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京都地方裁判所 平成11年(行ウ)27号 判決

主文

1  被告が平成10年3月6日付けでした原告の平成7年3月ないし同年5月、同年10月ないし同年12月及び平成8年10月の各月分の源泉所得税の各納税告知処分並びに不納付加算税の各賦課決定処分(ただし、いずれも平成10年7月7日付け異議決定により一部取り消された後のもの。不納付加算税については、平成7年4月分及び同年11月分を除く。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、特別養護老人ホームの設置経営等の社会福祉事業を行う社会福祉法人である原告の元理事長であったAが原告の本部会計等から取得した金員につき、Aに対する原告からの給料であると認めて行った各納税告知処分及びそれに伴う不納付加算税各賦課決定処分(これらの各処分を以下「本件各処分」という。なお、被告は平成10年7月7日付け異議決定において、前記金員を賞与と認め、一部取消しをした。)について、原告が、前記金員はAによって横領されたものであって、給与所得には当たらないと主張して、被告に対して、本件各処分の取消しを求めた事案である。

一  本件各処分等

当事者間に争いのない事実、後記第三の一掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、以下のとおりである。

1  被告は、平成9年5月14日、原告に対する税務調査を実施し、その結果、Aが原告の理事長在任中に原告の会計からA個人名義の預金口座に別表の「Aの口座に入金された金額」欄のとおり、各「支給日」に、それぞれの各「支給額」の金員(以下「本件金員」という。)を入金したことは、所得税法(以下「法」という。)28条、183条1項に規定する給料の支払に該当すると判断し、源泉徴収に係る所得税を計算し、平成10年3月6日、別表の「被告宇治税務署長処分額」欄のとおり、原告に対し、納税告知処分及びそれに伴う不納付加算税の賦課決定処分(本件各処分)をした。

2  原告は、これを不服として、被告に異議を申し立て、被告は、平成10年7月7日、本件金員の入金を予め支給額、支給期等が定められていない賞与の支払であると認め、法186条の規定により所得税の額を計算して、別表の「異議決定額」欄のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした。

3  原告は、これを不服として、国税不服審判所長に審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成11年6月17日付け裁決により、原告の審査請求をいずれも棄却した。

二  争点及び当事者の主張

(争点)

本件金員の移動により、原告からAに対する法28条1項所定の賞与の支払があったといえるのか否か。

(被告の主張)

1 Aは、原告の理事長として、原告の資産に対する全面的な支配権を有していた上、本件金員は、原告の事業活動によって得たものであることが明らかであり、Aが原告の理事ないし理事長として勤務してきたこと以外に本件金員を得る理由がない。また、Aが、理事長という立場と無関係に原告との間で純然たる第三者として取引等によって本件金員を取得したという事情も存在しない。更に、実質的にみても、Aの勤務状況や原告を長年にわたり実質的に支配していたと認められること、Aの原告に対する出資の状況や原告からのAに対する毎月の報酬金額や本件金員の合計額の多寡及びAが本件金員を取得するにつきいわば原告が容認していたというべき状況があること等からしても、本件金員の移動は、原告がAに賞与を支払ったものである。

2 原告は、横領による経済的利得は賞与の対象とならない旨主張するが、給与所得に当たるか否かは、租税法の見地から検討されるべきであって、刑法上の横領か否かとは、別次元の問題であり、仮に役員が取得した経済的利益の取得原因が横領によるものであっても、それのみをもって当該経済的利益の供与についての給与所得としての性質は失われない。

(原告の主張)

本件金員の移動は、Aが原告から本件金員を横領した行為によるものであり、原告がAに賞与を支払ったものとは到底いえない。被告の主張は、主として株式会社についての判断であり、本件原告のような社会福祉法人については妥当しない。

第三当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実、前記第二の一の事実、甲1ないし19、乙1ないし8(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認められる。

1  原告は、昭和62年10月20日に登記された社会福祉法人であり、所在地において、特別養護老人ホームB、老人短期入所施設、デイサービスセンター、在宅介護支援センターの施設運営等の在宅福祉事業を行っている。

Aは、原告設立当初からの理事であり、平成2年4月30日から平成9年2月5日まで原告の理事長であった。また、Aは、原告の設立母体であった社会福祉法人徳風会の創立者であり、傘下の学校法人三重徳風学園、同北海道徳風学園、同京都城南学園の理事を兼任していた。

2  社会福祉法によれば、社会福祉法人には、役員として理事3人以上及び監事1人以上を置かなければならないとされ(同法36条1項)、理事は、すべて社会福祉法人の業務について、社会福祉法人を代表するが、定款でその代表権を制限することができるとされている(同法38条)。また、社会福祉法人の業務は、定款に別段の定めがないときは、理事の過半数をもって決するとされている(同法39条)。そして、社会福祉法人は、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益を目的とする事業又はその収益を社会福祉事業若しくは公益事業の経営に充てることを目的とする事業を行うことができるとされ(同法26条1項)、公益事業又は収益事業に関する会計は、それぞれ当該社会福祉法人の行う社会福祉事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない、とされている(同条2項)。

