンマネージャー(B野二郎)ら数名が、おのおのに会話の内容や状況を記録するためのビデオカメラやカセットテープを持参し店内に押し入ってきた。」(五六、五七頁)

(以下、これを「本件事件」という。)

(2) 本件事件は、債権者社員数名が契約解除を通告するために債務者小山の店舗を訪れたものであって、普通に店舗入口から入店したものであり、押し入ったなどというものではない。契約解除は、債務者小山が毎日の債権者に対する送金をしなかったことによるものであり、また結局本件は不起訴処分となったのであるが、本件書籍ではこれらのことには全く言及していない。

また、「看板を壊し、商品や現金を持ち去る」と記載されているが、その実体は、解除後に債権者のサービスマークを使用されないよう債権者所有の看板を取り外し、店舗での顧客からの預かり商品(債権者の信用上預かり商品を確実に渡すため)を預かり、債務者小山が顧客から代行支払を依頼されて預かりながら送金しなかった二一件分の公共料金の預かり金(顧客に迷惑をかけず公共料金の預かり金を処理するため)の一部として預かってきたに過ぎないものである。

(3)① 《証拠省略》によれば、次の各事実が一応認められる。

ⅰ 債権者は、債務者小山に対し、平成一〇年一月二六日付郵便により、同月三一日限りA野・フランチャイズ契約を解除する旨の意思表示をし、同郵便は同月二七日債務者小山に配達された。

右契約解除は、債務者小山が債権者に一方的に有利で店主に苛酷な契約とその深刻な経営状況を報じた新聞を店に張り出したところ、これが『A野イメージをこわした契約違反』であること等を理由とするものであった。

ⅱ ところが、一月三〇日深夜午前零時八分、債権者の取締役C川松夫をはじめ、債権者の従業員及び関係業者ら約六〇名が突如押しかけてきた。そして、債務者小山に対し契約の解除を通告し、商品の棚卸し及び什器備品の確認の作業を始めた。債務者小山は契約解除を争い、直ちに警察署に急報した。

ⅲ 債権者の従業員や関係業者らは、店舗の看板を撤去し、ドアの鍵を取り替えるなどしたが、間もなく警察官が到着し、その指導もあって債権者の従業員らは作業を中止した。

ⅳ しかしながら、債権者の従業員らは、債務者小山が顧客から預かっていた現金(公共料金)、現像した写真、予約品のゲームソフトを持ち帰っていた。

ⅴ 債務者小山は、直ちに実行行為者を威力業務妨害、強盗罪等で所轄の京都府警田辺警察署に刑事告訴したが、結局は不起訴処分となった。

② 右①に一応認定した事実に照らしてみても、右(1)の記載内容がその重要な部分において真実に反しているものとみることはできない。

債権者は、普通に店舗入口から入店したものであり、押し入ったなどというものではないと主張するが、右①ⅱないしⅳに一応認定した債権者社員及び関係業者の行為態様からすれば、押し入ったという表現されてもやむを得ないものである。

債権者は、本件事件が不起訴処分になったことを強調し、これについて本件書籍では言及していないことを問題とするが、本件事件についてその内容をどの範囲まで記載するかは、表現者の自由である。

そもそも、本件事件は不起訴処分になったものの、検察官において、犯罪の嫌疑がないかあるいは不十分と判断されたのか、それとも起訴猶予が相当と判断されたのかは明らかではない。そして、本件事件を民事事件としてみた場合、債権者は自力救済を行っているのであって、その違法なことはいうまでもない。したがって、本件事件を「襲撃」と表現したこともなんら不当なものではない。

