大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成11年(ワ)2110号 判決

主文

1  被告は、原告に対し、金2367万8924円及び内金1722万8857円に対する平成12年4月13日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを10分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求の趣旨

被告は、原告に対し、金2547万9059円及び内金1722万8857円に対する平成12年4月13日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、原告が、訴外Aに貸し付けた貸付金について、被告が保証しているとして、その支払いを請求した事案である。

1  前提となる事実

(1)  原告は、信用金庫法2条に基づく法人である。

(2)  被告は、Aらが原告に差し入れた平成4年6月12日付の「連帯保証人変更承諾書」(以下「本件承諾書」という。)の連帯保証加入者欄に署名押印した。

2  争点

(1)  Aの原告に対する債務の存在

原告の主張

ア 原告は、Aとの間で、昭和60年4月18日、信用金庫取引契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。本件基本契約では、損害金は年18.25パーセントであり、債務の一部でも履行を遅滞したときは原告の請求により期限の利益を喪失することになっていた。

イ 原告は、Aに対し、平成2年10月5日、本件基本契約に基づき、2300万円を以下の約定で貸し付けた(以下「第1貸付金」という。)。

返済回数  264回

第1回返済日  平成2年11月6日

2回目以降の返済日  毎月6日

毎回の元利金合計返済額  20万3406円

利息  年9.2パーセント

ウ 原告は、Aに対し、平成4年11月11日、本件基本契約に基づき、1000万円を以下の約定で貸し付けた(以下「第2貸付金」という。)。

返済回数  120回

第1回返済日  平成4年11月30日

2回目以降の返済日  毎月31日

毎回の元利金合計返済額  11万2024円

利息  年6.2パーセント

エ Aは、平成10年4月6日の約定返済を遅滞し、原告の請求により、期限の利益を喪失した。

オ 平成12年4月12日現在で、第1貸付金の残元金は1722万8857円、確定損害金は645万0067円であり、第2貸付金の残元金はなく、確定損害金は180万135円である。

(2)  被告の保証の有無

ア 原告の主張

被告は、平成4年6月12日、Aが本件基本契約に基づき原告に対して負担する一切の債務について保証するとの合意をした(以下「本件保証契約」という。)。

イ 被告の主張

被告は、Aが原告から新たに借り入れる金1000万円についてのみ保証することに合意した。

(3)  錯誤無効

ア 被告の主張

(ア) 被告は、Aとは単なる顧客としての関係であり、原告担当者はこのことを充分承知していた。被告は,一介のサラリーマンであり、本件保証契約当時既に60歳に近く、これまで信用金庫と取引した経験もなかった。

(イ) 原告は、被告に対し、本件保証契約は、Aが原告との間の本件基本契約に基づき負担する一切の債務を保証するものであること、すなわち、本件保証契約締結以前に既に発生していた全債務及び将来Aが新たな借り入れをしたときはそれについても保証するものであることを、全く説明しなかった。

(ウ) 被告が、原告に対し、Aの残債務について尋ねたところ、原告は、被告に対して、当時Aが既に金4000万円を超える債務を負担していたにもかかわらず、これを告知しなかった。被告は、平成4年6月12日の時点で、Aは原告に対し他に債務を負担していないものと信じて保証したものである。

(エ) 保証契約においては、保証債務の範囲や金額は契約の要素であり、被告には要素の錯誤があるので、本件保証契約は無効である。

イ 原告の主張

原告担当者は、Aの残債務がない旨の説明をしたことはなく、Aの住宅ローンの存在及び額も含め、既存債務総額等を説明している。

第3争点に対する判断

1  争点(1)について

証拠(甲1の1及び2、2の6、3ないし5、)及び弁論の全趣旨によれば、原告主張のとおりのAに対する債権の存在が認められる。

2  争点(2)及び(3)について

(1)  証拠(甲1の1、2の1ないし6、3、4、6、乙3の1及び2、5の1の1ないし3、5の2ないし4、証人B、同C)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