3  原告においては、定款(乙4)により、理事長のみが原告を代表するものとされ(4条3項)、日常の軽易な業務は理事長が専決し、これを理事会に報告するものとされ(5条1項)、理事会の議事は、原則として理事総数の過半数で決するとされている(同条6項)。そして、理事長個人と利益相反する行為となる事項及び双方代理となる事項については、理事会において選任する他の理事が理事長の職務を代理するとされている(6条2項)。また、基本財産の処分は、理事総数の3分の2以上の同意を得て、京都府知事の承認を得なければならないとされ(12条)、法人の資産は、理事会の定める方法により、理事長が管理するものとされていた(13条1項)。

4  ところが、A及びBの施設長であったCらは、Bの経理について、給食材料費の水増計上や物品購入費及び修繕工事費の水増し、架空計上、その他の不正の経理処理及び財産処分行為を行うようになった。

5  原告は、平成9年1月24日から同月31日まで、京都府及び八幡市の合同の特別行政監査を受けるなどした結果、前記の不正資金の捻出が発覚し、その総額が2億円を超えるものであることが判明した。

6  前記の不正経理問題の発覚に伴い、Aを含む当時の理事10名は、平成9年2月10日までに全員理事を辞任した。その後、新たに京都府知事により10名の仮理事が選任され、原告は、新体制の理事会の下に、前記の不正経理により原告が被った損害額等の調査を行った。

7  原告は、平成9年9月3日、理事長経験者3名(A、D及びE)及びCに対して、Aらの委任契約の不履行による損害賠償として、原告から不正に流出した金員2億1078万1586円分の支払を求める別件訴訟を提起し、京都地裁は、平成13年1月22日、Aに対し、1億5132万5101円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる第1審判決を言い渡し、Aは、これに対して控訴をしたが、平成14年2月21日、控訴棄却の判決が言い渡されて、前記第1審判決は確定した。

8  Aは、次のとおり、本件金員を、自己の個人的用途に使用する目的で、自己の個人口座に入金させてこれを取得した。

(1) Aは、平成4年頃、Cに命じて、平成4年4月の時点でAの原告に対する架空貸付金債権として696万4106円を計上させ、その後、同架空債権は、原告のAに対する貸付金債権7万6600円と相殺処理されたものとされ、帳簿上は688万7506円となっていた。Aは、原告の職員に命じて、原告の本部会計の定期預金3000万円の一部を解約させ、平成7年3月20日、その解約金から688万7506円をA個人が管理するA名義の別紙口座目録の①の3の口座に入金させた。

(2) Aは、Cに命じ、平成7年4月27日、3万5000円を原告の本部会計から同目録①の3の口座に入金させた。

(3) Aは、各地にAが実質的に設立した社会福祉法人、学校法人等を実質統括する社会福祉法人徳風会の理事長でもあったが、平成4年頃、徳風会が統括する学校法人京都城南学園を設立母体として滋賀県近江八幡市内に滋賀龍谷短期大学を設立する計画を立てた。Aは、Cに命じ、平成7年5月8日に90万円、同月18日に100万円、同年10月17日に50万円、同年11月28日に25万円をそれぞれ原告の簿外の別紙口座目録②の2の口座から引き出させた上で同目録①の3の口座に振り込ませ、前記の短大設立費用に当てた。

(4) Aは、Cに命じ、平成7年12月21日、53万2875円を原告の本部会計から同目録①の3の口座に入金させた。

(5) Aは、Cに命じ、平成8年10月11日に100万円を原告の簿外の口座目録②の2の口座から引き出させた上でAが管理するA名義の別紙口座目録①の4の口座に振り込ませ、前記の短大設立費用に当てた。

(6) 当時、原告の本部会計及び施設会計の正規の預金口座としては、別紙口座目録④ないし⑦の各預金口座等があったが、前記の簿外の口座は、AやCが前記のとおり不正に経理処理した裏金をプールしていた預金口座であった。この簿外の口座は、平成元年6月頃以降は、Aが、Cに命じて、正規の原告の預金口座とは別に、Cに管理させていた。