(五)(1) 「③「『過大売上告知』はコンビニ本部の企業体質となっている。

A野社長B山春夫氏は、雑誌『日経ビジネス』誌上において、『本部の出店担当の人が、実績を上げるために、多めの売上予想をオーナーに告げて、いたずらに夢を膨らませるということはないんですか』という編集者の質問に対して、『それはあります。これはどこのチェーンにもある』とこれを認める発言をした(一九九八年二月二三日号)。この事実は、A野をはじめ、この業界全体が、最初から店主希望者を錯誤に陥れて、フランチャイズ契約を締結させ、損害発生が必然であるコンビニ店主の道に引きずり込んでいることを如実に示しているのである。」(三二頁)

(2) 右は、債権者代表者の発言を故意に部分的に抜書しているものであって、発言の趣旨全体は、決して右のようなものではない。

(3)① 日経ビジネス一九九八年二月二三日号での同誌編集長の「問」と債権者代表者の「答」は次のとおりである。

「問 本部の出店担当の人が実績を上げるために、多めの売り上げ予想をオーナーに告げて、いたずらに夢を膨らませるということはないんですか。

答 それはあります。これはどこのチェーンにもある。その辺は本部としての責任を十二分に自覚する必要があります。私どもはリクルーター(店舗開発の担当者)の出店数だけを人事評価の対象にするのではなく、その店が開業後にどれだけ営々と発展するか、あるいはその人のかかわった店のなかで一五年後の再契約の時にどのぐらいのオーナーが『再契約したい』と言うかなどで評価されるべきだと考えています。」

② 以上のとおりであるから、本件書籍で、債権者代表者の発言として引用している部分には特に誤りはない。

(六)(1) 「④真実を故意に知らせずに、契約の勧誘を平然と行なう犯罪性。

実際にA野は、石川県加賀市の加瀬忠克氏とフランチャイズ契約を締結するにあたり、売上予測を日商五〇万円と説明したが、加瀬氏が、近くに存在するA野の既設コンビニエンスストアの店主に、『日商五〇万円と言われているけれど、本当にそれだけの売り上げがありますか』と問い合わせたのに対して、この店主は、自分の事実(売上実績)を語らず、『日商五〇万円』を否定しなかった。そこで加瀬氏は、A野の言う日商五〇万円は無理であるとしても、日商四〇万円くらいは可能であろうと判断し、フランチャイズ契約を締結した。しかし、開店後の売り上げは、日商一三~一四万円に過ぎなかった。ところが、右既設店主の態度は、『加瀬さんが聞きにきても、実際の売り上げの額を言わないように』というA野の口止めによるものであることが、既設店主の告白と謝罪により判明した(この場面はテレビで放映された)。」(三二ないし三三頁)

(2) 債権者が説明したのは、石川県下での平均日商五〇万円をもとに、経費などのシミュレーション数値を示したに過ぎず、売上予測とは一切言っていない。なお、この説明の際には日商二〇万円の場合のシミュレーションもあわせて提示している。A野の口止めといわれているものは、一般的な話として、守秘義務があることについては他人に話してはいけない、また、プライバシーに関することは話さなくてよい、と言ったに過ぎない。告白と謝罪をしたのは店主の妻であり、店主ではなく、さらにテレビで放映されたものは右妻でもない。

(3) 《証拠省略》によれば、石川県加賀市の加瀬忠克は、平成九年九月二六日債権者とフランチャイズ契約を締結し、加賀黒瀬店のオーナーになったが、債権者は契約を締結するにあたり、加瀬忠克に対し売上予測を日商五〇万円と説明したこと、加瀬忠克の妻直美が、近くでA野片山津インター店を経営していた店主の妻C山夏子に、『日商五〇万円と言われているけれど、本当にそれだけの売り上げがありますか』と問い合わせたのに対して、同人は、真実の売上実績を話さず、『そのぐらいかな』と答え、『日商五〇万円』を否定しなかったこと、それは、債権者のD田ゾーンマネージャーから、売上げとか店のことを聞かれても言わないようにと指示されていたからであること、そこで加瀬忠克は債権者のいう日商五〇万円は無理であるとしても、日商四〇万円くらいは可能であろうと判断し、フランチャイズ契約を締結したが、開店後の売り上げは、日商一三ないし一四万円に過ぎなかったこと、後日この件がテレビで放映されC山夏子が謝罪と告白をする声が放送されたことが一応認められる。

