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京都地方裁判所 平成10年(ワ)2312号 判決 1998年12月22日

主文

一  原告が、破産者株式会社甲山商店に対し、破産債権届出にかかる貸付債権五五六四万六九一九円のうち異議にかかる五五〇〇万円を破産債権として有することを確定する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、京都地方裁判所平成九年(フ)第一一三一破産事件(以下「本件破産事件」という。)において、破産者株式会社甲山商店(以下「破産会社」という。)に対する平成七年四月一一日付け貸金七五〇〇万円の残元金五五六四万六九一九円(一部取下げ後)の債権届出をおこなった原告が、右届出債権のうち、破産宣告後に破産会社の連帯保証人兼物上保証人から弁済がなされた五五〇〇万円につき異議を述べた被告に対し、右異議にかかる五五〇〇万円の破産債権確定を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  破産会社は、平成九年一二月一〇日午後三時京都地方裁判所において破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任された。

2  原告(京都支店)は、平成七年四月一一日、破産会社に対し、返済条件を平成七年四月から平成一二年三月まで毎月最終営業日限り二五万円宛(六〇回)、平成一二年四月二八日に六〇〇〇万円との約定で、七五〇〇万円を貸し渡した(以下「本件貸金」という。)。

3  破産会社の代表取締役である甲山千一(以下「甲山」という。)は、右同日、原告に対し、本件貸金契約に基づき破産会社が原告に対して負担する債務を連帯して保証することを約した。

甲山は、原告との間で、京都市中京区<略>所在の甲山所有不動産(以下「甲山不動産」という。)に、債権者を原告、債務者を破産会社とする根抵当権を設定し、右各登記を了した(以下「本件根抵当権」という。)。

4  破産会社は、平成九年九月末日までの分割弁済をおこなったが、その後期限の利益を喪失し、前記破産宣告時における本件貸金残元金は六七五〇万円であった。原告は、平成一〇年一月一二日、破産会社及び保証人の原告に対する預金元利金支払債権五四三万六〇七二円と本件貸金残金とを対当額において相殺し、同月一三日、破産会社から差し入れられた有価証券担保を処分して四九一万七〇〇九円を本件貸金残金に充当した結果、債権届出の日においては、本件貸金残元金は、五七一四万六九一九円となった。

5  原告は、破産債権者として、平成一〇年一月二二日、本件貸金残元金債権五七一四万六九一九円の届出をおこなった。

6  甲山は、同年六月一日、原告に対し、五五〇〇万円の弁済をおこない、原告は、これを本件貸金残元金に充当した(以下「本件弁済」という。)。

7  原告は、同年八月一〇日、京都市山科区西野楳本町所在の破産会社所有の不動産につき有していた第二順位の根抵当権を放棄するのと引換えに、被告から、一五〇万円を受領し、これを本件貸金残元金に充当したことから、原告は、前記破産債権届出の一部を取り下げ、本件貸金残元金債権の届出額は、五五六四万六九一九円となった。

8  被告は、平成一〇年七月二一日債権調査期日において、本件貸金残元金債権五七一四万六九一九円のうち五五〇〇万円について異議を述べた。

二  争点

破産会社の連帯保証人兼物上保証人による本件弁済を受けても、原告は、破産債権届出にかかる本件貸金債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができるか。

【原告の主張】

1 破産法二四条の「数人カ各自全部ノ履行ヲ為ス義務ヲ負フ場合」という要件が、主債務者と連帯保証人の場合を含むものであること、その場合に、連帯保証人が破産宣告後にその連帯保証債務の一部を履行しても、債権者としては、依然として、その残金のみならず、破産宣告時おける債権の全額を行使し得る(後に定まる配当率に従って、その債権全額についての配当を受けられる)ことについては異論をみないと考える。

これに対して債務者と物上保証人の場合は、右の要件には該当せず、物上保証人が債権者の有する債権の一部を満足させた場合には、債権者は残額についてのみ破産財団に対して債権を行使することができるという考え方が一般的である。