9  Aは、前記のような方法等によって、理事長在任期間である平成2年4月30日から平成9年2月5日までの間に、最終的に、原告の会計から不法に1億5132万5101円を取得した。

10  原告の役員報酬規程によれば、役員の報酬は月額2万円とされ、役員のうち、法人事務を行う者は月額25万円とする旨定められている。

二  争点に対する判断

1  被告は、本件金員の移動は、原告という法人がAに本件金員を支払ったものとみることができることを前提とし、その支払は、理事長であるAの職務執行の対価としてされた、あるいは、Aが原告の理事長の地位にあったから、少なくとも理事長の地位との関係でされたなどと主張する。被告は、更に、いわゆる認定賞与、すなわち、課税庁側が、法人の経理処理と異なって法人の簿外資金等から役員への利益供与を賞与と判断して課税する例を挙げ、その利益の供与は、役員の立場と全く無関係にされることが明らかであるような例外的な場合でもない限り、原則として、その役員としての職務執行の対価たる性質を有すると推認できるもので、このことは、課税庁においてはむろん、従来の多くの裁判例においても肯認されているとも主張する。そして、本件金員の移動が仮にAの横領行為に該当する場合でも、課税の関係では、原告が支払った法28条1項所定の賞与に該当するとの判断を左右しないとの趣旨とも解される主張もする。

2  確かに、前記の認定事実(以下「本件事実関係」という。)によれば、本件金員は、いずれも、当時原告の代表権を有していたAの意思に基づいて、原告の本部会計か又は原告が支配していた原告名義の簿外の裏口座である口座目録②の2の口座からAが支配していた同目録①の3、4の各口座に送金手続がされたものである。また、Aについては、本件金員の移動により、経済上の利得を得たものというべきであって、それは、課税庁との間の課税関係において、所得税法上の所得に該当し、Aの所得として課税対象となるというべきであって(ただし、ここでは、その所得の種類は問わない。)、本件金員の移動が不法、違法な利得であっても、また、その原因となった法律行為が無効であっても、直ちに、上記の判断を左右するものではないというべきである。更に、法人がその役員へ源泉徴収の対象となる法28条所定の賞与を支払った否かの判断において、賞与の支払という要件をなす具体的な事実があったといえるかどうかが正に問題であって、法人における賞与の支払のための所定の手続が採られたか否か、その手続に瑕疵があったか否かは、必ずしも決定的な決め手になる事項ではないというべきである。原告も、これらの点に関する限り、特に強く争わないところである。

3  しかしながら、本件金員の移動によって、前記のとおり、それがAの所得として、課税対象となることは明らかであるとしても、そのことから、法が定める現行の源泉徴収制度の下で、源泉徴収の対象となる法28条1項所定の給与や賞与の支払いがあったといえるかどうかについては、更に、検討が必要であって、本件事実関係の下では、いわばAによる横領行為の被害者ともいうべき原告に対し、Aの所得についての源泉徴収をして納付する義務があることを前提とする本件各処分は、いかにも不当な結論であると考えられる。課税庁との間の法律関係においても、本件金員の移動によって、原告という法人がAに対して法28条1項所定の賞与を支払ったとまではいえないと考えられる。以下、順次、検討する。

4  法は、28条1項において、給与所得について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」と規定するだけで、同項の給与等の具体的な定義規定は置いていない。ただ、法人税法35条1項は、「内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」とし、同条4項は、法人の役員賞与について、「役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、他に定期に給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と規定している。これらの各規定の文言からすると、一応、給与所得とは、雇用関係又はこれに類する関係において、非独立的労働ないし従属的労働の対価として他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずる給付に係る所得であると解するのが相当であり、役員賞与についても、それが利益処分的な性格を有するものとはいっても、あくまでも、それは「給与」であるとされており、その判断に当たっては、「給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうか」を重視すべきものと解される(最2小判昭和56年4月24日・判時1001号24頁参照)。しかし、給与所得か否かの判断に当たっては、更に、法が、給与所得について、利子所得及び配当所得とともに、法183条以下において、給与等の支払をする者(支払者)から源泉徴収によりその税を徴収するものとしており、源泉徴収の対象とならない他の所得とは、その徴収手続において極めて異なった扱いをしている点も考慮されるべきである。すなわち、法183条1項は、支払者は、その支払の際、その給与等を受給者(給与等の受給者)から、天引により徴収し(同項の「支払の際」「徴収し」とはこのような意味と解される。例外的には法221条、222条参照)、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならないと規定している。これを受けて、国税通則法(以下「通則法」という。)2条5号は、支払者を納税者とし、その場合の納税義務を、受給者から徴収して納付する義務と定義している(通則法15条1項)。そして、そのような支払者の特殊な納税義務は、当該所得の支払の時に成立し(同条2項2号)、その成立と同時に特別な手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされる(同条3項2号)。そして、源泉徴収による所得税は、いかなる場合でも、支払者のみから徴収され、受給者が課税庁から直接に追及されることはないこととされ(法220条ないし223条)、法や通則法は、課税庁と受給者(源泉納税義務者)との間の直接の法律関係が生じ得る場合を想定していない。受給者が確定申告をする場合においてさえも、源泉徴収もれの税額分を受給者から直接徴納されることはないし、逆に、過大に源泉徴収された税額の控除もできないとされており、更に、源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がないとされているのである(最3小判平成4年2月18日・民集46巻2号77頁参照)。したがって、源泉徴収の対象となる所得税を負担するのは受給者で、源泉徴収は政策的な理由に基づく徴収制度にすぎないものであるとはいっても、法や通則法は、源泉徴収の対象となる所得については、他の各所得とは異なる扱いをしているのであって、前記のような源泉徴収手続をするのに相応しい内容の所得を念頭に置いているものと解され、給与所得となる法28条1項所定の賞与の意味も、また、法183条1項所定の「支払の際」の意味も、このような観点をも加味して考えるべきである。