しかしながら、放映された映像がC山夏子のものであるか否かは証拠上明らかではない。

以上によれば、本件書籍中の「加瀬氏」が店主に問い合わせたとの部分及び「既設店主」の告白と謝罪によりとの部分は、いずれも真実に反し、真実は「加瀬氏の妻」及び「既設店主の妻」であるが、債権者の名誉及び信用を侵害するかという観点からみた場合には、いずれも些細な食い違いといってよい。

(七)(1) 「④一八〇%勝利の和解契約―交渉による解決

その他、訴訟に至る以前に、店主と弁護団の創意と綿密な連携のもとに、交渉のみで大きな成果を得た例を紹介する。左記は、ある店主と本部の和解条項(公表しないという確認であるので、当事者名は伏せる)の抜粋であるが、交渉によってこれだけの内容を勝ちとることができたことは、大きな成果である。」(四四頁)

(2) 債権者は、ここに出てくる例は債権者に関する事件ではない。しかし文章の流れからするとあたかも債権者の事件であるように思われる可能性があり、読み手に誤解を与える、と主張する。

(3)① この例が債権者に関するものでないことは、当事者間に争いがない。

② まず、この部分は、「3、闘いの確実な前進」のみだしのもとに、「①小山事件における裁判官の変化」から「⑤営業継続と調停申立て」まで、五段に分けて記載があり、①から③まで及び⑤の記載については「A野」の言葉を用いて、これが債権者に関するものであることは明示されている。しかしながら、④の部分では当然のことながら「A野」の文言は使われてはいない。

「(公表しないという確認であるので、当事者名は伏せる)」という文言は、「ある店主」という文言の次に記載されているならば店主の氏名だけが伏せられているものと読まれるであろうが、ここでは「ある店主と本部の和解条項」という文言の次に記載されているのであるから、店主と本部の双方の名が伏せられていることは明かである。

したがって、読者に誤解を与える可能性は乏しいものとみてよい。

③ ちなみに、右(1)に引用した部分に続いて、「この件は、店主側の非常に優れた能力と創意ある営業活動にもかかわらず、この能力が生かされないコンビニ契約の欠陥を厳しく追及したことに対して、本部側からも良識が示されてこの内容となったものであるが、この内容であれば、もはや『奴隷』ではない。運動を広げ、闘いを前進させて、左記のことが当たり前のような関係を実現すべきである。」と記載されている。

以上の全体をみると、(1)の記載は、必ずしも債権者はもとより本部側の名誉や信用を毀損するような内容ではないのである。

(八)(1) 「私が、この原稿を書いている現在においても、A野の本部社員が担当の加盟店八店舗より金品を着服するという不祥事が起きた。この件で、加盟店が本部に対して謝罪と慰謝料及び損害賠償を求めて要望書を提出したところ、本部から加盟店に対して一律五万円を販促補助金として補填すると回答してきたが、その際『今後、本部にたてつかない』との念書に印鑑を押させるという対応が取られた。」(五五頁)

(2) 事実と全く異なる。

債権者社員の一人が担当する一店舗においてハイウェイカード数万円分を着服したという事件があった。調査の結果担当社員を懲戒解雇し、同社員が担当していた七店舗に対し、不信感を抱かせたことについてのお詫び料を支払った。その支払の際に念書などは一切取っていないし、もちろん「本部にたてつかない」などと言う約束をさせたというような事実もない。