ア Aは、その夫であるDとともに夫婦で居酒屋とスナックを経営しており、被告は、サラリーマンで、Aの経営する居酒屋の近くに住んでいて、Aの居酒屋の客であった。

イ 原告とAとの間において昭和60年4月18日に本件基本契約のための信用金庫取引約定書(以下「原契約書」という。)が作成されたが、その連帯保証人欄は空欄になっていた。その後原告は、第1貸付金を貸し付ける以前に、Aに住宅ローン2000万円ないし3000万円を貸し付けていた。

ウ 原告は、平成2年10月5日に本件基本契約に基づいて第1貸付金である2300万円を貸し付けた。その際作成された金銭消費貸借証書には、Aの夫であるDとAの居酒屋の客であったEが連帯保証人として署名押印した。その後、EがAの保証人であることをAの店の客に言いふらしたので、EとAとが不和になり、Eは保証から抜けることになって、平成4年6月12日に被告とFがEの替わりに保証人となることになった。

エ 本件承諾書は、この保証人変更のための書類であり、債務者としてAが、連帯保証人としてDが、連帯保証脱退者としてEが、連帯保証加入者としてFと被告が、それぞれ署名しており、第1条には、「昭和60年4月18日付信用金庫取引約定書(以下「原契約書」という)にもとづき、A(以下「甲」という)が貴金庫から借入れ負担している平成2年10月5日付金銭消費貸借契約証書に基づく債務金弐阡参百万円(現在額金22,319,720円也)の債務から生ずる一切の債務の保証人のうちEの保証債務を免除されても私共において異議はありません。」と記載され、第2条には、「(前略)被告は、原契約証書及び本書にもとづく一切の債務について、原契約書に基づく保証関係を承認のうえ新たに保証人となり(後略)」と記載されている。

本件承諾書の作成にあたり、原告担当者のBは、被告と面会したことはなく、承諾書をAに交付して、Aが被告らの署名押印を得て完成させた後に、被告に電話してその保証意思の確認をした。しかし、被告が原告と被告との間の原契約書を示されたことはなかった。

オ 平成4年11月11日に、原告は本件基本契約に基づいて第2貸付金1000万円をAに貸し出したが、その際DとGが連帯保証人となり、G所有の不動産に抵当権を設定した。第2貸付金の貸付にあたり、原告は被告には何の連絡もせず、この貸付について説明したことはなかった。

カ 平成6年9月9日に、原告は本件基本契約に基づいて、さらにAに1000万円を貸し出し、その際の金銭消費貸借証書にはDと被告が連帯保証人として署名した。この貸付金には、同時にH協会が保証をしており、H協会とAとの間の信用保証委託契約についてもDと被告が連帯保証した。

(2)  被告は、本件保証は、1000万円の新たな借入のみの連帯保証であったと主張するが、前記認定のとおり、本件保証契約は、Aの新たな借入に際しての保証契約ではなく、既に存在していた債務についての保証人の変更のためになされたもので、当時は第1貸付金の外にローン債権が存在していただけで、未だ1000万円の貸し付けは存在せず、本件承諾書にも第1貸付金の残高が明記されていたのであるから、少なくとも被告においてこれを保証する意思を有していたことは明らかである。被告は、平成6年になってからの1000万円の借入の際の説明と、本件保証契約の際の説明とを混同して主張しているにすぎないものと推定される。

(3)  原告は、被告に対し、本件保証契約の際、本件基本契約にかかる全ての債務すなわち、将来の貸付金についてまで保証することを説明したと主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件保証契約の締結にあたり、原告の担当者は被告に直接出会って説明したものではないこと、本件承諾書の前記文言からは、原告のAに対する将来の債権まで保証する趣旨は明らかになっておらず、その趣旨を知るには、本件基本契約の書面である信用金庫取引約定書を見る必要があるが、これが被告に示されたことを認めるに足りる証拠はないことから、原告の主張は認められない。

(4)  したがって、被告は、本件保証契約の際第1貸付金の存在とその当時の残高を確認したうえで、保証契約を締結していることが認められるので、第1貸付金については保証責任を負うことになるが、本件保証契約により、その後の原告のAへの貸金に対しても保証したことにはならないので、第2貸付金について保証責任を負わない。

そして以上認定の限度においては、被告には何らの錯誤も存在しない。

第4結論

以上認定の事実によれば、原告の請求は、被告に対し、金2367万8924円及び内金1722万8857円に対する平成12年4月13日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 西垣昭利)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例