なお、ある給付が給与所得に該当するか否かの判断に当たって、それが受給者の所得に該当することは確かであって所得区分の問題である場合には、少なくとも、受給者について、その判断いかんによって課税逃れになるのか否かの点は考慮する必要がないというべきである。被告の主張は、この点において、誤解を招きかねない部分がある。

5  以上の判断に従って争点について更に検討すると、本件事実関係の下では、まず、本件金員の移動によって、原告が本件金員を「支払った」ことになるのか否かが問題になる。本件事実関係の下では、Aは、定款により社会福祉法人である原告の代表権を有していたものであるが、単独では、業務執行の権限はなく、本件金員の移動は、その権限外のことで、また、Aが、原告に帰属すべき本件金員を、正規の経理上の手続を経ることなく、原告名義の口座からA個人名義の口座に移動させたことは、原告との関係では違法な行為(委任契約上の義務違反又は不法行為上の義務違反)に当たることは明らかであり、正に、法人の金員の横領行為であったもので、しかも、原告としては、支払者として、Aからその所得税を天引により徴収する余地はなかったもので、法が予定しているように原告という法人がAから所得税を源泉徴収する余地はおよそ考えられない形態の金員の移動であったというべきである。原告として、当時、本件金員をAに「支払った」ものということができるかどうかは、極めて疑問であるといわなければならない。原告は、後に各理事が交代して、Aらに対し、別件訴訟を提起して、その損害の賠償の支払を求め、その請求を認容する判決が確定しており、少なくとも別件訴訟においても、裁判所は、法人である原告が本件金員の移動を是認していたとの判断をしなかったことになる。むしろ、本件事実関係によれば、本件金員の移動は、法人としての原告の当時の客観的な意思(それはAの意思とは異なる。)に反していたものというべきで、これを原告がAに支払ったとみるのは無理であると考えられる。原告の源泉徴収による前記の納税義務は、法183条1項の支払の際に発生すると解されるところ、本件金員の移動については、この要件があったとまでは認められないといわざるを得ない。

のみならず、本件事実関係の下では、本件金員の移動は、Aらが、自己の個人的用途に使用する目的で、不正に、原告の資金を移動したものであることが明らかであり、その事実経過、金額、その他いかなる観点からみても、それがAがした原告の理事長としての職務・役務の提供と対価の関係に立つものでないことも明らかであるといわなければならない。本件事実関係によれば、本件金員の移動は、専ら、Aが、その個人的用途に使用する必要に応じて、その都度、個人的用途に必要な金額分についてされたものであって、法人である原告側の事情は一切無関係であると認められ、このような本件金員が、理事長としてのAの職務、役務の提供と対価関係にあると解するのは、不合理というべきである。さらに、原告は、会社とは異なり、社会福祉法人であることからしても、本件金員の移動を原告のAに対する利益処分と解することも疑問であるといわなければならない。むしろ、本件金員の移動によるAの利益は、専らA個人の都合に応じた利益とみられるのであって、それは、課税関係では、Aの所得であることは明らかであるが、源泉徴収の対象となる法28条1項所定の給与や賞与であると認めるのは無理であって、それ以外のAの所得として、A個人から徴収されるべきである。

6  被告の主張の中で、被告が挙げるいわゆる認定賞与の事例の中には、法人の規模や実態から法人とその代表者の行為とを一体的にみることのできる事実関係があるものもあると考えられ、そのような事例と本件を比較すると、本件各証拠によってAが原告の内部で様々の経理処理について実質的には相当の決定権を有していた実態があったと認められるとしても、原告には代表者個人とは別個の社会福祉法人の実態があって、社会福祉法に従って経理処理がされていたことも明らかであるというべきであるから、両事例は事実関係が異なるものと考えられる。

第四結論

以上のとおり、Aによる本件金員の取得をもって本件各処分の要件があったと認めることはできず、本件各処分はいずれも違法であり、原告の請求は理由があるというべきである。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 古谷恭一郎 裁判官 谷田好史)

(別紙口座目録及び別表省略)

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