(3)① 債権者社員の一人が担当する加盟店からハイウェイカード数万円分を着服したという事件が発生したことは債権者も自認するところである。

② 《証拠省略》によれば、債権者のE野ゾーンマネージャーがA野郡上オーナー会に所属する債権者の加盟店八店舗から金品を横領したのではないかという事件が発生し、八店舗の店主から債権者に対し謝罪と慰謝料及び損害賠償を求める要望書が提出されたこと、これに対し債権者がA野郡上オーナー会に所属する各店主宛になされた回答書では、「今回の問題につきまして、弊社も当該担当者を何度かに分け調査し、身元保証人も交え事実関係の確認を致して参りましたが、当該担当者が事実関係を認めた内容は郡上明宝店様の一件のみであり、他の問題につきましては残念乍ら事実関係を明らかにするまでには至りませんでした。弊社の調査のなかでも諸般の状況等を検討しますと限りなく疑わしい部分が窺われますが、これも推測の域を脱し切れるものでなく、弊社と致しましても苦慮している次第であります。」と回答したこと及び債権者から加盟八店舗に対しては販促補助金という名目で一律五万円が支払われたことの各事実が一応認められる。

③ 《証拠省略》によれば、右②に一応認定した販促補助金が支払われた際に、『今後、本部にたてつかない』との念書に印鑑を押させるという対応が取られたことのないことが一応明白に認められる。

④ 以上によれば、本件書籍中の、「その際『今後、本部にたてつかない』との念書に印鑑を押させるという対応が取られた」との記載部分は真実に反すると一応明白に認められるが、「A野の本部社員が担当の加盟店八店舗より金品を着服するという不祥事が起きた」との部分が真実に反するとの疎明はない。

⑤ 債務者らは、債務者小山は「その際『今後、本部にたてつかない』との念書に印鑑を押させるという対応が取られた」との記載部分が《証拠省略》から真実であると信じ、そのように信じたことに相当の理由があった旨主張する。

しかしながら、右主張は前記一1(三)に判示したとおり採用できない。

(九)(1) 「本部所在地の名古屋地方裁判所における、A野本部との契約に関する訴訟事案は、想像もつかないほどの件数になっているようである。ある裁判官はこれ以上私の部では抱えられないと発言されており、名古屋は『A野王国』と化しているとさえ言われている。」(一〇一頁)

(2) 名古屋地方裁判所に係属している債権者の事件は四件に過ぎない。裁判官がこれ以上私の部では抱えられないと発言するはずもない。

(3)① 《証拠省略》によれば、現在名古屋地方裁判所に債権者を一方当事者として係属している訴訟事件は四件のみであることが一応明白に認められる。

本件書籍中の「想像もつかないほどの件数」というのが具体的に何件程度のものを指すのかは必ずしも明らかではないが、一般読者の立場からすれば四件程度のものと理解することはあり得ないであろう。したがって、右記載は真実に反するものと一応明白に認められる。

② 次に、《証拠省略》によれば、債務者小山は、平成一〇年三月に名古屋地方裁判所に債権者を被告として民事訴訟を提起し、民事第五部に係属したこと、その後金沢の加瀬、大阪の沢田及び大和が同様に提訴し、加瀬及び沢田の事件は民事第六部に、大和の事件は民事第八部に係属したこと、これらの事件はいずれも債務者近藤及び奥村弁護士が訴訟代理をしていたことから、他部に係属している事件をいずれも民事第五部に割り替えてもらうよう上申したところ、同部の裁判長からこれを拒絶されたことの各事実が一応認められる。

右裁判長が具体的にどのような発言をしたのかは証拠上必ずしも明らかではないが、他部に係属している事件の割替えを拒絶する趣旨で「これ以上私の部では抱えられない」と発言したのであれば、それは全くあり得ないことではない。

3(一) 債権者は、次の各記載は、具体的な事実を指摘するものではないが、一定のイメージを作り上げ、それが実態であり事実であるかのような印象を与え、これによって債権者の名誉、信用を毀損していると主張する。

(1) 「現代コシビニ商法 A野に見る奴隷契約」(本件書籍のタイトル)