そこで、破産宣告後に弁済により債権者の有する債権の一部を満足させた者が、債権全額の連帯保証人であり、かつ、担保提供者である場合に、前記のいずれに該当すると考えるべきかというのが本件における唯一の争点であるが、この場合においても、債権全額についての連帯保証人である点においては、破産法二四条の前記要件に該当するものであり、債権者としては、依然として、その残額のみならず、破産宣告時における債権全額を行使し得るとするのが当然であり、異論を唱える余地はないものと考える。

したがって、本件貸金債権の認否は、破産法二四条の解釈を誤ったものであるので、本訴はその是正を求めるものである。

2 被告の主張に対する反論

(一) 連帯保証人兼担保提供者が任意に弁済した場合に、それが果たして連帯保証人としての弁済であるか担保提供者としての弁済であるかということは極めて主観的な問題である。そのいずれであるのかというようなことは、当該連帯保証人兼担保提供者の社会的、経済的状況、債権者と当該連帯保証人兼担保提供者との関係、当事者の意思、その他諸々の具体的事実によって左右されるものであるし、また、そのいずれであるかが定まらないこともある。破産手続のような当事者の債権債務の関係を画一的に定めることを目的としている制度において、結論がかかる主観的な事情によって左右されるという解釈は到底容認されるべきものではない。

(二) また、被告は、本件において、破産法二四条に従って原告の破産会社に対する破産債権を五五六四万六九一九円と確定すると、現在予想される九パーセントの配当をおこなった場合、原告に債権額を上回る配当をおこなうことになると主張する。しかしながら、かかる事態は破産法二四条の適用においては常に生じ得ることであり、当然のことながら、原告は、その破産債権が全額満足される限り、それを上回るものを手にすることを求めているものではない。

【被告の主張】

1 原告は、本件根抵当権の実行として、甲山をして、甲山不動産を任意売却せしめ、右売却金から、本件弁済を受けたものである。

すなわち、本件弁済は、原告の有する担保権の実行として、甲山の物上保証人たる地位においておこなわれたものであるから、単に連帯保証人としての立場によるものではなく、破産法二四条に該当しないものである。

2 仮に、本件において、原告の主張するように、破産法二四条の適用を認め、届出時確定主義を採用すると、原告の破産債権総額は五六六五万六六四五円となり、現時点での配当率は約九パーセントが予想されることから、原告は五〇〇万円以上の配当金を受領することとなり、破産債権としての実際の残額は一六五万円余にすぎないにもかかわらず、右債権全額を上回る配当を受けることとなり、極めて不都合である。かかる状況は、他の破産債権者との平等分配を原則とする破産法の趣旨より著しく乖離することになり、極めて妥当性を欠くものと言わねばならない。

よって、本件は、破産法二四条の適用が否定されるべき事案である。

第三  当裁判所の判断

一  前記第二の一に争いのない事実によれば、本件破産宣告(平成九年一二月一〇日)の後になされた本件弁済(平成一〇年六月一日)は、破産会社の連帯保証人たる甲山がなしたものであるところ、連帯保証人が、破産法二四条の「数人カ各自全部ノ履行ヲ為ス義務ヲ負フ場合」に該当することは明らかであって、右連帯保証人が担保提供をおこなっていたか否かは、同条項の適用を左右するものではないと言うべきである。けだし、同条の趣旨は、債権者が、債権全額の満足を得るまで、全部義務者の各破産手続に、その宣告時における債権の全額をもって参加し続けることができるとすることによって、一つの責任財産の不足による危険を分散しようという実体法における趣旨を、破産手続においても貫徹しようとするものであって、担保提供の有無は、全部義務の存否に影響を来すものではないからである。

また、被告は、本件において破産法二四条の適用を認めると、原告は破産債権としての実際の残額である一六五万円余を上回る配当を受けることとなり、極めて不都合であると主張するが、右全額を越えた弁済は配当表に対する異議等によって対処されるところであり、また、原告が債権額全額の配当を受け得る結果は、むしろ、同条の前記趣旨に叶うものである。

よって、本件弁済は、原告の破産債権額には影響を及ぼさないものと言うべきであって、原告は、本件破産事件において、破産会社に対し、本件貸金債権五五六四万六九一九円のうち異議にかかる五五〇〇万円を破産債権として有するものと認めるのが相当である。

二  以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

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