(2) 「コンビニ地獄」(三頁)

(3) 「現代の奴隷契約」(四頁)

(4) 「ただ働き」、「ただ取り」(四頁)

(5) 「『激烈』な流通革命の中の『激甚』な被害の『激増』」(一八頁)

(6) 「A野による店舗襲撃事件」(二四頁)

(7) 「企業の自主規制はおろか社会規範すら遵守できないA野」(五五頁)

(8) 「脅しと開き直りの企業体質」(七八頁)

(9) 「悪徳商法(フランチャイズシステム)」(九〇頁)

(10) 「悪徳企業A野との闘い」(九九頁)

(11) 「A野の常識は社会の非常識」(一〇三頁)

(12) 「企業倫理のかけらすら持ち合せていない」(一〇六頁)

(13) 「女郎証文」(一〇六頁)

(二)(1) 右(一)に記載した各表現内容は、本件書籍の中で記載された債権者の営業についての具体的な事実に基づいて右のような表現によりこれを論評しているものと一応認められる。

(2) そして、なにびとも、公共の利害に関する事項については、論評の自由を有し、正当な目的で、かつそれが公正に行われる限りは、いかにその用語や表現が過激であり、そのため、被論評者が社会から受ける評価が低下することがあっても、論評者は名誉毀損の責任を問われることはないものと解するのが相当である。そして、この論評が正当な目的で、かつ公正に行われたことの立証責任は論評者にあるが、論評の公正とは、その内容が客観的に正当である必要はなく、主観的に正当であると信じてなされれば足りるものと解するのが相当である。

(三) 本件書籍及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

(1) 債務者近藤が本件書籍を執筆及び出版した目的は、コンビニエンスストアの店主が過酷な状況に置かれていること、その原因が不公正なコンビニフランチャイズ契約にあることを指摘し、このような状況を是正するためには世論の支持が不可欠であると考え、読者にコンビニ問題の全体的な理解を深めてもらうためであった。

(2) 債務者小山が本件書籍を執筆及び出版した目的は、虚偽の売上予測の告知と欺瞞的な勧誘により、債権者とコンビニフランチャイズ契約を締結したが、あまりにも不公平・不公正な実態に直面し、その改善を求めて債権者と交渉したが、その要求は全く受け入れられず、そのような権利主張をしたものに対する制裁、見せしめとして本件事件となった状況を報告し、社会に対し告発をするためであった。

債務者小山は、本件書籍において、「このような企業体質をもち、企業の自主規制はおろか社会規範すら遵守できないA野に対してその企業責任を問うとともに、組織の指示とはいえ、社員及び関連業者が社会的秩序を乱し、法を侵して刑事事件にまで発展するような反社会的な行為に及ぶという個々の責任に対しても、自覚と反省を促したい―これが、本書を書き上げる最も重要な目的であり、今の時期に実名を上げて既述しようと決意した理由でもある。」(五五頁)と記載している。

(四) 右(三)に一応認定したところによれば、債務者近藤及び債務者小山が本件書籍を執筆及び出版した目的は正当な目的のために行われたものであることまたその内容も公正なものと一応認められる。

確かに、前記(一)に債権者が指摘する各表現は、過激なものである。しかしながら、債務者小山は、虚偽の売上予測の告知と欺瞞的な勧誘により、債権者とコンビニフランチャイズ契約を締結させられ、不公平・不公正な契約関係を強いられたと判断し、また結局は本件事件となって、刑事告訴をし、また民事訴訟を提起せざるを得なくなったのである。したがって、債務者小山その当人として、また債務者近藤はその代理人として、前記のような過激な表現となることもやむを得ないというべきである。

4(一) 以上に検討したところによれば、本件書籍の記載内容は、前記2(八)の「その際『今後、本部にたてつかない』との念書に印鑑を押させるという対応が取られた。」との部分及び前記2(九)の「本部所在地の名古屋地方裁判所における、A野本部との契約に関する訴訟事案は、想像もつかないほどの件数になっているようである。」との部分は、真実に反することが明白である。

(二) ところで、前記一1(三)に判示したとおり、真実でない表現内容は重要な事実でなければならない。そして、債権者は「A野」のサービスマークを用いて直営あるいはフランチャイズ方式により、コンビニエンスストア経営を行っている株式会社であり、また債務者らは前記3(三)に一応認定したような目的のために本件書籍を執筆し、出版したのであるから、このような債権者の営業及び本件書籍の執筆、出版の目的からすれば、右の重要な事実というのは、債権者が右のようなコンビニエンス経営を行っている株式会社として著しく名誉が毀損され、又は右のようなコンビニエンス経営を遂行する上で重大な障害を引き起こすような信用の毀損となるものでなければならない。

(三) 右2(八)の部分は、既に判示したとおり、A野の本部社員が金品を着服したという事件の一連の経過の記載の中での一部分にしか過ぎないものであり、この事件の記載については他には特に真実に反する部分はないのである。しかも、その記載も「印鑑を押させるという対応が取られた」という表現となっており、「印鑑を押させた」という断定的な表現はなされていないのである。

また、右2(九)の部分も「想像もつかないほどの件数」という表現となっており、確定的な件数が示されているわけではない。

このような点を考慮すると、右の各真実に反する部分も前記のようなコンビニエンス経営を行っている株式会社として著しく名誉が毀損され、又は右のようなコンビニエンス経営を遂行する上で重大な障害を引き起こすような信用の毀損となるものとみることはできない。

(四) 以上によれば、前記一1(一)(1)①(表現内容の真実性)についての疎明はない。

三 前記一1(一)(1)②の要件(公益目的)について

1 債権者は、「本件書籍の前半は、A野・フランチャイズ契約を題材とし、また後半は、債権者をフランチャイザーとし、債務者小山をフランチャイジーとするA野フランチャイズ契約の解除、解除後の損害賠償を含む精算金についての裁判を取り扱ったものであり、その関係は、全く私的なものである。もともと債権者は、公的団体ではなく一般小売業をフランチャイズ方式等によって営む「私企業」であり、「私的な契約関係」であるフランチャイズ契約による違反の有無、契約終了による精算金の額などについて訴訟になっているものである。債務者らは、契約自体を社会悪であり社会問題であるかのように主張するが、私人と私人との間の個々の契約関係であり、債務者らはそれについて問題提起をしているに過ぎない。決して公的存在、公的問題ではない。さらに生じている問題は二六〇〇店舗の内のわずか数店舗におけるものであって、決して社会問題というようなものではない。」と主張する。

2 しかしながら、コンビニ・フランチャイズ契約をめぐっては既に他にも書籍や論文等も発表され、新聞や雑誌でも記事が掲載され、座談会が特集されたり、また国会でも問題が取り上げられるなど既に大きな社会的な関心を集めているものである。

3 さらに、債権者の営業活動は一般大衆を顧客とするものであり、しかも既に「A野」の店舗は北は青森県から西は岡山県まで、また本州のみならず四国にも展開しており、総計約二六〇〇にも及ぶものであり、さらに現在も新たに、フランチャイジーを獲得して、店舗展開を意図しているのである(前記第二、一、1)。

また、債権者のコンビニ・フランチャイズ契約をめぐっては複数の店主から民事訴訟が提起され、本件事件はマスコミでも大きく取り上げられてきたのである。

4 以上によれば、本件書籍に記載されているコンビニ・フランチャイズ契約に関する一般的な内容も、債権者と債務者小山との本件事件を含む個別の紛争についても公共の利害に関するものとみるべきである。

したがって、前記一1(一)(1)②の要件についての疎明はない。

第四結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件申立てには理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 小見山進)

〈以下省略〉

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